説明

交流交流直接変換装置

【課題】過変調領域での運転を要することなく最大出力電圧を増加させて電動機等の負荷を駆動可能にした交流交流直接変換装置を提供する。
【解決手段】交流電源の多相交流電圧を任意周波数の多相交流電圧に直接変換する直接変換器を備えた交流交流直接変換装置において、三相交流電源1と直接変換器としてのマトリクスコンバータ3との間に単巻変圧器5を接続し、この単巻変圧器5により電源電圧を昇圧してマトリクスコンバータ3に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型のエネルギーバッファを用いることなく、半導体スイッチング素子を用いて多相交流電圧を任意周波数の多相交流電圧に直接変換する交流交流直接変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、この種の交流交流直接変換装置の従来技術を示しており、三相交流電圧を直接変換器としてのマトリクスコンバータにより任意周波数の三相交流電圧に変換する例である。
図4において、1は三相交流電源、2はリアクトル及びコンデンサからなる入力フィルタ、3はマトリクスコンバータ、4は電動機等の負荷である。
【0003】
上記マトリクスコンバータ3は、一端がR,S,T相入力端子に接続され、他端がU相出力端子に一括して接続された3個の双方向スイッチSからなるU相スイッチ3Uと、同様に他端がV相出力端子に一括して接続された3個の双方向スイッチSからなるV相スイッチ3Vと、同様に他端がW相出力端子に一括して接続された3個の双方向スイッチSからなるW相スイッチ3Wとから構成されている。なお、双方向スイッチSは、例えば、図4の下段に示す如くIGBT等の半導体スイッチング素子を2個逆並列に接続して構成されており、電流を双方向に通流可能である。
【0004】
マトリクスコンバータ3は、直流中間回路に電解コンデンサ等を備えたコンバータ/インバータシステムのように大型のエネルギーバッファを用いないため、小型軽量化が可能であると共に、コンバータ/インバータシステムに立脚した制御が可能であり、入出力電流を正弦波に制御できる等の特徴がある。
【0005】
一方、マトリクスコンバータの最大出力電圧は入力電圧の0.86倍になることが知られており、コンバータ/インバータシステムと比べて電圧利用率の点では劣っている。このため、過変調領域での運転を行えば電圧利用率を高めることができるが、出力電圧の歪みや負荷である電動機のトルク脈動等の問題を生じる。
【0006】
この点に鑑み、例えば非特許文献1には、マトリクスコンバータによる電動機の駆動システムにおいて、過変調領域ではマトリクスコンバータの入力電圧に応じ磁束を弱めて電動機の端子電圧を制御することにより、出力電圧や入出力電流の歪みを抑制して正弦波変調時よりも大きな電圧を出力可能とした制御方法が記載されている。
【0007】
一方、三相交流電源を三相トランスを介して多重三相PWMサイクロコンバータに接続してなる電力変換装置において、PWMパルスを作成するためのコントローラの数を減少させると共に、三相交流電源の非対称性や脈動等を考慮に入れてPWMパルスを作成することにより歪みの少ない高電圧を出力可能とした電力変換装置が、特許文献1に記載されている。
また、同様に三相交流電源を三相トランスを介して多重三相PWMサイクロコンバータに接続し、高圧交流電動機を駆動するようにしたものとして、低圧インバータ技術を利用して低歪みの高電圧を発生可能とした電力変換装置が、特許文献2に記載されている。
【0008】
【非特許文献1】佐藤 以久也,他5名,「マトリックスコンバータの電動機駆動性能改善に関する研究」,社団法人電気学会半導体電力変換研究会論文,SPC−04−75,2004年
【特許文献1】特開平11−252992号公報([0017]〜[0019],[0029]、図1,図9等)
【特許文献2】特開2005−45999号公報([0023]〜[0028]、図1,図5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した非特許文献1に開示されている技術を用いれば、過変調領域において入出力電流に大きな歪みが発生するおそれはないが、正弦波変調時と比べると歪みが増加し、コンバータ/インバータシステムと比較すると電動機の駆動特性が悪化する。また、過変調領域における制御は概して複雑であり、制御装置の回路構成の複雑化やコストの上昇を招く等の問題がある。
【0010】
このため、マトリクスコンバータにより電動機を駆動する場合には、過変調領域での運転が不要になる程度まで電動機の電圧定格を下げることが考えられるが、同一出力を得るためには電圧定格を下げた分だけ電流定格が増加したり専用の電動機が必要になる等の不都合があり、これらがマトリクスコンバータの用途を限定してしまう要因となる。
【0011】
そこで、本発明の解決課題は、多相交流電源と直接変換器との間に設けた単巻変圧器により直接変換器の入力電圧を昇圧し、過変調領域での運転を要することなく最大出力電圧を増加させた交流交流直接変換装置を提供することにある。
なお、前記特許文献1,2には、単巻変圧器を用いて直接変換器の入力電圧を昇圧する着想は何ら開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、
半導体スイッチング素子を用いて交流電源の多相交流電圧を任意周波数の多相交流電圧に直接変換する直接変換器を備えた交流交流直接変換装置において、
前記交流電源と前記直接変換器との間に単巻変圧器を接続し、この単巻変圧器により電源電圧を昇圧して前記直接変換器に供給するものである。
【0013】
請求項2に記載した発明は、請求項1において、
前記直接変換器の最大出力電圧が電源電圧と等しくなるように、前記単巻変圧器により電源電圧を昇圧するものである。
【0014】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2において、
前記単巻変圧器の漏れインダクタンスを入力フィルタリアクトルとして利用するものである。
【0015】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3の何れか1項において、
前記単巻変圧器として、多相単巻変圧器を用いるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マトリクスコンバータ等の直接変換器を過変調領域で運転することなく、その最大出力電圧を増加させることができる。このため、負荷である電動機の電圧定格を下げたり専用の電動機を用いる等の対応が不要になり、マトリクスコンバータの汎用性を阻害することもない。同時に、直接変換器の出力電圧や入出力電流の歪みを低減させることができる。
また、直接変換器の入力電圧の昇圧用に単巻変圧器を用いているので、通常の変圧器を用いる場合に比べて装置全体の小型化、低コスト化が可能であると共に、単巻変圧器の漏れインダクタンスを入力フィルタリアクトルとしても利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す構成図であり、図4と同一の構成要素には同一の番号を付して詳述を省略し、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0018】
図1において、直接変換器としてのマトリクスコンバータ3の入力端子R,S,TにはY結線された入力フィルタコンデンサ6が接続されていると共に、三相交流電源1と前記入力端子R,S,Tとの間には、単巻変圧器5が接続されている。
ここで、図2は単巻変圧器5の構成を示しており、5r,5s,5tはマトリクスコンバータ3の入力端子R,S,Tに接続されるY結線の巻線、R’,S’,T’は三相交流電源1側の端子である。
図2(a)は単巻変圧器5を三相単巻変圧器により構成した例、図2(b)は3個の単相単巻変圧器5R,5S,5Tにより単巻変圧器5を構成した例であり、何れの場合にも同一の作用効果を得ることができる。
【0019】
ここで、図3を参照しながら、単相の単巻変圧器の動作原理を通常の二巻線変圧器と比較しつつ以下に説明する。図3(a)は二巻線変圧器、図3(b)は単巻変圧器の回路図である。
図3(b)の単巻変圧器において、周知のように巻線の共通部分(B−C間)を分路巻線、共通でない部分(A−B間)を直列巻線と呼び、分路巻線の巻数をN、全体の巻数をNとすると、分路巻線に加える電圧Vと全体の巻線(A−C間)に誘導される電圧Vとの間には数式1の関係がある。
[数式1]
/V=N/N=a
【0020】
また、単巻変圧器の一次側に流れる電流をI、二次側に流れる電流をIとし、巻線の励磁電流を無視すると、数式2,数式3が成り立つ。
[数式2]
(I−I)=(N−N)I
[数式3]
/I=N/N=1/a
上記の数式1〜3の関係は、図3(a)の二巻線変圧器においても同様である。
【0021】
ここで、単巻変圧器における分路巻線に流れる電流Iは数式4によって表される。
[数式4]
I=I−I=(1−a)I
【0022】
数式4は、分路巻線には一次電流Iと二次電流Iとの差分のみが流れることを示しており、巻数比が1に近くなると電流Iがほぼゼロになるので、分路巻線の小型化ひいては変圧器の小型化が可能である。また、一次巻線と二次巻線とを一部共用しているので、通常の変圧器に比べて体積を大幅に減少させることができ、この点でも小型化を図ることができる。よって、単巻変圧器は昇圧分が少ない用途の変圧器に適していると言える。
【0023】
一方、前述したようにマトリクスコンバータの最大出力電圧は入力電圧の0.86倍であるから、電源電圧を変圧器により昇圧してマトリクスコンバータに入力すれば、マトリクスコンバータの出力可能な電圧範囲を上記電源電圧の大きさまで拡げることができる。しかしながら、通常の三相変圧器を用いて昇圧する場合には変圧器の体格が大きく、装置全体の大型化やコストの上昇を招く。
【0024】
そこで、本実施形態では、昇圧比が小さい用途に最適な単巻変圧器5により電源電圧を昇圧してマトリクスコンバータ3に入力することにより、その最大出力電圧を三相交流電源1の電源電圧まで増加させるようにしたものである。
直接変換器としてマトリクスコンバータを用いた場合に従来のコンバータ/インバータシステムと同等の最大出力電圧を得るためには、電源電圧を15%程度昇圧してマトリクスコンバータに入力すれば良く、この場合の昇圧用変圧器としては、小型化を考慮した場合に単巻変圧器が最適である。
【0025】
電源電圧を15%程度昇圧する場合、数式1における巻数比aが0.85の単巻変圧器を使用すればよく、その時に単巻変圧器の分路巻線に流れる電流Iは、数式4から入力電流Iの15%で済むため、分路巻線の小型化が可能になる。また、直列巻線には入力電流とほぼ等しい電流が流れるものの、昇圧分は15%であるので直列巻線の体積増加もそれほど問題にならない。
【0026】
具体的には、図2に示す単巻変圧器5を図1のように三相交流電源1とマトリクスコンバータ3の入力端子R,S,Tとの間に接続し、単巻変圧器5の巻数比aを0.85に設定することにより、三相交流電源1の線間電圧を15%程度昇圧してマトリクスコンバータ3に入力することができ、正弦波変調によりマトリクスコンバータ3を運転してその出力電圧を増加させると共に、出力電圧や入出力電流の歪みを低減することができる。
【0027】
これにより、過変調領域での制御に伴う回路構成の複雑化やコストの上昇を招くこともなく、負荷4である電動機の電圧定格を下げたり専用の電動機を用いる必要もないため、マトリクスコンバータの汎用性を損なう心配もない。
更に、本実施形態によれば、単巻変圧器5の漏れインダクタンスを入力フィルタリアクトルとして利用することができるから、入力フィルタリアクトルを別個に設ける必要がなく、この点でも装置全体の小型化、低コスト化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図である。
【図2】図1における単巻変圧器の構成図である。
【図3】二巻線変圧器及び単巻変圧器の回路図である。
【図4】従来技術を示す構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1:三相交流電源
3:マトリクスコンバータ
3U:U相スイッチ
3V:V相スイッチ
3W:W相スイッチ
4:負荷
5:単巻変圧器
5r,5s,5t:巻線
5R,5S,5T:単相単巻変圧器
S:双方向スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子を用いて交流電源の多相交流電圧を任意周波数の多相交流電圧に直接変換する直接変換器を備えた交流交流直接変換装置において、
前記交流電源と前記直接変換器との間に単巻変圧器を接続し、この単巻変圧器により電源電圧を昇圧して前記直接変換器に供給することを特徴とする交流交流直接変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載した交流交流直接変換装置において、
前記直接変換器の最大出力電圧が電源電圧と等しくなるように、前記単巻変圧器により電源電圧を昇圧することを特徴とする交流交流直接変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した交流交流直接変換装置において、
前記単巻変圧器の漏れインダクタンスを入力フィルタリアクトルとして利用することを特徴とする交流交流直接変換装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した交流交流直接変換装置において、
前記単巻変圧器として、多相単巻変圧器を用いることを特徴とする交流交流直接変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−68247(P2007−68247A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247233(P2005−247233)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】