説明

二硼化マグネシウムを用いた永久電流スイッチおよびその製造方法

【課題】二硼化マグネシウムを用いた永久電流スイッチにおいて、コンパクトかつ熱的な安定性に優れるスイッチ用超電導積層体とその製造方法を提供すること。
【解決手段】二硼化マグネシウム超電導体とそれを被覆する金属被覆を含み、該超電導体の一部が露出した平角又はテープ状超電導線材を、複数個積層して、隣接する線材の露出した上記超電導体が接続されるように積層・一体化した超電導積層体を回路内に備えたことを特徴とする永久電流スイッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨界温度以下の環境において、超電導性を発現する超電導体を用いることによって、高い超電導特性が得られる二硼化マグネシウム(MgB)を用いた永久電流スイッチ、超電導積層体とそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
具体的には、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置等の機器に適用されるものである。
【背景技術】
【0003】
例えば、浮上式鉄道あるいは核磁気共鳴イメージング(MRI)等に用いられる超電導磁石は、長時間にわたり一定の電流を流し続ける永久電流モードで使用される。永久電流モードとは、超電導磁石の電気回路を閉ループにして電流を閉じ込めるようにした状態のことである。
【0004】
永久電流スイッチ(以下、Persistent Current Switch を略して、適宜PCSと呼ぶ。)は、上記のように超電導磁石を永久電流モードにする、あるいは解除する開閉操作可能な機能を有する重要部品である。永久電流モードにすると、超電導磁石の閉ループ電気回路の電流は減衰せず半永久的に流れ続けるので、超電導磁石は一定の磁界を保持することができる状態になる。
【0005】
このようなPCSとしては、超電導線を内蔵ヒータの発熱により強制的に常電導化し、永久電流モードの電流を減衰させる形でスイッチの開閉操作を行う熱式のものが広く採用されている。
【0006】
超電導マグネットを運転させる方法には、常にコイルに電源から電流を流す方法と、電源に対して並列に永久電流スイッチと超電導コイルを接続し、励磁した後はこの永久電流スイッチによりコイルを電源から切り離して永久電流モードに移行させる方法とがある。永久電流スイッチを用いた永久電流モードの一般的な運転法について、図6を用いて説明する。図6に示すように、超電導コイル1の端子間には短絡スイッチ2が設けられる。この短絡スイッチ2は永久電流スイッチと呼ばれ、短絡時の抵抗を低くするため、通常、超電導体が用いられる。超電導体を用いたスイッチにおいて、たとえばヒータ加熱によって超電導体の温度を臨界温度以上とすることにより抵抗が発生した状態で、電源3から定格電流値まで超電導コイル1に電流を流し、励磁を行う。
【0007】
次いで、ヒータ加熱を停止し、スイッチ2を超電導状態に移した後、短絡を行えば、励磁電源を取り外しても一定電流の通電が継続されることになる。このようにして永久電流モードの運転が可能となる。
【0008】
永久電流スイッチには、概ね次のような特性が要求される。
(1)ON時の抵抗が0であるかまたは0に近い極めて小さい値であること。
(2)OFF時の抵抗が大きいこと。
(3)必要電流を安定に流すことができること。
(4)必要時以外に常電導転移しないこと。
【0009】
従来の合金系または化合物系超電導線材を用いた超電導マグネットに対しては、一般的にはNbTi線を使用した永久電流スイッチが用いられている。この場合、永久電流モードに移行させるための温度は、約9Kであり、それより高い温度で使用することはできない。臨界温度が低いということは永久電流スイッチにわずかな擾乱エネルギーが入った場合でも、超電導線が臨界温度以上に上昇してしまい、速やかな常電導転移、すなわちクエンチを引き起こす場合がある。クエンチした場合は、超電導コイルの電流も失われるため、一旦、マグネットとしての運転を停止せざるを得ないという課題がある。
【0010】
また、NbTi線は通常、銅被覆した線材が使用されるが、永久電流スイッチはOFF時の電気抵抗を大きくする必要があるため、安定化材として銅−ニッケル合金を使用している。しかし、銅−ニッケル合金自身の抵抗はさほど大きくないため、永久電流スイッチを作製するのにおよそ30〜60mの線材が使用され、かつ無誘導巻きされている。このように長い線材を巻くことによって抵抗を高くしているが、永久電流スイッチが大型化するという課題がある。
【0011】
21世紀に入ってまもなく、Nature410,63−64(2001)で報告されたように、MgBが超電導を示すことが発見された。MgBの代表的な材料特性を以下に記す。
【0012】
まず、臨界温度は39Kである。これは従来の金属系超電導材料の中で最高値である。したがって、この材料を用いて永久電流スイッチを構成した場合、39K以下ではONとすること、39K以上ではOFFとすることができる。他の金属系超電導材料と比較して臨界温度が高いことから安定性マージンが高くなるので、クエンチを発生しにくい信頼性の高い永久電流スイッチを実現できる。
【0013】
0Tにおける臨界磁場は約20Tである。これは従来の金属系超電導材料と比較すると高い部類に属する。従来の永久電流スイッチでは、その臨界磁場が低くなる場合があり、永久電流スイッチを超電導コイルから離して磁場の小さい場所に配置したり、永久電流スイッチの外側に磁気シールドを設置したりする制約があった。しかし、MgBを用いて永久電流スイッチを構成した場合、上記のような制約はなくなるため、永久電流スイッチの構成が自由となる。
【0014】
MgBの線材化については、これまでに多くの研究がなされている。この中で、MgB線材は機械加工のみで実用的な臨界電流密度が得られることが分かってきた。熱処理をしないと超電導現象を発現しない従来の超電導線材とは全く異なる性質であり、この性質を利用することにより、(イ)製造工程が短縮可能、(ロ)金属被覆材の選択幅を拡大可能、(ハ)コイル巻線及び設計自由度の向上が実現できる。従って、大幅にコストを低減することができると考えられている。高性能化には超電導粉末の密度を高めることが極めて重要である。このため、被覆材には高硬度の金属が適用されている。
【0015】
また、工業化に最も適する「パウダー・イン・チューブ法」で線材を製造することも可能であるため、極めて魅力的な材料として位置付けられている。しかしながら、MgB線材の許容曲げ歪は約1.2%であり、NbTi線材よりも劣る。このため、MgB線材を用いて永久電流スイッチを作製する際、従来の巻線方法を適用すると、大型化してしまう課題がある。
【0016】
特許文献1には、ビッカース硬さが80以上の金属管にMgB粉末を充填して線材加工することが記載されている。特許文献2においては、MgB粉末又はMgB圧粉体をCuNi合金間に詰めて減面加工した後、焼結熱処理をしてフィラメントを得ることが記載されている。更に、特許文献3においては、Cuなどの金属管に熱処理によって生成したMgBを封入した超電導体が記載されている。特許文献4には、MgB粉末を鉄パイプに充填し、粉末に熱処理及び引き抜き加工を施して減面加工することが記載されている。
【0017】
【特許文献1】特開2003−31057号公報
【特許文献2】特開2002−352648号公報
【特許文献3】特開2003−89516号公報
【特許文献4】特開2002−151387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のような課題を解決し、高安定性、高信頼性を有する永久電流スイッチを実現すべく、NbTi及びMgBの高性能化、ならびにMgBの曲げ特性を向上させること等の検討が鋭意行われている。ところが、現状では、これらの技術課題をクリアできていない。
【0019】
本発明の目的は、コンパクトかつ熱的な安定性に優れる永久電流スイッチ、超電導積層体及びそれらの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記課題を達成するため、新規の永久電流スイッチとその製造方法を見出した。その手段を以下に述べる。
【0021】
上記目的は、金属で被覆したMgB超電導線材を一方向に積み重ねて構成される永久電流スイッチにより達成できる。
【0022】
また、前記MgB超電導線材の形状が平角またはテープ状である永久電流スイッチにより達成できる。また、前記MgB超電導線材の金属被覆材の室温でのビッカース硬さが50以上の線材を用いた永久電流スイッチにより達成できる。また、前記MgB超電導線材の長さが10m以下で構成した永久電流スイッチにより達成できる。
【0023】
更にまた、MgB超電導線材の金属被覆材端部を除去して超電導コア部を露出させる工程と、前記超電導線材の露出部分が互いに接触するように積み重ねる工程と、前記積み重ねた超電導線材の隙間にMgB超電導体を配置する工程を備えた永久電流スイッチの製造方法を適用することにより達成できる。
【0024】
MgBは他の金属系超電導材料と比較して臨界温度が高いことから安定性マージンが高くなるので、速やかな常電導転移、すなわちクエンチ現象が発生しにくい信頼性の高い永久電流スイッチを実現できる。
【0025】
又、超電導線材を作製する製造工程中に超電導線材に対する加熱処理工程を一度も行わないようにすることで、製造コストが大幅に低減できると云う極めて大きな効果がある。
【0026】
更に、充填粉末中にMgBに対して、2〜30体積%の銅、インジウム、錫、鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素を、単独あるいはそれらを混合して添加すると臨界電流密度が向上する。特に、ナノオーダーまで粒径を細かくすると一層効果的である。
【0027】
以下に本発明の代表的実施態様を整理して説明する。
【0028】
本発明の第1の実施態様は、二硼化マグネシウム超電導体とそれを被覆する金属被覆を含み、該超電導体の一部が露出した平角又はテープ状等の長尺の超電導線材を、複数個積層して、隣接する線材の露出した上記超電導体が接続されるように積層・一体化した超電導積層体を回路内に備えた永久電流スイッチである。永久電流スイッチとしては、上記超電導積層体に加えて、この積層体の超電導状態を転移させる、熱的あるいは磁気的な手段が必要である。
【0029】
この永久電流スイッチにおいて、上記積層体の隣接する線材間の隙間に二硼化マグネシウム超電体を充填して、超電導体間の接続を確保することが望ましい。また、上記金属被覆材の室温でのビッカース硬さが50以上であるもの、例えばSUSなどを用いることが望ましい。
【0030】
更に、前記二硼化マグネシウム超電導線材の積層体を加圧保持する手段を設けることが望ましい。この手段によって、上記露出した超電導体間の接続を確保し、かつ超電導線材間の整列・平行の維持に貢献することができる。又、前記二硼化マグネシウム超電導線材の長さが10m以下、特に3m以下、更には2m以下にすることにより、永久電流スイッチを小型化することができる。
【0031】
本発明は、二硼化マグネシウム超電導体とそれを被覆する金属被覆を含み、該超電導体の一部が露出した平角状又はテープ状等の長尺の超電導線材を、複数個積層して、隣接する線材の露出した上記超電導体が接続されるように積層・一体化した超電導積層体を提供するものである。
【0032】
上記積層体の隣接する線材間の隙間に二硼化マグネシウム超電体を充填すること、前記二硼化マグネシウム超電導線材の金属被覆材の室温でのビッカース硬さが50以上である物を用いること、前記積層体を加圧保持する手段を設けること、前記二硼化マグネシウム超電導線材の長さが10m以下であることも上述のとおりである。
【0033】
本発明は又、二硼化マグネシウム超電導体とそれを被覆する金属被覆材を含む超電導線材の該金属被覆材の一部を除去して超電導コア部を露出させる工程と、前記超電導線材の露出部分が互いに接触するように、複数の超電導線材を積層する工程とを備えた超電導積層体の製造方法を提供する。この方法において、前記重ねた超電導線材の隙間に二硼化マグネシウム超電導体を充填する工程を施し、超電導体同士の接続を確保することが望ましい。また、前記超電導積層体を加圧保持する手段により、上記超電導線材の超電導体間の接続、あるいは線材間の整列を維持することが望ましい。
【0034】
本発明による永久電流スイッチは、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置等の機器に適用すると効果的である。
【0035】
上述したように、本発明によれば以下のような特性を備えた永久電流スイッチを提供することができる。
【0036】
本発明による超電導積層体を用いた絵に級電流スイッチの特徴を整理すると以下のとおりである。
(1)永久電流スイッチのON時において電気抵抗が顕著に小さい。
(2)永久電流スイッチのOFF時において電気抵抗は十分に大きい。
(3)永久電流スイッチに十分な電流を安定に流すことができる。
(4)永久電流スイッチにおいて必要時以外に常電導転移しない
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、臨界温度,臨界磁場,臨界電流の高い二硼化マグネシウム超電導線を用いて永久電流スイッチを作製し、これと超電導コイルを短絡することにより、コンパクトな信頼性の高い永久電流スイッチが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明では永久電流スイッチにMgB超電導線材を用いる。MgB超電導体は高い臨界温度,臨界磁場および臨界電流を有する線材を比較的容易に得ることができる。したがって、特に永久電流スイッチにMgB超電導線材を用いれば、必要な電流を安定に流すことができ、信頼性および操作性が高い永久電流スイッチを提供することができる。
【0039】
MgB超電導線材を作製する際に充填される粉末は、超電導粉末、前駆体粉末などが挙げられる。また、上述のように、2〜30体積%の金属微細粉末に代表される第3元素を添加すると効果的である。
【0040】
本発明における超電導粉末合成の熱処理温度は、200〜1200℃の範囲内が用いられる。また、必要に応じて窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス、酸素ガス等を単独或いは混合して熱処理を行う。さらに、必要に応じて、大気圧以上の圧力で加圧しながら熱処理を行う。
【0041】
本発明において永久電流スイッチに用いたMgB超電導線には、安定化材からなるシース中にMgB超電導体の原料粉末を充填し、塑性加工を施す方法、いわゆるパウダー・イン・チューブ法によって作製されたものを用いることができる。このような方法において、金属被覆材としては室温におけるビッカース硬さが50以上の金属を用いることが効果的である。室温でのビッカース硬さが50以上の高強度金属の例としては、SUS304、SUS316、SUS310、SUS430、ハステロイB、ハステロイC、炭素鋼、インコネル、コバルト、タングステン、ニッケル、モリブデン、チタン、モネル、アルミ基合金、チタン基合金、ニッケル基合金、銅基合金、ニオブ基合金、マグネシウム基合金等がある。
【0042】
永久電流スイッチの作製に必要な線材長さは、(1)式で表される。
【0043】
OFF時の抵抗×線材断面積/線材比抵抗−−−−−−−−−(1)
即ち、線材の比抵抗が高ければ、永久電流スイッチの線材長さを短くすることが可能で、抵抗が10倍になれば、線材長さも1/10にすることができる。一般に、金属の比電気抵抗とビッカース硬さとは比例関係にある。このため、上記したビッカース硬さが50以上の金属は、比電気抵抗も比較的高いといえる。
【0044】
線材の製造方法において、塑性加工には、伸線加工,溝ロール加工、ローラーダイス加工、静水圧プレス加工,圧延加工等がある。特に、伸線加工または圧延加工との組合せにより、丸断面線材,角断面線材またはテープ線材等が精度良く得られる。しかしながら、これらの方法以外にも、例えば溶射法、ドクターブレード法、ディップコート法、スプレーパイロリシス法、或いは、ジェリーロール法等で作製した線材を用いても、同等の超電導特性を得ることが可能である。なお、用いられる超電導線は、単芯線および多芯線のいずれでもよい。
【0045】
上記の超電導線材は、超電導マグネットのほかに送電ケーブル、電流リード、MRI装置、NMR装置、SMES装置、超電導発電機、超電導モータ、磁気浮上列車、超電導電磁推進船、超電導変圧器、超電導限流器等に用いることができる。
【0046】
永久電流スイッチとつなぐ超電導コイルに用いる超電導材は、どのようなものでも構わない。例えば、NbTi,NbSn,NbAlまたはVGa等の金属系超電導体、Bi−2212,Bi−2223,Y−123等の酸化物超電導体、またはMgBでも構わない。巻線方法としては、コイル自身の発生磁場をゼロにするために、無誘導巻きが適用される。
【0047】
永久電流スイッチ機構には、熱式,磁気式等の機構を用いることができる。一般に、熱式のスイッチ機構がよく利用される。スイッチングに用いられる発熱体には、マンガニン線等の電気抵抗により発熱する材料を好ましく用いることができる。超電導スイッチの使用時には、発熱体は、電源回路と、発熱を制御する手段に接続される。発熱体は、超電導線に接触するように設けられてもよく、電気絶縁材料を介して超電導線上に設けられてもよい。
【0048】
本発明における永久電流スイッチが液体ヘリウム,気体ヘリウム等の冷媒に接触させられる場合、発熱体は熱絶縁材によって覆われる。熱絶縁材は、冷却のための環境と、超電導線材および発熱体との間に適当な温度勾配を形成し、発熱体および線材が急激に冷却されないよう熱緩衝材としての役割を果たす。また熱絶縁材は、スイッチのOFF時に超電導線を十分加熱することができるように、発熱体を保護する。熱絶縁材には、たとえば、エポキシ樹脂等の樹脂材料,樹脂コンパウンド,シリコン系コンパウンド等を用いることができる。熱絶縁材には、使用する温度において好ましくは10−2W/cm・K〜10−6W/cm・Kの熱伝導率を有する材料を用いることができる。
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
出発原料として、マグネシウム粉末(Mg;純度99%)とアモルファス状ホウ素粉末(B;純度99%)を用いて、マグネシウムとホウ素が原子モル比で1:2になるように秤量し、10〜60分間にわたって混合する。次に、この混合体を700〜1000℃の温度で、2〜20時間にわたって熱処理し、MgB超電導体を作製する。このとき、大気圧以上の圧力を加えて熱処理することもある。得られた粉末のX線回折を行ったところ、強度比換算でMgB超電導体が95%以上含まれていることが分かった。MgB以外には、若干のMgO及びMgBも含まれていた。
【0051】
得られた混合粉末を外径5mm、内径4mmの円形の断面形状を有するステンレス鋼パイプに充填する。この際、粉末状のまま充填すること以外に、プレス等によって作製した円柱状や角形状のロッドを充填しても構わない。これを、断面積の減少率3乃至20%で伸線加工し、所定形状まで縮径する。必要に応じて、線材の横断面形状を楕円形、六角形、平角状又は丸形状の横断面形状に減面加工する。
【0052】
本実施例では、厚さ0.2乃至0.5mm、幅2乃至5mmのテープ状線材になるまで縮径加工した。図1に作製したMgB超電導線材4の断面模式図の一例を示す。MgB超電導線材4は、金属被覆材5の中にMgB超電導体6が充填又は内包されている。本実施例で使用する線材サイズは、厚さ0.4mm、幅3.7mmである。なお、ここでは、線材加工時に熱処理や焼鈍等の加熱処理は全く行わなかった。なお、テープ状線材の厚さや幅、および厚みと幅の比率であるアスペクト比も限定されるものではなく、例えば丸形状あるいは丸に極めて近いものから、幅広の極薄テープまで様々な線材形状にしても差し支えない。しかし、平角状やテープ状のものは、線材の接触面積が大きく取れ、積層が容易であるので、好ましい形状である。
【0053】
得られたMgB超電導線4を30mm長さに切断し、それらの端部を金属被覆材部分のみ除去した。図2(a)および(b)に金属被覆5の除去工程を示す。金属被覆5の除去は、線材の端部から長さ方向に4mm、幅方向に3mmとした。この際、片端は上面を、もう一方の端部は下面を除去した。図3において、黒い部分9が上面の金属被覆除去したことを示し、点線で示される部分10が下面除去を示している。このように、線材の端部の両面に金属被覆の除去部を形成し、超電導体を露出する。
【0054】
これらを図4のように超電導体同志が接続されるように、規則的に線材を一方向に積層する。金属被覆材を除去した線材接触部は、図2(b)に示すように段差ができるので、積層体の端部に隙間11が生じるが、そこにはMgB粉末かMgB成形体を挿入する。挿入後、全体に一軸プレスで加圧することにより、線材を用いた永久電流スイッチ7が作製できる。また、積層体を上下から保持手段を用いて加圧・保持することができる。積層体の積層数は、5層以上、特に7層以上20層以下が好ましい。金属被覆の抵抗値が高いほど積層数を増やすことができる。
【0055】
次に、永久電流スイッチとしての特性評価を行った。図5に超電導装置の概念図を示す。図において、超電導コイルに用いた超電導線は超電導材としてNbTi、安定化材として銅を用いた直径1mmのNbTi超電導線8である。これをアルミニウム合金製ボビン9に巻き、内径50mmφ,外径76mmφ,高さ79.5mmのソレノイドコイルとした。巻線間の絶縁は、エナメル絶縁によって行った。ソレノイドコイルのターン数は800ターン,20Aの電流を流したときの中心磁場は0.1Tであった。
【0056】
永久電流スイッチ72は、上述のようにMgB線材を用いて作製した。30mm長さに切断した線材を100枚積層したので、線材全長は3mである。永久電流スイッチとしては極めて小型のサイズである。積層したMgB超電導線の上からエポキシ系樹脂を用いた絶縁材10を塗り、その上にマンガニン線11を巻回している。マンガニン線には銅線12,13を接続し、銅線には外部のヒータ電源を接続できる構造である。
【0057】
MgB超電導線4,NbTi超電導線8,電流リード線14,15は超電導線接続部16,17において接続されている。また、電流リード線14,15の他端には励磁用電源を接続できる構造である。
【0058】
以上のように構成された構造体を液体ヘリウムに浸漬し、銅線12,13を介してマンガニン線11に電流を流して加熱を行い、永久電流スイッチとして働く部分のMgB超電導線を常電導状態(40K以上の温度)に転移させた。その状態で電流リード線14,15を介してソレノイドコイルに電源より電流を流した。ソレノイドコイルが励磁されたら、マンガニン線11による加熱をやめ、スイッチの部分のMgB超電導線4を超電導状態に戻した。
【0059】
この状態で励磁電源を取り外した結果、永久電流モードの状態が得られた。このときの接合部の電気抵抗は0.05nΩ以下であった。一方、超電導線接続部16,17において超電導コア同士の接続に鉛−錫ハンダを用いた場合、電気抵抗の測定値は約20nΩであった。このように本発明によれば、接合による電気抵抗を著しく低減することができた。
【0060】
本実施例は、MgB超電導線4の被覆材として、ステンレス鋼を用いた検討結果であったが、例えばビッカース硬さが50以上の金属をシース材として使用した場合にも、上記と同様の結果が得られることを確認した。
【0061】
以上述べたように、金属で被覆したMgB超電導線4の端部を除去して超電導コアを露出させ、それらを一方向に積み重ねることにより、優れた特性を持つ永久電流スイッチが作製できた。
【0062】
(実施例2)
実施例1で述べたMgB超電導線4の線材形状を変えて、同様の永久電流スイッチ7を作製し、永久電流スイッチとしての歩留まりを検討した。本実施例では、線材の形状を丸形状、平角状、テープ状の3種類とした。サイズは、丸形状線材が直径1mm、平角状線材が厚さ1.1mm、幅2.2mm、テープ状線材は厚さ0.45mm、幅3.6mmである。
【0063】
永久電流スイッチとしての歩留まり算出法は、図4と同様の永久電流スイッチを作製し、その後、図5に示す配線を行い、接合部の電気抵抗を測定した。この際、0.1nΩ以下の電気抵抗であれば、合格とした。図5において、1はNbTi超電導線、9はアルミニウム合金製ボビン、10は絶縁材、11はマンガニン線、12は銅線、13は銅線、14は電流リード線、15は電流リード線、16は超電導線接続部、17は超電導線接続部である。
【0064】
その結果、丸形状では歩留まりが75%であったのに対して、平角状では97%、テープ状では99%まで向上した。以上のように、MgB超電導線4の形状は、平角またはテープ状であることが効果的であることを明らかにした。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の超電導線材の断面模式図。
【図2】本発明における超電導線材の金属被覆材の除去工程を説明する外観模式図。
【図3】本発明における積層体の展開斜視図。
【図4】本発明の永久電流スイッチ用超電導積層体を示す側面斜視図。
【図5】本発明の超電導積層体を用いた永久電流スイッチを備えた超電導装置の概念図。
【図6】永久電流スイッチ付超電導コイルを説明する回路図。
【符号の説明】
【0066】
1…超電導マグネット、2…永久電流スイッチ、3…電源、4…超電導線材、5…金属被覆材、6…MgB超電導体、8…NbTi超電導線、9…アルミニウム合金製ボビン、10…絶縁材、11…マンガニン線、12…銅線、13…銅線、14…電流リード線、15…電流リード線、16…超電導線接続部、17…超電導線接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硼化マグネシウム超電導線材とそれを被覆する金属被覆を含み、該超電導線材の一部が露出した長尺の超電導線材を、複数個積層して、隣接する線材の露出した上記超電導線材が接続されるように積層・一体化した超電導積層体を回路内に備えたことを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の永久電流スイッチであって、上記積層体の隣接する線材間の隙間に二硼化マグネシウム超電体を充填したことを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の永久電流スイッチであって、前記二硼化マグネシウム超電導線材の金属被覆材の室温でのビッカース硬さが50以上であることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の永久電流スイッチであって、前記積層体を加圧保持する手段を設けたことを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の永久電流スイッチであって、前記二硼化マグネシウム超電導線材の長さが10m以下であることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項6】
二硼化マグネシウム超電導線材とそれを被覆する金属被覆を含み、該二硼化マグネシウム超電導線材の一部が露出した長尺の超電導線材を、複数個積層して、隣接する線材の露出した上記超電導線材が接続されるように積層・一体化した超電導積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の超電導積層体であって、上記積層体の隣接する二硼化マグネシウム超電導線材間の隙間に二硼化マグネシウム超電体を充填したことを特徴とする超電導積層体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の超電導積層体であって、前記二硼化マグネシウム超電導線材の金属被覆材の室温でのビッカース硬さが50以上であることを特徴とする超電導積層体。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれかに記載の永久電流スイッチであって、前記積層体を加圧保持する手段を設けたことを特徴とする超電導積層体。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載の超電導積層体であって、前記二硼化マグネシウム超電導線材の長さが10m以下であることを特徴とする超電導積層体。
【請求項11】
二硼化マグネシウム超電導線材の金属被覆材端部を除去して超電導コア部を露出させる工程と、前記超電導線材の露出部分が互いに接触するように積み重ねる工程と、前記積み重ねた超電導線材の隙間に二硼化マグネシウム超電導体を配置する工程を備えた永久電流スイッチの製造方法。
【請求項12】
二硼化マグネシウム超電導体とそれを被覆する金属被覆材を含む超電導線材の該金属被覆材の一部を除去して超電導コア部を露出させる工程と、前記超電導線材の露出部分が互いに接触するように、複数の超電導線材を積層する工程とを備えたことを特徴とする超電導積層体の製造方法。
【請求項13】
更に、前記積層した超電導線材の隙間に二硼化マグネシウム超電導体を充填する工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の超電導積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−228797(P2006−228797A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37581(P2005−37581)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度 文部科学省、長尺線材作製技術の開発に関する委託研究、産業再生法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】