説明

人工芝構造体およびその冷却方法

【課題】夏場の炎天下においても長時間にわたって温度上昇を抑制でき、快適なプレーを維持することができる人工芝構造体を提供する。
【解決手段】人工芝3のパイル4間に充填する充填材5の一部として、温度上昇抑制効果を有する保水性チップ6を用いる。保水性チップ6はスポンジ構造を有する発泡性部材61の内部に吸水性樹脂62を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばサッカー場などに敷設される人工芝構造体およびその冷却方法に関し、さらに詳しく言えば、人工芝の温度上昇を抑制し、プレーヤーにかかる負担を軽減する人工芝構造体およびその冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、ロングパイル人工芝は、通常の人工芝よりも長いパイルが植設された基布のパイル間に充填材を充填したものからなり、天然芝に近い弾力特性を持つ人工芝サーフェイスとして、サッカーやラグビー、野球場などの各種運動競技施設に普及している。
【0003】
この種の人工芝用の充填材としては、例えばゴムチップ(廃タイヤやEPDM等の工業用ゴムの破砕品)や熱可塑性エラストマー(EPDMやPEベースの弾力性のある樹脂)の弾性粒状物が用いられる。
【0004】
ところで、廃タイヤなどのゴムチップはカーボンによってチップ自体が黒色に着色されているため、太陽光を吸収しやすく、夏場などの炎天下では、人工芝の表面温度が60℃以上になることがある。
【0005】
そのため、夏場の人工芝での運動は、プレーヤーにとって大きな負荷となり、快適性が悪くなる。そこで、この種の人工芝の多くは、プレー前に散水するなどして、表面温度を下げるようにしている。しかしながら、散水はあくまで一時的な処置であり、数時間の持続効果が得られるわけでもなかった。
【0006】
そこで、散水による気化熱をより効率的に利用する方法として、例えば特許文献2がある。特許文献2には、人工芝の基布の一部に吸水性材料を含有させて、吸水性材料に水を蓄えておき、長時間にわたって気化熱による温度上昇を抑制する方法が開示されている。吸水性樹脂は、吸水量,吸水速度の測定法が日本工業規格(JIS)でも規定(非特許文献1,2)され、また、現在過去を含め、各社から多くのタイプが販売されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された方法は、基布に吸水性材料が配合されているため、最も高温となる人工芝表面(すなわち、充填材の表面)での温度抑制効果は、それほど期待できない。とりわけ、上記のロングパイル人工芝は、パイル丈(基布からパイル先端までの長さ)が30mm以上と長いため、人工芝の表面での温度抑制効果はほぼないと考えられる。
【0008】
また、人工芝と吸水性樹脂に関して、特許文献3は砂入り人工芝において、長期間使用しても砂が固まらないように、吸水性樹脂を含有させるゴム又は合成樹脂粉末が下層に、砂が上層にそれぞれ散布させた砂入り人工芝を開示する。特許文献4は人工芝生製運動競技場において、擦過傷や火傷の防止のために、JIS K−6767により測定した最大吸水量が自重の100〜1000倍であり、かつ、周囲の湿度に変化に応じて吸湿放湿をする吸水性樹脂の微粒子を散布させた人工芝生製運動競技場を開示する。特許文献5も弾性充填剤(ゴム)のへたり防止のために、吸水性樹脂の使用を開示する。これらも後述の差異により、人工芝の表面での温度抑制効果はほぼないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−34906号公報
【特許文献2】特開2007−126850号公報
【特許文献3】特開平3−72102号公報
【特許文献4】特開平6−33411号公報
【特許文献5】特開2002−294620号公報
【特許文献6】特表平7−505192号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本工業規格(JIS)K7223−1996
【非特許文献2】日本工業規格(JIS)K7224−1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、長時間にわたって温度上昇を抑制し快適なプレーを維持することができる人工芝構造体およびその冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する為、本発明者らは鋭意検討した結果、特定構造を有する人工芝を使用する事によって、上記課題を解決する事を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明に係る人工芝構造体は、人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体であって、上記充填材の一部が、スポンジ構造を有する発泡性部材の内部に吸水性樹脂を含んでいる保水性チップである、人工芝構造体である。
【0013】
好ましくは、上記吸水性樹脂の重量平均粒子径(D50)が0.1〜2.0mmである、人工芝構造体である。
【0014】
さらに好ましくは、上記吸水性樹脂の吸水倍率が3〜370〔g/g〕である、人工芝構造体である。
【0015】
また、本発明に係る人工芝構造体の冷却方法は、人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体の冷却方法であって、上記充填材の一部が、スポンジ構造を有する発泡性部材の内部に吸水性樹脂を含んでいる保水性チップである、人工芝構造体の冷却方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スポンジ構造を有する発泡性部材の内部に吸水性樹脂を含んだ保水性チップを充填材の一部、好ましくは充填材の表層に存在させることによって、夏場の炎天下においても、保水性チップによる温度上昇抑制効果により長時間にわたって人工芝表面の温度上昇が抑えられる。さらには、吸水性樹脂が発泡性部材の中に存在しているため、紫外線が吸水性樹脂に直接当たるのを防止でき、紫外線による吸水性樹脂の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本願発明の一実施形態に係る人工芝構造体を示す模式図である。
【図2】図2は、上記保水性チップの一部を拡大した写真画像である。
【図3】図3は、本願発明の保水性チップの表面温度と時間との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は下記の各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において、「質量」と「重量」、「質量部」と「重量部」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。また、特に注釈のない限り、「ppm」は「質量ppm」又は「重量ppm」を意味する。さらに、範囲を示す「X〜Y」は「X以上、Y以下」である事を意味し、「〜酸(塩)」は「〜酸及び/又はその塩」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味する。
【0019】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこの限りではない。図1に示すように、この人工芝構造体1は、下地層(基盤)2上に敷設された人工芝3を有し、人工芝3のパイル4の間には充填材5が充填されている。この実施形態において、下地層(基盤)2は、地面を平坦に均した簡易舗装面が用いられるが、これ以外に、砂利などを敷き詰めてあってもよいし、アスファルトなどで舗装された既設舗装面を用いてもよい。
【0020】
さらには、下地層(基盤)2の上に弾性舗装などを設けてもよいし、既設の人工芝を残したまま、その上に新たに人工芝構造体1を敷設するような態様であってもよく、本発明において、下地層(基盤)2の構成は、仕様に応じて変更可能であり、任意的事項である。
【0021】
人工芝3は、基布31に所定間隔でパイル4が植設されている。基布31は、例えばポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、リサイクル性を考慮して、溶融性のよい低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0022】
この例において、基布31は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂製の平織り布が用いられているが、これ以外に、平織り布に合成樹脂の綿状物をパンチングにより植え付けたものであってもよい。なお、基布31の色は、仕様に応じて任意に決定されるが、粒状物に作り替えられたときに、太陽の熱を吸収しにくいように黒色以外の色に着色されていることが好ましい。
【0023】
本発明の人工芝としては各種使用できるが、ロングパイル人工芝に好適に適用される。パイル4は、基布31の表面から先端までのパイル長さH1が30mm以上であり、好ましくは40〜75mm、いわゆるロングパイルであることが好ましい。パイル4は、ポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、リサイクル性を考慮して、溶融性のよい低密度ポリエチレンがより好ましい。パイル4は緑色に着色されているが、黒色以外であれば任意の色が用いられる。
【0024】
パイル4には、モノテープヤーンまたはモノフィラメントヤーンを複数本束ねたもの、あるいは、帯状のスプリットヤーンが用いられてよい。この例において、パイル4は、太さが8000〜16000dtexであって、植え付け量1000〜2000g/mで基布31に植え付けられている。
【0025】
また、基布31の裏面には、タフティングされたパイル4の抜け落ちを防止するため、裏止め材(バッキング材)32が一様に塗布されている。裏止め材32には、例えばSBRラテックスやウレタンなどの熱硬化性樹脂が用いられるが、必要に応じて例えば炭酸カルシウムなどの増量剤が添加される。
【0026】
この例において、裏止め材32は、塗布量が600〜800g/m(乾燥時)となるように一様に塗布されている。なお、裏止め材32は、再生する粒状物の再生時の色を考慮して、黒色以外の色に着色されていることが好ましい。
【0027】
本発明において、基布31およびパイル4は、リサイクル性を考慮して、ポリプロピレンやポリエチレンなどの加熱、溶融が容易な熱可塑性樹脂で構成されているが、それ以外の材質であってもよい。また、裏止め材32は、作業性などを考慮して、SBRラテックスなどの熱硬化性樹脂が用いられているが、これも仕様に応じて任意に変更可能である。
【0028】
このように作成された人工芝3のパイル4の間には、充填材5が充填されている。この例において、充填材5は、弾性粒状物と硬質粒状物との混合物からなり、所定の厚さとなるように充填されている。なお、充填材5は、弾性粒状物のみからなる上層と硬質粒状物のみからなる下層の二層構造としてもよいし、弾性,硬質いずれか一方の粒状物の単層構造であってもよい。
【0029】
充填材5の層厚さは、要求される弾力性により任意に選択されるが、充填材5の流出や飛散を防止するうえで、パイルの突出高さH2(充填材層の表面からパイル先端までの長さ)が10mm以上となる厚さであることが好ましい。
【0030】
弾性粒状物は廃タイヤなどの廃ゴム品のリサイクル品が好ましい。また、弾性粒状物の粒径は0.3〜3mmが好ましい。すなわち、粒径が3mmを超える粗粒物が多く含まれると、パイル間での弾性粒状物の収まりが悪い。0.3mm未満の細粒物が多く含まれると、風によって飛散したり降雨によって流出したりすることがある。
【0031】
硬質粒状物は各種セラミック類の他、石類などであってもよいが、特には珪砂が好適である。また、硬質粒状物の粒径は0.1〜1.2mmが好ましい。すなわち、粒径が1.2mmを超える粗粒物や0.1mm未満の細粒物が多く含まれると、弾性粒状物と混合したとしても分離しやすく、また、分離した硬質粒状物は下層側に移動するため人工芝全体の弾力性が低下することにもなる。
【0032】
充填材5にはさらに、散水された水を一時的に蓄えておくための保水性チップ6が含まれている。保水性チップ6は、スポンジ構造を有する発泡性部材61と、発泡性部材61に保持される吸水性樹脂62とを備えている。
【0033】
発泡性部材61は、吸水性を有するため連続気泡のスポンジ構造を備えている。スポンジ構造とは、細かな孔が無数に開いており、一般的には水生生物の海綿動物、モクヨクカイメンを加工して作られた多孔質な構造やポリウレタン等の合成樹脂を発泡成形して得られる空洞を多く有する構造のことをいう。連続気泡とは、無数に存在する細かな孔(気泡)が連続してつながり、スポンジ構造内部にまで達しており、空気や液体、固体などが存在し得る空間を形成している状態を指す。
【0034】
この例において、発泡性部材61は、ウレタン樹脂からなるが、これ以外に天然ゴムやクロロプレン、SBRなどの合成ゴム系が好ましく用いられる。なお、他の樹脂で構成されていもよいし、天然スポンジが用いられてもよく、連続気泡のスポンジ構造を備えていれば、その材質は仕様に応じて任意に選択されてよい。
【0035】
発泡性部材61は、上述したように材質は特に限定されないが、より好ましくは、屋外で使用することから、耐候性に優れていることが好ましい。そこで、耐候性を上げるため、各種添加剤などが添加されていてもよい。
【0036】
発泡性部材61は、平均粒径が1.0〜10mm、好ましくは2.0〜8.0mm、より好ましくは2.0〜5.0mmの粒状に形成されており、この例では、立方体状に形成されている。発泡性部材61の形状は、立方体状の他に、球状や柱状などであってもよい、さらには、その表面に凹凸などを形成してもよく、発泡性部材61の形状は、仕様に応じて任意に選択可能である。
【0037】
上記平均粒径が1.0mm未満の場合、保水性チップの下層に充填するゴムチップ等に比べ、粒径差が大きく下層に移動するので保水効果が低下するおそれがあるため好ましくない。また、10mmを超える場合、パイル間での収まりも悪く、外観上も好ましくない。なお、本発明で用いる平均粒径とは、粒子の外寸より求められるものである。
【0038】
連続気泡のスポンジ構造を形成する繊維状の骨格構造によって形成される中空部を本実施形態において「セル」と称する。発泡性部材61は、連続気泡により形成されたセルを有し、そのセルの平均直径は0.1〜2.0mmが好ましい。すなわち、セルの平均直径は0.1mm未満の場合は、セル内部において後述する吸水性樹脂62が入り込みにくくなり、保水効果が低下するおそれがある。逆に2.0mm超の場合は、膨張する前の吸水性樹脂62がセル内部から落ちやすくなり、保水性が低下するおそれがある。
【0039】
次に、吸水性樹脂62(吸水性ポリマー)は、アクリル酸系や多糖類系、ポリビニルアルコール系、アクリル酸アミド系などの各種吸水性樹脂からなり、所定の形状に形成されている。これらの中では物性やコスト面から、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂が最も好ましい。
【0040】
本発明の保水性チップ6に含まれる吸水性樹脂62としては、特に限定されないが、吸水特性の観点から、任意にグラフト成分を含み、アクリル酸および/またはその塩(中和物)(以下、単に「アクリル酸(塩)」とする)を主成分とする単量体を重合して得られる内部架橋構造を有するポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂が好ましい。さらに、吸水性樹脂62の表面に有機二次架橋構造を有してもよい。
【0041】
吸水性樹脂62の主原料、すなわち、不飽和単量体( 以下、単に「単量体」とする。)としては、アクリル酸(塩)を主成分として使用することが好ましく、さらに、その他の単量体を併用してもよい。アクリル酸単量体の中和率(アクリル酸塩比率)は、10〜95モル%が好ましく、30〜90モル%がより好ましく、60〜80モル%が最も好ましい。上記中和率が10モル%未満の場合、吸水ゲルのpHが低くなりすぎるため、また、上記中和率が95モル%を超える場合、吸水ゲルのpHが高くなりすぎるため、皮膚と接触した場合にかぶれ等を起こす可能性があり好ましくない。以上の観点から、吸水ゲルのpHは5〜7が、皮膚への刺激性の点で好ましい。吸水ゲルのpHは、EDANAにより推奨される試験方法ERT400.2−02にしたがって測定することができる。
【0042】
なお、「EDANA」は、European Disposablesand Nonwovens Associationsの略称であり、「ERT」は、欧州標準(ほぼ世界水準)の吸水性樹脂の測定方法(ERT/EDANA Recommeded Test Methods)の略称である。
【0043】
吸水性樹脂62は、必須に架橋構造を有し、架橋の形態としては、架橋性単量体を使用しない自己架橋型であってもよいし、1分子内に2個以上の重合性不飽和基や2個以上の反応性基を有する架橋性単量体(以下、単に「内部架橋剤」とする。)を0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜15重量%を共重合あるいは反応させたものであってもよい。また、多価金属によるイオン架橋を含んでいても良い。本発明において、上記内部架橋剤は、特に限定されない。
【0044】
吸水性樹脂62は、上記単量体を重合することにより得られる。この例において、重合の際に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられるが、本発明において、重合開始剤は特に限定されない。
【0045】
また、吸水性樹脂62を得る重合方法としては、吸水性樹脂62の吸水性能および重合制御の容易性などの観点から、上記単量体を水溶液とする水溶液重合や逆相懸濁重合が好ましい手法として用いられるが、本発明において、重合方法についても特に限定されない。吸水性樹脂の形状はゲル状や繊維状でもよいが、好ましくは、粉末状、さらには、破砕状、球状などが使用可能であるが、発泡性部材内部に留まり易い破砕状粒子が好ましい。
【0046】
上記重合過程により得られた含水ゲル状重合体は、そのまま乾燥してもよいが、必要により、ゲル解砕機などを用いて細断されたのち乾燥する場合もある。乾燥工程で得られた吸水性樹脂62は、さらにその目的に応じ、必要により粒径を制御するため、粉砕および/または分級工程を経てもよい。これらの方法は、例えば国際公開特許第2004/69915号に開示されている。また、必要により、表面架橋工程や造粒工程、微粉除去工程、微粉リサイクル工程などの工程をさらに設けてもよい。
【0047】
この例において、吸水性樹脂62は、アクリル酸ナトリウムを主原料とするポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を粒状(粉末状)に成形したものが用いられているが、例えば屋外での使用を考慮して耐候性添加剤などを添加したものであってよい。
【0048】
吸水性樹脂62は、純水吸水倍率が3〜370〔g/g〕であり、4〜130〔g/g〕が好ましく、5〜120〔g/g〕がより好ましい。すなわち、吸水倍率が3〔g/g〕未満の場合は、保水力が小さすぎるため、温度上昇抑制効果を長時間にわたって維持することができないおそれがある。逆に、370〔g/g〕を超える場合には、散水後、該吸水性樹脂がゲル化した際、発泡性部材61より飛び出し、人工芝表面と靴底との間で滑りやすくなり、プレー性が損なわれるおそれがある。
【0049】
なお、一般的に市販されている吸水性樹脂の純水吸水倍率は、その測定方法について統一されていないが、通常、200〜1000[g/g]である。例えば、カタログ値として、商品名アクアキープ(住友精化製);200〜1000[g/g]、商品名サンウェット(三洋化成製);400〜1000[g/g]、商品名スミカゲル(住友化学製);500〜700[g/g]、商品名アクアリザーブ(日本合成化学製);250〜800[g/g]等が挙げられる。
【0050】
また、吸水性樹脂の純水吸水倍率の測定方法として、日本工業規格(JIS)K7223−1996ではティーバック式の袋に入れた吸水性樹脂を水に浸漬して自由膨潤させた後に袋を水から出して吊り下げて水切り後、重量を測定する方法を開示する。本発明の吸水倍率では水切りを吊り下げでなく、遠心分離(250G、3分)によって行う吸水倍率の測定法で規定され、かかる明細書に規定の測定法によって、純水(30分)に対して遠心分離後に3〜370[g/g]という低い吸水倍率の吸水性樹脂を用いることを特徴とする。
【0051】
なお、人工芝と吸水性樹脂に関して、特許文献3(特開平3−72102号公報)は砂入り人工芝において、長期間使用しても砂が固まらないように、吸水性樹脂を含有させるゴム又は合成樹脂粉末が下層に、砂が上層にそれぞれ散布させた砂入り人工芝を開示する。かかる特許文献3は、その実施例では吸水性樹脂アクアキープ10SH(ポリアクリル酸系、製鉄化学工業(現;住友精化)製)を天然ゴムに混合する。アクアキープ10SH の純水吸水倍率は上記カタログ値で600〜1000[g/g]という高倍率であり、かかる特許文献3は本発明の低純水吸水倍率(純水吸水倍率;3〜370[g/g])の吸水性樹脂をなんら開示しない。
【0052】
また、人工芝と吸水性樹脂に関して、特許文献4(特開平6−33411号公報)は人工芝生製運動競技場において、擦過傷や火傷の防止のために、JISK−6767により測定した最大吸水量が自重の100〜1000倍であり、かつ、周囲の湿度に変化に応じて吸湿放湿をする吸水性樹脂の微粒子が散布させた人工芝生製運動競技場を開示する。
【0053】
かかる特許文献4は、その実施例において吸水性樹脂として、粒度が20〜50ミクロンの架橋ポリアクリル酸塩(三洋化成工業製;サンウエット)を散布することを開示する。かかる実施例において、サンウエット(特許文献4は品番記載なし)の純水吸水倍率は、上記カタログ値で400〜1000[g/g]という高倍率であり、例えば、サンウエットIM−1000MPSのカタログ値は、中心粒径20〜50μmで純水吸水倍率は1000[g/g]である。したがって、かかる特許文献4(実施例で粒度が20〜50ミクロンの架橋ポリアクリル酸塩(三洋化成工業製;サンウエットを使用)は、本発明の低純水吸水倍率(3〜370[g/g])の吸水性樹脂をなんら開示しない。
【0054】
さらに、人工芝と吸水性樹脂に関して、特許文献5(特開2002−294620号公報)も弾性充填剤(ゴム)のへたり防止のために、吸水性樹脂の使用を開示するが、かかる特許文献5 は本発明の低純水吸水倍率(3〜370[g/g])の吸水性樹脂をなんら開示しない。
【0055】
上記特許文献2〜5に対して、本発明で必須の純水に対して3〜370[g/g]という低い吸水倍率の吸水性樹脂は、吸水性樹脂の製造時(重合時または重合後)の架橋剤量を適宜増量して高架橋・低吸水倍率としてもよく、また、市販の吸水性樹脂をさらに架橋してもよい。
【0056】
なお、吸水性樹脂の吸水倍率は生理食塩水(0.9重量%−NaCl水溶液)で測定されることが多く、一般に市販のオムツ等に使用されている吸水性樹脂は生理食塩水での吸水倍率が25〜60[g/g]、さらに30〜50[g/g]である。しかし、生理食塩水での吸水倍率に比べ、純水での吸水倍率は一桁程度(生理食塩水での吸水倍率の約10倍)高くなることから、上記市販品のカタログでもイオン交換水に対する吸水倍率は200〜1000[g/g]であるが、本発明の吸水性樹脂は上記特許文献2〜5や市販吸水性樹脂のカタログに記載のかかる一般的な吸水性樹脂に比べ、純水に対して3〜370[ g/g]という低純水吸水倍率(生理食塩水に対しはさらに一桁低い)を用いることを特徴とする。
【0057】
また、吸水性樹脂62は、重量平均粒子径が2.0mm以下の粒状に形成されていることが好ましい。すなわち、重量平均粒子径が2.0mm超の場合は、発泡性部材61のセル内で吸水した際に膨張することができず、十分な保水性を発揮することをできなくなる。また、人工芝の表面にゲル状に溜まるためプレー性に支障を来すばかりでなく、外観上も好ましくない。また、重量平均粒子径が0.1mm未満では、粒子の表面積が大きすぎるため、水分の蒸発が早く、十分な保水性を発揮できなくなる。
【0058】
この実施形態おいて、吸水性樹脂62は、吸水性樹脂62のバルク材を破砕機などで細かく破砕したものを目開き2.0mmのメッシュのふるいで篩い、同ふるいを通過することができた吸水性樹脂粉末が好ましく用いられ、必要により微粒子を除去してもよい。したがって、ふるいを通過することができればよいため、その形状は粒状以外にも、例えば粉末状のものやアスペクト比の高い針状のものも含まれている。
【0059】
さらには、吸水性樹脂62は、その平均吸水速度が5〔g/g・min〕以上が好ましい。すなわち、吸水性樹脂62の平均吸水速度が5〔g/g・min〕未満の場合、散水時の水を吸水することができず温度上昇の抑制効果が下がるおそれがあるため好ましくない。
【0060】
保水性チップ6を作製する方法としては、例えば、ウレタンスポンジ中に吸水性樹脂62の原料となるモノマー、開始剤等を染み込ませた後に重合させる方法や発泡性部材61の原料となるウレタンモノマーの中に予め吸水性樹脂62を分散した後に発泡反応させる事で、スポンジ構造内に吸水性樹脂を有した保水性チップ6を得る事が出来る。また、吸水性樹脂粒子と樹脂粒子を連続気泡を形成するように成型することで作製することも出来る。なお、吸水性樹脂と混合するモノマーや樹脂粒子は、ウレタンに限定される事はなく、他の樹脂やゴムで構成されてもよく、その種類は任意に選択されてよい。
【0061】
また、別々に用意した吸水性樹脂62と発泡性部材61とを用いて保水性チップ6を作製する方法としては、例えば攪拌容器内に、発泡性部材61と吸水性樹脂62とを投入した後、攪拌することにより、細粒状の吸水性樹脂62が発泡性部材61のセル内に入り込んで保持される。この例において、吸水性樹脂62は、攪拌によって充填されるが、これ以外の方法で充填されてもよく、本発明において、その充填方法は任意であってよい。
【0062】
これによれば、図2に示すように、発泡性部材61のセルは、連続気泡によって複雑に入り組んでいるため、セル内に吸水性樹脂62の粒を確実に留めておくことができる。なお、吸水性樹脂62の発泡性部材61内に固定するためのバインダーなどを投入してもよい。さらには、併せて耐候性剤や着色剤などを投入してもよい。
【0063】
保水性チップ6内に含まれる吸水性樹脂62の量は、発泡性部材61の重量に対して0.5〜20重量%であることが好ましい。吸水性樹脂62の量が0.5重量%未満の場合、吸水性樹脂が保持する水分量が少なく、十分な冷却効果を得ることができない。逆に、20重量%を超えると、チップ内への吸水性樹脂62の混入が困難となることや、吸水後の吸水性樹脂62が保水チップ6から飛び出し、人工芝表面と靴底との間で滑りやすくなり、プレー性が損なわれるおそれがある。
【0064】
図1にも示すように、保水性チップ6は、充填材5の表層部に存在することが好ましい。より好ましくは、保水性チップ6の層厚さが充填材5の層厚さの1/2以下であることが好ましい。すなわち、保水性チップ6を充填材の層厚さの1/2以下とすることにより、プレー性を損なうことなく、温度上昇抑制効果を維持することができる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明する。まず、下記の方法で吸水性樹脂の試料を作製した。
【0066】
〔吸水性樹脂の作製〕
本発明の人工芝構造体1に含まれる吸水性樹脂としては、中和率60モル%の部分中和アクリル酸ナトリウム水溶液の重合時に架橋剤の種類や量などの反応条件を変更することにより、吸収倍率が64[g/g]、230[g/g]と異なる2種類の不定形破砕状ポリアクリル酸ナトリウム(ポリアクリル酸系吸水性樹脂粉末)を作製した。ここで、吸水倍率の測定方法は、不織布にサンプルを入れ、純水に付けた後、取り出したサンプルを脱水し、その吸水前と吸水後の重量を比較計測することで算出される。
【0067】
〔吸水速度の測定〕
吸水性樹脂の各サンプル毎の吸水速度を測定した。測定方法は、20cm×20cmの木枠ケースの底部に目開き0.2mmのメッシュを貼り付け、その中央部に1gの吸水性樹脂サンプルを置き、そのサンプルに1Lの純水をジョーロでかける。純水をかけ終わった後、1分後にケースごとの重量を測定する。測定前の重量との差分を計測することにより、1分当たりの吸水量(吸水速度)とした。
【0068】
〔吸水倍率の測定〕
吸水性樹脂0.02gを不職布製の袋(60mm×85mm)に均一に入れ、ヒートシール後、23℃に調温した500mLの純水(電気伝導度5[μS/cm]以下)に浸漬し、静置させた。30分間経過後、袋を引き上げ、遠心分離機にて水切り(250G/3分間)を行い、袋の重量W2[g]を測定した。同様の操作を、サンプルを入れずに行い、そのときの袋の重量W1[g]を測定した。
これらの重量W1及びW2から、次式にしたがって吸水倍率[g/g]を求めた。
吸水倍率[g/g]=(W2−W1−サンプルの重量)/(サンプルの重量)
【0069】
〔重量平均粒子径の測定〕
吸水性樹脂を目開き5600μm、4750μm、3350μm、2800μm、2000μm、1400μm、1000μm、850μm、600μm、500μm、300μm、150μm、45μmのJIS標準ふるいで篩い分けし、残留百分率R を対数確率紙にプロットした。これにより、R=50重量%に相当する粒径を重量平均粒子径(D50)として読み取った。
篩い分け方法としては、吸水性樹脂10gを室温(20〜25℃)、相対湿度50%RHの条件下で、上記JIS−Z8801−1標準ふるい(TheIIDATESTINGSIEVE:内径80mm)に仕込み、ロータップ型ふるい振盪機(株式会社飯田製作所製「ES−65型ふるい振盪機」:回転数230rpm、衝撃数130rpm)を用いて10分間振盪させ、分級を行った。
【0070】
〔保水性チップの作製〕
平均セル径0.2〜0.6mmの市販の連続発泡スポンジ30gを重量平均粒子径が5mmとなるように破砕し、実施例および比較例の吸水性樹脂0.5gとを所定の攪拌機に投入したのち、攪拌し、吸水性樹脂をスポンジのセル内に充填した。
【0071】
〔温度上昇抑制効果の評価試験〕
実施例および比較例の保水性チップを5mm厚で充填し、十分な散水をおこなったのち、上方から投光器で光を照射し、表面温度の変化をT型熱電対を用いて測定した。照射開始3時間経過後の表面温度が50℃以下の場合を○、50℃より高い場合を×とした。
【0072】
〔プレー性の評価試験〕
1m×3mの試験人工芝を作成し、さらにその表面に実施例1,2および比較例1〜4の各種設定条件に基づく保水性チップを散布して試験土壌を作成する。次に、試験土壌に十分な散水を行った後、各試験土壌の上を3人の試験者に走り込んでターンなどをしてもらい、滑りやすさなど、吸水性樹脂を散布しない場合に比べてプレー性への影響の有無について評価した。評価方法としては、滑りやすさや違和感などプレー性に影響する場合には×、影響しない場合には○とし、3人の評価者の中で一人でも×がある場合には、プレー性を×とした。
【0073】
〔耐候性の評価〕
各サンプルの保水性チップに殺菌燈式電気消毒器(日鉄工業株式会社製)を用いて紫外線を24時間照射したのち、保水性チップに散水し、水を吸水するかどうかを目視で確認した。吸水した場合を○、しない場合を×として評価した。
また、これら評価試験から、すべての評価が○の場合は○とし、いずれか一方でも×の場合は×として、総合的な評価を行った。
以下に、各実施例および比較例のスペック並びに各評価結果およびその総合的な評価を示す。
【0074】
《実施例1》
〔発泡部材〕あり
〔吸水性樹脂〕あり
〔吸水倍率〕230g/g
〔粒度〕0.1mm
〔吸水速度〕148.3g/g・min
〔3時間後温度〕49℃:○
〔外観プレー性〕○
〔耐候性〕○
〔総合評価〕○
【0075】
《実施例2》
〔発泡部材〕あり
〔吸水性樹脂〕あり
〔吸水倍率〕64g/g
〔粒度〕0.3mm
〔吸水速度〕63.5g/g・min
〔3時間後温度〕49℃:○
〔外観プレー性〕○
〔耐候性〕○
〔総合評価〕○
【0076】
〈比較例1〉
〔発泡部材〕あり
〔吸水性樹脂〕なし
〔吸水倍率〕−
〔粒度〕−
〔吸水速度〕−
〔3時間後温度〕65℃:×
〔外観プレー性〕○
〔耐候性〕○
〔総合評価〕×
【0077】
〈比較例2〉
〔発泡部材〕なし
〔吸水性樹脂〕あり
〔吸水倍率〕64g/g
〔粒度〕0.3mm
〔吸水速度〕63.5g/g・min
〔3時間後温度〕55℃:×
〔外観プレー性〕×
〔耐候性〕×
〔総合評価〕×
【0078】
〈比較例3〉
〔発泡部材〕なし
〔吸水性樹脂〕あり(有限会社富士商貿社製:ぷよぷよポリマー)
〔吸水倍率〕100g/g
〔粒度〕1.0mm
〔吸水速度〕1.9g/g・min
〔3時間後温度〕75℃:×
〔外観プレー性〕○
〔耐候性〕○
〔総合評価〕×
【0079】
〈比較例4〉
〔発泡部材〕なし
〔吸水性樹脂〕なし
〔吸水倍率〕−
〔粒度〕−
〔吸水速度〕−
〔3時間後温度〕65℃:×
〔外観プレー性〕×
〔耐候性〕×
〔総合評価〕×
【0080】
以下に、実施例および比較例の保水性チップの各スペックおよびその評価結果のまとめを表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
また、別の評価試験として、まず、20cm×20cmの木枠内に廃タイヤからなる黒ゴムチップ充填材を30mm厚で充填し、その表層に実施例および比較例の保水性チップをほぼ等間隔となるように均一に散布して試験土壌を作成した。
【0083】
次に、この試験土壌に対して上方から投光器で光を照射し、投光開始から2時間後に散水する。散水後も投光を継続し、その間の試験土壌の表面温度変化を測定した。また、比較例として、黒ゴムチップ単体のものと、黒ゴムチップにスポンジのみを充填したものを作成し、同様の試験に供した。その結果を図3に示す。
【0084】
これによれば、図3に示すように、スポンジと吸水性樹脂とを組み合わせた保水性チップを用いた場合、散水後から4時間は表面温度を50℃以下に保つことができる。また、4時間経過後も比較例と比べると、明らかに表面温度の上昇が抑制されていることが分かる。
【符号の説明】
【0085】
1 人工芝構造体
2 下地層
3 人工芝
4 パイル
5 充填材
6 保水性チップ
31 基布
32 裏止め材(バッキング材)
61 発泡性部材
62 吸水性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体であって、
上記充填材の一部が、スポンジ構造を有する発泡性部材の内部に吸水性樹脂を含んでいる保水性チップであることを特徴とする、人工芝構造体。
【請求項2】
上記吸水性樹脂の重量平均粒子径(D50)が0.1〜2.0mmである、請求項1に記載の人工芝構造体。
【請求項3】
上記吸水性樹脂の純水吸水倍率が3〜370〔g/g〕である、請求項1または2に記載の人工芝構造体。
【請求項4】
上記保水性チップが上記充填材の表層部に存在する、請求項1または2,3に記載の人工芝構造体。
【請求項5】
人工芝のパイル間に充填材を充填してなる人工芝構造体の冷却方法であって、
上記充填材の一部が、スポンジ構造を有する発泡性部材の内部に吸水性樹脂を含んでいる保水性チップであることを特徴とする、人工芝構造体の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219580(P2012−219580A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89307(P2011−89307)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】