説明

人工水晶の製造方法及び人工水晶

【課題】異物密度の小さい高品質な人工水晶を効率よく製造することが可能な人工水晶の製造方法等を提供する。
【解決手段】オートクレーブ内に板状(または棒状)の種子水晶1aを配置し、その基本成長面の重力方向に対する傾きθを3.5°以上16°以下とした状態で水熱合成法により人工水晶を育成する。これにより傾斜させた水晶種子1aの下方側の基本成長面に成長させた人工水晶の異物密度の値をJIS C6704(2005年版)に定める等級Iの要件を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物密度の小さな人工水晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子や水晶振動子の材料となる人工水晶は、オートクレーブ(金属塔炉)と呼ばれる圧力容器内で水酸化ナトリウム溶液等の育成溶液に溶解させた天然水晶を種子水晶上に析出させて育成する水熱合成法によって製造される。ところが、オートクレーブ内では人工水晶の育成が進行する一方で、オートクレーブ本体(特殊鋼製)より溶出した鉄(Fe)や育成溶液中のナトリウム(Na)及び人工水晶の原料となるケイ素(Si)の結合等によってアクマイト(NaFeSi)等の異物も生成され、これらの異物が育成中の人工水晶に取り込まれてしまう現象が見られる。
【0003】
人工水晶中の異物の含有量に関し、例えばJIS C6704(2005年版)には(表1)に示すように人工水晶1cm中に含まれる異物の大きさ及びその個数によって人工水晶の等級が定められている。


(表1)異物密度(1cmあたりの個数最大値)の等級とその一般的な用途
【0004】
(表1)に示したように、オートクレーブ内で育成された人工水晶は異物密度の等級に応じて光学素子等の光学用や各種の水晶振動子用に使い分けられている。しかしながら、アクマイト等の異物はオートクレーブ内で不可避的に生成されてしまうものであるため、水熱合成の条件等を調整することで異物の生成量をコントロールすることは難しく、人工水晶を等級毎に作り分けることは困難であった。
【0005】
このため従来は、人工水晶を製造してからこれを検査し、そこに含まれる異物密度に基づいて人工水晶を各等級に選別していたため、異物密度という観点では人工水晶はいわば成り行きで製造されていた。この点に関し特許文献1にはオートクレーブ内における種子水晶の配置法を調整することにより人工水晶内の異物密度を低減する技術が開示されている。
【0006】
特許文献1の技術を説明する前に従来の種子水晶の配置法ついて簡単に説明すると、板状(または棒状)の種子水晶1aは、図1に示すようにオートクレーブ2内に設置された多段構成の支持具23に多数懸垂されており、この図に向かって正面と裏面とに人工水晶が育成されるようになっている。図6は、種子水晶1aの懸垂された上記支持具23の一部を拡大して図1のX方向から見た様子を示したものである。各種子水晶1aは、支持具23を構成する支持棒23b間に多数横架された支持枠23aに対して針金等の留め金23cによりその上下を固定され、人工水晶の育成される面(以下、基本成長面という)と重力方向(図中のZ方向)とが平行になるように支持具23に配置されている。
【0007】
このような従来法に対して特許文献1には、図7に示すように、種子水晶1aの基本成長面を重力方向に対して45°〜90°の範囲で傾けた状態で支持具23に配置する技術が記載されている(図7(a)は基本成長面を45°傾けた状態を示しており、図7(b)は90°傾けた状態を示している)。このように種子水晶1aを傾けた状態で配置することによって、オートクレーブ2内で生成した異物は傾けた種子水晶1aの上方側の基本成長面に沈着し、種子水晶1aは下方側の基本成長面に対して傘としての役割を果たす。この結果、下方側の基本成長面では異物を取り込まずに人工水晶を育成できるので、異物密度の小さな人工水晶を製造することが可能となる。
【特許文献1】特公昭57−49520号公報:第2頁第4列第41行〜第3頁第5列第16行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載されているように種子水晶1aを大きく傾けると、図7(a)、図7(b)に破線で示すようにオートクレーブ内を流れる育成溶液の対流が大きく蛇行してしまう。このように乱れた対流の中で育成された人工水晶には、いわゆる「す」と呼ばれるような空洞部分が形成されてしまったり、所望の寸法を有する人工水晶に育成されなかったりして製品の歩留まりを低下させる要因となる。
【0009】
また図8(a)の模式図に示すように、列をなしてオートクレーブ2内に配置されていた種子水晶1aを大きく傾けると、図8(b)に示すように列の両端の種子水晶1aが支持具23からはみ出したりオートクレーブ本体21と接触したりするので、図中に破線で示したように、そこには種子水晶1aを配置することがなくなってしまう。また、図8(a)に示すように種子水晶1a間の距離をLとして、人工水晶の育成される領域を確保してあるところ、そのままの位置で種子水晶1aを傾けると種子水晶1a間の距離L’(=Lcosθ)は、元の距離Lに対して短くなってしまう。このため、人工水晶の育成領域を確保するためには、1列に含まれる種子水晶1aの数を減らして元の距離Lを確保できるように配置しなおさなければならない。このように、種子水晶1aを大きく傾けて配置すると、1回の育成において製造できる人工水晶の量が減少し非効率となってしまうという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、異物密度の小さい高品質な人工水晶を効率よく製造することが可能な人工水晶の製造方法及びこの方法により製造された人工水晶を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る人工水晶の製造方法は、オートクレーブ内の支持具に配置した板状または棒状の種子水晶に水熱合成法により人工水晶を育成する人工水晶の製造方法において、
前記種子水晶は、その基本成長面を重力方向に対して3.5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置されることを特徴とする。
特に、前記種子水晶は、その基本成長面を重力方向に対して5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置されるようにするとよい。
【0012】
また、本発明に係る人工水晶は、基本成長面を重力方向に対して3.5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置される製造方法により製造され、傾斜させた前記種子水晶の下方側の基本成長面に成長した人工水晶の異物密度の値がJIS C6704(2005年版)に定める等級Iの要件を満たすことを特徴とする。
ここで、基本成長面を重力方向に対して5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置される製造方法により製造された人工水晶は、傾斜させた前記種子水晶の下方側の基本成長面に成長した人工水晶の異物密度の値がJIS C6704(2005年版)に定める等級Iaの要件を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、種子水晶の基本成長面を重力方向に対して3.5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態でオートクレーブ内に配置するので、傾けた種子水晶の下方側で成長する人工水晶に、オートクレーブ内で生成した異物を取り込まれないようにすることができる。この結果、異物密度の小さな人工水晶を製造することができる。
また、種子水晶を傾ける角度を従来に比べて大幅に小さくしているので、オートクレーブ内における育成溶液の対流の乱れを抑えることが可能となる。この結果、対流の乱れによって発生する製品不良(人工水晶中に形成された空洞部分の形成やサイズ不足等)を抑えることができ、製品の歩留まりが向上する。
更に、傾ける角度が小さいので、オートクレーブ内に配置可能な種子水晶の枚数をさほど落とさずに上記の各種効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
初めに、本実施の形態にて使用するオートクレーブ2の構成について図1を用いて説明する。図1は、水熱合成法により人工水晶を育成するためのオートクレーブ2の概要を示す縦断面図である。オートクレーブ2は、特殊鋼製の円筒容器であるオートクレーブ本体21と、このオートクレーブ本体21を密閉するための金属蓋25と、オートクレーブ本体21内を加熱するためのヒーター24とから構成されている。なお、図中に示した直交軸(X、Y、Z)は、オートクレーブ2の設置されている方向を示している。オートクレーブ2は、円筒形状をなすオートクレーブ本体21の中心軸が設置面に対して垂直(Z軸方向)となるように設置されている。
【0015】
オートクレーブ本体21内部の空間は、バッフル板(対流制御板)22によって上部空間21aと下部空間21bとに仕切られている。上部空間21aには、多数の種子水晶1aを配置するための支持具23が設置されている。支持具23は、例えば扁平な円筒形状の枠体を多段に積層した構造となっており、上部空間21a内に収まる大きさを有している。各段の枠体には、後述する規則に基づいて多数の種子水晶1aを配置することができるようになっている。
【0016】
一方、下部空間21bには例えば円筒形でかご状のラスカ容器26を配置してあり、このラスカ容器26内に人工水晶の原料となるラスカ(屑水晶)10が格納されている。また上部空間21aと下部空間21bとは、バッフル板22に多数設けられた貫通孔22aによって連通していおり、オートクレーブ本体21内の空間(上部空間21aと下部空間21bとの両空間)内に満たされた水酸化ナトリウム溶液等の育成溶液11を上部空間21aと下部空間21bとの間で対流させることができるようになっている。
【0017】
ヒーター24は、上部空間21a内を上部から下部へ向けて例えば300〜350℃の温度で加熱し、下部空間21b内を同じく例えば360〜400℃の温度で加熱するように構成されている。この他金属蓋25には、オートクレーブ本体21内の圧力を計測するための圧力計27が備えており、人工水晶の育成中、オートクレーブ本体21内は例えば1,000〜1,500kgf/cm2程度の圧力に維持さるようになっている。
【0018】
次に、種子水晶1aについて説明する。図2の斜視図に示すように、例えば種子水晶1aは水晶原石を結晶軸(X、Y、Z軸)に沿って切り出され、X軸方向を幅方向、Y軸方向を長手方向、Z軸方向を厚さ方向とする平板材(または角棒材)として構成されている。人工水晶の育成速度は軸方向によって異なり、Z軸方向において最大となるので、本実施の形態においてはZ軸と直交する表裏2つのX−Y平面(基本成長面)に人工水晶が育成されていく。なお、図1に示したオートクレーブ2の設置方向と区別するため、種子水晶1aのX、Y、Zの結晶軸方向はそれぞれX、Y、Zと記してあり、以下この表記に基づいて説明を行う。
【0019】
次に、種子水晶1aを所定の規則に基づいて配置する支持具23について説明する。発明者らは、背景技術において説明した課題に対する研究を進めた結果、特許文献1に記載されている技術と比較して種子水晶1aの基本面の傾きを大幅に小さくしても種子水晶1aの下方側に育成される人工水晶の異物密度を小さくすることが可能なことを見出した。本実施の形態に係る支持具23は、このような研究の結果に基づいて種子水晶1aの下方側に育成される人工水晶の異物密度を小さくできるように構成されている。以下にその具体的な内容について説明する。
【0020】
図3(a)は1段分の支持具23に種子水晶1aを配置した状態をY方向から拡大して見た図であり、図3(b)は、その配置状態を同じくX方向から見た図である。図3(a)に示すように、支持具23各段の枠体を構成する支持棒23bには多数の支持枠23aを横架してある。一方で各種子水晶1aのX−Y平面(基本成長面)の上下辺には複数の貫通孔1bを穿設してあり、例えば針金等の留め金23cを貫通孔1bに通してから支持枠23aに巻きつけることにより、種子水晶1aを当該支持具23上方の支持枠23aに懸垂することができるようになっている。
【0021】
また、種子水晶1aの下辺も上辺と同様に留め金23cにより当該支持具23下方側の支持枠23aに固定される。本実施の形態において種子水晶1aは、図3(b)に示すように種子水晶1aの懸垂されている支持枠23aの鉛直下方よりずれた位置にある支持枠23aに留め金23cを巻きつけ、種子水晶1aの基本成長面を重力方向(Z方向)に対して傾けた状態で固定されている。重力方向に対する基本成長面の傾きθは、例えば下方側の留め金23cを巻きつける支持枠23aの位置や、留め金23cの長さ等を変えることによって調整することができる。
【0022】
ここで、種子水晶1aの基本成長面の傾きθと種子水晶1aの下方側に育成される人工水晶の異物密度との関係について述べておく。発明者らの行った予備実験によれば、基本成長面の傾きを「θ≧3.5°」とするとJIS C6704(2005年版)に規定されている等級Iよりも異物密度の小さな人工水晶を育成できることが確認されている。さらに「θ≧5°」とした場合には、等級Iaよりも異物密度の小さな人工水晶を育成できることが確認されている。従って、基本成長面の傾きを「3.5°≦θ≦5°」と「θ≧5°」とで切り替えることにより等級の異なる人工水晶を製造し分けることが可能であることがわかった。
【0023】
一方で、基本成長面の傾きθを5°よりも更に大きく傾けていった場合には、背景技術において図8を用いて説明したような理由により種子水晶1aを配置可能な枚数が少なくなってしまう。発明者らが検討を行った結果では、「θ>16°」になると支持具23内に配置可能な種子水晶1aの枚数が少なくなってしまうことを確認している。以上の実験及び検討結果に基づいて、本実施の形態においては等級Iの人工水晶を製造したい場合には基本成長面の重力方向に対する傾きθを例えば「3.5°≦θ≦5°」の範囲内の例えば「θ=4°」とし、等級Iaの人工水晶を製造したい場合には「5°≦θ≦16°」の範囲内の例えば「θ=7°」とすることができるようになっている。
【0024】
次に本実施の形態の作用について説明する。支持具23に多数の種子水晶1aを配置したオートクレーブ本体21内に育成溶液11を満たし、ヒーター24で加熱するとラスカ容器26内のラスカ10が育成溶液11に溶解する。ラスカ10を溶解した育成溶液11は、上部空間21aと下部空間21bとに形成されている温度勾配により対流を生じて上部空間21aへと上昇する。上部空間21aは、下部空間21bと比較して温度が低く設定されているので、育成溶液11は温度低下によって過飽和状態となり各種子水晶1aの主に基本成長面においてSiO分子を析出させることができる。この結果、図3(b)に示した「+Z」と「−Z」との方向に向かって人工水晶が育成される。
【0025】
一方、育成溶液11内にはオートクレーブ本体21から溶け出した鉄と、育成溶液11中のナトリウムやケイ素とが反応する等して生成されたアクマイト等の微粒子が浮遊している。これらの微粒子は育成溶液11の対流に乗って種子水晶1a近傍に運搬され、その一部は育成中の人工水晶に取り込まれて人工水晶中の異物(インクルージョンともいう)となってしまう。
【0026】
ここで本実施の形態においては、既述のように種子水晶1aの基本成長面を重力方向に対して傾けて配置してあるため、育成中の人工水晶の近傍に運搬された微粒子は重力の影響により、図3(b)に示す「−Z」側(上方側)の基本成長面上に沈着する。一方で、「+Z」側(下方側)の基本成長面は、種子水晶1a自体が傘となって上述の微粒子が付着しにくい状態となっている。この結果、本実施の形態に係る製造方法により製造した人工水晶は、図4に示すように上方側の人工水晶12bに異物が多く、下方側の人工水晶12aには異物の少ないというように、育成方向によって異物密度の異なる人工水晶となっている。
【0027】
また、種子水晶1aを傾ける角度を従来技術と比較して大幅に小さくしているので、図3(b)に示すように育成溶液11の対流に大きな乱れが生じない。このため、空洞部の形成がなく、所望の寸法通りの人工水晶が製造される。
【0028】
上述の手法により製造された人工水晶は、オートクレーブから取り出された後、ダイシング等により下方側の人工水晶12aと上方側の人工水晶12bとに分離される。下方側の人工水晶12aは、種子水晶1aの傾きの大きさに応じた等級の人工水晶12aとなっているので、異物密度については確認のための代表検査を行うだけで等級に応じた用途の人工水晶12aとして出荷することができる。一方、上方側の人工水晶12bについては、従来どおり各人工水晶12bについて異物密度の検査が行われ、異物密度に応じた等級に選別され用途別に出荷される。
【0029】
本実施の形態によれば以下のような効果がある。人工水晶育成させる種子水晶1aについて、その基本成長面を重力方向に対して3.5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態でオートクレーブ本体21内に配置するので、傾けた種子水晶1aの下方側で成長する人工水晶12aに、オートクレーブ本体21内で生成した異物を取り込まれないようにすることができる。この結果、異物密度が小さく種子水晶1aの傾きに応じた等級の人工水晶12aを製造することができる。
【0030】
また、種子水晶1aを傾ける角度を従来に比べて大幅に小さくしているので、オートクレーブ本体21内における育成溶液11の対流の乱れを抑えることが可能となる。この結果、対流の乱れによって発生しやすくなる製品不良(人工水晶中に形成された空洞部分やサイズ不足等)を抑えることができ、製品の歩留まりが向上する。更にまた、種子水晶1aを傾ける角度が小さいので、オートクレーブ本体21内に配置可能な種子水晶1aの枚数をさほど落とさずに上記の各種効果を得ることができる。
【0031】
なお、本発明に係る人工水晶の製造方法は、実施の形態に例示したものに限定されるものではない。例えば同じ支持具23の各段毎に傾ける角度を異ならせて種子水晶1aを配置することにより、1回の育成で異なる等級の人工水晶12aを作り分けるように構成してもよい。また、種子水晶1aの上部側の基本成長面に例えば金属製の遮蔽板を取り付け、異物密度の高い人工水晶を成長させず、異物密度の小さな人工水晶だけを育成するように構成してもよい。
【0032】
また、本実施の形態においては、X−Y平面に人工水晶を育成するいわゆるZカットの水晶種子1aを用いる場合について説明したが、水晶種子1aのカット方向や人工水晶を育成させる方向はこの例に限定されない。例えばY−Z平面上に人工水晶を育成させるXカットや、X軸を中心にZカットを時計回りに52°回転させたrカット等、どのような方向に人工水晶を育成させるタイプの水晶種子にも本発明は適用することができる。
【実施例1】
【0033】
(実験1)
種子水晶1aの基本成長面の傾斜角度を変化させて人工水晶を育成し、下方側の人工水晶12aの異物密度を計測した。
【0034】
A.実験方法
実施の形態に示したオートクレーブ2と同様の条件に設定されたオートクレーブ内に種子水晶1aを配置し、その基本成長面の傾きを変化させて人工水晶の育成を行った。種子水晶1aの下方側に育成された人工水晶12aをサンプリングして、その中に含まれる異物の密度を計測した。
(実施例1)種子水晶1aの傾きを3.5°として人工水晶を育成した。
(実施例2)種子水晶1aの傾きを5°として人工水晶を育成した。
(実施例3)種子水晶1aの傾きを6.7°として人工水晶を育成した。
(実施例4)種子水晶1aの傾きを13.5°として人工水晶を育成した。
(比較例) 種子水晶1aを傾けずに(傾斜角度0°)人工水晶を育成した。なお、種子水晶1aを傾けない場合には、育成した人工水晶に上方側、下方側の区別はないので、任意の基本成長面に育成された人工水晶をサンプリングした。
【0035】
B.実験結果
(表2)は、実験の結果得られた人工水晶1cm中に含まれる異物の大きさ毎の個数(異物密度)及びその合計値と、育成された人工水晶の等級とを示している。また、図5は種子水晶1aの傾きに対して各実験結果の異物密度の合計値をグラフにプロットした結果である。


(表2)実験により得られた人工水晶の異物密度とその等級
【0036】
実験結果によれば、種子水晶1aの基本成長面を重力方向に対して3.5°以上傾けた(実施例1)〜(実施例4)の全ての実験結果において、JIS C6704(2005年版)に規定される等級Iよりも異物密度の小さな人工水晶を得ることができた。特に、種子水晶1aを5°以上傾けた(実施例2)〜(実施例4)の3つの実験結果においては、いずれも10μm以上の異物は確認されず、等級Iaを上回る質の高い人工水晶を得ることができた。また、各実施例において得られた人工水晶からは「す」のような空洞部分は観察されなかった。
【0037】
これらの結果に対して種子水晶1aを傾けなかった(比較例)においては、得られた人工水晶は等級Iを満たしているものの、(実施例1)〜(実施例4)の全ての実験結果と比較して最も異物密度が大きかった。
以上の結果から、種子水晶1aの基本成長面を少なくとも3°、更に好ましくは5°程度傾けるだけで異物密度が小さく、空洞部分の無い高品質の人工水晶を製造できることを確認できた。
【実施例2】
【0038】
(シミュレーション1)
種子水晶1aの傾斜角度を変化させて所定の容量のオートクレーブ2に配置可能な種子水晶1aの枚数を算出した。
【0039】
A.前提条件
直径65cm、深さ14mのオートクレーブ2に種子水晶1aを配置して、その内部に配列可能な水晶種子1aの枚数を算出した。
(参照例)種子水晶1aを傾けずに配列可能な枚数を算出した。
(実施例2−1)種子水晶1aの傾きを13°として配列可能な枚数を算出した。
(実施例2−2)種子水晶1aの傾きを16°として配列可能な枚数を算出した。
(比較例2−1)種子水晶1aの傾きを20°として配列可能な枚数を算出した。
【0040】
B.シミュレーション結果
(表3)は、シミュレーションの結果得られたオートクレーブ2内に配置可能な水晶種子1aの枚数を示している。


(表3)種子水晶の傾きに応じて配置可能な種子水晶の枚数
【0041】
シミュレーション結果によれば、種子水晶1aを傾けない(参照例)では、1,350枚の種子水晶1aをオートクレーブ2中に配置することができた。また、種子水晶1aを13°傾けた(実施例2−1)と、同じく16°傾けた(実施例2−2)とにおいては、同じ容量のオートクレーブ2中に配置可能な種子水晶1aは1,200枚であった。これに対して、種子水晶1aを20°傾けた(比較例2−1)においては1,050枚となってしまい、(参照例)と比較して載置可能な枚数が22.2%減少してしまった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】水熱合成法により人工水晶を育成するためのオートクレーブの断面図である。
【図2】人工水晶の育成に用いられる種子水晶の斜視図である。
【図3】上記オートクレーブ内に種子水晶を配置する規則を示した説明図である。
【図4】実施の形態に係る製造方法により製造された人工水晶の特性を示す説明図である。
【図5】実施例に係る人工水晶の特性を説明するための特性図である。
【図6】オートクレーブ内に種子水晶を配置する際の一般的な配置方法に関する説明図である。
【図7】上記一般的な配置方法を改善した従来技術に関する説明図である。
【図8】上記従来技術により種子水晶を配置した場合の問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1a 種子水晶
1b 貫通孔
10 ラスカ
11 育成溶液
12a 下方側の人工水晶
12b 上方側の人工水晶
2 オートクレーブ
21 オートクレーブ本体
21a 上部空間
21b 下部空間
22 バッフル板
22a 貫通孔
23 支持具
23a 支持枠
23b 支持棒
23c 留め金
24 ヒーター
25 金属蓋
26 ラスカ容器
27 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートクレーブ内の支持具に配置した板状または棒状の種子水晶に水熱合成法により人工水晶を育成する製造であって、前記種子水晶は、その基本成長面を重力方向に対して3.5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置される方法により製造され、傾斜させた前記種子水晶の下方側の基本成長面に成長した人工水晶の異物密度の値がJIS C6704(2005年版)に定める等級Iの要件を満たすことを特徴とする人工水晶。
【請求項2】
オートクレーブ内の支持具に配置した板状または棒状の種子水晶に水熱合成法により人工水晶を育成する製造であって、前記種子水晶は、その基本成長面を重力方向に対して5°以上16°以下の範囲で傾斜させた状態で前記支持具に配置される方法により製造され、傾斜させた前記種子水晶の下方側の基本成長面に成長した人工水晶の異物密度の値がJIS C6704(2005年版)に定める等級Iaの要件を満たすことを特徴とする人工水晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162458(P2012−162458A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−127463(P2012−127463)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【分割の表示】特願2006−269329(P2006−269329)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】