説明

二酸化炭素分離装置およびその使用方法

【課題】簡便な構造を有し、小型化が可能な二酸化炭素分離装置およびこれを用いたアルカリ形燃料電池システムを提供する。
【解決手段】酸素ガスおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを分離するための装置であって、アノード電極13とアニオン交換形高分子電解質膜11とカソード電極12とをこの順で備える二酸化炭素分離積層体10;アノード電極13の外面上に配置され、アノード電極13側の少なくとも一部が開放された空間からなる、還元剤をアノード電極13に供給するための還元剤供給室30;および、カソード電極12の外面上に配置され、カソード電極12側の少なくとも一部が開放された空間からなる、混合ガスをカソード電極12に供給するための混合ガス供給室20を含み、アノード電極13とカソード電極12とが電気的に接続されている二酸化炭素分離装置およびこれを用いたアルカリ形燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気等の酸素ガスと二酸化炭素ガスとを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを分離するための二酸化炭素分離装置およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスから二酸化炭素を分離する方法としては、従来、様々な手法が提案されており、なかでも、活性炭、各種複合酸化物、アミン系溶媒、炭酸カリウム水溶液などからなる吸着剤もしくは吸収剤を用いた方法(たとえば特許文献1)を代表的なものとして挙げることができる。
【0003】
しかしながら、吸着剤もしくは吸収剤を用いた方法においては、吸着剤もしくは吸収剤の再生操作が必要であるために、装置内に何らかの再生装置(たとえば高温処理装置など)を付設する必要があり、二酸化炭素分離装置の小型化が困難であるとともに、連続運転が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−297601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような再生操作およびこれに伴う再生装置の付設が不要で、簡便な構造を有し、小型化が可能な二酸化炭素分離装置およびこれを用いたアルカリ形燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸素ガスおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを分離するための装置であって、アノード電極とアニオン交換形高分子電解質膜とカソード電極とをこの順で備える二酸化炭素分離積層体;アノード電極の外面上に配置され、アノード電極側の少なくとも一部が開放された空間からなる、還元剤をアノード電極に供給するための還元剤供給室;および、カソード電極の外面上に配置され、カソード電極側の少なくとも一部が開放された空間からなる、混合ガスをカソード電極に供給するための混合ガス供給室を含み、アノード電極とカソード電極とが電気的に接続されている二酸化炭素分離装置を提供する。
【0007】
アノード電極とカソード電極とは、抵抗(好ましくは可変抵抗)、あるいは、必要に応じて該抵抗とともに、発電装置を介して電気的に接続することができる。
【0008】
本発明の二酸化炭素分離装置において、アノード電極は、アニオン交換形高分子電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード電極は、アニオン交換形高分子電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有することが好ましい。この際、アノード触媒層は、その体積をカソード触媒層より大きくすることが好ましい。たとえば、アノード触媒層におけるアニオン交換形高分子電解質膜側の面の面積を、カソード触媒層におけるアニオン交換形高分子電解質膜側の面の面積より大きくすることにより、アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくすることができる。
【0009】
本発明の二酸化炭素分離装置は、アノード電極の温度を上昇させるための温度制御装置をさらに備えていてもよい。アノード電極とカソード電極とが抵抗を介して電気的に接続されている場合には、この抵抗が温度制御装置を兼ねていてもよい。
【0010】
本発明の二酸化炭素分離装置が備える二酸化炭素分離積層体は、内側から順に、カソード電極とアニオン交換形高分子電解質膜とアノード電極とを備える円筒状の積層体であってもよい。この場合、混合ガス供給室は、このような二酸化炭素分離積層体の中空部からなることができる。
【0011】
本発明の二酸化炭素分離装置の好ましい実施形態において、混合ガス供給室は、空間的に互いに分離された第1の混合ガス供給室と第2の混合ガス供給室とからなり、カソード電極は、第2の混合ガス供給室を形成する空間とのみ接しており、かつ、第1の混合ガス供給室を形成する空間は、アニオン交換形高分子電解質膜と接している。このような実施形態においては、第1の混合ガス供給室を形成する空間とアニオン交換形高分子電解質膜とが接する領域の合計面積を、第2の混合ガス供給室を形成する空間とカソード電極とが接する領域の合計面積より大きくすることが好ましい。
【0012】
本発明の二酸化炭素分離装置において、還元剤供給室は、還元剤を導入するための還元剤導入口と、還元剤および二酸化炭素ガスを含むガスを排出するための還元剤排出口とを有し、混合ガス供給室は、混合ガスを導入するための混合ガス導入口と、二酸化炭素が低減または除去された処理ガスを排出するための処理ガス排出口とを有することが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記二酸化炭素分離装置と、少なくとも、アノード極と、電解質層と、カソード極とをこの順で備えるアルカリ形燃料電池とを含み、二酸化炭素分離装置の処理ガス排出口から排出された処理ガスが、アルカリ形燃料電池のカソード極に供給されるとともに、アルカリ形燃料電池のアノード極から排出された還元剤が二酸化炭素分離装置の還元剤導入口から還元剤供給室内に導入される、アルカリ形燃料電池システムを提供する。
【0014】
さらに本発明の上記二酸化炭素分離装置の使用方法を提供する。本発明の二酸化炭素分離装置の使用方法は、混合ガス供給室内の圧力を、還元剤供給室内の圧力より高くすることを特徴とする。たとえば、混合ガスを加圧して混合ガス供給室内に導入することにより、混合ガス供給室内の圧力を、還元剤供給室内の圧力より高くすることができる。
【0015】
また本発明は、アノード電極とカソード電極とが可変抵抗を介して電気的に接続された上記二酸化炭素分離装置の使用方法であって、アノード電極とカソード電極との間を流れる電流量が所定量を下回った場合に、可変抵抗の抵抗値を減少させることを特徴とする二酸化炭素分離装置の使用方法、および、アノード電極とカソード電極とが発電装置を介して電気的に接続された上記二酸化炭素分離装置の使用方法であって、アノード電極とカソード電極との間を流れる電流量が所定量を下回った場合に、発電装置の出力電圧を増加させることを特徴とする二酸化炭素分離装置の使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、二酸化炭素吸着剤もしくは吸収剤を用いた二酸化炭素分離装置に必須となる吸着剤もしくは吸収剤の再生装置の付設が不要となるため、簡便な構造を有し、小型化が可能な二酸化炭素分離装置を提供することができる。また、アルカリ形燃料電池に供給する酸化剤中の二酸化炭素を分離するための装置として本発明の二酸化炭素分離装置を適用した本発明のアルカリ形燃料電池システムによれば、同様に該システムの小型化を図ることができるとともに、アルカリ形燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の二酸化炭素分離装置の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略図である。
【図10】本発明の二酸化炭素分離装置の他の好ましい一例を示す概略図である。
【図11】本発明のアルカリ形燃料電池システムの好ましい一例を示す概略図である。
【図12】実施例4で作製した二酸化炭素分離装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の二酸化炭素分離装置およびアルカリ形燃料電池システムを実施の形態を示して詳細に説明する。
【0019】
<二酸化炭素分離装置>
本発明の二酸化炭素分離装置は、酸素ガスおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガス(空気など)から二酸化炭素ガスを分離するための装置である。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。図1に示される本実施形態の二酸化炭素分離装置100は、アノード電極13とアニオン交換形高分子電解質膜11とカソード電極12とをこの順で備える平板状の二酸化炭素分離積層体10;アノード電極13の外面(アニオン交換形高分子電解質膜11とは反対側の表面)上に配置され、アノード電極13側の少なくとも一部(図1においては全部)が開放された空間からなる、還元剤をアノード電極13に供給するための還元剤供給室30;カソード電極12の外面(アニオン交換形高分子電解質膜11とは反対側の表面)上に配置され、カソード電極12側の少なくとも一部(図1においては全部)が開放された空間からなる、混合ガスをカソード電極12に供給するための混合ガス供給室20;および、アノード電極13とカソード電極12とを電気的に接続している接続手段としての配線40から構成された平板状の装置である。
【0021】
アノード側に配置される還元剤供給室30は、還元剤供給室30を形成する凹部を有した還元剤供給板31から形成されている。還元剤供給板31の対向する側面には、還元剤を還元剤供給室30内に導入するための還元剤導入口32と、還元剤供給室30内のガスを排出するための還元剤排出口33が設けられている。還元剤導入口32および還元剤排出口33は、還元剤供給室30と連通している。
【0022】
カソード側に配置される混合ガス供給室20は、混合ガス供給室20を形成する凹部を有した混合ガス供給板21から形成されている。混合ガス供給板21の対向する側面には、混合ガスを混合ガス供給室20内に導入するための混合ガス導入口22と、二酸化炭素分離処理がなされ、二酸化炭素が低減または除去された処理ガスを排出するための処理ガス排出口23が設けられている。混合ガス導入口22および処理ガス排出口23は、混合ガス供給室20と連通している。
【0023】
図示しないが、アノード電極13は、アニオン交換形高分子電解質膜11の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、カソード電極12は、アニオン交換形高分子電解質膜11の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有している。
【0024】
上記構成の装置によれば、酸素ガスおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスから二酸化炭素を効率的に除去または低減することができる。すなわち、混合ガス導入口22を通して混合ガス供給室20内に空気等の混合ガスを導入すると、カソード電極12のカソード触媒層では、下記式(1):
2+2H2O+4e → 4OH- (1)
で表される触媒反応によりOH-が生成されるとともに、混合ガス中のCO2は、下記式(2):
CO2+2OH- → CO32-+ H2O (2)
で表されるような中和反応を起こし、アニオン(CO32-)としてカソード電極12およびアニオン交換形高分子電解質膜11内に取り込まれる。このようなカソード側での二酸化炭素の吸収により、混合ガス中の二酸化炭素が分離される。カソード側からアノード側への電荷キャリアであるOH-が、いわばCO2の中和剤として役割を果たしているといえる。CO2が低減または除去された処理ガス(酸素含有ガス)は、処理ガス排出口23から排出される。
【0025】
一方、アノード電極13のアノード触媒層では、還元剤導入口32を通して還元剤供給室30内に還元剤、たとえばH2ガスを供給すると、下記式(3):
2+CO32- → CO2+H2O+2e- (3)
で表されるような、還元剤と、アニオン交換形高分子電解質膜11を介してカソード側から伝達されたCO32-との触媒反応が生じ、CO2が遊離する。この際、アノード電極13とカソード電極12とは、配線40によって電気的に接続されているので、上記式(1)〜(3)で示される反応によって生じる、アノード電極13とカソード電極12との間の電位差を駆動力として、アノード電極13とカソード電極12との間に電流が自発的に流れることとなる。アノード触媒層にて遊離したCO2は、未反応の還元剤とともに、還元剤排出口33から排出される。
【0026】
以上のように、本発明の二酸化炭素分離装置によれば、カソード側で二酸化炭素の吸収が行なわれるのと並行して、中和剤として機能するOH-の再生がなされるため、従来のような中和剤を再生させるための別途の装置を必要せず、装置の簡略化および小型化を図ることができる。ここでいう「OH-の再生」とは、上記式(2)に従いOH-がCO32-によって置換されることにより低下したOH-濃度が、上記式(1)によるOH-の生成および上記式(3)によるCO32-の排出(CO2として排出)によって回復することをいう。
【0027】
次に、二酸化炭素分離装置100を構成する各部材について詳細に説明する。
(1)アニオン交換形高分子電解質膜
アニオン交換形高分子電解質膜11は、ガスバリア性を有し、OH-イオンを伝導でき、かつ、アノード電極13とカソード電極12との短絡を防止するために電気的絶縁性を有するアニオン伝導性固体高分子電解質からなる限り特に制限されず、このような電解質としては、たとえば、炭化水素系高分子電解質、フッ素樹脂系高分子電解質を挙げることができる。
【0028】
炭化水素系高分子電解質としては、たとえば、芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られる電解質等が挙げられる。クロロメチル化剤としては、クロロメトキシメタン、1,4−ビス(クロロメトキシ)ブタン、1−クロロメトキシ−4−クロロブタン、ホルムアルデヒド−塩化水素、パラホルムアルデヒド−塩化水素等が使用できる。このようにして得られたクロロメチル化物を、アミン化合物と反応させてアニオン交換基を導入する。アミン化合物としては、モノアミン、1分子中に2個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物等が使用できる。具体的には、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等のジアルキルアミン;アニリン、N−メチルアニリン等の芳香族アミン;ピロリジン、ピペラジン、モルホリン等の複素環アミン等のモノアミン;m−フェニレンジアミン、ピリダジン、ピリミジン等のポリアミン化合物が使用できる。
【0029】
また、フッ素樹脂系高分子電解質としては、たとえば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマーの末端をジアミンで処理し4級化したポリマーが挙げられる。
【0030】
アニオン交換形高分子電解質膜は、上記電解質と溶媒とを含有するペーストを塗布、乾燥することにより形成することができる。また、市販のアニオン交換形高分子電解質膜を使用してもよい。アニオン交換形高分子電解質膜の市販品としては、たとえば、いずれも商品名で、「トスフレックス IE−SF34」(東ソー(株)製)などのフッ素樹脂系高分子電解質;「アシプレックス A−201」(旭化成(株)製)、「アシプレックス A−211」(旭化成(株)製)、「アシプレックス A−221」(旭化成(株)製)、「ネオセプタ AM−1」(トクヤマ(株)製)、「ネオセプタ AHA」(トクヤマ(株)製)などの炭化水素系高分子電解質が挙げられる。
【0031】
アニオン交換形高分子電解質膜11の厚みは、装置の小型化および機械的強度の双方を考慮すると、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは25〜100μmである。
【0032】
(2)アノード電極およびカソード電極
アニオン交換形高分子電解質膜11の一方の面に形成されるアノード電極13および他方の面に形成されるカソード電極12には、通常、少なくとも触媒(それぞれアノード触媒、カソード触媒)と電解質(それぞれアノード電解質、カソード電解質)とを含有する多孔質層からなる触媒層(それぞれアノード触媒層、カソード触媒層)が設けられる。これらの触媒層は、アニオン交換形高分子電解質膜11の表面に接して積層される。
【0033】
カソード触媒層に含有されるカソード触媒は、カソード電極12に供給された混合ガスおよび水と、アノード電極13から伝達された電子とから、OH-を生成する触媒反応を生じさせる(上記式(1))。カソード電解質は、上記式(2)の中和反応により生じたCO32-および上記式(1)の触媒反応により生成したOH-をアニオン交換形高分子電解質膜11へ伝導する機能を有する。一方、アノード触媒層に含有されるアノード触媒は、アノード電極13に供給された還元剤とカソード電極12側から伝達されたCO32-とから、遊離のCO2を生成する触媒反応(上記式(3))を生じさせるとともに、場合により、アノード電極13に供給された還元剤とカソード電極12側から伝達されたOH-とから、下記式(4):
2+2OH- → 2H2O+2e (4)
で表される触媒反応を生じさせる。アノード電解質は、カソード電極12側から伝達されたCO32-やOH-を触媒反応サイト(三相界面)へ伝導する機能を有する。
【0034】
アノード触媒およびカソード触媒としては、上記のような触媒反応を生じさせ得る従来公知のものを使用することができ、たとえば、アルカリ形燃料電池に用いられているものを採用することが可能である。アノード触媒およびカソード触媒の具体例を挙げれば、たとえば、白金、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銀、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、マンガン、これらの金属化合物、およびこれらの金属の2種以上を含む合金からなる微粒子などである。合金は、白金、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも2種以上を含有する合金が好ましく、たとえば、白金−鉄合金、白金−コバルト合金、鉄−コバルト合金、コバルト−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金等、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。アノード触媒とカソード触媒とは同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0035】
アノード触媒およびカソード触媒は、担体、好ましくは導電性の担体に担持されたものを用いることが好ましい。導電性担体としては、たとえば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等の導電性カーボン粒子が挙げられる。また、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の炭素繊維を用いることもできる。触媒の担持量は、担体100重量部に対して、通常1〜80重量部、好ましくは3〜50重量部である。
【0036】
アノード電解質およびカソード電解質としては、上述の炭化水素系高分子電解質、フッ素樹脂系高分子電解質などの、アニオン交換形高分子電解質膜11を構成する電解質と同様のものを用いることができる。アノード触媒層およびカソード触媒層における触媒と電解質との含有比は、重量基準で、通常5/1〜1/4であり、好ましくは3/1〜1/3である。アノード触媒層およびカソード触媒層は、触媒(担体に担持されていてもよい)、電解質および溶媒を含む触媒ペーストを調製し、これをアニオン交換形高分子電解質膜11または後述するアノードガス拡散層、カソードガス拡散層の表面に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0037】
アノード電極13およびカソード電極12はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノードガス拡散層、カソードガス拡散層を備えていてもよい。これらのガス拡散層は、アノード電極13、カソード電極12に供給されるガス(還元剤または混合ガス)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。
【0038】
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。より具体的には、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびに、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0039】
(3)還元剤供給室および混合ガス供給室
還元剤供給室30は、アノード電極13の外面(アニオン交換形高分子電解質膜11とは反対側の表面)上に配置され、還元剤をアノード電極13に供給するためのものであり、還元剤供給板31を用いて形成することができる。還元剤供給板31は、たとえば、還元剤供給室30を構成する空間を形成する凹部を有する部材であることができ、該凹部の開口がアノード電極13に対向するように、還元剤供給板31をアノード電極13上に積層することにより、還元剤供給室30を形成することができる。このようにして形成される還元剤供給室30は、アノード電極13側の少なくとも一部がアノード電極13に開放された空間からなる。たとえば、還元剤供給板31の対向する側面に、還元剤を還元剤供給室30内に導入するための還元剤供給室30と連通した還元剤導入口32、および、還元剤供給室30内のガスを排出するための還元剤供給室30と連通した還元剤排出口33を設けることにより、還元剤供給室30内に還元剤を流通させることが可能になる。還元剤排出口33から排出されるガスは、アノード電極13で生じた遊離のCO2と未反応の還元剤とを含むガスである。
【0040】
混合ガス供給室20は、カソード電極12の外面(アニオン交換形高分子電解質膜11とは反対側の表面)上に配置され、混合ガスをカソード電極12に供給するためのものであり、混合ガス供給板21を用いて形成することができる。混合ガス供給板21は、たとえば、混合ガス供給室20を構成する空間を形成する凹部を有する部材であることができ、該凹部の開口がカソード電極12に対向するように、混合ガス供給板21をカソード電極12上に積層することにより、混合ガス供給室20を形成することができる。このようにして形成される混合ガス供給室20は、カソード電極12側の少なくとも一部がカソード電極12に開放された空間からなる。たとえば、混合ガス供給板21の対向する側面に、混合ガスを混合ガス供給室20内に導入するための混合ガス供給室20と連通した混合ガス導入口22、および、二酸化炭素分離処理がなされ、二酸化炭素が低減または除去された処理ガスを排出するための混合ガス供給室20と連通した処理ガス排出口23を設けることにより、混合ガス供給室20内に混合ガスを流通させることが可能になるとともに、二酸化炭素が低減または除去された処理ガスを回収することが可能となる。
【0041】
還元剤供給板31および混合ガス供給板21の材質は特に制限されず、アルミニウム、ステンレスなどの各種金属材料、アクリル樹脂などの各種プラスチック材料、黒鉛などのカーボン粉末をフェノール樹脂などの高分子材料で結着させた樹脂含浸カーボン材料を用いることができる。還元剤供給板31、混合ガス供給板21が配線40の一部として機能する場合(すなわち、これらの供給板が集電体としての機能を兼備する場合)は、電子伝導性を有する金属材料(アルミニウム、ステンレスなど)や樹脂含浸カーボン材料を用いることが好ましい。還元剤供給板31および混合ガス供給板21の厚みは、たとえば2〜30mmであり、好ましくは5〜15mmである。
【0042】
図1において、混合ガス供給板21の側面に設置される混合ガス導入口22と、還元剤供給板31の側面に設置される還元剤導入口32とは、これら供給板の同じ側の側面に設置されているが、これに限定されるものではなく、混合ガス導入口22と還元剤排出口33とが同じ側の側面に設置されるようにしてもよい。ただし、混合ガス導入口22付近では混合ガス中のCO2濃度が高く、還元剤導入口32付近では、還元剤中のCO2濃度が低いことから、図1に示されるような配置は、カソード側とアノード側との間のCO2の濃度差を大きくすることができ、これにより、二酸化炭素分離速度をより向上させることができる点でより有利である。
【0043】
本実施形態の二酸化炭素分離装置は、混合ガス供給室20内に混合ガスを導入し、還元剤供給室30に還元剤を導入することにより、上述の中和反応および触媒反応を起こし、混合ガスの二酸化炭素分離処理、還元剤排出口33からの二酸化炭素ガスの排出および中和剤としてのOH-の再生を連続的に行なう。混合ガス供給室20内への混合ガスの導入は、図2に示される二酸化炭素分離装置200のように、ポンプ、ファン、送風機(ブロワ)等の混合ガス導入口22に接続された混合ガス供給装置60を用いて行なうことができる。混合ガス供給装置60は、混合ガス供給装置60または混合ガス導入口22に接続された混合ガスタンク(混合ガス収容槽、図示せず)に収容されたものであってもよい。処理ガス排出口23に接続された吸引ポンプなどであることもできる。本発明の二酸化炭素分離装置を用いた二酸化炭素分離処理においては、導入される混合ガスは、稼動時における混合ガス供給室20内の圧力を還元剤供給室30内の圧力より高くすることが好ましく、したがって、混合ガス供給装置60としては、混合ガスを加圧して混合ガス供給室20内に導入できる装置、たとえばポンプが好ましく用いられる。これは、混合ガス供給室20内の圧力を高くして混合ガス供給室20内の二酸化炭素分圧を高くすることにより、カソード側での二酸化炭素吸収速度をより高くすることができるためである。これにより、二酸化炭素の分離速度をより向上させることができ、このことは、さらなる混合ガス処理量の増加や装置の小型化に寄与する。
【0044】
一方、還元剤供給室30への還元剤の導入も同様に、図2に示されるようなポンプ、ファン、送風機(ブロワ)等の還元剤導入口32に接続された還元剤供給装置61や、吸引ポンプ等の還元剤排出口33に接続された還元剤供給装置を用いて、還元剤タンク(還元剤収容槽)70内の還元剤を還元剤供給室30へ導入することにより行なうことができる。吸引ポンプ等を用いて、還元剤供給室30内を減圧にして還元剤供給室30内の二酸化炭素分圧を低くすることにより、アノード側での二酸化炭素放出速度をより増大させることができ、これにより、二酸化炭素の分離速度をより向上させることができる。
【0045】
上記のように、混合ガス供給室20内の圧力を還元剤供給室30内の圧力より高くする方法としては、混合ガスを加圧して混合ガス供給室20内に導入する方法、還元剤排出口33からガスを吸引して還元剤供給室30内を減圧にする方法、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、いずれか一方の方法を採用する場合には、混合ガスを加圧して導入する方法が好ましい。これは、還元剤供給室30内の二酸化炭素分圧は、比較的小さいため、該分圧を下げても二酸化炭素処理速度を向上させる効果が比較的小さい一方、混合ガス供給室20内の二酸化炭素分圧は、比較的大きいため、該分圧を上げたときに得られる二酸化炭素処理速度の向上効果が比較的大きいためである。なお、混合ガス供給室20と還元剤供給室30とに圧力差を設ける場合には、アニオン交換形高分子電解質膜11の機械的強度を向上させ、圧力差によるアニオン交換形高分子電解質膜11の破損を防止する観点から、その厚みを大きくすることが好ましく、具体的には、25〜100μm程度とすることが好ましい。
【0046】
ここで、カソード電極12での触媒反応(上記式(1))は、水を必要とするため、カソード電極12に供給される混合ガスは水分を含むことが好ましく、そのために、本発明の二酸化炭素分離装置は、図2に示されるように、混合ガス供給室20より上流側に加湿装置50を備えることが好ましい。また、電解質膜中や、アノード電解質、カソード電解質の含水率を高め、OH-やCO32-の伝導度を高く保つために、還元剤に水分を付与するための加湿装置51を、還元剤供給室30より上流側に備えていてもよい。
【0047】
還元剤供給室に導入する還元剤は、炭素原子を含まないガス状の還元剤であることが好ましく、たとえば、H2ガスを用いることができる。炭素原子を含む還元剤を用いた場合、アノード電極13で生じる還元剤とCO32-との酸化反応において、還元剤由来のCO2が生成する結果、アノード電極13で生成するCO2の量が、炭素原子を含まない還元剤を用いる場合と比較して相対的に多くなるため、アノード電極13にて上記式(2)の反応が起こり、中和剤として機能する電解質膜中のOH-の量が減少して、二酸化炭素分離能力が低下する傾向がある。混合ガス供給室20に供給される、二酸化炭素分離処理に供される混合ガスは、O2とCO2を含む限り特に制限されず、空気などであることができる。
【0048】
(第2の実施形態)
図3は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置300は、アノード電極13とカソード電極12とが抵抗を介して電気的に接続されていること以外は、上記第1の実施形態と同様である。すなわち、本実施形態では、配線40中に抵抗80が介在している。
【0049】
本発明の二酸化炭素分離装置では、二酸化炭素分離積層体10において、上記式(1)〜(3)で示される一連の触媒反応および中和反応が生じ、これにより、アノード電極13とカソード電極12との間に電流が流れることとなることとなるが、当該電流が上記式(3)で必要な電流量を大きく超えると、上記式(4)の反応が支配的になる。上記式(4)の反応が起こると、還元剤が余分に消費されることとなり、二酸化炭素の分離効率(一定量のCO2を分離するのに必要な還元剤量という意味での効率)の低下および分離コストの上昇をもたらす。アノード電極13とカソード電極12とを抵抗80を介して電気的に接続することにより、アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流が必要以上に大きくなり上記式(4)の反応が顕著になることを抑制することができ、これにより、二酸化炭素の分離効率の改善および分離コストの低減を図ることが可能になる。
【0050】
抵抗80は、可変抵抗であることが好ましい。たとえば、カソード電極12への混合ガス供給量(混合ガス供給室20に導入される混合ガス量)が変化する場合には、分離されるべきCO2量も変化する。このような場合、アノード電極13とカソード電極12とを可変抵抗を介して電気的に接続することにより、分離すべきCO2量が増加する場合には、可変抵抗の抵抗値を小さくし、逆に分離すべきCO2量が減少する場合には、可変抵抗の抵抗値を大きくするなど、アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流量を制御することが可能となる。また、カソード側での中和反応(上記式(2)の反応)が進行し、アニオン交換形高分子電解質膜11の抵抗値が増加した場合、電極の経時劣化(触媒の凝集やフラッディングなどが原因となり得る)が生じた場合、または装置の稼動条件や環境条件が変動する場合には、アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流量が低下することがある。かかる電流量の低下は、二酸化炭素分離速度を低下させる。このように電流値が所定量を下回った場合に、可変抵抗の抵抗値を小さくすれば、電流量、ひいては、二酸化炭素分離速度を高く維持することができる。このように、可変抵抗を用いた電流量の制御により、混合ガス供給量が変化する場合でも、分離すべきCO2を確実に分離できるようになるとともに、電流量を必要以上に大きくしないことが可能になるため、上記式(4)の反応を抑制することができ、また、二酸化炭素分離速度を高く維持することができる。
【0051】
アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流量を自動制御できるよう、本発明の二酸化炭素分離装置は、混合ガス供給室20に導入される混合ガス量を検出する検出部、および、該検出部の検出結果に基づいて可変抵抗の抵抗値を変化させる制御部を有していてもよい。
【0052】
(第3の実施形態)
図4は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置400は、アノード電極13とカソード電極12とが抵抗80および発電装置90を介して電気的に接続されていること以外は、上記第1の実施形態と同様である。すなわち、本実施形態では、配線40中に抵抗80および発電装置90が介在している。
【0053】
発電装置90は、たとえば、分離すべきCO2量が多く、上記式(1)〜(3)の一連の反応によって発生する電流量では不十分である場合に有用である。このような場合、発電装置90を利用し、アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流量を強制的に増大させることにより、触媒反応の反応速度、ひいては二酸化炭素の分離速度を増大させることができる。また、カソード側での中和反応(上記式(2)の反応)が進行し、アニオン交換形高分子電解質膜11の抵抗値が増加した場合、電極の経時劣化(触媒の凝集やフラッディングなどが原因となり得る)が生じた場合、または装置の稼動条件や環境条件が変動する場合には、アノード電極13とカソード電極12との間に流れる電流量が低下することがある。かかる電流量の低下は、二酸化炭素分離速度を低下させる。このように電流値が所定量を下回った場合に、発電装置を稼動させる、またはその出力電圧を大きくすることによってアノード電極13とカソード電極12との間に生じる電位差を補助することにより、電流量、ひいては、二酸化炭素分離速度を高く維持することができる。
【0054】
発電装置90としては、たとえば、一次電池、二次電池、燃料電池、直流安定化電源などの直流電源を用いることができる。アノード電極13からカソード電極12へ流れる電流の電流量を増大できるよう、発電装置90は、そのプラス極をアノード電極13に、そのマイナス極をカソード電極12に接続する。なお、図4に示されるように、抵抗80と発電装置90とを併用してもよいし、勿論、発電装置90のみを用いてもよい。
【0055】
(第4の実施形態)
図5は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置500は、アノード電極13を構成するアノード触媒層の体積を、カソード電極12を構成するカソード触媒層の体積より大きくしたこと以外は、上記第1の実施形態と同様である。なお、図5は、アノード電極13、カソード電極12がそれぞれ、アノード触媒層、カソード触媒層のみからなる場合を示しているが、これに限定されるものではなく、上述のように、アノードガス拡散層、カソードガス拡散層等を備えていてもよい。
【0056】
通常、アノード電極13での二酸化炭素放出速度は、カソード電極12での二酸化炭素吸収速度より遅い。アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくすることにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積を、カソード触媒層における三相界面の合計面積より大きくすることができ、アノード電極13での二酸化炭素放出速度を高めることができる。これにより、二酸化炭素の分離速度をより向上させることができ、このことは、さらなる混合ガス処理量の増加や装置の小型化に寄与する。なお、三相界面とは、触媒層において触媒、電解質および反応ガス(還元剤または酸素)が接触する部分であり、触媒反応に必要な全成分が接触して触媒反応が生じる部分である。
【0057】
アノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくする手段としては、具体的には、アノード触媒層の面積をより大きくする、すなわち、アノード触媒層におけるアニオン交換形高分子電解質膜11側の面の面積をカソード触媒層におけるアニオン交換形高分子電解質膜11側の面の面積より大きくする;アノード触媒層の厚さをカソード触媒層の厚さより大きくする;および、これらの組み合わせが挙げられる。図5は、アノード触媒層の面積をより大きくした例である。
【0058】
また、アノード触媒層とカソード触媒層の体積を同じとした上で、あるいは上述のように異なる体積とした上で、アノード触媒層中のアノード触媒の濃度をより大きくしたり、触媒成分として触媒担持担体を用いる場合において、アノード触媒成分として触媒担持量がより多い触媒担持担体を用いたりすることにより、アノード触媒の重量をカソード触媒の重量より多くし、これにより、アノード触媒層における三相界面の合計面積をより大きくすることも可能である。
【0059】
(第5の実施形態)
図6は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置600は、アノード電極13の温度を上昇させるための温度制御装置95をさらに備えること以外は、上記第1の実施形態と同様である。温度制御装置95を利用して、アノード電極13の温度を上昇させることにより、アノード電極13での触媒反応を増加させることができ、ひいては、アノード側での二酸化炭素放出速度を増大させることができる。これにより、二酸化炭素の分離速度をより向上させることができ、このことは、さらなる混合ガス処理量の増加や装置の小型化に寄与する。
【0060】
温度制御装置95としては、ヒータ(たとえばシート状のもの)を用いることができる。温度制御装置95の設置箇所は、アノード電極13を加熱できる位置であれば特に制限されないが、還元剤供給板31の表面上が好適である。
【0061】
一方、カソード電極12での二酸化炭素吸収速度を大きくするためには、カソード電極12の温度を下げることが望ましく、このために、アノード側に設置した温度制御装置95により、カソード電極12の温度ができるだけ上昇しない構成とすることが好ましい。このような構成の具体例としては、アニオン交換形高分子電解質膜11の厚みをより大きくする;混合ガス供給板21の外表面に放熱ファンを設ける、などを挙げることができる。ただし、アノード電極13での二酸化炭素放出速度に対して、カソード電極12での二酸化炭素吸収速度は十分に大きいため、カソード電極12の温度がアノード側に設置した温度制御装置95により上昇することによる二酸化炭素分離速度への悪影響はあまり大きくない。
【0062】
アノード側に温度制御装置95を設置する場合、図7に示される二酸化炭素分離装置700のように、この温度制御装置95として、上述したアノード電極13とカソード電極12とを電気的に接続するための配線40に介在させる抵抗80を用い、抵抗80が温度制御装置95を兼ねた構成とすることもできる。このような構成は、装置の簡略化を図ることができるとともに、温度制御装置95の稼動に外部エネルギーを必要としないため、エネルギー効率化を図ることができる点で有利である。
【0063】
(第6の実施形態)
図8は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置800は、上記第1〜第5の実施形態の二酸化炭素分離装置が備える二酸化炭素分離積層体10が平板状であるのに対し、円筒状の二酸化炭素分離積層体10を用いることを特徴とする。その他の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。このような円筒状の二酸化炭素分離積層体10を用いると、その中空部を混合ガス供給室20または還元剤供給室30として利用することができるため、混合ガス供給板21または還元剤供給板31を不要とすることができる。これにより、装置の小型化およびコスト削減を図ることができる。また、円筒状の二酸化炭素分離積層体10の径を小さくした場合には、二酸化炭素分離積層体10単位体積当たりの電極面積を大きくすることができるため、装置体積当たりの混合ガス処理量を向上させることができる。
【0064】
カソード電極12、アニオン交換形高分子電解質膜11およびアノード電極13の積層順序は、内側から、カソード電極12/アニオン交換形高分子電解質膜11/アノード電極13の順、または、アノード電極13/アニオン交換形高分子電解質膜11/カソード電極12の順のいずれであってもよいが、図8に示される二酸化炭素分離装置800のように、内側から、カソード電極12/アニオン交換形高分子電解質膜11/アノード電極13の順とすることが好ましい。このような積層順序は、必然的にアノード触媒層の体積をカソード触媒層の体積より大きくするため、上記第4の実施形態の効果を同時に得ることができる点において有利である。
【0065】
円筒状の二酸化炭素分離積層体10を用いる場合、外殻の電極の外側に配置される還元剤供給板31または混合ガス供給板21は、図8に示されるように、円筒状の二酸化炭素分離積層体10を取り囲むように設けることができる。この場合、還元剤供給板31または混合ガス供給板21と外殻の電極との間に形成される空間が還元剤供給室30または混合ガス供給室20となる。
【0066】
(第7の実施形態)
図9および図10は、本実施形態の二酸化炭素分離装置を示す概略図であり、図9(a)および図10(a)は各部材の積層方向と平行に切断したときの概略断面図であり、図9(b)は図9(a)に示されるA−A’線で切断したときの概略上面図であり、図10(b)は図10(a)に示されるB−B’線で切断したときの概略上面図である。本実施形態の二酸化炭素分離装置900,1000は、その混合ガス供給室が空間的に互いに分離された2つの混合ガス供給室、第1の混合ガス供給室20aおよび第2の混合ガス供給室20bからなることを特徴とする。その他の構成については、上記第1の実施形態と同様とすることができる。
【0067】
ここで、カソード電極12は、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間とのみ接しており、第1の混合ガス供給室20aを形成する空間とは接していない。第1の混合ガス供給室20aを形成する空間は、アニオン交換形高分子電解質膜11と接している。すなわち、カソード電極12は、第2の混合ガス供給室20bの直下にのみ(第2の混合ガス供給室20bとアニオン交換形高分子電解質膜11との間にのみ)形成されている。このように、本実施形態では、混合ガス供給室を第1の混合ガス供給室20aおよび第2の混合ガス供給室20bの2つに分離し、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間のみをカソード電極12に開放する構成としている。
【0068】
上記のような構成は次の点において有利である。すなわち、本発明の二酸化炭素分離装置を用いた二酸化炭素分離においては、上記式(1)の触媒反応により、被処理ガスである酸素および二酸化炭素を含む混合ガス中の酸素が一部消費される。二酸化炭素が低減または除去された処理ガス中の酸素濃度を高く維持することが望まれる場合(たとえば、後述するように、処理ガスをアルカリ形燃料電池のカソード極に供給する酸化剤として用いる場合、処理ガスの酸素濃度が低いと、燃料電池の発電効率が低下してしまう)には、上記式(1)による酸素消費をできるだけ抑制しつつ、二酸化炭素を分離する必要がある。本実施形態では、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間のみをカソード電極12に開放し、第1の混合ガス供給室20aを形成する空間は、カソード電極12に開放することなくアニオン交換形高分子電解質膜11と接触させる構成としているため、第2の混合ガス供給室20bに導入された混合ガスについてのみ酸素消費がなされ(勿論、二酸化炭素の吸収も起こる)、一方、第1の混合ガス供給室20aに導入された混合ガスについては、酸素消費が生じず、二酸化炭素の吸収のみがなされる。このように、本実施形態の二酸化炭素分離装置は、二酸化炭素分離を行なう上で必須である上記式(1)の反応の反応試剤として、第2の混合ガス供給室20bに導入される混合ガスのみを用いるため、第1の混合ガス供給室20aを通過することにより得られる処理ガスを、酸素濃度が維持された酸素含有ガスとして取り出すことを可能とする。
【0069】
第1の混合ガス供給室20aを通過することにより得られる、酸素濃度が維持された処理ガスは、たとえば、アルカリ形燃料電池のカソード極に供給する酸化剤として有用である。該処理ガスは十分に高い酸素濃度を有しているため、これを酸化剤として用いた燃料電池は高い発電効率を示す。なお、第2の混合ガス供給室20bを通過することにより得られる処理ガスの利用方法は任意であるが、燃料電池への適用に関していえば、好ましくは、燃料電池に供給することなく、系外に排出される。
【0070】
第1の混合ガス供給室20aを形成する空間とアニオン交換形高分子電解質膜11とが接する領域の合計面積を、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間とカソード電極12とが接する領域の合計面積より大きくすることが好ましい。この理由は次のとおりである。すなわち、本発明の二酸化炭素分離装置を用いた二酸化炭素分離においては、上記式(3)の触媒反応によって生じる電荷量と、上記式(1)の触媒反応で消費される電荷量とが釣り合っていることが望ましい。上記式(1)の触媒反応で消費される電荷量がより大きい場合には、アニオン交換形高分子電解質膜11にOH-が過剰供給される結果、上記式(4)のような反応によって還元剤が余分に消費されることとなり、二酸化炭素の分離効率(一定量のCO2を分離するのに必要な還元剤量という意味での効率)の低下および分離コストの上昇をもたらす。たとえば、混合ガスが空気である場合、二酸化炭素濃度は400ppm程度であり、アノード電極13で起こる上記式(3)の触媒反応によって生じる電荷量は小さい。したがって、カソード電極12で起こる上記式(1)の触媒反応で消費される電荷量を、上記式(3)の触媒反応による電荷量と釣り合わせるためには、上記式(1)の触媒反応を比較的低く抑えることが望ましく、このための手段として、第1の混合ガス供給室20aを形成する空間とアニオン交換形高分子電解質膜11とが接する領域の合計面積を、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間とカソード電極12とが接する領域の合計面積より大きくすることは極めて有効である。このような構成によれば、第2の混合ガス供給室20bを形成する空間とカソード電極12とが接する領域の合計面積がより小さいため、上記式(1)の触媒反応による電荷量を抑制することができ、これにより、上記式(4)のような還元剤が余分に消費する反応を抑制することができる。また、第1の混合ガス供給室20aを形成する空間とアニオン交換形高分子電解質膜11とが接する領域の合計面積が比較的大きいため、十分な二酸化炭素分離速度が維持される。
【0071】
なお、上記式(1)の触媒反応による電荷量を抑制するための他の手段として、混合ガス供給室を2つに分離することなく、単純にカソード電極12の面積を小さくすることが考えられるが、このような場合には、二酸化炭素の吸収速度も低下するため、十分な二酸化炭素分離速度が得られないおそれがある。
【0072】
第1の混合ガス供給室20aおよび第2の混合ガス供給室20bの形状は、これらが空間的に互いに分離されている限り特に制限されず、たとえば、図9(b)および図10(b)に示されるような、互いに平行に交差することなく延びるサーペンタイン状の2つの流路からなることもできるし、あるいは、互いに平行に延びるライン状の流路であることもできるが、サーペンタイン状の流路にすると、上記式(1)の反応を電極面積全体にわたって均一に行なわせることができ、局所的な温度上昇や、局所的な触媒劣化などが生じにくくなる点において有利である。このような空間的に互いに分離された2つの混合ガス供給室は、一方の表面に、2つの混合ガス供給室の形状に応じた形状の2本の溝が一方の表面に形成された混合ガス供給板21を用いて形成することができる。なお、図9(b)および図10(b)において、22a、23aはそれぞれ、第1の混合ガス供給室20aに接続された第1の混合ガス導入口、第1の処理ガス排出口であり、22b、23bはそれぞれ、第2の混合ガス供給室20bに接続された第2の混合ガス導入口、第2の処理ガス排出口である。
【0073】
<アルカリ形燃料電池システム>
上記本発明に係る二酸化炭素分離装置は、従来公知のアルカリ形燃料電池と組み合わせてアルカリ形燃料電池システムとするのに好適である。アルカリ形燃料電池には、電解質として、アニオン交換形高分子電解質を利用するものや、アルカリ水溶液を利用するものがあるが、いずれの場合においても、その電解質には電荷キャリアとしてOH-イオンが含まれる。アルカリ形燃料電池に、酸化剤として二酸化炭素を含む酸素含有ガス(二酸化炭素を含む空気等)を供給すると、電解質膜中のOH-がCO32-で置換され、イオン伝導抵抗が増加したり、燃料電池反応を阻害したりする結果、特に稼動初期において発電効率が低下するという問題がある。本発明の二酸化炭素分離装置を用いて酸素および二酸化炭素を含有する混合ガス(空気等)を二酸化炭素分離処理して得られる処理ガスをアルカリ形燃料電池のカソード極に供給する酸化剤として使用することにより、アルカリ形燃料電池の発電効率低下を抑制することができる。なかでも、発電効率低下をより効果的に抑制するためには、上記第7の実施形態に係る二酸化炭素分離装置を用いることが好ましい。
【0074】
図11は、本発明のアルカリ形燃料電池システムの好ましい一例を示す概略図である。図11に示されるアルカリ形燃料電池システムは、単位電池であるアルカリ形燃料電池1のスタック構造(たとえば、アルカリ形燃料電池1の複数を直列接続したもの)からなる燃料電池スタック2と、本発明に係る二酸化炭素分離装置3とを備えるものである。二酸化炭素分離装置3が有する混合ガス供給室の処理ガス排出口は、燃料電池スタック2が有するそれぞれのアルカリ形燃料電池1のカソード極側(たとえば、カソード極に空気等の酸化剤(処理ガス)を供給するためのカソード極セパレータ)に直列的に接続されており、これにより、混合ガス供給室の処理ガス排出口から排出された処理ガスが各アルカリ形燃料電池1のカソード極に供給可能となっている(図11の点線)。一方、各アルカリ形燃料電池1のアノード側(たとえば、アノード極にH2等の還元剤を供給するためのアノード極セパレータ)は流路を介して直列的に接続されており、1つの還元剤流路を形成している(図11の実線)。当該還元剤流路の一方端は、二酸化炭素分離装置3が有する還元剤供給室の還元剤導入口に接続される(図11の実線)。当該還元剤流路の他方端から導入されたH2等の還元剤は、すべてのアルカリ形燃料電池1のアノード側を通って排出された後、二酸化炭素分離装置3の還元剤導入口から還元剤供給室に導入されることとなる。
【0075】
上記構成のアルカリ形燃料電池システムによれば、アルカリ形燃料電池の発電効率低下を抑制することができるだけでなく、燃料電池スタック2から排出された未反応の還元剤を、二酸化炭素分離装置3による二酸化炭素分離処理において必要となる還元剤として有効利用することが可能となる。従来のアルカリ形燃料電池および燃料電池スタックにおいては、未反応のH2等の還元剤を除去または無害化するための装置を別途設置する必要があるが、本発明のアルカリ形燃料電池システムによれば、二酸化炭素分離装置3が還元剤除去装置の機能を果たすため、別途の除去装置を要せず、燃料電池システムの簡略化およびシステムコストの削減を図ることができる。
【0076】
また、本発明に係る二酸化炭素分離装置3は、アルカリ形燃料電池と類似の構造を有しているため、製造上の観点から、燃料電池システムの構築(モジュラー化)が容易である。
【0077】
アルカリ形燃料電池1としては、少なくとも、アノード極と、電解質層(たとえば、アニオン交換形高分子電解質膜であることができる)と、カソード極とをこの順で備える従来公知のものを用いることができる。アルカリ形燃料電池1をスタック化した燃料電池スタック2の構造は特に限定されず、従来公知のものであってよい。燃料電池スタック2は、アルカリ形燃料電池1を並列的に接続、複合化したものであってもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
〔二酸化炭素分離装置の作製〕
<実施例1>
以下の手順で、図3と類似の構造を有する二酸化炭素分離装置を作製した。
【0080】
(1)二酸化炭素分離積層体10の作製
ポリビニルベンジルクロライド(シグマアルドリッチ社製)のテトラヒドロフラン(和光純薬製、以下同じ)溶液に、氷浴下で攪拌しながら、トリメチルアミン30%水溶液(和光純薬製)をテトラヒドロフランに溶解させた溶液を30分かけて滴下した。滴下後、室温にて一晩攪拌し、テトラヒドロフランを加えて静置させ、上澄み液を取り除いた後、溶媒を加熱留去することにより、薄白色の水溶性の電解質(アニオン交換樹脂)を得た。得られたアニオン交換樹脂に水を加え、アニオン交換樹脂を5重量%含有する電解質溶液を得た。
【0081】
Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)を0.5g、上記で得られた電解質溶液を7.35g、イソプロパノール3gおよびジルコニアビーズ100gをPTFE製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行ない、ついでジルコニアビーズを除去することにより、アノード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
【0082】
同様に、Pt担持量が50重量%のPt/Cである触媒担持カーボン粒子(田中貴金属社製「TEC10E50E」)を0.5g、上記で得られた電解質溶液を7.35g、イソプロパノール3gおよびジルコニアビーズ100gをPTFE製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行ない、ついでジルコニアビーズを除去することにより、カソード触媒層用の触媒ペーストを作製した。
【0083】
次に、アノードガス拡散層としてカーボンペーパー(SGLカーボン社製「GDL35BC」)を縦22.3mm×横22.3mmのサイズに切り出し、そのアノードガス拡散層の一方の面に、上記のアノード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦22.3mm×横22.3mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、アノードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にアノード触媒層が形成されたアノード電極13を作製した。
【0084】
同様に、カソードガス拡散層としてカーボンペーパー(SGLカーボン社製「GDL35BC」)を縦22.3mm×横22.3mmのサイズに切り出し、そのカソードガス拡散層の一方の面に、上記のカソード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦22.3mm×横22.3mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にカソード触媒層が形成されたカソード電極12を作製した。
【0085】
次に、95.0mm×95.0mmのサイズに切り出したフッ素樹脂系高分子電解質膜(旭化成社製「アシプレックス」)をアニオン交換形高分子電解質膜11として用い、上記アノード電極13と電解質膜11と上記カソード電極12とをこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜11に対向するように重ね合わせた後、130℃、10kNで2分間の熱圧着を行なうことにより、アノード電極13およびカソード電極12を電解質膜11に接合し、アノード電極13、アニオン交換形高分子電解質膜11、カソード電極12をこの順で備えた二酸化炭素分離積層体10を得た。上記重ね合わせは、アノード電極13とカソード電極12の電解質膜11の面内における位置が一致するように、かつアノード電極13と電解質膜11とカソード電極12の中心が一致するように行なった。
【0086】
(2)二酸化炭素分離装置の作製
アルミニウム板(縦95.0mm×横95.0mm×厚み15.0mm)の一方の面に、サーペンタイン状の溝(断面積4mm2)からなる還元剤供給室30を、その両末端がアルミニウム板の1つの端面に位置するように形成した後、還元剤供給室30の両末端にそれぞれチューブ継手(スウェージロック社製、品番:SS−400−1−2)を接続することにより還元剤導入口32、還元剤排出口33を形成して、還元剤供給板31とした。また、これと同じものをもう1枚作製し、混合ガス供給板21とした(サーペンタイン状の溝は混合ガス供給室20であり、2つの継手は混合ガス導入口22、処理ガス排出口23である)。
【0087】
上記(1)で得られた二酸化炭素分離積層体10のアノードガス拡散層上に、還元剤供給室30側がアノードガス拡散層に対向するように還元剤供給板31を積層するとともに、カソードガス拡散層上に、混合ガス供給室20側がカソードガス拡散層に対向するように混合ガス供給板21を積層し、これらをボルト締めによって締結し、還元剤供給板31と混合ガス供給板21とを、抵抗80(秋月電気通商製の可変抵抗、小型ボリューム 1KΩB)を介して導線(配線40)で接合することにより、二酸化炭素分離装置を得た。
【0088】
<実施例2>
アノード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が1.0mg/cm2となるようにアノードガス拡散層の一方の面に塗布したこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素分離積層体を作製し、これを用いて二酸化炭素分離装置を作製した。
【0089】
<実施例3>
実施例1で作製した二酸化炭素分離装置の還元剤供給板31のアノードガス拡散層と対向する面とは反対側の面に、シリコンラバーヒーターを設置して、本実施例の二酸化炭素分離装置とした。
【0090】
<実施例4>
(1)二酸化炭素分離積層体10の作製
カソードガス拡散層としてカーボンペーパー(SGLカーボン社製「GDL35BC」)を縦10.3mm×横22.3mmのサイズに切り出し、そのカソードガス拡散層の一方の面に、実施例1で調製したカソード触媒層用の触媒ペーストを触媒量が0.5mg/cm2となるように、縦10.3mm×横22.3mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、室温にて乾燥させることにより、カソードガス拡散層であるカーボンペーパーの片面の全面にカソード触媒層が形成されたカソード電極12を作製した。このカソード電極12を用いたこと以外は実施例1と同様にして、二酸化炭素分離積層体10を作製した。
【0091】
(2)二酸化炭素分離装置の作製
図12は、本実施例で作製した二酸化炭素分離装置を示す概略図であり、図12(a)はその断面図、図12(b)は図12(a)に示されるC−C’線で切断したときの概略上面図である。図12を参照して、まず、アルミニウム板(縦95.0mm×横95.0mm×厚み15.0mm)の一方の面に、略M字状の溝からなる第1の混合ガス供給室20aを形成し、その両末端にそれぞれチューブ継手(スウェージロック社製、品番:SS−400−1−2)からなる第1の混合ガス導入口22a、第1の処理ガス排出口23aを接続するとともに、第1の混合ガス供給室20aとは別の(互いに連通しない)略U字状の溝からなる第2の混合ガス供給室20bを形成し、その両末端にそれぞれ、上記と同じ継手からなる第2の混合ガス導入口22b、第2の処理ガス排出口23bを接続して、混合ガス供給板21とした。図12(b)に示されるように、第1の混合ガス供給室20aおよび第2の混合ガス供給室20bは、混合ガス供給板21の中央領域(領域X、YおよびZからなる領域)において、蛇行状の2つの分離された空間を形成している。第2の混合ガス供給室20bが形成する領域Y(縦10.3mm×横22.3mm)における空間は、カソード電極12と接する空間である(図12(a)参照)。一方、第1の混合ガス供給室20aが形成する領域XおよびZ(ともに縦6.0mm×横22.3mm)における空間は、カソード電極12とは接しない空間であり、その直下にはアニオン交換形高分子電解質膜11が配置されることとなる。
【0092】
このようにして作製した混合ガス供給板21および上記(1)で得られた二酸化炭素分離積層体10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、二酸化炭素分離装置を得た。
【0093】
(二酸化炭素分離装置の二酸化炭素分離能の評価)
〔1〕評価方法
次の方法に従い、実施例1〜4で作製した二酸化炭素分離装置の二酸化炭素分離能を評価した。二酸化炭素分離装置の温度を50℃に保った状態(ただし、実施例3の二酸化炭素分離装置の場合においては、シリコンラバーヒーターによる加熱により還元剤供給板31の表面温度を60℃に調整した)で、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿したH2ガスを、還元剤導入口32から100mL/分の流量で、還元剤供給室30内に供給するとともに、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿した空気を、混合ガス導入口22から100mL/分の流量で、混合ガス供給室20内に供給し、還元剤供給板31と混合ガス供給板21との間に流れる電流が100mAとなるように、可変抵抗のボリュームを調整しながら二酸化炭素分離装置を稼動させ、処理ガス排出口23から排出された処理ガスを100mLの石灰水中にバブリングし、二酸化炭素との反応により石灰水が白濁するまでに要した時間を計測した。実施例4の二酸化炭素分離装置においては、第1の混合ガス供給室20a、第2の混合ガス供給室20bのそれぞれに、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿した空気を100mL/分の流量で供給し、第1の処理ガス排出口23aから排出された処理ガスを100mLの石灰水中にバブリングし、上記時間を計測した。
【0094】
二酸化炭素分離装置を通過させることなく、直接、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿した空気を100mL/分の流量で、100mLの石灰水中にバブリングしたときの、石灰水が白濁するまでの時間は3分であった。
【0095】
〔2〕評価結果
実施例1では、石灰水が白濁するのに30分を要した。白濁した石灰水を新しいものに取り替え、再び白濁するまでに要する時間を計測したところ、同じく30分であることを確認し、二酸化炭素分離能が長時間維持されることを確認した。また、酸素濃度計G−103(飯島電子工業株式会社製)を用いて、処理ガス排出口23から排出される処理ガス中の酸素濃度と、混合ガス導入口22から供給した空気中の酸素濃度を検出したところ、混合ガス導入口22から供給された空気中の酸素濃度を100とした場合、処理ガス排出口23から排出される処理ガス中の酸素濃度は99未満の酸素濃度であることが確認された。
【0096】
実施例2では、石灰水が白濁するのに35分を要し、実施例1と比較し、二酸化炭素分離能が向上していることを確認することができた。
【0097】
実施例3では、石灰水が白濁するのに35分を要し、実施例1と比較し、二酸化炭素分離性能が向上していることを確認することができた。
【0098】
実施例4では、石灰水が白濁するのに30分を要し、実施例1と同等であった。また、酸素濃度計G−103(飯島電子工業株式会社製)を用いて、第1の処理ガス排出口23aから排出される処理ガス中の酸素濃度と、第1の混合ガス導入口22aから供給した空気中の酸素濃度を検出したところ、第1の混合ガス導入口22aから供給した空気中の酸素濃度を100とした場合、第1の処理ガス排出口23aから排出される処理ガス中の酸素濃度は、99以上の酸素濃度であることが確認された。
【0099】
〔アルカリ形燃料電池システムの作製〕
<実施例5>
(1)アルカリ形燃料電池の作製
膜電極複合体として、上記実施例1で作製した二酸化炭素分離積層体10と同じものを用いた。また、アルミニウム板(縦95.0mm×横95.0mm×厚み15.0mm)の一方の面に、サーペンタイン状の溝(断面積4mm2)からなるアノード流路(燃料流路)を、その両末端がアルミニウム板の1つの端面に位置するように形成した後、アノード流路の両末端にそれぞれチューブ継手(スウェージロック社製、品番:SS−400−1−2)を接続することによりアノード供給口、アノード排出口を形成して、アノード極セパレータとした。また、これと同じものをもう1枚作製し、カソード極セパレータとした(サーペンタイン状の溝はカソード流路(酸化剤流路)であり、2つの継手はカソード供給口、カソード排出口である)。
【0100】
上記膜電極複合体のアノードガス拡散層上に、アノード流路側がアノードガス拡散層に対向するようにアノード極セパレータを積層するとともに、カソードガス拡散層上に、カソード流路側がカソードガス拡散層に対向するようにカソード極セパレータを積層し、これらをボルト締めによって締結することで、アルカリ形燃料電池を作製した。
【0101】
(2)アルカリ形燃料電池システムの作製
実施例1で作製した二酸化炭素分離装置の処理ガス排出口23と、アルカリ形燃料電池のカソード供給口とをSUS配管で接続し、アルカリ形燃料電池のアノード排出口と、ニ酸化炭素分離装置の還元剤導入口32とをSUS配管で接続することで、アルカリ形燃料電池システムを作製した。
【0102】
(アルカリ形燃料電池システムの電池特性の評価)
二酸化炭素分離装置およびアルカリ形燃料電池の温度を50℃に保った状態で、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿したH2ガスを、アルカリ形燃料電池のアノード供給口から100mL/分の流量で供給するとともに、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿した空気を、二酸化炭素分離装置の混合ガス導入口22から100mL/分の流量で供給し、二酸化炭素分離装置の還元剤供給板31と混合ガス供給板21との間に流れる電流が100mAとなるように、可変抵抗のボリュームを調整しながら二酸化炭素分離装置を稼動させつつ、アルカリ形燃料電池を稼動し、アルカリ形燃料電池のアノード極セパレータとカソード極セパレータとの間に流れる電流を1Aに設定したときの、システム稼動開始から1分後の出力電圧を測定した。出力電圧は0.4Vであった。
【0103】
<比較例1>
実施例5で作製したアルカリ形燃料電池に直接、二酸化炭素分離装置で処理されていない空気を供給することにより、アルカリ形燃料電池の出力電圧を測定した。すなわち、実施例5で作製したアルカリ形燃料電池の温度を50℃に保った状態で、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿したH2ガスを、アルカリ形燃料電池のアノード供給口から100mL/分の流量で供給するとともに、水温48℃に設定した加湿器を用いて加湿した空気を、カソード供給口から100mL/分の流量で供給することにより、アルカリ形燃料電池を稼動し、アノード極セパレータとカソード極セパレータとの間に流れる電流を1Aに設定したときの、稼動開始から1分後の出力電圧を測定した。出力電圧は0.2Vであった。
【符号の説明】
【0104】
1 アルカリ形燃料電池、2 燃料電池スタック、3,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000 二酸化炭素分離装置、10 二酸化炭素分離積層体、11 アニオン交換形高分子電解質膜、12 カソード電極、13 アノード電極、20 混合ガス供給室、20a 第1の混合ガス供給室、20b 第2の混合ガス供給室、21 混合ガス供給板、22 混合ガス導入口、22a 第1の混合ガス導入口、22b 第2の混合ガス導入口、23 処理ガス排出口、23a 第1の処理ガス排出口、23b 第2の処理ガス排出口、30 還元剤供給室、31 還元剤供給板、32 還元剤導入口、33 還元剤排出口、40 配線、50,51 加湿装置、60 混合ガス供給装置、61 還元剤供給装置、70 還元剤タンク、80 抵抗、90 発電装置、95 温度制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガスおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスから二酸化炭素ガスを分離するための装置であって、
アノード電極と、アニオン交換形高分子電解質膜と、カソード電極とをこの順で備える二酸化炭素分離積層体と、
前記アノード電極の外面上に配置され、前記アノード電極側の少なくとも一部が開放された空間からなる、還元剤を前記アノード電極に供給するための還元剤供給室と、
前記カソード電極の外面上に配置され、前記カソード電極側の少なくとも一部が開放された空間からなる、前記混合ガスを前記カソード電極に供給するための混合ガス供給室と、
を含み、
前記アノード電極と前記カソード電極とが電気的に接続されている、二酸化炭素分離装置。
【請求項2】
前記アノード電極と前記カソード電極とが抵抗を介して電気的に接続されている、請求項1に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項3】
前記抵抗は可変抵抗である、請求項2に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項4】
前記アノード電極と前記カソード電極とが発電装置を介して電気的に接続されている、請求項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項5】
前記アノード電極は、前記アニオン交換形高分子電解質膜の一方の表面に積層されるアノード触媒層を有し、
前記カソード電極は、前記アニオン交換形高分子電解質膜の他方の表面に積層されるカソード触媒層を有し、
前記アノード触媒層の体積が、前記カソード触媒層の体積より大きい、請求項1〜4のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項6】
前記アノード触媒層における前記アニオン交換形高分子電解質膜側の面の面積が、前記カソード触媒層における前記アニオン交換形高分子電解質膜側の面の面積より大きい、請求項5に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項7】
前記アノード電極の温度を上昇させるための温度制御装置をさらに備える、請求項1〜6のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項8】
前記アノード電極と前記カソード電極とが抵抗を介して電気的に接続されており、
前記抵抗は、前記温度制御装置を兼ねている、請求項7に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項9】
前記二酸化炭素分離積層体は、内側から順に、前記カソード電極と、前記アニオン交換形高分子電解質膜と、前記アノード電極とを備える円筒状の積層体であり、
前記混合ガス供給室は、前記二酸化炭素分離積層体の中空部からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項10】
前記混合ガス供給室は、空間的に互いに分離された第1の混合ガス供給室と第2の混合ガス供給室とからなり、
前記カソード電極は、前記第2の混合ガス供給室を形成する空間とのみ接しており、かつ、前記第1の混合ガス供給室を形成する空間は、前記アニオン交換形高分子電解質膜と接している、請求項1〜9のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項11】
前記第1の混合ガス供給室を形成する空間と前記アニオン交換形高分子電解質膜とが接する領域の合計面積が、前記第2の混合ガス供給室を形成する空間と前記カソード電極とが接する領域の合計面積より大きい、請求項10に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項12】
前記還元剤供給室は、前記還元剤を導入するための還元剤導入口と、前記還元剤および二酸化炭素ガスを含むガスを排出するための還元剤排出口とを有し、
前記混合ガス供給室は、前記混合ガスを導入するための混合ガス導入口と、二酸化炭素が低減または除去された処理ガスを排出するための処理ガス排出口とを有する、請求項1〜11のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項13】
請求項12に記載の二酸化炭素分離装置と、
少なくとも、アノード極と、電解質層と、カソード極とをこの順で備えるアルカリ形燃料電池と、
を含み、
前記二酸化炭素分離装置の前記処理ガス排出口から排出された処理ガスが、前記アルカリ形燃料電池の前記カソード極に供給されるとともに、前記アルカリ形燃料電池の前記アノード極から排出された還元剤が前記二酸化炭素分離装置の前記還元剤導入口から前記還元剤供給室内に導入される、アルカリ形燃料電池システム。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置の使用方法であって、
前記混合ガス供給室内の圧力は、前記還元剤供給室内の圧力より高くされる、二酸化炭素分離装置の使用方法。
【請求項15】
前記混合ガスを加圧して前記混合ガス供給室内に導入する、請求項14に記載の二酸化炭素分離装置の使用方法。
【請求項16】
請求項3〜12のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置の使用方法であって、
前記アノード電極と前記カソード電極との間を流れる電流量が所定量を下回った場合に、前記可変抵抗の抵抗値を減少させる、二酸化炭素分離装置の使用方法。
【請求項17】
請求項4〜12のいずれかに記載の二酸化炭素分離装置の使用方法であって、
前記アノード電極と前記カソード電極との間を流れる電流量が所定量を下回った場合に、前記発電装置の出力電圧を増加させる、二酸化炭素分離装置の使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−25601(P2012−25601A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163853(P2010−163853)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】