説明

二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】厚みの薄い二軸配向ポリエステルフィルムに、高温で加工するときのシワなどの発生が少ない優れた寸法安定性を、ブロッキングなどの問題なく短時間で効率的に付与できる二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】ポリエステルのガラス転移点(Tg(℃))以上Tg+20℃以下の温度にまで加熱されたコアに、厚みが3〜10μmの二軸延伸ポリエステルフィルムをTg以上(Tg+20℃)以下の温度に加熱しつつ巻き取り、巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムを(Tg−60℃)または室温のいずれか高い温度まで徐冷速度0.5℃/hr以上50℃/hr以下で徐冷する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みの薄い二軸配向ポリエステルフィルムに、高温で加工するときのシワなどの発生が少ない優れた寸法安定性を、ブロッキングなどの問題なく短時間で効率的に付与できる二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに代表される芳香族ポリエステルは、優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有するのでフィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有し、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
そのような中、磁気記録媒体を製造する工程においては、ベースフィルムの表面に磁性層を形成するときにシワの発生を抑制することが求められている。このシワは、高温でかつ張力がかかるため、ベースフィルムがその製膜方向に沿って伸びることによるものである。
【0004】
ところで、特許文献1および2では、磁気テープのクリープコンプライアンスを改良するために、磁気テープを構成する非磁性支持体、すなわち二軸配向ポリエステルフィルムを、該フィルムのポリエステルのTg(ガラス転移点)以下の温度で長時間熱処理し、0.5J/g以上のエンタルピー緩和量を具備させることが提案されている。そして、これらの特許文献に記載されたエンタルピー緩和量を有する実施例のフィルムを見ると、Tg以下ではあるもののTg近い温度で24時間以上といった非常に長時間の熱処理がフィルムロールの状態で行われている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−250078号公報
【特許文献2】特開2007−188613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、厚みの薄い二軸配向ポリエステルフィルムに、高温で加工するときのシワなどの発生が少ない優れた寸法安定性を、ブロッキングなどの問題なく短時間で効率的に付与できる二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究したところ、二軸配向ポリエステルフィルムに、特許文献1や2に記載された熱処理を行うことで、高温加工時のシワの発生が抑制できることを見出した。ただ、これらの特許文献に記載された方法は、非常に長時間フィルムロールの状態でTg近傍の温度で保持されるため、厚みが10μm以下といった非常に厚みの薄いフィルムの場合、ブロッキングなどの欠陥が生じて、得られる製品の歩留まりを著しく低下させてしまい、また、このように非常に長い間、高温で保管できる場所を確保しなくてはならず、実際に工業的に用いることは生産性の点から困難であった。
【0008】
そこで、さらに鋭意研究したところ、二軸配向ポリエステルフィルムをコアに巻き取ってフィルムロールとする際に、特定の処理を行うことで、改めて長時間熱処理しなくても簡便に高温での加工時のシワの発生を抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、「ポリエステルのガラス転移点(Tg(℃))以上Tg+20℃以下の温度にまで加熱されたコアに、厚みが3〜10μmの二軸延伸ポリエステルフィルムをTg以上(Tg+20℃)以下の温度に加熱しつつ巻き取り、巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムを(Tg−60℃)または室温のいずれか高い温度まで徐冷速度0.5℃/hr以上50℃/hr以下で徐冷する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の好ましい態様として、巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムを断熱材で覆うこと、二軸延伸ポリエステルフィルムの無荷重下105℃で30分間処理したときの熱収縮率が、製膜方向で−0.8〜0.8%、幅方向で−0.3〜0.3%の範囲にあること、二軸延伸ポリエステルフィルムは、一方の表面における表面粗さ(WRaA)が1.0〜4.0nmの範囲にあり、他方の表面における表面粗さ(WRaB)が5.0〜12.0nmの範囲にあること、ポリエステルは、エチレンテレフタレートまたは2,6−ナフタレンジカルボンキシレートを主たる繰り返し単位とすること、ポリエステル中のジカルボン酸成分の5モル%以上50モル%未満が下記式(I)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分であること、二軸配向ポリエステルフィルムが磁気記録テープの支持体に用いられることの少なくともいずれかを具備する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法が提供される。
【0011】
【化1】

(式(I)中のRは、炭素数2〜10のアルキレン基を示す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法によれば、厚みが3〜10nmといった非常に厚みの薄い二軸配向ポリエステルフィルムに、ブロッキングを抑えつつ、非常に短時間で高温加工時のシワを抑制できる熱処理を行えることから、極めて生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の製造方法に供される二軸配向ポリエステルフィルムは、その厚みが3〜10μm、さらに3.3〜7μm、特に3.5〜5.5μの範囲である。厚みが下限未満では、得られる二軸配向ポリエステルフィルムが加工時や磁気記録テープとして繰り返し走行するときに伸びやすくなる。他方、上限を超えると磁気記録テープとしたときの格納できる磁気テープの長さが短くなる。
【0014】
なお、説明の便宜上、Tgはポリエステルのガラス転移点(℃)を意味し、前述の本発明におけるTg(ガラス転移点)以上(Tg+20℃)以下の温度で巻き取り、−0.5℃/hr以上−50℃/hr以下の速度で(Tg−60℃)以下または室温のいずれか高い温度まで徐冷する工程を経る前のフィルムを二軸延伸ポリエステルフィルム、経た後のフィルムを二軸配向ポリエステルフィルムと称する。また、本発明におけるフィルムの面方向とはフィルムの厚みに直交する面の方向であり、フィルムの製膜方向(縦方向)をMachine Direction(MD)、フィルムの幅方向(横方向)、すなわちフィルムの製膜方向(MD)に直交する方向をTransverse Direction(TD)方向という。また、コアの周囲に二軸延伸ポリエステルフィルムを巻き取ったものがフィルムロールであり、フィルムロールのコア近傍を巻芯部、フィルムロールの表層付近を最外層部または外周部と称することがある。
【0015】
本発明の製造方法の特徴は、第1に、それ自体公知の方法で製造された前述の厚みを有する二軸延伸ポリエステルフィルムを、Tg以上Tg+20℃以下の温度にまで加熱されたコアに、巻き取ることにある。コアの温度が下限未満では、本発明で使用する二軸延伸フィルムが厚み10μm以下と非常に薄いことから、コア近傍に巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムが急激に冷却され、目的とする特性を具備させることができない。一方、コアの温度が上限を超えると、ヤング率などの物性が損われたり、ブロッキングなどが生じやすくなる。好ましいコアの温度は、Tg以上〜Tg+10℃である。なお、コアは巻き取り開始の時にその温度まで加熱されていれば良く、巻き取りを開始してから後は、徐々に冷却されていってよい。本発明で使用するコアとしては、通常使用されているものをそのまま用いることができる。
【0016】
本発明の製造方法の特徴は、第2に、二軸延伸ポリエステルフィルムをTg以上(Tg+20℃)以下の温度に加熱しつつ巻き取ることにある。本発明で使用する二軸延伸フィルムは、前述の通り、厚みが10μm以下と薄いことから、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する工程、例えば延伸工程や熱固定処理工程で加熱されても、巻き取られるまでに冷えてしまう。そのため、コアの周囲に二軸延伸ポリエステルフィルムが巻き取られたフィルムロールの表面の少なくとも一部が、上記温度範囲となるように、巻き取られる直前もしくは巻き取られた後の二軸延伸ポリエステルフィルムを、赤外線ヒーターや温風の吹き出し口などによって加熱することが必要である。このようにして巻き取ることで、二軸延伸ポリエステルフィルムは加熱された状態で巻き取られ、内部に位置する二軸延伸ポリエステルフィルムの冷却速度を、後述の範囲とすることもできる。好ましい加熱温度はTg以上Tg+10℃以下の範囲である。なお、巻き取りは一度加熱された二軸延伸ポリエステルフィルムがなるべく放冷しない様に速い速度で巻き取ることが望ましい。
【0017】
また、このようにして巻き取ることで、巻き取った状態ですでに巻芯部から巻外部までほぼ均一に希望する温度にすることもできる。これに対して、フィルムロールの状態で室温から加熱すると、フィルムロールの巻芯部まで十分に温めるのに2日とかいった非常に長時間が必要となり、また巻芯部と巻外部で20℃以上の大きな温度差が生ずる。
【0018】
本発明の製造方法の特徴は、第3に、このようにして巻き取った二軸延伸ポリエステルフィルムをTg−60℃以下もしくは室温までのいずれか高い温度まで、好ましくはTg−70℃以下のもしくは室温までのいずれか高い温度まで、0.5℃/hr以上50℃/hr以下の徐冷速度で徐冷する。なお、徐冷速度は、フィルロールに巻き取った直後の温度(T)から、Tg−60℃の温度になるまでの時間(t)を計測し、(T―Tg+60℃)/t(hr)で算出したものである。徐冷速度が上限を超えると、冷却が早すぎ、充分な効果を挙げることができない。一方、徐冷速度が下限未満では、一定温度での場合と同様で処理に時間がかかりすぎてしまい、ブロッキングが生じやすくなり充分な徐冷効果が得られない。好ましい徐冷速度は、2℃/hr以上30℃/hr以下である。なお、蒸気徐冷速度は、フィルムロールの状態で見たとき、巻芯部および外周部がともに満足することが必要である。
【0019】
ところで、前述のとおり、コアの近傍にある二軸延伸ポリエステルフィルムは、コアが加熱されており、またその周囲に加熱された二軸延伸ポリエステルフィルムが巻かれることから、コアの温度や材質また周囲に巻かれる二軸延伸ポリエステルフィルムの温度や巻き取り速度などによって徐冷速度を前述の範囲に調整できる。しかしながら、最外層部に巻かれた二軸延伸ポリエステルフィルムは、非常に厚みが薄いため、急激に冷却が進みやすく、巻き取った状態のまま単に放置したのでは、徐冷速度を上記範囲にすることが困難のとなる。そのような点から、フィルムロールの周囲に断熱材を巻き付けて、徐冷させることが、より外周部の徐令速度を緩やかにし、巻芯部と同様な特性を具備させやすいことから好ましい。さらに均一な熱処理を施すには、上述の方法で加熱した二軸延伸ポリエステルフィルムを恒温槽に入れ、希望する冷却速度で恒温槽内を冷却してもよいが、工業的に行うにはそのような恒温層を多数用意する必要があり、前述の断熱材で周囲を覆うのが好ましい。なお、断熱材は、巻き取った二軸延伸ポリエステルフィルムの温度まで加熱しておいたものを用いるのが、より徐冷速度を緩やかにしやすいことから好ましい。
【0020】
このようにして、徐冷により室温以上でかつTg−60℃以下の温度までの冷却した二軸配向ポリエステルフィルムは、そのまま室温まで冷却してもよく、また徐冷停止温度から、所定の温度あるいは室温まで急冷してもよい。急冷する方法としては、ロールを巻き換えながら冷却ロールに接触させる方法や、冷風を送って冷却する方法などを実施することができる。
【0021】
さらに、本発明の好ましい態様について、まずポリエステルについて説明する。
本発明で使用するポリエステルは、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合によって得られるポリマーである。かかるジカルボン酸成分として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が挙げられ、またジオール成分として、例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。
【0023】
また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点からポリエステルは、酸成分の5モル%以上50モル%未満が前記構造式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸からなることが好ましい。
【0024】
前述の構造式(I)で示される具体的な酸成分としては、Rの部分が炭素数2〜10のアルキレン基であるものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられる。これらの中でもヤング率などの機械的特性を高めやすい点から、上記構造式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特にRの炭素数が2である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が下限未満では、共重合したことによる湿度膨張係数の低減効果などが発現されがたい。一方、上限は成形性などの観点から50モル%未満が好ましい。また、驚くべきことに、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合したことによる湿度膨張係数の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、50モル%以上添加しても湿度膨張係数の観点からの効果は飽和状態になるともいえる。そのような観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量の上限は、45モル%以下、さらに40モル%以下、よりさらに35モル%以下、特に30モル%以下であり、他方下限は、5モル%以上、さらに7モル%以上、よりさらに10モル%以上、特に15モル%以上である。このような特定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合した芳香族ポリエステル(a)を用いることで、より温度膨張係数と湿度膨張係数も小さい二軸配向ポリエステルフィルムとすることができる。
【0025】
ところで、本発明におけるポリエステルが、特定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合したポリエステルである場合、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有する繰り返し単位と6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有しない繰り返し単位とが隣接する割合を抑制することで、より高温加工時の伸びを抑制できる。そのような観点から、単純に6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合させるのではなく、例えば6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を大量に共重合したポリエステル樹脂と、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を少量共重合したもしくは共重合していないポリエステル樹脂とを用意し、それらを溶融混練させることが好ましい。また、このような方法を採用することで、いろいろな共重合量のものを、簡便に用意できるという利点もある。
【0026】
本発明におけるポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有しない場合はο-クロロフェノール中、35℃において、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有する場合はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒中、35℃において、測定したときの固有粘度が0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜1.0dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が1.0dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下する。なお、このような固有粘度を有するポリエステルは、それ自体公知の方法で製造することができる。例えば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸(以下、ANAと略すことがある)を共重合している場合、ANA、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコール等のジオール成分とを反応させポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在下で重合することで製造できる。もちろん、必要に応じて固相重合などを施しても良い。
【0027】
また、本発明におけるポリエステルはDSCで測定した融点が、200〜280℃の範囲、さらに205〜270℃の範囲、特に210〜265℃の範囲であることが好ましい。融点が上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0028】
さらにまた、本発明におけるポリエステルのDSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは70〜150℃、より好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃の範囲にある。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムが得られる。融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。なお、本発明における熱処理の効果は、Tg以上の温度にさらされると消失する。そのため、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルのTgは90℃以上あることが、その後の加工工程や使用雰囲気などによって消失されにくいことから好ましい。
【0029】
本発明におけるポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を共重合しても良い。また、本発明におけるポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合した組成物としても良い。他種熱可塑性ポリマーとしては、液晶性樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。もちろん、上述のポリエステルは、フィルムにしたときの走行性や巻き取り性などの観点から、それ自体公知の滑剤、例えば不活性粒子などを含有させてもよい。
【0030】
つぎに、本発明で使用する二軸延伸ポリエステルフィルムについて説明する。
まず、本発明は前述の徐冷による熱処理を採用していることから、特許文献1や2のような熱処理と違って、得られる二軸配向ポリエステルフィルムの平面性が損なわれにくいが、さらに使用する二軸延伸ポリエステルフィルムの熱収縮特性が、以下の範囲にあると、より平面性を維持しやすい。具体的には、二軸延伸ポリエステルフィルムは、無荷重下で105℃で30分間処理したときの熱収縮率が、製膜方向で−0.8〜0.8%、幅方向で−0.3〜0.3%の範囲にあることが好ましく、さらに製膜方向で−0.6〜0.6%、幅方向で−0.2〜0.2%の範囲、特に製膜方向で−0.5〜0.5%、幅方向で−0.1〜0.1%の範囲にあることが好ましい。
【0031】
また、本発明によって得られる二軸配向ポリエステルフィルムを、磁気記録テープのベースフィルムに用いる場合、二軸延伸ポリエステルフィルムは、一方の表面における表面粗さ(WRaA)が1.0〜4.0nmの範囲にあり、他方の表面における表面粗さ(WRaB)が5.0〜12.0nmの範囲にあることが好ましい。いずれかの面の表面粗さが下限未満であると、熱処理後の二軸配向ポリエステルフィルムの滑り性が悪く、加工時にシワができたりする。他方、いずれかの面の表面粗さが上限を超えると、磁性層を形成する面の表面が粗いか、他方の面の凹凸が転写してやはり磁性層を形成する面の表面が粗くなり、磁気記録テープとしたときに、電磁変換特性などが乏しくなりやすい。なお、このように平坦な表面であると非常にブロッキングが生じやすいが、本発明の製造方法では、比較的短時間で処理を行えることからブロッキングを抑制できる。そのような観点から、二軸延伸ポリエステルフィルムの表面粗さが上記範囲内にある場合、本発明の効果がより効果的に発現するともいえる。
【0032】
このような二軸延伸ポリエステルフィルムの表面粗さは、それ自体公知の方法で適宜調整すればよい。例えば、ポリエステル中に不活性粒子を含有させ、その含有させる不活性粒子の平均粒径を大きくするか、含有量を増やすことで、表面粗さは大きくすることができる。また、表裏の表面粗さを変えるには、例えば不活性粒子の含有量や含有する不活性粒子の平均粒径が異なる複数のポリエステルを用意し、それらをそれぞれの表層に配置した積層フィルムとすればよい。
【0033】
つづいて、本発明で使用する二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
まず、前述のポリエステルを乾燥後、該ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出し、それを回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとするこができる。
【0034】
つぎに、得られた未延伸フィルムを二軸延伸する。二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜10倍、好ましくは4〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜11倍、より好ましくは5〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒間、さらに1〜15秒間、熱固定処理するのが好ましい。なお、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸の場合は、前述の延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0035】
また、本発明における二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出せばよく、その後急冷固化して積層未延伸フィルムとしたものを前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。また、塗布層を設ける場合、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うことが好ましい。
【0036】
このようにして得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを、さらに前述の無荷重下で105℃で30分処理したときの熱収縮率が、製膜方向で−0.8〜0.8%、幅方向で−0.3〜0.3%の範囲のものとする場合は、熱固定温度を高くしたり、熱固定後に幅方向で弛緩処理(トーイン)を実施したり、2軸延伸、熱固定処理の後、常温になったフィルムを巻き取りまでにさらにドライヤーゾーンを設けて幅方向を把持せずに加熱処理したり、さらにはこれらの処理を組合せることなどが好ましい。
【0037】
そして、このようにして得られた二軸延伸ポリエステルフィルムは、次いで前述の加熱および徐冷をすることにより、高温加工時のシワの発生が抑制された二軸配向ポリエステルフィルムとすることができる。
【0038】
なお、本発明の製造方法で得られる二軸配向ポリエステルフィルムは、示差走査型熱量計(DSC)での測定において、110〜140℃の温度範囲に0.5J/g以上の熱量の吸熱ピークを有することが好ましい。このような吸熱ピークが110〜140℃の範囲内にあることで、高温での加工時の伸びによるシワの発生の抑制が発現しやすい。好ましい吸熱ピークの熱量は1.0J/g以上、さらに1.5J/g以上である。なお、吸熱ピークの熱量の上限は特に制限されないが、通常5.0J/g以下である。
【0039】
また、このようにして得られた二軸配向ポリエステルフィルムは、それをベースフィルムとし、その一方の面に非磁性層および磁性層をこの順で形成し、他方の面にバックコート層を形成することなどで磁気記録テープとすることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0041】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノールでポリマーを十分に溶解できる場合は、該溶媒を用いて35℃で測定する。一方、前述のANA成分を共重合しときのように、o−クロロフェノールではポリマーを十分に溶解できない場合、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0042】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点はDSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0043】
(3)共重合量
(グリコール成分)試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて十分に混合した後に、600MHzのH−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を求めた。
(酸成分)試料60mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を求めた。
【0044】
(4)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張り、得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。なお、測定は、フィルムロールの巻芯部および外周部から、それぞれ5点測定し、それらの平均値を表1に示した。
【0045】
(5)塗布後のシワ
幅500mmにスリットされた長さ500mのフィルムの一方の表面に、下記組成の非磁性塗料、磁性塗料をダイコータで同時に、乾燥後の非磁性層および磁性層の厚みが、それぞれ1.2μmおよび0.1μmとなるように膜厚を変えてこの順で塗布し、磁気配向させて張力20MPa、温度100℃×60秒の条件にて乾燥させる。さらに、小型テストカレンダ−装置(スチ−ルロール/ナイロンロール、5段)で、温度:70℃、線圧:200kg/cmでカレンダ−処理した後、70℃、48時間キュアリングする。
そして、得られた磁性層付フィルムについて、無荷重下でフィルムの幅方向のシワの程度をまず目視判定し、巾が狭そうな10個のシワについて、キーエンス社製のレーザー変位計LK−G30にてフィルムの幅方向に沿ってシワの幅を測定し、キーエンス社製LKGD500にて読み取る。この時の最も狭いシワの幅で、以下の基準により塗布後のシワの程度を判断した。なお、シワの幅が広いほど緩やかなシワであることを意味し、良好と判断した。なお、この磁性層付フィルムを必要に応じてバックコート層などを設けた上で、幅12.65mmにスリットし、カセットに組み込むことで磁気記録テープにできる。
◎:シワがないか、一つのシワの幅が6.0mm以上
○:一つのシワの幅が5.5mm以上6.0mm未満
△:一つのシワの幅が5.0mm以上5.5mm未満
×:一つのシワの幅が5.0mm未満
【0046】
非磁性塗料の組成
・二酸化チタン微粒子 :100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
【0047】
磁性塗料の組成
・鉄(長さ:0.3μm、針状比:10/1、1800エルステッド):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
【0048】
(6)吸熱ピーク温度(T(℃))および吸熱エネルギー △H(J/g)
二軸配向ポリエステルフィルム20mgをTAインスツルメンツ社製、商品名DSC Q100にセットし、N気流中で、2℃/minの昇温速度、温度変調±2℃/分の条件で温度変調DSC測定を実施した。得られたデータのうち非可逆熱流曲線から、所定の温度範囲に存在する吸熱ピークのピーク温度(Tk(℃))、また、該吸熱ピークの面積(吸熱開始温度から終了温度まで直線を結び、この直線から吸熱側にずれた部分の面積)から吸熱エネルギー(ΔHk(J/g))を求めた。なお、測定は、フィルムロールの巻芯部および外周部からそれぞれ5点測定し、それらの平均値を表1に示した。
【0049】
(7)中心面平均粗さ(WRa)
Zygo社製 非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより中心面平均粗さRaを以下の式より求めた。なお、測定は、フィルムロールの巻芯部および外周部から、それぞれ5点測定し、それらの平均値を表1に示した。
【0050】
【数1】

Zjkは測定方法(283μm)、それと直行する方法(213μm)をそれぞれM分割、N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における2次元粗さチャート上の高さである。
【0051】
(8)添加粒子の平均粒径
島津製作所製CP-50型セントリフュグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線をもとに算出する各粒子の粒径とその存在量との累積曲線から、50マスパーセント(mass percent)に相当する粒径を読み取り、この値を上記平均粒径とする。
【0052】
(9)平面性
フィルムロールから得られた二軸配向ポリエステルフィルムを巻芯部および外周部からそれぞれ1m引き出し、平らな台の上に載せる。そして、二軸配向ポリエステルフィルムの幅方向のエッジと台との鉛直方向における距離を測定する。この操作は、二軸配向ポリエステルフィルムを裏返して同様に行われ、それらの結果を元に、エッジと台との鉛直方向における距離が2mm以下のものを平面性良、2mmを超える部分があるものを平面性不良として評価した。
【0053】
(10)耐ブロッキング性
フィルムロールから得られた二軸配向ポリエステルフィルムを50m/分の速度で引き出し、引き出された二軸配向ポリエステルフィルムの表面を目視にて観察し、ブロッキングによるフィルムの白化がないものを耐ブロッキング性:良、白化が見られるものを耐ブロッキング性:不良として評価した。
【0054】
(11)徐冷速度
フィルムロールの表層の温度を、表面温度計(タスコジャパン株式会社製、商品名:THI−500)によって測定した。このとき放射率εを0.93とした。また、巻芯部の温度は巻き始めから100mの部分で一旦巻き取りを停止させ、RKC社製のST−50サーモカップルを幅方向の中心部分に検出端がくるようにセットし温度を同じくRKC社製DP−350ハンディサーモメーターにて測定。その後サーモカップルをセットしたまま再び巻き取りを開始する。また、巻き取り終了後に外周部にも同じくサーモカップルをセットし、巻き始めの温度から、(Tg−60℃)または室温のいずれか高い温度に冷却されるまで温度の測定を行った。そして、巻芯部および外周部のそれぞれの徐冷速度は、巻き始めの温度から、(Tg−60℃)または室温のいずれか高い温度までの温度差を、そこまで冷却するのに要した時間で割り、算出した。
【0055】
(12)熱収縮率(%)
温度105℃に設定されたオーブン中に予め正確な長さを測定した長さ約30cm幅5cmのフィルムを懸垂し、無荷重下に30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱収縮率は下記式で定義される。
熱収縮率(%)=(△L/L)×100
ここで、△L=|L0−L|、L0:熱処理前のフィルムの長さ、L:熱処理後のフィルムの同じ方向の長さである。
なお、上記測定は、製膜方向と幅方向がそれぞれ長さ30cmとなるようにサンプルを作成し、それぞれの方向を測定した。
【0056】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PEN1)を得た。
【0057】
[参考例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PEN2)を得た。
【0058】
[参考例3]
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分がテレフタル酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PET1)を得た。
【0059】
[実施例1]
参考例1で得られた芳香族ポリエステル(PEN1)に、重縮合反応の段階で平均粒径0.3μmのシリカ粒子と平均粒径0.1μmのシリカ粒子とをそれぞれ0.15重量%と0.1重量%となるように含有させたPEN3と、同じくPEN1に、重縮合反応の段階で平均粒径0.1μmのシリカ粒子を0.1重量%となるように含有させたPEN4とを用意した。そして、PEN3とPEN4とをそれぞれ2台の押し出し機に供給して280℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で両者を積層し、回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸積層フィルムとした。なお、PEN3側が粗面側でPEN4側が平坦面側で、両者の厚み比(粗面側:平坦面側)は押出量を調整して2:1とした。
そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.8倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度155℃で横延伸倍率4.8倍、熱固定処理(200℃で3秒間)および冷却を行い、冷却時に幅方向に弛緩率0.5%になるようにレール幅を縮め、厚さ5.0μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。この二軸延伸ポリエステルフィルムを、長さが1.2m、外径が172mmの130℃に加熱されたベークライト(BL)コアに、スリッターにより、幅1.0mに裁断しつつ、5時間で9000m巻き上げた。このとき、フィルムロールの下方から赤外線ヒーターによって、表面温度計(タスコジャパン株式会社製、商品名THI−500)にて測定したフィルムロールの表面温度が130℃になるように加熱しつつ巻き上げた。
そして、巻き上げられたフィルムロールを、130℃にまで加熱されたガラスウールからなる断熱材で3時間被覆したのち、断熱材を取り外して室温になるまで放置した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、熱固定温度を210度、幅方向弛緩率を0.1%および3時間で巻き上がるように巻き取り速度を変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例3]
実施例1において、幅方向弛緩率を1.5%、9時間で巻き上がるように巻き取り速度を変更したことならびにコアの加熱温度、フィルムロールの加熱による表面温度および断熱材の加熱温度を135℃になるように変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0062】
[実施例4]
実施例1において、PEN1の代わりに、参考例1で得られたPEN1と参考例2で得られたPEN2とを6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分中の割合が10モル%となるように混合したPEN5に変更し、縦方向(製膜方向)の延伸温度を135℃、延伸倍率を4.0倍、横方向の延伸温度を148℃、延伸倍率を6.0倍、熱固定処理温度を200℃に変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0063】
[実施例5]
実施例4において、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分中の割合が20モル%となるようにPEN1とPEN2の割合を変更し、縦方向(製膜方向)の延伸温度を133℃、延伸倍率を4.5倍、横方向の延伸温度を145℃、延伸倍率を6.3倍、熱固定処理温度を200℃に変更し、さらにコアの加熱温度、フィルムロールの加熱による表面温度および断熱材の加熱温度を125℃になるように変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例6]
実施例4において、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の全酸成分中の割合が30モル%となるようにPEN1とPEN2の割合を変更し、縦方向(製膜方向)の延伸温度を131℃、延伸倍率を4.5倍、横方向の延伸温度を143℃、延伸倍率を6.5倍、熱固定処理温度を200℃に変更し、さらにコアの加熱温度、フィルムロールの加熱による表面温度および断熱材の加熱温度を120℃になるように変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例7]
実施例1において、PEN1の代わりに、参考例3で得られたPET3に変更し、冷却ドラムの温度を30℃、縦方向(製膜方向)の延伸温度を90℃、延伸倍率を3.3倍、横方向の延伸温度を150℃、延伸倍率を4.5倍、熱固定処理温度を210℃に変更し、さらにコアの加熱温度、フィルムロールの加熱による表面温度および断熱材の加熱温度を90℃になるように変更したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
実施例1の二軸延伸ポリエステルフィルムを、コアとフィルムロールの表面の加熱および断熱材による保温も行わずにフィルムロールとし、該フィルムロールを110℃に設定された恒温室5時間保管した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0067】
[比較例2]
比較例1において、恒温室での保管時間を48時間時間に変更したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0068】
[比較例3]
比較例1において、恒温室での保管時間を96時間時間に変更したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1中の、A面およびB面は、それぞれ二軸延伸ポリエステルフィルムおよび二軸配向ポリエステルフィルムの平坦面側および粗面側の表面を意味する。また、比較例2および3は、ブロッキングが生じていることから、塗布斑の評価は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば高温加工時にシワなどの発生が抑制された二軸配向ポリエステルフィルムを、ブロッキングなどの欠陥の発生を抑制しつつ、非常に短時間で製造することができ、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムの製造方法として、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルのガラス転移点(Tg(℃))以上Tg+20℃以下の温度にまで加熱されたコアに、厚みが3〜10μmの二軸延伸ポリエステルフィルムをTg以上(Tg+20℃)以下の温度に加熱しつつ巻き取り、巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムを(Tg−60℃)または室温のいずれか高い温度まで徐冷速度0.5℃/hr以上50℃/hr以下で徐冷することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
巻き取られた二軸延伸ポリエステルフィルムを断熱材で覆う請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
二軸延伸ポリエステルフィルムの無荷重下105℃で30分間処理したときの熱収縮率が、製膜方向で−0.8〜0.8%、幅方向で−0.3〜0.3%の範囲にある請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
二軸延伸ポリエステルフィルムは、一方の表面における表面粗さ(WRaA)が1.0〜4.0nmの範囲にあり、他方の表面における表面粗さ(WRaB)が5.0〜12.0nmの範囲にある請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリエステルは、エチレンテレフタレートまたは2,6−ナフタレンジカルボンキシレートを主たる繰り返し単位とする請求項1〜4に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
ジカルボン酸成分の5モル%以上50モル%未満が下記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分である請求項5に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【化1】

(式(I)中のRは、炭素数2〜10のアルキレン基を示す。)
【請求項7】
二軸配向ポリエステルフィルムが磁気記録テープの支持体に用いられる請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−36411(P2010−36411A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200690(P2008−200690)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】