説明

交通情報処理装置、コンピュータプログラム及び交通情報処理方法

【課題】信号機の情報を利用して道路上の交通渋滞区間の先頭位置を精度よく特定し、交通情報及び信号制御の高精度化を可能とする交通情報処理装置、コンピュータプログラム及び交通情報処理方法を提供する。
【解決手段】交通情報処理装置1は、車両VA,VB,VCに搭載されている車載装置から送信される時刻情報、位置情報及び速度情報を通信装置2,2,…を介して受信する。また、交通情報処理装置1は、信号制御装置4から送信される信号機5における青信号開始時刻情報を受信する。交通情報処理装置1は、青信号開始タイミングと、車両VA,VB,VCが発進して渋滞を脱して速度を増進させることが可能となったこととが関係を有する場合は停止線を渋滞の先頭位置と特定し、関係を有さない場合は速度を増進可能となった地点を渋滞の先頭位置と特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上の交通渋滞の発生の有無の検知及びその渋滞区間を検出するための技術に関する。特に、渋滞区間の先頭位置を詳細に特定し、交通情報及び信号制御の高精度化を可能とする交通情報処理装置、コンピュータプログラム及び交通情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路上での交通渋滞の発生を検知し、ネットワークを介して渋滞情報をリアルタイムに開示するシステムが普及している。このようなシステムでは、道路をリンクと呼ばれる区間に区切り、各区間内での車両の速度が所定値よりも低いか否かによって当該区間が渋滞区間であるか否かが判定される。
【0003】
特許文献1には、外部と情報を通信する機能を搭載した移動局である車両が自身の位置情報をGPS(Global Positioning System)を利用して取得し、基地局である管理センターへ送信し、管理センターでは車両の位置情報を受信して車両の速度を算出し、速度が基準速度よりも低い場合には車両が走行中の区間を渋滞区間と判定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−35189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8は、従来技術によりリンク毎に判定された渋滞区間の例を示す模式図である。図8の模式図に示す内容例では、道路は交差点及び交差点間の区間の略中点を基準にリンクに区切られ、夫々「01」から「15」までの符号により識別されている。また、図8の模式図に示す内容例では、「03」、「05」、「06」、「07」及び「14」のリンクが渋滞区間として判定されており、ハッチングにより他のリンクと区別して表わされている。特に、「03」及び「05」のリンクではリンク内を走行中の車両夫々の速度が基準速度よりも低いので、渋滞区間であると判定されている。
【0005】
渋滞の発生原因を大別した場合、交差点での信号待ちと、単路部での事故、駐車、工事等による容量低下とに分けられる。リンク毎に渋滞区間であるか否かを判定する構成では、渋滞の先頭位置は概ねリンクの先頭位置であるとして特定される。しかしながら、各リンクの先頭位置が現実に渋滞の先頭であるとは限らない。図8中の「03」のリンクが信号待ちによる渋滞区間である場合、渋滞の先頭位置は信号機に対応する停止線付近である一方、「07」のリンクが単路部での容量低下による渋滞区間である場合、渋滞の先頭位置は容量低下の原因となる事象が発生している位置である。
【0006】
したがって、渋滞の先頭位置を詳細に特定することができれば、渋滞の発生原因がいずれかを自動的に判別することができる。そして、信号待ちを発生原因とする渋滞が発生している場合には係る信号機の青時間を延長する制御によって交通流をスムーズにさせることができる可能性がある。
【0007】
しかしながら、従来技術のように渋滞区間であるか否かをその区間内を走行する車両の速度によって判定するのみでは、渋滞の先頭位置が停止線であることを特定することができず、他の発生原因と判別できない。渋滞の先頭位置が進行方向の信号機に対応する停止線である場合、外部へ速度の情報を送信できる車両が信号待ちの車列の先頭であるとは限らず、停止線よりも手前の位置で停止していることが多いと考えられる。この場合、基準速度よりも十分に早い速度で真の渋滞の先頭位置である停止線の付近を通過し、車両の速度が基準速度以上を満たす地点は停止線よりもまだ手前であると考えられる。したがって、停止線が真の渋滞の先頭位置である場合、正確に先頭位置を特定することができない。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、信号機の情報を利用して道路上の交通渋滞区間の先頭位置を精度よく特定し、交通情報及び信号制御の高精度化を可能とする交通情報処理装置、コンピュータプログラム及び交通情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る交通情報処理装置は、道路の渋滞情報を取得する手段を備え、渋滞区間の先頭位置を特定するようにしてある交通情報処理装置において、渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出する算出手段と、前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求める手段と、前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定する特定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る交通情報処理装置は、前記特定手段は、前記発進波伝播時間と前記経過時間との差分が所定値以下であるか否かを判断する判断手段を備え、該判断手段が所定値以下であると判断した場合、前記信号機に対応する停止線を渋滞先頭位置と特定するようにしてあることを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る交通情報処理装置は、前記判断手段が所定値を超えると判断した場合、算出されてある前記先頭位置候補に基づいて渋滞先頭位置を特定するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る交通情報処理装置は、前記車両の複数時点での加速度の時間変化を算出する手段を備え、前記判断手段が所定値を超えると判断した場合、前記車両が前記先頭位置候補を通過した時点の前又は後の所定時間以内における前記車両の加速度の時間変化に基づいて渋滞先頭位置を特定するようにしてあることを特徴とする。
【0013】
第5発明に係る交通情報処理装置は、前記算出手段は、前記車両の過去所定時間以内の平均速度が所定速度以上へ変化した時点に基づいて前記車両の位置を先頭位置候補とするようにしてあることを特徴とする。
【0014】
第6発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、道路の渋滞情報を取得させ、渋滞区間の先頭位置を特定させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータを、渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出する算出手段、前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求める手段、並びに、前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定する特定手段として機能させることを特徴とする。
【0015】
第7発明に係る交通情報処理方法は、道路の渋滞情報を取得し、渋滞区間の先頭位置を特定する交通情報処理方法において、渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出し、前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求め、前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定することを特徴とする。
【0016】
第1発明、第6発明及び第7発明では、渋滞が発生している場合、渋滞区間及びその周辺を走行中の車両の複数時点での位置に基づいて先頭位置候補が算出される。先頭位置候補は、速度が所定速度以上となった場合、前方の車両との車間距離が所定値以上となった場合等、車両が渋滞区間を脱し、速度を増進させることが可能となった位置に相当する。車両の速度を用いる場合は複数時点での位置から算出してもよいし、各時点での速度の情報を取得するようにしてもよい。信号待ちを発生原因とする渋滞区間では、車両が速度を増進させることが可能となる時点は、信号機で青信号の表示が開始されてから発進波が伝播して車両に到達するまでに要する時間との間に関係性を有するはずである。
【0017】
ここでいう発進波とは、車両の待ち行列の先頭の車両が発進を開始してから後方の車両が発進を開始するまでに時間差が生じ、先頭の車両から後方の車両へ次々と発進の開始が伝播する様子を波として捉えて定義されるものである。本発明では、発進波が停止線から、車両が速度を増進することが可能となった先頭位置候補へ伝播するまでに要する発進波伝播時間と、実際に青信号が開始された時点から車両が先頭位置候補を通過する時点、即ち速度を増進させることが可能となった時点までの経過時間とが求められ、発進波伝播時間と経過時間との関係に基づき、先頭位置候補が信号機の制御と関係を有するか否かの特定が可能となる。
【0018】
第2発明では、発進波が停止線から先頭位置候補へ伝播するまでに要する発進波伝播時間と、青信号が開始されてから先頭位置候補を車両が通過するまでに要した経過時間との差分が所定値以下でほぼ一致する場合、信号機で青信号表示が開始されたことに応じて発進波が先頭から次々に伝播し、車両が発進されて速度の増進が可能となったと判別することが可能である。この場合渋滞区間の先頭位置は、速度の増進が可能となった位置ではなく信号機に対応する停止線の位置である。
【0019】
第3発明では、発進波が停止線から先頭位置候補へ伝播するまでに要する発進波伝播時間と、青信号が開始されてから先頭位置候補を車両が通過するまでに要した経過時間との差分が所定値を超えて一致するとは判断できない場合、信号機で青信号表示が開始されたことと速度の増進が可能となったこととの関係性が低く、車両が速度を増進させることが可能となった位置に相当する先頭位置候補及びその近傍の位置が実際に渋滞区間の先頭位置である可能性が高いので、先頭位置候補に基づいて先頭位置が特定される。
【0020】
第4発明では、車両が速度を増進させることが可能となった位置に相当する先頭位置候補及びその近傍の位置が実際に渋滞区間の先頭位置である可能性が高い場合は特に、渋滞から脱した時点で加速が可能となるので、加速度の時間変化即ち加加速度(躍度)が大きくなると推測できる。したがって、加速度の時間変化が大きい期間に相当する車両の位置が渋滞区間の先頭位置として特定される。
【0021】
第5発明では、渋滞区間の先頭に相当する地点、即ち渋滞から脱した地点では加速が可能となり、十分な速度で走行されることが推測されるので、車両の過去所定時間以内の平均速度が所定速度以上の状態となった時点に基づいて車両の位置が先頭位置候補が算出される。
【発明の効果】
【0022】
本発明による場合、信号機の情報を利用し、信号機の青色表示の開始と渋滞区間を走行中の車両の速度増進との時間関係の有無から信号待ちを発生原因とする渋滞と、それ以外の渋滞とが判別され、夫々に応じて渋滞区間の先頭位置が精度よく特定される。先頭位置が精度よく特定されることにより、渋滞情報を高精度とすることができ、更に信号待ちを発生原因とする渋滞の場合には、原因となる信号機の青信号を延長する等の制御によって交通流をスムーズにさせることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における交通情報処理装置による処理の概要を示す模式図である。交通情報処理装置1は、図1に示される道路の路側又は遠隔地の交通管制センターに設置されている。通信装置2,2,…は路側に設置されており、GPS(Global Positioning System)を利用した測位機能を有する車載装置3,3(図2参照),…から送信される情報を取得可能である。信号制御装置4,4,…は、接続している信号機5の赤色灯、黄色灯、青色灯、青矢印等の信号表示を制御する。通信装置2,2,…及び信号制御装置4,4,…は、交通情報処理装置1と通信可能に接続されている。図1の模式図中の破線に示すように接続形態は有線により接続される構成でもよいし、交通情報処理装置1が交通管制センターに設置されている場合には無線により通信が可能な構成でもよい。図1中のVA,VB,VCは、GPSを利用した測位機能を有する車載装置3を搭載した車両である。なお、図1の模式図では、車載装置3,3,…、一部の通信装置2,2,…及び信号制御装置4,4,…、並びに夫々の接続関係の図示を省略している。
【0025】
通信装置2,2,…は、車両VA,VB,VC夫々に搭載されている車載装置3から一定周期(例えば100ミリ秒毎)に送信される車両の識別情報(ID)、位置情報及び速度情報を受信し、受信した各情報を交通情報処理装置1へ送信する。速度情報は車載装置3から送信されず、交通情報処理装置1で位置情報に基づき車両の速度を算出する構成としてもよい。また、信号制御装置4,4,…は信号機5の各色表示を制御すると共に、各色表示を開始させる都度、開始時刻の情報を交通情報処理装置1へ送信する。
【0026】
交通情報処理装置1は、道路の区間毎に夫々渋滞が発生しているか否かの判定を行なう。渋滞が発生しているか否かの判定は、通信装置2,2,…を介して送信される車両の識別情報、位置情報及び速度情報に基づき、例えば車両VAの過去所定時間(例えば1分)以内における平均速度が基準速度(10km/h(時間))未満である場合には当該所定時間に相当する区間、車両VAが走行中の区間で渋滞が発生していると判定するようにしてもよいし、道路を区切る区間(リンク)毎のVICS(登録商標)情報を取得して判定する構成としてもよい。また、路上に設置されている車両感知器により道路の占有率を計測し、計測された占有率に基づいて渋滞が発生しているか否かを判定する構成としてもよい。
【0027】
そして、実施の形態1における交通情報処理装置1は、渋滞が発生していると判定される区間を車載装置3を搭載した車両が走行中である場合、当該車両から送信される各情報及び信号制御装置4から送信される青信号開始時刻の情報を用いて渋滞の先頭位置を特定する。渋滞の先頭位置を特定するためにまず、交通情報処理装置1は渋滞の先頭位置候補を決定し、候補として決定した渋滞の先頭位置が、実際に先頭位置であるか否かを信号制御装置4から送信される青信号開始時刻の情報を用いて判断する。
【0028】
例えば、図1の模式図に示すように車両VBが走行している区間では、単路部において停止車両が存在することによる容量低下を原因とする渋滞が発生している。容量低下の起因としては事故車、故障車等の停止車両の他に車線減少、合流等がある。これらの場合、車両VBが速度を増進させることが可能となる地点は実際に渋滞を脱した地点ということができる。したがって、車両が速度を増進させることが可能となる地点を渋滞先頭位置とすることにより、渋滞区間の先頭位置を各リンクの先頭とするよりも詳細に先頭位置を特定することができる。
【0029】
一方、図1の模式図に示すように車両VAが走行している区間では、信号待ちを原因とする渋滞が発生している。この場合、車両が速度を増進させることが可能となった地点が実際に渋滞を脱した時点とはいえない。信号待ちを原因とする渋滞の区間の先頭は、車両VAの進行方向の信号機5に対応する停止線の位置だからである。この場合、車両VAが発進可能となる時点は、停止線付近を起点とする待ち行列中の車両VAの位置までに発進波が到達する時点とほぼ一致するはずである。
【0030】
ここで、発進波とは以下のように定義されるものである。前方で渋滞が発生していない状況で、走行中の車両が停止して待ち行列を形成している場合に、待ち行列の先頭の車両が発進を開始してから後方の車両が発進を開始するまでには時間差が生じる。この場合に、先頭の車両から後方の車両へ次々と発進の開始が伝播する様子を波として捉えて発進波と定義するものである。
【0031】
また、図1の模式図に示すように車両VCが走行している区間でも渋滞が発生している。しかしながらこの渋滞は、車両VCの進行方向直後の信号機5よりも更に前方の区間(車両VBが走行している区間)における渋滞が原因であり、当該区間には渋滞の先頭位置は存在しないはずである。
【0032】
このように、車両が速度を増進させることが可能となる地点を渋滞先頭位置とすることにより、渋滞区間の先頭位置を各リンクの先頭とするよりも詳細に先頭位置を特定することができるが、原因によらずに全ての渋滞区間で同様に先頭位置を特定した場合、誤って特定される場合がある。
【0033】
そこで、実施の形態1における交通情報処理装置1は、渋滞区間を走行していた車両が速度を増進させることが可能となった時点における車両の位置を渋滞の先頭位置候補とし、青信号表示が開始されるタイミングと、車両が速度を増進させることが可能となるタイミングとの間の関係の有無に応じて渋滞の先頭位置を特定する。単路部での容量低下を発生原因とする渋滞では、これらのタイミングの間に関係は無い。車両VBは、容量低下の要因となる事象が発生している地点を起点に形成されている待ち行列中の先頭車両から後方へ順に各車両が発進していくことにより後に発進が可能となるのであって、車両VBの進行方向の信号機5での青信号表示とは必ずしも関係しないからである。一方、信号待ちを発生原因とする渋滞では、これらのタイミングの間に関係が有るはずである。車両VAは、停止線を先頭とする待ち行列中の先頭車両から順に各車両が発進していくことにより後に発進が可能となり、先頭車両が発進するタイミングは信号機5の青信号表示が開始されるタイミングだからである。
【0034】
したがって、青信号表示が開始されたタイミングと、車両が速度を増進させることが可能になったタイミングとで関係を有している場合には信号待ちを発生原因とすると判別でき、車両の進行方向の信号機5に対応する停止線を渋滞の先頭位置と特定する。一方で青信号表示が開始されたタイミングと、車両が速度を増進させることが可能になったタイミングとで関係を有さない場合には渋滞の発生原因は信号待ちではないと判別でき、やはり車両が速度を増進させることが可能になった時点における車両の位置が渋滞の先頭位置と特定する。このように渋滞の先頭位置をより詳細に、且つ正確に特定することが可能となる。
【0035】
以下に、上述のような渋滞の先頭位置の詳細且つ正確な特定を実現するための交通情報処理装置1の構成について詳細を説明する。図2は、実施の形態1における交通情報処理装置1、通信装置2、車載装置3及び信号制御装置4の内部構成を示すブロック図である。
【0036】
車載装置3は車両に搭載され、制御部30、記憶部31、GPS受信部32及び送信部33を備えている。制御部30は各構成部を制御する。記憶部31には車両を識別する識別情報(ID)が記憶されている。GPS受信部32は、GPS(Global Positioning System)衛星から時刻情報を受信する機能を有している。
【0037】
車載装置3の制御部30は、GPS受信部32により受信した時刻情報に基づき車両の位置情報を算出する。また制御部30は、車両に搭載されている速度検出装置から速度情報を取得するように構成してある。そして制御部30は、GPS受信部32により受信した時刻情報、当該時刻情報に基づいて算出した位置情報及び取得した速度情報を、記憶部31から読み出した車両の識別情報と共に送信部33により通信装置2へ送信する。この際の位置情報の算出タイミング及び送信タイミングは、100ミリ秒毎の一定周期とする。なお、車載装置3から送信される時刻情報はGPS受信部32により受信した時刻情報でなくともよい。車載装置3は所定の周波数により時間を計測する計時部を備える構成とし、所定の基準時刻からの経過時間を計測し、制御部30は算出した位置情報に対応する時間情報を計時部から取得して送信してもよい。
【0038】
通信装置2は、制御部20、受信部21、及び送信部22を備えている。通信装置2の制御部20は各構成部を制御する。受信部21は車載装置3から送信される車両の識別情報、時刻情報、位置情報、及び速度情報を受信する機能を有する。送信部22は、交通情報処理装置1との通信を実現する機能を有する。制御部20は受信部21により受信した車両の識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を送信部22により交通情報処理装置1へ送信する。
【0039】
信号制御装置4は、制御部40、記憶部41、計時部42、出力部43及び通信部44を備えている。制御部40は各構成部を制御する。記憶部41には信号機5の青色灯、黄色灯、赤色灯、青矢印等の各色の信号表示の開始タイミングが記憶されている。計時部42は所定の周波数により時間を計測し、制御部40は計時部42から計測された時間を取得することが可能である。なお、計時部42により取得される時間は絶対時刻でもよいし所定の基準時刻からの経過時間でもよく、車載装置3から送信される時刻情報と同期された時間であって交通情報処理装置1で比較可能な時間を表わしていればよい。計時部42はGPS受信機能を有し、受信した時刻情報を基準する時刻情報を送信する構成としてもよい。これにより、車載装置3から送信される時刻情報と同期された時刻情報を送信することが可能である。出力部43は、制御部40からの指示により信号機5へ制御信号を出力するようにしてある。また、通信部44は交通情報処理装置1との通信を実現する機能を有し、後述の青信号開始時刻の情報を送信すると共に、交通情報処理装置1から信号の切り替え指示の情報が送信される場合にはこれを受信するようにしてある。
【0040】
信号制御装置4の制御部40は、計時部42から取得した時間が記憶部41に記憶されている表示開始タイミングと合致する場合、又は通信部44により信号の切り替え指示を受信した場合に、対象の色の信号表示を開始させる制御信号を出力部43により出力する。また、制御部40は青色の信号表示を開始させる制御信号を出力する際には、青信号開始時刻の情報を通信部44により交通情報処理装置1へ送信する。
【0041】
交通情報処理装置1は、制御部10、記憶部11、一時記憶領域12及び受信部13を備えている。記憶部11には、コンピュータを本発明に係る交通情報処理装置1として機能させる制御プログラム1Pが記憶されている。一時記憶領域12は、制御部10の処理によって発生する情報を一時的に記憶するために利用される。受信部13は、通信装置2及び信号制御装置4との通信を実現する機能を有し、通信装置2及び信号制御装置4から送信される各種情報を受信する。制御部10は、記憶部11から制御プログラム1Pを一時記憶領域に読み出して実行することにより、受信部13によって受信した各種情報を用いて渋滞の先頭位置を特定する処理を行なう。
【0042】
次に、交通情報処理装置1の制御部10が渋滞の先頭位置を特定する処理について、フローチャートを参照して詳細を説明する。図3は、実施の形態1における交通情報処理装置1の制御部10が渋滞の先頭位置を特定する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0043】
制御部10は、通信装置2から車両の識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信部13により受信したか否かを判断する(ステップS101)。制御部10は、通信装置2から車両の識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信していないと判断した場合(S101:NO)、信号制御装置4から青信号開始時刻の情報を受信部13により受信したか否かを判断する(ステップS102)。制御部10は、青信号開始時刻の情報を受信していないと判断した場合(S102:NO)、処理をステップS101へ戻す。制御部10は、青信号開始時刻の情報を受信したと判断した場合(S102:YES)、受信した情報が示す青信号開始時刻を一時記憶領域に記憶し(ステップS103)、処理をステップS101へ戻す。
【0044】
制御部10は、通信装置2から車両の識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信したと判断した場合(S101:YES)、受信した各情報を記憶部11又は一時記憶領域に記憶する(ステップS104)。そして制御部10は、受信した各情報の内の位置情報に基づき、識別情報で特定される車両が走行中の道路は渋滞区間であるか否かを判断する(ステップS105)。渋滞区間であるか否かの判断は、他の装置から取得されるVICS(登録商標)情報等の渋滞情報に基づいて判断してもよいし、当該車両の過去所定時間以内の平均速度が基準速度未満であるか否かに基づいて判断してもよい。
【0045】
制御部10は、識別情報で特定される車両が走行中の道路は渋滞区間でないと判断した場合(S105:NO)、処理をステップS101へ戻す。
【0046】
制御部10は、識別情報で特定される車両が走行中の道路は渋滞区間であると判断した場合(S105:YES)、受信した時刻情報、位置情報及び速度情報に基づき、時刻情報が示す時刻ti から過去所定時間(例えば1分)以内における当該車両の平均速度U(ti )を算出し、記憶部11又は一時記憶領域12に記憶しておく(ステップS106)。平均速度の算出は、例えば過去1分以内の各時点で受信した速度情報が示す速度を平均して算出する。ただし、車載装置3からの速度情報は必須ではなく位置情報から算出してもよいので、1分前の位置情報と今回受信した位置情報に基づいて平均速度を算出するようにしてもよい。
【0047】
そして制御部10は、ステップS106で算出した平均速度U(ti )が、予め記憶部11に記憶されてある閾値VJ以上であり、且つ前回算出して記憶してある平均速度U(ti-1)が閾値VJ未満であったか否か(平均速度U(ti )≧VJ、且つ、前回平均速度U(ti-1)<VJ)を判断する(ステップS107)。なお、ti-1は前回受信した時刻情報が示す時刻である。
【0048】
制御部10は、ステップS106で算出した平均速度U(ti )が予め記憶部11に記憶されてある閾値VJ未満であるか、又は前回算出して記憶してある平均速度U(ti-1)が閾値VJ以上であった場合(S107:NO)、処理をステップS101へ戻し、次に通信装置2から送信される各情報を受信するまで待機する。
【0049】
制御部10は、ステップS106で算出した平均速度U(ti )が、予め記憶部11に記憶されてある閾値VJ以上であり、且つ前回算出して記憶してある平均速度U(ti-1)が閾値VJ未満であったと判断した場合(S107:YES)、時点ti における車両の位置を渋滞の先頭位置候補として決定する(ステップS108)。
【0050】
次に制御部10は、青信号表示の開始時点と、ステップS108で決定した渋滞の先頭位置候補を車両が通過する時点ti 、即ち平均速度U(ti )が増進したタイミングとが関係を有しているか否かを以下に示す式(1)により判断する(ステップS109)。
【0051】
【数1】

【0052】
なお、式(1)中の各変数は以下の数値である。
L:時点ti における車両の位置情報X(ti )と、下流の信号機5に対応する停止線の位置情報Yとの距離、
Lj:発進を開始してから平均速度が閾値VJ以上となるまでに進む平均的な距離、
VS:予め設定してある発進波速度、
i :受信した時刻情報が示す時刻、
tj:発進を開始してから平均速度が閾値VJ以上となるまでの平均的な所要時間、
TS:受信した青信号開始時刻の情報が示す時刻、
e:予め設定してある判断値
【0053】
なお、式(1)中のVSで表わされる発進波速度は発進波が伝播する速度である。発進波速度は、予め過去の統計から算出されている値でもシミュレーションにより算出されている値でもよい。車両が青信号表示が開始されたことに応じて発進した場合には、青信号開始時刻から車両が発進を開始するまでに要する時間と、停止線から車両へ発進波が伝播するまでに要する発進波伝播時間とがほぼ一致するはずである。このとき、車両の速度が閾値VJ以上となった時点ti よりもtj前の時点が発進した時点であると推測され、速度が閾値VJ以上となった時点ti における位置X(ti )までの停止線からの距離LよりもLj手前の位置が発進(加速)した位置であると推測されるからである。したがって、車両が発進を開始するまでに要する時間と、発進波伝播時間とがほぼ一致する場合には式(1)の左辺の値は十分に小さくゼロとなるはずであり、式(1)により関係を有しているか否かを判断できる。発進を開始してから速度がVJ以上となるまでの平均的な所要時間tj、所要時間tjの間に進む平均的な距離Ljについては予めシミュレーション等により統計的に求めておく。なお、車両が車列の先頭で停止線で信号待ちをしていた場合等、平均速度U(ti )が閾値VJ以上となった位置X(ti )が停止線よりも前方である場合、式(1)の左辺中のLは負の値として算出される。更に、所要時間tj及び所要時間tjの間に進む距離Ljの考慮分は、式(1)の右辺のeに含め、
|L/VS−(ti −TS)|<e・・・(2)
に基づいて判断する構成としてもよい。
【0054】
制御部10は、ステップS109において関係を有していると判断した場合(S109:YES)、ステップS108で決定した先頭位置候補ではなく信号機5に対応する停止線の位置を渋滞の先頭位置と特定し(ステップS110)、処理を終了する。この場合、速度の増進は信号機5に対する待ち行列から脱したことによるので、当該渋滞の原因は信号待ちであると判断できるからである。
【0055】
一方、制御部10はステップS109において関係を有していないと判断した場合(S109:NO)、ステップS108で決定した先頭位置候補を渋滞の先頭位置と特定し(ステップS111)、処理を終了する。この場合、速度の増進は信号機5に対応する待ち行列から脱したことによるわけではなく、渋滞の原因が発生している場所を通過したためと判断できるからである。
【0056】
次に、図3のフローチャートに示した交通情報処理装置1による処理について、具体例に当てはめて説明する。図4乃至図6は、実施の形態1における交通情報処理装置1によって特定される先頭位置を説明するための模式図である。
【0057】
図4の模式図は、信号待ちを発生原因とする渋滞が発生している場合の渋滞の車列の様子を時系列で表わしている。図4の模式図では下方に向かうほど時間が経過し、対応する信号機5(図示せず)で青信号が開始されてからの各時点での車列を表わしている。図4中のYは停止線の位置を示し、図4の模式図に表わされている車列中、ハッチングにより他の車両と区別して示されている車両VAが車載装置3を備えている車両である。
【0058】
交通情報処理装置1は図3のフローチャートに示したように、通信装置2を介して車両VAの車載装置3から100ミリ秒毎に車両VAの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信して記憶部11又は一時記憶領域12に記憶し、処理を実行する。また、交通情報処理装置1は青信号開始時刻TSの情報を受信しており、一時記憶領域12に記憶している。
【0059】
青信号開始時刻TSの時点では、停止線近傍で停止している先頭の車両のみが発進しつつある状況にある。そして、車両VAの過去1分以内の平均速度が10(km/h)以下であること又はVICS(登録商標)情報又は車両感知器で計測される占有率から、車両VAが走行中の区間は渋滞区間であると交通情報処理装置1により判断されている可能性が高い。したがって、交通情報処理装置1は過去1分以内における各時点での車両VAの速度の平均を算出して記憶している。青信号開始時刻TSの時点では車両VAは発進せずに停止しており、交通情報処理装置1によって算出された平均速度U(TS)は閾値VJ以上とならず、渋滞の先頭位置候補が決定されることなしに、次に車載装置3から送信される車両VAの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報が受信されるまで処理は待機される。なおこのときの閾値VJは10(km/h)とする。
【0060】
青信号開始に対し、発進波はVS(m/s(秒))の速度で伝播する。具体的には約5.5(m/s)とする。青信号開始時刻TSから1秒後の時点では、先頭から2台目の車両が発進を開始している。青信号開始時刻TSから2秒後の時点では、先頭から3台目の車両が発進を開始している。同様に、青信号開始時刻TSから5秒後の時点までは、先頭から6台目に相当する車両VAは停止したままであり、平均速度は閾値VJ以上とならない。
【0061】
青信号開始時刻TSから6秒後の時点では、停止線よりも32.5m手前に停止していた車両VAは発進を開始している(発進波伝播時間=5.9秒=32.5m/5.5(m/s))。しかしながら、この際に交通情報処理装置1の制御部10によって算出される平均速度U(TS+6)は過去1分以内の各時点に対する平均速度であるので閾値VJ以上とならず、それまで停止していた場合にはほぼゼロに等しい。その後、青信号開始時刻TSから22秒後の時点において、平均速度U(TS+22)が10(km/h)となり閾値VJ以上を満たすとする。交通情報処理装置1の制御部10は、青信号開始時刻TSから22秒後の時点における車両VAの位置X(TS+22)を、渋滞の先頭位置候補として仮に決定する。
【0062】
そして交通情報処理装置1の制御部10は、車両VAの速度が閾値VJ以上となった時点(ti =TS+22)が、青信号開始の時刻と関係を有する否かを式(1)により判断する。なお、判断値eを3(s(秒))とする。
【0063】
時点(ti =TS+22)における位置X(TS+22)が停止線の位置Yから133m前方であるとすると、式(1)の左辺は以下に示す式(3)のように算出される。
【0064】
なお、式(1)において、停止状態から1分間での平均速度が閾値10(km/h)以上となるまでに要する所要時間tjは、16.1秒と設定しておくとする。なお、当該所要時間tjは、以下のように求められる。加速度を1.7(m/s2 )として考えた場合、停止状態から速度が50(km/h)以上となるまでには8.2sかかり、57m進む。停止状態であったことを考慮して1分間での平均速度が10(km/h)となるには1分間に166.7m進まなければならないから、残りの109.7mを50(km/h)で走行した場合、これに要する時間は7.9sである。したがって、それらを合計した時間(8.2s+7.9s)が所要時間tjとして求められる。また、この場合に所要時間tjの間に進んだ距離は166.7mであるから、Ljは166.7mとして求められる。
【0065】
【数2】

【0066】
左辺は判断値e=3以下の条件を満たすので、車両VAの平均速度が閾値VJ以上となったことが青信号開始と関係を有し、信号待ちを発生原因とする渋滞であると判別され、信号機5に対応する停止線が渋滞先頭位置と特定される。このように正確な渋滞の先頭位置が特定される。
【0067】
これにより、図1の模式図に示したように信号待ちを発生原因とする渋滞区間中にいる車両VAからの情報により、渋滞の原因を信号待ちと判別して渋滞の先頭位置を停止線と特定することができる。この場合、渋滞状況についての情報を高精度とすることができる。更に、車両VAの進行方向にある渋滞を発生させている信号機5の青信号時間を延長する等の制御により、車両VAが巻き込まれている渋滞は解消する可能性が高くなるなど、信号制御を高精度化させることが可能となり、交通流をスムーズにさせることも可能である。
【0068】
図5の模式図は、単路部での事故車等の停止車両が存在していることを原因とした容量低下による渋滞が発生している場合の渋滞の車列の様子を時系列で表わしている。図5の模式図の構成は図4の模式図と同様である。図5の模式図でも下方に向かうほど時間が経過し、対応する信号機5(図示せず)で青信号が開始されてからの各時点での車列を表わしている。また、図5中のYは停止線の位置を示し、図5の模式図で表わされている車列中、ハッチングにより他の車両と区別して示されている車両VBが車載装置3を備えている車両である。
【0069】
交通情報処理装置1は図3のフローチャートに示したように、通信装置2を介して車両VBの車載装置3から100ミリ秒毎に、車両VBの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信し、処理を実行する。交通情報処理装置1では、青信号開始時刻TSの情報を受信して一時記憶領域12に記憶している。
【0070】
青信号開始時刻TSの時点では、停止線近傍で停止している先頭の車両が発進しつつある。車両VBは、前方の停止車両の存在のために徐行状態(10km/h以下)であり、車両VBの過去1分以内の平均速度が10(km/h)以下であること又はVICS(登録商標)情報又は車両感知器で計測される占有率から、車両VBが走行中の区間は渋滞区間であると交通情報処理装置1により判断されている可能性が高い。したがって、交通情報処理装置1は過去1分以内における各時点での車両VBの速度の平均を算出して記憶している。青信号開始時刻TSの時点では車両VBは加速できずに10(km/h)未満で走行していることが推測され、交通情報処理装置1によって算出された平均速度U(TS)は閾値VJ以上とならず、渋滞の先頭位置候補が決定されることなしに、次に車載装置3から送信される車両VBの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報が受信されるまで処理は待機される。
【0071】
青信号開始時刻TSから1秒後の時点で先頭から2台目の車両が発進を開始し、2秒後の時点で3台目の車両が発進を開始している。車両VBは、青信号開始時刻TSから17秒後の時点でも停止車両の存在により加速できずにおり、平均速度U(TS+17)は依然として10(km/h)未満と算出される。
【0072】
青信号開始時刻TSから18秒後の時点では、車両VBの前方の車両が停止車両を追い越し、加速し始めているために、車両VBも加速が可能な状態となっている。しかしながら、この際に交通情報処理装置1の制御部10によって算出される平均速度は過去1分以内の各時点に対する平均速度であるので、この時点で平均速度が閾値VJ以上とならない。その後、青信号開始時刻TSから21秒後の時点において、平均速度U(TS+21)が10.2(km/h)となって閾値VJ以上を満たすとする。したがって、青信号開始時刻TSから20秒後の時点から21秒後の時点までの間に、平均速度が閾値VJ(=10(km/h))以上であり、前回算出された平均速度が閾値VJ未満となる時点があるはずである。例えば、青信号開始時刻TSから20.8秒後の時点でこの条件を満たすとする。交通情報処理装置1の制御部10は、青信号開始時刻TSから20.8秒後の時点における車両VBの位置X(TS+20.8)を渋滞の先頭位置候補として仮に決定する。
【0073】
そして交通情報処理装置1の制御部10は、車両VBの速度が閾値VJ以上となった時点(ti =TS+20.8)が、青信号開始と関係を有するか否かを式(1)により判断する。
【0074】
時点(ti =TS+20.8)における位置X(TS+20.8)が停止線の位置Yから11.5m手前であるとすると、式(1)の左辺は以下に示す式(4)のように算出される。
【0075】
【数3】

【0076】
左辺は判断値e=3以下の条件を満たさないので、車両VBの平均速度が閾値VJ以上となったことが青信号開始と関係を有さず、信号待ちを発生原因とする渋滞でないと判別され、ここでは仮に決定された渋滞先頭位置候補、図5の模式図中における時点(TS+20.8)における車両VBの位置X(TS+20.8)がほぼ、渋滞先頭位置として特定される。このように、渋滞の発生原因の判別により正確な渋滞の先頭位置の特定が可能である。
【0077】
これにより、図1の模式図に示したように停止車両の存在による容量低下を発生原因とする渋滞区間中にいる車両VBからの情報により、渋滞の原因を容量低下と判別して渋滞の先頭位置を特定することができ、渋滞状況についての情報を高精度とすることができる。またこの場合、事故車、故障車等の停止車両の有無を人が確認して通知することなしに渋滞状況の情報を詳細とすることができる。なお、渋滞の先頭位置として特定された地点付近の地図情報を参照して車線減少地点、合流地点に相当する場合には、渋滞の原因を車線減少又は合流によるものと判別することも可能である。この場合、車両VBの進行方向にある信号機5の青信号時間を延長しても渋滞を解消させることはできないと判断することが可能となる。したがって、無駄な信号制御を回避することも可能である。
【0078】
図6の模式図は、更に下流における事象を要因とする渋滞が発生している場合の渋滞の車列の様子を時系列に表わしている。図6の模式図の構成は図4の模式図と同様である。図6の模式図でも下方に向かうほど時間が経過し、対応する信号機5(図示せず)で青信号が開始されてからの各時点での車列を表わしている。また、図6中のYは停止線の位置を示し、図6の模式図で表わされている車列中、ハッチングにより他の車両と区別して示されている車両VCが車載装置3を備えている車両である。
【0079】
交通情報処理装置1は図3のフローチャートに示したように、通信装置2を介して車両VBの車載装置3から100ミリ秒毎に、車両VBの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報を受信し、処理を実行する。交通情報処理装置1では、青信号開始時刻TSの情報を受信して一時記憶領域12に記憶している。
【0080】
図6の模式図に示す例の場合、更に下流でも渋滞状態であるためにYで示される停止線に対応する信号機5が青信号を示していても各車両は発進できず、青信号開始時刻TSの時点では車列の先頭車両のみが発進しつつある。車両VCは、前方の各車両が発進できないために停止したままであり、車両VCの過去1分以内の速度が10(km/h)であること又はVICS(登録商標)情報又は車両感知器で計測される占有率から、交通情報処理装置1で車両VCが走行中の区間は渋滞区間であると判断されている可能性が高い。したがって、交通情報処理装置1は過去1分以内における各時点での車両VCの速度の平均を算出して記憶している。青信号開始時刻TSの時点では車両VCは発進できずに停止しているので、交通情報処理装置1によって算出された平均速度U(TS)は閾値VJ(=10(km/h))以上とならず、渋滞の先頭位置候補が決定されることなしに、次に車載装置3から送信される車両VCの識別情報、時刻情報、位置情報及び速度情報が受信されるまで処理は待機される。
【0081】
そして図6の模式図に示す例の場合、信号機5が青信号を示している間の青信号開始時刻TSから4,5,6,…秒後、更には21秒が経過しても各車両は発進できないので、下流の渋滞のボトルネックとなる地点を車両VCが通過するまでは、交通情報処理装置1で算出される車両VCの過去1分以内の平均速度は閾値VJ以上とならないと考えられる。したがって、交通情報処理装置1は図3のフローチャートに示した処理手順の内のステップS107以後の処理を行なわず、当該渋滞区間では先頭位置は特定されない。実際、当該区間には渋滞の先頭は存在せず、下流に渋滞の要因が発生している地点があるはずである。このように、交通情報処理装置1が図3のフローチャートに示した処理手順を実行することにより、誤って渋滞の先頭位置が特定される可能性も低下する。
【0082】
これにより、図1の模式図に示したように渋滞区間中にいる車両VCからの情報によっては渋滞の原因は判別されず、車両VCの前方の停止線が渋滞の先頭位置として特定されることはない。当該渋滞区間の先頭位置は、下流のボトルネックとなっている地点、即ち車両VBの前方における容量低下が原因であることが判別されて特定される。車両VBが車載装置3を搭載していない場合でも、車両VCが停止車両の後方に位置した場合に改めて渋滞の先頭位置が特定される。このように渋滞区間の先頭位置を精度よく特定し、渋滞状況についての情報を高精度とすることができる。
【0083】
(実施の形態2)
実施の形態1では、図3のフローチャートに示したように、先頭位置を特定する処理において信号の表示開始と、渋滞の先頭位置候補を車両が通過する時点における平均速度の増進との間に関係を有していないと判断された場合、決定された先頭位置候補を先頭位置として特定した。実施の形態2では、関係を有していないと判断された場合には、決定された先頭位置候補に相当する時点近傍であって、加速度の時間変化(加加速度、躍度)が最大となった時点における車両の位置を渋滞の先頭位置として特定する。これにより、更に詳細に渋滞の先頭位置を精度よく特定することができる。
【0084】
実施の形態2における交通情報処理装置1、通信装置2、車載装置3、信号制御装置4及び信号機5は、交通情報処理装置1の制御部10による渋滞の先頭位置の特定処理の一部以外は実施の形態1における構成と同様である。以下、実施の形態1と同一の符号を付し、渋滞の先頭位置の特定処理について説明する。
【0085】
図7は、実施の形態2における交通情報処理装置1の制御部10が渋滞の先頭位置を特定する処理手順の他の一例を示すフローチャートである。なお、図7のフローチャートに示す処理手順の内、図3のフローチャートに示した処理手順と共通する手順については同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
【0086】
制御部10は、識別情報で特定される車両が走行中の道路が渋滞区間であると判断した場合(S105:YES)、受信した時刻情報、位置情報及び速度情報に基づき、時刻情報が表わす時刻ti における平均速度U(ti )を求めると共に、当該時刻ti での速度V(ti )(速度情報自体)から加速度A(ti )、加速度の時間変化B(ti )を算出し、記憶しておく(ステップS21)。なお、加速度A(ti )はA(ti )={V(ti )−V(ti-1)}/(ti −ti-1)、加速度の時間変化B(ti )は、B(ti )={A(ti )−A(ti-1)}/(ti −ti-1)によって算出される。
【0087】
そして制御部10は、ステップS109で青信号の表示開始と、ステップS108で決定した渋滞の先頭位置候補を車両が通過する時点ti における平均速度U(ti )の増進との間に関係を有しているか否かを式(1)により判断する(S109)。制御部10は、関係を有していないと判断した場合(S109:NO)、今回までに算出して記憶した加速度の時間変化B(t1 ),B(t2 ),…,B(ti )の内、過去1分以内で最大となる加速度の時間変化B(tj )を特定し、その時点tj での位置X(tj )を渋滞先頭位置と特定し(ステップS22)、処理を終了する。なお、ステップS22で最大となる加速度の時間変化B(tj )を特定したが、2番目に大きい時間変化B(tj )でもよい。また、加速度の時間変化B(tj )が最大となる時点tj での位置X(tj )とは限らず、X(tj )よりも1〜数m前後の地点を先頭位置と特定してもよい。
【0088】
これにより、渋滞の先頭位置が停止線でない場合に渋滞先頭位置を更に高精度に特定することが可能となる。実施の形態1では、図5の模式図に示した例に対し、青信号開始時刻TSから20.8秒後の時点における位置が渋滞先頭位置として特定された。これに対し、実施の形態2では、上述のステップS22における特定処理により、実施の形態1における手法によって渋滞先頭位置として特定された位置に前後して、車両VCが加速を開始した地点が渋滞の先頭位置として特定される。
【0089】
渋滞の先頭位置では、速度の増進を遮る要因が解消するので速度を比較的急激に増進させることができることが推測できる。したがって、加速度の時間変化が最大となる時点における車両の位置を渋滞の先頭位置として特定することにより、更に正確に先頭位置を特定することが可能となる。またこの場合、閾値VJ以上に変化した時点における位置でなく、加速度の時間変化が最大となる時点における位置を渋滞の先頭位置として特定するので、閾値VJの値に影響されずに渋滞の先頭位置を特定することが可能となる。
【0090】
実施の形態1及び2において、図3及び図7のフローチャートに示した交通情報処理装置1の制御部10による渋滞の先頭位置の特定処理の処理手順の内、渋滞先頭位置候補の決定を車両の過去1分以内の平均速度が閾値VJ以上となった時点における位置を先頭位置候補として決定するようにした。しかしながら、本発明ではこれに限らず、渋滞の先頭位置を通過していると推測される地点、即ち速度を増進させることができるようになったと推測される地点を、他の方法により渋滞の先頭位置候補として算出してもよい。他の方法として例えば、ステップS107における処理を前方の車両との車間距離が所定値以上となったか否かの判断処理に代替してもよい。
【0091】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施の形態1における交通情報処理装置による処理の概要を示す模式図である。
【図2】実施の形態1における交通情報処理装置、通信装置、車載装置及び信号制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1における交通情報処理装置の制御部が渋滞の先頭位置を特定する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1における交通情報処理装置によって特定される先頭位置を説明するための模式図である。
【図5】実施の形態1における交通情報処理装置によって特定される先頭位置を説明するための模式図である。
【図6】実施の形態1における交通情報処理装置によって特定される先頭位置を説明するための模式図である。
【図7】実施の形態2における交通情報処理装置の制御部が渋滞の先頭位置を特定する処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
【図8】従来技術によりリンク毎に判定された渋滞区間の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
1 交通情報処理装置
10 制御部
1P 制御プログラム
5 信号機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の渋滞情報を取得する手段を備え、渋滞区間の先頭位置を特定するようにしてある交通情報処理装置において、
渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出する算出手段と、
前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求める手段と、
前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定する特定手段と
を備えることを特徴とする交通情報処理装置。
【請求項2】
前記特定手段は、
前記発進波伝播時間と前記経過時間との差分が所定値以下であるか否かを判断する判断手段を備え、
該判断手段が所定値以下であると判断した場合、前記信号機に対応する停止線を渋滞先頭位置と特定するようにしてあること
を特徴とする請求項1に記載の交通情報処理装置。
【請求項3】
前記判断手段が所定値を超えると判断した場合、算出されてある前記先頭位置候補に基づいて渋滞先頭位置を特定するようにしてあること
を特徴とする請求項1に記載の交通情報処理装置。
【請求項4】
前記車両の複数時点での加速度の時間変化を算出する手段を備え、
前記判断手段が所定値を超えると判断した場合、
前記車両が前記先頭位置候補を通過した時点の前又は後の所定時間以内における前記車両の加速度の時間変化に基づいて渋滞先頭位置を特定するようにしてあること
を特徴とする請求項3に記載の交通情報処理装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記車両の過去所定時間以内の平均速度が所定速度以上へ変化した時点に基づいて前記車両の位置を先頭位置候補とするようにしてあること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の交通情報処理装置。
【請求項6】
コンピュータに、道路の渋滞情報を取得させ、渋滞区間の先頭位置を特定させるコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータを、
渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出する算出手段、
前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求める手段、並びに、
前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定する特定手段
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
道路の渋滞情報を取得し、渋滞区間の先頭位置を特定する交通情報処理方法において、
渋滞区間を含む道路区間を走行中の車両の複数時点での位置に基づき渋滞区間の先頭位置候補を算出し、
前記車両の進行方向の信号機に対応する停止線の位置から発進波が前記車両へ伝播するまでに要する発進波伝播時間、及び、前記信号機での青信号開始時点から前記車両が前記先頭位置候補を通過するまでに要した経過時間を求め、
前記発進波伝播時間及び経過時間に基づいて渋滞区間の先頭位置を特定する
ことを特徴とする交通情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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