説明

二重反転回転翼機

【課題】大きな前進推力で水平方向に移動することができ、しかも、前進飛行する場合の飛行安定性が優れた二重反転回転翼機を提供する。
【解決手段】上方と下方とが開口し側方が全周にわたってダクト21で囲われた機体本体11と、機体本体から上方に延びる主回転軸27に沿って同軸上に支持され、主回転軸の回りを互いに反対方向に回転する上部メインロータ22および下部メインロータ23を備えた二重反転回転翼機10であって、機尾側ダクト21aから後方に向けて延設される垂直尾翼41と、垂直尾翼の上端に取り付けられ、上方に延びる副回転軸により支持されるピッチングプロペラ42と、垂直尾翼の左右両側の側面に取り付けられる傾斜尾翼44とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に沿って同軸上に配設され、互いに反対方向に回転する上下2つのメインロータで飛行する二重反転回転翼機に関し、さらに詳細には、風の影響を受ける環境でも安定して飛行させることができる無人用の小型二重反転回転翼機に関する。
【背景技術】
【0002】
小型回転翼機は、固定翼機に比べて離着陸の際に広い面積を必要としない点やホバリング(空中停止)が可能である点等の優れた利点があり、ホビー用のラジコンヘリコプタのみならず、上空からの観測等を目的とした無人航空機(UAV(Unmanned Aerial Vehicle))として利用されている。
従来から利用されている小型回転翼機の基本構造としては、機体上部に設けた単一のメインロータと、メインロータの回転により発生する機体水平方向(ヨー方向)のトルクを打ち消し、機首の方向制御を行う垂直ロータとを有するシングルロータ型のヘリコプタが一般的である。
【0003】
シングルロータ型ヘリコプタは、メインロータおよび機尾の垂直ロータ(テールロータ)の制御が比較的容易であるという特徴を有しているが、飛翔中は常時、揚力の発生に寄与しない垂直ロータにエンジン出力の一部を供給しなければならない。また、垂直ロータが回転する範囲は、機体の比較的低い位置まで含まれることから、離着陸時に機体のバランスを崩して機尾が下がってしまうと、垂直ロータが地面や地上の物体に接触してしまう危険性がある。
【0004】
これに対し、基本構造が異なる小型回転翼機のひとつとして、互いに反対方向に回転する上部メインロータと下部メインロータとを、同軸上に配することにより、これら2つのメインロータの回転で強い揚力を発生するとともに、ヨー方向のトルクの相殺を同時に実現し、これにより垂直ロータを不要にした二重反転回転翼機が開発されている。二重反転回転翼機は、シングルロータ型と比べて、同一揚力を得るためのロータ直径を小さくすることができる。
【0005】
その一方で、二重反転回転翼機では、垂直ロータが存在しないことから、垂直ロータ以外で機首の方向制御を行わなければならない。そのため、例えば、上下のメインロータそれぞれにロータブレードのピッチ角調整機構(スワッシュプレート)を設け、上下2つのメインロータのブレードのピッチ角を同時に逆方向に変化させ、揚力の総和を一定に保ちながら水平方向のトルクのバランスを崩すことにより、方向制御を行うことが開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、二重反転回転翼を配したインドア用のヘリコプタにおいて、安定したホバリング性能、操縦の安全性を確保することを目的として、二重反転回転翼の上部メインロータに連動するスタビライザバーを備えたヘリコプタが開示されている(特許文献2参照)。すなわち、マスト(ロータ回転軸)に取り付けられた上部メインロータと、マストの上端にマストに対して傾動自在に取り付けられ、上部メインロータのブレード傾動機構に対してリンクロッドを介して適宜な交差角度をなすように連結され、上部メインロータと連動して回転するように取り付けられたスタビライザバーとを備えたものが開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
図7は、スタビライザバーによる姿勢安定化作用を説明する模式図である。機体が水平姿勢でホバリングしているとき、図7(a)に示すように、スタビライザバー101は、遠心力が働くことにより、回転面が水平になるように回転している。スタビライザバー101には、慣性モーメントが大きくなるようにバー両端に錘102が取り付けてあり、その結果、スタビライザバー101の回転面は、水平を維持しようとする傾向が強くなっている。何らかの理由で機体が傾斜すると、図7(b)に示すように、水平状態を維持しようとするスタビライザバー101の回転面に対し、上部メインロータ103(および下部メインロータ104)の回転面は機体とともに傾くようになるが、このときリンクロッド105が作動して上部メインロータ103を傾け、これによりスタビライザバー101と上部メインロータ103とが平行になるように戻そうとするサイクリックピッチが上部メインロータに入力されるようにしてある。すなわち、外部からの電気的な制御信号による積極的なコントロールを行わずに、スタビライザバーに働く遠心力によって、機械的に上部メインロータに対し、上部メインロータの回転面を水平に戻そうとする作用を生じさせるようにしている。
したがって、外的要因で機体が傾いた場合にスタビライザバー101は水平を保ち、スタビライザバー101に対して傾いた上部メインロータ103が機体の姿勢を水平に修正するような修正陀としての機能を発揮して、機体を水平姿勢に戻すような復元力が発生するようにしてある。
【0008】
また、上下2つの水平回転翼の下方に、2つの回転翼によって生じる下降流を受ける投影面積が調整自在の面積調整手段の制御によって、上昇、前進などの操作ができる遠隔操作の自在な無人小型飛翔体が開示されている(特許文献3参照)。
この発明では、さらに、2つの水平回転翼(メインロータ)の回転軸に対し、軸対称の筒を、水平回転翼(メインロータ)を覆うカバーとして備えるようにすることも開示されている。すなわち、二重反転式の水平回転翼を有した飛翔体に、水平回転翼の側面を覆うカバーを設けることで、従来のヘリコプタのように構造が複雑にならずに、安全に運転することが可能になることが開示されている。
【特許文献1】特開平1−101297号公報
【特許文献2】特許第3723820号公報
【特許文献3】特開平11−115896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二重反転回転翼を用いた構造の小型回転翼機は、様々な分野において潜在的な需要があるものの、これまで、あまり利用されることはなかった。その大きな理由は、風等の抵抗の影響を受ける環境では、安定かつ制御性のよい飛行を行うことが困難であったことによる。一般に、飛翔体は小型化するほど、風等による抵抗の影響を強く受け、所望の位置に移動したり、一定位置にホバリング(空中停止)したりするための制御をすることが困難になる。
【0010】
特に、小型二重反転回転翼機では、自重に対する上向き推力、風等の抵抗に対抗する推力、姿勢制御するためのモーメント発生の3つの役割を二重反転回転翼が担わなければならない。しかしながら、二重反転回転翼機の構造上、二重反転回転翼の回転により生じる推力は、水平方向に向かう推力に比べて垂直上方に向かう推力の比がはるかに大きい。二重反転回転翼に取付けられたブレードのピッチ角を制御し、いわゆるサイクルピッチを与えることで、水平方向の推力を発生させることができるが、サイクルピッチによって生じる推力だけでは、横風の抵抗に十分に打ち勝つことはできない。そのため、機体が風に流されてしまうこととなった。したがって、小型の二重反転回転翼機は、風の影響の少ないインドアでの利用等に制約されていた。
【0011】
また、これまでの二重反転回転翼機は、もともと大きな推力で前進飛行することがないため、前進飛行中の機体の姿勢を考慮して機体の安定化を図ることは特になされていなかった。
例えば、特許文献2では、スタビライザバーによる姿勢安定化がなされているが、これは機体が傾斜したときに水平に戻すための安定化であり、前進飛行中の機体の姿勢に対する安定を目的とするものではなく、むしろホバリング状態で最適な姿勢安定性を得ることを目的としたものである。
【0012】
そこで、本発明は二重反転回転翼機であっても、これまでのものに比べて十分に大きな前進推力で水平方向に移動することができ、風の影響を受ける環境でも、風に流されることなく、風に対抗しつつ所望の方向や位置に飛行することができ、しかも、前進飛行する場合の飛行安定性が優れた二重反転回転翼機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明の二重反転回転翼機は、上方と下方とが開口し側方が全周にわたってダクトで囲われた機体本体と、機体本体から上方に延びる主回転軸に沿って同軸上に支持され、主回転軸の回りを互いに反対方向に回転する上部メインロータおよび下部メインロータを備えた二重反転回転翼機であって、機尾側ダクトから後方に向けて延設される垂直尾翼と、垂直尾翼の上端に取り付けられ、上方に延びる副回転軸により支持されるピッチングプロペラと、垂直尾翼の左右両側の側面に取り付けられる傾斜尾翼とを備えるようにしている。
【0014】
ここで、機体本体の側方を全周にわたって覆うダクトは、上部メインロータおよび下部メインロータ(以下、これら2つを合わせて二重反転ロータともいう)が回転するときに、二重反転ロータに対してダクトが接触しないように取り付けてあればよい。具体的には、二重反転ロータの下部メインロータ、あるいは、上下2つのメインロータがダクト内に収納されるように配置する場合は、ダクト内径がロータの回転半径より大きくなるように構成される。また、上下2つのメインロータがダクトより上側に配置する場合は、ダクト径と同じかダクト径より大きくしてもよい。
【0015】
本発明によれば、ピッチングプロペラの回転により、機尾を上げ、機首を下げるピッチングモーメント(頭下げモーメント)を発生させる。これにより、機体は前方に傾斜するようになり、上下2つのメインロータ(二重反転ロータともいう)による上向き推力(揚力)は、その一部が、水平方向の推力となる。この水平方向の推力により、機体は大きな推力で前進飛行する。前進飛行中は、機尾側ダクトから後方に向けて延設される垂直尾翼により、前進飛行中のロール方向の安定化が図られ、まっすぐに飛行するのを助ける。
【0016】
一方、垂直尾翼の左右両側の側面には傾斜尾翼が取り付けてあり、傾斜尾翼は所定の前傾姿勢で機体が飛行するときに、水平面となるように取り付けてある。ここでいう所定の前傾姿勢とは、飛行中の基準姿勢として設定した前傾姿勢であり、原則として、この前傾姿勢で前進飛行を行うようにしている。傾斜尾翼の翼面が水平になるようにして飛行することにより、機体のピッチ方向の安定化が図られ、まっすぐに飛行するのを助ける。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二重反転回転翼による大きな推力の一部を直接利用して、水平方向の推力としているので、これまでの二重反転回転翼機に比べて、十分に大きな前進推力で水平方向に機体を移動することができ、前進飛行中に垂直尾翼と傾斜尾翼とが、ピッチ方向およびロール方向の安定化作用を奏することにより、ダクトの存在で風の抵抗を受けやすい機体構造であっても安定した飛行を行うことができる。
【0018】
(他の課題を解決するための手段および効果)
上記発明において、傾斜尾翼の取付け角が水平面に対し−30度〜−60度であり、機体が飛行するときに傾斜尾翼が水平状態になるようにピッチングプロペラの回転速度が設定されるようにしてもよい。
前傾姿勢が水平面に対し−30度〜−60度とすることにより、飛翔するための上向き推力と前進するための水平方向の推力とがバランスよく配分できるので、安定に前進飛行させることができる。
【0019】
上記発明において、傾斜尾翼は、水平面に対する角度を調整する傾斜角度調整機構を備え、機体の傾斜角度に応じて、傾斜尾翼の角度が調整されるようにしてもよい。
本発明によれば、機体の前傾角度に応じて、傾斜角度調整機構が角度調整し、飛行中の傾斜尾翼が水平になるように制御する。これにより、前傾角度によらず、安定した飛行を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施例は、一例にすぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変形実施することが可能である。
【0021】
(機体構造)
図1は、本発明の一実施形態である小型二重反転回転翼機の機体構造を示す斜視図であり、図2はその正面図(説明の便宜上、ダクトの一部を破断して示す)である。
この小型二重反転回転翼機10は、主に、制御機器、駆動機構を搭載しダクト21で囲まれた機体本体11と、機体本体11の上方に配置され、上部メインロータ22、下部メインロータ23、スタビライザバー24を有する回転翼機構12と、機体本体11の機尾側ダクト21aの後方に配設される垂直尾翼41およびピッチングプロペラ42を有する後部機構13とから構成される。
【0022】
機体本体11は円筒状のダクト21で側面全周が囲まれるとともに、機体本体11の上面と下面とが開口になっている。このダクト21は、できるだけ機体重量を軽くするために、例えば薄い肉厚の発泡スチロールを使用している。ダクト21の外径は、上下2つのメインロータの回転半径とほぼ等しい大きさにしてあり、機体の占有面積に対する推力比が、できるだけ大きくなるようにしてある。ダクト21は、二重反転回転翼機構12により発生した下降流を整流して、上向き推力(揚力)を制御しやすくするとともに、離着陸の際に二重反転回転翼機構12が人体や地上の物体と接触するのを防ぐ役割を果たす。さらに、ダクト21はこれら以外に、スタビライザバー24による姿勢制御作用に関係して、重要な役割を果たすが、これについては後述する。
【0023】
機体本体11中心(ダクト21の中心軸線上)には、内軸25および外軸26からなる同軸形状の主回転軸27が、フレーム14および図示しない軸受けによって回転可能に支持されている。
【0024】
内軸25は、その下端側で、ダクト21内に取り付けられたモータ28からの回転動力がギヤ29を介して伝達されるようにしてある。内軸25の上端より少し下側では、上部メインロータ22の一対のブレード22aが、ブレード傾動機構22bを介して軸支されるようにしてあり、モータ28の駆動により、一方向(正方向とする)の回転が行われるようにしてある。また、内軸25の上端には、スタビライザバー24が傾動自在に軸支されている。このスタビライザバー24の両端には、錘が取り付けてあり、これによりスタビライザバー24の慣性モーメントが大きくなるようにしてある。
【0025】
スタビライザバー24と上部メインロータ22のブレード傾動機構22bとは、リンクロッド31で連結してある。このリンクロッド31は、姿勢制御作用を奏するためのものであり、スタビライザバー24と上部メインロータ22とが適宜な交差角度を保つようにして回転するようにしてある。ここでいう適宜な交差角度は、機体本体11の径、上部メインロータ22の長さ、スタビライザバー24の錘の重量等との関係で定められるものであり、実測により最適な値に設定されるが、機能的には、ホバリング状態(空中停止状態)で機体に外力が作用し、機体が傾斜したときに機体の姿勢が水平に復元するようなサイクリックピッチが入力されて復元力が生じるような交差角度である。
【0026】
ここで、姿勢制御作用について説明する。スタビライザバー24および上部メインロータ22は、ピッチングプロペラ42と、ダクト21との組み合わせによる姿勢制御により、機体を進行方向に傾斜させた状態で姿勢安定効果が発揮されるようにしてある。すなわち、図5に示すように、前進飛行時に、ダクト21の円筒面に風の抵抗力Nが作用することにより生じる機体重心G周りの頭下げモーメントM1およびピッチングプロペラ42による頭下げモーメントM3と、スタビライザバー24、リンクロッド31、上部メインロータ22による機体を水平姿勢に戻そうとする重心G周りの復元モーメントM2の作用とがバランスすることにより、機体が傾斜した状態で安定に前進飛行できるようになっている。
【0027】
外軸26は、その下端側で、ダクト21内に取り付けられたモータ32からの回転動力がギヤ33を介して伝達されるようにしてある。外軸26の上端では、下部メインロータ23の一対のブレード23aがブレード傾動機構23bを介して軸支されるようにしてあり、モータ32の駆動により上部メインロータ22とは反対方向(逆方向とする)の回転が行われるようにしてある。
【0028】
また、機体本体11内(ダクト21内)には、下部メインロータ23のブレード23aに、機体の移動方向制御のためのサイクリックピッチを入力するための2つのサーボモータ34、35が設けられている。下部メインロータ23に与えるサイクリックピッチは、これらのサーボモータによって動かされる図示しないロッドを介して入力される。なお、これら主回転軸27(内軸25、外軸26)、上部メインロータ22、下部メインロータ23、スタビライザバー24、リンクロッド31等を含む回転翼機構12のメカニカルな構成部分は、例えば、ヒロボー社製XRB機(ラジコンヘリコプタ)のものを利用することができる。
【0029】
さらに機体本体11には、上記以外に各種センサ、具体的には、気圧測定により機体高度を測定する高度計37、衛星からのGPS信号により位置情報を得るGPSセンサ38a(GPS受信機)、地磁気測定により機体の向きを測定する方位センサ38b、さらには、制御装置39、バッテリ40、および、操縦信号を受信するラジコン受信機46が取り付けられている。
【0030】
機体本体11の機尾側ダクト21aには、後方に向けて垂直尾翼41が固定してある。また、垂直尾翼41の上端には、上部メインロータ22および下部メインロータ23と接触しない位置で、これらと平行に回転する小さなピッチングプロペラ42および駆動モータ43が取り付けられている。このピッチングプロペラ42は、機体本体11に対して機尾側を持ち上げるピッチングモーメント(頭下げモーメント)を与えることにより、機体本体11を前方に傾斜させ、上部メインロータ22、下部メインロータ23による上向き推力の一部を、前進用の推力として利用できるようにしてある。
【0031】
また、垂直尾翼41の左右両側面には一対の傾斜尾翼44が取り付けられている。この傾斜尾翼44は、ピッチングプロペラ42の作動により、機尾側を持ち上げ、機首側を下げた前傾状態で機体が前進飛行するときに、傾斜尾翼44の翼面がほぼ水平状態になるように傾斜角を設定してある。なお、飛行中の機体の前傾状態は、ピッチングプロペラの回転速度に応じて変化するので、予め、基準となる前進飛行速度を設定し、そのときのピッチングプロペラの回転速度に応じて傾斜尾翼の取付け角度を設定する。
本実施例の機体では、2m/sの前進飛行速度での飛行を基準に設定し、このときの機体の前傾角度が水平面から45度前傾した状態になるので、傾斜尾翼は、傾斜角が−45度になるように取り付けてある。
なお、前進飛行速度を少し遅くするときは機体の前傾角を浅くし、前進飛行速度を少し速くするときは機体の前傾角を深くする。具体的には、30度〜60度の間で適当な角度に設定する。そして、取付け角もこれに合わせて−30度〜−60度の間で設定する。
【0032】
(制御系)
次に、小型二重反転回転翼機10の制御系について説明する。図3は、小型二重反転回転翼機10の制御系の構成、および、制御系を構成する各部の入出力制御信号を説明するための機能ブロック図である。また、図4は制御に用いる測定データや算出データの関係を説明する図である。
【0033】
制御系は、機体本体11内に搭載された制御装置39からの制御信号により誘導制御を行うマイコン制御系Aの他に、回転翼機構12のスタビライザバー24、リンクロッド31の働きによるメカニカルな連携動作により、機体の姿勢制御を行うメカニカル制御系Bを有している。
【0034】
図3に示すように、小型二重反転回転翼機10のマイコン制御系Aは、各種演算、処理を実行するマイコン(CPU)39aおよび必要な情報を記憶するメモリ39bからなる制御装置39と、高度計37と、GPSセンサ38aと、方位センサ38bと、操縦者が手動で(すなわちラジコン送信機47の操作で)機体を操縦するときに、操縦信号を受信するラジコン受信機46とにより構成される。一方、メカニカル制御系Bはスタビライザバー24と、リンクロッド31と、上部メインロータ22とにより構成され、さらにダクト21がメカニカル制御系Bに関係する。
【0035】
マイコン制御系Aのマイコン39aおよびメモリ39bが実行する処理や機能を機能ブロックごとに説明すると、メモリ39bは目標地点情報記憶部61を備え、マイコン39aは現在地点検出部51、水平変位算出部52、現在高度検出部53、垂直変位算出部54、ロータ制御部55とを備えている。
【0036】
目標地点情報記憶部61は、機体を到達させようとする目標地点Pの空間座標として、経度、緯度、高度からなる空間座標(X,Y,Z)を記憶する。このうち経度(X座標)と緯度(Y座標)とが空間座標の水平成分であり、高度(Z座標)が高度成分である。なお、この空間座標の設定は、図示しないパーソナルコンピュータと制御装置39とを接続してキーボードからの入力操作により行うことができるようにしてある。
【0037】
現在地点検出部51は、GPSセンサ38aにより受信したGPS信号により、現在、機体が存在する位置Q(現在地点Qという)の経度、緯度、高度からなる空間座標(x,y,z)を検出する。
水平変位算出部52は、目標地点Pの座標(X,Y,Z)の水平成分である(X,Y)と、現在地点Qの座標(x,y,z)の水平成分である(x,y)とに基づいて、機体を移動させようとする水平方向の目標方位(θ)および目標地点までの水平距離(L)を算出する演算を行う。
【0038】
現在高度検出部53は、高度計37により測定した高度信号により、現在、機体が存在する現在高度(z)を検出する。なお、現在高度は、GPSセンサ38aから得ることもできるが、精度や信頼性の観点からGPSセンサ38aとは別に設けた高度計37からの高度情報を用いる方がより好ましい。
垂直変位算出部54は、目標地点Pの座標(X,Y,Z)の高度成分である(Z)と、現在地点Qの座標(x,y,z)の高度成分である(z)とに基づいて、目標地点までの高度差(H)を算出する演算を行う。
【0039】
ロータ制御部55は、算出された水平方向の目標方位(θ)、目標地点までの水平距離(L)、目標地点までの高度差(H)のデータおよび方位センサで求めた現在の機首方位(ψ)に基づいて、高度コマンド、ヨー角コマンド、水平位置コマンド(前進速度コマンド)を生成し、さらに高度計37、GPSセンサ38a、方位センサ38bから時々刻々送られてくる信号を検出して、各コマンドを更新するフィードバック制御を行うことにより、上部メインロータ22の回転速度、下部メインロータ23の回転速度、ピッチングプロペラ42の回転速度、下部メインロータ23に入力するサイクリックピッチ(縦フラップのためのサイクリックピッチ)を適宜制御することにより、機体高度の制御、機体進行方向の制御、機体水平位置(風のないときは水平位置とともに機体前進速度)の制御を行う。
【0040】
以上が、マイコン制御系Aによる誘導制御であるが、スタビライザバー24によるメカニカル制御系Bを備えた機体では、機体の旋回に対する制御を追加的に実行するようにしている。
すなわち、前進飛行のためにピッチングプロペラ42が作動し、さらにダクト21が前方から風の抵抗を受けることにより、機体は水平状態から前傾状態になるので、メカニカル制御系Bが作用し、図6で説明したように、スタビライザバー24がリンクロッド31を介して上部メインロータ22にサイクリックピッチを入力するようになる。これにより機体の姿勢を、傾斜状態から水平状態に戻そうとする方向の復元モーメントが別途に働くようになる。その結果、マイコン制御系Aによる機体を傾斜させようとする作用と、メカニカル制御系Bによる水平状態に復元しようとする作用とが競合するようになり、これらがバランスして、機体を少し傾斜させた状態で前進飛行が行われることになる。
【0041】
ところで、メカニカル制御系Bを構成するスタビライザバー24とリンクロッド31と上部メインロータ22との関係は、既述のように、機体が傾斜したとき、これを水平状態に戻すような復元モーメントが生じるようにサイクリックピッチが入力されるようにしてあり、ホバリング状態(空中停止状態)のときに、水平に維持されるように設計されている。そのため、マイコン制御系Aとメカニカル制御系Bとが競合し、機体が傾斜した状態でバランスを保ちつつ前進飛行するときには、必ずしも安定した前進飛行を行わせるためのサイクリックピッチが、上部メインロータ22に与えられるようには設計されておらず、むしろ、不完全なサイクリックピッチが入力されるようになってしまっている。具体的には、傾斜状態での前進飛行時に、スタビライザバー24およびリンクロッド31が上部メインロータ22に入力されるサイクリックピッチは、前進飛行の推力の増加とともに、機体を一方向に旋回させる作用が増大するようになる。この旋回方向は、スタビライザバー24がリンクロッド31により連結されている上部メインロータ22の回転方向やリンクロッド31の取り付け方等の条件により、右旋回か左旋回かのいずれかに決定されるが、ここでは、便宜上、左旋回するものとする。
したがって、マイコン制御系Aのロータ制御部55は、上述した誘導制御に加えて、機体を傾斜させた状態で前進飛行する際に生じる左旋回を打ち消すために、下部メインロータ23に入力するサイクリックピッチ(横フラップのためのサイクリックピッチ)によりローリングモーメントの制御を行い、さらに、上部メインロータと下部メインロータとの回転速度を変化させてヨー方向のトルクを発生することによりヨーイングモーメントの制御を行うことにより、左旋回とバランスする右旋回を与える制御が付加されるようにしている。
【0042】
(飛行動作)
次に、小型二重反転回転翼機10の飛行動作について説明する。
予め目標地点Pの座標(X,Y,Z)を入力して、制御をスタートさせると、制御装置39により時々刻々発生する高度コマンド、ヨー角コマンド、水平位置コマンドにより、上部メインロータ22の回転速度、下部メインロータ23の回転速度、ピッチングプロペラ42の回転速度、下部メインロータ23に入力するサイクリックピッチ(縦フラップおよび横フラップのためのサイクリックピッチ)を制御することにより、機体の方向を目標地点Pに向けて飛行する。このとき、機体は約45度前傾しながら前進飛行する。これにより傾斜尾翼は、ほぼ水平状態になりながら飛行することになる。
このとき、傾斜尾翼44と垂直尾翼41との存在により、機体が前進飛行する際のピッチ方向、ロール方向安定性が改善されるようになる。
【0043】
(変形実施例)
上記実施形態では、傾斜尾翼は、垂直尾翼に固定されていたが、機体本体11内に機体の傾斜角を測定するセンサ(ジャイロセンサ)を設け、機体の前傾角度に応じて傾斜尾翼の角度が常に水平面と平行になるようにする傾斜角調整機構を備えるようにしてもよい。このようにすれば、機体の前傾姿勢に応じて、傾斜尾翼の角度を最適な値に維持することができ、機体の前傾角度によらず、安定な前進飛行を実現することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、無人用の二重反転回転翼機に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態である二重反転回転翼機の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態である二重反転回転翼機の構成を示す正面図(ダクトの一部を破断して中を示している)。
【図3】制御系の構成を示すブロック構成図、および、制御系を構成する各部で入出力される制御信号を説明するための機能ブロック図。
【図4】制御に必要な測定データや算出データの関係を説明する図。
【図5】スタビライザバーとダクトによる姿勢制御作用を説明する図。
【図6】スタビライザバーによる姿勢制御作用を説明する図。
【符号の説明】
【0046】
10: 小型二重反転回転翼機
11: 機体本体
12: 回転翼機構
13: 後部機構
21: ダクト
22: 上部メインロータ
23: 下部メインロータ
24: スタビライザバー
25: 内軸
26: 外軸
27: 主回転軸
31: リンクロッド
37: 高度計
38a: GPSセンサ
38b: 方位センサ
39: 制御装置
41: 垂直尾翼
42: ピッチングプロペラ
44: 傾斜尾翼
51: 現在地点検出部
52: 水平変位算出部
53: 現在高度検出部
54: 垂直変位算出部
55: ロータ制御部
61: 目標地点情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方と下方とが開口し側方が全周にわたってダクトで囲われた機体本体と、機体本体から上方に延びる主回転軸に沿って同軸上に支持され、主回転軸の回りを互いに反対方向に回転する上部メインロータおよび下部メインロータを備えた二重反転回転翼機であって、
機尾側ダクトから後方に向けて延設される垂直尾翼と、
垂直尾翼の上端に取り付けられ、上方に延びる副回転軸により支持されるピッチングプロペラと、
垂直尾翼の左右両側の側面に取り付けられる傾斜尾翼とを備えたことを特徴とする二重反転回転翼機。
【請求項2】
傾斜尾翼の取付け角が水平面に対し−30度〜−60度であり、機体が飛行するときに傾斜尾翼が水平状態になるようにピッチングプロペラの回転速度が設定されることを特徴とする請求項1に記載の二重反転回転翼機。
【請求項3】
傾斜尾翼は、水平面に対する角度を調整する傾斜角度調整機構を備え、機体の傾斜角度に応じて、傾斜尾翼の角度が調整されることを特徴とする請求項1に記載の二重反転回転翼機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−93204(P2008−93204A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279062(P2006−279062)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】