説明

二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法

【課題】車両の優れた安定性を確保でき特定のドライビング状態に基いて最高の性能が得られる二輪自動車のトラクション制御方法を提供する。
【解決手段】ユーザからのトルク要求を表すパラメー(θ)の関数として基準スリップ値(λ)を決定する段階を有し、トルク要求を表すパラメータは複数のセンサ(122)により検出され、瞬間スリップ値(λ)を推定する段階と、基準スリップ値と瞬間スリップ値との差に基いて原動機(121)への要求トルク信号の第1成分(τCL)を決定する段階を有し、基準スリップ値はトルク要求を表すパラメータとスリップ(λ)とを相関付けるトルク−スリップマップにより決定され、トルク−スリップマップは複数のセンサにより検出された二輪自動車(120)の長手方向速度(v)およびローリング角(φ)の関数として変化する二輪自動車のトラクション制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、より詳しくは二輪自動車または自動車では、一般に、トラクションの制御は、加速時に駆動輪のスリップを制御して、良好なロード・ホールディングクオリティを確保し、これにより車両の安全性およびドライビング状態を向上させることにより行われる。特に、車両の移動方向のトラクションを得るには、非ゼロの長手方向スリップレベルが必要である。
【0003】
しかしながら、長手方向スリップ値が非ゼロであると、車両がカーブに対処しなければならないときにタイヤが及ぼすことができる横方向力の低下を引起こす。この効果は、タイヤにより及ぼされる横方向力によって、車両のカーブ走行の完了が可能になるだけでなく、ローリングダイナミックも安定化される二輪自動車において特に重要である。
【0004】
したがって、自動車では、自動車が真直路を走行しているか、カーブを走行しているかにより、逆のスリップが必要とされる。
【0005】
自動車のトラクションを制御する既知の第1の解決法は、瞬間傾斜状態にかかわらず、駆動輪のスリップレベルを制限することにより安全性を促進することである。
【0006】
このような方法は、瞬間測定値に基いて瞬間スリップ値を推定しかつ車両の原動機により供給されるトルクを調節し、瞬間スリップ値を制限値より小さい値に維持する閉ループ制御を実行するものである。
【0007】
各傾斜状態について高レベルの横方向密着性を確保するため、このような既知のアプローチでは、旧来の方法で制限スリップ値が選択されている。しかしながら、制限スリップ値の旧来の選択方法は、自動車が、制限値より高いスリップレベルが大きいトラクションを引起こし、このため車両を不安定な状態にすることなく大きい加速度を発生させるこれらの状態にあるときは、性能の低下をもたらす。
【0008】
自動車のトラクションを制御する既知の第2方法は、レーシング車両に適用されている。このようなシステムは、既知のトラックで最高性能が確保されるように設計されかつ較正されている。かくしてこれらのシステムは性能の見地に焦点を合わせたもので、変化する密着状態に直面したときの確実性を確保すべく開発されたものではない。したがって、このようなシステムは、量産車両に適用するのは困難である。
【0009】
既知の閉ループ制御方法では、瞬間スリップ値の推定は、通常、瞬間スリップ値を、単に前輪の回転速度と後輪の回転速度との差に等しくすることにより、近似的方法で行われている。
【0010】
このような方法では、制御が、瞬間スリップに影響を与える他の異なるパラメータを考慮に入れることなく、不正確なフィードバック値に基いて行われ、したがって、不正確なフィードバック値によりシステムの反応も等しく不正確になるため、信頼性は非常に低いものである。
【0011】
また、閉ループシステムは高い確実性を確保できるが、一般に、フィードフォワード制御システムに関する基準変化に対する応答が緩慢である。
【0012】
最後に、トラクションを制御するフィードフォワード方法は、例えば原動機の回転数、投入されたギア、スロットルバルブの位置等の幾つかの既知の入力パラメータに基いて、原動機により供給されるトルク、したがって瞬間スリップを調節するものであることが知られている。
【0013】
瞬間スリップのフィードバックの調節に基づかないこのような制御方法は、例えば路面により与えられる密着性またはタイヤの摩耗状態等の走行面および車両の瞬間的状態に適合できず、したがって、トラックのそれぞれの操縦を詳細に高レベルでマッピングし描くことができる競争状況で使用できるに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】イタリア国特許出願MI2007A000559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記欠点を解消すること、より詳しくは、車両の優れたレベルの安定性を確保できると同時に、特定のドライビング状態に基いて達成できる最高の性能が得られる二輪自動車のトラクション制御方法を案出することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、瞬間スリップ値を正確な方法で推定でき、したがってより確実な制御を達成できる二輪自動車のトラクション制御方法を提供することにある。
【0017】
本発明の更に別の目的は、迅速なシステム反応を断念することなく車両および路面の瞬間的状態に適合できる二輪自動車のトラクション制御方法を案出することにある。
【0018】
最後に述べるが軽んずべきではない本発明の目的は、本発明による制御方法を実施できる二輪自動車のトラクション制御システムを作ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の上記目的および他の目的は、特許請求の範囲の必須要件項に記載の二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法を作ることにより達成される。
【0020】
二輪自動車のトラクションを制御するシステムおよび方法の他の特徴は、特許請求の範囲の必須要件項の対象とするものである。
【0021】
本発明による二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法の特徴および長所は、添付の概略図面を参照して、例示として非制限的目的で以下に述べる説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による二輪自動車のトラクション制御方法を実施する制御システムを示す概略図である。
【図2】本発明による二輪自動車のトラクション制御方法を示すブロック図である。
【図3a】本発明による二輪自動車のトラクション制御方法に使用される閾値の可能性あるマップを示す概略図である。
【図3b】本発明による二輪自動車のトラクション制御方法に使用される閾値の可能性あるマップを示す概略図である。
【図4】本発明による二輪自動車のトラクション制御方法に使用される基準スリップの発生器の可能性ある実施形態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照すると、二輪自動車のトラクション制御システムの全体が参照番号100で示されている。
トラクション制御システム100は、二輪自動車120の原動機121に連結された制御ブロック110を有し、該制御ブロック110では原動機121がトルク制御され、すなわちシステム100により要求される瞬間トルクτを供給できる。
【0024】
より詳しくは、要求トルクの調節は、一般に、原動機が発生できる全トルク範囲を利用できるように、すべてのシリンダの点火進角を変えるか、好ましくはスロットルバルブの電子制御により行なうか、或いはこれらの両方法を組合せて行われる。
【0025】
トルクを制御できる原動機121を備えた車両では、基準トルクτでアクセレレータ(加速ペダル)を介して実行されるユーザの要求を翻訳(translates)する原動機(図示せず)の制御システムが考えられる。翻訳は、アクセレレータの位置、投入ギヤおよび原動機の回転数と、原動機121の制御システムに要求されるトルクτとを関係付けるマップの手段により行われる。
【0026】
本発明によるトラクション制御システム100の制御ブロック110が付勢されているときは、制御ブロック110は、このシステム100が、原動機121への入力として、原動機を制御する慣用システムにより正規に発生される基準トルクと置換する対応信号τ0を得るのに必要な瞬間トルクを決定する。
【0027】
また、制御ブロック110に、二輪自動車120のドライビングパラメータ測定値を供給するのに適した複数のセンサ122を設けることも考えられる。これらのドライビングパラメータ測定値のうち、車両の瞬間ローリング角φが基く測定値が決定される。
【0028】
瞬間ローリング角φを決定するため、センサ122は、例えば、二輪自動車120の両側で路面からの距離を測定するメータで構成でき、このメータから、ローリング角φの直接測定値を得ることができる。或いは、上記特許文献1に開示された例のように、センサは、瞬間ローリング角φを推定するベースとなる測定値を得ることができる加速度計またはレートジャイロで構成できる。本発明によれば、制御ブロック110は基準発生器111を有し、該基準発生器111は、入力として、例えばアクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置のようなトルク要求を表すパラメータθを介して、投入ギヤおよび原動機回転数(RPM)に関して表される原動機速度に基いて表されるトルク要求源に接続される。
【0029】
以下、アクセレレータおよびスロットルバルブの角度位置の基準とは、トルク要求を表すパラメータθの非制限的な例であると理解すべきである。
【0030】
センサ122により決定される瞬間トルク要求、速度vおよび車両が走行するローリング角を表すパラメータθに基いて、基準発生器111は、閉ループコントローラ112への入力として、基準スリップ値λ0を発生し、該基準スリップ値λ0は、スリップ再生器(slip reconstructor)113により推定された瞬間スリップ値λSと比較される。
【0031】
基準スリップ値λ0と瞬間スリップ値λSとの差に基いて、閉ループコントローラ112は、原動機121に要求される瞬間トルクに対応する信号τ0の第1成分τCLを決定する。
【0032】
また、アクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θに加えて、例えば車両120の速度v、ローリング角φ、原動機回転数RPM等の瞬間的状態に基いて、原動機121に要求される瞬間トルクに対応する信号τ0の第2成分τOLを決定するフィードフォワードコントローラ114を考えるのが好ましい。
【0033】
このような測定は、二輪自動車120で考えられる複数のセンサ122により検出される。
【0034】
閉ループコントローラ112とフィードフォワードコントローラ114との結合作用は、自動車が走行する速度vおよびローリング角φに基いて、適当な可変ミキシングファクタを用いて混合され、これにより、システムの応答の高い機敏性、またはこれとは逆に、車両または路面の状態の変化への高い適合性が確保される。
【0035】
トラクション制御システム100はまた、瞬間スリップλSおよびアクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θの変化速度の関数として、制御ブロック110の付勢を管理する監視ブロック130を有するのが好ましい。
【0036】
最後に、ユーザが制御ブロック110の管理パラメータを設定することを可能にする複数のセレクタを備えたユーザインターフェース140を設けることを考えることが好ましい。
【0037】
より詳しくは、制御ブロック110の付勢閾値、すなわち車両の速度vおよびローリング角度φの関数としてのアクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θのスリップλまたは変化速度を選択できる。
【0038】
ユーザインターフェース140はまた、他のパラメータ例えばミキシングパラメータμを選択することにも使用でき、かつ電流選択をディスプレイし、例えば車両速度vおよびローリング角φへのミキシングパラメータμの依存性のような幾つかのパラメータの依存性を示すこともできる。
【0039】
二輪自動車のトラクション制御システム100の作動は次の通りである。
制御ブロック110は、例えば後輪のトラクションの損失のように、トラクションの制御の必要性を表示する何らかの状態が生じたときのみに介入する。
【0040】
このような目的の場合に所定速度vを超えると、監視ブロック130は、制御ブロック110を、或る付勢条件が生じた場合に介入できる状態に置く。
【0041】
より詳しくは、選択すべき2つの付勢条件が使用され、この条件を超えると制御ブロック110が付勢される。この条件とは、最小スリップλmin、または例えばアクセレレータまたはスロットルバルブの最小開き速度のような瞬間トルク要求を表すパラメータθの最小変化速度である。
付勢条件は、次のように要約できる。
【数1】

【0042】
最小スリップ値λminおよびアクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θの最小変化は、アクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θの許容最大および最小スリップ値および許容最小変化と、車両が走行する速度vおよびローリング角度φとの相関関係を示す図3aおよび図3bに示したような閾値の特定マップの初期選択を用いて、演繹的に定義される。
【0043】
スリップに加えて、制御ブロック110の付勢の閾値としてアクセレレータまたはスロットルバルブの開き速度を使用すると、ユーザの突然のトルク要求による路面グリップの突然損失が生じる前に、制御システム100の介入を有利に進めることができる。
【0044】
ひとたび2つの付勢条件のうちの一方に到達したならば、車両の瞬間的状態が制御ブロック110内に記憶される。
【0045】
より詳しくは、少なくとも、原動機により供給される瞬間トルクτhold、後輪のスリップ値λhold、車両のローリング角φhold、およびアクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θholdが記憶される。
【0046】
基準スリップλ0を発生させるため、これらの値の一部が制御ブロック110の基準発生器111により使用される。
【0047】
一方、残りの値は、制御ブロック110の付勢時および除勢時の不連続性を回避するのに使用される。
【0048】
制御ブロック110が付勢されているときでも自動車の制御フィーリングが得られるようにするため、2つの閾値をもつシステムに基いて基準スリップλ0が発生される。
【0049】
より詳しくは、制御ブロックの付勢時に、アクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θholdおよびスリップλholdの瞬間値を使用して、スリップと、アクセレレータまたはスロットルバルブの角度位置θとを相関付けるトルク−スリップマップが発生され、該トルク−スリップマップに基いて、各時点で基準スリップ値λ0が識別される。
【0050】
このようなトルク−スリップマップは、下記の条件を満たさなくてはならない。
アクセレレータが完全に開いているときは、スリップは、自動車が走行している特定速度およびローリング角を考慮に入れた最大スリップに等しくなる(すなわちλ0=λmax(ν、φ))。最大スリップ値λmaxは、最初に選択された閾値のマップを用いて、速度およびローリング角に基いて得ることができる。
【0051】
アクセレレータまたはスロットルバルブの開き角度位置θが、付勢時に記憶された値θholdに等しくかつローリング角φの値が初期ローリング角φholdに等しいときは、トラクション制御システム100の点火の瞬間の制御作用の連続性を確保すべく、基準スリップは、付勢の瞬間に記憶されたスリップ値に等しくなるように設定される(すなわち、λ0=λhold)。
【0052】
アクセレレータまたはスロットルバルブの開き角度位置θがゼロであるときは、基準スリップλ0は、ゼロに等しく設定される。
【0053】
図4は、示した条件を満足するマップの非制限的な例示実施形態を示すものである。
このようなマップを使用して基準スリップλ0を決定する基準発生器111は、ユーザがアクセレレータを操作してスリップを制御することを可能にする。より詳しくは、アクセレレータが完全に開かれるときは、ユーザは、車両が走行する速度vおよびローリング角度φに対し、許容可能な最大スリップλmaxを要求している。
【0054】
基準スリップλ0は、スリップ再生器113により得られた推定スリップ値λSと比較される。二輪自動車120の車輪のスリップλは、次のように定義される。
【数2】

ここで、ωは二輪自動車の分析された車輪の回転速度、rはこの車輪の瞬間半径、およびvは、二輪自動車自体の質量中心で測定された二輪自動車の長手方向速度である。
車輪の瞬間半径rは、ローリング角度φおよび自動車が受ける垂直荷重に基いて定められる。
【0055】
したがって、本発明の方法において、スリップ再生器113による瞬間スリップλSの推定には、前輪および後輪の回転速度ωf、ωr、フロントサスペンションおよびリアサスペンションのストロークxf、xr、長手方向加速度aおよび車両のローリング角度φを考慮に入れることが好ましい。
【0056】
このような測定値は、二輪自動車120に装備された複数のセンサ122により検出される。
基本的には、公称スリップ値は、前輪および後輪の回転速度ωf、ωrおよび車輪の半径rの公称値に基いて計算される。
【0057】
公称スリップ値は、実際の瞬間半径の値にできる限り近似させ、かつ質量中心での車輪の長手方向速度および荷重トランスファに与える長手方向加速度aの影響を考慮に入れて、公称半径を補正すべく残りの測定値を処理することにより連続的に補正される。
【0058】
瞬間スリップ値λsをこのように瞬間的に推定することにより、公称スリップの補正に使用される1つ以上の測定値を用いなくても作動できる信頼性あるシステムを得ることができる。
【0059】
この場合には、スリップの得られる推定精度は低いであろうが、とにかくトラクション制御には使用できる。
【0060】
閉ループコントローラ112は、基準スリップλ0と推定スリップ値λsとの差に基いて、原動機121に要求されるトルクの第1成分τCLを決定する。
【0061】
推定したスリップλsが基準スリップλ0より小さい場合には、大きいトルクが原動機に要求されるであろう。同様に、推定したスリップλsが基準スリップλ0より大きい場合には、小さいトルクが原動機に要求されるであろう。
【0062】
また、車輪の速度vの測定値は、閉ループコントローラ112の較正およびミキシングパラメータμの修正に使用される。
【0063】
より詳しくは、コントローラ112の特異値(singularities)は、速度vの増大につれて、高い周波数で移動される。また、コントローラの較正は、投入ギヤにより影響を受ける。より詳しくは、コントローラの利得は、異なる伝達比による変化を補償すべく修正される。
【0064】
原動機121に要求されるトルクの不連続性を回避するため、閉ループコントローラ112により決定されたトルクの第1成分τCLが、制御システム100が付勢された瞬間に原動機121が発生していたトルクτholdに付加される。また、トルクの第1成分τCLは、閉ループコントローラ112が付勢される度毎にゼロに等しくなるように設定される。
【0065】
閉ループコントローラ112により決定されるトルクτCLの要求に加え、フィードフォワードコントローラ114は、原動機121に要求される第2トルク成分τOLを決定する。
【0066】
原動機121に要求されるこれらの第1トルク成分τCLおよび第2トルク成分τOLは、これらの2つの成分の周波数を計量するのに使用されるミキシングパラメータμの関数として、全トルクτ0の要求に大きいインパクトまたは小さいインパクトを与える。
【0067】
より詳しくは、ミキシングパラメータμは、閉ループ制御システム112のバンドおよびフィードフォワード成分114の反応速度の修正に使用される。特に、μ=1であるときは、閉ループ制御システムのバンド幅は最大値を有し、一方、フィードフォワード制御期間は高度に濾過される。このような形態では、自動車のトラクション制御は主として閉ループに生じ、高レベルの信頼性を確保できるが、或る車両ではスリップ基準の後に緩慢にすることができる。
【0068】
他の方法では、μ=0であるときは、閉ループ制御システムのバンド幅が最小値を有し、一方、フィードフォワード制御は僅かに濾過された作用を有する。このような形態では、自動車は、トルクで駆動される一般的な二輪自動車のように挙動する。
【0069】
ミキシングパラメータμの値を修正することにより、閉ループ制御から得られる成分τCLの周波数およびフィードフォワード制御から得られる成分τOLの周波数において最適混合を得ることができる。
【0070】
ミキシングパラメータμの値は、ユーザインターフェース140を用いてユーザにより行われる選択、車両の速度v並びにローリング角度φに基いて定めることができる。
【0071】
最後に、以前に示した慣用の原動機制御システムを用いてユーザにより要求されるトルクが、本発明によるトラクション制御システム100から要求されるトルクより大きく維持されるとき、制御ブロック110は付勢条件に維持され、原動機121に要求されるトルクτ0の調節を行う。
【0072】
他の場合には、制御ブロック110は除勢される。
【0073】
本発明による二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法の特徴についての上記説明から、本発明の目的は明白になったであろうし、従来技術との相対的長所も明白になったであろう。
【0074】
実際に、ユーザからのトルク要求を表すパラメータの関数として可変基準スリップの発生を操作する、本発明による二輪自動車のトラクション制御方法は、ユーザがスリップを制御することを可能にするもので、スリップを単に制限すべく作用するものではない。
【0075】
また、スリップと、車両の速度および車両のローリング角の両方とを相関付けるマップを用いてスリップの基準値を決定することにより、車両の高レベルの安定性を確保できると同時に、特定のドライビング条件に基いて達成できる最高の性能を得ることができる。
【0076】
また、瞬間スリップ値が、全閉ループ制御を特に確実なものとする正確な方法で推定される。
【0077】
重要なことを最後にひと言述べると、フィードフォワード制御成分を用いることにより、本発明のシステムは、瞬時の反応が得られると同時に、車両および路面の瞬間的状態に適合することができる。
【0078】
最後に、上記のように考え出された二輪自動車のトラクション制御システムおよび制御方法は多くの修正および変更を行うことができ、これらの修正および変更の全ては本発明によりカバーされるものである。また、細部は技術的に等価な要素と置換することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 トラクション制御システム
110 制御ブロック
111 基準発生器
112 閉ループコントローラ
113 スリップ再生器
114 フィードフォワードコントローラ
120 二輪自動車(自動車、車両)
121 原動機
122 センサ
130 監視ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク制御形原動機(121)と、二輪自動車(120)のドライビングパラメータ(v、φ、θ、ω、x、a、RPM、ギヤ)を瞬間的に測定する複数のセンサ(122)とを有する二輪自動車(120)のトラクション制御方法であって、
ユーザからのトルク要求を表すパラメータ(θ)の関数として基準スリップ値(λ0)を決定する段階を有し、トルク要求を表す前記パラメータ(θ)は前記複数のセンサ(122)により検出され、
更に、瞬間スリップ値(λs)を推定する段階と、
前記基準スリップ値(λ0)と瞬間スリップ値(λs)との差に基いて、前記原動機(121)への要求トルク信号の第1成分(τCL)を決定する段階とを有するトラクション制御方法において、
前記基準スリップ値(λ0)は、トルク要求を表す前記パラメータ(θ)とスリップ(λ)とを相関付けるトルク−スリップマップにより決定され、前記トルク−スリップマップは、前記複数のセンサ(122)により検出された二輪自動車(120)の長手方向速度(v)およびローリング角(φ)の関数として変化することを特徴とする二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項2】
初期スリップ値(λhold)と、前記ローリング角の初期値(φhold)と、トラクション制御の付勢時に前記二輪自動車(120)を特徴付けるトルク要求を表す前記パラメータの初期値(θhold)とを記憶する段階を有し、前記トルク−スリップマップが次の条件、すなわち、
前記基準スリップ値(λ0)は、トルク要求を表す前記パラメータ(θ)が最大値を呈するときは、前記長手方向速度(v)およびローリング角(φ)を考慮に入れた最大スリップ値(λmax)に一致すること、
前記基準スリップ値(λ0)は、トルク要求を表す前記パラメータ(θ)がトルク要求を表す前記パラメータ(θhold)の前記初期値に一致するときおよびローリング角(φ)が前記ローリング角の前記初期値(φhold)に一致するときは、前記初期スリップ値(λhold)に一致すること、および
前記基準スリップ値(λ0)は、トルク要求を表す前記パラメータ(θ)がゼロに等しいときはゼロに等しくなること、
を満たす請求項1記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項3】
前記最大スリップ値(λmax)は、前記長手方向速度(v)およびローリング角(φ)の関数として最大スリップ値(λmax)および最小スリップ値(λmin)を定める第1の複数の閾値のマップに基いて選択される請求項2記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項4】
トラクション制御の少なくとも1つの付勢条件をチェックする段階を有し、前記少なくとも1つの付勢条件は、前記第1の複数の閾値のマップに基いて選択された最小スリップ値(λmin)を超えること、または前記長手方向速度(v)およびローリング角(φ)の関数として、ユーザからのトルク要求を表す前記パラメータ(θ)の最小変化速度値を定める第2の複数の閾値のマップに基いて選択されたユーザからのトルク要求を表す前記パラメータ(θ)の最小変化速度を超えることである請求項3記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項5】
前記トルク要求を表す前記パラメータ(θ)は、前記二輪自動車(120)のアクセレレータまたはスロットルバルブの開き角度位置である請求項1から4のいずれか1項記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項6】
前記瞬間スリップ値(λs)を推定する段階は、前記複数のセンサ(122)により検出される二輪自動車(120)の前輪および後輪の回転速度(ωf、ωr)に基いた公称スリップ値および前記前輪および後輪の半径(r)の公称値を計算する段階と、前記複数のセンサ(122)により検出された少なくとも1つの測定値に基いて前記公称スリップ値を補正する段階とを有し、前記少なくとも1つの測定値は、
前記二輪自動車(120)のフロントサスペンションのストローク(xf)と、
前記二輪自動車(120)のリアサスペンションのストローク(xr)と、
前記二輪自動車(120)の長手方向加速度(a)と、
前記二輪自動車(120)のローリング角(φ)とを含む請求項1から5のいずれか1項記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項7】
前記複数のセンサ(122)により検出される、ユーザからのトルク要求を表す前記パラメータ(θ)、前記長手方向速度(v)、前記ローリング角(θ)、原動機速度(RPM)のうちの少なくとも1つに基いて、前記原動機(121)への要求トルク信号の第2成分(τOL)を決定する段階を有する請求項1から6のいずれか1項記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項8】
トルク信号の前記第1成分(τCL)およびトルク信号の前記第2成分(τOL)は、トラクション制御を付勢するときに前記原動機(121)に要求されるトルクに対応するトルク信号(τhold)に付加される請求項7記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項9】
前記トルク信号の第1成分(τCL)および第2成分(τOL)は、トルク信号の前記2つの成分(τCL、τOL)の他方に関して第1成分に大部分を濾過できるミキシングパラメータ(μ)を用いて周波数混合される請求項7または8記載の二輪自動車(120)のトラクション制御方法。
【請求項10】
二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)であって、二輪自動車(120)が、トルク制御形原動機(121)と、二輪自動車(120)のドライビングパラメータ(v、φ、θ、ω、x、a、RPM、ギヤ)を瞬間的に測定する複数のセンサ(122)とを有し、前記トラクション制御システム(100)が、前記原動機(121)への入力として、要求トルクに対応する信号(τ0)を供給すべく前記原動機(121)に接続された制御ブロック(110)を有し、該制御ブロック(110)が、入力として、前記複数のセンサ(122)に接続されており、前記制御ブロック(110)が閉ループコントローラ(112)を有し、該閉ループコントローラ(112)が、要求トルクに対応する前記信号(τ0)の第1成分(τCL)を決定できかつ入力として瞬間スリップ(λs)を推定するスリップ再生器(113)および基準スリップ(λ0)を発生する基準発生器(111)に接続されている二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)において、前記基準発生器(111)は、前記複数のセンサ(122)により検出されるトルク要求を表すパラメータ(θ)とスリップ(λ)とを相関付けるトルク−スリップマップに基いて基準スリップ(λ0)を決定でき、前記トルク−スリップマップは、前記複数のセンサ(122)により検出される長手方向速度(v)およびローリング角(φ)の関数として変化する二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。
【請求項11】
前記スリップ再生器(113)は入力として前記複数のセンサ(122)に接続されており、該複数のセンサ(122)により検出された前輪および後輪の回転速度(ωf、ωr)に基いた公称スリップ値および前記前輪および後輪の半径(r)の公称値を決定することにより、および前記複数のセンサ(122)により検出された少なくとも1つの測定値に基いて前記公称スリップ値を補正することにより前記瞬間スリップ(λS)を推定し、前記少なくとも1つの測定値は、
前記二輪自動車(120)のフロントサスペンションのストローク(xf)と、
前記二輪自動車(120)のリアサスペンションのストローク(xr)と、
前記二輪自動車(120)の長手方向加速度(a)と、
前記二輪自動車(120)のローリング角(φ)とを含む請求項10記載の二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。
【請求項12】
少なくとも1つのフィードフォワードコントローラ(114)を有し、該フィードフォワードコントローラ(114)は、前記複数のセンサ(122)により検出された前記二輪自動車(120)の複数の瞬間ドライビングパラメータに基いて要求されるトルクに対応する前記信号(τ0)の第2成分(τOL)を決定できる請求項10または11記載の二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。
【請求項13】
前記閉ループコントローラ(112)の作用および前記フィードフォワードコントローラ(114)の作用は、これらの閉ループコントローラ(112)およびフィードフォワードコントローラ(114)のバンド幅を修正できるミキシングパラメータ(μ)を用いて混合される請求項12記載の二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。
【請求項14】
監視ブロック(130)を有し、該監視ブロック(130)は、ユーザからのトルク要求を表す前記パラメータ(θ)の最小スリップ値(λmin)および最小変化速度値を有する少なくとも1つの付勢パラメータを超えたときに、前記制御ブロック(110)の付勢を管理できる請求項10から13のいずれか1項記載の二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。
【請求項15】
前記制御ブロック(110)の管理パラメータを設定する複数のセレクタを有するユーザインターフェース(140)を有する請求項10から14のいずれか1項記載の二輪自動車(120)のトラクション制御システム(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285987(P2010−285987A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129119(P2010−129119)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(501441773)ピアジオ アンド コンパニア ソシエタ ペル アチオニ (15)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】