説明

二酸化炭素の合成ガスへの接触水素化

本発明は、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含有する合成ガス混合物を製造するプロセスであって、二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を触媒に接触させる工程を有してなり、この触媒が、クロミア/アルミナから実質的になるものであるプロセスに関する。このプロセスにより、選択性が高く、触媒の安定性が良好で、プロセス条件が変動する下で、二酸化炭素の一酸化炭素への水素化が可能になる。このプロセスは、別々に適用しても差し支えないが、他のプロセスと、例えば、上流で、脂肪族酸素添加物質、オレフィン類または芳香族類などの生成物を製造するための他の合成プロセスと、組み合わせることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素から合成ガス混合物を製造する接触プロセスに関し、より詳しくは、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含有する合成ガス混合物を製造するプロセスであって、二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物をクロム含有触媒に接触させる工程を有してなるプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなプロセスが特許文献1から知られている。この公報には、鉄を含まず、酸化亜鉛および酸化クロムに基づく触媒の存在下で、1〜4MPaの気相中において300および520℃の温度でCO2およびH2を転化することにより、一酸化炭素の豊富な合成ガス(一般に、合成用原料ガスの省略形として用いられる)混合物の製造プロセスが開示されている。ZnおよびCrが同時に存在することが、反応速度が良好であるために必須であると強調されている一方で、Fe(およびNi)の存在は、いわゆるメタン生成副反応によるメタンの生成を抑制するために避けるべきである。副生成物としてのメタンの生成は一般に望ましくない。何故ならば、メタン生成は、COがわずかしか生成されないことを意味するだけでなく、コークスの形成とその堆積が伴うことにより触媒の寿命が減少するからである。
【0003】
過去数十年に亘り、化学工業において最も重要な供給原料の内の1つである、合成ガスを生成するために、数多くのプロセスが開発されてきた。合成ガスは、水素(H2)および一酸化炭素(CO)を含有するガス状混合物であり、これはさらに、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、メタン(CH4)、および/または窒素(N2)などの他のガス成分を含有することもある。天然ガスおよび(軽質)炭化水素は、合成ガスを製造するための主な出発材料である。合成ガスは、合成燃料として、またメタノールやアンモニウムの合成、フィッシャー・トロプシュ型および他のオレフィン合成、ヒドロホルミル化またはカルボニル化反応、鉄鋼生産における酸化鉄の還元などの数多くの化学プロセスにおいてもうまく用いられている。
【0004】
そのような合成ガスプロセスでは、主要な供給ガス成分としてメタンを使用することが多く、メタンは、水蒸気改質、部分酸化、CO2改質により、またはいわゆる自己熱改質反応により、合成ガスに転化できる。メタンの水蒸気改質による合成ガス製造は、合成ガスを生成するための最も広く適用されているプロセスであるが、この合成ガス製造に関連する欠点の1つは、生成されるガス混合物の組成が、反応化学量論によって、3以上のH2/CO比に制限されることである。そのような欠点を避けるために、その上大気中で増加しているCO2の量が環境に与える強い影響に主導されるように、公知の平衡反応(一般に、水性ガスシフト(WGS)またはより詳しくは、この場合において、逆水性ガスシフト(RWGS)反応と称される)に基づいて、原料として二酸化炭素から合成ガスを製造する研究が行われてきた:
【化1】

【0005】
例えば、特許文献2において、RWGS反応をメタンの水蒸気改質と組み合わせることが提案された。例えば、それぞれの生成物流を混合することによる、そのような反応の組合せによって、合成ガスの意図するその後の用法に応じて、水素の一酸化炭素に対するモル比(H2/CO)を、または最終合成ガス混合物中の化学量数SN=([H2]−[CO2])/([CO]+[CO2])を約3以外の値に調節することが可能になる。
【0006】
接触RWGS反応によるCO2のCOへの転化は、CO2を利用する有望なプロセスであると認識されており、過去数十年間における数多くの研究の主題であった。初期の研究では、この吸熱反応のための適切な触媒として酸化鉄/酸化クロム(亜クロム酸塩)が提案された。例えば、特許文献3を参照のこと。この触媒の欠点は、メタン生成を含むことである。
【0007】
特許文献4において、中でも、Zn−Cr/アルミナ触媒により例示される、WGS反応に従来使用される触媒の存在下で、水素による、供給混合物中に含まれる二酸化炭素の一部の一酸化炭素への転化の工程を含む、メタノール製造のためのプロセスが記載されている。
【0008】
特許文献5には、第VIII族および第VIa族から選択される少なくとも1種類の遷移金属を含む、二酸化炭素の還元のための触媒が開示されており、選択率を増加させ、メタンの形成を抑制するために、ZnO単独、または担体としてのZnOを含有する複合材料のいずれかを使用することが教示されている。
【0009】
非特許文献1は、エチルベンゼンのスチレンへの脱水素化へのクロミア/アルミナ触媒の遷移金属修飾の影響に関するが、5%のCe−20%のCr/アルミナが、逆水性ガスシフト反応における活性を有することも示されている。しかしながら、この文献には、二酸化炭素を水素により合成ガス混合物に還元する上での触媒の選択性も、その反応におけるメタンの形成も扱われていない。
【0010】
特許文献6に開示されたような公知のプロセスの欠点は、使用される触媒の選択性、すなわち、二酸化炭素からのメタンの生成が、副反応としてまだ観察されることである。説明のための実施例において、これは、40%の二酸化炭素の転化率で、反応装置のガス出力中に形成されているメタンが0.8体積%であると数量化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0113244A1号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2168718A号明細書
【特許文献3】米国特許第1913364号明細書
【特許文献4】国際公開第96/06064A1号パンフレット
【特許文献5】英国特許出願公開第2279583A号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0113244A1号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Green Chemistry 2005, 7 524-528におけるYe et al.による論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の課題は、非常にわずかしかメタンを生成せず、触媒の安定性が良好な、二酸化炭素を水素で合成ガスに還元する際の選択性が改善された触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を、活性成分としてのクロム、随意的に促進剤としての少なくとも1種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属、および担体としてのアルミナから実質的になる触媒に接触させることによって、本発明にしたがって達成される。
【0015】
本発明のプロセスにより、二酸化炭素を高い選択性で一酸化炭素に水素化でき、触媒は、長期間に亘り、プロセス条件が変動する下で良好な安定性を示す。特に、いわゆるメタン化反応によるメタンの生成が抑制される。本発明によるプロセスによって形成される合成ガス混合物中には、ほんの微量のメタンしか見られない。
【0016】
メタン化反応は、二酸化炭素および一酸化炭素などの炭素供給源と、水素とから、メタンと水を生成する反応である:
【化2】

【0017】
本発明によるプロセスにおいて、典型的に形成されたメタンの量が0.5体積%未満の生成混合物が得られ、メタンの量は0.1体積%未満、さらには、生成物流のインライン分析に用いられるCG装置の検出限界未満であることが好ましい。それゆえ、本発明によるプロセスは、合成ガスに対して、より詳しくは、COの形成に対して非常に高い選択性を示す。COの選択性は、典型的に95%より高く、好ましくは98%より高く、最も好ましくは99%またはさらには99.5%より高い。
【0018】
本発明のプロセスは、約600℃以上の温度でも、良好な触媒の安定性を示す。これは、生成混合物の組成が長期間に亘りわずかしか変わらないことを意味する。
【0019】
さらに別の利点は、メタンが、反応に影響を与えずに、またそれ自体反応を受けずに、供給混合物中に存在し得、さらに、使用される触媒が高い選択率を示すことである。
【0020】
本発明によるプロセスのさらに別の利点は、得られる合成ガス混合物の化学量数(SN)が、例えば、供給混合物の組成を変化させることによって、幅広い範囲で変化させられることである。SNは、例えば、0.5から3.0まで変わって差し支えなく、それにより、得られた合成ガス混合物を、エタン、プロパンおよびイソブタンなどのアルカン;アルデヒド;ジメチルエーテルなどのエーテル;またはメタノールなどのアルコールなどの様々な他の生成物の合成において出発材料として適用できる。さらに別の利点は、本発明のプロセスにより製造された合成ガスは、過剰のH2を分離する必要なく適用できることである。さらにまた別の利点は、このプロセスは、別々に適用しても差し支えないが、例えば、中でも、上述した生成物の上流での合成プロセスと、組み合わせることもできる。
【0021】
本発明の特別な利点は、使用済みのクロミア/アルミナ脱水素化触媒、すなわち、アルカン脱水素化プロセスにおいて使用され、著しく減少した脱水素化活性を示す触媒に上述した利点を適用できることである。
【0022】
本出願の文脈で、活性成分としてのクロム、随意的に促進剤としての少なくとも1種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属、および担体としてのアルミナから実質的になる触媒は、クロム(その酸化物の形態にある)が触媒組成物の活性部位を形成し、他の金属は活性種として加えられていないことを意味すると理解される。触媒は、担持材料としてアルミナを含有し、促進剤としての、アルカリまたはアルカリ土類金属、および当業者に公知のように、結合材料、または通常の不純物などの、他の不活性成分をさらに含んでもよい。そのような触媒は、活性成分としてはクロムのみ、担体としてのアルミナ、および随意的に促進剤としてのアルカリまたはアルカリ土類金属を含有するそのような触媒も、ここでは、クロミア/アルミナ触媒と称される。
【0023】
触媒のCr含有量は、広い範囲内で様々であってよい。触媒の最少含有量は、所望のレベルの触媒活性に到達するのに必要であるが、含有量が多いと、粒子(活性部位)の凝集する可能性が増し、触媒の効率が減少してしまう。適切な範囲は1から50質量%である(触媒組成の総質量に基づくCr元素)。触媒が5から30質量%のクロムを含有することが好ましく、より好ましい範囲は、8から25質量%、または10から20質量%である。
【0024】
本発明によるプロセスに用いられる触媒が、少なくとも1種類のアルカリまたはアルカリ土類金属を0.1から50質量%(触媒組成の総質量に基づく金属含有量)、さらに含むことが好ましい。何故ならば、このことにより、コークスの形成がさらに抑制され、触媒の安定性/寿命が改善されるからである。その金属が、Li、K、CsおよびSrからなる群より選択されることがより好ましい。促進剤を含む、そのようなクロミア/アルミナ触媒の利点は、本発明のプロセスにおける副反応、特に、メタン化反応が、さらに一層効果的に抑制されることである。これらの金属が存在することの追加の利点は、触媒がより頑強になる、すなわち、担体がより良好な機械的安定性を有することである。
【0025】
本発明によるプロセスに用いられる触媒中に存在する各アルカリまたはアルカリ土類金属成分の量は、指示された範囲内で変動してもよく、好ましい範囲は0.1から40質量%である(触媒組成の総質量に基づく金属含有量)。その金属含有量が0.2から30質量%またはさらには0.3から20質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明によるプロセスに用いられる触媒は、担体または担持材料としてアルミナを含有する。どの理論にも拘束することを意図するものではないが、クロムとアルミナとの間の化学的相互作用により、目的とする反応における触媒性能を向上させる特別な構造的性質(例えば、スピネル型構造)がもたらされると考えられる。アルミナの表面積は、本発明のプロセスにおいては特に重大ではないようである。触媒が少なくとも50m2/gの表面積を有することが好ましい。
【0027】
本発明による触媒組成物が、不活性結合剤または例えば、希釈剤として、アルミナ以外に担持材料をさらに含有してもよい。適切な材料は、当業者に公知であり、例えば、シリカまたは酸化チタンを含む。
【0028】
本発明のプロセスに用いられる触媒は、当該技術分野に公知の任意の従来の触媒合成方法により調製してもよい。一般に、そのような方法は、所望の金属成分の水溶液を、例えば、それらの硝酸塩または他の可溶性塩から調製し;その溶液をアルミナと混合し;沈殿(または含浸)により固体触媒前駆体を形成し、その後、水を除去し、乾燥させ;次いで、酸素の存在下で熱処理によって前駆体組成物をか焼する各工程を含む。
【0029】
触媒は、様々な幾何学形状で、例えば、球状ペレットとして、本発明のプロセスに適用してよい。
【0030】
本発明によるプロセスに使用される触媒は、アルカンの脱水素化プロセス、例えば、プロパンまたはイソブタンの脱水素化プロセスに用いられてきたクロミア/アルミナ触媒であることが好ましい。そのような触媒は、ここでは、使用済みの脱水素化触媒と称される。そのような使用済みの触媒は、典型的に反応装置から取り出される。何故ならば、その触媒は、その反応に連続しようするのには、おそらくコークスの形成により生じる失活のために、その脱水素化プロセスにおいて残留活性があまりに低すぎるからである。触媒上のコークスの堆積は、一般に、より低い表面積および増加した細孔径などの、触媒粒子の物理的性質の変化を生じさせると考えられ、脱水素化触媒のその結果として減少した活性は、再生プロセスによって再び増加させることができない。例えば、酸素による再生により、コークスは除去されるが、元の構造が復元されない。したがって、そのような使用済み触媒は、アルカンの脱水素化に使用した後に、廃棄しなければならない。したがって、そのような使用済み脱水素化触媒を本発明によるプロセスに使用することができ、このプロセスが、安定性がよく、長期間に亘り動作できるということが、大きな利点であり、非常に意外なことである。
【0031】
使用済みのクロミア/アルミナ脱水素化触媒が、本発明によるプロセスにおいて触媒として使用する前に、約1から8時間に亘り大気圧において約500〜700℃で、水素を含有するガス状混合物で前処理されていることが好ましい。
【0032】
本発明によるプロセスにおいて、二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を触媒と接触させる工程は、幅広い温度範囲に亘り行うことができる。その反応は吸熱性であるので、高温により転化が促進されるが、温度が高すぎると、望ましくない反応が誘発されることもある。したがって、この工程は、好ましくは少なくとも約300℃、より好ましくは少なくとも400、500、またはさらには550℃であるが、好ましくは多くとも約900℃、より好ましくは多くとも800℃、またはさらには750℃の温度で行われる。
【0033】
二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を本発明のプロセスによる触媒と接触させる工程は、幅広い圧力範囲で行うことができる。高圧により、反応温度が低くなる傾向にあるが、非常に高い圧力は実際的ではない。その上、高圧により、メタンの形成が増加する。したがって、この工程は、好ましくはほぼ大気圧より高いが、5MPa未満、より好ましくは4または3MPa未満、最も好ましくは2MPa未満で行われる。
【0034】
二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を本発明のプロセスによる触媒に接触させる工程における接触時間は、幅広く様々であってよいが、0.5から6秒が好ましく、1.5から5秒、または2から4秒がより好ましい。
【0035】
本発明によるプロセスは、従来の反応装置および設備で行うことができる。それらの装置と設備は、例えば、メタン改質反応にも用いられる。当業者には、特定の条件および状況に応じて、適切な反応装置の設定を選択することができるであろう。適切なタイプの反応装置としては、連続式の固定床反応装置が挙げられる。高い反応温度、およびメタン化反応におけるNiなどのある種の金属の触媒活性に鑑みて、反応装置の壁などを製造するために、Niまたは他の活性金属を含む材料を使用することを避けることが好ましい。この理由のために、適切な反応装置の部品に、例えば、ガラス・ライニングを適用することが好ましい。
【0036】
本発明によるプロセスにおいて、二酸化炭素が、クロミア/アルミナ触媒の存在下で逆水性ガスシフト反応によって一酸化炭素に選択的に転化される。このCO2水素化プロセスの結果としての生成物は、一酸化炭素および水を含有するガス混合物、並びに転化されていない二酸化炭素と水素である。この反応は、水素が過剰にある場合には、以下の反応式:
【化3】

【0037】
により表すこともできる。
【0038】
この反応において形成された水は、一般に、生成物流から除去される。何故ならば、これにより、平衡反応が所望の方向に導かれ、また水は、合成ガスのその後の反応に干渉することも多いからである。水は、当該技術分野に公知の任意の適切な方法により、例えば、凝縮および液体/気体分離によって、生成物流から除去できる。
【0039】
供給ガス中の水素の量、すなわち、上述した反応式におけるnの値は、例えば、そのH2/CO比としてまたは化学量数(SN)として表される、合成ガス組成が得られるように、幅広く、例えば、n=1からn=5まで変動してもよく、その結果、合成ガス組成は、広い範囲内で変動し得る。その利点は、合成ガス組成は、所望の使用要件に合致するように、調節し、制御することができる。
【0040】
生成される合成ガス混合物のSNは0.1から3.0までであることが好ましく、Snが0.5から2.8まで、またはさらに0.9から2.7までであることがより好ましい。そのような合成ガス生成物流は、酸素添加、特にメタノール生成、オレフィン合成、鉄鋼生産における酸化鉄の還元、または(ヒドロ)カルボニル化反応などの、異なる合成ガス転化プロセスにおける供給原料としてさらに用いることができる。
【0041】
好ましい実施の形態において、供給ガスは、等モル量(上の式においてn=1)のCO2およびH2を含有し、主にCOからなる(転化と水の除去が完全なとき)合成ガス組成物が得られる。その合成ガスは、カルボニル化反応、例えば、メタノールの酢酸へのカルボニル化に使用するのに非常に適している。
【0042】
別の好ましい実施の形態において、供給ガスは、1:2のモル比(上の式においてn=2)でCO2およびH2を含有し、H2/COまたはSNが約1である合成ガス組成物が得られる。この合成ガスは、ジメチルエーテルなどの酸素添加物の製造に都合よく使用できる。
【0043】
さらに好ましい実施の形態において、供給ガスは、1:3のモル比(上の式においてn=3)でCO2およびH2を含有し、H2/COまたはSNが約2である合成ガス組成物が得られる。この合成ガスは、オレフィンやメタノールの合成プロセスに都合よく使用できる。
【0044】
本発明のプロセスに用いられるガス状供給混合物中の二酸化炭素は、様々な供給源が起源であって差し支えない。二酸化炭素が、排ガス流または回収ガス流から、例えば、必要に応じて、ガス組成を(非触媒的に)調節して、アンモニア合成から、例えば、同じ敷地にあるプラントから、由来しても、またはガス流から二酸化炭素を回収した後のものである。それゆえ、本発明のプロセスにおける出発材料としてそのような二酸化炭素を再利用することは、大気中に(化学生産拠点から)放出される二酸化炭素の量の減少に貢献する。供給ガスとして使用できる二酸化炭素は、RWGS反応自体の排ガスから少なくともある程度除去されたものであってよい。
【0045】
供給ガス中の水素は、エタン分解、メタノール合成、またはメタンの芳香族化合物への転化などの他の化学プロセスに由来する流れを含む、様々な供給源が起源であってもよい。
【0046】
本発明のプロセスに用いられる二酸化炭素および水素を含むガス状供給混合物は、反応に悪影響を及ぼさないという条件で、他のガスをさらに含有してもよい。そのような他のガスの例としては、水蒸気や、メタンが挙げられる。メタンは、本発明によるプロセスにおいて反応性ではないことが分かっている。これは、メタンを含有する水素流、例えば、別のプロセスからの回収流を使用して、供給混合物を製造できることを意味する。その供給混合物が多くとも約20%しかメタンを含有しないことが好ましい。
【0047】
供給ガスは、触媒に悪影響を与えない酸素を含有してもよいが、適用される反応条件下で酸素により開始される発熱反応により、触媒の活性が低下するかもしれないことが知られている。
【0048】
ガス状供給混合物が、メタン、プロパンまたはイソブタンなどのアルカン(メタンを除く)を含有しないことが好ましい。何故ならば、これらの化合物は、例えば、適用される条件でコークスの形成をもたらすかもしれないからである。
【0049】
本発明はさらに、脂肪族酸素添加物質、特にメタノール製造、オレフィン合成(例えば、フィッシャー・トロプシュ反応による)、芳香族製造、メタノールのカルボニル化、オレフィンのカルボニル化、または鉄鋼生産における酸化鉄の還元などの、化学生成物の製造プロセスの供給材料として、本発明によるプロセスで得られる合成ガス混合物の使用に関する。
【0050】
したがって、本発明はさらに、中間体としてまたは供給材料として、合成ガス混合物を使用した化学生成物を製造するプロセスであって、二酸化炭素を本発明により水素化する工程を有してなるプロセスに関する。そのようなプロセスの例としては、メタノールなどの脂肪族酸素添加物質の製造、オレフィン合成、芳香族製造、メタノールのカルボニル化、オレフィンのカルボニル化、または鉄鋼生産における酸化鉄の還元が挙げられる。
【0051】
好ましい実施の形態において、本発明は、合成ガスによるオレフィンのヒドロホルミル化によって酸素添加物質を製造するプロセスであって、本発明による二酸化炭素水素化により、適切な化学量論の合成ガス混合物を得る工程を有してなるプロセスに関する。RWGS工程において形成されるCOの量は、反応温度によって制御できる。製造された合成ガスは、約1のSNにより特徴付けられる組成を有することが好ましい。
【0052】
別の好ましい実施の形態において、本発明は、合成ガスによりメタノールを製造するプロセスであって、二酸化炭素を本発明により水素化して、適切な化学量論の、すなわち、約2のSNを有することが好ましい、合成ガス混合物を得る工程を有してなるプロセスに関する。このプロセスにおいて合成ガスからメタノールを製造する工程について、当該技術分野において公知の任意の適切な合成プロセスを適用して差し支えない。このプロセスにおいて、水素および二酸化炭素を含有する、メタノール合成反応からのパージガスは、二酸化炭素水素化工程に戻して再利用される。本発明によるこのプロセスのさらに別の利点は、発熱性メタノール合成工程において生じる熱を、吸熱性RWGS工程に利用できることである。
【実施例】
【0053】
ここで、以下の実験により、本発明をさらに説明する。
【0054】
実施例1
プロパンまたはイソブタンの脱水素化のための、Catofin(登録商標)としてSuedChemie社(独国)からの市販のクロミア/アルミナ脱水素化触媒をこの実験において触媒組成物として適用した。この触媒は約13質量%のCrを含有する。
【0055】
ガラス管に約6mlの新しい触媒を充填して、固定床型反応装置を製造し、温度制御された炉内に垂直に配置した。最初に水素を、2時間に亘り600℃で触媒粒子に通し、次いで、ガス状供給混合物を、二酸化炭素および水素を混合することにより製造し、52ml/分(質量流量制御装置により制御した)の入口流量で反応装置の管に流した。得られた合成ガス混合物(生成物)の組成を、冷却トラップ内でその混合物から水を除去した後、ガスクロマトグラフィーによりインラインで測定した。反応は大気圧で行った。他の条件および結果が、表1に示されている。合成ガス混合物において、メタンの量は低すぎて、信頼性を持って定量できなかった。これは、濃度が0.1体積%未満であり、COの選択率は99.5%を超えていたことを意味する。
【表1】

【0056】
実施例2
実施例1と同じクロミア/アルミナ触媒であるが、今では、活性が所定の最小値未満に低下したためにプロパン脱水素化反応装置から取り出された材料を、触媒として用いた(使用済みの脱水素化触媒)。実験を実施例1と同様に行ったが、3グラムの触媒が充填された管を適用した。最初に、使用済みの触媒を2時間に亘り600℃で水素により処理し、その後、供給ガスを水素/二酸化炭素の混合物に変えた。表2に示された結果が、この使用済みの触媒がまだ、RWGS反応において好ましい活性を示し、酸素の存在により影響を受けないことを示している。使用済み触媒のBET表面積は、新しい触媒の90m2/gに対して、60m2/gと測定された。使用済みと新しいクロミア/アルミナ触媒の細孔径は、それぞれ、約76Åおよび約45Åであることが分かり、プロパン脱水素化に使用した後の触媒における構造変化を示している。
【0057】
実施例3
実験を実施例2と同様に行ったが、約6mlの使用済み触媒を充填したガラス管を使用した。表3に収集した結果が、安定な合成ガス製造が5ヶ月間に亘り行われることを示している。メタンは検出できなかった。
【0058】
実施例4
この実験において、供給ガス混合物はメタンも含有し、この実験は実施例3のように行った。結果が表4に示されている。
【表2】

【表3】

【表4】

【0059】
実施例5
実験を実施例3と同様に行ったが、100mlの触媒充填量と、625ml/分のガス入口流量のベンチスケールで行った。
【0060】
表5に収集された結果が、安定な合成ガス製造が、メタンが検出されずに、3ヶ月間に亘り行われることを示している。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含有する合成ガス混合物を製造するプロセスであって、二酸化炭素および水素を含有するガス状供給混合物を触媒に接触させる工程を有してなり、前記触媒が、活性成分としてのクロム、随意的に促進剤としての少なくとも1種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属、および担体としてのアルミナから実質的になることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記触媒が、5から30質量%のクロムを含有することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記触媒が、Li、K、CsおよびSrからなる群より選択される少なくとも1つの元素を0.2から30質量%含むことを特徴とする請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒が、使用済みのクロミア/アルミナ脱水素化触媒であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のプロセス。
【請求項5】
前記使用済みの触媒が、1〜8時間に亘り大気圧において約500〜700℃で、水素を含有するガス状混合物で前処理されていることを特徴とする請求項4記載のプロセス。
【請求項6】
前記接触工程が、300から900℃の温度、0.1から5MPaの圧力、および0.5から6秒の接触時間で行われることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のプロセス。
【請求項7】
前記供給混合物が、1から5までの比率で水素および二酸化炭素を含有することを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のプロセス。
【請求項8】
前記合成ガス混合物が、0.1から3.0の化学量数を有することを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のプロセス。
【請求項9】
前記供給混合物がメタンをさらに含むことを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のプロセス。
【請求項10】
中間体または供給材料として合成ガス混合物を使用する化学生成物を製造するプロセスであって、請求項1から9いずれか1項記載の二酸化炭素水素化工程を有してなるプロセス。
【請求項11】
脂肪族酸素添加物質製造、オレフィン合成、芳香族製造、もしくはメタノールまたはオレフィンのカルボニル化であることを特徴とする請求項10記載のプロセス。
【請求項12】
メタノール製造であることを特徴とする請求項10記載のプロセス。

【公表番号】特表2010−531221(P2010−531221A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513743(P2010−513743)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005069
【国際公開番号】WO2009/000494
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】