説明

二次電池

【課題】サイクル特性および充電負荷特性を向上させることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に電解液が含浸されている。負極22の負極活物質は、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する負極材料(高電位材料)を含む。電解液の溶媒は、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含む。負極活物質として高電位材料を用いた場合においても、負極22の表面に被膜が形成されやすくなる。これにより、充放電時において、電解液の分解反応が抑制されると共に、負極22におけるリチウムイオンの受け入れ性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極および負極と共に電解質を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話およびノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオンの吸蔵および放出を利用するリチウムイオン二次電池は、鉛電池およびニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備えている。
【0005】
負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられているが、それ以外の他の材料も注目されている。このような他の材料としては、リチウムイオンを吸蔵および放出するために高い電位を要する材料が挙げられる。
【0006】
リチウムイオン二次電池の構成については、さまざまな検討がなされている。具体的には、長寿命あるいは急速充電などの用途では、リチウムイオンを吸蔵および放出するために高い電位を要する材料として、チタン酸リチウムあるいはチタン酸水素リチウムなどが用いられている(例えば、特許文献1〜6参照。)。
【特許文献1】特開平06−275263号公報
【特許文献2】特開2007−173150号公報
【特許文献3】特開2007−141860号公報
【特許文献4】特開2008−091327号公報
【特許文献5】国際公開第99/03784号パンフレット
【特許文献6】国際公開第99/04442号パンフレット
【0007】
また、電解質の溶媒として、1つあるいは2つ以上のハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルが用いられている(例えば、特許文献7〜10参照。)。
【特許文献7】特開2007−165078号公報
【特許文献8】特開平07−240232号公報
【特許文献9】特開平08−306364号公報
【特許文献10】特開2008−010414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力は増大する傾向にあるため、二次電池の充放電が頻繁に繰り返される状況にある。よって、二次電池を高頻度で安全に使用するために、サイクル特性および充電負荷特性についてより一層の向上が望まれている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性および充電負荷特性を向上させることが可能な二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、負極活物質は、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する負極材料を含み、溶媒は、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二次電池によれば、負極の負極活物質は、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する負極材料を含むと共に、電解質の溶媒は、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含む。この場合には、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出するために高い電位を要する材料を用いた場合においても、負極の表面に被膜が形成されやすくなる。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制されると共に、負極におけるリチウムイオンの受け入れ性が向上する。よって、サイクル特性および充電負荷特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.第1の実施の形態(電池構造:円筒型)
2.第2の実施の形態(電池構造:ラミネートフィルム型)
【0013】
[1.第1の実施の形態]
図1および図2は、本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の断面構成を表している。図1では、二次電池の長手方向における断面を示しており、図2では、図1に示した断面の一部を拡大して示している。
【0014】
この二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出により表されるリチウムイオン二次電池であり、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。このような円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0015】
電池缶11は、例えば、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)あるいはそれらの合金などにより構成されており、その一端部は開放されていると共に他端部は閉鎖されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0016】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられている。このかしめ加工により、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面には、例えば、アスファルトが塗布されている。
【0017】
巻回電極体20は、正極21と負極22とがセパレータ23を介して積層および巻回されたものであり、その中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどにより構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケル(Ni)などにより構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0018】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0019】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0020】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この正極活物質層21Bは、必要に応じて、上記した正極活物質と共に、正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0021】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト(Co)、ニッケル、マンガン(Mn)および鉄のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0022】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルトを有するものが好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )、あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0023】
この他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物あるいは導電性高分子などが挙げられる。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどである。
【0024】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0025】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0026】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0027】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0028】
負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル、チタンあるいはステンレスなどが挙げられる。
【0029】
この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。なお、負極集電体22Aの表面粗さは、任意に設定可能である。
【0030】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この負極活物質層22Bは、必要に応じて、上記した負極活物質と共に、負極結着剤あるいは負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。
【0031】
この負極活物質層22Bでは、例えば、充放電時においてリチウムイオンが意図せずに析出することを防止するために、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電可能な容量が正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0032】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する材料(以下、単に「高電位材料」という)のいずれか1種あるいは2種以上が好ましい。電気化学的に安定だからである。より具体的には、負極22の電位が高くなるため、充放電時において、電解質の分解反応が抑制されると共に、負極22の体積変化も抑制される。なお、高電位材料においてリチウムイオンを吸蔵および放出する電位の下限は、約1.5Vであることがより好ましく、一方、上限は、特に限定されないが、例えば、1.7V程度である。
【0033】
上記した「リチウムイオンを吸蔵および放出する電位」は、0.2Cの電流量で充放電した場合における電位(リチウム電位に対する電位)である。この「C」とは、電流値を表す単位であり、「XC」とは、理論容量を1/X時間で放電しきる電流値を表している。このため、「0.2C」とは、理論容量を5時間で放電しきる電流値である。
【0034】
このような高電位材料としては、例えば、リチウムおよびチタンを構成元素として有する複合酸化物、水素およびチタンを構成元素として有する複合酸化物、金属酸化物(上記した2種類の複合酸化物に該当するものを除く)、あるいは金属硫化物などが挙げられる。
【0035】
リチウムおよびチタンを構成元素として有する複合酸化物は、例えば、スピネル構造を有するLix Tiy z で表される化合物(チタン酸リチウム)である。この化合物の具体例は、Li4 Ti5 12などであり、そのリチウムイオンを吸蔵および放出する電位は、充放電時の電位変化パターン中における平坦部において約1.55Vである。
【0036】
水素およびチタンを構成元素として有する複合酸化物は、例えば、Hx Tiy z で表される化合物である。この化合物の具体例は、H2 Ti3 7 、H2 Ti6 13、あるいはH2 Ti1225などである。
【0037】
金属酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト(CoO,Co3 4 )、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)、あるいは酸化銅(CuO,Cu2 O)などである。なお、酸化チタンの結晶構造は、ルチル型、アナターゼ型、ブロンズ型、ホランダイト型、ラムズデライト型、あるいはブルッカイト型のいずれであってもよい。
【0038】
金属硫化物は、例えば、硫化コバルト(CoS)、硫化ニッケル(NiS)、硫化鉄(FeS,FeS2 )、あるいは硫化銅(CuS)などである。
【0039】
中でも、高電位材料としては、例えば、チタンを構成元素として有する化合物が好ましく、さらに酸素を構成元素として有する化合物がより好ましい。具体的には、例えば、リチウムおよびチタンを構成元素として有する複合酸化物が好ましく、Li4 Ti5 12がより好ましい。優れた効果が安定して得られるからである。
【0040】
特に、高電位材料を用いる場合には、例えば、後述する炭素材料で高電位材料の表面を被覆することが好ましい。負極22の電子伝導性が向上するからである。
【0041】
なお、負極活物質層22Bは、負極活物質として、上記した高電位材料を含んでいれば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な他の負極材料を併せて含んでいてもよい。
【0042】
このような他の負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。リチウムイオンの吸蔵および放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に、導電剤としても機能し得るからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭、あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0043】
また、他の負極材料としては、例えば、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料(上記した高電位材料に該当するものを除く)が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを有するものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を有していてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらの2種以上が共存するものがある。
【0044】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムイオンと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)、あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0045】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0046】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムのうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、上記したケイ素以外の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)、あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0047】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムのうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、上記したスズ以外の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnO、あるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0048】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0049】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を有すると共に、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0050】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。このような他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上であってもよい。より高い効果が得られるからである。
【0051】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質の相であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減するからである。
【0052】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であることが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性等は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0053】
さらに、他の負極材料としては、例えば、金属酸化物あるいは高分子化合物などが挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0054】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0055】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されている。なお、セパレータ23は、2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0056】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0057】
負極活物質(高電位材料)と組み合わせて用いられる溶媒としては、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルのいずれか1種あるいは2種以上が好ましい。1つのハロゲンを構成元素として有する炭酸エステル、あるいは不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルを用いる場合と比較して、負極22の表面に良好な被膜が形成されやすくなるからである。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制されると共に、負極22におけるリチウムイオンの受け入れ性が向上する。
【0058】
詳細には、負極活物質として高電位材料を用いた場合には、上記した1つのハロゲンを有する炭酸エステル等を用いると、それらが充放電時において還元分解しにくいため、負極22の表面に被膜が形成されにくくなる。これに対して、2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルを用いると、その還元分解電位が高いため、負極活物質として高電位材料を用いた場合においても、負極22の表面に被膜が形成されやすくなる。
【0059】
この2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルは、環状炭酸エステルあるいは鎖状炭酸エステルのいずれであってもよいが、中でも、環状炭酸エステルが好ましい。充放電時において還元分解しやすいため、負極22の表面に被膜が形成されやすいからである。
【0060】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素が好ましい。負極22の表面に強固で安定な被膜が形成されやすいからである。また、ハロゲンの数は、2つ以上であれば特に限定されないが、中でも、2つが好ましく、その場合にはハロゲンの種類が同一であることがより好ましい。化学的に合成しやすいと共に、十分な被膜形成能力が得られるからである。
【0061】
2つ以上のハロゲンを有する環状炭酸エステルのうち、ハロゲンとしてフッ素を有するものとしては、例えば、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいはテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。中でも、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。
【0062】
2つ以上のハロゲンを有する鎖状炭酸エステルのうち、ハロゲンとしてフッ素を有するものとしては、例えば、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。
【0063】
もちろん、2つ以上のハロゲンを有する環状炭酸エステルあるいは鎖状炭酸エステルは、上記以外のものであってもよい。
【0064】
溶媒中における2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましい。電池容量を大きく低下させずに、負極22の表面に良好な被膜が形成されるからである。
【0065】
なお、溶媒は、上記した2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルを含んでいれば、他の溶媒を併せて含んでいてもよい。
【0066】
このような他の溶媒としては、例えば、以下で説明するように、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上(上記した2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルに該当するものを除く)が挙げられる。なお、以下で説明する一連の他の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
【0067】
具体的には、他の溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0068】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0069】
また、他の溶媒としては、式(1)〜式(3)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルが挙げられる。
【0070】
【化1】

(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【0071】
【化2】

(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0072】
【化3】

(R17はアルキレン基である。)
【0073】
式(1)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられる。
【0074】
式(2)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在してもよい。
【0075】
式(3)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(3)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0076】
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、式(1)〜式(3)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0077】
また、他の溶媒としては、式(4)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(5)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルが挙げられる。
【0078】
【化4】

(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0079】
【化5】

(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0080】
式(4)中のR21〜R26は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(5)中のR27〜R30についても同様である。また、ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素が好ましい。
【0081】
式(4)に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチルなどが挙げられる。式(5)に示したハロゲンを環状炭酸エステルとしては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0082】
さらに、他の溶媒としては、スルトン(環状スルホン酸エステル)あるいは酸無水物などが挙げられる。
【0083】
スルトンは、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどである。溶媒中におけるスルトンの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0084】
酸無水物は、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物、あるいはカルボン酸とスルホン酸との無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸とスルホン酸との無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0085】
電解質塩は、例えば、以下で説明するように、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。なお、以下で説明する一連のリチウム塩は、任意に組み合わされてもよい。
【0086】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
【0087】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0088】
また、リチウム塩としては、例えば、式(6)〜式(8)で表される化合物が挙げられる。なお、式(6)のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(7)中のR41〜R43および式(8)中のR51およびR52についても同様である。
【0089】
【化6】

(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0090】
【化7】

(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0091】
【化8】

(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0092】
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0093】
式(6)に示した化合物としては、例えば、式(6−1)〜式(6−6)で表される化合物などが挙げられる。式(7)に示した化合物としては、例えば、式(7−1)〜式(7−8)で表される化合物などが挙げられる。式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)で表される化合物などが挙げられる。もちろん、式(6)〜式(8)に示した化合物は、上記以外のものであってもよい。
【0094】
【化9】

【0095】
【化10】

【0096】
【化11】

【0097】
さらに、リチウム塩としては、式(9)〜式(11)で表される化合物が挙げられる。なお、式(9)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(11)中のp、qおよびrについても同様である。
【0098】
【化12】

(mおよびnは1以上の整数である。)
【0099】
【化13】

(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0100】
【化14】

(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0101】
式(9)に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 9 SO2 ))などが挙げられる。
【0102】
式(10)に示した環状の化合物としては、例えば、式(10−1)〜式(10−4)で表される化合物などが挙げられる。すなわち、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、あるいは1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。
【0103】
【化15】

【0104】
式(11)に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )などが挙げられる。
【0105】
電解質塩の含有量は、例えば、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0106】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0107】
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0108】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、有機溶剤を揮発させることにより、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0109】
次に、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。最初に、負極活物質と、負極結着剤と、負極導電剤とを混合した負極合剤を有機溶剤に分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードなどを用いて負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、有機溶剤を揮発させることにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0110】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極リード25を正極21に溶接などして取り付けると共に、負極リード26を負極22に溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させることにより、巻回電極体20を作製する。続いて、巻回電極体20の巻回中心に、センターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、正極リード25の先端部を安全弁機構25に溶接などして接続すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接などして接続する。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に、ガスケット17を介して電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0111】
本実施の形態に係る二次電池によれば、負極22および電解液が、下記の構成を有している。負極22の負極活物質は、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する負極材料を含んでいる。また、電解液の溶媒は、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含んでいる。すなわち、本実施の形態では、リチウムイオンを吸蔵および放出するために高い電位を要する負極材料(高電位材料)と、還元分解電位が高い溶媒とを組み合わせて用いている。この場合には、還元分解電位が低い溶媒(1つのハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルなど)を用いる場合と比較して、負極活物質として高電位材料を用いた場合においても、負極22の表面に被膜が形成されやすくなる。これにより、充放電時において、電解液の分解反応が抑制されると共に、負極22におけるリチウムイオンの受け入れ性が向上する。よって、サイクル特性および充電負荷特性を向上させることができる。
【0112】
特に、溶媒中における2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルの含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、高い効果を得ることができる。
【0113】
[2.第2の実施の形態]
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る二次電池の分解斜視構成を表しており、図4は、図3に示したIV−IV線に沿った断面構成を拡大して示している。
【0114】
この二次電池は、上記した第1の実施の形態と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このようなフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0115】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。ただし、巻回電極体30に対する正極リード31および負極リード32の設置位置や、それらの導出方向などは、特に限定されない。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどにより構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。これらの材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0116】
外装部材40は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。この場合には、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外縁部同士が融着、あるいは接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウムなどの金属箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンあるいはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0117】
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムであってもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムであってもよい。
【0118】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0119】
巻回電極体30は、正極33と負極34とがセパレータ35および電解質層36を介して積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0120】
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の実施の形態における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0121】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0122】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリフッ化ビニリデン、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0123】
電解液の組成は、上記した第1の実施の形態における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0124】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0125】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極33からリチウムイオンが放出され、電解質層36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極34からリチウムイオンが放出され、電解質層36を介して正極33に吸蔵される。
【0126】
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0127】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の実施の形態における正極21および負極22と同様の手順により、正極33および負極34を作製する。すなわち、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極33に正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極34に負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層および巻回させたのち、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより、巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0128】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させたのち、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などして密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0129】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体、あるいは多元系共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などして密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0130】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーあるいは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御される。これにより、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において、十分な密着性が得られる。
【0131】
本実施の形態に係る二次電池によれば、負極34および電解液がそれぞれ上記した第1の実施の形態における負極22および電解液と同様の構成を有しているため、サイクル特性および充電負荷特性を向上させることができる。この二次電池に関する他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0132】
本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0133】
(実験例1−1〜1−6)
以下の手順により、図3および図4に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0134】
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成することにより、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物98質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン1.2質量部と、正極導電剤としてケッチェンブラック0.8質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させることにより、正極活物質層33Bを形成した。この場合には、正極集電体33Aとして、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)を用いた。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層33Bを圧縮成型した。
【0135】
次に、負極34を作製した。最初に、負極活物質としてチタン酸リチウム(Li4 Ti5 12)85質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部と、負極導電剤として黒鉛10質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させることにより、負極活物質層34Bを形成した。この場合には、負極集電体34Aとして、帯状の電解銅箔(厚さ=18μm)を用いた。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層34Bを圧縮成型した。
【0136】
次に、電解液を調製した。最初に、溶媒として、炭酸エチレン(EC)と、炭酸ジメチル(DMC)と、γ−ブチロラクトン(GBL)とを所定の組み合わせで混合した。続いて、上記した溶媒に、他の溶媒として、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加えた。最後に、上記した混合溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムを溶解させた。この場合には、溶媒の混合比(重量比)および他の溶媒の添加量(重量%)を表1に示したように設定すると共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0137】
最後に、正極33および負極34と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、セパレータ35と、負極34とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ57で巻き終わり部分を固定することにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。この場合には、セパレータ35として、微多孔性ポリエチレンフィルム(厚さ=20μm)を用いた。続いて、外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着することにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材40として、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)を用いた。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させることにより、巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、二次電池が完成した。なお、二次電池を作製する際には、正極活物質層33Bの厚さを調節することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
【0138】
(実験例1−7〜1−9)
電解液の組成を表1に示したように設定したことを除き、実験例1−1〜1−6と同様の手順を経た。具体的には、他の溶媒として、DFECを用いなかった。また、他の溶媒として、DFECに代えて、1つのハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、あるいは不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)を用いた。
【0139】
これらの実験例1−1〜1−9の二次電池についてサイクル特性および充電負荷特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0140】
サイクル特性を調べる際には、以下のサイクル試験を行うことにより、1000サイクル後の放電容量維持率を求めた。最初に、電池状態を安定化させるために、23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させた。続いて、同雰囲気中において再び充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中においてサイクル数の総計が1000サイクルになるまで充放電を繰り返すことにより、1000サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(1000サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、1サイクル目では、100mAの定電流で電池電圧が2.8Vに到達するまで充電し、引き続き2.8Vの定電圧で総充電時間が6時間に到達するまで充電したのち、100mAの定電流で電池電圧が1Vに到達するまで放電した。また、2サイクル目以降では、3Cの定電流で電池電圧が2.8Vに到達するまで充電し、引き続き2.8Vの定電圧で電流が25mAになるまで充電したのち、1Cの定電流で電池電圧が1Vに到達するまで放電した。
【0141】
充電負荷特性を調べる際には、1つの二次電池について以下の充電負荷試験を行うことにより、負荷充電時の放電容量維持率を求めた。最初に、上記したサイクル試験における2サイクル目の条件で充放電させることにより、基準の放電容量を測定した。続いて、1Cの充電電流で電池電圧が2.8Vに到達するまで充電し、引き続き2.8Vの定電圧で電流が25mAになるまで充電したのち、0.2Cの定電流で電池電圧が1Vに到達するまで放電することにより、1C充電時の放電容量を測定した。この結果から、1C充電時の放電容量維持率(%)=(1C充電時の放電容量/基準の放電容量)×100を算出した。続いて、充電電流を5Cに変更したことを除き、1C充電時と同様の条件で充放電させることにより、5C充電時の放電容量を測定したのち、5C充電時の放電容量維持率(%)=(5C充電時の放電容量/基準の放電容量)×100を算出した。続いて、充電電流を10Cに変更したことを除き、1C充電時と同様の条件で充放電させることにより、10C充電時の放電容量を測定したのち、10C充電時の放電容量維持率(%)=(10C充電時の放電容量/基準の放電容量)×100を算出した。最後に、充電電流を20Cに変更したことを除き、1C充電時と同様の条件で充放電させることにより、20C充電時の放電容量を測定したのち、20C充電時の放電容量維持率(%)=(20C充電時の放電容量/基準の放電容量)×100を算出した。
【0142】
【表1】

【0143】
表1に示したように、負極活物質として高電位材料(Li4 Ti5 12)を用いた場合には、電解液中に含まれる他の溶媒の種類により、放電容量維持率に差異が見られた。具体的には、DFECを含む実験例1−1〜1−6では、VCあるいはFECを含む実験例1−7〜1−9と比較して、溶媒の組成およびDFECの含有量に依存せずに、1000サイクル後および負荷充電時の放電容量維持率がいずれも高くなった。特に、実験例1−1〜1−6では、DFECの含有量が0.01重量%以上10重量%以下であると、双方の放電容量維持率がより高くなった。
【0144】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極の負極活物質が高電位材料を含む場合において、電解液の溶媒が2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含むことにより、サイクル特性および充電負荷特性が向上することが確認された。また、溶媒中における2つ以上のハロゲンを有する炭酸エステルの含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、両特性がより向上することも確認された。
【0145】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した各実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出により表される二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出による容量とリチウムの析出および溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても、同様に適用可能である。この二次電池では、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料が用いられると共に、その負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0146】
また、上記した各実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型あるいはラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0147】
また、上記した各実施の形態および実施例では、本発明の二次電池における2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルの含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量は上記した範囲から多少外れてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した二次電池のIV−IV線に沿った構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0149】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質と、を備え、
前記負極活物質は、リチウム電位に対して1.0V以上の電位においてリチウムイオンを吸蔵および放出する負極材料を含み、
前記溶媒は、2つ以上のハロゲンを構成元素として有する炭酸エステルを含む
二次電池。
【請求項2】
前記負極材料は、リチウム(Li)およびチタン(Ti)を構成元素として有する複合酸化物、水素(H)およびチタンを構成元素として有する複合酸化物、酸化チタン(TiO2 )、ならびに酸化ニオブ(Nb2 5 )のうちの少なくとも1種である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記負極材料は、チタンを構成元素として有する化合物である請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記化合物は、酸素(O)を構成元素として有する請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極材料は、チタン酸リチウム(Li4 Ti5 12)である請求項1記載の二次電池。
【請求項6】
前記炭酸エステルは、環状炭酸エステルである請求項1記載の二次電池。
【請求項7】
前記ハロゲンは、フッ素(F)である請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記ハロゲンの数は、2つである請求項1記載の二次電池。
【請求項9】
前記炭酸エステルは、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンである請求項1記載の二次電池。
【請求項10】
前記溶媒中における前記炭酸エステルの含有量は、0.01重量%以上10重量%以下である請求項1記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−80188(P2010−80188A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245850(P2008−245850)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】