説明

二酸化炭素固定化方法

【課題】CO2の漏洩や、環境への影響に関する問題がなく、低コストで二酸化炭素を固定化する新たな方法を提供する。
【解決手段】石炭をガス化する石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグに二酸化炭素を固定する。フラックスは、CaOを5質量%以上50質量%以下、MgOを0.5質量%以上20質量%以下、Fe23を1.0質量%以上15質量%以下含有し、スラグは、CaOを10質量%以上65質量%以下、MgOを1.0質量%以上30質量%以下、Fe23を2.0質量%以上25質量%以下含有するものとすることができ、スラグは、二酸化炭素を5質量%以上30質量%以下固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定化方法に関し、特に、固体に二酸化炭素を化学的に吸収させて固定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO2)は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つであり、大気中の二酸化炭素濃度を下げるため種々の方法が提案されている。例えば、気体として大気中に放出されたCO2、又は放出される直前のCO2を地中や水中等に封じ込める二酸化炭素の貯留もその一つに挙げられる。
【0003】
また、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグに含まれる未炭酸化Caを利用してCO2含有ガス中のCO2濃度を低減する方法(特許文献1、2参照)、石綿又は石綿含有蛇紋岩を焼成して二酸化炭素固定化材を得る方法(特許文献3)、未焼成カンラン岩を主成分とする汚染物質処理剤により空気中のCO2を吸収する方法(特許文献4)等の化学的吸収法も提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−137543号公報
【特許文献2】特開2001−252525号公報
【特許文献3】特開2008−19099号公報
【特許文献4】特開2007−283279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、二酸化炭素の貯留については、技術的、コスト的な問題に加え、地殻変動等によって貯留層からCO2が漏洩する虞や、海洋環境等へ悪影響を与える虞があるという問題があった。
【0006】
また、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグに含まれる未炭酸化Caを利用する方法については、CO2の低減量は、鉄鋼製造プロセスでのスラグの発生量に依存し、蛇紋岩やカンラン岩等を利用する方法についても、これらの岩石の採掘や、ボーリングコストの費用が掛かるなどの問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、CO2の漏洩や、環境への影響に関する問題がなく、低コストで二酸化炭素を固定化する新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、従来の微粉炭燃焼による火力発電より発電効率が高く、CO2排出量が少ないため、今後微粉炭燃焼からの転換が予定されている石炭ガス化複合発電等に用いられる石炭ガス化技術に着目し、石炭ガス化炉へのフラックスの添加により生成したスラグに二酸化炭素を固定することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、二酸化炭素固定化方法であって、石炭をガス化する石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグに二酸化炭素を固定することを特徴とする。
【0010】
このフラックスとして、CaOを5質量%以上50質量%以下、MgOを0.5質量%以上20質量%以下、Fe23を1.0質量%以上15質量%以下含有するものを用いることで、生成したスラグに二酸化炭素をより多く固定することができる。
【0011】
また、上記フラックスを添加して、スラグを、CaOを10質量%以上65質量%以下、MgOを1.0質量%以上30質量%以下、Fe23を2.0質量%以上25質量%以下含有するものとすることで、該スラグに二酸化炭素をより多く固定することができる。
【0012】
以上のようにして、前記スラグに、二酸化炭素を5質量%以上30質量%以下固定することができる。
【0013】
また、上述のようにして生成されたスラグをコンクリート用骨材、地下空洞の充填材、裏込材又は埋め戻し材として利用することができる。但し、スラグをコンクリート用骨材として利用する場合には、コンクリートの中性化を防止するため、コンクリート中の遊離石灰の量を5質量%以下になるように調整する。
【0014】
さらに、前記スラグを骨材としてコンクリートを製造し、該コンクリートを藻礁、魚礁、海底山脈又は消波ブロックとして利用することができる。特に、上記コンクリートを藻礁として使用することで、藻礁に成長した海藻によって二酸化炭素を吸収し、さらに二酸化炭素吸収量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、CO2の漏洩や、環境への影響に関する問題がなく、低コストで二酸化炭素を固定化する新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上述のように、本発明は、二酸化炭素固定化方法であって、石炭をガス化する石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグに二酸化炭素を固定することを特徴とする。
【0017】
上記石炭ガス化炉は、石炭ガス化複合発電設備等に用いられるものであって、図1に示すように、石炭ガス化炉に、石炭と、ガス化剤と、フラックスを供給し、高圧下で燃焼させ、生成ガスと蒸気を得るものであって、その際に溶融スラグが排出される。石炭ガス化複合発電設備では、前記生成ガスでガスタービンを回転させて発電するとともに、蒸気で蒸気タービンを回転させて発電を行う。ここで、ガス化剤に酸素を用いるのが酸素吹きガス化発電であり、ガス化剤に空気を用いるのが空気吹きガス化発電である。
【0018】
上記石炭ガス化炉では、炉内に投入するガス化剤空気の量を少なくし、空気比を下げた運転を行うことにより生成ガス発熱量が高くなるなどガス化性能が高くなる。しかし、噴流床方式石炭ガス化炉では、石炭中の灰分を溶融スラグとして排出させるため、炉内の温度を灰の融点以上になるように運転し、灰融点の高い石炭(高灰融点炭)をガス化する場合には、炉内温度を高温に保つためにガス化剤空気の投入量を増加させて高空気比で運転する。その結果、高灰融点炭では、ガス化性能が低下する。
【0019】
そこで、高灰融点炭の灰融点を降下させ、低空気比運転を可能としてガス化性能を高く維持するため、フラックスを炉内に添加する。すなわち、フラックスは、高灰融点炭の灰融点を下げるために添加されるものであって、CaO、MgO、Fe23、Na2O、K2O等の塩基性成分を多く含有する。
【0020】
上述のように石炭ガス化炉で生成したスラグは、石炭ガス化炉内で1200℃程度となっているが、その後冷却されて800℃程度となり、石炭ガス化炉から排出されて水冷されてガラス状となる。このスラグの性状は、使用する石炭、添加されるフラックスにより異なり、種々の化学組成、結晶状態を呈する。
【0021】
本発明者らは、このようにして生成されたスラグの化学組成、結晶状態より、該スラグにCO2を固定することができる可能性があるものと考え、種々試験を行ったところ、該スラグにCO2を固定することができることを確認した。
【0022】
表1に示すように、3種類のガス化スラグと、鉄鋼スラグと、台湾蛇紋岩と、アリゾナカンラン岩を用意し、各々を75μmに粉砕し、φ15mmの型に入れて20kg/m3で成型したものをコンクリートの中性化促進試験装置を用い、28日経過後にCO2の増加率を測定したところ、表1に示すような結果となった。尚、CO2増加率は、試験前後のサンプルの重量の差を試験前のサンプルの重量で除して算出した。
【0023】
【表1】

【0024】
No1〜3の3種類のガス化スラグについては、No1のガス化スラグAのみが高いCO2増加率を示すが、No2、No3のガス化スラグについては、ほとんどCO2が増加することはなかった。この点より、CaO含有率がCO2増加率に大きく影響しているものと推測できる。また、No3の鉄鋼スラグは、CO2増加率が10%と高いが、これは、鉄鋼スラグのCaO含有率が42.9質量%と高く、さらにその略々半分が遊離石灰であることが理由であると推測される。さらに、No4、No5の台湾蛇紋岩、アリゾナカンラン岩について見ると、アリゾナカンラン岩が高いCO2増加率を示している。アリゾナカンラン岩は、MgO及びFe23含有率が高いことから、これらがCO2増加率の上昇に寄与しているものと推測される。
【0025】
以上のように、ガス化スラグについて、その化学組成等を適切なものとすることにより、CO2の固定化が可能となるものと推測されるが、特に、ガス化スラグに含まれるCaO、 MgO及びFe23含有率を調整することで、CO2の固定化可能量を上昇させることができる。ガス化スラグのこれらの化学組成は、ガス化の対象となる石炭の種類、添加するフラックスの種類等によって変化することから、石炭の種類に応じて適切なフラックスを選択する必要がある。
【0026】
従って、ガス化スラグの対象となる石炭の種類にもよるが、石炭ガス化炉に添加するフラックスは、CaOを5質量%以上50質量%以下、MgOを0.5質量%以上20質量%以下、Fe23を1.0質量%以上15質量%以下含有するものが好ましい。このようなフラックスを用いることで、石炭ガス化炉に投入される種々の石炭に対応することができ、得られたガス化スラグのCO2の固定化可能量を大きくすることができいる。
【0027】
また、生成されるガス化スラグについても、ガス化スラグの対象となる石炭の種類、及び添加するフラックスの化学組成等にもよるが、CaOを10質量%以上65質量%以下、MgOを1.0質量%以上30質量%以下、Fe23を2.0質量%以上25質量%以下含有するものが好ましい。このようなガス化スラグであれば、CO2を5質量%以上30質量%以下固定することが可能となる。
【0028】
次に、上記ガス化スラグの利用方法の一例について説明する。図2に示すように、ガス化スラグを2〜5mm程度に粉砕し、コンクリート用の骨材を製造し、この骨材を用いてコンクリートを製造する。このコンクリートは、通常のコンクリートと同様の用途に用いることができる。特に、このコンクリートを用いて藻礁を製造し、海中に沈めて海藻を生やすと、海藻によって二酸化炭素を吸収することができ、さらに二酸化炭素吸収量を増加させることができる。
【0029】
また、前記ガス化スラグを、石炭等を採掘した後の廃坑、採石場跡等の地下空洞に充填材として用いることもできる。これにより、ガス化スラグを二酸化炭素の固定と、充填材としての利用の両方に用いることができる。現在、国家間で廃棄物を移動させることは条約で禁じられているが、上記ガス化スラグであれば、二酸化炭素の固定及び充填材として使用することができるため、国家間での移動も可能となり、石炭ガス化に用いた石炭を提供した国の石炭の廃坑に戻して充填材として用いることも可能となる。
【0030】
以上のように、本発明では、スラグにCO2を化学的に吸収させて固定化するため、CO2の漏洩や、環境への影響に関する問題は発生しない。また、本発明では、石炭ガス化炉にフラックスを添加して生成したスラグにCO2を固定するが、このフラックスは、本来高灰融点炭の灰融点を下げるために添加されるものである。従って、生成したスラグのCO2を固定可能量を増加させる目的でフラックスの性状を調整する必要があるものの、CO2の固定そのものに要するコストは極めて低い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかる二酸化炭素固定化方法を説明するための概略図である。
【図2】本発明にかかる二酸化炭素固定化方法を説明するための概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭をガス化する石炭ガス化炉にフラックスを添加し、該フラックスの添加により生成したスラグに二酸化炭素を固定することを特徴とする二酸化炭素固定化方法。
【請求項2】
前記フラックスは、CaOを5質量%以上50質量%以下、MgOを0.5質量%以上20質量%以下、Fe23を1.0質量%以上15質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項3】
前記スラグは、CaOを10質量%以上65質量%以下、MgOを1.0質量%以上30質量%以下、Fe23を2.0質量%以上25質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項4】
前記スラグは、二酸化炭素を5質量%以上30質量%以下固定することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項5】
前記スラグをコンクリート用骨材、地下空洞の充填材、裏込材又は埋め戻し材として利用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項6】
前記スラグを骨材としてコンクリートを製造し、該コンクリートを藻礁、魚礁、海底山脈又は消波ブロックとして利用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の二酸化炭素固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70392(P2010−70392A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236451(P2008−236451)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】