説明

二次電池システム及び車両

【課題】負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができる二次電池システムを提供する。
【解決手段】二次電池システム6は、外部電源46を用いたリチウムイオン二次電池100の充電時にdQ/dVの値を算出するdQ/dV算出手段と、電池電圧Vの値とdQ/dVの値に基づいて、V−dQ/dV曲線上の第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内に現れるピークP1の電池電圧値Xを推定するピーク電圧推定手段と、予め二次電池システム6に記憶させておいたピークP1における電池電圧値Xと電池100の容量低下率Yとの相関を表すデータに基づいて、ピーク電圧取得手段により取得されたピーク電池電圧値Xから電池100の容量低下率Yを推定する容量低下率推定手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池システム、及び、これを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池の電池電圧値がv1からv2にまで変化するときの電圧変化量Δvと、このときの放電電気量ΔQとに基づいて、二次電池の容量低下率を演算する技術が開示されている。放電電気量ΔQは、放電電流Iの積算(∫Idt)により求めることが記載されている。具体的には、ΔQ/Δvの値を求め、ΔQ/Δvと容量低下率との相関曲線から、容量低下率を決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−68561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池の容量低下の要因として、大きく2つの要因がある。1つは、正極(正極活物質)の劣化による容量低下である。もう1つは、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下である。このうち、後者の容量低下は、所定の容量回復処理を行うことで、低下した容量の一部を回復させることが可能である。
【0005】
このため、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定する技術が求められていた。しかしながら、特許文献1の技術では、得られた容量低下率が正極劣化に起因したものなのか、負極に起因したものなのかわからないため、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができなかった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができる二次電池システム、及び、これを搭載した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池を備え、外部電源から供給される電力を用いて上記電池を充電可能とする構成を有する二次電池システムであって、上記電池の制御を行う制御手段と、上記外部電源を用いた上記電池の充電時に、上記電池の電池電圧Vの変化量dVに対する上記電池の蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出するdQ/dV算出手段と、上記電池電圧Vの値と上記dQ/dVの値に基づいて、上記電池電圧Vの値と上記dQ/dVの値との関係を表すV−dQ/dV曲線上に現れるピークであって、第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内に現れるピークの電池電圧値を推定するピーク電圧推定手段と、を備え、上記制御手段は、上記外部電源を用いた上記電池の充電が行われる際、当該充電に先立って、上記電池の電池電圧値が上記第1電池電圧値より小さい値になるまで上記電池を放電させる制御を行い、上記二次電池システムは、予め上記二次電池システムに記憶させておいた、上記ピークにおける電池電圧値と上記電池の初期容量に対する容量低下率との相関を表すデータに基づいて、上記ピーク電圧取得手段により取得されたピーク電池電圧値から上記電池の上記容量低下率を推定する容量低下率推定手段を備える二次電池システムである。
【0008】
上述の二次電池システムには、予め、「第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内においてV−dQ/dV曲線上に現れるピーク」における電池電圧値(以下、ピーク電池電圧値ともいう)とリチウムイオン二次電池の容量低下率(初期容量に対する低下率)との相関を表すデータを記憶させている。なお、V−dQ/dV曲線のピークは、例えば、3.2V〜3.6Vの範囲内に現れるので、第1電池電圧値V1=3.2V、第2電池電圧値V2=3.6Vとすることができる。
【0009】
ピーク電池電圧値は、電池容量が低下するのにしたがって変動する(上昇する)傾向にある。従って、リチウムイオン二次電池の容量低下率が上昇するにしたがって、ピーク電池電圧値も上昇する傾向にある。すなわち、ピーク電池電圧値と容量低下率との間には、ピーク電池電圧値が上昇するにしたがって容量低下率が上昇するという相関がある。なお、容量低下率とは、初期の電池容量(満充電容量)に対する現在の電池容量(満充電容量)の低下率をいう。
【0010】
この相関を表すデータを実験等により取得し、このデータを二次電池システムに予め記憶させておけば、二次電池システムを構成する電池を充電(外部電源による充電)したときに、ピーク電池電圧値を推定し、上記相関データから、推定されたピーク電池電圧値に対応する容量低下率の値を取得することで、二次電池システムを構成する電池の容量低下率を推定することができる。
【0011】
なお、充電時におけるピーク電池電圧値の推定は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、外部電源による電池充電時に、所定時間毎(例えば、1秒毎)に、電池電圧値V及び蓄電量Qに基づいてdQ/dVの値を算出する。電池電圧値Vは、例えば、電圧検知手段(電圧計)により検知することができる。また、蓄電量Qは、例えば、充電電流Iの積算(∫Idt)により推定することができる。
【0012】
そして、検知された電池電圧値Vと算出されたdQ/dVの値とから、ピーク電池電圧値を推定することができる。例えば、ピークの前後においてdQ/dVの値は、増加から減少に転ずるので、電池コントローラ30は、dQ/dVの値が増加から減少に転じたときの電池電圧値Vを、ピーク電池電圧値と推定することができる。また、電池の充電時に得た電池電圧Vの値とdQ/dVの値に基づいてV−dQ/dV曲線を描き、このV−dQ/dV曲線からピーク電池電圧値Xを求めるようにしても良い。
【0013】
さらに、上述の二次電池システムでは、外部電源を用いて電池の充電が行われる際、制御手段が、当該充電に先立って、電池電圧値が第1電池電圧値よりも小さい値(例えば、3.0V)になるまで、電池を放電させる制御を行う。これにより、電池の充電を開始するときの電池電圧値を、第1電池電圧値より小さい値(例えば、3.0V)にすることができる。すなわち、V−dQ/dV曲線のピークが現れる第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内の値よりも、電池電圧値を小さくすることができる。
【0014】
これにより、電池の充電中に、当該電池の電池電圧値Vとこれに対応するdQ/dVの値が、V−dQ/dV曲線上に現れるピークを示す値に達する(ピークを示す値を経由して変動する)ことになる。すなわち、電池の充電中に、電池の状態が、V−dQ/dV曲線上に現れるピークに対応する状態に至る(ピークに対応する状態を経由して変動する)ことになる。このため、電池の充電中に検知された電池電圧値Vと算出されたdQ/dVの値に基づいて、ピーク電池電圧値を推定することが可能となる。
【0015】
上述の二次電池システムの容量低下率推定手段により推定される容量低下率は、負極に起因(負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率になる。負極でのLi減少(充放電反応に寄与できるLiの減少)が原因で電池容量が低下した場合に、ピーク電池電圧値が変動することが判明したからである。正極の劣化など他の要因で電池容量が低下した場合には、ピーク電池電圧値は変動しない。従って、上述の二次電池システムでは、負極に起因(負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができる。
【0016】
なお、ピーク電池電圧値が変動する要因としては、負極においてSEI被膜の生成反応(電解液の分解反応)が促進されて、負極表面にLiを含むSEI被膜が増大してゆくことが挙げられる。SEIに含まれるLiは、充放電反応に寄与することができなくなるので、SEIが生成される分だけ電池容量が低下する。また、正極活物質層から放出されたLiの一部が、負極活物質層の非対向部に挿入されたり、負極活物質層の対向部に挿入されたLi(リチウム)の一部が、負極活物質層の非対向部に移動(拡散)することも、ピーク電池電圧値が変動する要因となる。
【0017】
ここで、負極活物質層の対向部とは、負極活物質層のうちセパレータを介して正極活物質層と対向する部位をいう。また、負極活物質層の非対向部とは、セパレータを介して対向する正極活物質層が存在しない部位をいう。負極活物質層の非対向部は、対向する正極活物質層が存在しないので、放電の際、この非対向部からその内部にあるLiを放出させ難い。つまり、この非対向部は、負極活物質層でありながら、放電に関与し難い。このため、非対向部に挿入されたLiの分だけ、放電の際に負極活物質層から放出しうるLi量が減少してしまう、即ち、電池容量が低下してしまうことになる。
【0018】
ところが、負極活物質層の非対向部にLiが挿入されたことにより低下した電池容量の一部は、後述する容量回復処理を行うことで回復させることができる。従って、上述の二次電池システムでは、負極に起因した容量低下率(ピーク電池電圧値の変動を伴う容量低下率)を推定し、その容量低下率が所定範囲の値(許容範囲を超えた値)となった場合に、容量回復処理を行うことで、電池容量の一部を回復させることが可能となる。
【0019】
なお、上述の二次電池システムを構成するリチウムイオン二次電池としては、正極活物質として、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有し、負極活物質として炭素系材料を有するリチウムイオン二次電池を用いるのが好ましい。このようなリチウムイオン二次電池は、第1電池電圧値V1(例えば3.2V)以上第2電池電圧値V2(例えば3.6V)以下の電池電圧範囲内において、V−dQ/dV曲線上に明確なピークが現れる。このため、ピーク電池電圧値を精度良く推定することができ、その結果、負極起因の容量低下率を精度良く推定することができる。
【0020】
なお、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMO2(Mは、1または複数種の遷移金属)を挙げることができる。また、炭素系材料としては、黒鉛を挙げることができる。
【0021】
さらに、上記の二次電池システムであって、前記制御手段は、前回の充電の際に前記容量低下率推定手段により推定された前記容量低下率が10%以上25%以下であった場合、今回、前記外部電源を用いた前記電池の充電を行うのに先立って、上記電池を放電させて、上記電池の電池電圧を、上記電池がSOC0%となる電池電圧値よりも低い値にした状態で、上記電池を所定時間放置する制御を行う二次電池システムとすると良い。
【0022】
上述の二次電池システムでは、前回の外部電源を用いた電池の充電の際に容量低下率推定手段により推定された容量低下率が10%以上25%以下であった場合、今回の外部電源を用いた電池の充電を行うのに先立って、低下した電池容量の一部を回復させる容量回復処理を行う。ここで、容量回復処理とは、リチウムイオン二次電池を放電させて、電池の電池電圧を、電池がSOC0%となる電池電圧値よりも低い値にした状態で、電池を所定時間放置する(休止状態を保つ)制御を行うことである。このような制御(容量回復処理)を行うことで、負極活物質層の非対向部にLiが挿入されたことにより低下した電池容量の一部を回復させることができる。
【0023】
なお、電池を放置する(休止状態を保つ)所定時間は、例えば、4時間以内とするのが好ましく、特に4時間とするのが好ましい。電池を、SOC0%となる電池電圧値よりも低い値(例えば、1.5V)にした状態で4時間放置する(休止状態を保つ)ことで、負極活物質層の非対向部にLiが挿入されたことにより低下した電池容量(放電容量)を、効果的に回復させることができる。
【0024】
さらに、上記いずれかの二次電池システムであって、前記二次電池システムは、前記容量低下率推定手段により推定された前記容量低下率が25%を上回った場合、前記電池が異常である旨の信号を出力する二次電池システムとすると良い。
【0025】
電池の容量低下率が25%を上回った場合は、電源としての電池容量不足であり、また、前述の容量回復処理を行っても十分な電池容量を得ることが期待できない。このため、上述の二次電池システムでは、容量低下率推定手段により推定された前記容量低下率が25%を上回った場合は、電池が異常である旨の信号を出力するようにした。これにより、電池の交換を促すことができる。
【0026】
本発明の他の態様は、車両であって、上記いずれかの二次電池システムを、上記車両の駆動用電源システムとして搭載してなる車両である。
【0027】
上述の車両は、前述の二次電池システムを駆動用電源として搭載している。従って、駆動用電源である電池について、負極に起因(負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができる。これにより、負極に起因した容量低下率(ピーク電池電圧値の変動を伴う容量低下率)を推定し、その低下率が許容範囲を超えた場合に、容量回復処理を行うことで、電池容量の一部を回復させることが可能となる。その結果、車両の走行性能を良好に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態にかかる車両の概略図である。
【図2】実施形態にかかる二次電池システムの概略図である。
【図3】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図4】同電池にかかる電極体の断面図である。
【図5】同電極体を構成する正極の斜視図である。
【図6】同電極体を構成する負極の斜視図である。
【図7】同負極の拡大断面図であり、図6のA−A断面図に相当する。
【図8】実施形態にかかる二次電池システムの制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のQ−V曲線である。
【図10】同電池のV−dQ/dV曲線である。
【図11】ピーク電池電圧値と容量低下率との相関を示すグラフである。
【図12】放置時間と容量回復率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の車両1は、図1に示すように、車体2、エンジン3、フロントモータ4、リヤモータ5、ケーブル7、二次電池システム6、及び、二次電池システム6に接続された電源プラグ8を有するハイブリッド自動車である。このハイブリッド自動車は、エンジン3と、フロントモータ4及びリヤモータ5との併用で駆動する。具体的には、この車両1は、二次電池システム6を、フロントモータ4及びリヤモータ5の駆動用電源システムとして搭載し、エンジン3とフロントモータ4及びリヤモータ5とを用いて走行できるように構成されている。
【0030】
このうち、二次電池システム6は、車両1の車体2に取り付けられており、ケーブル7によりフロントモータ4及びリヤモータ5と接続されている。この二次電池システム6は、図2に示すように、複数のリチウムイオン二次電池100(単電池)を互いに電気的に直列に接続した組電池10と、電圧検知手段40と、電流検知手段50と、電池コントローラ30と、変換装置44とを備えている。
【0031】
リチウムイオン二次電池100は、図3に示すように、直方体形状の電池ケース110と、正極端子120と、負極端子130とを備える、角形密閉式のリチウムイオン二次電池である。このうち、電池ケース110は、金属からなり、直方体形状の収容空間をなす角形収容部111と、金属製の蓋部112とを有している。電池ケース110(角形収容部111)の内部には、電極体150、正極接続部材122、負極接続部材132などが収容されている。
【0032】
電極体150は、帯状の正極155及び負極156が、帯状のセパレータ157を介して扁平形状に捲回されてなる捲回型電極体である(図4参照)。詳細には、長手方向DAに延びる帯状の正極155、負極156、及びセパレータ157を、長手方向DAに捲回して、捲回型の電極体150を形成している(図4〜図7参照)。なお、この電極体150では、セパレータ157を介して、正極155の正極活物質層152と負極156の負極活物質層159とが対向している(図7参照)。
【0033】
正極155は、図5に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、アルミニウム箔からなる正極集電部材151と、この正極集電部材151の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの正極活物質層152,152とを有している。なお、正極155のうち、正極集電部材151の両面に正極活物質層152が形成されていない部位を正極未塗工部155bという。
【0034】
正極活物質層152は、正極活物質153と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを含んでいる。なお、本実施形態では、正極活物質153として、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を用いている。詳細には、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いている。
【0035】
また、負極156は、図6に示すように、長手方向DAに延びる帯状で銅箔からなる負極集電部材158と、この負極集電部材158の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの負極活物質層159,159とを有している。なお、負極156のうち、負極集電部材158の両面に負極活物質層159が形成されていない部位を負極未塗工部156bという。また、図6及び図7では、負極156の幅方向(長手方向DAに直交する方向)をDBと表記している。
【0036】
負極活物質層159は、負極活物質127とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMCと(カルボキシメチルセルロース)を含んでいる。なお、本実施形態では、負極活物質154として、炭素系材料(詳細には、黒鉛)を用いている。
【0037】
負極活物質層159は、図6及び図7(図6のA−A断面図)に示すように、セパレータ157を介して正極活物質層152と対向する対向部159bと、セパレータ157を介して対向する正極活物質層152が存在しない非対向部159cとからなる。具体的には、負極活物質層159は、正極活物質層152に比べて大きな面積を有しており、非対向部159cが対向部159bの周囲に位置する形態となっている。
【0038】
なお、負極活物質層159における非対向部159cと対向部159bとの境界の位置は、負極156、セパレータ157及び正極155を捲回して電極体150を形成したときに決まる。また、図7では、参考として、電極体150を形成したときの正極155及びセパレータ157の位置を、二点鎖線で示している。
【0039】
電極体150では、正極未塗工部155bが、電極体150の軸線方向(図3において左右方向)の一方端部(図3において右端部)の位置で、渦巻状に重なっている。正極未塗工部155bは、正極接続部材122を通じて、正極端子120に電気的に接続されている。また、負極未塗工部156bが、電極体150の軸線方向の他方端部(図3において左端部)の位置で、渦巻状に重なっている。負極未塗工部156bは、負極接続部材132を通じて、負極端子130に電気的に接続されている。
【0040】
電流検知手段50は、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100を流れる電流値Iを検知する。また、電圧検知手段40は、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100について、電池電圧値V(端子間電圧値)を検知する。
【0041】
電池コントローラ30は、ROM31、CPU32、RAM33等を有している(図2参照)。この電池コントローラ30は、スイッチ41,42を介して、組電池10に電気的に接続されている。電池コントローラ30は、スイッチ41,42をONにした状態で、組電池10を構成する二次電池100の充放電を制御する。例えば、車両1の運転中は、組電池10(二次電池100)とインバータ(モータ)との間における電気のやりとりを制御する。また、電池コントローラ30は、電圧検知手段40で検出された電池電圧に基づいて、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100のSOCを推定する。
【0042】
変換装置44は、AC/DCコンバータにより構成されており、外部電源46(商用電源)の電圧を、一定電圧値を有する直流定電圧に変換することができる。この変換装置44は、ケーブル7に含まれるケーブル71を通じて、電源プラグ8に電気的に接続されている。さらに、変換装置44は、スイッチ43を介して、組電池10に電気的に接続されている。
【0043】
電源プラグ8は、外部電源46に電気的に接続可能に構成されている。この電源プラグ8は、変換装置44と電気的に接続されている。従って、電源プラグ8を通じて、変換装置44と外部電源46とを電気的に接続することができる。なお、本実施形態では、電源プラグ8と共にケーブル71を車両1の外部に引き出すことができ、車両1から離れた外部電源46に電源プラグ8を接続できるようになっている。
【0044】
このため、本実施形態の車両1では、車両1の停車中に、電源プラグ8を外部電源46に電気的に接続することで、外部電源46から供給される電力を用いて、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100を充電することができる。
【0045】
具体的には、電池コントローラ30は、変換装置44を監視しており、外部電源46から電源プラグ8を通じて変換装置44に電力が供給されたことを検知すると、スイッチ41,42をOFFにすると共に、スイッチ43をONにする。これにより、外部電源46から供給される電力を用いて、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100を充電することができる。詳細には、外部電源46の電圧を、変換装置44により、所定の一定電圧値を有する直流定電圧に変換しつつ、外部電源46から供給される電力を、変換装置44を通じて、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100に供給する。
【0046】
さらに、電池コントローラ30は、外部電源46を用いた電池100の充電時に、電池100の電池電圧値Vの変化量dVに対する電池100の蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出する。
【0047】
具体的には、外部電源46を用いた電池100の充電時に、電池コントローラ30は、所定時間毎に、電流検知手段50で検知された電流値Iを積算(∫Idt)して、二次電池100の充電電気量を算出し、算出された充電電気量から二次電池100の蓄電量Qを推定する。さらに、電池コントローラ30は、電流積算と同期させて、電圧検知手段40で検知された二次電池100の電池電圧値Vを取得する。
【0048】
さらに、電池コントローラ30は、電圧検知手段40で検知された二次電池100の電池電圧値Vと推定した蓄電量Qとから、二次電池100の電池電圧値Vの変化量dVに対する二次電池100の蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出する。換言すれば、二次電池100の蓄電量Qを電池電圧値Vで微分して、dQ/dVの値を算出する。具体的には、二次電池100の充電時に、所定時間毎に電池電圧値Vと蓄電量Qを取得し、各所定時間毎の電池電圧値Vの変化量dVと蓄電量Qの変化量dQとを算出し、これらに基づいて、所定時間毎のdQ/dVの値を算出する。
【0049】
さらに、電池コントローラ30は、電圧検知手段40で検知された電池電圧Vの値と算出したdQ/dVの値に基づいて、電池電圧Vの値とdQ/dVの値との関係を表すV−dQ/dV曲線(図10参照)上に現れるピークの電池電圧値(以下、ピーク電池電圧値ともいう)を推定する。詳細には、第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内に現れるピークP1の電池電圧値(ピーク電池電圧値X)を推定する。
【0050】
具体的には、例えば、ピークP1の前後においてdQ/dVの値は、増加から減少に転ずる(図10参照)ので、電池コントローラ30は、dQ/dVの値が増加から減少に転じたときの電池電圧値Vを、ピーク電池電圧値Xと推定することができる。また、電池100の充電時に得た電池電圧Vの値とdQ/dVの値に基づいてV−dQ/dV曲線(図10参照)を描き、このV−dQ/dV曲線からピーク電池電圧値Xを求めるようにしても良い。
【0051】
さらに、電池コントローラ30は、外部電源46を用いて電池100の充電が行われる際、当該充電に先立って、電池電圧値が第1電池電圧値V1より小さい値(例えば、3.0V)になるまで、電池100を放電させる制御を行う。これにより、電池100の充電を開始するときの電池電圧値を、第1電池電圧値V1より小さい値(例えば、3.0V)にすることができる。すなわち、V−dQ/dV曲線のピークP1が現れる電池電圧範囲(第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下)の下限値よりも、電池電圧値を小さくすることができる。
【0052】
これにより、電池100の充電中に、電池100の電池電圧値Vとこれに対応するdQ/dVの値が、V−dQ/dV曲線上に現れるピークP1を示す値に達する(ピークP1を示す値を経由して変動する)ことになる。すなわち、電池100の充電中に、電池100の状態が、V−dQ/dV曲線上に現れるピークP1に対応する状態に至る(ピークP1に対応する状態を経由して変動する)ことになる。このため、検知された電池電圧値Vと算出されたdQ/dVの値に基づいて、ピーク電池電圧値P1を推定することが可能となる。
【0053】
さらに、電池コントローラ30は、上述のようにして推定したピーク電池電圧値Xから、電池100の容量低下率Yを推定する。本実施形態では、電池コントローラ30のROM31に、予め、電池100について取得しておいた、ピークP1における電池電圧値(ピーク電池電圧値X)と電池100の容量低下率Y(初期容量に対する低下率)との相関を表すデータを記憶させている。従って、ピーク電池電圧値Xと容量低下率Yとの相関データに基づいて、推定されたピーク電池電圧値Xから電池100の容量低下率Yを推定することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、ピーク電池電圧値X(V)と容量低下率Y(%)との相関を表すデータとして、図11の相関図に基づいて算出した、下記の相関式(1)を記憶させている。図11の相関図は、後述する保存試験の結果に基づいて作成したものである。
Y=363.77X−1278 ・・・(1)
【0055】
また、本実施形態では、V−dQ/dV曲線のピークP1が、3.2V〜3.6Vの範囲内に現れるので、第1電池電圧値V1=3.2V、第2電池電圧値V2=3.6Vとしている。
【0056】
ところで、電池コントローラ30により推定される容量低下率Yは、負極156に起因(負極156において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率になる。後述するように、負極156でのLi減少(充放電反応に寄与できるLiの減少)が原因で電池容量が低下した場合に、ピーク電池電圧値Xが変動(上昇)することが判明したからである。正極155の劣化など他の要因で電池容量が低下した場合には、ピーク電池電圧値Xは変動しない。従って、本実施形態の二次電池システム6では、負極156に起因(負極156において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができる。
【0057】
なお、ピーク電池電圧値Xが変動(上昇)する要因としては、負極156においてSEI被膜の生成反応(電解液の分解反応)が促進されて、負極156の表面にLiを含むSEI被膜が増大してゆくことが挙げられる。SEIに含まれるLiは、充放電反応に寄与することができなくなるので、SEIが生成される分だけ電池容量が低下することになる。また、正極活物質層152から放出されたLiの一部が、負極活物質層159の非対向部159cに挿入されたり、負極活物質層159の対向部159bに挿入されたLi(リチウム)の一部が、負極活物質層159の非対向部159cに移動(拡散)することも、ピーク電池電圧値Xが変動する要因となる。
【0058】
ここで、負極活物質層159の対向部159bとは、負極活物質層159のうちセパレータ157を介して正極活物質層152と対向する部位をいう。また、負極活物質層159の非対向部159cとは、セパレータ157を介して対向する正極活物質層152が存在しない部位をいう。
【0059】
負極活物質層159の非対向部159cは、対向する正極活物質層152が存在しないので、放電の際、この非対向部159cからその内部にあるLiを放出させ難い。つまり、この非対向部159cは、負極活物質層159でありながら、放電に関与し難い。このため、非対向部159cに挿入されたLiの分だけ、放電の際に負極活物質層159から放出しうるLi量が減少してしまう、即ち、電池容量が低下してしまうことになる。
【0060】
ところが、負極活物質層159の非対向部159cにLiが挿入されたことにより低下した電池容量の一部は、後述する容量回復処理を行うことで回復させることができる。従って、本実施形態の二次電池システム6では、負極156に起因した容量低下率(ピーク電池電圧値Xの変動を伴う容量低下率)を推定し、その容量低下率が所定範囲の値(許容範囲を超えた値)となった場合に、容量回復処理を行うことで、電池容量の一部を回復させることが可能となる。
【0061】
電池コントローラ30は、前回の充電(外部電源46を用いた電池100の充電)の際に推定した容量低下率が10%以上25%以下であった場合、今回の充電(外部電源46を用いた電池100の充電)を行う際、当該充電に先立って、低下した電池容量の一部を回復させる容量回復処理を行う。ここで、容量回復処理とは、リチウムイオン二次電池100を放電させることにより、電池100の電池電圧を、電池100がSOC0%となる電池電圧値よりも低い値にした状態で、電池100を所定時間放置する(休止状態を保つ)制御を行うことである。このような制御(容量回復処理)を行うことで、負極活物質層159の非対向部159cにLiが挿入されたことにより低下した電池容量の一部を回復させることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、電池100がSOC0%となる電池電圧値を3.0V、電池100がSOC100%となる電池電圧値を4.1Vとしている。
また、電池100を放置する(休止状態を保つ)所定時間は、例えば、4時間以内とするのが好ましく、特に4時間とするのが好ましい。電池100を、SOC0%となる電池電圧値よりも低い値(例えば、1.5V)にした状態で4時間放置する(休止状態を保つ)ことで、負極活物質層159の非対向部159cにLiが挿入されたことにより低下した電池容量(放電容量)を、効果的に回復させることができる。
【0063】
さらに、電池コントローラ30は、推定した容量低下率Yが25%を上回った場合は、電池100が異常である旨の信号を出力する。電池100の容量低下率が25%を上回った場合は、車両1の駆動用電源としての電池容量不足であり、また、前述の容量回復処理を行っても十分な電池容量を得ることが期待できないからである。
【0064】
なお、電池コントローラ30は、警告ランプ47に電気的に接続されている(図2参照)。この警告ランプ47は、組電池10を構成するリチウムイオン二次電池100の異常を警告するランプであり、車両1の運転者が視認できる位置(例えば、インストルメントパネル)に配置されている。電池コントローラ30は、リチウムイオン二次電池100の容量低下率が25%を上回ったと推定した場合、電池100が異常である旨の信号を出力して、警告ランプ47を点灯させる。これにより、車両1の運転者等に対し、組電池10(電池100)の交換を促すことができる。
【0065】
次に、実施形態にかかる二次電池システム6の制御(容量低下率Yの推定、容量回復処理、異常の警告)について、具体的に説明する。図8は、実施形態にかかる二次電池システム6の制御の流れを示すフローチャートである。
【0066】
まず、電池コントローラ30は、ステップS1において、電源プラグ8が外部電源46に電気的に接続されたか否かを判定する。電池コントローラ30は、変換装置44を監視しており、外部電源46から電源プラグ8を通じて変換装置44に電力が供給されたことを検知することで、電源プラグ8が外部電源46に電気的に接続されたと判断する。
【0067】
ステップS1において、電源プラグ8が外部電源46に電気的に接続された(Yes)と判定した場合は、ステップS2に進み、容量回復処理を行うか否かを判断する。
【0068】
具体的には、後述するように、前回の充電(外部電源46を用いた電池100の充電)の際に推定した電池100の容量低下率が10%以上25%以下であった場合、前回のステップSEにおいて、次回の充電の際に当該充電に先立って電池100の容量回復処理を行うことを、RAM33に記憶させている。従って、RAM33に、容量回復処理を行うことが記憶されている場合は、容量回復処理を行う(Yes)と判断する。一方、RAM33に、容量回復処理を行うことが記憶されていない場合は、容量回復処理を行わない(No)と判断する。
【0069】
ステップS2において、容量回復処理を行わない(No)と判断した場合は、ステップS3に進み、組電池10を構成する全ての電池100を、電池電圧値が第1電池電圧値V1(3.2V)より小さい値(例えば、3.0V)になるまで、電池100を放電させる。これにより、電池100の充電を開始するときの電池電圧値を、第1電池電圧値V1より小さい値(例えば、3.0V)にすることができる。すなわち、V−dQ/dV曲線のピークP1が現れる電池電圧範囲の下限値(第1電池電圧値V1)よりも、電池電圧値を小さくすることができる。
【0070】
なお、放電電流値は、1C以下の電流値(例えば、1C)とするのが好ましい。本実施形態の電池100の定格容量は4.0Ahであるので、1C=4.0Aとなる。
また、電池100からの放電電気(電力)は、例えば、車両1に搭載している予備電池(図示なし)に供給すると良い。また、車両1に搭載されている電子機器で消費するようにしても良い。また、外部電源46側に放電可能であれば、スイッチ43をONにして、外部電源46側に放電するようにしても良い。
【0071】
一方、ステップS2において、容量回復処理を行う(Yes)と判断した場合は、ステップSAに進み、リチウムイオン二次電池100を放電させて、電池100の電池電圧を、電池100がSOC0%となる電池電圧値(3.0V)よりも低い値(例えば、1.5V)にする。次いで、ステップSBに進み、電池100を所定時間放置する(休止状態を保つ)。
【0072】
なお、電池100を放置する(休止状態を保つ)所定時間は、4時間以内とするのが好ましく、特に4時間とするのが好ましい。ステップSA,SBの処理(容量回復処理)を行うことで、負極活物質層159の非対向部159cにLiが挿入されたことにより低下した電池容量の一部を回復させることができる。
【0073】
また、ステップSA及びSBの処理(容量回復処理)を終えたとき、「次回の充電の際に容量回復処理(ステップSA,SBの処理)を行う」というRAM33の記憶を消去する。
【0074】
次に、ステップS4に進み、組電池10を構成する電池100の充電を開始する。具体的には、電池コントローラ30は、スイッチ41,42をOFFにすると共に、スイッチ43をONにする。これにより、外部電源46から変換装置44を通じて組電池30に電力を供給し、組電池30を構成するリチウムイオン二次電池100の充電を開始することができる。
【0075】
なお、充電電流値は、1C以下の電流値(例えば、0.5C)とするのが好ましい。dQ/dVの値、及び、ピーク電池電圧値Xの値を、精度良く取得(推定)することができるからである。
【0076】
その後、ステップS5に進み、電池コントローラ30は、電池100の電池電圧Vの変化量dVに対する蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出する。具体的には、電池100の充電を開始すると、電圧検知手段40によって検知された電池100の電池電圧値Vを取得すると共に、電流検知手段50により検知された二次電池100を流れる電流値Iを取得する。なお、本実施形態では、電池コントローラ30は、所定時間(例えば1秒)毎に、電池電圧値Vと電流値Iを取得する。
【0077】
さらに、電池コントローラ30は、電流検知手段50で検知された電流値Iを積算して、電池100の充電電気量を算出する。次いで、電池コントローラ30は、算出された充電電気量に基づいて、電池100に蓄えられている電気量(蓄電量Q)を推定する。なお、本実施形態では、所定時間(例えば1秒)毎に検知された電流値Iに基づいて、所定時間毎の蓄電量Qを推定する。
【0078】
その後、電池電圧Vの変化量dVに対する蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出する。換言すれば、電池100の蓄電量Qを、これに対応する電池電圧値Vで微分して、dQ/dVの値を算出する。具体的には、電池100について、所定時間毎に取得される電池電圧値Vと蓄電量Qに基づいて、所定時間毎の電池電圧Vの変化量dVと蓄電量Qの変化量dQとを算出し、これらに基づいて、所定時間毎のdQ/dVの値を算出する。
【0079】
なお、dQ/dVの値の算出は、組電池10を構成する全ての電池100を対象として行っても良いし、組電池10を構成する全ての電池100から選択した1または複数の電池100のみを対象として行うようにしても良い。容量低下率Yの推定についても同様である。
【0080】
その後、ステップS6に進み、電池コントローラ30は、電池100のSOCが100%に達したと判定したとき、電池100の充電を終了させる。具体的には、電池コントローラ30は、電池100の充電中、電圧検知手段50で検出された電池電圧に基づいて組電池30を構成するリチウムイオン二次電池100のSOCを推定する。そして、SOCが100%に達したと判定したとき、組電池30を構成するリチウムイオン二次電池100の充電を終了させる。その後、電池コントローラ30は、スイッチ43をOFFにすると共に、スイッチ41,42をONにする。
【0081】
次に、ステップS7に進み、電池コントローラ30は、電圧検知手段40で検知された電池電圧Vの値と算出したdQ/dVの値に基づいて、ピーク電池電圧値Xを推定する。詳細には、第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内に現れるピークP1の電池電圧値(ピーク電池電圧値X)を推定する。
【0082】
具体的には、例えば、ピークP1の前後においてdQ/dVの値は、増加から減少に転ずる(図10参照)ので、電池コントローラ30は、dQ/dVの値が増加から減少に転じたときの電池電圧値Vを、ピーク電池電圧値Xと推定することができる。また、電池100の充電時に得た電池電圧Vの値とdQ/dVの値に基づいてV−dQ/dV曲線(図10参照)を描き、このV−dQ/dV曲線からピーク電池電圧値Xを求めるようにしても良い。
【0083】
次いで、ステップS8に進み、電池コントローラ30は、上述のようにして推定したピーク電池電圧値Xから、電池100の容量低下率Yを推定する。本実施形態では、電池コントローラ30のROM31に、予め、電池100について取得しておいた、ピークP1における電池電圧値(ピーク電池電圧値X)と電池100の容量低下率Y(初期容量に対する低下率)との相関を表すデータを記憶させている。従って、ピーク電池電圧値Xと容量低下率Yとの相関データに基づいて、推定されたピーク電池電圧値Xから電池100の容量低下率Yを推定することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、ピーク電池電圧値X(V)と容量低下率Y(%)との相関を表すデータとして、図11の相関図に基づいて算出した、下記の相関式(1)を記憶させている。
Y=363.77X−1278 ・・・(1)
【0085】
例えば、推定されたピーク電池電圧値Xが3.54Vであった場合は、相関式(1)から、容量低下率Y=363.77×3.54−1278=9.746(%)と算出される。従って、電池コントローラ30は、容量低下率Y=9.746(%)と推定する。
【0086】
なお、ステップS7の処理(ピーク電池電圧値Xの推定)及びS8の処理(容量低下率Yの推定)は、ステップS6の処理(充電の終了)の先に行うようにしても良い。すなわち、電池100の充電中に、ステップS7及びS8の処理を行うようにしても良い。
【0087】
次に、ステップS9に進み、ステップS7において推定された容量低下率Yの値が、10%以上であるか否かを判定する。容量低下率Yの値が10%以上でない(No)と判定された場合は、一連の処理を終了する。容量低下率Yが10%未満である場合は、電池100の容量低下の許容範囲内であり、車両の走行性能を良好に保つことができる範囲であると考えているからである。
【0088】
一方、容量低下率Yの値が10%以上である(Yes)と判定された場合は、ステップSCに進み、容量低下率Yの値が25%以下であるか否かを判定する。容量低下率Yの値が25%以下である(Yes)と判定された場合は、ステップSEに進み、次回の充電の際に当該充電に先立って電池100の容量回復処理(ステップSA及びSBの処理)を行うことを、RAM33に記憶させる。
【0089】
一方、容量低下率Yの値が25%以下でない(No)と判定された場合は、ステップSDに進み、電池100が異常である旨の信号を出力して、警告ランプ47を点灯させる。これにより、車両1の運転者等に対し、組電池10(電池100)の交換を促すことができる。
【0090】
なお、本実施形態では、電池コントローラ30が、制御手段、dQ/dV算出手段、ピーク電圧推定手段、及び、容量低下率推定手段に相当する。詳細には、ステップS5の処理を行う電池コントローラ30が、dQ/dV算出手段に相当する。また、ステップS7の処理を行う電池コントローラ30が、ピーク電圧推定手段に相当する。また、ステップS8の処理を行う電池コントローラ30が、容量低下率推定手段に相当する。
【0091】
ここで、本実施形態の二次電池100の製造方法について説明する。
まず、正極活物質153(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)とアセチレンブラック(導電助剤)とポリフッ化ビニリデン(バインダ樹脂)とを混合し、これにN−メチルピロリドン(分散溶媒)を混合して、正極スラリを作製する。次いで、この正極スラリを、正極集電部材151(アルミニウム箔)の表面に塗布し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、正極集電部材151の表面に正極活物質層152が塗工された正極155を得た(図5参照)。
【0092】
また、負極活物質154(黒鉛)と、スチレン−ブタジエン共重合体(バインダ樹脂)と、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)とを水中で混合して、負極スラリを作製した。次いで、この負極スラリを、負極集電部材158(銅箔)の表面に塗布し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、負極集電部材158の表面に負極活物質層159が塗工された負極156を得た(図6参照)。
【0093】
次に、負極156と正極155との間に、セパレータ157を介在させて捲回して、断面長円状の電極体150を形成した(図4参照)。但し、正極155、負極156、及びセパレータ157を捲回する際には、電極体150の一端部から、正極155の正極未塗工部155bが突出するように、正極155を配置する。さらには、負極156の負極未塗工部156bが、正極未塗工部155bとは反対側から突出するように、負極156を配置する。また、負極合材層159の対向部159bに、セパレータ157を介して正極合材層152が対向するように捲回する。
【0094】
次に、電極体150の正極未塗工部155bと正極端子120とを、正極接続部材122を通じて接続する。さらに、電極体150の負極未塗工部156bと負極端子130とを、負極接続部材132を通じて接続する。その後、これを角形収容部111内に収容し、角形収容部111と蓋部112とを溶接して、電池ケース110を封止した。次いで、蓋部112に設けられている注液口(図示しない)を通じて電解液を注液した後、注液口を封止することで、本実施形態のリチウムイオン二次電池100が完成する。
【0095】
なお、本実施形態では、電解液として、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)とを混合した溶液中に、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの割合で溶解したものを用いている。
【0096】
(保存試験)
次に、リチウムイオン二次電池100の保存試験について説明する。
本試験では、SOC80%としたリチウムイオン二次電池100を、槽内温度を60℃とした恒温槽内に100日間保存した。但し、保存試験を行う前の初期状態の電池100について、Q−V曲線(蓄電量Qと電池電圧Vとの関係を表す曲線)を取得した。さらに、60℃の恒温槽内で電池100の保存を開始してから8日間経過(8日間保存)したとき、20日間経過したとき、35日間経過したとき、61日経過したとき、100日間経過したときも、それぞれ、Q−V曲線を取得した。
【0097】
電池100のQ−V曲線(蓄電量Qと電池電圧Vとの関係を表す曲線)は、次のようにして取得した。具体的には、まず、電池100について、1C(4A)の定電流で電池電圧値が3.0V(SOC0%)に至るまで放電する。次いで、電池100について、0.5C(2A)の定電流で、電池電圧値が4.1V(SOC100%)に至るまで充電する。この充電期間中、所定時間(例えば1秒)毎に、電池電圧値Vと電流値Iを検知する。さらに、検知された電流値Iを積算することにより、所定時間毎の蓄電量Qを算出する。この蓄電量Qと対応する電池電圧Vとの関係を、Q−V曲線として表した。得られたQ−V曲線を図9に示す。
【0098】
なお、図9では、初期状態の電池100のQ−V曲線を太実線で、8日間保存後の電池100のQ−V曲線を一点鎖線で、20日間保存後の電池100のQ−V曲線を太破線で、35日間保存後の電池100のQ−V曲線を二点鎖線で、61日間保存後の電池100のQ−V曲線を細破線で、100日間保存後の電池100のQ−V曲線を細実線で表している。
【0099】
また、電池電圧値が4.1Vであるとき(電池100がSOC100%であるとき)の蓄電量Qを、それぞれの電池容量(満充電容量)とした。具体的には、初期状態の電池100の電池容量(初期容量)は、4.0Ahであった(図9参照)。また、8日間保存後の電池100の電池容量は、3.76Ahであった。また、20日間保存後の電池100の電池容量は、3.65Ahであった。また、35日間保存後の電池100の電池容量は、3.54Ahであった。また、61日間保存後の電池100の電池容量は、3.44Ahであった。また、100日間保存後の電池100の電池容量は、3.38Ahであった。この結果より、保存期間が長くなるほど電池容量が低下することがわかる。
【0100】
さらに、得られた電池容量の値に基づいて、各保存期間後の電池100について、初期容量に対する電池容量低下率(%)を算出した。具体的には、8日間保存後の電池100では、容量低下率が約6%となった。すなわち、初期容量に対して電池容量が約6%低下した。また、20日間保存後の電池100では、容量低下率が約9%となった。また、35日間保存後の電池100では、容量低下率が約11.5%となった。また、61日間保存後の電池100では、容量低下率が約14%となった。また、100日間保存後の電池100では、容量低下率が約15.5%となった。
【0101】
なお、100日間保存後の電池100を分解して調査したところ、正極155(正極活物質153)の劣化は生じていなかった。一方、負極156表面には、Liを含むSEI被膜が多量形成されていた。また、負極活物質層159の非対向部159c(その負極活物質154)には、多量のLiが挿入されていた。この結果より、保存試験による容量低下は、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下であることが判明した。
【0102】
また、得られたQ−V曲線から、V−dQ/dV曲線を作成した。具体的には、Q−V曲線の蓄電量Qを電池電圧Vで微分することでdQ/dVの値を算出し、電池電圧Vの値とdQ/dVの値との関係を表すV−dQ/dV曲線を作成した。これを図10に示す。なお、図10では、3.2V〜3.6Vの電池電圧の範囲内について、V−dQ/dV曲線を示している。
【0103】
図10より、3.2V〜3.6Vの電池電圧の範囲内において、V−dQ/dV曲線上にピークP1が現れることがわかる。なお、このピークP1は、V−dQ/dV曲線上(SOC0%〜100%の範囲内、従って、電池電圧値3.0〜4.1Vの範囲内)に現れる複数のピークの中で、最も電池電圧値が小さいピークである。
【0104】
さらに、図10より、ピークP1における電池電圧値(ピーク電池電圧値X)は、電池容量が低下する(負極156に起因した容量低下率が上昇する)のにしたがって変動する(上昇する)傾向にあることがわかる。なお、前述のように、保存期間が長いほど電池容量は低下している。従って、リチウムイオン二次電池100の容量低下率(負極156に起因した容量低下率)が上昇するにしたがって、ピーク電池電圧値Xも上昇する傾向になる。
【0105】
ここで、ピークP1における電池電圧値(ピーク電池電圧値X)と電池100の容量低下率Y(初期容量に対する低下率)との相関を表すグラフを作成した。具体的には、図10に示すそれぞれのV−dQ/dV曲線上に現れるピークP1の電池電圧値を取得し、それぞれのピーク電池電圧値Xと、それぞれのV−dQ/dV曲線を得たときの容量低下率Y(%)との対応関係を、図11に示した。図11より、ピーク電池電圧値X(V)と容量低下率Y(%)との間には、ピーク電池電圧値Xが上昇するにしたがって容量低下率Yが上昇するという相関があるといる。
【0106】
さらに、図11の相関図より、下記の相関式(1)を得た。前述のように、この相関式(1)は、電池コントローラ30のROM31に記憶させている。これにより、電池コントローラ30は、相関式(1)を使用して、推定されたピーク電池電圧値Xから電池100の容量低下率Yを算出(推定)することができる。
Y=363.77X−1278 ・・・(1)
【0107】
前述のように、保存試験による容量低下は、負極に起因(詳細には、負極において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下であるため、相関式(1)により得られる容量低下率は、負極156に起因(負極156において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率となる。従って、本実施形態の二次電池システム6では、負極156に起因(負極156において充放電反応に寄与できるLiが減少することに起因)した容量低下率を推定することができるといえる。
【0108】
(容量回復試験)
次に、リチウムイオン二次電池100の容量回復試験について説明する。
この試験では、上述の保存試験により同程度に容量低下した電池100を6個(サンプル電池1〜6とする)用意し、これらの電池について、容量回復処理を行った。具体的には、6個のサンプル電池について、放電により電池電圧値を、SOC0%となる電池電圧値よりも小さい値(具体的には、1.5V)にまで低下させた後、放置時間を異ならせて、25℃の温度環境下で放置した(休止状態を維持した)。
【0109】
具体的には、サンプル電池1は、25℃の温度環境下で1時間放置した。サンプル電池2は、25℃の温度環境下で2時間放置した。サンプル電池3は、25℃の温度環境下で4時間放置した。サンプル電池4は、25℃の温度環境下で8時間放置した。サンプル電池5は、25℃の温度環境下で12時間放置した。サンプル電池6は、25℃の温度環境下で16時間放置した。
【0110】
その後、サンプル電池1〜6について、電池容量(放置後の電池容量)を測定し、容量回復率(%)を算出した。この結果を図12に示す。図12のグラフより、放置時間を長くするのにしたがって、容量回復率を上昇させることができることがわかる。但し、放置時間を4時間より長くしても、容量回復率はあまり上昇しなくなる。
【0111】
従って、効率の観点から、電池を放置する(休止状態を保つ)時間は、4時間以内とするのが好ましく、特に4時間とするのが好ましいといえる。電池100を、SOC0%となる電池電圧値よりも低い値(例えば、1.5V)にした状態で4時間放置する(休止状態を保つ)ことで、負極活物質層の非対向部にLiが挿入されたことにより低下した電池容量(放電容量)を、効果的に回復させることができるといえる。
【0112】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0113】
1 車両(ハイブリッド自動車)
6 二次電池システム
10 組電池
30 電池コントローラ(制御手段、dQ/dV算出手段、ピーク電圧推定手段、容量低下率推定手段)
40 電圧検知手段
46 外部電源
47 警告ランプ
50 電流検知手段
100 リチウムイオン二次電池
150 電極体
153 正極活物質
154 負極活物質
155 正極
156 負極
157 セパレータ
P1 ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を備え、外部電源から供給される電力を用いて上記電池を充電可能とする構成を有する二次電池システムであって、
上記電池の制御を行う制御手段と、
上記外部電源を用いた上記電池の充電時に、上記電池の電池電圧Vの変化量dVに対する上記電池の蓄電量Qの変化量dQの割合であるdQ/dVの値を算出するdQ/dV算出手段と、
上記電池電圧Vの値と上記dQ/dVの値に基づいて、上記電池電圧Vの値と上記dQ/dVの値との関係を表すV−dQ/dV曲線上に現れるピークであって、第1電池電圧値V1以上第2電池電圧値V2以下の電池電圧範囲内に現れるピークの電池電圧値を推定するピーク電圧推定手段と、を備え、
上記制御手段は、
上記外部電源を用いた上記電池の充電が行われる際、当該充電に先立って、上記電池の電池電圧値が上記第1電池電圧値より小さい値になるまで上記電池を放電させる制御を行い、
上記二次電池システムは、
予め上記二次電池システムに記憶させておいた、上記ピークにおける電池電圧値と上記電池の初期容量に対する容量低下率との相関を表すデータに基づいて、上記ピーク電圧取得手段により取得されたピーク電池電圧値から上記電池の上記容量低下率を推定する容量低下率推定手段を備える
二次電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池システムであって、
前記制御手段は、
前回の充電の際に前記容量低下率推定手段により推定された前記容量低下率が10%以上25%以下であった場合、今回、前記外部電源を用いた前記電池の充電を行うのに先立って、上記電池を放電させて、上記電池の電池電圧を、上記電池がSOC0%となる電池電圧値よりも低い値にした状態で、上記電池を所定時間放置する制御を行う
二次電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二次電池システムであって、
前記二次電池システムは、
前記容量低下率推定手段により推定された前記容量低下率が25%を上回った場合、前記電池が異常である旨の信号を出力する
二次電池システム。
【請求項4】
車両であって、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の二次電池システムを、上記車両の駆動用電源システムとして搭載してなる
車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19709(P2013−19709A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151403(P2011−151403)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】