説明

亜鉛合金めっきドリルねじ

【課題】穿孔性を向上させるために、めっき厚を薄くしても、ドリルねじの耐食性が低下せず、かつ締結体全体の耐食性も確保できるドリルねじを提供する。
【解決手段】銅の質量百分率をX、錫の質量百分率をYとしたとき、1.5≦Y/X≦2.5、かつ2mass%≦X+Y≦15mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物である亜鉛合金めっきを被覆したことを特徴とする亜鉛合金めっきドリルねじ。好ましくは、2.0≦Y/X≦2.5、かつ10mass%≦X+Y≦15mass%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板やH型鋼等を締結する部品であるドリルねじに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材・鋼板等を締結する方法として、作業性の向上やコスト削減を目的に、ドリルねじが用いられる。これは、ねじ先がドリル刃になったもので、下穴開け・ねじ切りの下処理工程を省略することができる。
【0003】
鉄製のドリルねじは腐食しやすいため、めっきを施すことがよく行われている。さらに、ドリルねじの単体の耐食性を高めるだけではなく、締結体全体の耐食性を向上させるために、鋼板にも亜鉛などのめっきを施すことがよく行われている。
【0004】
特許文献1には、ねじの耐食性を高めるため、ビッカース硬度600以上のニッケルりん無電解めっきをしたドリルねじのめっき組成が開示されている。ビッカース硬度が高いのは、ドリル部の穿孔性を維持するためであり、一般に、ドリルねじのドリル刃は、硬い方が母材への進入が早く、作業時間が短縮できる。しかし、文献1に開示されている技術を用いて、亜鉛めっきに相当する耐食性を確保しようとすると、めっき時間が非常にかかるため、コストが高くなり、実際的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−33805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドリルねじの穿孔時間は、ねじのドリル刃部分に亜鉛めっきが厚くついているほど、長くかかる。ドリルねじを数万個使用する作業では、わずかな穿孔時間の差が、作業時間に大きく反映される。めっき厚を薄くすれば穿孔時間を短縮できるのだが、今度はドリルねじ単体の耐食性が低下する。
【0007】
なお、本明細書で述べるドリルねじ単体の耐食性は、SST試験で、ドリルねじに赤錆が発生するまでの試験時間を指標とする。
【0008】
本発明は、穿孔性を向上させるために、めっき厚を薄くしても、ドリルねじの耐食性が低下せず、かつ締結体全体の耐食性も確保できるドリルねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来知見に従い、亜鉛よりも腐食しにくい金属(ニッケル、銅、モリブデン等)が適量添加された亜鉛合金を被覆すると、ねじ単体の耐食性は確かに向上した。
【0010】
ところが実際に、これらの亜鉛合金めっきを被覆したドリルねじで、亜鉛めっき鋼板を締結し、これをSST試験すると、ねじ頭周辺に赤錆発生が早々観察され、締結体全体の耐食性はむしろ低下した。これは、特許文献1記載の発明においても同様であった。また、施工方法をいろいろ変えても避けることはできなかった。水・酸素・電解質が侵入しないように、ねじ頭部の形状がなべ底形や六角形のドリルねじを、亜鉛めっき鋼板にしっかり圧着してみたが、やはり、赤錆がドリルねじの頭周辺から発生した。
【0011】
この原因を解明すべく、赤錆が発生したドリルねじと赤錆が発生しなかったドリルねじを調査したところ、以下の事実が判明した。
【0012】
図1は、耐食性が悪かったサンプルの、亜鉛合金めっき鋼板の原板の鉄素地とドリルねじの断面の断面図である。
【0013】
図1に示すように、ねじと鋼板の鉄素地の間に隙間が形成されると、そこへ水・酸素が浸入し、酸素通気差腐食を起こし、亜鉛めっき鋼板の鉄素地の部分が腐食することを知見した。
【0014】
隙間の観察方法は、作製した試験用サンプルから、締結した鋼板を含むドリルねじを切り出し、エポキシ樹脂に埋め込んだのち、ねじの中心軸を通る面で切断・研磨して、その断面を顕微鏡で観察した。観察部位は、ドリルねじのねじ部から頭までである。隙間とは、固相の連続性が破綻した部位であり、固/気相に挟まれた空間である。開放隙間とは、ドリルねじのねじ部の亜鉛合金めっき層と亜鉛鉄板の素地(鉄)の間に形成された隙間が、ねじの頭頂部底辺まで連続しているものをいう。
【0015】
結局、前述した課題を解決するためには、耐食性に優れためっきだけではなく、同時に、従来の施工法で亜鉛めっき鋼板に穿孔した時に、ねじと鋼板の間に開放隙間を形成させないことが必要であることがわかった。
【0016】
ドリルねじが穿孔時に開放隙間を形成させないためには、めっき層が、鉄板の変形部分に、よく追随する必要がある。そのためには、めっき層金属が変形しやすく、かつ、変形に必要なせん断力を発生させるために、鋼板の鉄素地とドリルねじのめっき層との界面が滑りにくい(摩擦係数が大きい)ことが必要である。
【0017】
隙間形成に、金属変形時の変形のしやすさと滑りにくさがどのように関係しているのか、そして、金属の元素組成とどのような関係にあるかは、学術的にはまだ十分に明らかにされていない。そこで、発明者は、隙間形成と、亜鉛めっき中の銅・錫の含有率の関係を実験的に明らかにした。図2に、実験結果をまとめて示す。
【0018】
図中、×は開放隙間が形成された組成、○はねじと鋼板の間に若干隙間はあるが、開放隙間ではない組成、●は隙間の形成がまったく無い組成を示す。
【0019】
隙間を形成しない範囲は、図中で何本かの直線に挟まれた領域であった。
【0020】
上記の知見に基づいて完成された本発明の要旨は下記(1)(2)のとおりである。
(1)銅の質量百分率をX、錫の質量百分率をYとしたとき、1.5≦Y/X≦2.5、かつ、2mass%≦X+Y≦15mass%、残部が亜鉛及び不可避的不純物である亜鉛合金めっきを被覆したことを特徴とした亜鉛合金めっきドリルねじ。
(2)2.0≦Y/X≦2.5、かつ、10mass%≦X+Y≦15mass%であることを特徴とする、(1)記載の亜鉛合金めっきドリルねじ。
【発明の効果】
【0021】
耐食性の高い亜鉛合金めっきを薄く施したことにより、ドリル穿孔性が向上し、作業時間が短縮するとともに、めっき鋼板の基材(鉄)の腐食の原因となる、ドリルねじめっき層と亜鉛めっき鋼板の鉄地との間の隙間が形成されず、ドリルねじ自体を含む締結体全体の耐食性にも優れたドリルねじが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、締結体に開放隙間がある場合のイメージ図である。
【図2】図2は、本発明の請求範囲を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
めっき前のドリルねじは、通常、ねじ外径3〜7mmの鉄製が広く用いられるが、限定するものではない。
【0024】
めっき層の形成方法は限定するものではないが、電気めっきあるいは溶融めっき等が適用できる。めっき条件、めっき前処理、および、ベーキング等の後処理は、それぞれのめっき方法に適したものであれば限定するものではない。
【0025】
本発明では、めっき耐食性と締結施工後、鋼板とめっき層の間に隙間が形成されない、銅と錫の添加量の範囲を規定した。これにより、ドリルねじと鋼材の締結体全体の耐食性が低下しない。銅と錫のめっき含有率X、Yが、1.5>Y/X、Y/X>2.5、X+Y>15mass%の場合はいずれも、施工後に隙間が形成される。また、2mass%>X+Yの場合は、隙間は形成されないが、耐食性が亜鉛めっきと差がなくなり、ドリルねじ単体の耐食性が低下する。
【0026】
従って本発明においては、開放隙間を発生させないためには、1.5≦Y/X≦2.5、かつ2mass%≦X+Y≦15mass%であることが必要である。さらに2.0≦Y/X≦2.5、かつ10mass%≦X+Y≦15mass%であれば、開放隙間は発生せず、かつ、内部の方にも隙間が全く発生せず、一層好ましい。
【0027】
めっき膜厚は特に限定しないが、穿孔性を高めるために従来の亜鉛めっき(20〜30μm)より薄いことが好ましく、10〜20μmであることが好ましい。10μm未満だと、隙間を埋めることができなくなり、隙間が発生する傾向がある。20μmを超えると、耐食性は向上するが、穿孔性が低下する傾向となる。なお、ドリルねじは様々な角、辺を持った立体物であるから、各所でめっき厚がばらつく(特に電解めっき)ので、本明細書中でめっき膜厚とは、断面観察により、刃先先端を除くねじ部の平均膜厚のことを意味する。
【実施例】
【0028】
JIS SWCH18A鋼線にガス浸炭焼入れ−焼き戻し処理をおこなって製造したM4×30 のドリルねじ(六角頭)に、バレルめっき法で、純亜鉛めっき、あるいは、亜鉛合金めっきした。塩化亜鉛75g/l、塩化アンモニウム200g/l、市販の亜鉛めっき用光沢剤を適量添加しためっき浴に、塩化銅、塩化錫を段階的に添加して濃度を変えて、それぞれ電解めっきを行った。めっき層中に含まれる添加元素組成比は、電解めっき後、ねじのめっき層を酸で溶解し化学分析で決定した。
【0029】
試験用サンプルは、75×150×1.6mmの溶融亜鉛めっき冷延鋼板(目付け60g/m)に、インパクトドライバー(トルク135N・m)を用いて本発明品をねじ締めした。
【0030】
耐食性試験として、試験用サンプルを、SST(JIS K5600−7−1耐中性塩水噴霧性、1999年 準拠)に最大30日間入れ、ドリルねじ周囲に赤錆が発生するまでの日数を記録した。
【0031】
表1に各試験用サンプルについて、めっき層の条件と解放隙間の有無、SST試験結果とを併せて示す。表1の結果の主要なものを図2にプロットして示す。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明による条件のめっきを施したものは、いずれも25日の間には錆は発生せず良好な耐食性を示した。
【0034】
特にサンプル番号6、15、28、31、35はめっき組成が本発明の好ましい範囲にあるため、開放隙間はもちろん、内部の隙間も全く認められない(図2の●プロット)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、穿孔性を向上させるためにめっき厚を薄くしても、ドリルねじの耐食性が低下せず、かつ締結体全体の耐食性も確保できるドリルねじが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の質量百分率をX、錫の質量百分率をYとしたとき、1.5≦Y/X≦2.5、かつ2mass%≦X+Y≦15mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物である亜鉛合金めっきを被覆したことを特徴とする亜鉛合金めっきドリルねじ。
【請求項2】
2.0≦Y/X≦2.5、かつ10mass%≦X+Y≦15mass%であることを特徴とする請求項1記載の亜鉛合金めっきドリルねじ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−27125(P2011−27125A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170255(P2009−170255)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】