説明

二軸引張り試験装置及び二軸引張り試験用の試験片

【課題】薄肉板状の試験片に引張り力を付与し、試験片の被測定部の面方向中央部に均一な応力−ひずみの実験データを得ることができる二軸引張り試験装置を提供する
【解決手段】試験片1は、方形状の被測定部2と、被測定部の各辺の縁部に形成され、被測定部の縁部から板厚方向の少なくとも一方に突出する厚肉形状のタブ33,4,5とを備えている。試験片チャック部8は、試験片の各辺のタブを保持溝部内に配置し、保持溝部の内壁に前記被測定部から立ち上がる前記タブの縁部が係合して前記引張り力の作用方向に移動することで前記被測定部に引張り力を付与するつかみ治具10,12,13と、被測定部の方形状が拡大しても引張り力が被測定部の各辺の長手方向に均等に付与されるように、被測定部に対するつかみ治具の引張り力の作用方向を調整するつかみ治具調整手段9a,9b、11、15,16を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉板材の試験片に引張り力を付与することで応力−ひずみの実験データを得る二軸引張り試験装置及び二軸引張り試験用の試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のブレーキ用油圧シリンダには、圧縮荷重が作用する部位にゴム製シール部材が使用されている。
ゴム製シール部材のような自動車用ゴム製品の圧縮変形による特性を解析する試験として、ゴム製試験片の単軸圧縮試験を行なうことで応力−ひずみの実験データを取得し、この実験データに基づいて特性を解析する試験が知られている。しかし、ゴム製試験片の短軸圧縮試験は、荷重が大きくなるにつれてゴム製試験片が樽形変形(バルジング)するので、試験片中心軸に垂直な断面に対する垂直応力が一定に設定されず、正確な応力−ひずみの実験データを得ることが難しい。
【0003】
前記短軸圧縮試験に対して、方形状とした二軸引張り試験片の4辺をつかみ治具で保持し、これらつかみ治具にそれぞれ連結した4台の引張駆動部を駆動させることで、二軸引張り試験片に2軸方向の引張り力を付与して応力−ひずみの実験データを得る方法がある(例えば、特許文献1)。この特許文献1の方法の二軸引張り試験片をゴム製試験片とすると、単軸圧縮試験のようなバルジングが発生せず、二軸引張り試験片の面方向中央部に大きなひずみを発生させることができる。
【0004】
しかし、この特許文献1の二軸引張り試験方法は、二軸引張り試験片の各辺の端部が、この端部の板厚方向に当接した一対のつかみ用摩擦板を備えたつかみ治具により板厚方向から挟持されており、このつかみ治具を介して二軸引張り試験片に引張り力が付与されているので、二軸引張り試験片の板厚方向に挟持されている端部に応力が集中しやすく、正確な応力−ひずみの実験データが得られにくい。
そこで、二軸引張り試験片の端部を挟持せず、端部に応力を集中させずに引張り力を付与する二軸引張り試験方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0005】
特許文献2の方法は、方形状の被測定部と、この被測定部を囲むように各辺の縁部に形成され、被測定部の縁部から板厚方向の一方、又は両方に突出する帯状の被つかみ部とを備えた薄肉板状の二軸引張り試験片を使用している。そして、この二軸引張り試験片の各辺の角部の被つかみ部を、分割構造のつかみ治具の溝部内に配置し、辺方向及び角部方向に互いに対向配置した一対のつかみ治具同士が反対方向に移動するように直動駆動部を作動することで、各つかみ治具の溝部内壁に被測定部から立ち上がる被つかみ部の縁部を係合させ、被測定部の縁部に応力を集中させずに二軸引張り試験片に引張り力を付与するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−109609号公報
【特許文献2】特開2003−207430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の方法は、辺方向及び角部方向に互いに対向配置した一対のつかみ治具同士を反対方向に移動させることで、方形状の被測定部に大きなひずみが発生するようにしているが、各対のつかみ治具を同一移動量で移動させる直動アクチュエータの機構が複雑である。また、直動アクチュエータを精度良く駆動しなければ、二軸引張り試験片の各辺に沿って均等に引張り力が付与されず、被測定部の面中央部に均一な応力−ひずみの実験データを得ることが難しい。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、薄肉板状の試験片に引張り力を付与する構成の簡便化を図りながら被測定部の面方向中央部に大きなひずみを発生させるとともに、被測定部の面方向中央部に均一な応力−ひずみの実験データを得ることができる二軸引張り試験装置及び二軸引張り試験用の試験片を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の二軸引張り試験装置は、薄肉板状の試験片に互いに直交する2軸の四方向から試験片チャック部を介して引張り力を付与することにより、前記試験片の引張り試験を行なう装置であって、前記試験片は、方形状の被測定部と、この被測定部の各辺の縁部に形成され、前記被測定部の縁部から板厚方向の少なくとも一方に突出する厚肉形状のタブとを備え、前記試験片チャック部は、前記試験片の各辺の前記タブを保持溝部内に配置し、前記保持溝部の内壁に前記被測定部から立ち上がる前記タブの縁部が係合して前記引張り力の作用方向に移動することで前記被測定部に引張り力を付与するつかみ治具と、前記被測定部の方形状が拡大しても前記引張り力が前記被測定部の各辺の長手方向に均等に付与されるように、前記被測定部に対する前記つかみ治具の前記引張り力の作用方向を調整するつかみ治具調整手段と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
この発明によると、試験片チャック部は、試験片の各辺のタブを保持溝部内に配置し、保持溝部の内壁に、試験片の被測定部から立ち上がるタブの縁部が係合して引張り力の作用方向に移動することで被測定部に引張り力を付与するつかみ治具を備えているので、試験片のタブ近傍の被測定部に応力が集中せず、被測定部に正確な応力−ひずみの実験データを得ることが可能となる。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の二軸引張り試験装置において、前記試験片チャック部の前記つかみ治具は、前記試験片の各辺の前記タブの長手方向中央位置に係合し、前記引張り力の作用方向に沿って移動するセンタつかみ治具と、このセンタつかみ治具に対して前記タブの長手方向の一方及び他方に離間して前記タブに係合する少なくとも2つのサイドつかみ治具とを備え、前記つかみ治具位置調整手段は、前記センタつかみ治具の移動方向に直交する方向に延在して当該センタつかみ治具に固定されている治具案内シャフトを備え、前記サイドつかみ治具は、前記治具案内シャフトに軸方向に移動自在とされながら支持されており、前記被測定部の方形状の拡大により前記サイドつかみ治具の前記引張り力の作用方向がずれた場合には、前記サイドつかみ治具が前記治具案内シャフトの軸方向に移動することで前記作用方向が矯正されるようにした。
【0012】
この発明によると、試験片チャック部のつかみ治具を構成するセンタつかみ治具及び少なくとも2つのサイドつかみ治具は、被測定部の四方の各辺の長手方向に沿って均等に引張り力を付与し、被測定部の面中央部に、均一で大きな領域の応力−ひずみの実験データを得ることが可能となる。また、本発明のチャック部は、簡便な構造としながら被測定部の四方の各辺に沿って均等に引張り力を付与することができるので、装置コストの低減化を図ることができる。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の二軸引張り試験装置で使用する試験片であって、試験片の前記タブは、長手方向に分割された複数の分割タブで構成されており、隣接する前記分割タブ同士の間の基部に、曲面形状の切欠き部が形成されている。
この発明によると、長手方向に分割された複数の分割タブの隣接する分割タブ同士の間の基部に曲面形状の切欠き部を形成したことで、この曲面形状の切欠き部の周縁に応力が集中しにくくなり、さらに試験片の被測定部に正確な応力−ひずみの実験データが得られる。
【0014】
さらに、請求項4記載の発明は、請求項2記載の二軸引張り試験装置で使用する試験片であって、試験片の前記タブは、長手方向に分割された複数の分割タブで構成され、前記センタつかみ治具に係合するセンタタブと、前記少なくとも2つのサイドつかみ治具にそれぞれ係合する複数のサイドタブとを備えている。
この発明によると、試験片チャック部のつかみ治具を構成するセンタつかみ治具及び少なくとも2つのサイドつかみ治具が、試験片の被測定部の各辺に分割タブとして形成したセンタタブ及びサイドタブに係合するので、被測定部の四方の各辺の長手方向に沿って、さらに均等に引張り力が付与される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る二軸引張り試験装置によると、試験片チャック部は、試験片の方形状の被測定部の縁部に形成した各辺のタブに係合して引張り力の作用方向に移動することで被測定部に引張り力を付与するつかみ治具と、被測定部の方形状が拡大しても引張り力が被測定部の各辺の長手方向に均等に付与されるように、被測定部に対する前記つかみ治具の前記引張り力の作用方向を調整するつかみ治具調整手段とを備えており、試験片の各辺のタブ近傍の被測定部に応力を集中させないので、試験片の被測定部の面中央部に、均一で大きな領域の応力−ひずみの実験データを正確に得ることができる。
また、本発明に係る二軸引張り試験で使用する試験片によると、方形状の被測定部の四方にさらに均一の引張り力が付与されるので、被測定部の応力−ひずみの実験データの精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る二軸引張り試験装置で使用する試験片を示す図である。
【図2】図2のA−A線矢視図である。
【図3】本発明に係る二軸引張り試験装置の概要を示す図である。
【図4】本発明に係る二軸引張り試験装置の試験片チャック部の構成を示す図である。
【図5】試験片チャック部を構成するセンタつかみ治具を示す図である。
【図6】センタつかみ治具を構成する第1係合部を示す図である。
【図7】センタつかみ治具を構成する第2係合部を示す図である。
【図8】試験片チャック部を構成するサイドつかみ治具の第1係合部を示す図である。
【図9】センタつかみ治具が試験片のセンタタブに引張り力を付与している状態を示す図である。
【図10】図10(a)は、第1軸方向に配置した試験片チャック部及び試験片の係合状態、図10(b)は、試験片チャック部を介して試験片に第1軸のA方向に引張り力が付与されている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の二軸引張り試験装置で使用される試験片1を示すものである。この試験片1はゴム材料からなる薄肉板状の部材であり、板厚が均一で正方形状の被測定部2と、この被測定部2の各辺に、互いに分割して形成された3個のタブ3、4,5とを備えている。
【0018】
符号3で示すタブは、被測定部2の各辺の長手方向の中央位置に形成されており、図2に示すように、被測定部2の縁部から板厚方向に突出し、被測定部2より肉厚が増大した正方形状の部位である(以下、このタブ3をセンタタブ3と称する)。
符号4,5で示すタブは、センタタブ3に対して長手方向の一方及び他方に等距離に離間した位置に形成されており、被測定部2の縁部から板厚方向に突出し、被測定部2より肉厚が増大した正方形状の部位である(以下、これらタブ4,5をサイドタブ4,5と称する)。
そして、これらセンタタブ3及びサイドタブ4、5の間の基部には、曲面形状の切欠き部6が形成されており、被測定部2の隣接する辺のサイドタブ4,5の間の基部にも、曲面形状の切欠き部7が形成されている。
【0019】
次に、図3は、本実施形態の二軸引張り試験装置を示すものである。
本実施形態の二軸引張り試験装置は、試験片1の各辺のセンタタブ3、サイドタブ4,5に係合する4箇所のチャック部8を備えており、各チャック部8は、互いに直交する二軸(第1軸S1、第2軸S2)に配置した引張り駆動部(不図示)から四方向(矢印A,B,C,D方向)の引張り力が伝達されることで、試験片1に対して引張り試験を行なう。
【0020】
第1軸S1のA方向に配置され、試験片1と引張り駆動部の間に配置されるチャック部8は、図4に示すように、第1軸S1のA方向に沿って移動するチャック部本体9と、このチャック部本体9に一体に形成され、試験片1のセンタタブ3に係合するセンタつかみ治具10と、このセンタつかみ治具10に対して平行に配置されてサイドタブ4,5にそれぞれ係合し、チャック部本体9に第1軸S1に直交する方向に延在して固定された治具案内シャフト11に連結されたサイドつかみ治具12,13とを備えている。
【0021】
チャック部本体9は、図4に示すように、引張り駆動部に固定され、第1軸S1に直交する方向に延在している主杆部9aと、この主杆部9aの長手方向中央部からA方向に対して逆方向に延在してセンタつかみ治具10に一体化されているセンタアーム9bと、主杆部9aの両端部からA方向に対して逆方向に平行に延在している一対のサイドアーム9c,9dとを備えている。
前述した治具案内シャフト11は、その長手方向の中央部が主杆部9aに形成した係合穴14に挿入されて第1軸S1に直交する方向に延在しており、その両端部が、一対のサイドアーム9c,9dの先端部に固定されている。
【0022】
サイドつかみ治具12,13には、サイドタブ4,5に係合する位置からA方向に離間した位置に摺動穴15,16が形成されており、これら摺動穴15,16に治具案内シャフト11が挿通されている。これにより、サイドつかみ治具12,13は、治具案内シャフト11の軸方向に移動自在とされながらチャック部本体9に連結している。
センタつかみ治具10は、図5に示すように、試験片1のセンタタブ3を収容する保持溝部を画成する互いに分離可能な第1係合部17及び第2係合部18とを備えており、これら第1係合部17及び第2係合部18は、連結ボルト19により一体化されている。
【0023】
第1係合部17は、前述したチャック部本体9のセンタアーム9bに一体に形成された部位であり、図6に示すように、センタタブ3の肉厚方向の一方の平面が当接し、厚肉方向の略半分の領域を収容する収容凹部17aと、試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の一方の平面側の縁部に対向している係合壁部17bと、連結ボルト19が挿通するボルト挿通穴17cと、第2係合部18の一部が入り込む凹部17dとが形成されている。
【0024】
また、第2係合部18は、図7に示すように、センタタブ3の肉厚方向の他方の平面が当接し、厚肉方向の残りの略半分の領域を収容する収容凹部18aと、試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の他方の平面側の縁部に対向している係合壁部18bと、連結ボルト19が螺合するねじ穴18cと、第1係合部17の凹部17dに入り込む凸部18dとが形成されている。なお、前述した保持溝部は、第1係合部17の収容凹部17a及び第2係合部18の収容凹部18aで構成される。
【0025】
また、サイドつかみ治具12は、図8に示す第1係合部20と、図7で示した第2係合部18とで構成されており、これら第1係合部20及び第2係合部18も、連結ボルト19で一体化される。
図8の第1係合部20は、前述した治具案内シャフト11が摺動自在に挿通する摺動穴15が形成されているとともに、サイドタブ4の肉厚方向の一方の平面が当接し、厚肉方向の略半分の領域を収容する収容凹部20aと、試験片1の被測定部2から立ち上がるサイドタブ4の一方の平面側の縁部に対向している係合壁部20bと、連結ボルト19が挿通するボルト挿通穴20cと、第2係合部18の凸部18dが入り込む凹部20dとが形成されている。
【0026】
また、第2係合部18の収容凹部18aには、サイドタブ4の肉厚方向の他方の平面が当接し、厚肉方向の残りの略半分の領域が収容され、係合壁部18bに、試験片1の被測定部2から立ち上がるサイドタブ4の他方の平面側の縁部が対向し、凸部18dが第1係合部19の凹部19dに入り込み、ねじ穴18cに、ボルト挿通穴20cを通過した連結ボルト19が螺合する。なお、サイドつかみ治具12の保持溝部は、第1係合部20の収容凹部20a及び第2係合部18の収容凹部18aで構成される。
また、他のサイドつかみ治具13も、上述したサイドつかみ治具12と同様の構成である。
【0027】
次に、上記構成の二軸引張り試験装置の作用効果について、図9及び図10を参照しながら説明する。
上記構成の二軸引張り試験装置は、試験片1の各辺に分割して形成したセンタタブ3、サイドタブ4,5にチャック部8を係合し、互いに直交する二軸(第1軸S1、第2軸S2)からチャック部8を介して引張り駆動部から四方向(矢印A,B,C,D方向)の引張り力を伝達することで、試験片1に対して引張り試験が行なわれる。
【0028】
この引張り試験の際、図9に示すように、試験片1の各辺のセンタタブ3に係合するチャック部8のセンタつかみ治具10は、第1係合部17の係合壁部17bが試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の一方の平面側の縁部に当接し、第2係合部18の係合壁部18bが試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の他方の平面側の縁部に当接した状態で試験片1の被測定部2に引張り力を付与する。
【0029】
また、図示しないが、試験片1の各辺のサイドタブ4,5に係合するチャック部8のサイドつかみ治具12,13も、第1係合部20の係合壁部20bが試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の一方の平面側の縁部に当接し、第2係合部18の係合壁部18bが試験片1の被測定部2から立ち上がるセンタタブ3の他方の平面側の縁部に当接した状態で試験片1の被測定部2に引張り力を付与する。
【0030】
このように、本実施形態は、試験片の端部を挟持して引張り力を付与している従来の二軸引張り装置とは異なり、試験片1の各辺のセンタタブ3、サイドタブ4,5近傍の被測定部2に応力を集中させずに応力−ひずみの実験データを得ることができるので、被測定部2に正確なデータを得ることができる。
しかも、本実施形態の試験片1のセンタタブ3、サイドタブ4,5の基部の間には曲面形状の切欠き部6が形成されており、この曲面形状の切欠き部6の周縁にも応力が集中しにくいので、被測定部2は、さらに正確な応力−ひずみの実験データを得ることができる。
【0031】
また、図10(a)は、第1軸S1方向にチャック部8を介して引張り駆動部に連結し、引張り力が付与される前の試験片1を示し、図10(b)は、第1軸S1のA方向に引張り力が付与され続けている試験片1及びチャック部8の挙動を示すものである。
四方向の引張り力が付与される試験片1は、方形状の面積が徐々に拡大するよう被測定部2が変形していく。このとき、図10(b)に示すように、試験片1の第1軸S1のA方向に引張り力が付与されている側は、センタタブ3がA方向に移動していくとともに、一方のサイドタブ4が、A方向に移動していきながらセンタタブ3から離間する方向に移動していき、他方のサイドタブ5は、A方向に移動していきながらセンタタブ3から離間する方向に移動していく。
【0032】
上記のような試験片1のサイドタブ4,5の移動に伴い、これらサイドタブ4,5に係合しているサイドつかみ治具12,13は、第1軸S1に直交する方向に延在した治具案内シャフト11に案内されながらセンタつかみ治具10から離間する方向に移動していき、治具案内シャフト11に直交する向き、すなわち、第1軸S1のA方向に沿うように向きが調整される。
このように、試験片1の被測定部2が徐々に面積が拡大していくと、サイドつかみ治具12,13は、サイドタブ4,5に対して第1軸S1のA方向に沿う方向に引張り力を付与する位置に向きが調整されるので、第1軸S1のA方向を向く試験片1の被測定部2の各辺の長手方向に沿って均等に引張り力が付与される。
【0033】
また、第1軸S1のA方向に限らず、図3に示した第1軸S1のC方向、第2軸S2のB方向及び第2軸S2のD方向に配置したチャック部8も、サイドタブ4,5に係合しているサイドつかみ治具12,13が、第1軸S1のC方向、第2軸S2のB方向及び第2軸S2のD方向に沿うように向きが調整される。
したがって、本実施形態は、試験片1の被測定部2の四方の各辺の長手方向に沿って均等に引張り力が付与されるので、被測定部2の面中央部に、均一で大きな領域の応力−ひずみの実験データを得ることができる。
【0034】
また、本実施形態の二軸引張り試験装置で使用されているチャック部8は、第1軸S1及び第2軸S2に沿って移動するチャック部本体9と、チャック部本体9に一体に形成されたセンタつかみ治具10と、チャック部本体9に第1軸S1に直交する方向に延在して固定された治具案内シャフト11と、治具案内シャフト11の軸方向に移動自在に係合してセンタつかみ治具10に対して平行に配置されたサイドつかみ治具12,13とからなる簡便な構造としながら試験片1の被測定部2の四方の各辺に沿って均等に引張り力を付与することができるので、装置コストの低減化を図ることができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、試験片1としてゴム材料からなる薄肉板状の部材を使用したが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、アルミニウム等の非鉄金属からなる薄肉板状の部材を試験片として二軸引張り試験を行なっても同様の効果を奏することができる。
また、上記実施形態では、試験片1のこの被測定部2の各辺に、互いに分割して形成した3個のセンタタブ3、サイドタブ4,5を形成しているが、タブの数が本発明の要旨に限定されるものでない。
【符号の説明】
【0036】
1…試験片、2…被測定部、3…センタタブ(分割タブ)、4,5…サイドタブ(分割タブ)、6…切欠き部、8…チャック部(試験片チャック部)、9…チャック部本体、9a…主杆部、9b…センタアーム、9c,9d…サイドアーム、10…センタつかみ治具、11…治具案内シャフト、12,13…サイドつかみ治具、14…係合穴、15,16…摺動穴、17…第1係合部、17a…収容凹部、17b…係合壁部、17c…ボルト挿通穴、17d…凹部、18…第2係合部、18a…収容凹部、18b…係合壁部、18c…ねじ穴、18d…凸部、19…連結ボルト、20…第1係合部、20a…収容凹部、20b…係合壁部、20c…ボルト挿通穴、20d…凹部、S1…第1軸、S2…第2軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉板状の試験片に互いに直交する2軸の四方向から試験片チャック部を介して引張り力を付与することにより、前記試験片の引張り試験を行なう装置であって、
前記試験片は、方形状の被測定部と、この被測定部の各辺の縁部に形成され、前記被測定部の縁部から板厚方向の少なくとも一方に突出する厚肉形状のタブとを備え、
前記試験片チャック部は、前記試験片の各辺の前記タブを保持溝部内に配置し、前記保持溝部の内壁に前記被測定部から立ち上がる前記タブの縁部が係合して前記引張り力の作用方向に移動することで前記被測定部に引張り力を付与するつかみ治具と、前記被測定部の方形状が拡大しても前記引張り力が前記被測定部の各辺の長手方向に均等に付与されるように、前記被測定部に対する前記つかみ治具の前記引張り力の作用方向を調整するつかみ治具調整手段と、を備えていることを特徴とする二軸引張り試験装置。
【請求項2】
前記試験片チャック部の前記つかみ治具は、前記試験片の各辺の前記タブの長手方向中央位置に係合し、前記引張り力の作用方向に沿って移動するセンタつかみ治具と、このセンタつかみ治具に対して前記タブの長手方向の一方及び他方に離間して前記タブに係合する少なくとも2つのサイドつかみ治具とを備え、
前記つかみ治具位置調整手段は、前記センタつかみ治具の移動方向に直交する方向に延在して当該センタつかみ治具に固定されている治具案内シャフトを備え、
前記サイドつかみ治具は、前記治具案内シャフトに軸方向に移動自在とされながら支持されており、前記被測定部の方形状の拡大により前記サイドつかみ治具の前記引張り力の作用方向がずれた場合には、前記サイドつかみ治具が前記治具案内シャフトの軸方向に移動することで前記作用方向が矯正されるようにしたことを特徴とする請求項1記載の二軸引張り試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の二軸引張り試験装置で使用する試験片であって、
試験片の前記タブは、長手方向に分割された複数の分割タブで構成されており、隣接する前記分割タブ同士の間の基部に、曲面形状の切欠き部が形成されていることを特徴とする二軸引張り試験装置用の試験片。
【請求項4】
請求項2記載の二軸引張り試験装置で使用する試験片であって、
試験片の前記タブは、長手方向に分割された複数の分割タブで構成され、前記センタつかみ治具に係合するセンタタブと、前記少なくとも2つのサイドつかみ治具にそれぞれ係合する複数のサイドタブとを備えていることを特徴とする二軸引張り試験装置用の試験片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−32219(P2012−32219A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170572(P2010−170572)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 加藤 数良,平成21年度 卒業研究概要集 日本大学生産工学部 機械工学科,127〜128頁,2010年2月24日発行
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(000158840)鬼怒川ゴム工業株式会社 (171)
【Fターム(参考)】