説明

二軸延伸フィルムの製造方法及び二軸延伸フィルム製造装置

【課題】二軸延伸後の基材フィルムを、熱処理装置に円滑に導入する二軸延伸フィルムの製造方法、及びそのための二軸延伸フィルム製造装置を提供すること。
【解決手段】二軸延伸フィルム製造装置は、熱処理装置40の上流側に、基材フィルム2の両端部を基材フィルム2の幅方向外部に付勢する一対の付勢ロール81を有する付勢装置80を備えている。付勢ロール81は、2本一組となっており、基材フィルム2を両面から挟んで線圧を加えるとともに、基材フィルム2の進行に伴い互いに逆回転可能な円筒状の回転部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸フィルムの製造方法及び二軸延伸フィルム製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二軸延伸フィルムは、機械的強度や耐熱性に優れているため、包装材料分野ではいわゆる表基材として使用されている。中でも、二軸延伸ナイロンフィルムは、機械的強度や耐突き刺し性に特に優れているため、液体包装や重量物の包装などに広く使用されている。
このような二軸延伸フィルムを製造する際は、延伸後の基材フィルムに熱処理(熱固定)を施すことが一般的である。熱処理により、基材フィルムの耐熱性等が飛躍的に向上して、実用上優れた二軸延伸フィルムとなる。熱処理方法としては、一般に、テンター方式が用いられる。具体的には、二軸延伸後の基材フィルムの両端をクリップ等で固定しながら、熱処理装置の中を走行させて熱処理を行う。
【0003】
二軸延伸ナイロンフィルムを製造する際も、熱処理は、一般にテンター方式が採用されている。一方、チューブラー方式により二軸延伸された基材フィルムをそのまま折り畳んで2枚重ねのフィルムとして熱処理を行うと、熱処理時に熱融着を起こすことが知られている。それ故、二軸延伸後のチューブ状の基材フィルムをいったん切り開いて、基材フィルム内面を外気にさらし、予熱処理を行うことで、その後の熱処理を円滑に行うことが可能となる(例えば特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平2−141225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、予熱後に上下2枚の基材フィルムを熱処理装置に導入することになるが、その際に上下2枚の基材フィルムがずれたり、あるいは、基材フィルムが大気中の湿気によりカールして熱処理装置への導入が困難となる場合もある。さらに、熱処理装置がテンター方式の場合、クリップによる基材フィルム端部の掴みが不安定であると、基材フィルム自身の収縮力によりクリップからはずれたり、クリップ近傍で基材フィルムが破断する等のトラブルが生ずるおそれもある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、二軸延伸後の基材フィルムを、熱処理工程に円滑に導入する二軸延伸フィルムの製造方法、及びそのための二軸延伸フィルム製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法は、二軸延伸工程と、二軸延伸後の基材フィルムを熱処理する熱処理工程とを含む二軸延伸フィルムの製造方法であって、前記熱処理工程の上流側に、前記基材フィルムの両端部を前記基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢工程を備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、一対の付勢手段とは、基材フィルムの両端部に対して、幅方向外部に付勢できればよく、例えば、細いスリットのようなものを通して強い風を基材フィルムに両面からあて、基材フィルムを付勢するような手段でもよい。
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法によれば、基材フィルムを熱処理工程に導入するに際し、基材フィルムの両端部を、各々基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢工程を備えているので、基材フィルムの両端部がカールしていたり、たるんでいたり、あるいは基材フィルム全体が左右にぶれても確実に基材フィルムを熱処理工程に導入させることができる。
それ故、この付勢工程の位置は熱処理工程に近いほうがよい。例えば、熱処理工程がテンター方式を採用している場合、付勢工程の位置は、テンター内のクリップによる基材フィルムの挟み込み開始点より1m以内であることが好ましく、より好ましくは50cm以内である。
なお、付勢工程には、上述の一対の付勢手段が複数存在してもよい。例えば、一対の付勢手段が基材フィルムの進行方向に数段配置されていると、基材フィルムに対する付勢効果により優れる。
【0009】
本発明では、前記付勢手段は、前記基材フィルムを両面から挟んで線圧を加えるとともに、基材フィルムの進行に伴い互いに逆回転可能な円筒状の回転部を有する2本一組の付勢ロールであることが好ましい。
本発明によれば、2本の円筒状の回転部が互いに平行となって、基材フィルムを両面から圧接している。しかも、この一組の付勢ロールは基材フィルムの進行方向両端部に一対あるので、付勢ロールは確実に基材フィルムの両端部を幅方向外部に付勢することができる。具体的には、基材フィルムの両端部が幅方向外部に強く引っ張られることになり、基材フィルムの両端部がカールしていてもカールを防止する効果が強く働く。例えば、熱処理装置がテンター方式であれば、基材フィルムの両端部をテンターのクリップに円滑に引き渡すことが可能となる。
なお、この付勢ロールの回転部は、自由回転するいわゆるフリーロールであることが好ましい。基材フィルム自体の進行によりフリーロールが自動的に回転し、基材フィルムをその幅方向外部に付勢する力が働くので、基材フィルムに不自然な力が働くことがない。すなわち、基材フイルムの進行速度に合った自然な回転速度で、付勢ロールによる付勢効果が発揮できる。
【0010】
本発明では、前記円筒状の回転部により前記基材フィルムに加えられる線圧が、6〜500gf/cmであることが好ましく、50〜200gf/cmであることがより好ましい。
本発明によれば、円筒状の回転部により基材フィルムに加えられる線圧が、6〜500gf/cmと所定の範囲にあるので、基材フィルムへの付勢効果が十分働くとともに、フィルム切れ等の原因となるおそれも少ない。
【0011】
本発明では、前記基材フィルムは、前記熱処理工程に略水平に送通され、前記2本一組の付勢ロールについて、前記基材フィルムの上側に位置する回転部の長手方向長さL1と、前記基材フィルムの下側に位置する回転部の長手方向長さL2との比L1/L2が1〜3であることが好ましい。
ここで、L1とL2は、回転部の基部(基材フィルム端部側)から頂部(基材フィルム中央部側)までの長さであり、両回転部の基部は上下方向で互いに略同一位置にある。
本発明によれば、基材フィルムの上側に位置する回転部の長手方向長さL1と、基材フィルムの下側に位置する回転部の長手方向長さL2との比L1/L2が1〜3であるので、基材フィルムが進行中に、いわゆるフィルム切れを起こすことが少ない。すなわち、付勢ロール相互の回転部の長さは同じでもよいが、長さを変える場合には、上述のようにL1(上側)のほうをL2(下側)より長くしたほうがよい。
L1(上側)より、L2(下側)が長いと、基材フィルムの上側に位置する付勢ロールの回転部先端が運転時の振動によりが基材フィルム表面に傷をつけるおそれがある。
【0012】
なお、この円筒状の回転部が基材フィルム面に対して平行ではなく、その先端が基材フィルム面に対してめり込むような角度を持つと、フィルム面に傷が付きやすく、破断の原因となりやすい。それ故、回転部の長手方向は、基材フィルム面に対して10度以内の角度を保つことが好ましい。
【0013】
本発明では、前記付勢のロールの長手方向と、前記基材フィルムの幅方向とにより下流側に形成される角度が20〜70度であることが好ましい。
本発明によれば、付勢のロールの長手方向と、基材フィルムの幅方向とにより形成される角度が20〜70度と特定の範囲にあるので、基材フィルムの両端部を幅方向外部に効果的に付勢できる。この角度が20度未満であると、基材フィルムの幅方向への引っ張り力が乏しくなり、基材フィルムを熱処理装置内へ円滑に導入することが困難となる。例えば、熱処理装置としてテンター方式を用いた場合、基材フィルムがクリップからはずれやすくなる。逆に、この角度が70度を超えると、基材フィルムを流れ方向の左右に引っ張る力が強すぎて、左右のぶれを引き起こし、安定性が乏しくなる。
この角度は、好ましくは、30〜60度であり、より好ましくは30〜50度である。
なお、付勢ロールの回転部がフリーロールである場合は、基材フィルムの流れにより、フリーロール自体が回転力を得て、その回転力により、付勢効果が発揮されるため、この角度設定はより重要である。
【0014】
本発明では、二軸延伸がチューブラー方式であることが好ましい。
本発明によれば、二軸延伸がチューブラー方式であるので、MD方向(フィルムの移動方向)とTD方向(フィルムの移動方向に直交する方向)の同時二軸延伸を行うことができ、得られた二軸延伸フィルムがMD方向とTD方向の強度バランスに優れる。
【0015】
本発明の二軸延伸フィルム製造装置は、二軸延伸後の基材フィルムを熱処理する熱処理装置とを含む二軸延伸フィルム製造装置であって、前記熱処理装置の上流側に、前記基材フィルムの両端部を各々前記基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢装置を備えることを特徴とする。
本発明の二軸延伸フィルム製造装置によれば、基材フィルムを熱処理装置に導入する際し、基材フィルムの両端部を、各々基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢装置を備えているので、基材フィルムの両端部がカールしていたり、たるんでいたり、あるいは基材フィルム全体が左右にぶれても確実に基材フィルムを熱処理装置に導入させることができる。
【0016】
本発明では、前記付勢手段は、前記基材フィルムを両面から挟んで線圧を加えるとともに、基材フィルムの進行に伴い互いに逆回転可能な円筒状の回転部を有する2本一組の付勢ロールであることが好ましい。
本発明によれば、2本一組の付勢ロールの回転部が基材フィルムを両面から挟んで線圧を加えている。すなわち、2本の円筒状の回転部が互いに平行となって、基材フィルムを両面から圧接している。しかも、この一組の付勢ロールは基材フィルムの進行方向両端部に一対あるので、付勢ロールは確実に基材フィルムの両端部を幅方向外部に付勢することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明である二軸延伸フィルムの製造方法を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳述する。具体的には、二軸延伸フィルム製造の各工程を構成する装置とその動作について詳細に説明する。
〔二軸延伸フィルム製造装置の概要〕
図1は、本発明の一例として、チューブラー方式の二軸延伸フィルム製造装置100を示した概略図である。
この二軸延伸フィルム製造装置100により製造される二軸延伸フィルムの原料としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、PET、PBT等のポリエステル、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂等が好適に用いられる。この中でも、二軸延伸後の基材フィルムのカールが問題となりやすいポリアミド樹脂への適用が好ましい。
【0018】
二軸延伸フィルム製造装置100は、未延伸原反フィルム1(以後、原反フィルム1ともいう)を延伸する二軸延伸装置(チューブラー延伸装置)10と、延伸後に折り畳まれた基材フィルム2(以後、単にフィルム2ともいう)を予熱する予備熱処理装置(予熱炉)20と、予熱されたフィルム2を上下2枚に分離する分離装置30と、分離されたフィルム2を熱処理(熱固定)する熱処理装置40と、フィルム2が熱処理されるときに、下流側からフィルム2に張力を加える張力制御装置50と、フィルム2が熱処理されてなる二軸延伸フィルム3(以後、単にフィルム3ともいう)を巻き取る巻取装置60とを備えている。
【0019】
チューブラー延伸装置10は、押出機(図示せず)により製造されたチューブ状の原反フィルム1を内部空気の圧力により二軸延伸してフィルム2を製造するための装置である。そして、このフィルム2を扁平に折り畳んで下流の予熱炉20に送る手段として、案内板11及びピンチロール12を備えている。
【0020】
予熱炉20は、扁平となったフィルム2を予備的に熱処理するための装置である。フィルム2の収縮開始温度以上であって、フィルム2の融点よりも約30℃低い温度かそれ以下の温度でこのフィルム2を予め熱処理する。この予備的な熱処理により、フィルム2の結晶化度が増して、重なり合ったフィルム同士の滑り性が良好になる。
【0021】
分離装置30は、ガイドロール31と、トリミング装置32と、分離ロール33A、33Bと、溝付きロール34A〜34Cとを備えている。
トリミング装置32は、ブレード321を有しており、ガイドロール31を介して送られた扁平なフィルム2の両端部を切開して2枚の基材フィルム2A、2Bに分離する。そして、上下に離れて位置する一対の分離ロール33A、33Bにより、ガイドロール31を介して送られた両フィルム2A、2B間に空気を介在させながらこれらを分離する。この扁平なフィルム2の切開は、両端部から若干内側にブレード321を位置させることにより、一部分耳部が生じるように行ってもよく、又はフィルム2の折り目部分にブレード321を位置させることにより、耳部が生じないように行ってもよい。
次に、両フィルム2A、2Bの進行方向に順に位置する3個の溝付きロール34A〜34Cにより両フィルム2A、2Bは、再び重ねられる。なお、これらの溝付きロール34A〜34Cは、溝付き加工後、表面にめっき処理を施したものである。この溝を介してフィルム2A、2Bと空気との良好な接触状態が得られる。
【0022】
分離装置30から送出されたフィルム2は、後述する付勢装置80を通って、熱処理装置40に導入される。
熱処理装置40は、2枚のフィルム2A、2Bの両端部を把持する手段であるテンター41と、両端部が把持された2枚のフィルム2A、2Bを熱処理するための加熱手段である加熱炉42とを備えている。この加熱炉42は、ここでは熱風炉である。
重なった状態のフィルム2(2A、2B)は、テンター41のクリップ411(図2)で両端部を把持されながら、フィルム2を構成する樹脂の融点以下であって、融点から約30℃低い温度以上で熱処理(熱固定)され、物性の安定した二軸延伸フィルム3(以後、フィルム3ともいう)となる。
【0023】
図2に、テンター41で使用されるクリップ411の側面図を示す。
クリップ411は金属製であり、基台部411Aと、基台部411Aから伸びるアーム部411Bと、アーム部411Bの先端に位置する支軸411Cと、支軸411Cの回りに所定方向にのみ連動して一定の角度だけ自由回転できる羽根411D及び羽根411Eとを備えて構成される。基台部411Aの上面は、一部がシリコーンラバー製のプレート411A1となっている。
クリップ411は、羽根411Dに対して、所定の開閉動作を行わせることで、連動する羽根411Eが開閉動作を行い、羽根411Eとプレート411A1とでフィルム2の端部を強く挟持する。フィルム2が熱処理を受け収縮しようとすると、この挟持力はより強まるように構成されている。
【0024】
張力制御装置50(図1)は、2本のフリーロール51A,51Bと、その中間に位置して、上下に変位(移動)可能なダンサーロール52とを備えている。
熱処理装置40から送出されたフィルム3は、フリーロール51A、ダンサーロール52を経由した後、フリーロール51Bから巻取装置60に送出される。
フリーロール51A、51Bは、熱処理装置40からのフィルム3の進行に合わせて自由回転するだけであるが、ダンサーロール52は、上下に変位可能となっている。それ故、ダンサーロール52を下方に変位させるとフィルム3の張力が上がり、逆にダンサーロール52を上方に変位させるとフィルム3の張力が下がる。すなわち、ダンサーロール52の上下への変位により、上流に位置する熱処理装置40内部で熱処理を受けているフィルム2への張力制御が可能となる。
【0025】
巻取装置60は、ガイドロール61と、巻取ロール62とを備えている。熱固定されたフィルム3は、張力制御装置50を経て、ガイドロール61を介して2本の巻取ロール62に、フィルム3A、3Bとして巻き取られる。
【0026】
〔付勢装置の概要〕
図3は、付勢装置80を水平方向から見た概略図である。
付勢装置80は、折り畳まれたフィルム2(2A、2B)の両端部を各々の幅方向外部に付勢する一対の付勢手段として付勢ロール81を有している。本実施形態ではこの一対の付勢ロールはその形状、配置ともに左右対称となっている。また、付勢ロール81は、図3に示すように、フィルム2(2A、2B)の上下に1本づつ配設され、上側の付勢ロール81Aと下側の付勢ロール81Bとで一組になっている。
【0027】
付勢ロール81Aは、軸心811Aと、軸心811Aに回転自由に固定される円筒状の回転部812Aとを備えて構成される。付勢ロール81Bも全く同様に、軸心811Bと、円筒状の回転部812Bとを備えて構成される。回転部812Aの基部812A1と、回転部812Bの基部812B1とは上下方向で同一位置にある。
回転部812Aは、例えば、直径が1〜5cm程度、長手方向長さ(L1)が10〜30cm程度の円筒状の構造であり、また、回転部812Bは、例えば、直径が1〜5cm程度、長手方向長さ(L2)が3〜20cm程度の円筒状の構造である。回転部812A、812Bの長手方向長さ(L1、L2)が長すぎると、熱処理装置40内を流れるフィルム2の幅にもよるが、流れに対する抵抗が過大となるおそれがある。また、回転部812A、812Bの長手方向長さ(L1、L2)が短すぎるとフィルム2への付勢効果が十分でなく、フィルム2両端部のカール等を抑えきれず、さらには、フィルム2端部が熱処理装置40内でクリップ411(図5)からはずれやすくなる。
【0028】
ここで、回転部812Aの長手方向長さ(L1)と、回転部812Bの長手方向長さ(L2)との比L1/L2は1〜3であることが好ましい。回転部812Aと回転部812Bとの長さは同じでもよいが、長さを変える場合には、L1をL2より長くしたほうがよい。L1/L2は、より好ましくは、1.5〜2.5である。
L1とL2が同じ長さであると、運転時の振動で付勢ロール先端部同士がフィルム2を介して互いに接触することがあり、刃物効果(エッジ効果)によりフィルム2表面に傷がつく可能性がある。また、図4(A)に示すように回転部812A(上側)より、回転部812B(下側)が長い場合も、フィルム2の上側に位置する回転部812A先端が運転時の振動によりがフィルム2A表面に傷をつけるおそれがある。例えば、図3において、L2が20cmより長い場合は、L1を、30〜60cm程度にする必要がある。ただし、その場合は、熱処理装置40内を流れるフィルム2への抵抗が過大となる。
【0029】
回転部812A、812Bの材料としては、ステンレス等の金属やベークライト等の耐熱性プラスチックが好適に用いられる。金属を用いる場合は、表面にクロムメッキを施すことで、耐久性が向上する。
なお、回転部812A、812Bの材料として、耐久性の観点からは、双方とも金属でもよいが、いずれか一方が金属より柔らかい耐熱性プラスチックであることが望ましい。回転部812A、812Bの材料がともに金属の場合、長期間の連続運転を行うと、微細な傷が回転部表面に生じてしまうことがあり、その傷がフィルム2に対して破断の原因(ノッチ発生)となる可能性がある。
また、耐熱性プラスチックはフィルム2表面へ傷つきにくさの点から、フィルム2の下側に位置する回転部812Bの材料として用いることが好ましい。
【0030】
また、図4(B)に示すように、この回転部812Aあるいは回転部812Bがフィルム2の表面に対して平行ではなく、その先端がフィルム2の表面に対して鋭角側に角度φを持つと、フィルム面に傷が付きやすく、フィルム破断の原因となりやすい。
それ故、この角度φは、10度以下であることが好ましい。角度φは、より好ましくは5度以下である。
【0031】
また、これらの回転部812A、812Bは、フィルム2を両面から挟んで線圧を加えているが、線圧としては、6〜500gf/cm程度が好ましい。線圧が6gf/cm未満であると、フィルム2端部のカール防止効果やフィルム2のぶれ防止効果に乏しい。また、フィルム2がクリップ411からはずれやすくなる。一方、線圧が500gf/cmを超えると、フィルム2が破断しやすくなる。
なお、回転部812A、812Bはいわゆるフリーロールであるため、フィルム2の進行(流れ)に伴ってフィルム2に線圧を加えながら互いに逆方向に回転する。
【0032】
図5は、付勢装置80、熱処理装置40、及び付勢装置80を介して熱処理装置40に導入されるフィルム2を上から見た概略図である。熱処理後のフィルム3は、熱処理装置40から送出されて巻取装置60(図1)に巻き取られる。
付勢ロール81は、付勢ロール81の長手方向と、フィルム2の幅方向とにより下流側に形成される角度θに設定される。ここで角度θは20〜70度であることが好ましい。
この角度が20度未満であると、基材フィルムの幅方向への引っ張り力が乏しくなり、基材フィルムを熱処理装置内へ円滑に導入することが困難となる。例えば、本実施形態では、熱処理装置としてテンター方式を用いているので、フィルム2がクリップ411からはずれやすくなる。逆に、この角度が70度を超えると、基材フィルムを流れ方向の左右に引っ張る力が強すぎて、左右のぶれを引き起こし、安定性が乏しくなる。
この角度θは、好ましくは、30〜60度であり、より好ましくは30〜50度である。なお、この付勢ロール81は水平方向及び垂直方向の角度を自由に変えられるようになっている。
【0033】
また、フィルム2の両端部を付勢した後、ただちに熱処理装置40にフィルム2を送通したほうがよいため、この付勢装置80は、熱処理装置40の入り口近傍に配設されている。具体的には、テンター41内のクリップ411による基材フィルムの挟み込み開始点より1m以内であることが好ましく、より好ましくは50cm以内である。
【0034】
上述の実施形態によれば、以下の様な効果を奏することができる。
(1)二軸延伸フィルム製造装置100は、フィルム2の両端部を、フィルム2の幅方向外部に付勢する一対の付勢ロール81を有する付勢装置80を備えているので、フィルム2の両端部がカールしていたり、あるいはフィルム2全体が左右にぶれても、熱処理装置40における熱処理工程が安定し、二軸延伸フィルムの長時間連続成形が可能となる。
【0035】
(2)付勢ロール81の回転部812A、812Bは、自由回転するいわゆるフリーロールであるので、フィルム2自体の進行により回転部812A、812Bが自動的に回転し、フィルム2をその幅方向外部に付勢する力が働くので、フィルム2に不自然な力が働くことない。すなわち、フイルム2の進行速度に合った自然な回転速度で、付勢ロール81による付勢効果が発揮できる。
【0036】
(3)2本一組の付勢ロール81の回転部812A、812Bが互いに平行となって、フィルム2を両面から圧接しており、しかも、この一組の付勢ロール81はフィルム2の進行方向両端部に一対あるので、付勢ロール81は確実にフィルム2の両端部を幅方向外部に付勢することができる。
【0037】
(4)付勢ロール81の長手方向と、フィルム2の幅方向とにより形成される下流側の角度θが20〜70度と特定の範囲にあるので、フィルム2の両端部を幅方向外部に効果的に付勢できる。
【0038】
(5)フィルム2に加えられる線圧が、6〜500gf/cmと所定の範囲にあるので、フィルム2への付勢効果が十分働くとともに、フィルム切れ等の原因となるおそれも少ない。
【0039】
(6)基材フィルム2の上側に位置する回転部812Aの長手方向長さL1と、基材フィルム2の下側に位置する回転部812Bの長手方向長さL2との比L1/L2が1〜3であるので、基材フィルムが進行中に、いわゆるフィルム切れを起こすことが少ない。
【0040】
(7)付勢装置80の位置は、テンター41内のクリップ411による基材フィルムの挟み込み開始点の近傍にあるので、付勢装置80による付勢効果を十分に発揮しやすい。
【0041】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、構造、材質、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した構造、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの構造などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである
【0042】
例えば、本実施形態では、付勢装置80は一対の付勢ロール81(2本一組)から構成されているが、二対、三対あるいはそれ以上の付勢ロールが配設されていてもよい。
また、本実施形態では、一対の付勢ロール81はフィルム2の流れ方向に対して左右対称としたが、必ずしも左右対称である必要はない。フィルムの性質が流れ方向に対して左右対称でなければ、それに応じて、付勢ロールの形状を左右で異なるように変更してもよい。
付勢ロール81の回転部812A、812Bは円筒状である必要はなく、例えば円錐状、円錐台状であってもよい。
また、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式でもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
さらに、本実施形態では、熱処理装置40として熱風炉を用いたが、赤外線加熱あるいはロール加熱等、公知の加熱方式が採用できる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。なお、装置等として共通する箇所は、実施形態における図の符号と同じ符号を使用した。
[実施例1]
前記した実施形態(図1、図5)において、具体的条件を設定して二軸延伸ナイロンフィルム3を製造した。
結晶性熱可塑性樹脂として、ポリアミド系のナイロン6(相対粘度3.7)を使用し、直径60mmの環状ダイから押し出しした後、15℃の冷却水中で急冷し、直径90mm、厚さ120μmの原反フィルム1(チューブ状ナイロンフィルム、収縮開始温度45℃、融点215℃)を作製した。この原反フィルム1をチューブラー延伸装置10において赤外線ヒータを使用して加熱しながら、延伸倍率MD(フィルムの移動方向)/TD(直交方向)=3.0/3.2で同時二軸延伸して厚さ15μmのフィルム2を得た。
次に、このフィルム2を案内板11とピンチロール12に連続的に供給して折り畳むことにより、扁平なチューブ状のフィルム2とした。
【0044】
次に、この扁平となったフィルム2を予備熱処理装置(予熱炉)20に送通し、ここで、フィルム2に対し170℃で予熱を行い、予め予備処理を行った。予熱炉20の内部には、左右にフィルム2の端部を把持して走行するクリップ411が配設されている。
次に、扁平のフィルム2の両端部を、分離装置30に付属するトリミング装置32で切開して2枚のフィルム2A、2Bに分離した後、それらのフィルム2A、2Bを分離ロール33A、33Bで離隔して内面を空気と接触させ、引き続き溝無しロール34A〜34C間を通すことにより再び重ね合わせた。次に、後述する諸元を有する付勢装置80を介して、フィルム2A、2Bを熱処理装置40に80m/minで導入した。
【0045】
熱処理装置内では、フィルム2A、2Bの両端部を、クリップ411を備えたテンター41で把持しながら、210℃で熱処理(熱固定)を行い、二軸延伸ナイロンフィルム3(フィルム3A、3B)を得た。
そして、フィルム2の熱処理(フィルム3の製造)における連続成形時間を測定した。具体的には、巻取装置60によるフィルム3の巻き取りが安定した時点から、クリップ411からのフィルム2、3のはずれやフィルム2、3の破断により二軸延伸フィルムの製造が停止されるまでの時間を測定して連続成形時間とした。
【0046】
ここで、付勢装置80についての各諸元は以下の通りである。
・回転部812Aの形状・材質:
L1=20cm、直径 4cm、ステンレス製(表面はクロムメッキ)
・回転部812Bの形状・材質:
L2=15cm、直径 4cm、ステンレス製(表面はクロムメッキ)
・回転部812A、812B間の線圧T:
T=134gf/cm
・付勢ロール81の長手方向とフィルム2の幅方向とがなす角度(鋭角)θ:
θ=40度
・付勢ロール81の長手方向が水平面(フィルム2の表面)とのなす角度(鋭角)φ:
φ=0度(付勢ロール81A、81Bとも)
【0047】
表1に、実施例1及び後述する実施例2〜6、比較例1、2で用いた付勢装置80の諸元、及び連続成形時間を示した。
【0048】
[実施例2]
実施例1において、付勢装置80の諸元を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
・回転部812Bの形状・材質:
L2=10cm、直径 4cm、ベークライト製
・付勢ロール81の長手方向とフィルム2の幅方向とがなす角度(鋭角)θ:
θ=20度
・回転部812A、812B間の線圧T:
T=200gf/cm
【0049】
[実施例3]
実施例1において、付勢装置80の諸元を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
・回転部812Bの形状・材質:
L2=10cm、直径 4cm、ベークライト製
・付勢ロール81の長手方向とフィルム2の幅方向とがなす角度(鋭角)θ:
θ=60度
・回転部812A、812B間の線圧T:
T=200gf/cm
【0050】
[実施例4]
実施例1において、付勢装置80の諸元を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
・回転部812Bの形状・材質:
L2=10cm、直径 4cm、ベークライト製
・回転部812A、812B間の線圧T:
T=200gf/cm
【0051】
[実施例5]
実施例1において、付勢装置80の諸元を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
・回転部812Bの形状・材質:
L2=10cm、直径 4cm、ベークライト製
・付勢ロール81の長手方向が水平面とのなす角度(鋭角)φ:
φ=10度(付勢ロール81Aのみ)
【0052】
[実施例6]
実施例1において、付勢装置80の諸元を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
・回転部812Aの形状・材質:
L1=10cm、直径 5cm、ステンレス製(表面はクロムメッキ)
・回転部812Bの形状・材質:
L2=10cm、直径 4cm、ベークライト製
・付勢ロール81の長手方向とフィルム2の幅方向とがなす角度(鋭角)θ:
θ=30度
・回転部812A、812B間の線圧T:
T=160gf/cm
【0053】
[比較例1]
実施例1において、付勢装置80を設置しなかった以外は実施例1と同様に行った。
[比較例2]
実施例1において、付勢装置80から付勢ロール81A(上側のロール)を取り除いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0054】
【表1】

【0055】
[結 果]
表1及び図3に示すように、各実施例では、所定の条件を満たした付勢装置80(付勢ロール81)により、フィルム2の熱処理装置への導入が円滑であるため、フィルム2や熱処理後のフィルム3の破断等が起こりにくく、二軸延伸フィルム製造装置が停止するまでの連続成形時間がどれも十分に長い。すなわち、付勢ロール81が、フィルム2の両端部に対して、優れた付勢効果(幅方向外部への引っ張り効果)を発揮するため、フィルム2は、熱処理装置40の入り口でクリップ411に円滑に引き渡される。
一方、比較例1は、付勢ロールが全く設置されていないため、フィルム2の両端部(耳部)が不安定となり、フィルム2、3がテンター41のクリップ411からのはずれやすく、連続成形時間が極めて短い。
また、比較例2のようにフィルム2の下部側にのみ付勢ロール81Bを設置しても、フィルム2への付勢効果がほとんど働かず、連続成形時間は向上していない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、連続成形時間が十分に長い二軸延伸フィルムの製造方法、及びそのための二軸延伸フィルム製造装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る二軸延伸フィルム製造装置の概略図。
【図2】前記実施形態におけるクリップの側面図
【図3】前記実施形態における付勢装置を水平方向から見た概略図。
【図4】前記実施形態における付勢ロールのトラブル事例を示す図
【図5】前記実施形態における熱処理装置及び付勢装置を上から見た概略図
【符号の説明】
【0058】
1 未延伸原反フィルム
2 基材フィルム
3 二軸延伸フィルム(二軸延伸ナイロンフィルム)
10 二軸延伸装置(チューブラー延伸装置)
20 予備熱処理装置(予熱炉)
30 分離装置
40 熱処理装置
50 張力制御装置
60 巻取装置
80 付勢装置
81 付勢ロール
100 二軸延伸フィルム製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸工程と、二軸延伸後の基材フィルムを熱処理する熱処理工程とを含む二軸延伸フィルムの製造方法であって、
前記熱処理工程の上流側に、前記基材フィルムの両端部を前記基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢工程を備えることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記付勢手段は、前記基材フィルムを両面から挟んで線圧を加えるとともに、基材フィルムの進行に伴い互いに逆回転可能な円筒状の回転部を有する2本一組の付勢ロールであることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記円筒状の回転部により前記基材フィルムに加えられる線圧が、6〜500gf/cmであることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記基材フィルムは、前記熱処理工程に略水平に送通され、
前記2本一組の付勢ロールについて、
前記基材フィルムの上側に位置する回転部の長手方向長さL1と、前記基材フィルムの下側に位置する回転部の長手方向長さL2との比L1/L2が1〜3であることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
前記付勢ロールの長手方向と、前記基材フィルムの幅方向とにより下流側に形成される角度が20〜70度であることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法において、
二軸延伸がチューブラー方式であることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
二軸延伸装置と、二軸延伸後の基材フィルムを熱処理する熱処理装置とを含む二軸延伸フィルム製造装置であって、
前記熱処理装置の上流側に、前記基材フィルムの両端部を前記基材フィルムの幅方向外部に付勢する一対の付勢手段を有する付勢装置を備えることを特徴とする二軸延伸フィルム製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の二軸延伸フィルム製造装置において、
前記付勢手段は、前記基材フィルムを両面から挟んで線圧を加えるとともに、基材フィルムの進行に伴い互いに逆回転可能な円筒状の回転部を有する2本一組の付勢ロールであることを特徴とする二軸延伸フィルム製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−8090(P2007−8090A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193982(P2005−193982)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】