説明

交流安定化電源装置

【課題】比較的簡単な構成により、交流電源電圧の変動時にも所定の大きさの交流電圧を安定して出力可能とした交流安定化電源装置を提供する。
【解決手段】交流電源1の一端と昇圧トランス2の一次巻線2aの一端との間に直列に接続された電圧降下ブロック4〜4及び補助ブロック410と、各ブロック4〜4の両端をそれぞれ短絡させるスイッチ5〜5と、電圧検出器6の出力電圧を整流する整流回路7と、その出力電圧を基準電源8a,9aの基準電圧とそれぞれ比較するコンパレータ8,9と、これらの出力信号に基づいてスイッチ5〜5をオンオフするスイッチ制御回路10とを備える。昇圧トランス2の二次側電圧に応じてスイッチ5〜5をオンオフし、電圧降下ブロック4〜4による電圧降下の合計値を変化させて一次巻線2aの電圧を制御し、二次巻線2bの電圧を所定値に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば交流式イオナイザ用の高圧電源装置として使用される交流安定化電源装置に関し、詳しくは、交流電源電圧の変動に関わらず安定した交流電圧を出力可能な交流安定化電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流式イオナイザは、放電針に交流の高電圧を印加することにより、放電針と接地電極との間にコロナ放電を生じさせて放電針の周囲に正負のイオンを発生させ、これらのイオンをファン等により除電対象物に供給して除電を行うものである。この種の交流式イオナイザ用の高圧電源装置としては、例えば後述する特許文献1に係る除電用電源装置が公知となっている。
【0003】
この特許文献1に係る除電用電源装置は、スイッチング素子及びフライバックトランスを有するフライバックコンバータによって構成されており、スイッチング素子のオンオフに伴うフライバック動作により、フライバックトランスの二次側に高圧の鋸歯状波を発生させて放電針に印加するように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特許文献1:特開2004−273357号公報(段落[0032]〜[0043]、図11〜図16等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した除電用電源装置では、矩形波発生回路やスイッチング素子等が必要であるため、回路構成が複雑化して高コストになるという問題がある。
また、電源電圧が変動してもほぼ一定の交流電圧を供給可能とした交流安定化電源装置として、インバータを使用したものや無停電電源装置(UPS)等も知られているが、これらの電源装置は、交流式イオナイザ全体のコストを低く抑えたい場合には不向きである。
【0006】
そこで本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、比較的簡単な構成により、交流電源電圧の変動時にも所定の大きさの交流電圧を安定して出力可能とした交流安定化電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、交流電源と、この交流電源電圧が一次巻線に印加されて二次巻線の出力電圧が負荷に供給されるトランスと、を備えた電源装置において、前記交流電源の一端と前記一次巻線の一端との間に直列に接続された複数の電圧降下ブロックと、各電圧降下ブロックの両端をそれぞれ短絡させるスイッチと、これらのスイッチのオンオフを制御する制御手段とを備え、前記電圧降下ブロックは、互いに逆方向に直列接続された複数のツェナーダイオードからなり、前記二次巻線の出力電圧に応じて前記制御手段により前記スイッチをオンオフ制御することにより、前記電圧降下ブロックによる電圧降下の合計値を変化させて前記一次巻線の電圧を制御し、前記二次巻線の電圧を所定値に保つことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した交流安定化電源装置において、前記電圧降下ブロックを、ツェナー電圧が等しいツェナーダイオードを同数ずつ互いに逆方向に直列接続して構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載した交流安定化電源装置において、アノードを交流電源側に向けて直列接続した複数のツェナーダイオードからなる補助ブロックを、前記電圧降下ブロックに更に直列接続したことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載した交流安定化電源装置において、前記制御手段は、前記二次巻線の電圧を検出する電圧検出器と、この電圧検出器の出力を整流する整流回路と、この整流回路の出力電圧を基準電圧とそれぞれ比較する一対のコンパレータと、これらのコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオンオフ制御する制御回路とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載した交流安定化電源装置において、前記一対のコンパレータは、前記整流回路の出力電圧が基準電圧を下回った時に「High」レベルの信号を出力する第1のコンパレータと、前記整流回路の出力電圧が基準電圧を上回った時に「High」レベルの信号を出力する第2のコンパレータと、から構成され、前記スイッチ制御回路は、第1のコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオンさせ、第2のコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオフさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電圧降下ブロック及び補助ブロック、スイッチ、昇圧トランス、電圧検出器、整流回路、コンパレータ及び基準電源、スイッチ制御回路等からなる比較的簡単な回路構成により、負荷に安定した交流電圧を供給することができる。
また、スイッチのオンまたはオフによって回路に挿入される電圧降下ブロックの数すなわちインピーダンスが変化するため、交流電源から流入する電流値が変化することになるが、昇圧トランスの二次側からは安定したほぼ一定の交流電圧を出力させることができる。
なお、本発明は、交流式イオナイザの放電針ばかりでなく種々の負荷を対象とした交流安定化電源装置に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1はこの実施形態の構成を示す回路図であり、本発明を交流式イオナイザ用の高圧電源装置に適用した場合のものである。
図1において、1は交流電源、2は昇圧トランス、2aは昇圧トランス2の一次巻線、2bは二次巻線、3は負荷(放電針及び接地電極)を示している。
また、4,4,4,……,4は電圧降下ブロック、410は補助ブロックであり、これらのブロック4〜410は何れも複数のツェナーダイオードを直列に接続して構成されている。
【0014】
まず、電圧降下ブロック4〜4は、図2に示すように何れも同一の構成であり、カソードを交流電源1側に向けて同一方向に直列接続された4個のツェナーダイオード40と、これらとは逆方向にアノードを交流電源1側に向けて直列接続された4個のツェナーダイオード40とを直列に接続して構成されている。
また、図3に示すごとく、最終段の補助ブロック410は、アノードをすべて交流電源1側に向けて同一方向に直列接続された12個のツェナーダイオード40から構成されている。
【0015】
電圧降下ブロック4〜4には、それぞれの両端を短絡させるためのスイッチ5〜5が並列に接続されており、これらのスイッチ5〜5は、後述するスイッチ制御回路10から出力される制御信号によってオンオフ可能となっている。ここで、スイッチ5〜5は例えばフォトモスリレーにより構成されている。
【0016】
なお、上述した電圧降下ブロック4〜4及び補助ブロック410内のツェナーダイオード40の直列個数、電圧降下ブロックの個数等はあくまで一例であり、上記の例に何ら限定されるものではない。
また、図2における電圧降下ブロック4〜4ではツェナーダイオード40が4個ずつ同一方向に直列接続されているが、1個ずつ交互に逆方向に直列接続しても良い。
【0017】
さて、図1において、負荷3の両端には、分圧抵抗等からなる電圧検出器6が接続されており、その電圧検出値は整流回路7を介して第1のコンパレータ8の反転入力端子と第2のコンパレータの非反転入力端子とに入力されている。なお、第1のコンパレータ8の非反転入力端子、第2のコンパレータ8の反転入力端子には、それぞれ第1,第2の基準電源8a,9aによる基準電圧が加えられている。
【0018】
また、第1,第2のコンパレータ8,9の出力信号はスイッチ制御回路10に加えられており、このスイッチ制御回路10から出力される制御信号により、スイッチ5〜5を順次、オンまたはオフさせるように構成されている。上記スイッチ制御回路10は、例えばCPUによって構成されるものである。
ここで、電圧検出器6、整流回路7、第1,第2のコンパレータ8,9及び基準電源8a,9a、スイッチ制御回路10は、本発明における制御手段を構成している。
【0019】
次に、この実施形態の動作を説明する。
例えば、ツェナーダイオード40としてツェナー電圧が約3〔V〕のものを使用した場合について考察する。
【0020】
いま、一つの電圧降下ブロック、例えば電圧降下ブロック4に着目すると、交流電源1の電圧極性が正であれば、交流電源1側にカソードが向いている逆接続状態のツェナーダイオード1個の両端電圧が約3〔V〕であるから、これら逆接続状態のツェナーダイオード4個の直列回路の両端電圧は約12〔V〕となる。また、交流電源1側にアノードが向いている順接続状態のツェナーダイオード1個の順方向電圧降下が約0.7〔V〕であるから、これら順接続状態のツェナーダイオード4個の直列回路の両端電圧は約2.8〔V〕となる。
このため、これらの電圧の合計値(約14.8〔V〕)が電圧降下分として作用し、交流電源電圧からみると実効値で約10〔V〕(≒14.8〔V〕×0.7)の電圧降下が得られる。
【0021】
上記の作用は、交流電源1の電圧極性が負になった場合も同様であり、電源電圧の極性に関わらず、交流電源1と昇圧トランス2の一次巻線2aとの間に電圧降下ブロックが挿入されている場合(スイッチによって電圧降下ブロックの両端が短絡されていない場合)は、電圧降下ブロック1個について約10〔V〕の電圧効果が得られる。言い換えれば、電圧降下ブロック毎に並列接続されているスイッチ、例えばスイッチ5をオンして電圧降下ブロック4の両端を短絡することで、その電圧降下ブロック4による上記電圧降下をゼロにすることができる。
【0022】
従って、昇圧トランス2の二次側の電圧検出値と設定値との差に応じて必要数のスイッチをオンまたはオフさせることにより、電圧降下ブロックによる電圧降下の合計値を段階的に変化させて一次巻線2aに印加される電圧を変化させ、結果として、二次巻線2bの出力電圧が設定値にほぼ一致するように制御することが可能である。
なお、電圧降下ブロックによる電圧降下の値は、個々のツェナーダイオードのツェナー電圧やその直列数によって任意に設定できることが明らかであり、回路全体における電圧降下の合計値は、電圧降下ブロックの直列数を変更すれば任意に設定可能である。
【0023】
昇圧トランス2の二次側電圧を設定値にほぼ一致させるための制御手段としては、まず、二次巻線2bに並列に接続された電圧検出器6による電圧検出値を整流回路7にて直流電圧に変換し、その電圧を第1,第2のコンパレータ8,9により各基準電源8a,9aの基準電圧とそれぞれ比較する。この実施形態において、第1のコンパレータ8は、その出力信号が「High」レベルになるとスイッチ制御回路10を介してスイッチ5〜5を順次オンさせていくためのスイッチオン用コンパレータ、第2のコンパレータ9は、その出力信号が「High」レベルになるとスイッチ制御回路10を介してスイッチ5〜5を順次オフさせていくためのスイッチオフ用コンパレータとして機能している。
【0024】
すなわち、基準電源8a,9aによる基準電圧を予め所定値に設定した状態で、第1のコンパレータ8に入力される電圧が基準電源8aの基準電圧より低い場合にはコンパレータ8の出力信号が「High」レベルになり、スイッチ制御回路10を介してスイッチ5,5,……を順次オンさせることで各電圧降下ブロックの両端を短絡していく。
これにより、各ブロックごとの電圧降下分が順次なくなるので、一次巻線2aに印加される電圧は約10〔V〕刻みで増加していくことになる。
【0025】
一方、第2のコンパレータ9に入力される電圧が基準電源9aの基準電圧より高い場合にはコンパレータ9の出力信号が「High」レベルになり、スイッチ制御回路10を介してスイッチ5,5,……を順次オフさせることで各電圧降下ブロックを交流電源1と一次巻線2aとの間に挿入していく。
これにより、各ブロックごとの電圧降下分が順次増加するので、一次巻線2aに印加される電圧は約10〔V〕刻みで減少していくことになる。
【0026】
このため、昇圧トランス2の二次側電圧が所定値になった時点で第1,第2のコンパレータ8の出力信号を何れも「Low」レベルとし、スイッチ5〜5のオンオフ状態を固定することができる。言い換えれば、昇圧トランス2の二次側電圧が設定値にほぼ等しくなるように基準電源8a,9aによる基準電圧を予め決めておけば、交流電源1の電圧が変動した場合でも、スイッチ5〜5のオンオフ状態により所要数の電圧降下ブロックを挿入または短絡させる回路構成を実現して昇圧トランス2の二次側電圧をほぼ設定値どおりに維持することが可能である。
【0027】
なお、基準電源8a,9aを単一にして第1,第2のコンパレータ8,9に共通とすることも可能であるが、電圧降下ブロック4〜4及び補助ブロック410を構成するツェナーダイオード40のツェナー電圧のばらつきにより、交流電源1の電圧極性に応じて電圧降下の合計値が異なり、これによって昇圧トランス2の二次側電圧を設定値通りに制御できないこともあるので、本実施形態では個別に基準電源8a,9aを設けることとしている。
ここで、第1,第2のコンパレータ8,9の出力信号を用いてスイッチ5〜5を順次オンまたはオフさせるスイッチ制御回路10は、シフトレジスタ等を用いて容易に構成することができる。
【0028】
なお、この種の交流式イオナイザは、放電針に印加する交流電圧の正負の振幅が等しい場合でも正イオンより負イオンの方が多く発生する傾向があるため、図1における最終段の補助ブロック410は、放電針から発生する正負イオンのバランスを保つために、交流電源1の電圧極性が正の時の昇圧トランス2の二次側電圧の振幅を負の時よりも大きくするように作用している。
この場合、補助ブロック410を独立して設けずに、補助ブロック410を構成する数のツェナーダイオード40を他の電圧降下ブロック4〜4に振り分けても同様の作用を得ることができる。更に、補助ブロック410は最終段に限らず、交流電源1側の初段に挿入したり、電圧降下ブロック4〜4の相互間に挿入しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す回路図である。
【図2】図1における主要部の回路図である。
【図3】図1における主要部の回路図である。
【符号の説明】
【0030】
1:交流電源
2:昇圧トランス
2a:一次巻線
2b:二次巻線
3:負荷(放電針及び接地電極)
〜4:補助ブロック
10:補助ブロック
〜5:スイッチ
6:電圧検出器
7:整流回路
8:第1のコンパレータ
9:第2のコンパレータ
8a,8b:基準電源
10:スイッチ制御回路
40:ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と、この交流電源電圧が一次巻線に印加されて二次巻線の出力電圧が負荷に供給されるトランスと、を備えた電源装置において、
前記交流電源の一端と前記一次巻線の一端との間に直列に接続された複数の電圧降下ブロックと、
各電圧降下ブロックの両端をそれぞれ短絡させるスイッチと、
これらのスイッチのオンオフを制御する制御手段と、を備え、
前記電圧降下ブロックは、
互いに逆方向に直列接続された複数のツェナーダイオードからなり、
前記二次巻線の出力電圧に応じて前記制御手段により前記スイッチをオンオフ制御することにより、
前記電圧降下ブロックによる電圧降下の合計値を変化させて前記一次巻線の電圧を制御し、前記二次巻線の電圧を所定値に保つことを特徴とする交流安定化電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載した交流安定化電源装置において、
前記電圧降下ブロックを、ツェナー電圧が等しいツェナーダイオードを同数ずつ互いに逆方向に直列接続して構成したことを特徴とする交流安定化電源装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した交流安定化電源装置において、
アノードをすべて交流電源側に向けて直列接続した複数のツェナーダイオードからなる補助ブロックを、前記電圧降下ブロックに更に直列接続したことを特徴とする交流安定化電源装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した交流安定化電源装置において、
前記制御手段は、
前記二次巻線の電圧を検出する電圧検出器と、この電圧検出器の出力を整流する整流回路と、この整流回路の出力電圧を基準電圧とそれぞれ比較する一対のコンパレータと、これらのコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオンオフ制御する制御回路と、を備えたことを特徴とする交流安定化電源装置。
【請求項5】
請求項4に記載した交流安定化電源装置において、
前記一対のコンパレータは、前記整流回路の出力電圧が基準電圧を下回った時にHighレベルの信号を出力する第1のコンパレータと、前記整流回路の出力電圧が基準電圧を上回った時にHighレベルの信号を出力する第2のコンパレータと、から構成され、
前記スイッチ制御回路は、第1のコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオンさせ、第2のコンパレータの出力信号に基づいて前記スイッチをオフさせることを特徴とする交流安定化電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−80009(P2007−80009A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267760(P2005−267760)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(591252781)ヒューグルエレクトロニクス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】