説明

二酸化炭素化学吸収設備を有する排ガス処理システムおよび方法

【課題】排ガス中の水銀のうち石灰石スラリー液中に吸収された2価水銀(Hg2+)が、吸収液のpH等の運転条件の変化により金属水銀(HgO)の形態に還元され排ガス中に再放出されてしまうことのない排ガス処理システムを提供する。
【解決手段】化石燃料の燃焼炉の燃焼用空気を加熱する空気予熱器3と、排ガス中の煤塵を捕集する集塵装置5と、排ガス中の硫黄酸化物を湿式処理する湿式脱硫装置7と、排ガス中からCO2を吸収分離するCO2化学吸収設備11を備えた排ガス処理システムであって、空気予熱器と集塵装置の間に排ガス熱回収用熱交換器4と、湿式脱硫装置とCO2化学吸収設備の間に熱回収用熱交換器で回収した熱によって排ガス温度を昇温する排ガス再加熱用熱交換器8をそれぞれ設け、また排ガス再加熱用熱交換器とCO2化学吸収設備との間に排ガス中の水銀を酸化するための触媒装置10を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素OLE_LINK1CO2化学吸収設備OLE_LINK1を有する排ガス処理システムおよび方法に係り、 特に湿式排煙脱硫装置、CO2化学吸収設備および排ガス中の水銀を除去する触媒装置を備えた排ガス処理システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、 石炭焚きボイラ等から排出される排ガス中には窒素酸化物、 硫黄酸化物、煤塵、水銀等の重金属が含まれているため、 前記石炭焚きボイラ等の下流側に排煙処理システムを設置し、 排ガス中の前記有害物質を除去した後、 クリーンなガスとして大気に放出している。また、近年の地球温暖化問題に関し、排ガス中から二酸化炭素(CO2の分離回収を行う必要も生じている。
【0003】
図4に従来の排煙処理システムおよびCO2回収システムの一例を示す。ボイラ1から排出される燃焼排ガスは、脱硝装置2で窒素酸化物および水銀を除去した後、空気予熱器3を経て、集塵装置5で排ガス中の煤塵を除去し、 さらに誘引ファン6で昇圧した後、湿式排煙脱硫装置7で硫黄酸化物が除去される。窒素酸化物、水銀および二酸化硫黄が除去された後の排ガスは、CO2化学吸収設備11に送られ、CO2の化学吸収により、排ガス中からCO2の分離、回収が行われる。
【0004】
排ガス中の水銀(Hg)は、脱硝装置2を構成する脱硝触媒の酸化反応により、排ガス中の塩素(Cl)と反応し、酸化水銀(HgCl2の形態に変換されるが、水銀除去性能を高めるために、水銀の酸化能力を高め、一方、二酸化硫黄(SO2の酸化によりSO3を増加させないように、SO2酸化能力を低く抑えた触媒組成を持つ水銀酸化触媒が脱硝触媒として使用される場合もある。触媒の酸化能力により水溶性の高い酸化水銀HgCl2の形態に変換された水銀は、主として湿式排煙脱硫装置7の石灰石スラリー吸収液により排ガス中から吸収除去される。
【0005】
燃料の燃焼用に空気を使用する一般的なボイラ等の燃焼炉において、排ガス中からCO2を回収するためには、窒素分が多いため、圧縮機を使用して排ガスから直接CO2を分離することができない。このため、アルカノールアミンなどのアミン化合物の水溶液をCO2吸収液として排ガスと気液接触させ、吸収液にCO2を吸収させることにより排ガス中からCO2の分離回収を行う方法がとられている。
【0006】
図5にこのようなアミン吸収液によるCO2化学吸収設備の一例を示す。排ガスは吸収塔25に導入され、アミン吸収液との接触によりCO2が除去された後、脱CO2ガス27として排出される。一方、CO2を吸収したアミン吸収液は吸収液循環ポンプ28により再生塔26に導入され、ここで蒸気により加熱され、アミンとCO2が分離されて高純度のCO2ガス29として回収される。再生塔26内の加熱用蒸気はリボイラ30でアミン吸収液をスチーム32で加熱することにより得られる。また排ガス中の硫黄酸化物が吸収されると、アミンと化合物を形成するため、リクレイマー31で炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩を添加し、スチーム32で加熱することにより、アミンを再生している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の排煙処理システムでは、排ガス中の水銀のうち2価水銀(Hg2+は湿式脱硫装置7において石灰石スラリー吸収液に吸収されることにより排ガス中から除去される。しかしながら、石灰石スラリー液中に吸収された2価水銀(Hg2+は必ずしも安定しておらず、吸収液のpH等の運転条件の変化により金属水銀(HgO)の形態に還元され排ガス中に再放出されてしまうという問題があった。
【0008】
また従来の排煙処理システムでは、湿式脱硫装置7後流の排ガス中水銀はほぼすべて金属水銀(Hg)の形態となり、CO2化学吸収設備も含め、この金属水銀を除去できる構成要素は備えていない。このため湿式脱硫装置の吸収液に金属沈殿剤を添加し、液中から固体側へ固定化させる必要があった。しかしながら、湿式脱硫装置においては、石灰石スラリーと硫黄酸化物の反応により石膏が副生物として生成されるため、この石膏中に水銀が含有されてしまうという問題を生じる。湿式脱硫装置で生成される石膏は、石膏ボードやセメント原料として有効利用されているが、水銀の含有によりその有効利用が困難となり、廃棄処理を行うとしても、石膏中の水銀が気化して再び大気中に放出されてしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)化石燃料の燃焼炉の燃焼用空気を加熱する空気予熱器と、該空気予熱器の後流に設置された、排ガス中の煤塵を捕集する集塵装置と、排ガス中の硫黄酸化物を湿式処理する湿式脱硫装置と、排ガス中からCO2を吸収分離するCO2化学吸収設備を備えた排ガス処理システムであって、前記空気予熱器と集塵装置の間に排ガス熱回収用熱交換器と、湿式脱硫装置とCO2化学吸収設備の間に前記熱回収用熱交換器で回収した熱によって排ガス温度を昇温する排ガス再加熱用熱交換器をそれぞれ設け、また該排ガス再加熱用熱交換器と前記CO2化学吸収設備との間に排ガス中の水銀を酸化するための触媒装置を設けたこと特徴とする排ガス処理システム。
(2)前記湿式脱硫装置の後流で、前期触媒装置の前流に塩素注入装置を設けたことを特徴とする(1)記載のシステム。
(3)前記排ガス再加熱用熱交換器の前流または後流に、蒸気を熱源とした補助排ガス加熱器を設けたことを特徴とする(1)または(2)記載の排ガス処理システム。
(4)前記熱回収用熱交換器で排ガスから回収した排熱を熱媒により回収し、該熱媒を排ガス再加熱器用熱交換器に移送する熱媒ラインと、該熱媒ラインに設けられた蒸気を熱源とするヒータとを備えたことを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の排ガス処理システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、湿式排煙脱硫装置とCO2化学吸収設備の間にHgを酸化させる機能を持つ触媒を設置し、該酸化触媒で湿式排煙脱硫装置から再放出された排ガス中の金属Hgを水溶性の除去しやすい塩化Hgの形態に酸化させ、CO2化学吸収設備でCO2と同時に除去することにより、Hg排出規制強化に対応した高Hg除去システムとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示す排煙処理システムの説明図。
【図2】本発明の他の実施例を示す排煙処理システムの説明図。
【図3】本発明の他の実施例を示す排煙処理システムの説明図。
【図4】従来の排ガス処理システムの説明図。
【図5】従来のCO2化学吸収設備の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の排ガス処理システムの一実施例を図1に示す。本発明の排ガス処理システムと、図4に示した従来のシステムとの相違点は、湿式排煙脱硫装置7とCO2化学吸収設備11の間に、水銀を水溶性の高い酸化水銀の形態に酸化させる機能を持つ酸化触媒等の水銀酸化手段(触媒装置)10を設け、加えて排ガス中から排熱を回収する熱交換器4と、回収した排熱により水銀酸化手段(触媒装置)10の入口ガス温度を酸化反応の活性温度以上に昇温させる排ガス再加熱用熱交換器8を設置し、CO2化学吸収設備11入口、すなわち湿式脱硫装置出口の排ガス中の水銀を酸化水銀の形態に変換させ、水溶性の高い酸化水銀をCO2化学吸収設備11に導入してCO2吸収液によりCO2と共に吸収除去をするようにしたことである。
【0013】
図1において、ボイラ1からの排ガスは脱硝装置2に導入され、窒素酸化物を除去した後、空気予熱器3においてボイラ1で使用される燃焼用空気を排ガスにより加熱される。次いで該空気予熱器3から排出された排ガスは、熱回収器4に導入され、熱回収器内を循環している熱媒により熱を回収され冷却される。該熱回収器4から排出された排ガスは、集塵装置5に導入され、煤塵を捕集した後、誘引ファン6で昇圧され、湿式脱硫装置7に導入される。該湿式脱硫装置7で排ガス中の硫黄酸化物が除去され、該湿式脱硫装置7から排出された排ガスは前記熱回収器4で回収した熱により再加熱器8で昇温される。該再加熱器8から排出された排ガスは、Hgを酸化させる機能を持つ触媒装置10に導入され、Hgを酸化した後、CO2化学吸収設備11に送られ、CO2と共にHgが吸収除去される。CO2及びHgが除去された排ガスは、脱硫ファン12により煙突13から大気中に排出される。前記熱回収器4は、再加熱器8との間に熱媒を循環させる熱媒循環配管14を備えており、 熱媒は熱媒循環ポンプ15で循環される構成となっている。この熱媒循環配管14に流量調節弁を設け、循環する熱媒の流量を調節することにより、熱回収器4を介して触媒装置10に導入される排ガス温度を最適化することができる。
【0014】
図2は、本発明の他の実施例を示す排ガス処理システムの説明図である。このシステムは、図1のシステムにおいて、触媒装置10の前流で、かつ湿式脱硫装置7の後流排ガス中に塩素注入手段16を設けたものである。湿式脱硫装置7の後流で、触媒装置10に導入される排ガス中に塩素を注入することにより、排ガス中の水銀を酸化水銀の形態(HgCl2に変換することができる。ボイラから排出される排ガス中の塩素が湿式脱硫装置7により除去されるため、燃料性情や排ガス中の水銀量によっては、水銀の酸化に必要となる塩素が不足する場合が起こりえる。この場合においても水銀を高効率で除去するために、湿式脱硫装置7と触媒装置10の間の煙道中に水銀酸化に必要な塩素を注入するように構成したものである。
【0015】
図3は、本発明のさらに他の実施例を示す排ガス処理システムの説明図である。図1のシステムと異なる点は、ボイラ出口排ガスの温度低下等により触媒装置10の熱源が不足する場合に対処するために、再加熱器8の上流に蒸気を熱源とした補助用排ガス加熱器17を設置したものである。蒸気式加熱器17を設置することにより触媒10で不足する熱源を補うことができ、該触媒装置10での水銀の未酸化を避けることができる。ここで使用する蒸気は、プラント効率にも関わるため、ボイラ出口排ガス温度に応じて、触媒装置10での活性を維持するために必要な最適蒸気量に維持するように制御することができる。
【0016】
また、補助用排ガス加熱器17の代りに、またはこれに追加して、熱回収器4と再加熱器8の間で排熱の輸送を行う熱媒循環配管14に、蒸気を熱源としたヒータ18を設けても同様の効果が得られる。
【0017】
以上のように本発明によれば、湿式排煙脱硫装置で再放出した排ガス中の金属HgをHgを酸化させる機能を持つ触媒により酸化し除去しやすい水溶性の塩化Hgの形態としてCO2化学吸収設備でCO2と共に除去することができるため、排ガス中のHgを高効率で除去し、Hg排出規制強化に対応することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化石燃料の燃焼炉の燃焼用空気を加熱する空気予熱器と、該空気予熱器の後流に設置された、排ガス中の煤塵を捕集する集塵装置と、排ガス中の硫黄酸化物を湿式処理する湿式脱硫装置と、排ガス中からCO2を吸収分離するCO2化学吸収設備を備えた排ガス処理システムであって、前記空気予熱器と集塵装置の間に排ガス熱回収用熱交換器と、湿式脱硫装置とCO2化学吸収設備の間に前記熱回収用熱交換器で回収した熱によって排ガス温度を昇温する排ガス再加熱用熱交換器をそれぞれ設け、また該排ガス再加熱用熱交換器と前記CO2化学吸収設備との間に排ガス中の水銀を酸化するための触媒装置を設けたこと特徴とする排ガス処理システム。
【請求項2】
前記湿式脱硫装置の後流で、前期触媒装置の前流に塩素注入装置を設けたことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記排ガス再加熱用熱交換器の前流または後流に、蒸気を熱源とした補助排ガス加熱器を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の排ガス処理システム。
【請求項4】
前記熱回収用熱交換器で排ガスから回収した排熱を熱媒により回収し、該熱媒を排ガス再加熱器用熱交換器に移送する熱媒ラインと、該熱媒ラインに設けられた蒸気を熱源とするヒータとを備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排ガス処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−235247(P2011−235247A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109905(P2010−109905)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】