説明

亜鉛系めっき鋼板

【課題】優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板を得る。
【解決手段】鋼板の表面には、平均膜厚が0.10〜2.0μmで、有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有する。そして、前記有機無機複合皮膜は、有機樹脂の固形分100重量部に対して、固形分として0.5重量部以上の結晶性層状物を含有する。結晶性層状物としては、例えば、[M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であり、前記M2+はMg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+の1種または2種以上であり、前記M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+の1種または2種以上であり、前記An-はOH-、 CO32-、Cl-、 (SO4)2-の1種または2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形時の摺動抵抗が小さく優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用され、そのような用途では、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、亜鉛系めっき鋼板は冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での表面処理鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で表面処理鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。特に純亜鉛系めっき鋼板では、金型にめっきが付着することにより、更に摺動抵抗が増加する現象があり(型カジリ)、連続プレス成形の途中から割れが発生するなど、自動車の生産性に深刻な悪影響を及ぼす。更に、近年のCO2排出規制強化の観点から、車体軽量化の目的で高強度鋼板の使用比率が増加する傾向にある。高強度鋼板を使用すると、プレス成形時の面圧が上昇し、金型へのめっき付着は更に深刻な課題となる。
【0003】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられる。しかし、この方法では、潤滑油が高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生する。また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0004】
上記の問題を解決する方法として、特許文献1および特許文献2は、亜鉛めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、亜鉛を主体とする酸化膜を形成させて溶接性および加工性を向上させる技術を開示している。
【0005】
特許文献3はリン酸ナトリウム5〜60g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または上記水溶液を塗布することにより、亜鉛系めっき鋼板表面に、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0006】
特許文献4は、亜鉛めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-60332号公報
【特許文献2】特開平2−190483号公報
【特許文献3】特開平4−88196号公報
【特許文献4】特開平3−191093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の先行技術は自動車外板に多く使用される比較的強度の低い亜鉛めっき鋼板に対しては有効であるが、プレス成形時の面圧が上昇する高強度亜鉛めっき鋼板の場合には、必ずしもプレス成形性の改善効果を十分に得ることはできない。
【0009】
本発明は上記の問題点を改善し、プレス成形時の面圧が上昇する高強度亜鉛めっき鋼板などの難成形材料においても優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の皮膜では、亜鉛めっき層と金型の接触を抑制することで摩擦抵抗を減少させていた。しかし、高強度鋼板のプレス成形における高面圧条件においては、皮膜の磨耗量が増加するため、摺動距離が一定量を超えると十分な効果を得ることはできない。
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、摺動性を飛躍的に改善するためには、亜鉛系めっき鋼板の表面に結晶性層状物を被覆した皮膜を形成することが有効であることを見出した。
【0011】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]表面に有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有し、該有機無機複合皮膜は、平均膜厚が0.10〜2.0μmであり、有機樹脂の固形分100重量部に対して、固形分として0.5重量部以上の結晶性層状物を含有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
[2]前記[1]において、前記結晶性層状物は [M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であり、前記M2+はMg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Pb2+、Sn2+の1種または2種以上であり、前記M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+、3/4Zr4+、Mo3+の1種または2種以上であり、前記An-は OH-、F-、CO32-、Cl-、Br-、(C2O4)2-、I-、(NO3)-、(SO4)2-、(BrO3)-、(IO3)-、(V10O28)6-、(Si2O5)2-、(ClO4)-、(CH3COO)-、[C6H4(CO2)22-、(C6H5COO)-、[C8H16(CO222-、n(C8H17SO4)-、n(C12H25SO4)-、n(C18H37SO4)-、SiO44-の1種または2種以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
[3]前記[1]において、前記結晶性層状物は [M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であり、前記M2+はMg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+の1種または2種以上であり、前記M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+の1種または2種以上であり、An-が OH-、 CO32-、Cl-、 (SO4)2-の1種または2種以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記有機樹脂が、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
なお、本発明においては、例えば、溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法、溶射法などの各種の製造方法により鋼板上に亜鉛をめっきした鋼板を総称して亜鉛系めっき鋼板と呼称する。また、合金化処理を施していない溶融亜鉛めっき鋼板、合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板のいずれも亜鉛系めっき鋼板に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プレス成形時の面圧が上昇する場合においてもプレス成形時の割れ危険部位での摺動抵抗が小さく、更に面圧が高く金型へのめっき付着が想定される部位においても優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】動摩擦係数測定装置を示す概略正面図
【図2】図1中のビードの形状・寸法を示す概略斜視図(ビード形状1)
【図3】図1中のビードの形状・寸法を示す概略斜視図(ビード形状2)
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の皮膜では、亜鉛めっき層と金型の接触を抑制することで、摩擦抵抗を減少させていた。しかし、高強度鋼板のプレス成形における面圧条件においては、皮膜の磨耗量が増加するため、摺動距離が一定量を超えると十分な効果を得ることはできない。
上記を鑑み、検討した結果、亜鉛系めっき鋼板の表面に結晶性層状物を被覆させることで摺動性が飛躍的に改善することがわかった。更に、結晶性層状物を表面に被覆させる際には有機樹脂と複合化させることにより表面に密着させることが出来ることを見出した。よって、本発明では、亜鉛系めっき鋼板の表面には、有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有することとする。
【0015】
なお、上記有機無機複合皮膜に含有される結晶性層状物の潤滑メカニズムについては明確ではないが、以下のように考えることができる。摺動時、金型とめっきの凝着力から表面にはせん断応力が生じる。結晶性層状物がめっきと金型の間に存在することで、結晶性層状物がすべり変形して表面に生じるせん断変形応力を吸収する。そして、結晶性層状物は、亜鉛系めっき表層から磨耗された後にも、金型に付着し摩擦抵抗を減少する効果を発現するため、高強度鋼板を想定した高面圧条件においても十分な効果を得ることが可能となる。
【0016】
また、有機無機複合皮膜中に有機樹脂を含有することで、鋼板表面に均一な厚さで結晶性層状物を被覆することが可能となる。
以上の理由から、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の表面に有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有することとする。そして、これは本発明において最も重要な要件である。
【0017】
上記有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜(以下、単に有機無機複合皮膜と称する場合がある)の厚さは、断面からSEMで観察した際の厚さとして、平均膜厚が0.10μm以上2.0μm以下とする。平均膜厚が0.10μm未満では鋼板表面に均一に成膜することが困難である。一方、平均膜厚2.0μm超えになると、自動車製造の際に重要となるスポット溶接性が低下することが懸念される。
【0018】
なお、有機無機複合皮膜の厚さは、FIBで加工した断面を極低加速SEMにて観察した結果から測定することができる。また、結晶性層状物が結晶性かどうかの結晶構造の同定は薄膜X線回折で行うことができる。
【0019】
また、結晶性層状物は、有機樹脂固形分100重量部に対して、固形分として0.5重量部以上を含有することとする。0.5重量部未満では金型との摺動時に接触する結晶層状物質が少ないため十分な効果を発現することができない。
【0020】
なお、本発明において、結晶性層状物とは、単位結晶格子のうち、板状の共有結合結晶が分子間力、水素結合、静電エネルギー等の比較的弱い結合で積層された結晶のことである。中でも、その構造が[M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで表すことができる層状複水酸化物は、正に帯電した板状の2価と3価の金属水酸化物に対し、負に帯電したアニオンが電気的なバランスを保つために静電気エネルギーにより結合し層状に積層するため層状の結晶構造を有しており、結晶性層状物として用いるのに好ましい。
[M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であることは、X線回折で同定することができ、上記式で表すことが可能な物質は層状結晶となることが知られている。
【0021】
M2+としては、Mg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Pb2+、Sn2+の1種または2種以上が好ましい。中でも、Mg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+は、天然または人工的に生成した層状複水酸化物種として確認されており、層状複水酸化物として安定的に存在することが可能であるため、より好ましい。
【0022】
M3+としては、Al3+、Fe3+、Cr3+、3/4Zr4+、Mo3+の1種または2種以上が好ましい。中でも、Al3+、Fe3+、Cr3+は、天然または人工的に生成した層状複水酸化物種として確認されており、層状複水酸化物として安定的に存在することが可能であるため、より好ましい。
【0023】
An-としては、OH-、F-、CO32-、Cl-、Br-、(C2O4)2-、I-、(NO3)-、(SO4)2-、(BrO3)-、(IO3)-、(V10O28)6-、(Si2O5)2-、(ClO4)-、(CH3COO)-、[C6H4(CO2)22-、(C6H5COO)-、[C8H16(CO222-、n(C8H17SO4)-、n(C12H25SO4)-、n(C18H37SO4)-、SiO44-の1種または2種以上が好ましい。これらは、層状複水酸化物種の層間アニオンとしての取り込みが確認されており、層状複水酸化物として存在することが可能である。中でも、OH-、 CO32-、Cl-、 (SO4)2-は、亜鉛系めっき鋼板表面に成膜する際に層状複水酸化物種の他のアニオンと比較して層間アニオンとして取り込みやすく、短時間で成膜が可能なため、アニオンとしてより好適に用いることができる。
【0024】
次いで、有機無機複合皮膜を亜鉛系めっき鋼板表面に生成させる方法について、説明する。
まず、結晶性層状物の生成方法について説明する。ここでは、結晶性層状物の一種である層状複水酸化物を粉状に生成させる方法を一例として示す。例えば、カチオンを含有する水溶液にアニオン含有溶液を滴下する手法を挙げる。2価のカチオン(M2+)のいずれか一種類以上と、3価のカチオン(M3+)のいずれか一種類以上とを含む水溶液中に、無機アニオン又は有機アニオン(An-)のうちいずれか1種類以上のアニオンを含む水溶液を滴下する。この際、反応懸濁液のpHが10±0.1となるように2.0モル-NaOH溶液を滴下して溶液を調整する。
反応懸濁液に存在する2価のカチオンと3価のカチオンは水酸化物としてコロイド状に存在する。ここで、液中にOH-、F-、CO32-、Cl-、Br-、(C2O4)2-、I-、(NO3)-、(SO4)2-、(BrO3)-、(IO3)-、(V10O28)6-、(Si2O5)2-、(ClO4)-、(CH3COO)-、[C6H4(CO2)22-、(C6H5COO)-、[C8H16(CO222-、n(C8H17SO4)-、n(C12H25SO4)-、n(C18H37SO4)-、SiO44-のいずれか一種以上の特定のアニオンが滴下されると、水酸化物は層状複水酸化物として沈殿する。次いで、得られた沈殿物を遠心分離機を用いて分離し、乾燥することで粉状の層状複水酸化物を得ることができる。
なお、得られた粉状の物質が層状化合物であるかどうかは、XRD回折により確認することができる。
【0025】
次に、上記により得られた粉状の層状複水酸化物と有機樹脂を適宜配合し、撹拌して塗料組成物を調製する。撹拌は、例えば、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いることができる。また、撹拌時間は、適宜調整される。有機溶媒中へ粉状の層状複水酸化物を十分に分散させるために攪拌時間は30分以上が好ましい。
有機樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂から1種または2種以上選ばれることが適当である。特に、耐食性の観点からエポキシ系樹脂をベースとして、これに加工性を向上させることを狙いとして分子量を適宜最適化したものや樹脂の一部にウレタン、ポリエステル、アミンなどの変性を加えたものが望ましい。
【0026】
さらに必要に応じて、添加剤として、有機着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料など)、着色染料(例えば、水溶性アゾ系金属染料など)、無機顔料(例えば、酸化チタンなど)、導電性顔料(例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉末、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫など)、カップリング剤(例えば、チタンカップリング剤など)、メラミン・シアヌル酸付加物などの1種または2種以上を添加することができる。
【0027】
次いで、得られた塗料組成物を鋼板表面に塗布、焼き付けする。なお、得られた塗料組成物を鋼板表面に塗布するにあたって、その手段は特に限定しない。ロールコータが好適に用いられる。
【0028】
加熱乾燥(焼き付け)処理は、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができるが、耐食性の観点からは高周波誘導加熱炉が特に好ましい。加熱処理は、到達板温で50℃〜350℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で行うことが望ましい。加熱温度が50℃未満では皮膜中の溶媒が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱温度が350℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下するおそれがある。
【0029】
以上により、表面に有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0030】
なお、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他にPb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Liなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0031】
さらに、成膜処理などに使用する処理液中に不純物が含まれることによりN、Pb、Na、Mn、Ba、Sr、Siなどが有機無機複合皮膜層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
層状複水酸化物は、表1に示す2価のカチオン(M2+)のいずれか一種類以上と、3価のカチオン(M3+)のいずれか一種類以上とを含む水溶液(表1中、水溶液1組成)中に、無機アニオン又は有機アニオン(An-)のうちいずれか1種類以上のアニオンを含む水溶液(表1中、水溶液2組成)を滴下することで精製した。この際、反応懸濁液のpHが10±0.1となるように2.0モル-NaOH溶液を滴下して溶液を調整した。次いで、得られた沈殿物をろ過し、乾燥して粉状の層状複水酸化物を得た。なお、XRD回折により層状複水酸化物であることを確認した。
【0033】
【表1】

【0034】
表面に形成する有機無機複合皮膜となる塗料組成物は、樹脂組成物として、表2に示す有機樹脂を用い、これに上記手法で生成した層状複水酸化物を表3に示すように適宜配合し、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いて45分間攪拌し、塗料組成物を調製した。
【0035】
【表2】

【0036】
塗膜下地用鋼板として、板厚0.7mmの冷延鋼板上に常法により合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。また、同様に、常法により溶融亜鉛めっき皮膜、電気亜鉛めっき皮膜を形成した。
【0037】
上記により得られた各種めっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理、水洗乾燥した後、上記塗料組成物をロールコーターにより塗布し、表3に示す焼き付け温度:140℃で焼き付け(加熱乾燥)した。なお、有機無機複合皮膜の膜厚は、塗料組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
【0038】
以上により得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板表面の有機無機複合皮膜の平均膜厚を測定するとともに、層状複水酸化物を同定した。また、プレス成形性を評価する手法として摩擦係数の測定の実施、型カジリ性の評価を実施し摺動特性を評価した。なお、各測定方法、同定方法は以下の通りである。
【0039】
1)有機無機複合皮膜平均膜厚の測定
FIBを用いて皮膜の断面を45°にスパッタリングし、極低加速SEMで断面から観察し、10点を測定した平均値をその皮膜の膜厚とした。
【0040】
2)層状複水酸化物の同定方法
X線回折法により結晶性の層状複水酸化物の存在を確認した。Cu−Kα線を用いX線回折法により得られるピークをICDDカードと照合して層状複水酸化物を同定した。合致したカードは下記であった。
ア)Magnesium Aluminum Hydroxide Carbonate Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 01-089-0460
[Mg0.667Al0.333(OH)2][CO32-]0.167・0.5H2O
イ)Zinc Aluminum Carbonate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-048-1021
[Zn0.71Al 0.29(OH)2][CO32-]0.145・H2O
ウ)Iron Carbonate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-050-1380
[Fe0.67Fe0.33(OH) 2 ][CO32-] 0.145・0.33H2O
エ)Iron Nickel Sulfate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-042-0573
[Ni0.75Fe0.25(OH)2][SO42-]0.125・0.5H2O
オ)Magnesium Aluminum Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-038-0478
[Mg0.75Al0.25(OH)2][OH-]0.25・0.5H2O
カ)Magnesium Iron Oxide Chloride Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-020-0500
[Mg0.75Fe0.25(OH)2][Cl-]0.25・0.5H2O
キ)Calcium Aluminum Hydroxide Chloride Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-035-0105
[Ca0.67Al0.33(OH)2][Cl-]0.33・0.67H2O
ク)Magnesium Chromium Carbonate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-045-1475
[Mg0.67Cr 0.33(OH)2][CO32-]0.157・0.5H2O
ケ)Iron Aluminum Oxide Carbonate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-051-1527
[Fe0.67Al0.33(OH)2][CO32-]0.157・0.5H2O
コ)Nickel Aluminum Oxide Carbonate Hydroxide Hydrate
ICDDカート゛リファレンスコート゛: 00-015-0087
[Ni 0.67Al0.33(OH)2][CO32-,OH-]0.157・0.5H2O
【0041】
3)摩擦係数の測定方法
プレス成形性(特に絞り・流入部における成形性)を評価するために、各供試材の動摩擦係数を以下のようにして測定した。図1は摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押し上げることによりビード6による摩擦係数測定用試料1への押し付け荷重Nを測定するための第1ロードセル7がスライドテーブル支持台5に取り付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するために第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取り付けられている。なお、潤滑油としてスギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料1の表面に塗布して試験を行った。
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である(以下ビード形状1)。ビード6の下面が摩擦係数測定用試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。
図3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である(以下ビード形状2)。ビード6の下面が摩擦係数測定用試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
摩擦係数の測定に対しては、高強度鋼板のプレス成形を想定した面圧になるよう、室温(25℃)において、押し付け荷重Nを400、1200、1600kgfの3条件で行った。なお試料の引抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度)は100cm/minおよび20cm/min。これらの条件で、押し付け荷重Nと引抜き荷重Fを測定し、供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
ビード形状および押し付け荷重条件、引き抜き速度の組み合わせは以下の通りである。
条件1: ビード形状1 押し付け荷重400kgf 引き抜き速度100cm/min
条件2: ビード形状1 押し付け荷重1200kgf 引き抜き速度100cm/min
条件3: ビード形状1 押し付け荷重1600kgf 引き抜き速度100cm/min
条件4: ビード形状2 押し付け荷重400kgf 引き抜き速度20cm/min
【0042】
4)型カジリ性の測定方法
動摩擦係数に加え、純亜鉛系めっき鋼板では、摺動距離が長い部位において金型へめっきが付着し摺動抵抗が増加する型カジリが問題となる。そこで、図1に示した摩擦係数測定装置を用いて,摺動試験を50回繰り返し実施し、摩擦係数が0.01以上増加した繰り返し数を型カジリ発生の繰り返し数として、型カジリ性の評価を実施した。ここで、50回繰り返し摺動試験を実施しても摩擦係数の上昇が認められない場合には、50回以上とした。試験条件は上記3)摩擦係数の測定方法と同様に高強度鋼板のプレス成形を想定した面圧になるよう上記の条件1〜条件3で実施した。
【0043】
以上より得られた試験結果を条件と併せて表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を用いた場合
No1は結晶性層状物が含有されていない比較例である。摩擦係数が高く、型カジリ性が劣っている。No2〜27は有機樹脂および結晶性層状物が含有されている本発明例である。No1の比較例と比較すると摩擦係数が低く、型カジリ性が良好である。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いた場合
No28は結晶性層状物が含有されていない比較例である。摩擦係数が高い。No29〜38は有機樹脂および結晶性層状物が含有されている本発明例である。No28の比較例と比較すると摩擦係数が低い。
電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いた場合
No39は結晶性層状物が含有されていない比較例である。摩擦係数が高く、型カジリ性が劣っている。No40〜49は有機樹脂および結晶性層状物が含有されている本発明例である。No39の比較例と比較すると摩擦係数が低く、型カジリ性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の亜鉛系めっき鋼板はプレス成形性に優れることから、難成形材料を必要とする自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に有機樹脂および結晶性層状物を含有する有機無機複合皮膜を有し、該有機無機複合皮膜は、平均膜厚が0.10〜2.0μmであり、有機樹脂の固形分100重量部に対して、固形分として0.5重量部以上の結晶性層状物を含有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記結晶性層状物は [M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であり、前記M2+はMg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Pb2+、Sn2+の1種または2種以上であり、前記M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+、3/4Zr4+、Mo3+の1種または2種以上であり、前記An-は OH-、F-、CO32-、Cl-、Br-、(C2O4)2-、I-、(NO3)-、(SO4)2-、(BrO3)-、(IO3)-、(V10O28)6-、(Si2O5)2-、(ClO4)-、(CH3COO)-、[C6H4(CO2)22-、(C6H5COO)-、[C8H16(CO222-、n(C8H17SO4)-、n(C12H25SO4)-、n(C18H37SO4)-、SiO44-の1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記結晶性層状物は [M2+1-XM3+X(OH)2][An-]x/n・zH2Oで示される層状複水酸化物であり、前記M2+はMg2+、Ca2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+の1種または2種以上であり、前記M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+の1種または2種以上であり、An-が OH-、 CO32-、Cl-、 (SO4)2-の1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記有機樹脂が、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131586(P2011−131586A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261992(P2010−261992)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】