説明

二酸化炭素吸収用ポリマー、該ポリマーを利用した二酸化炭素の分離回収方法

【課題】省エネルギーでガス中に含まれる二酸化炭素を安定に分離するための二酸化炭素吸収材の提供。
【解決手段】下記一般構造式(I):


{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR及びRの置換基は、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基であることができる。}
で表される構造を有する繰り返し単位を有する二酸化炭素吸収用ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させた後、再度放出させて分離するための二酸化炭素吸収材に関するものであり、さらに詳しくは、省エネルギーで安定に分離するための二酸化炭素吸収材に関するものである。また、本発明は、燃焼排ガスのような二酸化炭素を含有するガスからの二酸化炭素の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス中に含まれる二酸化炭素の分離は種々の方法により行なわれてきた。例えば、アンモニア製造過程での二酸化炭素の除去等であり、アルカリの吸収液と接触させて二酸化炭素を吸収除去する方法が一般的に行なわれている。このような方法は、化学吸収法と分類され、吸収塔で化学的に吸収された二酸化炭素は、再生塔で吸収液を加熱することにより吸収液から放出されて回収される。化学吸収法のプロセスでは、高効率な二酸化炭素の除去と高純度の二酸化炭素の回収が可能であることを特徴としている。近年、地球温暖化の原因物質として大気中の二酸化炭素が着目されており、大規模な排出源である、火力発電所又は製鉄所、セメント工場等から排出される排ガス中の二酸化炭素を分離回収する検討がなされている。このような排ガスからの二酸化炭素の分離回収に対して、化学吸収法に代表される従来の分離回収技術を用いた場合、分離に要する付加的なエネルギーの比重が大きく、経済性が非常に大きな問題となる。この分離に要するエネルギーは、化学吸収法の場合、二酸化炭素を吸収させた吸収液を加熱して、二酸化炭素を放出させる工程での熱エネルギーが最も大きい。従来のアルカリ液としては、炭酸カリウム水溶液やモノエタノールアミン水溶液に代表されるアルカノールアミン水溶液が使われており、これらを基本技術として、より分離エネルギーの小さな吸収液の検討がなされている。特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4では、特定の低分子アミン水溶液を用いた燃焼排ガスからの二酸化炭素の除去方法が提案されている。また、特許文献5では、三級アルカノールアミンとアミン系活性剤とを含有する酸性ガス吸収液体が提案されている。これらの方法は、モノエタノールアミン水溶液より改善はされているものの、さらなる省エネルギー化と高効率化が望まれている。
【0003】
また、これらの吸収液のような低分子のアミンでは、二酸化炭素を吸収させる工程において排ガスと接触させる際に、少量のアミン化合物が蒸発してしまうという問題がある。このためアミン化合物の揮発性を下げることも課題の一つとされている。
【0004】
一方、高分子のアミンを二酸化炭素の吸収材として用いることも検討されてきた。特許文献6では、多孔性重合体粒子に多価アミンを付加反応させた炭酸ガス吸着性多孔化樹脂が提案されている。また、特許文献7では、ポリビニル芳香族化合物の重合体をアミノメチル化した単分散球状アミノメチル化重合体を用いた気体の吸着方法が提案されている。しかしながら、これらの技術では分離エネルギーの低減はなされておらず、排ガスからの二酸化炭素の分離回収等のような大規模な分離には適応できない。
【0005】
また、従来の化学吸収法では、吸収させた二酸化炭素を熱エネルギーにより放出させ、吸収液を再生する工程では、110℃〜130℃程度の温度までスチーム加熱を行い、吸収液を沸騰させる条件で行なわれている。そのため、再生工程でアミン化合物が熱分解する懸念があり、再生工程での吸収液の安定性も課題の一つとされている。
【0006】
アミノ基を有する機能性ポリマーとして、ポリアリルアミンのアミノ基をエポキシ化合物でアルキル変性したものが特許文献8で提案されている。この技術では、アミノ基を有するポリマーで親水性−疎水性の熱可逆応答性を示すものが提案されている。しかしながら、このような構造のアミノ基を有する機能性ポリマーを二酸化炭素の吸収材として使用した例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2871334号公報
【特許文献2】特許第2895325号公報
【特許文献3】特許第3197183号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2008−0050296号公報
【特許文献5】特許第2925619号公報
【特許文献6】特公平4−37735号公報
【特許文献7】特開2002−52340号公報
【特許文献8】特許第3717021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決し、省エネルギーでガス中に含まれる二酸化炭素を分離回収するための二酸化炭素吸収材を提供すること、さらに、アミン化合物の揮発性がなく、安定に使用可能な二酸化炭素吸収材を提供することを目的とする。また本発明は上記の二酸化炭素吸収材を用いた、燃焼排ガスのような二酸化炭素含有ガスからの二酸化炭素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1] 下記一般構造式(I):
【化1】

{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR及びRの置換基は、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基である。}
で表される構造を有する繰り返し単位を有する二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0010】
[2] 前記繰り返し単位が、下記一般構造式(II):
【化2】

{式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR、R、R及びRの置換基は、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基であることができる。}
で表される構造を有する、[1]に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0011】
[3] 前記繰り返し単位が、下記一般構造式(III):
【化3】

{式中、Xは、上記一般構造式(I)又は(II)であり、nは、1〜10,000の整数である。}
で表される、[1]又は[2]に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0012】
[4] 水の存在下における親水性−疎水性の転移温度が4.0℃以上96.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0013】
[5] 水の存在下で前記ポリマーを構成するアミノ基に対して2.0モル%以上30.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収させた状態における前記ポリマーの親水性−疎水性の転移温度が10.0℃以上50.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0014】
[6] 水の存在下で前記ポリマーを構成するアミノ基に対して40.0モル%以上90.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収させた状態における前記ポリマーの親水性−疎水性の転移温度が40.0℃以上95.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0015】
[7] 0.5M酢酸水溶液可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出した重量平均分子量Mwが、1,500以上200,000以下である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【0016】
[8] 二酸化炭素吸収材の全質量を基準として、15.0質量%以上90.0質量%以下の[1]〜[7]のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー、及び10.0質量%以上85.0質量%以下の水を含有する、二酸化炭素吸収材。
【0017】
[9] [8]に記載の二酸化炭素吸収材に、二酸化炭素を含有するガスを接触させることにより二酸化炭素を吸収させ、その後に、該吸収材を加熱することにより二酸化炭素を分離回収する工程を含む、二酸化炭素の分離回収方法。
【0018】
[10] 前記吸収材を加熱する温度が、60.0℃以上100.0℃以下である、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二酸化炭素吸収材及び二酸化炭素の分離回収方法によれば、燃焼排ガスのようなガスからの二酸化炭素の分離回収を省エネルギーで可能にすることができる。また、本発明においては、アミン化合物の揮発性がなく、また安定に使用可能な吸収材を提供することができ、連続して効率の良い二酸化炭素の分離回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の化学吸収法における二酸化炭素分離回収装置の概略図である。
【図2】二酸化炭素吸収材の吸収量と放出量の評価装置の模式図である。
【図3】二酸化炭素吸収材の反応熱の評価装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の二酸化炭素吸収用ポリマーは、特定の構造を有する第二級アミノ基又は第三級アミノ基を有する繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0022】
[二酸化炭素吸収用ポリマーの構造]
本発明における二酸化炭素吸収用ポリマーは、上記一般構造式(I)で表される構造を有する繰り返し単位を有することを特徴とする。この繰り返し単位の構造は、側鎖に第二級アミン又は第三級アミンを有するポリマーを示している。本発明者らが鋭意検討を行った結果、このようなポリマーは二酸化炭素を吸収させた後に、低分子のアミン化合物よりも比較的低温で二酸化炭素を放出することが確認された。二酸化炭素を放出する際の温度を下げることは、液を昇温させるための熱エネルギーを減らすことにつながり、また、アミン化合物の熱分解等が抑えられ安定性の向上につながる。この低温における二酸化炭素の放出能が向上する理由としては、ポリマーの場合、ポリマー鎖の熱的物性が影響する可能性が考えられる。アミンと二酸化炭素の反応は下記のように、カルバメートアニオンを形成する反応及び重炭酸塩を形成する反応の二つの平衡反応が知られている。
<カルバメートアニオン生成反応>
2RNH+CO→RNHCOO・RNH
<重炭酸塩生成反応>
RNH+CO+HO→RNH・HCO
【0023】
上記反応の内で、カルバメートアニオンの形成には、カウンターカチオンとしてもう1分子のアミンが必要とされるが、ポリマー鎖の分子運動の状態によってこのイオン結合の安定性に影響を与えると推察される。また、重炭酸塩の形成反応でも同様にポリマーの分子運動の状態が影響を与えるものと推察される。このような低温での二酸化炭素の高放出特性を発現するために、上記一般式(1)において、Rは、炭素数3〜8のアルキル基であることが好ましく、そして炭素数3又は4のアルキル基であることがより好ましい。この理由は、一般的に、第二級、第三級のアミノ基の反応性が、結合するアルキル基の数によって大きく異なるためであり、また、水酸基のような置換基の効果とのバランスにも影響するためである。
【0024】
さらに、上記繰り返し単位が上記一般構造式(II)で表される構造を有することによって、低温での二酸化炭素の放出性能が著しく向上することが分かった。この理由としては、このような構造を構成単位として有するポリマーでは、水酸基とアミノ基の存在によって、ポリマー鎖同士又は同一分子鎖内での水素結合の影響により、前記した熱的物性が顕著に現れるのではないかと推察される。また、水酸基があることによりポリマーの親水性が高く、特に水の存在下での特性が優れることが分かった。アミンと二酸化炭素の反応では、水分子の存在が大きく関与しており、特に重炭酸塩を生成する反応では水分子が必須となる。一般的に多くのアミンでは、重炭酸塩を生成する反応は、カルバメートアニオン生成反応より反応熱が低いことが知られており、二酸化炭素の放出の際の熱エネルギーを削減する上では重炭酸塩生成の方が優れている。反面、重炭酸塩を生成する反応は、吸収速度が遅いという傾向も知られており、両反応のバランスが重要と考えられる。このため、ポリマーの水和が反応性を左右するものと考えられる。尚、本発明中では、上記一般構造式(II)で表される構造は、上記一般構造式(I)で表される構造を満足するものに限られる。
【0025】
本発明者らの検討によると、このようなポリマーの効果と二酸化炭素の吸収・放出性能を両立させる点で、特に一般構造式(II)のポリマーの効果と吸収・放出性能が極めて顕著であることから、アミノ基と水酸基の位置関係と親水疎水性のバランスが重要であることが分かった。
【0026】
さらに、前記したポリマーの特性は低温での放出性能に加え、反応熱の低減という効果を与えることも分かった。反応熱の低減は、二酸化炭素を加熱することで脱離させ、吸収材を再生するためのエネルギーを削減することに直接的に繋がる。即ち、本発明の二酸化炭素吸収用ポリマーは、二酸化炭素を分離回収するための吸収材として使用した場合に、連続して安定的に、かつ非常に省エネルギーでの分離回収を可能にすることができる。
【0027】
また、上記繰り返し単位は、上記一般構造式(III)であることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明者らは、このポリマーの水和を制御する点で、ポリマーの親水−疎水可逆性能を利用することを見出した。本明細書では、用語「親水−疎水可逆性」とは、親水性と疎水性が可逆的に変化する性質又は性能をいう。即ち、アミノ基と二酸化炭素の反応性をポリマーの親水性−疎水性可逆性能により制御することができることが分かった。この親水−疎水可逆性能とは、例えば温度又はpHのような環境条件の変化によって、ポリマーが親水性と疎水性の可逆応答を示すことをいう。このような環境変化に応じた親水性と疎水性の転移現象を用いて、アミノ基と二酸化炭素の反応性を大きく変えることによって、ポリマーの二酸化炭素の吸収・放出性能をさらに向上させることが可能となる。前記したポリマーの親水−疎水可逆性能を二酸化炭素の分離回収に応用する上で、温度環境によって親水性と疎水性が可逆的に転移するポリマーが優れている。具体的には、水中で4.0℃以上96.0以下のいずれかの温度に親水性−疎水性の転移温度を有するポリマーがよい。用語「転移温度を有する」とは、例えば、30℃の転移温度を有するポリマーであれば、30未満では親水性を示し、30℃以上では疎水性を示し、これらの性質が温度環境に応じて可逆的に転移するものを言う。この特性が優れている点は、二酸化炭素の吸収時と放出時の環境差として、最も容易に制御できる因子が温度であるからであり、従来の化学吸収法による分離回収も大きな温度差の下で二酸化炭素の吸収と放出を繰り返しているからである。この大きな温度差(例えば40℃で吸収し、120℃で放出する)に対して、温度環境による親水性−疎水性の転移を利用することで、より小さな温度差で吸収と放出を繰り返すことが可能となる。この温度差を実際に二酸化炭素の分離回収に利用し、二酸化炭素の吸収と放出の温度差を小さくする上では、親水性−疎水性の転移温度を10.0℃以上80.0℃以下にすることがより好ましい。転移温度が低すぎる場合には、吸収時の温度を低く設定しなければ特性が利用できないし、転移温度が高すぎる場合には放出時の温度を高く設定しなければ特性が利用できないからである。前記ポリマーにおける親水性−疎水性の転移温度は、前記繰り返し単位の構造及び含有率を制御することにより任意に発現・制御することが可能である。また、水中での前記ポリマーの転移温度と前記ポリマーから構成された二酸化炭素吸収材の転移温度は水以外の成分の存在によって異なり、それらの成分によって二酸化炭素吸収材中でのポリマーの転移温度を調整することも可能である。
【0029】
前記した親水性−疎水性の温度環境による可逆的な転移現象を利用して、二酸化炭素の吸収と放出を連続して繰り返し行なう上では、二酸化炭素の吸収後と放出後のそれぞれのポリマーの転移温度に着目する必要がある。本発明のポリマーの熱による親水性−疎水性の転移現象はpHによって左右され、二酸化炭素の吸収に応じてアミノ基由来のアルカリ性が弱くなるからである。そのため、連続的に繰り返して二酸化炭素の吸収と放出を行なう場合では、吸収時のポリマーの性質は、二酸化炭素の放出後に放出しきれずに残る二酸化炭素吸収量の影響を受け、そして放出時のポリマーの性質は、吸収後の二酸化炭素吸収量の影響を受ける。まず、吸収時のポリマーに関して言えば、放出後の二酸化炭素吸収量は一般的に、アミノ基に対して2.0モル%以上30.0モル%以下である。この状態のポリマーが吸収時に親水性であるためには、吸収時の温度よりも高い転移温度を有していればよい。具体的には、アミノ基に対して2.0モル%以上30.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収した状態で、転移温度が15.0℃以上であることが望ましく、より好ましくは25℃以上50.0℃以下である。一方、放出時のポリマーに関して言えば、吸収後の二酸化炭素吸収量は一般的に、アミノ基に対して40.0モル%以上90.0モル%以下である。この状態のポリマーが吸収工程から放出工程へと昇温する過程で親水性と疎水性の転移を発現することで、放出時に疎水化することが可能となる。具体的には、アミノ基に対して40.0モル%以上90.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収した状態で、40.0℃以上95.0℃以下のいずれかの温度に転移温度を有することが望ましく、より好ましくは50.0℃以上85.0℃以下である。
【0030】
[二酸化炭素吸収用ポリマーの分子量]
本発明の二酸化炭素吸収用ポリマーは、ポリマー自体の二酸化炭素との反応性を利用することを特徴とする。本発明の「ポリマー」とは、重合体を意味し、ある程度以上の重合度を有するものである。即ち、重合性単量体の前記繰り返し単位を含むものである。このようなポリマーを二酸化炭素吸収用ポリマーとして利用することの利点として、揮発性がないことが挙げられる。つまり、ガスとの接触により、二酸化炭素を吸収させる際に、アミン化合物(本発明でいうポリマー)が蒸発しないため、吸収材を分離回収プロセスの系外に出さなくて済む。重合度としては、一般的にオリゴマーと呼ばれる範囲も含めることができ、10以上のユニット単位を有することが望ましい。それに応じて、分子量としても特に限定されないが、一般的に製造が容易な範囲から選択でき、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定から換算される重量平均分子量Mwで、1,500以上200,000以下が好適であり、2,000以上20,000以下がより好適であり、そして二酸化炭素吸収用ポリマーの分子量は、二酸化炭素吸収材の形態に応じて任意に選択すればよい。
【0031】
尚、GPCによる分子量の測定は、以下の様にして行なえばよい。
【0032】
ポリマーを0.5M酢酸水溶液に加え、室温で24時間静置した溶液を、細孔径が0.45μmの耐水性メンブランフィルターで濾過してサンプル溶液とし、以下の条件で測定する。尚、サンプルは、ポリマーの濃度が0.1乃至0.5質量%になるように調整する。
装置:高速GPC HLC8220GPC(東ソー社製)
カラム:Shodex OHpak SB−806M HQの2連(昭和電工社製)
溶離液:0.5M酢酸及び0.1M硝酸ナトリウム水溶液
流速:1.0ml/分
オーブン温度:40℃
試料注入量:0.10ml
【0033】
また、試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリエチレングリコール及び標準ポリエチレンオキサイドの分子量スタンダード(GLサイエンス社製、PEG−10及びPEO−10)により作成した分子量校正曲線を使用する。
【0034】
本発明のポリマーにおける、前記繰り返し単位の含有量は特に限定されないが、単位二酸化炭素あたりの吸収材の使用量に影響するため、多い方がより省エネルギーでの分離に好ましい。即ち、ポリマー中のアミン含有量は多い方が好ましいが、前記繰り返し単位の構造及びポリマー組成比によって最適な量が決まる。本発明におけるポリマー中の前記繰り返し単位の含有量は5.0モル/kg以上15.0モル/kg以下であることが好ましく、より好ましくは6.5モル/kg以上10.0モル/kg以下である。
【0035】
同様の理由で、本発明の二酸化炭素吸収材中の前記ポリマー含有量も多い方が好ましい。しかし、ポリマー含有量は吸収材の物性に大きく関わっており、二酸化炭素との反応性又はプロセスへの適合性に応じて制御しなければならない。好ましい範囲としては、15.0質量%以上90.0質量%以下であり、より好ましくは20.0質量%以上75.0質量%以下である。
【0036】
前記繰り返し単位を有するポリマーの製造方法としては、公知の方法が利用でき、大きく分けて二通りある。一つは予め重合されたポリアリルアミン又はポリビニルアミンのようなアミノ基を有するポリマー(その他のビニル重合性単量体との共重合体であってもよい)の第一級アミンをアルキル置換するポリマー修飾方法である。この方法では、アミノ基と反応性のある化合物とポリマー中のアミノ基とを任意の割合で反応させることにより、第二級アミンまたは第三級アミンにアルキル置換することが可能である。また、アミノ基と反応性のある化合物を2種以上反応させることにより、任意の複数の構造を有するポリマーを製造することが可能である。アミノ基と反応性のある化合物としては、ハロゲン化アルキル、エポキシ化合物、アルデヒド、ケトン等が挙げられる。特に前記繰り返し単位が上記一般構造式(II)で表される構造を有する場合は、エポキシ化合物を選択することによって容易に生成することが可能である。本発明の前記ポリマーの製造に使用できるエポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、イソブチレンオキサイド、グリシジルメチルエーテル、グリシジルエチルエーテル、グリシドール、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシジルカルボキシレート等を挙げることができる。エポキシ化合物とアミンとの反応は加熱により容易に進行する。加熱温度はエポキシ化合物によって最適な範囲があるが、一般的には30℃以上100℃以下の範囲である。また、エチレンオキサイドのような沸点の低いエポキシ化合物の場合は、オートクレーブ中で反応させることが好ましい。
【0037】
もう一方の方法としては、下記一般構造式:
【化4】

又は
【化5】

{式中、R及びRは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、R及びR10は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR、R、R及びR10の置換基は、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基であることができる}
で示される任意のビニル重合性単量体を重合させる方法であり、必要に応じてその他のビニル重合性単量体と共重合することも可能である。
【0038】
重合方法としては公知の方法が適用でき、例えば、バルク重合、溶液重合、分散重合、沈殿重合、懸濁重合等が挙げられる。また、重合性の悪い単量体の場合、アミノ基を塩酸塩とした状態で重合させた後、ポリマーをアルカリにて中和することも可能である。開始剤としては、公知のラジカル開始剤が利用できる。
【0039】
目的の構造及びポリマー組成比に応じて、どちらの方法を選択してもよいし、これら二つの方法を両方組み合わせてもよい。
【0040】
前記ポリマーにおいては、前記繰り返し単位以外に構成単位として他のユニットを有していてもよいし、一級アミノ基を有していてもよい。他のビニル重合性単量体ユニットについて、具体的な単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−アミノスチレン及びその誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル等のメタクリル酸又はアクリル酸のエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸、ビニル酢酸、4−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0041】
また、本発明における前記ポリマーをさらに2官能以上の反応性基を有する架橋剤と反応させて、架橋性の不溶ゲルとすることも可能である。このような反応性基としては、アミノ基と反応性のあるハロゲン化アルキル基、エポキシ基、アルデヒド基、ケトン基、イソシアネート基、酸クロライド基等が挙げられ、これらを2つ以上有する化合物で架橋させることができる。
【0042】
本発明の二酸化炭素吸収用ポリマーは、前述したポリマーを2種以上含有させてもよいし、さらに、その他の構成成分を含んでいてもよい。特に、アミンと二酸化炭素の反応性に大きな関わりのある水を含むことが好ましい。含水量は、二酸化炭素吸収材中における前記繰り返し単位の量(アミン含有量)に対して1等量以上が好ましいが、多すぎると繰り返し単位の含有量が相対的に減ってしまい好ましくない。具体的には10.0質量%以上85.0質量%以下の割合が好ましく、25.0質量%以上70.0質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
尚、本発明において、二酸化炭素吸収用ポリマーとその他の構成成分との組み合わせを「二酸化炭素吸収材」と称する。従って、二酸化炭素吸収用ポリマーと水との組み合わせによる上記の物も本発明における二酸化炭素吸収材に相当する。好ましくは、二酸化炭素吸収材は、その全質量を基準として、15.0質量%以上90.0質量%以下の二酸化炭素吸収用ポリマー、及び10.0質量%以上85.0質量%以下の水を含有する。
【0044】
二酸化炭素吸収材において、他の構成成分として、必要に応じて水以外にも溶媒を含有していてもよい。前記ポリマーの溶解性又は分散性に応じて適応するものが違うが、蒸気圧又は沸点の低いものは分離回収工程において揮発してしまい好ましくない。また、アミンと反応性の高いものも好ましくない。省エネルギー化の観点では、比熱が低く熱伝導性のよいものが好ましい。含有させてもよい溶媒として具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の多価アルコール類、ブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール等の炭素数4以上のアルコール類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類又はシリコンオイル等を挙げることができる。
【0045】
他の構成成分として、必要に応じて公知のアミン化合物を含有させてもよい。二酸化炭素の吸収量又は放出量を補助的に上げる目的で含有させることができる。特に制限はないが、蒸気圧又は沸点の低いものが好ましく、二酸化炭素との反応熱の小さいものがより好ましい。含有させることが可能なアミン化合物として、具体的な例としては、モノエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、アニリン、シクロヘキシルアミン等の一級アミン類、2−メチルアミノエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−イソプロピルアミノエタノール、2−n−ブチルアミノエタノール、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−ピペリジノエタノール等の二級アミン類、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、4−ジメチルアミノ−1−ブタノール、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−エチル−N−メチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン等の三級アミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等が挙げられる。
【0046】
また、他の構成成分として、前記繰り返し単位を有するポリマー以外の公知のポリマーを添加してもよい。また、前記繰り返し単位を有するポリマーの物性を調整する目的で、酸、アルカリ又は塩を添加することも可能である。また、二酸化炭素吸収材の形態に応じて、公知の消泡剤又は分散安定剤、界面活性剤、粘度調整剤、腐食防止剤等を添加することも可能である。
【0047】
本発明の二酸化炭素吸収材の形態としては、溶液状態の他に、分散液、エマルジョン、粉体、膨潤ゲル状等の様々な形態を取ることが可能である。粉体として取扱う際に、流動性を付与する目的で微粉末状の無機粒子又は樹脂粒子を添加することができる。また、多孔質の支持体に担時させて使用することも可能である。
【0048】
<分離回収方法>
本発明の二酸化炭素の分離回収方法について説明する。本発明における二酸化炭素の分離回収方法は前述した二酸化炭素吸収材を用いることが最大の特徴である。具体的には、本発明における二酸化炭素吸収材に、二酸化炭素を含有するガスを10℃〜50℃で接触させることにより二酸化炭素を吸収させ、その後に、前記二酸化炭素吸収材を加熱することにより二酸化炭素を分離回収する方法が最も好ましい。特に、二酸化炭素吸収材を溶液状態で取り扱う場合には、従来の化学吸収法と同様の装置、設備によって分離回収を行なうことが可能である。従来の化学吸収法における装置の概要を図1に示す。図1において、二酸化炭素を含む混合ガスは必要に応じて加湿冷却された後、ガス供給口14を通って吸収塔11へ供給される。吸収塔11へ押し込められた混合ガスはノズル12から供給される吸収液と下部充填部13で向流接触させられ、混合ガス中の二酸化炭素は吸収液により吸収除去され、脱二酸化炭素ガスは上部の排出口19から排出される。吸収液再生塔117では、再生加熱器110による加熱により下部充填部111で吸収液が再生され、熱交換器18と冷却器16により冷却され吸収塔へ戻される。吸収液から分離された二酸化炭素は、再生塔還流冷却器116により冷却され、気液分離器114にて二酸化炭素に同伴した水蒸気を凝縮分離され、回収二酸化炭素排出ライン115より排出され回収される。
【0049】
さらに、本発明の二酸化炭素吸収材を使用して、二酸化炭素の分離回収を行なう上で、加熱により二酸化炭素を放出させる際の温度を低くすることが可能となる。二酸化炭素の放出時の温度を低くすることは、再生加熱器の負荷を低減させ、昇温に必要なエネルギーの低減もでき、省エネルギーでの分離回収が可能となる。また、熱交換又はヒートポンプによって未利用の廃熱を利用することも可能となる。ただし、吸収時の温度よりも高くしなければならないため、好ましい放出時の二酸化炭素吸収材の加熱温度としては、60.0℃以上100.0℃以下である。さらにより好ましい範囲としては、65.0℃以上95.0℃以下である。
【0050】
二酸化炭素を含有するガスとしては、特に限定はなく、様々な濃度、圧力、温度条件のガスに適用できる。特に省エネルギーでの分離を求められるものとして、火力発電所排ガス、鉄鋼所排ガス、セメント工場排ガス、化学プラント排ガス、バイオ発酵ガス、天然ガス等が挙げられる。これらのガスの内、二酸化炭素以外の酸性ガスを成分として含有するものにおいては、公知の脱硫及び/又は脱硝工程を組み合わせることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は実施例により制限されるものではない。
【0052】
<ポリマーの製造例1>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−05)40.0gを仕込みオイルバスにて35℃に昇温した。次に、プロピレンオキサイド9.0gとエタノール20.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後3時間攪拌しながら反応させた。さらに、50℃に昇温し3時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー1を得た。得られたアミンポリマー1の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して100モル%の変性を確認した。
【0053】
<ポリマーの製造例2>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−05)40.0gを仕込みオイルバスにて60℃に昇温した。次に、1,2−エポキシブタン8.1gとエタノール20.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後6時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー2を得た。得られたアミンポリマー2の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して72モル%の変性を確認した。
【0054】
<ポリマーの製造例3>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−05)40.0gを仕込みオイルバスにて60℃に昇温した。次に、1,2−エポキシブタン4.0gとエタノール10.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後6時間攪拌しながら反応させた。この際、ごく一部を抜き取り、減圧下、50℃で乾燥したものを用いて全有機炭素TOC及び全窒素TN測定を行なった。C/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して38モル%の変性を確認した。次に、オイルバスにて35℃にした後に、プロピレンオキサイド4.9gとエタノール10.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後3時間攪拌しながら反応させた。さらに、50℃に昇温し3時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー3を得た。得られたアミンポリマー3の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリマーのアミノ基100モルに対して58モル%(合計で96モル%)の変性を確認した。
【0055】
<ポリマーの製造例4>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−05)40.0gを仕込みオイルバスにて60℃に昇温した。次に、1,2−エポキシブタン5.1gとエタノール10.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後6時間攪拌しながら反応させた。この際、ごく一部を抜き取り、減圧下、50℃で乾燥したものを用いて全有機炭素TOC及び全窒素TN測定を行なった。C/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して47モル%のアルキル変性を確認した。次に、オイルバスにて35℃にした後に、プロピレンオキサイド6.1gとエタノール10.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後3時間攪拌しながら反応させた。さらに、50℃に昇温し3時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー4を得た。得られたアミンポリマー4の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリマーのアミノ基100モルに対して69モル%(合計で116モル%)のアルキル変性を確認した。
【0056】
<ポリマーの製造例5>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−05)40.0gを仕込みオイルバスにて35℃に昇温した。次に、プロピレンオキサイド16.3gとエタノール20.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後3時間攪拌しながら反応させた。さらに、50℃に昇温し3時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー5を得た。得られたアミンポリマー5の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して171モル%の変性を確認した。
【0057】
<ポリマーの製造例6>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−03)40.0gを仕込みオイルバスにて60℃に昇温した。次に、1,2−エポキシブタン11.1gとエタノール20.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後6時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水、エタノールを留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー6を得た。得られたアミンポリマー6の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して100モル%の変性を確認した。
【0058】
得られたアミンポリマー1〜6の前記繰り返し単位の構造と、全窒素TN測定より算出されるアミン含有量(mmol/g)と、水中での親水性−疎水性の転移温度を表1に示す。
【0059】
尚、全有機炭素TOC及び全窒素TN測定は以下の装置にて行なった。
全有機炭素計:TOC−VCP及びTNユニットTNM−1(島津製作所製)
測定は、ポリマーを水で溶解して行なった。室温で溶解しないものは1N塩酸水溶液を添加して溶解させた。変性率は反応前後の C/Nの差から求め、アミン含有量はNの値から求めた。
【0060】
尚、親水性−疎水性の転移温度は、水溶液又は吸収材を4℃から96℃へと1℃/分で昇温させる際に、ポリマーの析出が発生する温度とした。同時に、pHを測定し、析出と同時にpHが下がり始めることを確認した。
【0061】
【表1】

【0062】
<吸収材の調製>
作成したアミンポリマー1乃至6と水又は溶媒を表2の配合で混合溶解させ、二酸化炭素吸収材1乃至7を得た。また、比較用の吸収材として吸収材8乃至11を調製した。吸収材中のアミン含有量及び吸収材中でのポリマーの転移温度も合わせて表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
<略語の説明>
BD:1,4−ブタンジオール
MEA:モノエタノールアミン
EAE:2−エチルアミノエタノール
AMP:2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール
PAA:ポリアリルアミン(日東紡績社製 PAA−05)
【0065】
<二酸化炭素吸収材の評価方法>
図2に示す装置を作成した。この装置はポンプにより二酸化炭素を含有するガスを密閉系で循環させながら、吸収材の入ったガス洗浄瓶を通気させることにより二酸化炭素を吸収させ、ガス中の二酸化炭素濃度から吸収量を測定する装置である。評価方法は、まず、25と26のバルブを閉じ、27のバルブを開けた状態で、ポンプ211により1.5L/分の流量でガスを循環させながら、二酸化炭素ボンベ21より供給されるガス用シリンジ22にて二酸化炭素500mlを仕込み、さらに二酸化炭素濃度が17体積%となるように空気を仕込んで調整する。二酸化炭素吸収材をガス洗浄瓶214に仕込み、内温が任意の温度になるようにオイルバス213により恒温する。次に25と26のバルブを空け、27のバルブを閉め、二酸化炭素含有ガスをガス洗浄瓶214の方へ循環させ、二酸化炭素が吸収材により吸収される量を二酸化炭素濃度計29にてモニタリングする。吸収性能を評価後、オイルバスの温度を上げ、同様に吸収量を測定し、吸収量の減少分を放出量として評価する。二酸化炭素の吸収量は二酸化炭素濃度と初期の装置内容積から計算される空気量2.85Lとから計算する。初期の装置内容積は、吸収材を入れずに同様の操作を行い、二酸化炭素濃度から計算した。尚、室内は常圧・常温であった。
【0066】
各吸収材と吸収温度及び放出温度での吸収量と放出量を表3に示す。尚、二酸化炭素の吸収は30分間行い、二酸化炭素の放出は昇温後20分間行なった。吸収量と放出量はアミン100モルに対する二酸化炭素のモル%で示す。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例1乃至4と比較例1乃至3を比較すると、本発明の吸収材1乃至4は30℃での吸収量は低いにもかかわらず、70℃での放出量が多いことが分かる。即ち、70℃という比較的低温での二酸化炭素の放出性能が高い吸収材であるといえる。また、比較例4の変性していないポリアリルアミンでは、吸収量は高いものの放出量が非常に低く、ポリマーにおける構造の相違が放出量に非常に大きく影響していることが分かる。実施例5では、実施例1と比べて吸収性能が落ちているが、低温での二酸化炭素の放出性能は向上していることが確認される。実施例6では比較例5のモノエタノールアミン水溶液に比べ同程度の吸収量があり、78℃での放出量では顕著な差が見られた。実施例7では、アミンポリマー6が30℃では水に不溶で析出していたが、二酸化炭素の吸収に伴い溶解し、吸収過程で水和することが確認された。実施例6及び7では、放出温度まで昇温する過程で析出することが確認され、二酸化炭素を吸収した状態で相転移(脱水和)を起こすことが確認された。実施例8では、1,4−ブタンジオールの添加によって、ポリマーの析出は見られなかったが、70℃での二酸化炭素の放出性能は優れたものであった。以上の結果から、本発明の吸収材は比較的低温での放出性能に優れ、100℃未満での分離回収が可能なものであることが確認された。尚、本発明で用いたアミンポリマーは揮発性がなく、150℃以下では熱分解しないことを確認している。
【0069】
実施例用吸収材1及び4と、比較例用吸収材8及び11について、以下の方法で二酸化炭素との反応熱の測定を行った。
【0070】
<二酸化炭素吸収材の反応熱の評価方法>
反応熱の測定はリアクションカロリーメーターC−80(SETARAM社製)を用いて行った。セルとしてはガス循環常圧(Gas circulation normal pressure)タイプ(ステンレス鋼(Stainless steel) 31/1415)を使用し、セルのガス入口及び出口に図3のように機器を接続した。測定方法は、各吸収材4gをセルに入れ、C−80にセットした。温度を30℃に調節し、安定させた。ボールバルブ34を閉じ、二酸化炭素ボンベ31から供給される二酸化炭素をガス用シリンジ32にて二酸化炭素100mlを注入し、ボールバルブ34を空けた。C−80によって、発熱量を計測しながら、圧力計35により内圧の減少により吸収量を計測した。発熱量及び吸収量は、予め試料を入れずに測定した圧縮熱及び内圧の検量線を用いて算出した。反応熱は、二酸化炭素の吸収量がアミン100モルに対して25モル%に達した値を吸収した二酸化炭素1モル当りに換算し、平均反応熱量を算出した。
【0071】
反応熱測定の結果、実施例に使用した吸収材1では76.5kJ/モルCO、そして吸収材4では72.0kJ/モルCOであった。一方、比較例に使用した吸収材8では、89.1kJ/モルCOであり、吸収材11では91.4kJ/モルCOであった。この結果から、本発明の二酸化炭素吸収用ポリマー及び吸収材は反応熱が低いことが確認できた。
【0072】
本発明の実施例に用いたアミンポリマー1〜6、及び原料に用いたポリアリルアミンPAA−03及びPAA−05の重量平均分子量(Mw)を測定した結果を表4に示す。尚、重量平均分子量(Mw)は、前記した方法によりGPCで測定し、ポリエチレングリコール換算の値で示す。
【0073】
【表4】

【0074】
<その他の実施例用ポリマーの製造例>
攪拌機、コンデンサー、温度計を付した反応容器に、ポリアリルアミン20質量%水溶液(日東紡績社製 PAA−03)25.0gを仕込みオイルバスにて40℃に昇温した。次に、パラホルムアルデヒド1.6gと水20.0gとを混合し、前記反応容器に攪拌しながら20分間かけて滴下し、滴下終了後6時間攪拌しながら反応させた。その後、蒸留を行なって水を留去して、減圧下、50℃で乾燥し、アミンポリマー7を得た。得られたアミンポリマー7の全有機炭素TOC及び全窒素TN測定より求められるC/Nの値から、ポリアリルアミンのアミノ基100モルに対して60.5モル%のメチロール変性を確認した。即ち、CHOHが付加した第二級アミン60.5モル%と第一級アミン39.5モル%で構成されたアミンポリマーが得られた。
【0075】
得られたアミンポリマー7を30質量%の割合で水と混合させたところ、溶解しなかった。得られたアミンポリマー7と水との混合物を前記した二酸化炭素吸収材の評価方法により、吸収温度30℃、放出温度88℃において二酸化炭素の吸収放出性能を評価した。その結果、30℃での吸収量は18.3モル%であった。また、88℃での放出量は2.9モル%であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させた後、再度放出させて分離するための二酸化炭素吸収材を提供することができ、さらに詳しくは、省エネルギーで安定に分離するための二酸化炭素吸収材を提供することができる。また、燃焼排ガスのような二酸化炭素を含有するガスからの二酸化炭素の分離方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
11 吸収塔
12、112 ノズル
13、111 下部充填部
14 排ガス供給口
15、17 吸収液循環ポンプ
16 冷却器
18 熱交換器
19 脱二酸化炭素排ガス排出口
110 再生加熱器
113 還流水ポンプ
114 気液分離器
115 回収二酸化炭素排出ライン
116 再生塔還流冷却器
117 吸収液再生塔
21 ボンベ
22 ガス用シリンジ
23 三方バルブ
24 逆止弁
25、26、27 ボールバルブ
28 テドラーバッグ
29 赤外線式二酸化炭素濃度計
210 ステンレス鋼(SUS)配管
211 ガス循環ポンプ
212 ガス流量計
213 温浴
214 ムエンケ式ガス洗浄瓶(ガラス製、250ml)
215 ガラス容器
216 コンデンサー
31 ボンベ
32 ガス用シリンジ
33 三方バルブ
34 ボールバルブ
35 圧力計
36 ねじ口瓶(250ml)
37 SUS配管(φ6mm)
38 C−80セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般構造式(I):
【化1】

{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR及びRの置換基は、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基である。}
で表される構造を有する繰り返し単位を有する二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項2】
前記繰り返し単位が、下記一般構造式(II):
【化2】

{式中、R、R及びRは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、そしてR、R、R及びRの置換基は、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基又はメトキシカルボニル基であることができる。}
で表される構造を有する、請求項1に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項3】
前記繰り返し単位が、下記一般構造式(III):
【化3】

{式中、Xは、上記一般構造式(I)又は(II)であり、nは、1〜10,000の整数である。}
で表される、請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項4】
水の存在下における親水性−疎水性の転移温度が4.0℃以上96.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項5】
水の存在下で前記ポリマーを構成するアミノ基に対して2.0モル%以上30.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収させた状態における前記ポリマーの親水性−疎水性の転移温度が10.0℃以上50.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項6】
水の存在下で前記ポリマーを構成するアミノ基に対して40.0モル%以上90.0モル%以下のいずれかの量の二酸化炭素を吸収させた状態における前記ポリマーの親水性−疎水性の転移温度が40.0℃以上95.0℃以下の範囲にある親水−疎水可逆性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項7】
0.5M酢酸水溶液可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出した重量平均分子量Mwが、1,500以上200,000以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー。
【請求項8】
二酸化炭素吸収材の全質量を基準として、15.0質量%以上90.0質量%以下の請求項1〜7のいずれか一項に記載の二酸化炭素吸収用ポリマー、及び10.0質量%以上85.0質量%以下の水を含有する、二酸化炭素吸収材。
【請求項9】
請求項8に記載の二酸化炭素吸収材に、二酸化炭素を含有するガスを接触させることにより二酸化炭素を吸収させ、その後に、該吸収材を加熱することにより二酸化炭素を分離回収する工程を含む、二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項10】
前記吸収材を加熱する温度が、60.0℃以上100.0℃以下である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−30222(P2012−30222A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145577(P2011−145577)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】