説明

二酸化炭素の固定化方法

【課題】穏和な条件で二酸化炭素を固定化する方法の提供。
【解決手段】アリルアルコール等を一般式(3)t−BuOY(3)(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)で表される化合物と二酸化炭素とを反応させて、一般式(4)


(式中、X、R、R、R、R、RはH、YはCl、nは1又2である。)で表される化合物等に変換する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の新規な固定化方法及び二酸化炭素が固定化された化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出抑制等の観点から、二酸化炭素の固定化方法、特に、化学原料の有用物質として再資源化することにより、有機合成化学的に二酸化炭素を固定化する研究が注目されている。
【0003】
このような固定化方法としては、従来から、種々の方法が提供されている(非特許文献1及び2)。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アリルアルコールをヨウ素とブチルリチウムと二酸化炭素で反応させることにより、環状カーボネートに変換する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示の方法で使用する試薬ブチルリチウムは非常に強い塩基であり、取扱いに非常に注意を必要とする上、この強塩基を多量に使用しなければならず、安全面で問題がある。
【0006】
非特許文献2には、プロパルギルアルコールを銀イオンの存在下で反応させることにより、環状カーボネートに変換する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、非特許文献2に開示の方法では、10気圧という非常に高い圧力下で行う必要があり、取扱い面で不利である。
【0008】
一方、非特許文献1及び非特許文献2等に代表される二酸化炭素の固定化方法で得られる化合物は、環状カーボネートである。この環状カーボネートはポリカーボネートの原料となる他、燃料電池用電解液及び樹脂添加剤としても利用できるため、需要が延びつつある。
【0009】
従って、環状カーボネートの製造という観点からも、比較的安全性の高い状況で二酸化炭素を固定して環状カーボネートを製造する方法の開発が要望されている。
【非特許文献1】J. Chem. Soc. Chem. Comm., 1981, p.465-466
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, p.12902-12903
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、強塩基及び高圧を必要とせず、穏和な条件で、二酸化炭素を固定化することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物を使用することにより、上記問題を解決することに至った。すなわち、本発明は、下記の二酸化炭素の固定化方法、二酸化炭素が固定化された化合物の新規な製造方法並びに当該化合物に係る。
【0012】
項1.二酸化炭素を固定化する方法であって、一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Xは、−O−又は−NR−(Rは、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは水素又はアルキル基を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成してもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。nは、1又は2を示す。)
で表される化合物、又は一般式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。mは、1又は2を示す。)
で表される化合物を、一般式(3)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と二酸化炭素とを反応させて、それぞれ一般式(4)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、X、R、R、R、R、R、R、Y及びnは上述と同様である。)
で表される化合物、又は一般式(5)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、X、R、R、R、R10、Y及びmは上述と同様である。)
で表される化合物に変換することを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。
【0023】
項2.反応が有機溶媒中で行われる、項1に記載の方法。
【0024】
項3.反応が20℃以下の温度で行われる、項1又は2に記載の方法。
【0025】
項4.反応が0.5〜1.5atmの圧力下で行われる、項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0026】
項5.一般式(1)又は(2)で表される化合物に対して、一般式(3)で表される化合物を0.1〜4当量添加する、項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0027】
項6.一般式(4)
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、Xは、−O−又は−NR−(Rは、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成してもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Yは、Cl、Br又はIを示す。nは、1又は2を示す。)で表される化合物、又は
一般式(5)
【0030】
【化7】

【0031】
(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Yは、Cl、Br又はIを示す。mは、1又は2を示す。)
で表される化合物を製造する方法であって、それぞれ一般式(1)
【0032】
【化8】

【0033】
(式中、X、R、R、R、R、R、R及びnは上述と同様である。)
で表される化合物、又は一般式(2)
【0034】
【化9】

【0035】
(式中、X、R、R、R、R10及びmは上述と同様である。)
で表される化合物に、一般式(3)
【0036】
【化10】

【0037】
(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と二酸化炭素とを反応させることを特徴とする製造方法。
【0038】
項7.反応が有機溶媒中で行われる、項6に記載の方法。
【0039】
項8.反応が20℃以下の温度で行われる、項6又は7に記載の方法。
【0040】
項9.反応が0.5〜1.5atmの圧力下で行われる、項6〜8のいずれかに記載の方法。
【0041】
項10.一般式(1)又は(2)で表される化合物に対して、一般式(3)で表される化合物を0.1〜4当量添加する、項6〜9のいずれかに記載の方法。
【0042】
項11.下記一般式(6)
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物。
【0045】
本発明において、「二酸化炭素を固定化する」とは、二酸化炭素を原料として用いて、当該二酸化炭素が分子中に組み込まれた有機化合物を製造することをいう。
【0046】
特に、本発明では、二酸化炭素を原料として用いて、後述する一般式(4)又は(5)で表される化合物を製造することをいい、当該固定化方法として第1態様及び第2態様が挙げられる。
【0047】
第1態様の固定化方法
本発明の第1態様の二酸化炭素の固定化方法は、一般式(1)
【0048】
【化12】

【0049】
(式中、Xは、−O−又は−NR−(Rは、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは水素又はアルキル基を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成してもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。nは、1又は2を示す。)で表される化合物と、
一般式(3)
【0050】
【化13】

【0051】
(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と、二酸化炭素とを反応させて、一般式(4)
【0052】
【化14】

【0053】
(式中、X、R、R、R、R、R、R、Y及びnは上述と同様である。)
で表される化合物に変換することを特徴とする。
【0054】
一般式(1)において、Xは、−O−又は−NR−を示す。
【0055】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0056】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0057】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0058】
なお、nが2の場合において、R及びRはそれぞれ2つずつ存在することになるが、当該2つのRは同一であってもよく、また異なっていてもよい。同様に当該2つのRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0059】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0060】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜4程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0061】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜4程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0062】
また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。例えば、R又はRと、Rとが環を形成する場合、R(又はR)及びRが結合して形成する基は、アルキレン基等が挙げられる。当該アルキレン基の炭素数は限定的でないが、通常2〜4程度、好ましくは2〜3程度である。また、当該アルキレン基は、直鎖であっても、分岐していてもよい。また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜2程度とすればよい。アルキレン基の具体例としては、トリメチレン基等が好適に挙げられる。
【0063】
は、Rと結合して環を形成していてもよい。RとRとが環を形成する場合、R及びRが結合して形成する基は、例えば、アルキレン基等が挙げられる。当該アルキレン基の炭素数は限定的でないが、通常4〜6程度、好ましくは4〜5程度である。また、当該アルキレン基は、直鎖であっても、分岐していてもよい。また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜4程度とすればよい。アルキレン基の具体例としては、ペンタメチレン基等が好適に挙げられる。
【0064】
は、Rと結合して環を形成してもよい。RとRとが環を形成する場合、R及びRが結合して形成する基は、例えば、アルキレン基等が挙げられる。当該アルキレン基の炭素数は限定的でないが、通常3〜5程度、好ましくは3〜4程度である。また、当該アルキレン基は、直鎖であっても、分岐していてもよい。また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキレン基の具体例としては、テトラメチレン基等が好適に挙げられる。
【0065】
は、Rと結合して環を形成していてもよい。RとRとが環を形成する場合、R及びRが結合して形成する基は、例えば、アルキレン基等が挙げられる。当該アルキレン基の炭素数は限定的でないが、通常5〜7程度、好ましくは5〜6程度である。また、当該アルキレン基は、直鎖であっても、分岐していてもよい。また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキレン基の具体例としては、ペンタメチレン基等が好適に挙げられる。
【0066】
本発明の上記一般式(1)の化合物と反応させる化合物は、次亜ハロゲン酸tert−ブチルであり、下記一般式(3)
【0067】
【化15】

【0068】
で表される。
【0069】
ただし、式中、Yは、Cl、Br又はIを示し、好ましくはIである。
【0070】
本発明の固定化方法は、上記一般式(1)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルと、二酸化炭素とを反応させる。
【0071】
反応条件は限定的でないが、例えば、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒は限定的ではないが、本発明では、非プロトン性溶媒が好適に挙げられる。非プロトン性溶媒としては、例えば、アセトニトリル(MeCN)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、ベンゼン(PhH)等が挙げられる。好ましくは、アセトニトリル等である。
【0072】
固定化方法は、二酸化炭素の固定化方法の分野において一般的に行われている手法で行えばよい。例えば、有機溶媒中に上記一般式(1)で表される化合物及び次亜ハロゲン酸tert−ブチルを混合し、次いで、二酸化炭素の雰囲気に晒すことにより、行うことができる。
【0073】
必要に応じて、予め有機溶媒に、二酸化炭素のバブリング等により、有機溶媒中の二酸化炭素濃度を飽和させておいてもよい。これにより、一段と固定化反応を生じやすくできる。
【0074】
反応条件は限定的でないが、好ましくは常圧(具体的には、0.5〜1.5atm)で行えばよい。本発明では、高圧(例えば、10atm以上)とせずとも、二酸化炭素を固定化することが可能である。
【0075】
反応温度は限定的でないが、本発明では、通常20℃以下、好ましくは0℃以下、特に好ましくは−20〜−40℃程度である。上記の範囲とすることにより、所望の生成物の収率を向上させることができる。
【0076】
反応時間は限定的でなく、反応条件等に応じて適宜決定すればよいが、通常3〜72時間程度、好ましくは、10〜24時間程度とすればよい。
【0077】
一般式(1)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとの混合割合は、前者に対して、後者を0.1〜4当量程度、好ましくは0.5〜3当量程度とすればよい。なお、本発明において、前者に対して後者1当量混合するとは、前者1molに対して後者を1mol混合することをいう。
【0078】
有機溶媒中で行う場合、当該有機溶媒に含まれる一般式(1)で表される化合物の濃度は、有機溶媒の種類に応じて適宜決定されるが、例えば0.05〜0.5mol/L程度、好ましくは0.1〜0.3mol/L程度とすればよい。
【0079】
なお、一般式(1)で表される化合物及び次亜ハロゲン酸tert−ブチルは、それぞれ市販又は公知のものを用いてもよく、また、常法に従い、反応工程中で生成してもよい。
【0080】
例えば、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとして次亜ヨウ素酸tert−ブチル(t−BuOI)を使用する場合、市販の次亜ヨウ素酸tert−ブチルを直接添加してもよいし、また、例えば、反応系中で、市販の次亜塩素酸tert−ブチル(t−BuOCl)と、NaI等のヨウ化アルカリ金属とを混合させることにより、次亜ヨウ素酸tert−ブチルを生成させてもよい。
【0081】
本発明の固定化方法では、上記一般式(4)で示される化合物が製造される。
【0082】
一般式(4)中のR、R、R、R、R、X、Y及びnは上述したものと同様のものが列挙される。特に、Xが−O−、YがIである化合物が好ましい。さらにR、R、R、R及びRがともに水素である化合物が好ましい。
【0083】
なお、Xが−O−である場合は、一般的に「環状カーボネート」と称される化合物であり、−NR−(Rは上述したものと同様である)の場合は、一般的に「環状ウレタン」と称される化合物である。
【0084】
本発明の第1態様の固定化方法で製造される環状カーボネートは、ポリカーボネートの原料、燃料電池用電解液、樹脂添加剤等の用途に好適に使用できる。また、「環状ウレタン」は、抗菌剤等の用途に好適に使用できる。
【0085】
本発明の第1態様の二酸化炭素の固定化方法のメカニズムは明らかではないが、例えば、一般式(1)で示される化合物としてアリルアルコールを用い、かつ、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとして次亜ヨウ素酸tert−ブチルを用いた場合を例として挙げて説明すると、下記のような経路を経路したものと推察される。
【0086】
【化16】

【0087】
まず、次亜ヨウ素酸tert−ブチルがアリルアルコール分子中の酸素に結合した水素をヨウ素に置換する。そして、このヨウ素が置換されたアリルアルコールが分子内でオレフィン部位にヨウ素を移動させ、ヨードニウムを発生させ、同時に生じた酸素アニオン種が二酸化炭素を補足し、5−exo型の環化を経て、目的の生成物に至ると考えられる。
【0088】
本発明の第1態様では、特に、一般式(1)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとを使用するため、比較的穏やかな条件で、二酸化炭素を固定化して、一般式(4)で示される化合物を製造することが可能となる。すなわち、常圧で固定化でき、かつ強塩基等の物質を必須としないため、安全且つ低コストで簡便に固定化することができる。また、原料物質である次亜ハロゲン酸tert−ブチルを過剰に添加する必要もなく、工業的に有利である。
【0089】
第2態様の固定化方法
本発明の第2態様の二酸化炭素の固定化方法は、一般式(2)
【0090】
【化17】

【0091】
(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。mは、1又は2を示す。)
で表される化合物と、
一般式(3)
【0092】
【化18】

【0093】
(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と、二酸化炭素とを反応させて、一般式(5)
【0094】
【化19】

【0095】
(式中、X、R、R、R、R10、Y及びmは上述と同様である。)
で表される化合物に変換することを特徴とする。
【0096】
一般式(2)において、Xは、−O−又は−NR10−を示す。
【0097】
10は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、R10として、水素が好ましい。
【0098】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0099】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0100】
なお、mが2の場合において、R及びRはそれぞれ2つずつ存在することになるが、当該2つのRは同一であってもよく、また異なっていてもよい。同様に当該2つのRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0101】
は、水素又はアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は限定的でないが、通常1〜4程度、好ましくは1〜2程度である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜3程度とすればよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。本発明では、Rとして、水素が好ましい。
【0102】
また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。RとRとが環を形成する場合、R及びRが結合して形成する基は、例えば、アルキレン基等が挙げられる。当該アルキレン基の炭素数は限定的でないが、通常4〜6程度、好ましくは4〜5程度である。また、当該アルキレン基は、直鎖であっても、分岐していてもよい。また、エステル基(特に、アセトキシ基)等の置換基を有していてもよい。置換基を有している場合の置換基の数は、例えば、1〜4程度とすればよい。アルキレン基の具体例としては、ペンタメチレン基等が好適に挙げられる。
【0103】
本発明の上記一般式(2)の化合物と反応させる化合物は、次亜ハロゲン酸tert−ブチルであり、第1態様の固定化方法で上述した一般式(3)と同様(好ましいものも同様)である。
【0104】
本発明の固定化方法は、上記一般式(2)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルと、二酸化炭素とを反応させる。
【0105】
反応条件は限定的でないが、例えば、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、第1態様の固定化方法で上述したものと同様のものが(好ましいものも同様)挙げられる。
【0106】
固定化方法は、二酸化炭素の固定化方法の分野において一般的に行われている手法で行えばよい。例えば、有機溶媒中に上記一般式(2)で表される化合物及び次亜ハロゲン酸tert−ブチルを混合し、次いで、当該有機溶媒を二酸化炭素雰囲気に晒すことにより、行うことができる。
【0107】
必要に応じて、予め有機溶媒に、二酸化炭素のバブリング等により、有機溶媒中の二酸化炭素濃度を飽和させておいてもよい。これにより、一段と固定化反応を生じやすくできる。
【0108】
反応条件は限定的でないが第1態様の固定化方法で上述したものと同様のものが(好ましいものも同様)挙げられる。
【0109】
反応時間、圧力、温度等は限定的でないが、第1態様の固定化方法で上述した条件と同様の条件が(好ましい条件も同様)挙げられる。
【0110】
一般式(2)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとの混合割合は、前者に対して、後者を0.1〜4当量程度、好ましくは0.5〜3当量程度とすればよい。
【0111】
有機溶媒中で行う場合、当該有機溶媒に含まれる一般式(2)で表される化合物の濃度は、有機溶媒の種類に応じて適宜決定されるが、例えば0.05〜0.5mol/L程度、好ましくは、0.1〜0.3mol/L程度とすればよい。
【0112】
なお、一般式(2)で表される化合物及び次亜ハロゲン酸tert−ブチルは、第1態様で上述したように、それぞれ市販又は公知のものを用いてもよく、また、反応工程中で生成してもよい。
【0113】
本発明の固定化方法では、上記一般式(5)で示される化合物が製造される。
【0114】
一般式(5)中のR、R、R、R10、X、Y及びmは上述したものと同様のものが列挙される。特に、Xが−O−、YがIである化合物が好ましい。さらに、R、R及びRがともに水素である化合物が好ましい。
【0115】
上記一般式(5)の化合物の具体的な例としては、特に下記一般式(6)で示される化合物が挙げられる。
【0116】
【化20】

【0117】
一般式(6)中、X及びYは、上述したものと同様である。一般式(6)のより具体例としては、Xが−O−であり、YがIであるものが挙げられる。これらの化合物は、特に医薬品の中間原料の用途に好適に用いることができる。特に、ヨウ素官能基及び二重結合を有しているため、種々の官能基等を容易に付与できる。
【0118】
なお、Xが−O−である場合は、第1態様で上述したように、一般的に「環状カーボネート」と称される化合物であり、−NR10−(R10は上述したものと同様である)の場合は、一般的に「環状ウレタン」と称される化合物である。
【0119】
本発明の第2態様の固定化方法で製造される環状カーボネートは、ポリカーボネートの原料、燃料電池用電解液、樹脂添加剤等の用途に好適に使用できる。また、「環状ウレタン」は、抗菌剤等の用途に好適に使用できる。
【0120】
本発明の第2態様で二酸化炭素の固定化方法のメカニズムは明らかではないが、例えば、一般式(2)で示される化合物としてプロパルギルアルコールを用い、かつ、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとして次亜ヨウ素酸tert−ブチルを用いた場合を例として挙げて説明すると、下記のような経路を経路したものと推察される。
【0121】
【化21】

【0122】
まず、次亜ヨウ素酸tert−ブチルがプロパルギルアルコール分子中の酸素に結合した水素をヨウ素に置換する。そして、このヨウ素が置換されたプロパルギルアルコールが分子内でアルキン部位にヨウ素を移動させ、ヨードニウムを発生させ、同時に生じた酸素アニオン種が二酸化炭素を補足し、5−exo型の環化を経て、目的の生成物に至ると考えられる。
【0123】
本発明の第2態様では、特に、一般式(2)で表される化合物と、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとを使用するため、比較的穏やかな条件で、二酸化炭素を固定化して、一般式(5)で示される化合物を製造することが可能となる。すなわち、常圧で固定化でき、かつ強塩基等の物質を必須としないため、安全且つ低コストで簡便に固定化することができる。また、原料物質である次亜ハロゲン酸tert−ブチルを過剰に添加する必要もなく、工業的に有利である。
【発明の効果】
【0124】
本発明(第1態様及び第2態様)の二酸化炭素の固定化方法によれば、高圧力及び強塩基を必須としない条件で、すなわち、穏和な条件で二酸化炭素を固定化することができる。
【0125】
本発明(第1態様及び第2態様)の製造方法によれば、穏和な条件で環状ポリカーボネート及び環状ウレタンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0126】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0127】
実施例1
アセトニトリル(有機溶媒)3mLを反応管に入れた後、二酸化炭素をバブリングすることによりアセトニトリル中の二酸化炭素濃度を飽和させた。
【0128】
次いで、次亜塩素酸tert−ブチル及びNaIを化学量論量(前者0.5mmolに対して後者0.5mmol)となるように、アセトニトリル中に添加することにより、次亜ヨウ素酸tert−ブチルを生成させた。
【0129】
その後、アリルアルコールを0.5mmol添加し(すなわち、アリルアルコールに対し、次亜ヨウ素酸tert−ブチルが1当量となるように添加し)、次いで、反応管内の雰囲気を二酸化炭素(1気圧、室温r.t.:20℃)にした。
【0130】
これにより、下記反応式のように、アリルアルコール、次亜ヨウ素酸tert−ブチル及び二酸化炭素が反応し、目的の環状カーボネートを製造した。収率は、50%であった。この結果を表1に示す。
【0131】
【化22】

【0132】
【表1】

【0133】
実施例2〜14
反応条件を上記表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、目的の環状カーボネートを製造した。この結果を表1に併記する。
【0134】
実施例15〜17
一般式(1)で表される化合物として、trans−2−ブテン−1−オールを用い、下記反応式及び表2に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。この結果を表2に示す。
【0135】
【化23】

【0136】
【表2】

【0137】
実施例18及び19
一般式(1)で表される化合物として、3−メチル−2−ブテン−1−オールを用い、下記反応式及び表3に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。この結果を表3に示す。
【0138】
【化24】

【0139】
【表3】

【0140】
実施例20及び21
一般式(1)で表される化合物として、2−メチル−2−プロペン−1−オールを用い、下記反応式及び表4に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。この結果を表4に示す。
【0141】
【化25】

【0142】
【表4】

【0143】
実施例22
一般式(1)で表される化合物として、2−メチル−3−ブテン−1−オールを用い、下記反応式に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。
【0144】
【化26】

【0145】
実施例23
一般式(1)で表される化合物として、2−シクロヘキセン−1−オールを用い、下記反応式に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。
【0146】
【化27】

【0147】
実施例24〜26
一般式(1)で表される化合物として、cis−2−ヘキセン−1−オールを用い、下記反応式及び表5に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。この結果を表5に示す。
【0148】
【化28】

【0149】
【表5】

【0150】
実施例27
一般式(1)で表される化合物として、アリルアミンを用い、下記反応式に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状ウレタンを製造した。
【0151】
【化29】

【0152】
実施例28
一般式(1)で表される化合物として、3−メチル−3−ブテン−1−オールを用い、下記反応式に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。
【0153】
【化30】

【0154】
実施例29
NaIを添加しない以外(すなわち、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとして、次亜塩素酸tert−ブチルを用いた以外)は実施例1と同様にすると、実施例1と同一の環状カーボネートが製造された。
【0155】
実施例30
NaIの代わりに、NaBrを添加した以外(すなわち、次亜ハロゲン酸tert−ブチルとして、次亜臭素酸tert−ブチルを用いた以外)は実施例1と同様にすると、実施例1と同一の環状カーボネートが製造された。
【0156】
実施例31
一般式(2)で表される化合物として、プロパルギルアルコールを用い、下記反応式に示す条件で行った以外は、実施例1と同様にして、下記に示す環状カーボネートを製造した。
【0157】
【化31】

【0158】
比較例1
次亜ヨウ素酸tert−ブチルの代わりに、ヨウ素(I)を用いた以外は実施例1と同様にして反応を試みた。しかし、環状カーボネートは生成しなかった。
【0159】
比較例2
次亜ヨウ素酸tert−ブチルの代わりに、N−ヨードスクシンイミドを用いた以外は実施例1と同様にして反応を試みた。しかし、環状カーボネートは生成しなかった。
【0160】
比較例3
二酸化炭素のバブリングを行わず、且つ、反応時の雰囲気を二酸化炭素を含まない雰囲気とした以外は、実施例1と同様にして反応を試みた。しかし、環状カーボネートは生成しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を固定化する方法であって、一般式(1)
【化1】

(式中、Xは、−O−又は−NR−(Rは、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは水素又はアルキル基を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成してもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。nは、1又は2を示す。)
で表される化合物、又は一般式(2)
【化2】

(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。mは、1又は2を示す。)
で表される化合物を、一般式(3)
【化3】

(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と二酸化炭素とを反応させて、それぞれ一般式(4)
【化4】

(式中、X、R、R、R、R、R、R、Y及びnは上述と同様である。)
で表される化合物、又は一般式(5)
【化5】

(式中、X、R、R、R、R10、Y及びmは上述と同様である。)
で表される化合物に変換することを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
反応が有機溶媒中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応が20℃以下の温度で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応が0.5〜1.5atmの圧力下で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
一般式(1)又は(2)で表される化合物に対して、一般式(3)で表される化合物を0.1〜4当量添加する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
一般式(4)
【化6】

(式中、Xは、−O−又は−NR−(Rは、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。また、R又はRは、R又はRと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Rは、Rと結合して環を形成してもよい。Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Yは、Cl、Br又はIを示す。nは、1又は2を示す。)で表される化合物、又は
一般式(5)
【化7】

(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。R及びRは同一又は異なって、水素又はアルキル基を示す。Rは、水素又はアルキル基を示す。また、Rは、Rと結合して環を形成していてもよい。Yは、Cl、Br又はIを示す。mは、1又は2を示す。)
で表される化合物を製造する方法であって、それぞれ一般式(1)
【化8】

(式中、X、R、R、R、R、R、R及びnは上述と同様である。)
で表される化合物、又は一般式(2)
【化9】

(式中、X、R、R、R、R10及びmは上述と同様である。)
で表される化合物に、一般式(3)
【化10】

(式中、Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物と二酸化炭素とを反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
反応が有機溶媒中で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応が20℃以下の温度で行われる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
反応が0.5〜1.5atmの圧力下で行われる、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
一般式(1)又は(2)で表される化合物に対して、一般式(3)で表される化合物を0.1〜4当量添加する、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
下記一般式(6)
【化11】

(式中、Xは、−O−又は−NR10−(R10は、水素又はアルキル基を示す)を示す。Yは、Cl、Br又はIを示す。)
で表される化合物。

【公開番号】特開2009−215213(P2009−215213A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60031(P2008−60031)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】