二次電池
【課題】信頼性が高い参照電極を備えた二次電池の提供
【解決手段】参照電極50は、正極20又は負極30の電位を測定する際の基準電極となる。この二次電池100は、特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介して、それぞれ化学反応する正極20と負極30を備えている。この二次電池100は、特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立している参照電極50を備えている。この場合、参照電極50は、二次電池100の特定の活量種とは別の活量種を有するので電位が安定する。
【解決手段】参照電極50は、正極20又は負極30の電位を測定する際の基準電極となる。この二次電池100は、特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介して、それぞれ化学反応する正極20と負極30を備えている。この二次電池100は、特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立している参照電極50を備えている。この場合、参照電極50は、二次電池100の特定の活量種とは別の活量種を有するので電位が安定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二次電池は、車載用電源、或いはパソコン及び携帯端末の電源として重要性が高まっている。かかる二次電池は、例えば、正極や負極の個別の電位を測定するために、参照電極(reference electrode)が用いられる場合がある。かかる参照電極は、電極電位の測定時に電位の基準点を与える電極であり、基準電極とも呼ばれる。例えば、特開2002−50407号公報(特許文献1)及び特開2007−193986号公報(特許文献2)では、リチウムイオン二次電池について、それぞれ金属リチウム製の参照電極が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−50407号公報
【特許文献2】特開2007−193986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者は、リチウムイオン二次電池について金属リチウム製の参照電極が用いられた場合について、ネルンストの式を基に当該参照電極の電位を考察した。本発明者が推考したところによれば、金属リチウム製の参照電極の電位は、ネルンストの式を基に電解液中のリチウムイオンの活量によって決まる。しかし、リチウムイオン二次電池では、例えば、充放電時に正極又は負極によって、リチウムイオンの吸蔵や放出が行われる。このため、電解液中のリチウムイオン濃度が安定せず、リチウムイオン濃度が変動する。ネルンストの式によれば、電解液中のリチウムイオンの活量が変化すると、金属リチウム製の参照電極の電位も変動する。この場合、参照電極の電位の変動が大きいと、正極又は負極の電位を測定する際の基準となる電位が振れるので、測定された正極又は負極の電位が正確でない場合も考えられる。
【0005】
本発明は、かかるリチウムイオン二次電池などの二次電池について、より適当な参照電極を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る二次電池は、充電時又は放電時に特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、それぞれ電解液を媒介して化学反応が生じる正極と負極と、特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極とを備えている。かかる参照電極は、塩橋を介在させて二次電池内に配置してもよい。この場合、電解液中に、正極と負極によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極によって吸蔵又は放出される活量種の濃度はほとんど変動しない。このため、参照電極の電位は変動し難く、かかる参照電極の電位を基準にすることによって、正極や負極の電位がより正確に測定されることが期待できる。またこの場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。
【0007】
また、塩橋を介在させて二次電池内に参照電極を配置した場合には、当該塩橋によって、二次電池の電解液と参照電極が浸漬されている電解液の間において、各々の電解液の混合が防がれ、且つ、イオンが交換されるので、参照電極の電位がより安定することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】金属リチウム製の参照電極を備えたリチウムイオン二次電池を模式的に示した図。
【図2】本発明の一実施形態に係る二次電池を模式的に示した図。
【図3】参照電極の性能を評価する試験に供されたリチウムイオン二次電池の構造を模式的に示す図。
【図4】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図5】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図6】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図7】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図8】試験結果を示した図。
【図9】二次電池を搭載した車両の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る二次電池を図面に基づいて説明する。なお、以下、同一の作用を奏する部材又は部位には適宜に同じ符号を付している。
【0010】
ここでは、先ずリチウムイオン二次電池200について金属リチウム製の参照電極250が用いられた場合について説明する。参照電極として金属リチウム製の参照電極250を用いる場合、例えば、図1に示すように、リチウムイオン二次電池200の電解液40に、金属リチウム製の参照電極250を浸漬させる。この場合、ネルンストの式によれば、数1及び数2に示すように、金属リチウム製の参照電極250の電位ELi/Li+は、電解液40中のリチウムイオン(Li+)の活量に依存して決まる。この場合、リチウムイオン二次電池100の充電時又は放電時に、電解液40中のリチウムイオン(Li+)の濃度が変化し、リチウムイオン(Li+)の活量も変化する。このため、金属リチウム製の参照電極250の電位ELi/Li+は変動すると考えられる。参照電極はその機能として、電極電位が測定中に変動をしないことが望ましい。なお、図1中の参照電極250を除く部材については、後述するリチウムイオン二次電池100と同様である。
【数1】
【数2】
【0011】
本発明は、かかる二次電池の参照電極について新規な提案を行う。
【0012】
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池100を模式的に示す図である。この二次電池100は、図2に示すように、正極20と負極30を備えている。かかる正極20と負極30は、充電時又は放電時に、特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介して、それぞれ化学反応する。この二次電池100では、正極20と負極30が吸蔵又は放出する特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立している参照電極50を備えている。この場合、電解液40中において、正極20と負極30によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極50における化学平衡は変動しない。このため、参照電極50の電位は変動し難く、かかる参照電極50の電位を基準にすることによって、正極20や負極30の電位がより正確に測定されることが期待できる。以下、かかる二次電池100について、詳しく説明する。
【0013】
この実施形態では、二次電池100としてリチウムイオン二次電池(lithium-ion secondary battery)を例に挙げて説明する。このリチウムイオン二次電池100は、図2に示すように、電池ケース10と、正極20と、負極30と、電解液40とを備えている。また、正極20と負極30の電位を検出する構造として、参照電極50と、電位検出部60と、動作制御部62とを備えている。
【0014】
この実施形態では、電池ケース10は、正極20と、負極30と、電解液40と、参照電極50とを収容し得る容器であり、扁平な容器で構成されている。この実施形態では、正極20は、金属製の集電体の表面に正極活物質を保持させた構造を備えている。正極20の集電体は、例えば、箔状の金属などの導電性材料を用いることができ、この実施形態では、アルミニウム箔を用いている。また、正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物を用いるとよい。この実施形態では、正極活物質として層状構造からなるLiNiO2が用いられている。また、負極30は、集電体の表面に活物質を保持させることによって形成されている。この実施形態では、負極30の集電体には銅箔が用いられ、負極30の活物質には、層状構造を有する炭素材料(例えば、グラファイトなど)が用いられている。正極20と負極30と参照電極50は、電池ケース10の内部に注入された電解液40に浸かっている。
【0015】
電解液40は、リチウムイオン二次電池の電解液として適当な溶液、例えば、LiPF6などリチウムを含む電解質を溶かした溶液を用いるとよい。この実施形態では、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に、LiPF6を溶かした溶液が用いられている。
【0016】
かかるリチウムイオン二次電池100では、充電時に、正極20からリチウムイオン(Li+)が電解液40に放出され(数3参照)、電解液40から負極30にリチウムイオン(Li+)が吸蔵される(数4参照)。これに対して、放電時では、上述した電解液40を媒介した化学反応が充電時の逆方向に進む。すなわち、放電時には、負極40からリチウムイオン(Li+)が電解液40に放出され(数4参照)、電解液40から正極20にリチウムイオン(Li+)が吸蔵される(数3参照)。このように、正極20と負極30は、リチウムイオン二次電池100の充電時又は放電時において、特定の活量種としてリチウムイオン(Li+)を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介してそれぞれ化学反応が生じる。
【数3】
【数4】
【0017】
次に、参照電極を説明する。
【0018】
参照電極50は、二次電池の正極と負極が吸蔵又は放出する特定の活量種(この実施形態では、リチウムイオン(Li+))とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極である。かかる電極の材料として、この実施形態では、NaNiO2が用いられている。かかるNaNiO2は、リチウムイオン二次電池100の活量種であるリチウムイオン(Li+)を含まず、例えば、数5の可逆反応を示す。なお、このNaNiO2は層状構造の酸化物であり、参照電極50は導電性多孔体フィルム、焼結体、金属箔などに、NaNiO2が塗布された構成でもよい。
【数5】
【0019】
図2に示す例では、参照電極50は、検出線64を通じて電位検出部60に接続されている。また、この実施形態では、参照電極50は、図2に示すように、電池ケース10内に配置されており、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間において電解液58に浸漬されている。このように、参照電極50は、塩橋54を介在させてリチウムイオン二次電池100内に配置されていてもよい。
【0020】
ここで筐体52は、キャピラリー状の液絡部52aを有した容器であり、いわゆるルギン管(ルギン細管)が用いられている。また、筐体52のキャピラリー状の液絡部52aに塩橋54が取り付けられている。塩橋54は、筐体52の液絡部52aに多孔質隔絶体を充填することによって構成されている。多孔質隔絶体は、例えば、アルミナや窒化ケイ素などから構成されたセラミックスを用いるとよい。この実施形態では、かかる筐体52と塩橋54とで仕切られた空間には、上述したリチウムイオン二次電池100の電解液40と同じ成分の電解液58が収容されており、少なくとも塩橋54が電解液40に浸漬されている。この塩橋54は、リチウムイオン二次電池100の電解液40と参照電極50の電解液58の間において、各々の電解液40、58の混合を防ぎ、且つ、イオンを交換する。なお、この場合、図示を省略するが、キャピラリー状の液絡部52aの先端を計測したい電極にできるだけ近接させ、且つ、当該電極の反応を阻害しないように配置するとよい。
【0021】
参照電極50に接続された電位検出部60は、図2に示すように、電極の電位を検出する測定部である。この実施形態では、電位検出部60は、検出線64、66、68によって、参照電極50、リチウムイオン二次電池100の正極20及び負極30にそれぞれ電気的に接続されている。また、リチウムイオン二次電池100の正極20及び負極30、並びに電位検出部60は、それぞれ配線72、74、76によって動作制御部62に接続されている。
【0022】
動作制御部62は、正極20及び負極30並びに電位検出部60に所定の電気信号を送る。電位検出部60は、正極20、負極30及び参照電極50から応答信号を受け、当該応答信号を解析することによって、参照電極50の電位を基準にして、正極20と負極30の電位をそれぞれ検出できるように構成されている。
【0023】
かかる参照電極50に用いられたNaNiO2の電極電位は、ネルンストの式に従う。NaNiO2が用いられた参照電極50の電位に関するネルンストの式は、数6に示すようになる。
【数6】
【0024】
すなわち、かかる参照電極50を電解液58中に浸漬させると、参照電極50の電位は、当該電解液58に対する自身の溶解度積により決定され、数6に示されたネルンストの式で求められる。この参照電極50では、NaNiO2が用いられており、ネルンストの式に、リチウムイオン二次電池100の電解液40中の活量種であるリチウムイオン(Li+)が含まれていない。従って、リチウムイオン二次電池100の電解液40中のリチウムイオン(Li+)の濃度に変化があっても、参照電極50の電位には変動がほとんど生じない。このため、参照電極50の電位を基準にして、正極20と負極30の電位を測定することによって、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0025】
このように、参照電極50は、リチウムイオン二次電池100の電解液40中の特定の活量種(この実施形態では、リチウムイオン(Li+))とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料で構成されている。このため、リチウムイオン二次電池100に用いられた場合でも、参照電極50の電位の変動が小さく、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0026】
リチウムイオン(Li+)とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料は、上記のNaNiO2に限定されない。かかる電極材料には、例えば、NaFePO4、Na3Fe(PO4)などがある。NaFePO4、Na3Fe(PO4)、(Na(Ni1−xMnx)O2)なども、かかる参照電極50の電極材料に用いることができる。なお、参照電極50の電極材料によってネルンストの式はそれぞれ異なるが、いずれもネルンストの式に、リチウムイオン二次電池100の電解液40の活量種であるリチウムイオン(Li+)を含んでいない。このため、リチウムイオン二次電池100に用いられた場合でも、参照電極50の電位の変動が小さいことが期待でき、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0027】
また、上述した実施形態では、塩橋54を介在させてリチウムイオン二次電池100内に参照電極50が配置されている。この場合、塩橋54は、各々の電解液40、58の混合を防ぎ、且つ、イオンを交換する。これにより、例えば、塩橋54で仕切られた空間内の電解液58に含まれるナトリウムイオン(Na+)が、当該空間の外で析出するのを防止できる。本発明者は、このように二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を用いた場合には、参照電極の電位がより普遍的で経年的に安定した測定が可能であるとの知見を得た。かかる点について行った試験の結果を以下に示す。
【0028】
この試験では、(Na(Ni1−xMnx)O2、(0≦x≦0.6))で構成された参照電極50と、金属リチウム製の参照電極250に用いた場合とを比較した。ここでは、4種類のリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bについて、試験データを示す。図3は、かかる試験に供されたリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bの構造を模式的に示している。リチウムイオン二次電池100A、100Bは、それぞれNa(Ni1−xMnx)O2で構成された参照電極50が用いられており、リチウムイオン二次電池200A、200Bは、それぞれ金属リチウム製の参照電極250が用いられている。
【0029】
リチウムイオン二次電池100Aの参照電極50はNa(Ni1−xMnx)O2で構成されており、図4に示すように、セパレータ53に被覆されている。リチウムイオン二次電池100Bの参照電極50はNa(Ni1−xMnx)O2で構成されており、図5に示すように、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間に収容された電解液58に浸漬されている。また、塩橋54は筐体52のキャピラリー状の液絡部52aに設けられており、当該塩橋54を正極20にできるだけ近接させ、且つ、正極20の反応を阻害しないように配置している。
【0030】
これに対し、リチウムイオン二次電池200Aの参照電極250は、金属リチウム製であり、図6に示すように、セパレータ53に被覆されている。また、リチウムイオン二次電池200Bの参照電極250は、金属リチウム製であり、図7に示すように、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間に収容された電解液58に浸漬されている。なお、リチウムイオン二次電池200Bでは、リチウムイオン二次電池100Bと同様に、筐体52のキャピラリー状の液絡部52aの先端に塩橋54が設けられており、当該塩橋54を、正極20にできるだけ近接し、且つ、正極20の反応を阻害しないように配置している。
【0031】
また、この試験では、リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bは、それぞれ参照電極50、250の構造を除いて概ね同じ構造とした。すなわち、各リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bは、図3に示すように、それぞれアルミニウム製の矩形の電池ケース10に、正極20と、負極30が収容され、電解液40が注入されている。正極20は、アルミ箔の集電体にLiNiO2を含む電極材料が塗工されており、負極30は、銅箔の集電体にグラファイトからなる電極材料が塗工されている。また、電解液40は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に、1mol/Lの濃度になるようにLiPF6が溶かされている。電解液40は、正極20と負極30の全体が浸漬する程度に電池ケース10に注入されている。また、参照電極50、250は、正極20の電位を計測するために用いられており、図3に示すように、電池ケース10内において、正極20の近傍であり、且つ、正極20の電極反応を阻害しない位置に配置されている。
【0032】
この試験では、上記のように参照電極50、250を組み込んだリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bをそれぞれ5つ作成した。そして、作成された各リチウムイオン二次電池について、それぞれ同様に、所定回数の充放電評価を繰り返した。ここで、充放電の条件を5mA/cm2の電流密度で、上限電圧4.1V、下限電圧3.0Vと定め、かかる充放電評価を1000回繰り返した。かかる充放電評価後、アルゴン(Ar)大気中でリチウムイオン二次電池を開封し、それぞれ同じ構造の未使用の参照電極を新しく組み込んだ。
【0033】
そして、充放電評価前に組み込まれていた参照電極と、新たに組み込まれた参照電極とを基準にしてそれぞれ正極20の電位を測定し、放電評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極20の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極20の電位との差を求めた。
【0034】
図8は、かかる試験における各リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bの構造及びその試験結果を纏めた表である。図8の表では、評価前に組み込まれていた参照電極と、新たに組み込まれた参照電極とで正極の電位を測定したときの電位差を、「初期との電位差」との項目に記載している。図8の表における「電極の構造」の項目では、参照電極50、250がセパレータ53に被覆された構造を「A」と記載し、参照電極50、250が塩橋54を介在させて配置された構造を「B」と記載している。また、図8の表における「初期との電位差」の項目では、各々5つずつ作成したリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bのうち、それぞれ評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極の電位との差が最も大きかった測定結果を記載している。
【0035】
この試験では、評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極の電位との差が大きいほど、参照電極の劣化が大きいことを示している。反対に、上記のように測定された正極の電位との差が小さいほど、参照電極が劣化しにくく、参照電極の電位が安定していることを示している。
【0036】
かかる試験の結果、金属リチウム製の参照電極250がセパレータ53に被覆されたリチウムイオン二次電池200A(図6参照)では、上記のように測定された正極の電位との差が最大で70mVであった。また、金属リチウム製の参照電極250が塩橋54を介在させた状態で配置されたリチウムイオン二次電池200B(図7参照)では、同様に測定された正極の電位の差は最大で20mVであった。
【0037】
これに対して、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50がセパレータ53に被覆されたリチウムイオン二次電池100Aでは、同様に測定された正極の電位の差が最大5mVであった。また、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50が塩橋54を介在させた状態で配置されたリチウムイオン二次電池100B(図5参照)では、同様に測定された正極の電位の差が最大2mVであった。
【0038】
すなわち、上記のリチウムイオン二次電池について、参照電極の構造の違いにかからわらず、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50の方が、金属リチウム製の参照電極250よりも、劣化しにくく、電位が安定していると推考できる。また、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極50では、セパレータ53に被覆した状態で用いる場合に比べて、塩橋54を介在させて配置した場合の方が、参照電極50が劣化しにくく、参照電極50の電位が安定していると推考できる。
【0039】
この点について、本発明者は、次のように考察している。すなわち、二次電池の特定の活量種(ここではリチウムイオン(Li+))を活量種とする参照電極を用いた場合には、二次電池の充放電によって影響を受け易く、参照電極の電位が変動し易い。これに対して、二次電池の特定の活量種とは別の活量種(ここでは、ナトリウムイオン(Na+))によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いている。この場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。このように、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いることが、参照電極の電位を安定させる上で望ましいと考えられる。
【0040】
すなわち、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いる場合には、参照電極の電位は、充放電を繰り返しても変動し難く、より長期間に亘って、正極20と負極30の電位を精度よく測定できる。また、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いる場合には、塩橋を介在させて参照電極を配置した場合の方が、参照電極の電位が安定することが推考できる。
【0041】
以上の試験では、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極を例に挙げて試験を行ったが、このような結果は、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極に限らない。このため、リチウムイオン(Li+)が活量種となるリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン(Li+)とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極として構成した場合に、同様の効果が得られる。また、上記は、リチウムイオン二次電池を例示したが、かかる結果は、リチウムイオン二次電池に特に限定されず、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を用いた場合には、参照電極の電位がより普遍的で経年的に安定した測定が可能である。
【0042】
すなわち、二次電池に用いる参照電極は、二次電池の特定の活量種とは別の活量種を有する参照電極を用いるとよい。この場合、電解液中に、正極と負極によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極によって吸蔵又は放出される活量種の濃度はほとんど変動しない。このため、参照電極の電位は変動し難く、これにより、参照電極の信頼性が高い。かかる参照電極の電位を基準にすることによって、正極や負極の電位がより正確に測定されることが期待できる。またこの場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。
【0043】
さらに、かかる参照電極は、塩橋を介在させて二次電池内に配置してもよい。塩橋を介在させて二次電池内に参照電極を配置した場合には、当該塩橋によって、二次電池の電解液と参照電極が浸漬されている電解液の間において、各々の電解液の混合が防がれ、且つ、イオンが交換されるので、参照電極の電位がより安定することが期待できる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る二次電池及びその参照電極を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0045】
また、上記の実施形態では、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、本発明は、リチウムイオン二次電池以外の二次電池にも適用可能である。本発明が適用可能なリチウムイオン電池以外の電池としては、例えば、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池がある。また、リチウムイオン二次電池の構成及び参照電極の構成についても上記に限定されない。また、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極として例示された参照電極は、上述した電極材料に限定されない。例えば、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する種々の電極材料のうち二次電池に組み込むのに適したものを用いるとよい。また、本発明は、二次電池に用いられる参照電極の長寿命化を図ることができる。このため、例えば、図9に模式的に示すように、自動車等の車両1に搭載されるモーター(電動機)用の電池1000として好適に使用でき、具体的に一例を挙げれば、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車の電源(二次電池)として適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
10 電池ケース
20 正極
30 負極
40 電解液
50 参照電極
52 筐体
53 セパレータ
54 塩橋
58 電解液
60 電位検出部
62 動作制御部
100、100A、100B リチウムイオン二次電池
1000 モーター用の電池
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二次電池は、車載用電源、或いはパソコン及び携帯端末の電源として重要性が高まっている。かかる二次電池は、例えば、正極や負極の個別の電位を測定するために、参照電極(reference electrode)が用いられる場合がある。かかる参照電極は、電極電位の測定時に電位の基準点を与える電極であり、基準電極とも呼ばれる。例えば、特開2002−50407号公報(特許文献1)及び特開2007−193986号公報(特許文献2)では、リチウムイオン二次電池について、それぞれ金属リチウム製の参照電極が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−50407号公報
【特許文献2】特開2007−193986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者は、リチウムイオン二次電池について金属リチウム製の参照電極が用いられた場合について、ネルンストの式を基に当該参照電極の電位を考察した。本発明者が推考したところによれば、金属リチウム製の参照電極の電位は、ネルンストの式を基に電解液中のリチウムイオンの活量によって決まる。しかし、リチウムイオン二次電池では、例えば、充放電時に正極又は負極によって、リチウムイオンの吸蔵や放出が行われる。このため、電解液中のリチウムイオン濃度が安定せず、リチウムイオン濃度が変動する。ネルンストの式によれば、電解液中のリチウムイオンの活量が変化すると、金属リチウム製の参照電極の電位も変動する。この場合、参照電極の電位の変動が大きいと、正極又は負極の電位を測定する際の基準となる電位が振れるので、測定された正極又は負極の電位が正確でない場合も考えられる。
【0005】
本発明は、かかるリチウムイオン二次電池などの二次電池について、より適当な参照電極を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る二次電池は、充電時又は放電時に特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、それぞれ電解液を媒介して化学反応が生じる正極と負極と、特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極とを備えている。かかる参照電極は、塩橋を介在させて二次電池内に配置してもよい。この場合、電解液中に、正極と負極によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極によって吸蔵又は放出される活量種の濃度はほとんど変動しない。このため、参照電極の電位は変動し難く、かかる参照電極の電位を基準にすることによって、正極や負極の電位がより正確に測定されることが期待できる。またこの場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。
【0007】
また、塩橋を介在させて二次電池内に参照電極を配置した場合には、当該塩橋によって、二次電池の電解液と参照電極が浸漬されている電解液の間において、各々の電解液の混合が防がれ、且つ、イオンが交換されるので、参照電極の電位がより安定することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】金属リチウム製の参照電極を備えたリチウムイオン二次電池を模式的に示した図。
【図2】本発明の一実施形態に係る二次電池を模式的に示した図。
【図3】参照電極の性能を評価する試験に供されたリチウムイオン二次電池の構造を模式的に示す図。
【図4】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図5】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図6】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図7】図3で示したリチウムイオン二次電池に用いられた参照電極及び電極構造を模式的に示す図。
【図8】試験結果を示した図。
【図9】二次電池を搭載した車両の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る二次電池を図面に基づいて説明する。なお、以下、同一の作用を奏する部材又は部位には適宜に同じ符号を付している。
【0010】
ここでは、先ずリチウムイオン二次電池200について金属リチウム製の参照電極250が用いられた場合について説明する。参照電極として金属リチウム製の参照電極250を用いる場合、例えば、図1に示すように、リチウムイオン二次電池200の電解液40に、金属リチウム製の参照電極250を浸漬させる。この場合、ネルンストの式によれば、数1及び数2に示すように、金属リチウム製の参照電極250の電位ELi/Li+は、電解液40中のリチウムイオン(Li+)の活量に依存して決まる。この場合、リチウムイオン二次電池100の充電時又は放電時に、電解液40中のリチウムイオン(Li+)の濃度が変化し、リチウムイオン(Li+)の活量も変化する。このため、金属リチウム製の参照電極250の電位ELi/Li+は変動すると考えられる。参照電極はその機能として、電極電位が測定中に変動をしないことが望ましい。なお、図1中の参照電極250を除く部材については、後述するリチウムイオン二次電池100と同様である。
【数1】
【数2】
【0011】
本発明は、かかる二次電池の参照電極について新規な提案を行う。
【0012】
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池100を模式的に示す図である。この二次電池100は、図2に示すように、正極20と負極30を備えている。かかる正極20と負極30は、充電時又は放電時に、特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介して、それぞれ化学反応する。この二次電池100では、正極20と負極30が吸蔵又は放出する特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立している参照電極50を備えている。この場合、電解液40中において、正極20と負極30によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極50における化学平衡は変動しない。このため、参照電極50の電位は変動し難く、かかる参照電極50の電位を基準にすることによって、正極20や負極30の電位がより正確に測定されることが期待できる。以下、かかる二次電池100について、詳しく説明する。
【0013】
この実施形態では、二次電池100としてリチウムイオン二次電池(lithium-ion secondary battery)を例に挙げて説明する。このリチウムイオン二次電池100は、図2に示すように、電池ケース10と、正極20と、負極30と、電解液40とを備えている。また、正極20と負極30の電位を検出する構造として、参照電極50と、電位検出部60と、動作制御部62とを備えている。
【0014】
この実施形態では、電池ケース10は、正極20と、負極30と、電解液40と、参照電極50とを収容し得る容器であり、扁平な容器で構成されている。この実施形態では、正極20は、金属製の集電体の表面に正極活物質を保持させた構造を備えている。正極20の集電体は、例えば、箔状の金属などの導電性材料を用いることができ、この実施形態では、アルミニウム箔を用いている。また、正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物を用いるとよい。この実施形態では、正極活物質として層状構造からなるLiNiO2が用いられている。また、負極30は、集電体の表面に活物質を保持させることによって形成されている。この実施形態では、負極30の集電体には銅箔が用いられ、負極30の活物質には、層状構造を有する炭素材料(例えば、グラファイトなど)が用いられている。正極20と負極30と参照電極50は、電池ケース10の内部に注入された電解液40に浸かっている。
【0015】
電解液40は、リチウムイオン二次電池の電解液として適当な溶液、例えば、LiPF6などリチウムを含む電解質を溶かした溶液を用いるとよい。この実施形態では、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に、LiPF6を溶かした溶液が用いられている。
【0016】
かかるリチウムイオン二次電池100では、充電時に、正極20からリチウムイオン(Li+)が電解液40に放出され(数3参照)、電解液40から負極30にリチウムイオン(Li+)が吸蔵される(数4参照)。これに対して、放電時では、上述した電解液40を媒介した化学反応が充電時の逆方向に進む。すなわち、放電時には、負極40からリチウムイオン(Li+)が電解液40に放出され(数4参照)、電解液40から正極20にリチウムイオン(Li+)が吸蔵される(数3参照)。このように、正極20と負極30は、リチウムイオン二次電池100の充電時又は放電時において、特定の活量種としてリチウムイオン(Li+)を適宜に吸蔵又は放出し、電解液40を媒介してそれぞれ化学反応が生じる。
【数3】
【数4】
【0017】
次に、参照電極を説明する。
【0018】
参照電極50は、二次電池の正極と負極が吸蔵又は放出する特定の活量種(この実施形態では、リチウムイオン(Li+))とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極である。かかる電極の材料として、この実施形態では、NaNiO2が用いられている。かかるNaNiO2は、リチウムイオン二次電池100の活量種であるリチウムイオン(Li+)を含まず、例えば、数5の可逆反応を示す。なお、このNaNiO2は層状構造の酸化物であり、参照電極50は導電性多孔体フィルム、焼結体、金属箔などに、NaNiO2が塗布された構成でもよい。
【数5】
【0019】
図2に示す例では、参照電極50は、検出線64を通じて電位検出部60に接続されている。また、この実施形態では、参照電極50は、図2に示すように、電池ケース10内に配置されており、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間において電解液58に浸漬されている。このように、参照電極50は、塩橋54を介在させてリチウムイオン二次電池100内に配置されていてもよい。
【0020】
ここで筐体52は、キャピラリー状の液絡部52aを有した容器であり、いわゆるルギン管(ルギン細管)が用いられている。また、筐体52のキャピラリー状の液絡部52aに塩橋54が取り付けられている。塩橋54は、筐体52の液絡部52aに多孔質隔絶体を充填することによって構成されている。多孔質隔絶体は、例えば、アルミナや窒化ケイ素などから構成されたセラミックスを用いるとよい。この実施形態では、かかる筐体52と塩橋54とで仕切られた空間には、上述したリチウムイオン二次電池100の電解液40と同じ成分の電解液58が収容されており、少なくとも塩橋54が電解液40に浸漬されている。この塩橋54は、リチウムイオン二次電池100の電解液40と参照電極50の電解液58の間において、各々の電解液40、58の混合を防ぎ、且つ、イオンを交換する。なお、この場合、図示を省略するが、キャピラリー状の液絡部52aの先端を計測したい電極にできるだけ近接させ、且つ、当該電極の反応を阻害しないように配置するとよい。
【0021】
参照電極50に接続された電位検出部60は、図2に示すように、電極の電位を検出する測定部である。この実施形態では、電位検出部60は、検出線64、66、68によって、参照電極50、リチウムイオン二次電池100の正極20及び負極30にそれぞれ電気的に接続されている。また、リチウムイオン二次電池100の正極20及び負極30、並びに電位検出部60は、それぞれ配線72、74、76によって動作制御部62に接続されている。
【0022】
動作制御部62は、正極20及び負極30並びに電位検出部60に所定の電気信号を送る。電位検出部60は、正極20、負極30及び参照電極50から応答信号を受け、当該応答信号を解析することによって、参照電極50の電位を基準にして、正極20と負極30の電位をそれぞれ検出できるように構成されている。
【0023】
かかる参照電極50に用いられたNaNiO2の電極電位は、ネルンストの式に従う。NaNiO2が用いられた参照電極50の電位に関するネルンストの式は、数6に示すようになる。
【数6】
【0024】
すなわち、かかる参照電極50を電解液58中に浸漬させると、参照電極50の電位は、当該電解液58に対する自身の溶解度積により決定され、数6に示されたネルンストの式で求められる。この参照電極50では、NaNiO2が用いられており、ネルンストの式に、リチウムイオン二次電池100の電解液40中の活量種であるリチウムイオン(Li+)が含まれていない。従って、リチウムイオン二次電池100の電解液40中のリチウムイオン(Li+)の濃度に変化があっても、参照電極50の電位には変動がほとんど生じない。このため、参照電極50の電位を基準にして、正極20と負極30の電位を測定することによって、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0025】
このように、参照電極50は、リチウムイオン二次電池100の電解液40中の特定の活量種(この実施形態では、リチウムイオン(Li+))とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料で構成されている。このため、リチウムイオン二次電池100に用いられた場合でも、参照電極50の電位の変動が小さく、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0026】
リチウムイオン(Li+)とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料は、上記のNaNiO2に限定されない。かかる電極材料には、例えば、NaFePO4、Na3Fe(PO4)などがある。NaFePO4、Na3Fe(PO4)、(Na(Ni1−xMnx)O2)なども、かかる参照電極50の電極材料に用いることができる。なお、参照電極50の電極材料によってネルンストの式はそれぞれ異なるが、いずれもネルンストの式に、リチウムイオン二次電池100の電解液40の活量種であるリチウムイオン(Li+)を含んでいない。このため、リチウムイオン二次電池100に用いられた場合でも、参照電極50の電位の変動が小さいことが期待でき、正極20と負極30の電位をより精度よく測定できる。
【0027】
また、上述した実施形態では、塩橋54を介在させてリチウムイオン二次電池100内に参照電極50が配置されている。この場合、塩橋54は、各々の電解液40、58の混合を防ぎ、且つ、イオンを交換する。これにより、例えば、塩橋54で仕切られた空間内の電解液58に含まれるナトリウムイオン(Na+)が、当該空間の外で析出するのを防止できる。本発明者は、このように二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を用いた場合には、参照電極の電位がより普遍的で経年的に安定した測定が可能であるとの知見を得た。かかる点について行った試験の結果を以下に示す。
【0028】
この試験では、(Na(Ni1−xMnx)O2、(0≦x≦0.6))で構成された参照電極50と、金属リチウム製の参照電極250に用いた場合とを比較した。ここでは、4種類のリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bについて、試験データを示す。図3は、かかる試験に供されたリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bの構造を模式的に示している。リチウムイオン二次電池100A、100Bは、それぞれNa(Ni1−xMnx)O2で構成された参照電極50が用いられており、リチウムイオン二次電池200A、200Bは、それぞれ金属リチウム製の参照電極250が用いられている。
【0029】
リチウムイオン二次電池100Aの参照電極50はNa(Ni1−xMnx)O2で構成されており、図4に示すように、セパレータ53に被覆されている。リチウムイオン二次電池100Bの参照電極50はNa(Ni1−xMnx)O2で構成されており、図5に示すように、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間に収容された電解液58に浸漬されている。また、塩橋54は筐体52のキャピラリー状の液絡部52aに設けられており、当該塩橋54を正極20にできるだけ近接させ、且つ、正極20の反応を阻害しないように配置している。
【0030】
これに対し、リチウムイオン二次電池200Aの参照電極250は、金属リチウム製であり、図6に示すように、セパレータ53に被覆されている。また、リチウムイオン二次電池200Bの参照電極250は、金属リチウム製であり、図7に示すように、筐体52と塩橋54とで仕切られた空間に収容された電解液58に浸漬されている。なお、リチウムイオン二次電池200Bでは、リチウムイオン二次電池100Bと同様に、筐体52のキャピラリー状の液絡部52aの先端に塩橋54が設けられており、当該塩橋54を、正極20にできるだけ近接し、且つ、正極20の反応を阻害しないように配置している。
【0031】
また、この試験では、リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bは、それぞれ参照電極50、250の構造を除いて概ね同じ構造とした。すなわち、各リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bは、図3に示すように、それぞれアルミニウム製の矩形の電池ケース10に、正極20と、負極30が収容され、電解液40が注入されている。正極20は、アルミ箔の集電体にLiNiO2を含む電極材料が塗工されており、負極30は、銅箔の集電体にグラファイトからなる電極材料が塗工されている。また、電解液40は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に、1mol/Lの濃度になるようにLiPF6が溶かされている。電解液40は、正極20と負極30の全体が浸漬する程度に電池ケース10に注入されている。また、参照電極50、250は、正極20の電位を計測するために用いられており、図3に示すように、電池ケース10内において、正極20の近傍であり、且つ、正極20の電極反応を阻害しない位置に配置されている。
【0032】
この試験では、上記のように参照電極50、250を組み込んだリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bをそれぞれ5つ作成した。そして、作成された各リチウムイオン二次電池について、それぞれ同様に、所定回数の充放電評価を繰り返した。ここで、充放電の条件を5mA/cm2の電流密度で、上限電圧4.1V、下限電圧3.0Vと定め、かかる充放電評価を1000回繰り返した。かかる充放電評価後、アルゴン(Ar)大気中でリチウムイオン二次電池を開封し、それぞれ同じ構造の未使用の参照電極を新しく組み込んだ。
【0033】
そして、充放電評価前に組み込まれていた参照電極と、新たに組み込まれた参照電極とを基準にしてそれぞれ正極20の電位を測定し、放電評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極20の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極20の電位との差を求めた。
【0034】
図8は、かかる試験における各リチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bの構造及びその試験結果を纏めた表である。図8の表では、評価前に組み込まれていた参照電極と、新たに組み込まれた参照電極とで正極の電位を測定したときの電位差を、「初期との電位差」との項目に記載している。図8の表における「電極の構造」の項目では、参照電極50、250がセパレータ53に被覆された構造を「A」と記載し、参照電極50、250が塩橋54を介在させて配置された構造を「B」と記載している。また、図8の表における「初期との電位差」の項目では、各々5つずつ作成したリチウムイオン二次電池100A、100B、200A、200Bのうち、それぞれ評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極の電位との差が最も大きかった測定結果を記載している。
【0035】
この試験では、評価前に組み込まれていた参照電極で測定された正極の電位と、新たに組み込まれた参照電極で測定された正極の電位との差が大きいほど、参照電極の劣化が大きいことを示している。反対に、上記のように測定された正極の電位との差が小さいほど、参照電極が劣化しにくく、参照電極の電位が安定していることを示している。
【0036】
かかる試験の結果、金属リチウム製の参照電極250がセパレータ53に被覆されたリチウムイオン二次電池200A(図6参照)では、上記のように測定された正極の電位との差が最大で70mVであった。また、金属リチウム製の参照電極250が塩橋54を介在させた状態で配置されたリチウムイオン二次電池200B(図7参照)では、同様に測定された正極の電位の差は最大で20mVであった。
【0037】
これに対して、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50がセパレータ53に被覆されたリチウムイオン二次電池100Aでは、同様に測定された正極の電位の差が最大5mVであった。また、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50が塩橋54を介在させた状態で配置されたリチウムイオン二次電池100B(図5参照)では、同様に測定された正極の電位の差が最大2mVであった。
【0038】
すなわち、上記のリチウムイオン二次電池について、参照電極の構造の違いにかからわらず、(Na(Ni1−xMnx)O2)で構成された参照電極50の方が、金属リチウム製の参照電極250よりも、劣化しにくく、電位が安定していると推考できる。また、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極50では、セパレータ53に被覆した状態で用いる場合に比べて、塩橋54を介在させて配置した場合の方が、参照電極50が劣化しにくく、参照電極50の電位が安定していると推考できる。
【0039】
この点について、本発明者は、次のように考察している。すなわち、二次電池の特定の活量種(ここではリチウムイオン(Li+))を活量種とする参照電極を用いた場合には、二次電池の充放電によって影響を受け易く、参照電極の電位が変動し易い。これに対して、二次電池の特定の活量種とは別の活量種(ここでは、ナトリウムイオン(Na+))によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いている。この場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。このように、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いることが、参照電極の電位を安定させる上で望ましいと考えられる。
【0040】
すなわち、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いる場合には、参照電極の電位は、充放電を繰り返しても変動し難く、より長期間に亘って、正極20と負極30の電位を精度よく測定できる。また、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極に用いる場合には、塩橋を介在させて参照電極を配置した場合の方が、参照電極の電位が安定することが推考できる。
【0041】
以上の試験では、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極を例に挙げて試験を行ったが、このような結果は、(Na(Ni1−xMnx)O2)が用いられた参照電極に限らない。このため、リチウムイオン(Li+)が活量種となるリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン(Li+)とは別の活量種によって化学平衡が成立する電極材料を参照電極として構成した場合に、同様の効果が得られる。また、上記は、リチウムイオン二次電池を例示したが、かかる結果は、リチウムイオン二次電池に特に限定されず、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を用いた場合には、参照電極の電位がより普遍的で経年的に安定した測定が可能である。
【0042】
すなわち、二次電池に用いる参照電極は、二次電池の特定の活量種とは別の活量種を有する参照電極を用いるとよい。この場合、電解液中に、正極と負極によって吸蔵又は放出される特定の活量種の濃度が変化しても、参照電極によって吸蔵又は放出される活量種の濃度はほとんど変動しない。このため、参照電極の電位は変動し難く、これにより、参照電極の信頼性が高い。かかる参照電極の電位を基準にすることによって、正極や負極の電位がより正確に測定されることが期待できる。またこの場合、参照電極は二次電池の充放電によって影響を受け難く、参照電極の電位がより安定する。
【0043】
さらに、かかる参照電極は、塩橋を介在させて二次電池内に配置してもよい。塩橋を介在させて二次電池内に参照電極を配置した場合には、当該塩橋によって、二次電池の電解液と参照電極が浸漬されている電解液の間において、各々の電解液の混合が防がれ、且つ、イオンが交換されるので、参照電極の電位がより安定することが期待できる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る二次電池及びその参照電極を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0045】
また、上記の実施形態では、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、本発明は、リチウムイオン二次電池以外の二次電池にも適用可能である。本発明が適用可能なリチウムイオン電池以外の電池としては、例えば、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池がある。また、リチウムイオン二次電池の構成及び参照電極の構成についても上記に限定されない。また、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極として例示された参照電極は、上述した電極材料に限定されない。例えば、二次電池の特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する種々の電極材料のうち二次電池に組み込むのに適したものを用いるとよい。また、本発明は、二次電池に用いられる参照電極の長寿命化を図ることができる。このため、例えば、図9に模式的に示すように、自動車等の車両1に搭載されるモーター(電動機)用の電池1000として好適に使用でき、具体的に一例を挙げれば、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車の電源(二次電池)として適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
10 電池ケース
20 正極
30 負極
40 電解液
50 参照電極
52 筐体
53 セパレータ
54 塩橋
58 電解液
60 電位検出部
62 動作制御部
100、100A、100B リチウムイオン二次電池
1000 モーター用の電池
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電時又は放電時に特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、それぞれ電解液を媒介して化学反応が生じる正極と負極とを備えた二次電池において、
前記特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を備えた、二次電池。
【請求項2】
塩橋を介在させて二次電池内に前記参照電極を配置した、請求項1に記載された二次電池。
【請求項1】
充電時又は放電時に特定の活量種を適宜に吸蔵又は放出し、それぞれ電解液を媒介して化学反応が生じる正極と負極とを備えた二次電池において、
前記特定の活量種とは別の活量種によって化学平衡が成立する参照電極を備えた、二次電池。
【請求項2】
塩橋を介在させて二次電池内に前記参照電極を配置した、請求項1に記載された二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−3314(P2011−3314A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143518(P2009−143518)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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