説明

二サイクル内燃機関におけるピストンの構造

【課題】掃気ポート7におけるシリンダ2内への開口部を,前記シリンダ内を往復動するピストン6によって開閉するように構成して成り,前記ピストンにおける外周面のうち上端部分に上部ピストンリング10を,下端部分に下部ピストンリング11を各々設けて成る二サイクル内燃機関において,前記ピストンに対する潤滑性の向上を図る。
【解決手段】前記ピストン6における外周面のうち,前記上部ピストンリング10と下部ピストンリング11との間の部分で且つシリンダ2の軸線方向から見て前記掃気ポート7の開口部に対応しない部分に,前記ピストンの外周面より外向きに隆起する少なくとも一対の縦向き堰部13,14を,円周方向に適宜間隔を隔てて前記ピストンの軸線方向に延びて前記上部ピストンリングと下部ピストンリングとに到達するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二サイクルの内燃機関において,そのシリンダ内を往復動するピストンの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,二サイクルの内燃機関には,従来から良く知られているように,シリンダ内における掃気を,その内壁面に開口する掃気ポートからシリンダの頂部における排気ポートに向かう掃気流にて行うようにしたいわゆるユニフロー型と,シリンダ内における掃気を,その内壁面に開口する掃気ポートからシリンダ内の頂部に向かったのち同じくシリンダの内壁面に開口する排気ポートに向かって流れる掃気流にて行うようにしたループ又は横断流型とが存在する。
【0003】
前者では,ピストンが下死点付近に来たときに,前記シリンダの頂部における排気弁を開くとともに,前記シリンダの内壁面に開口する掃気ポートをピストンにて開くという構成であり,後者では,シリンダの内壁面に開口する掃気ポート及び排気ポートの両方を,ピストンが下死点近傍に来たときにおいて開くという構成である。
【0004】
従って,この種のニサイクル内燃機関においては,前記ピストンを,その頂面端から末端までの全体をその外周面に凹みのない円筒形にする一方,このピストンにおける外周面のうち頂面端の部分には,シリンダの内壁面に密接する上部ピストンリングを,末端の部分には,同じくシリンダの内壁面に密接する下部ピストンリングを各々設けるという構成にしている。
【0005】
この場合,従来の二サイクル内燃機関においては,例えば,特許文献1に記載されているように,シリンダ内に対する前記掃気ポート(ユニフロー型の場合),又は前記掃気ポート及び排気ポート(ループ又は横断流型の場合)を,シリンダの内壁面のうち,当該シリンダの軸線方向から見て,前記ピストンにおけるピストンピンの軸線方向に沿った左右両端の領域部分に対応する部分に開口するという構成にしている。
【特許文献1】特開2005−180191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,前記ピストンにおける外周面のうちそのピストンピンの軸線を挟んで左右両側の領域部分は,爆発行程のときにおける爆発力及び圧縮行程における圧縮圧力に起因する大きなスラスト力によってシリンダの内壁面に対して強く押圧される。
【0007】
なお,前記ピストンにおけるピストンピンを挟んで左右両側の領域部分のうち一方の領域部分を,スラスト部分と称し,このスラスト部分と反対側の他方の領域部分を,反スラスト部分と称する。
【0008】
そこで,従来は,前記先行技術のように,シリンダ内に対する前記掃気ポート,又は前記掃気ポート及び排気ポートを,シリンダの内壁面のうち,当該シリンダの軸線方向から見て,前記ピストンにおけるピストンピンの軸線方向に沿った左右両側における領域部分に対応する部分に開口するという構成にすることにより,前記シリンダにおける内壁面のうち前記掃気ポート,又は前記掃気ポート及び排気ポートが開口する部分に対してピストンが大きいスラスト力にて強く押し付けられることを回避できるから,前記シリンダの内壁面に対する潤滑油のうち前記掃気ポート又は前記掃気ポート及び排気ポート側に押し出される潤滑油を少なくできるとともに,前記掃気ポート又は掃気ポート及び排気ポートが開口する部分におけるシリンダ内壁面,及び,ピストンの各ピストンリングの磨耗を低減できる。
【0009】
しかし,その反面,前記ピストンにおける外周面のうち前記掃気ポート又は排気ポートの開口に対応しない部分においては,シリンダの内壁面に対して押圧されることにより,この部分に供給されている潤滑油は,当該部分から円周方向と軸線方向とに押し出されることになる。
【0010】
この場合,潤滑油の軸線方向への押し出しは,上部ピストンリング及び下部ピストンリングにて或る程度阻止することができるものの,円周方向には容易に押し出されることになるから,前記部分に潤滑油不足が発生するおそれが大きいという問題がある。
【0011】
特に,前記ピストンの外周面のうちピストンピンを挟んで左右両側の領域部分,つまり,スラスト部分及び反スラスト部分は,前記シリンダの内壁面に対して,前記した大きなスラスト力によって強く押圧されることになるから,前記スラスト部分及び反スラスト部分における潤滑油不足が顕著になるのであった。
【0012】
本発明は,これらの問題を解消した二サイクル内燃機関用ピストンの構造を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この技術的課題を達成するための請求項1は,
「シリンダへの掃気ポート又はシリンダからの排気ポートにおける前記シリンダ内への開口部を,前記シリンダ内を往復動するピストンによって開閉するように構成して成り,前記ピストンにおける外周面のうち上端部分に上部ピストンリングを,下端部分に下部ピストンリングを各々設けて成る二サイクル内燃機関において,
前記ピストンにおける外周面のうち,前記上部ピストンリングと下部ピストンリングとの間の部分で且つシリンダの軸線方向から見て前記掃気ポート又は排気ポートの開口部に対応しない部分に,前記ピストンの外周面より外向きに隆起する少なくとも一対の縦向き堰部が,円周方向に適宜間隔を隔てて前記ピストンの軸線方向に延びて前記上部ピストンリングと下部ピストンリングとに到達するように設けられている。」
ことを特徴としている。
【0014】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部を設ける部分が,シリンダの軸線方向から見てピストンピンを挟む左右両側の領域部分である。」
ことを特徴としている。
【0015】
請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部の間の部分に,前記ピストンの軸線と直角方向の断面を円弧状に構成して成る隆起部が設けられている。」
ことを特徴としている。
【0016】
請求項4は,
「前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部の間の部分に,前記上部ピストンリングの下面に沿って円周方向に延びる上部横向き堰部と,前記下部ピストンリングの上面に沿って円周方向に延びる下部横向き堰部とが,当該両横向き堰部にて前記一対の縦向き堰部の相互間を連続するように設けられている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
前記請求項1に記載した構成において,ピストンにおける外周面のうち上部ピストンリングと下部ピストンリングとの間の部分で且つシリンダの軸線方向から見て掃気ポート又は排気ポートの開口部に対応しない部分がシリンダの内壁面に対して押圧されるとき,この部分に設けた少なくとも一対の縦向き堰部がシリンダの内壁面に接当する。
【0018】
これにより,前記部分に供給されている潤滑油が,当該部分から円周方向に押し出されることを,前記一対の縦向き堰部にて確実に阻止することができ,しかも,前記部分に供給されている潤滑油がピストンの軸線方向に押し出されることを,上部ピストンリング及び下部ピストンリングの両方にて阻止できるから,前記部分に潤滑油を確実に保持することができ,この部分に潤滑油の不足が発生することを大幅に低減できる。
【0019】
この場合,請求項2に記載した構成にすることにより,前記ピストンにおける外周面のうちシリンダの内壁面に対して大きなスラスト力にて強く押圧される部分,つまり,前記ピストンにおける外周面のうちピストンピンを挟んで左右両側の領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)に潤滑油不足が発生することを確実に低減できる。
【0020】
また,請求項3に記載した構成においては,シリンダの内壁面には,前記少なくとも一対の縦向き堰部が接当することに加えて,この一対の縦向き堰部の間に位置する円弧状断面の隆起部が接当することにより,シリンダの内壁面に対する押圧力を,この隆起部と,一対の縦向き堰部とに分散でき,これによって前記一対の縦向き堰部における摩耗を低減できるから,その耐久性を確保できる。
【0021】
更にまた,請求項4に記載した構成においては,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部の間の部分に供給されている潤滑油が,当該部分からピストンの軸線方向に押し出されることを,上部ピストンリング及び下部ピストンリングにて阻止できることに加えて,前記一対の縦向き堰部の相互間をその上下において連続する横向き堰部によっても阻止できるから,前記部分に潤滑油をより確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下,本発明の実施の形態を図面について説明する。
【0023】
図1〜図3は,第1の実施の形態を示す。
【0024】
この図1〜図3の第1の実施の形態は,ユニフロー型の二サイクル内燃機関に適用した場合である。
【0025】
この図において,符号1は,シリンダ2を備えたシリンダブロックを,符号3は,前記シリンダブロック1の上面に前記シリンダ2の頂部を塞ぐように締結したシリンダヘッドを各々示し,前記シリンダブロック1におけるシリンダ2内には,その下部におけるクランク軸4にコンロッド5を介して連動して往復動するピストン6が設けられている。
【0026】
前記シリンダブロック1には,前記シリンダ2内に圧縮された新規吸気を導入するための複数個の掃気ポート7が設けられ,この各掃気ポート7のシリンダ2内への開口部は,前記ピストン6がその下死点付近まで下降動したときにおいて開くように構成されている。
【0027】
一方,前記シリンダヘッド3には,前記ピストン6が上昇動するときにおいて開く排気弁8を備えた排気ポート9が設けられている。
【0028】
また,前記ピストン6における外周面のうち頂面端の部分には,前記シリンダ2の内壁面における全周にわたって密接する少なくとも一本の上部ピストンリング10を,末端の部分には,同じく前記シリンダ2の内壁面における全周にわたって密接する少なくとも一本の下部ピストンリング11を各々備えている。
【0029】
この場合,前記ピストン6における下部ピストンリング11は,ピストン6が上死点にまで上昇動したときにおいて,前記各掃気ポート7よりも下側に位置することにより,各掃気ポート7がシリンダ2の下部のクランク室に連通することをこの下部ピストンリング11にて阻止するように構成している。
【0030】
そして,前記各掃気ポート7の前記シリンダ2内への開口部を,前記シリンダ2における軸線2aの方向から見た図2において,当該シリンダ2における内壁面のうち,前記ピストン6の外周面のうち当該ピストン6におけるピストンピン12(このピストンピン12は,シリンダ2における軸線2aの方向から見て,前記クランク軸4と平行)の軸線方向に沿った左右両端の領域部分6a,6bに対応する部分,つまり,前記ピストン6における外周面のうち前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに対応しない部分に配設する。
【0031】
この場合において,前記各掃気ポート7のシリンダ2内への開口部は,当該各掃気ポート7からの掃気流がシリンダ2内において旋回するように接線方向に向いている。
【0032】
一方,前記ピストン6における外周面のうち,前記上部ピストンリング10と前記下部ピストンリング11との間で,且つ,前記シリンダ2における軸線2aの方向から見て前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dの各々には,図3に示すように,前記ピストン6の外周面より微小高さ寸法H1だけ外向きに隆起する少なくとも一対の縦向き堰部13,14が,前記ピストン6の円周方向に適宜間隔Lを隔てて前記ピストン6の軸線方向に延びて前記上部ピストンリング10と下部ピストンリング11との両方に到達するようにして,一体に設けられている。
【0033】
なお,一般的に言って,前記ピストン6における直径D1は,シリンダブロック1との間における熱膨張差等を考慮して,シリンダ2の内径D0よりも適宜微小寸法(例えば,シリンダの内径D0が100mmの場合には,ピストン6における直径D1を99.90mmにするというように)に構成しているから,前記各縦向き堰部13,14における微小な高さ寸法H1は,前記シリンダ内径D0とピストン直径D1との差の半分,つまり,[H1=(D0−D1)/2]にするか,これに近い値に設定することが好ましい。
【0034】
この構成において,前記ピストン6における外周面のうち前記上部ピストンリング10と下部ピストンリング11との間の部分で且つシリンダ2における軸線2aの方向から見て前記ピストンピン12を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dは,シリンダ2の内壁面に対して,大きなスラスト力によって強く押圧される。
【0035】
この場合,前記シリンダ2の内壁面には,前記左右両側における領域部分6c,6dの各々に設けた一対の縦向き堰部13,14が接当する。
【0036】
これにより,前記左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに供給されている潤滑油が,当該領域部分から円周方向に押し出されることを,前記一対の縦向き堰部13,14にて確実に阻止することができ,しかも,前記左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに供給されている潤滑油が,当該部分からピストン6の軸線方向に押し出されることを,上部ピストンリング10及び下部ピストンリング11の両方にて確実に阻止できるから,前記左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに,潤滑油を確実に保持することができる。
【0037】
また,前記ピストン6における外周面のうち前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dには,前記一対の縦向き堰部13,14間の部分に,前記ピストン6の軸線と直角方向の断面を図3に示すように小さい半径Rの円弧状に構成して成る隆起部15が,前記ピストン6の軸線方向に延びるように設けられている。
【0038】
なお,この円弧状断面の隆起部15における高さ寸法H2は,前記一対の縦向き堰部13,14における高さ寸法H1に近い値にしている。
【0039】
この構成により,シリンダ2の内壁面には,前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dの各々に設けた一対の縦向き堰部13,14が接当することに加えて,この一対の縦向き堰部13,14の間に位置する円弧状断面の隆起部15が接当することにより,前記大きなスラスト力を,この隆起部15と,一対の縦向き堰部13,14とに分散できるから,前記一対の縦向き堰部13,14の耐久性を向上できる。
【0040】
次に,図4は,第2の実施の形態を示す。
【0041】
この第2の実施の形態は,前記ピストン6における外周面のうち前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに,前記上部ピストンリング10の下面に沿って円周方向に延びる上部横向き堰部16と,前記下部ピストンリング11の上面に沿って円周方向に延びる下部横向き堰部17とを一体に設けることによって,前記一対の縦向き堰部13,14の相互間をその上端及び下端において連続させるという構成にしたものである。
【0042】
この構成によると,前記ピストン6における外周面のうち前記ピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6dに供給されている潤滑油が,ピストン6の軸線方向に押し出されることを,上部ピストンリング10及び下部ピストンリング11にて阻止できることに加えて,前記一対の縦向き堰部13,14の相互間をその上下において連続する上下横向き堰部16,17によっても阻止できるから,潤滑油をより一層に保持することができる。
【0043】
この場合において,前記一対の縦向き堰部13,14の間における隆起部15に,図5に示す第3の実施の形態のように,山形の溝18を複数本設けることにより,ピストン6の下降動の際に,潤滑油を,前記隆起部15に向かって掻き集めて,この隆起部15における潤滑を図ることができる。
【0044】
また,前記一対の縦向き堰部13,14の間における隆起部15に,図6に示す第4の実施の形態のように,逆山形の溝19を複数本設けることにより,ピストン6の上昇動の際に,潤滑油を,前記隆起部15に向かって掻き集めて,この隆起部15における潤滑を図ることができる。
【0045】
そして,図7は,第5の実施の形態を示す。
【0046】
この第5の実施の形態は,前記ピストン6における外周面の全体に,例えば,ポリアミドイミド樹脂等の耐熱性合成樹脂に2硫化モリブデン等の潤滑材粉末を混合して成る潤滑材被膜20を形成したものであり,この場合には,前記ピストン6における外周面に一体に設けた一対の縦向き堰部13,14,隆起部15及び上下横向き堰部16,17の表面に,前記潤滑材被膜20を形成するという構成にすることにより,耐久性の向上と,摩擦抵抗の低減とを図ることができる。
【0047】
ところで,前記隆起部15は,ピストン6の外周面に一体に設けることが,強度の点から好ましいが,前記一対の縦向き堰部13,14及び上下横向き堰部16,17は,ピストン6と一体とすることなく,別の材料によって,ピストン6の外周面に設けるという構成にすることができる。
【0048】
図8は,この場合を示す,第6の実施の形態である。
【0049】
すなわち,前記一対の縦向き堰部13,14(及び上下横向き堰部16,17)を,別の金属を部分的な溶射,メッキ又はスパッタリング等にて付着することで形成するか,或いは,ポリアミドイミド樹脂等のように耐熱性と弾力性とを有する合成樹脂を塗着することによって形成するか,若しくは,前記耐熱性と弾力性とを有する合成樹脂に2硫化モリブデン等の潤滑材粉末を混合して成る潤滑材料を塗着することによって形成するという構成にした場合である。
【0050】
特に,前記一対の縦向き堰部13,14(及び上下横向き堰部16,17)をポリアミドイミド樹脂等のように耐熱性と弾力性とを有する合成樹脂製にするか,又は,この合成樹脂に潤滑材粉末を混合して成る潤滑材料製にするというように弾性を有するものに構成することにより,これがシリンダの内壁面に対して弾力性を持って接当するから,潤滑油の円周方向への押し出しを阻止することのシール性機能を向上できる。
【0051】
また,前記ピストン6における外周面の全体に潤滑材被膜20を形成する場合には,図9に示す第7の実施の形態のように,潤滑材被膜20に,前記少なくとも一対の縦向き堰部13,14(及び上下横向き堰部16,17)を,一体に設けるという構成にすることができる。
【0052】
更にまた,前記縦向き堰部を三本以上の複数本にした構成にすることができるほか,前記縦向き堰部を三本以上の複数本にして,その三本以上の各縦向き堰部の間に隆起部を設けるという構成にすることができる。
【0053】
本発明は,前記した各実施の形態のように,少なくとも一対の縦向き堰部13,14,隆起部15及び上下横向き堰部16,17を,前記ピストン6における外周面のうちピストンピン12の軸線を挟んで左右両側における領域部分(スラスト部分及び反スラスト部分)6c,6d(この部分には,前記各掃気ポート7の開口が対応していない)に設ける場合に限らず,前記ピストン6における外周面のうち前記各掃気ポート7の開口が対応していない部分に対して設けるという構成にすることができる。
【0054】
また,本発明は,ユニフロー型の二サイクル内燃機関に限らず,シリンダの頂部における排気弁付き排気ポートを廃止し,シリンダに対して,掃気ポートと排気ポートとを対向するように設けて成るループ又は横断流型の二サイクル内燃機関についても同様に適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図2】図1のII−II視平断面図である。
【図3】ピストンの外周面におけるプロフイールを示す図である。
【図4】第2の実施の形態によるピストンを示す正面図である。
【図5】第3の実施の形態によるピストンを示す正面図である。
【図6】第4の実施の形態によるピストンを示す正面図である。
【図7】第5の実施の形態によるピストンにおけるプロフイールを示す図である。
【図8】第6の実施の形態によるピストンにおけるプロフイールを示す図である。
【図9】第7の実施の形態によるピストンにおけるプロフイールを示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 シリンダブロック
2 シリンダ
2a シリンダの軸線
3 シリンダヘッド
4 クランク軸
6 ピストン
6a,6b ピストンの外周面のうち掃気ポートの開口部に対応する部分
6c,6d ピストンの外周面のうち掃気ポートの開口部に対応しない部分
7 掃気ポート
8 排気弁
9 排気ポート
10 上部ピストンリング
11 下部ピストンリング
12 ピストンピン
13,14 縦向き堰部
15 隆起部
16,17 横向き堰部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダへの掃気ポート又はシリンダからの排気ポートにおける前記シリンダ内への開口部を,前記シリンダ内を往復動するピストンによって開閉するように構成して成り,前記ピストンにおける外周面のうち上端部分に上部ピストンリングを,下端部分に下部ピストンリングを各々設けて成る二サイクル内燃機関において,
前記ピストンにおける外周面のうち,前記上部ピストンリングと下部ピストンリングとの間の部分で且つシリンダの軸線方向から見て前記掃気ポート又は排気ポートの開口部に対応しない部分に,前記ピストンの外周面より外向きに隆起する少なくとも一対の縦向き堰部が,円周方向に適宜間隔を隔てて前記ピストンの軸線方向に延びて前記上部ピストンリングと下部ピストンリングとに到達するように設けられていることを特徴とする二サイクル内燃機関におけるピストンの構造。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部を設ける部分が,シリンダの軸線方向から見てピストンピンを挟む左右両側の領域部分であることを特徴とする二サイクル内燃機関におけるピストンの構造。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部の間の部分に,前記ピストンの軸線と直角方向の断面を円弧状に構成して成る隆起部が設けられていることを特徴とする二サイクル内燃機関におけるピストンの構造。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記ピストンにおける外周面のうち前記少なくとも一対の縦向き堰部の間の部分に,前記上部ピストンリングの下面に沿って円周方向に延びる上部横向き堰部と,前記下部ピストンリングの上面に沿って円周方向に延びる下部横向き堰部とが,当該両横向き堰部にて前記一対の縦向き堰部の相互間を連続するように設けられていることを特徴とする二サイクル内燃機関におけるピストンの構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−240718(P2008−240718A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86624(P2007−86624)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】