説明

二重構造の折板屋根用取付金具と折板屋根構造

【課題】二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられる、高強度でかつ作業性に優れる二重構造の折板屋根用取付金具と、この取付金具を用いた折板屋を提供する。
【解決手段】
金属板製の下折板屋根と上折板屋根からなる二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられ、下折板屋根のハゼ部を挟持して下折板屋根上に固定される1対の金属板製挟持部材と、上記挟持部材に固着されるプラスチック製断熱部材と、上記断熱部材に下部を挟持され、上部が上折板屋根の折板縁部とハゼ部を形成する金属板製吊子からなる取付金具において、上記断熱部材と吊子が、上記1対の挟持部材のいずれか一方の側に予め固着されてなることを特徴とする折板屋根用取付金具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板製の下折板屋根と上折板屋根からなる二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられる取付金具と、その取付金具を用いた二重構造のハゼ締め折板屋根構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板やその上に塗装を施したカラー鋼板等の金属板製のハゼ締め折板屋根は、一般住宅やガレージ、校舎、体育館、集会場、工場、倉庫等の屋根等として広く採用されている。
この折板屋根は、老朽化した場合には、古くなった屋根板を撤去する労力や費用が嵩むことから、既設の屋根板を残したままで、その上に新たな折板屋根を葺き上げて、二重構造の折板屋根とすることがある。また、近年では、熱エネルギーの削減を図る観点から、建設当初から上折板屋根と下折板屋根の間に断熱材を挿入した二重構造の折板屋根として葺き上げて、断熱性を高めることも行なわれている。
【0003】
上記二重構造の折板屋根は、旧折板屋根あるいは下折板屋根(以降、「下屋根」ともいう。)のハゼ部に取付金具を固定し、その取付金具に装着された吊子に新たな折板屋根(以降、「上屋根」ともいう。)の折板縁部を嵌合して構築しているのが一般的である。斯かる取付金具に要求される性能としては、台風等の強風や積雪等によって受ける大きな引張荷重や圧縮荷重が加わっても変形し難いこと(耐変形性)と、簡単に取り付けが可能であること(作業性)とが挙げられる。
【0004】
斯かる要求を満たす取付金具としては、従来から多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、吊子の一側方の側面を挟着する垂直状挟着支持部の上端部を外側に折曲する支承部を設け、上記垂直状挟着支持部の下方端部を外側に膨出せしめて膨出補強部を形成し、上記膨出補強部の下方端部を既存のハゼ締め部の一方に押圧挟着する湾曲状に膨出するハゼ締め部のハゼ挟着部を延設し、上記ハゼ挟着部の下方端部を外側に、しかも先端部に行くに従って下方向へ傾斜する下方載置部を有するハゼ締め挟着片を形成したハゼ締め折板屋根用葺替え金具が開示されている。
しかし、この葺替え金具は、膨出補強部の外側補強部が挟着片に部分的にしか設けられておらず、ハゼ締め挟着部には設けられていないため、引張荷重や横方向からの荷重に対して十分な強度を有するものではない。
【0005】
また、特許文献2には、吊子を挟着する縦状挟着支持部の上方端部を外側に折曲して上方支承部を形成し、かつ下方にハゼ締め部を挿入する嵌挿部およびハゼ締め部の首部を挟着する首挟着部を有し、上記首挟着部の下方端部を外側に折曲して下方載置部を設けた挟着片を2個使用し、上記挟着片の縦状挟着支持部および首挟着部の左右端部を、夫々下方端縁部の一部または全部が上記下方載置部に載置状態に折曲しかつ延設せしめて補強部を形成し、上記縦状挟着支持部と補強部との間に上記ハゼ締め部の嵌挿部と連接する挿入部を形成し、上記補強部の上方端縁部を上記上方支承部の裏面部に密着状態にて形成することによって、種々の正荷重や負荷重がかかっても補強部によって垂直状支持部の折損損傷を防止したハゼ締め折板屋根用葺替え金具が開示されている。
しかし、この葺替え金具も、ハゼ締め部を固定するのは、金具の補強部のみで、しかもハゼ締め部を固定する嵌挿部は空洞となっているため、やはり強度的に十分ではない。
【0006】
また、特許文献3には、下地材の上に固定される1対の固定部材と、その固定部材上に取り付けられる断熱部材と、その断熱部材上に上記固定部材とは非接触の状態で取り付けられる吊子とを有し、上記断熱部材の中間位置に摺動溝を形成して上記吊子のハゼ部から垂設された垂下片部を屋根板の長さ方向に摺動可能に保持するとともに、上記吊子には左右に突出して吊子が上に抜けるのを防止する抜け止め片を設けた屋根板取付け金具が開示されている。
しかし、この取付け金具は、固定部材担体に補強用リブを設けているが、担体の一部の補強でしかないため、やはり引張荷重や横方向から荷重が加わるような場合には、強度的に問題がある。
【0007】
また、特許文献4には、タイトフレームの頂部で旧折板の上に固着される支持台と、支持台に装着される可動掛止片(吊子)とからなり、可動掛止片の上端部に左右両新折板の縁がとめられる掛止部を設けた取付金物において、上記支持台に可動掛止片が前後動可能に支持される案内溝を設けたことにより、新折板が太陽熱や外気の変動で熱伸縮したときに発生する湾曲変形を防止するダブル屋根リフォーム工法に用いる取付金物が開示されている。
しかし、この取付金物は、支持台に大きな段差退面を有しているため、引張または圧縮荷重が加わったときに変形しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3455908号公報
【特許文献2】特許第3511169号公報
【特許文献3】特許第3983752号公報
【特許文献4】特開2009−035919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に説明したように、特許文献1〜4に開示された従来の取付金具は、いずれも強度的に問題があり、さらなる改善の余地がある。
また、上記特許文献1〜4の取付金具に共通する問題として、取付金具を取り付ける際に、その場で組み立てるため必要があるため、組み立てに時間を要したり、また、固定した取付金具の吊子への上屋根折板縁部の嵌合が上手くいかなかったりした場合には、取付金具に固定された吊子を取り外し、折板縁部と嵌合させた後、再度、固定し直す必要があるなど、作業性が極めて悪いという問題があった。
【0010】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられる、高強度でかつ作業性に優れる二重構造の折板屋根用取付金具と、この取付金具を用いた折板屋構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、下記の構成からなる本発明を開発した。
すなわち、本発明は、金属板製の下折板屋根と上折板屋根からなる二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられ、下折板屋根のハゼ部を挟持して下折板屋根上に固定される1対の金属板製挟持部材と、上記挟持部材に固着されるプラスチック製断熱部材と、上記断熱部材に下部を挟持され、上部が上折板屋根の折板縁部とハゼ部を形成する金属板製吊子からなる取付金具において、上記断熱部材と吊子が、上記1対の挟持部材のいずれか一方の側に予め固着されてなることを特徴とする折板屋根用取付金具である。
【0012】
本発明の取付金具における上記1対の挟持部材は、垂直面部と、上記垂直面部上端から水平方向に延びる支承部と、上記垂直面部下端から水平方向に延びる載置部とを有し、かつ、記1対の挟持部材は、垂直面部の中央部に固定用ボルト孔を有し、いずれか一方または両方の垂直面部の下部に下折板屋根のハゼ部を嵌め込む膨出部と、ハゼ部の首部を挟持する首挟持部を形成してなるとともに、垂直面部の左右両幅端部を延設折曲して支承部と載置部の間に隙間なく挟み込んで補強部を形成してなり、上記断熱部材は、挟持部材の支承部を覆う翼部と、その中央部から垂下し、吊子の下部を装着する縦溝を有する吊子装着部とでT字状をなし、上記吊子装着部の縦溝に吊子を装着した状態で上記1対の挟持部材のうちのいずれか一方の側の垂直面部上部にボルト・ナットでナットを断熱部材側にして予め固着されてなり、さらに、断熱部材が固着されていない側の挟持部材にナット径より大きい径の開口部を設けてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の取付金具は、上記断熱部材が、挟持部材の垂直面部に対して傾斜して固着され、上記断熱部材に装着された吊子の下部が、ハゼ部を形成する上部に対して同じ傾斜角で折曲されてなり、断熱部材が固着されていない側の挟持部材と断熱部材に、ナット径より大きい切り欠き部を設けてなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の取付金具は、上記断熱部材の傾斜角度が15°以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の取付金具と、下折板屋根および上折板屋根とから構築された二重の折板屋根構造である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の取付金具は、圧縮や引張荷重のみならず横方向からの荷重に対しても優れた耐変形性を有するとともに、取り付けが極めて容易で作業負荷を軽減できるので、二重構造の金属製ハゼ締め折板屋根の構築に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る取付金具の使用状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る取付金具の使用状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る取付金具を説明する正面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る取付金具を説明する断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る取付金具の分解斜視図である。
【図6】図3の取付金具の変形例を説明する図である。
【図7】図3の取付金具の他の変形例を説明する図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る取付金具を説明する正面図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る取付金具を説明する断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る取付金具の切り欠き部を説明する斜視図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る取付金具の使用状態を示す斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る取付金具の使用状態を示す断面図である。
【図13】本発明に係る取付金具の丸ハゼに対応した変形例を説明する外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の取付金具は、下折板屋根と上折板屋根からなる二重構造の金属板製ハゼ締め折板屋根の構築に用いるものであり、以下に、本発明の第1の実施の形態について、下折板屋根のハゼ部が三角形状(三角ハゼ)の場合を例にとって説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る取付金具を三角ハゼの折板屋根に使用したときの斜視図であり、図2は、その断面図である。図1および図2において、1は梁等の上に設置されたタイトフレーム、2はタイトフレームの上に葺かれた下屋根の折板、3は隣り合う2枚の折板の縁部を重ねて形成した下屋根の三角ハゼ部であり、Aは本発明の第1の実施の形態に係る取付金具、4は上記取付金具を介して下屋根の上に葺き上げられた上屋根の折板、5は上屋根の隣り合う2枚の折板の縁部と、後述する本発明の取付金具に装着された吊子とを嵌合させて形成した上屋根の三角ハゼ部である。
【0019】
図3は上記取付金具Aの正面図であり、図4はその断面図、図5はその分解斜視図である。本発明の取付金具Aは、下屋根のハゼ部を挟持して下屋根上にボルト・ナットで固定される1対の金属板製の挟持部材6および7と、上記挟持部材の上部に固着されるプラスチック製の断熱部材8と、上記断熱部材8に下部を挟持され、上部が上屋根の折板縁部が嵌合してハゼ部を形成する金属板製の吊子9から構成されている。
【0020】
上記1対の挟持部材6および7は、薄鋼板や亜鉛系めっき薄鋼板等の金属板を折曲加工して、折板長さ方向断面を略コの字状にしたものであり、垂直面部6aおよび7aと、上記垂直面部上端から水平方向やや下向きに延びて後述する断熱部材の水平翼部を支持する支承部6bおよび7bと、上記垂直面部下端から水平方向やや下向きに延びて下屋根の上に載置される載置部6cおよび7cとからなる。
【0021】
また、上記1対の挟持部材6および7の両挟持部材の垂直面部の中央部には、両挟持部材をボルト・ナットで締結するための固定用ボルト孔10が形成され、さらに、両挟持部材のいずれか一方または両方の垂直面部の下部には、垂直面部の金属板を外側に膨出させて、下屋根のハゼ部を嵌め込む膨出部6dおよび/または7d(三角ハゼであるときは、一方(図3〜5では6d)のみ)と、下屋根のハゼ部の首部を挟持する首挟持部6eおよび/または7e(三角ハゼであるときは、一方(図3〜5では6e)のみ)が形成されている。上記のように、本発明の膨出部は、金属板を膨出させて形成され、特許文献2の取付金具のように空洞ではないので、ハゼ部を強固に固定できるだけでなく、上からの圧縮荷重に対しても十分な強度を有する。
【0022】
また、本発明の取付金具における上記1対の挟持部材は、2つの挟持部材の垂直面部6aおよび7aの左右両幅端部を延伸して折曲し、上記支承部6bおよび7bと載置部6cおよび7cの間に挟み込むことによって、補強部6fおよび7fが形成されているのが特徴である。この補強部は、従来の取付金具のように部分的に形成されたものではなく、支承部と載置部の間に隙間なく挟み込まれているため、圧縮荷重や横方向からの荷重に対して優れた耐変形性を有する。さらに、本発明の取付金具は、膨出部の周囲にも補強部が隙間なく挟み込まれているため、大きな引張荷重によっても膨出部が変形することがない。なお、上記のような耐変形性を十分に発揮させるためには、挟持部材の素材に用いる金属板は、比較的厚めのものが望ましく、例えば、板厚が2mm以上の鋼板あるいは亜鉛系めっき鋼板を用いることが好ましい。
【0023】
ここで、上記1対の挟持部材の下屋根への固定は、垂直面部の膨出部を有する一方の挟持部材(図3〜5では挟持部材6)の膨出部6dに下屋根のハゼ部3を嵌め込むと共に、ハゼ部下の首部3aに首挟持部6eを押し当ててから、他方の挟持部材(図3〜5では挟持部材7)の垂直面部7aを同様にして重ね合わせた後、垂直面部の中央部に設けられたボルト孔10にボルト11を挟持部材6側から挿通し、ナット12で締結することで行うことができる。なお、ボルト・ナット締結時の空転を防止するためには、上記ボルト孔10は正方形の角穴とし、ボルト11には根角ボルトを用いるのが好ましい。
【0024】
次に、本発明の取付金具Aにおけるプラスチック製の断熱部材8は、上屋根の折板4と挟持部材6および7の間に配設されることによって、上屋根の折板を支持すると共に、太陽熱が上屋根から取付金具を介して下屋根に伝わるのを遮断する機能を有するものであり、支承部の上面を覆う水平翼部8aと、その中央部から垂下する吊子装着部8bとで、断面形状がT字状をなしており、上記吊子装着部8bには、吊子の下部を挟持する縦溝8cが形成されている。
【0025】
また、本発明の取付金具における吊子9は、ステンレス鋼板や亜鉛系めっき鋼板等の薄い金属板を加工したものであり、上折板屋根の折板縁部とハゼ部を形成するハゼ形成部9aと、断熱部材の吊子装着部の縦溝8cに装着される被挟持部9bとからなるものであり、上記被挟持部9bは金属板を折り曲げて2重にすることで強度を確保している。
【0026】
ところで、従来の取付金具は、挟持部材と断熱部材および吊子とが別々に分離しており、下屋根に取付金具を固定する時に組み立てていたため、作業性が悪いという問題があった。また、下屋根に取付金具を固定した後、吊子のハゼ形成部への上屋根の折板縁部の嵌め合わせが上手くいかない場合には、いったん固定した取付金具から吊子を取り外して折板縁部に嵌合した後、再度、吊子を取付金具に取り付ける作業が必要となる。しかし、従来の取付金具では、吊子を取り外すためは、下屋根への固定用のボルト・ナットも緩めなければならない場合があった。さらに、再度、吊子を取り付ける際には、吊子に上屋根の折板縁部が嵌合されているため、断熱部材の装着溝に吊子を差し入れて、再度、ボルト・ナットで固定するのは非常に困難な作業となっていた。
【0027】
そこで、本発明では、挟持部材の下折板屋根への固定用ボルト・ナットと、挟持部材への断熱部材の装着に用いるボルト・ナットとを完全に分離し、断熱部材については吊子を装着した状態で、1対の挟持部材のうちのいずれか一方の側の垂直面部上部に、予めボルト・ナットで固着しておくことにした。こうすることで、取付金具を固定する際の工数を低減できるだけでなく、吊子を取り外したり、再度、吊子を取り付けたりする際に、下折板屋根の固定に用いられているボルト・ナットを緩めたり、締めたりする必要がないので、作業性を著しく改善することが可能となる。そのためには、吊子のハゼ形成部の開口方向が、断熱部材を取り付ける挟持部材側向きとなるように取り付けることが好ましい。
【0028】
上記、断熱部材と吊子の挟持部材への固定は、吊子を断熱部材の装着溝に挟持した状態で、断熱部材の吊子挟持部8bの中央部と、吊子下部の被挟持部9bの中央部に形成されたボルト孔13に、ボルト14を挿通し、ナット15で螺着して行う。なお、上記ボルト・ナットは、締結作業を容易とするためには、ボルトを断熱部材を固着する挟持部材側から挿入し、ナットを断熱部材側から締結するようにする必要がある。また、上板屋根からの熱伝導の遮蔽効果を高めるため、および、ボルトの挿通をスムーズに行うため、図4や図5に示したように、ボルト孔13の孔径をボルト14の径よりも大きくし、断熱部材と同じプラスチック製のブッシュ16を嵌合して挿通しておくのが好ましい。
【0029】
ここで、断熱部材と吊子を、一方の側の挟持部材にボルト・ナットで固定する場合、断熱部材の螺着に用いられたナットが、断熱部材が装着されないもう一方の側の挟持部材の垂直面部上部と干渉することになる。したがって、上記干渉を回避するため、断熱部材が固着されていない側の挟持部材には、ナット径より大きい径の開口部を設けておく必要があり、図4の断面図には、断熱部材が固着されていない側の挟持部材の垂直面部に開口部17を設けた例を示した。なお、上記開口部に代えて、挟持部材と断熱部材に、後述するような、ナット径より大きい切り欠き部を形成してもよい。
【0030】
また、断熱部材を垂直面部に装着するためには、相対向する挟持部材の垂直面部間に空間を設ける必要があるが、そのためには、垂直面部の上部に段差退面を設けて、垂直断面を後退させるのが好ましく、図3〜5には、1対の挟持部材の両方の垂直面部上部に段差退面6gおよび7gを設けて空間を形成した例を示した。この空間は、取付金具を固定後、吊子を取り外したり、取り付けたりすることを考慮し、若干、断熱部材の厚みより大きめに形成しておくのが好ましい。なお、この空間は、図6のように、挟持部材7のみに段差退面7gを設けるようにして形成してもよいし、逆に、図7のように、挟持部材6のみに段差退面6gを設けるようにして形成してもよい。ただし、図6や図7のように、挟持部材の一方のみに段差退面を設ける場合には、吊子と下折板屋根のハゼ部のセンター間にずれが生ずるため、吊子上部のハゼ形成部9aと被挟持部9bとの間に段差部9cを設けて上記ずれを補正してもよい。なお、上記のずれは小さいため、図3〜5と同じ、段差部のない吊子を用いてもよいことは勿論である。
【0031】
次に、本発明の取付金具の第2の実施の形態について説明する。
前述したように、下折板屋根の上に固定した取付金具は、その後、吊子のみを取り外したり、再度、取り付けたりする作業を必要とすることがある。この場合、従来技術の取付金具や、本発明の第1の実施の形態の取付金具Aでは、断熱部材が挟持部材の垂直面部に対して平行に固定されているため、ボルト・ナットの締結は水平方向から行う必要がある。しかし、前述したように、吊子を挟持部材に再度取り付けるような場合には、吊子に上屋根の折板縁部が嵌合された状態でボルト・ナットの締結作業を行なわざるを得ないため、作業性があまりよくないという問題がある。
【0032】
そこで、本発明の第2の実施の形態に係る取付金具Bでは、上記ボルト・ナットの締結作業を容易にするため、図8や、その断面図である図9に示したように、断熱部材を固着する垂直面部上部を、垂直面から15°以下(図8では約10°)傾斜させることによって、斜め上方からナットの締結作業を行なえるようにした。ここで、上記傾斜角を15°以下としたとは、15°を超えると挟持部材に設ける段差退面が大きくなって加工が難しくなるので好ましくないからである。ただし、傾斜角が小さ過ぎると、作業性改善効果が得られないので、5°〜15°の範囲とするのがより好ましい。
【0033】
また、上記のように断熱部材を傾斜して装着する場合には、断熱部材を取り付ける側の挟持部材の垂直面部上部を傾斜させるだけでなく、他方の挟持部材の垂直面部上部も同様に傾斜させるのが好ましい。さらに、断熱部材を傾斜して装着する場合には、断熱部材に設けられた吊子を挿入する装着溝8cも傾斜するため、図8や図9に示したように、装着溝に挿入される吊子下部の被装着部9bと、吊子上部のハゼ形成部9aとの間に、折曲部を設けてセンター合わせをする必要がある。
【0034】
さらに、断熱部材を傾斜して装着する場合には、断熱部材を固着するボルトの通し穴が斜め上方を向くため、ナット締結治具が、断熱部材が取り付けられていない側の挟持部材や断熱部材と干渉を起こす。そのため、斯かる干渉を回避するため、図9に示したように、第1の実施の形態よりも広範囲にわたって挟持部材や断熱部材に切り欠き部18を設ける必要がある。なお、図10は、図8および図9の取付金具の断熱部材が装着されていない側の挟持部材の垂直面部と支承部および断熱部材に切り欠き部18を設けた例を示す斜視図である。
【0035】
上記本発明の第2の実施の形態に係る取付金具は、図11および12に示したように、第1の実施の形態の取付金具とまったく同様にして葺き上げ施工することが可能である。ここで、図11は、本発明の第2の実施の形態に係る取付金具を二重構造の三角ハゼ締め折板屋根に適用したときの斜視図、図12はその断面図である。
【0036】
なお、上記に説明してきた本発明の第1の実施の形態および第2の実施の形態の取付金具は、いずれも下屋根に形成されたハゼ部が三角ハゼである場合であるが、下屋根のハゼ部が円形の丸ハゼである場合には、挟持部材の垂直面部の下部に形成する膨出部と首挟持部を、1対の挟持部材の両方の垂直面部の下部に設けることで対応することが可能であり、その他の点において変わるところはない。図13は、丸ハゼに対応した第2の実施の形態の取付金具の例を示したものである。
【0037】
次に、本発明の取付金具を用いて二重構造のハゼ締め折板屋根を構築する方法について説明する。
本発明の取付金具は、予め断熱部材と吊子が一対の挟持部材うちのいずれか一方にボルト・ナットで固着されているので、二重構造の折板屋根を葺き上げ施工する際に、組立てや仮止め等することなくそのまま用いることができる。さらに、本発明の取付金具を下屋根のハゼ部に固定するには、1対の挟持部材を下折板屋根のハゼ部の両側に載置し、膨出部にハゼ部を嵌め込んで係合し、首挟持部をハゼ部の首部に当接させてハゼ部を挟持した後、断熱部材が装着された挟持部材側から垂直断面中央部に設けられたボルト孔にボルトを挿通し、断熱部材が装着されていない挟持部材側からナットで緊締するだけでよく、従来の取付金具と比較して、断熱部材や吊子を装着する必要がないため、取付工数を半減することができる。
【0038】
また、上記取付金具を固定した下屋根の上に新たな上屋根を葺くには、従来技術と同様、必要に応じて、下屋根の上にグラスウール等の断熱部材を敷きつめた後、取付金具に装着された吊子上部のハゼ形成部に、上屋根の折板縁部を下側と上側から嵌合装着し、かしめてハゼ部を形成すればよい。ただし、吊子のハゼ形成部への下ハゼの嵌合が上手くいかない場合には、吊子と断熱部材を螺着しているボルト・ナットを外して吊子を取り出し、嵌合させた後、再度、ボルト・ナットで緊締して取り付ける作業が必要となるが、本発明の第1の実施の形態の取付金具によれば、吊子と断熱部材が1対の挟持部材の一方に固着されているため、取付金具の固定状態に影響を及ぼすことなく吊子の脱着を行うことができる。さらに、本発明の第2の実施の形態の取付金具によれば、ボルト・ナットの締結を斜め上方から行うことができるので、吊子の脱着やボルト・ナットの締結が極めて容易となり、従来の方法と比較して作業性を格段に向上することができる。
【0039】
上記のように、本発明の取付金具は、取り付けが極めて容易であるので、二重構造の折板屋根の構築に用いて好適である。さらに、本発明の取付金具は、圧縮や引張荷重のみならず横方向からの荷重に対しても優れた耐変形性を有するので、耐久性に優れた二重構造の折板屋根を構築することができる。
【符号の説明】
【0040】
A:本発明に第1の実施の形態に係る取付金具
B:本発明に第1の実施の形態に係る取付金具
1:タイトフレーム 2:下屋根の折板
3:下屋根のハゼ部 3a:下屋根のハゼ部の首部
4:上屋根の折) 5:上折板屋根のハゼ部
6,7:挟持部材 6a,7a:挟持部材の垂直面部
6b,7b:挟持部材の支承部 6c,7c:挟持部材の載置部
6d,7d:挟持部材の膨出部 6e,7e:挟持部材の首挟持部
6f,7f:挟持部材の補強部 6g,7g:挟持部材の段差退面
8:断熱部材 8a:断熱部材の水平翼部
8b:断熱部材の吊子装着部 8c:断熱部材の吊子装着部の縦溝
9:吊子 9a:吊子のハゼ形成部
9b:吊子の被挟持部 9c:吊子の段差部
10:挟持部材締結用のボルト孔(角孔) 11:挟持部材締結用のボルト
12:挟持部材締結用のナット 13:断熱部材締結用のボルト孔
14:断熱部材締結用のボルト 15:断熱部材締結用のナット
16:ブッシュ 17:挟持部材に設けられた開口部
18:挟持部材および断熱部材に設けられた切り欠き部
19:ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板製の下折板屋根と上折板屋根からなる二重構造のハゼ締め折板屋根に用いられ、
下折板屋根のハゼ部を挟持して下折板屋根上に固定される1対の金属板製挟持部材と、上記挟持部材に固着されるプラスチック製断熱部材と、上記断熱部材に下部を挟持され、上部が上折板屋根の折板縁部とハゼ部を形成する金属板製吊子からなる取付金具において、
上記断熱部材と吊子が、上記1対の挟持部材のいずれか一方の側に予め固着されてなることを特徴とする折板屋根用取付金具。
【請求項2】
上記1対の挟持部材は、垂直面部と、上記垂直面部上端から水平方向に延びる支承部と、上記垂直面部下端から水平方向に延びる載置部とを有し、かつ、
上記1対の挟持部材は、垂直面部の中央部に固定用ボルト孔を有し、いずれか一方または両方の垂直面部の下部に下折板屋根のハゼ部を嵌め込む膨出部と、ハゼ部の首部を挟持する首挟持部を形成してなるとともに、垂直面部の左右両幅端部を延設折曲して支承部と載置部の間に隙間なく挟み込んで補強部を形成してなり、
上記断熱部材は、挟持部材の支承部を覆う翼部と、その中央部から垂下し、吊子の下部を装着する縦溝を有する吊子装着部とでT字状をなし、上記吊子装着部の縦溝に吊子を装着した状態で上記1対の挟持部材のうちのいずれか一方の側の垂直面部上部にボルト・ナットでナットを断熱部材側にして予め固着されてなることを特徴とする請求項1に記載の折板屋根用取付金具。
【請求項3】
断熱部材が固着されていない側の挟持部材にナット径より大きい径の開口部を設けてなることを特徴とする請求項1または2に記載の折板屋根用取付金具。
【請求項4】
上記断熱部材が、挟持部材の垂直面部に対して傾斜して固着され、上記断熱部材に装着された吊子の下部が、ハゼ部を形成する上部に対して同じ傾斜角で折曲されてなり、断熱部材が固着されていない側の挟持部材と断熱部材に、ナット径より大きい切り欠き部を設けてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の折板屋根用取付金具。
【請求項5】
上記断熱部材の傾斜角度が15°以下であることを特徴とする請求項4に記載の折板屋根用取付金具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の取付金具と、下折板屋根および上折板屋根とから構築された二重の折板屋根構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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