説明

人工血管及びその製造方法

【課題】複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管を提供する。
【解決手段】繊維質よりなる管状体1に棒状体2を挿入し、この管状体1を収容する溝部が形成された一対の型部材3の当該溝部に硬化剤を混入して生成される所定のゲル状物質を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体1を一方の型部材3の溝部に収容すると共に、他方の型部材3の溝部に管状体1が収容されるように当該型部材3を被せる。そして、上記管状体1を収容した状態で一対の型部材3に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体1から棒状体2を引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管及びその製造方法に関し、特に、生体血管に近似した物性を備える人工血管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床においては、病的に劣化した血管に代わる代用血管として、人工材料から作られる人工血管が広く使用されている。かかる人工血管においては、無毒性、耐久性や抗血栓性などの代用血管としての必要条件を満たすべく各種の提案が為されている。例えば、特許文献1においては、代用血管としての必要条件に含まれる耐久性や縫合し易さを満たすべく、複数本のコラーゲン糸状物を略平行に配列した層状物を所定角度で複数重ね、接着されたコラーゲン不織布を管状に成型する人工血管が提案されている。
【特許文献1】特開2004−188037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の提案に代表されるような従来の人工血管においては、複雑な工程を経て製造されるため、その製造コストを抑えることができず、結果物としての人工血管が高価になるという問題がある。
【0004】
また、このような人工血管の用途においては、上述の臨床に使用することが重要であることは言うまでもないが、人体に損傷を与えかねない臨床に至る前段階において、その手術手技を習得するための教育や練習等に使用することも極めて重要である。このように教育や練習用の人工血管において、上述のような高価な人工血管を使用する場合には使用者の負担が極めて大きくなるため、十分に手術手技を習得する際の支障となるという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明に係る人工血管の製造方法は、繊維質よりなる管状体に棒状体を挿入し、この管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に硬化剤を混入して生成されるゲル状物質を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体を一方の型部材の溝部に収容すると共に他方の型部材の溝部に棒状体が収容されるように当該型部材を被せ、上記管状体を収容した状態で一対の型部材に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体から棒状体を引き抜くものである。このような工程を有する人工血管の製造方法によれば、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管を提供することが可能となる。
【0007】
また、本発明に係る人工血管の製造方法において、繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を平織りや綾織りなどにより織って、或いは、経編みなどにより編んで形成することが望ましい。このようにして管状体を形成した場合には、管状体に伸展性を付与することが可能となる。特に、平織りや綾織り、或いは、経編みにより管状体を形成した場合には、動脈壁の一部を為す弾性板に近似した特性を管状体に付与することが可能となる。
【0008】
さらに、本発明に係る人工血管の製造方法においては、棒状体の表面に溝部を形成するようにしても良い。この場合には、溝部により人工血管における弾力性が補強されることとなるので、より生体血管に近似した特性を当該人工血管に付与することが可能となる。
【0009】
特に、棒状体に形成される溝部は、螺旋状にすることが好ましい。このように棒状体に形成される溝部を螺旋状にした場合には、螺旋状に形成された溝部に沿って回転させながら棒状体を引き抜くことで、容易に棒状体を引き抜くことが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る人工血管の製造方法は、手術手技を習得するための教育又は練習用に用いる人工血管を製造する際に好適である。すなわち、生体血管と近似する弾性や伸展性を有する人工血管を安価に製造できることから、手術手技を習得するための教育又は練習用に用いる際に好適な人工血管を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維質よりなる管状体に棒状体を挿入し、この管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に硬化剤を混入して生成されるゲル状物質を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体を一方の型部材の溝部に収容すると共に他方の型部材の溝部に棒状体が収容されるように当該型部材を被せ、上記管状体を収容した状態で一対の型部材に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体から棒状体を引き抜くようにしたので、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、繊維質よりなる管状体に棒状体を挿入し、この管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に硬化剤を混入して生成されるゲル状物質を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体を一方の型部材の溝部に収容すると共に他方の型部材の溝部に棒状体が収容されるように当該型部材を被せ、上記管状体を収容した状態で一対の型部材に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体から棒状体を引き抜くことで、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管を提供するものである。特に、本発明においては、生体血管と近似する弾性や伸展性を有する人工血管を安価に製造できることから、手術手技を習得するための教育又は練習用に用いる際に好適な人工血管を提供することが可能となる。以下、本発明に係る人工血管の製造方法の各工程で用いられる部材、並びに、当該部材を用いた処理内容について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工血管の製造方法で用いられる管状体の一例を示す模式図である。図1に示す管状体1は、特定の化学繊維を織って、或いは、編んで形成されている。特定の化学繊維としては、例えば、ウーリーナイロン、ポリエステル、レーヨン等が用いられる。それぞれの化学繊維においては、例えば、8、12、16、24、40及び70デニールの太さのものが用いられる。この管状体1は、後述するように所定のゲル状物質で覆われて人工血管が製造された状態で、例えば、動脈壁の一部を為す弾性板に相当する。
【0015】
特定の化学繊維を織って管状体1を形成する場合には、例えば、平織りや綾織り(ジャージ織り)などが用いられる。一方、特定の化学繊維を編んで形成する場合には、例えば、経編みなどが用いられる。このように特定の化学繊維を織ったり、編んだりして管状体1を形成することで、管状体1に伸展性を付与することが可能となる。特に、平織りや綾織り、或いは、経編みにより管状体1を形成した場合には、動脈壁の一部を為す弾性板に近似した特性を管状体1に付与することが可能となる。なお、本実施の形態においては、40デニールのウーリーナイロンを綾織りすることで管状体1が形成される場合について示すものとする。
【0016】
本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、このように構成される管状体1に棒状体2を挿入する。図2は、管状体に棒状体が挿入された場合の状態について示す模式図である。棒状体2は、導電性を有する金属で構成される(以下、かかる金属で構成される棒状体2を適宜「金属棒2」という)。金属棒2は、例えば、ステンレスで構成される。管状体1に金属棒2を挿入する場合には、図2に示すように、管状体1が金属棒2の中央部分に配置され、金属棒2の両端が露出した状態となることが好ましい。
【0017】
次に、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、このような金属棒2が挿入された管状体1の周囲に所定のゲル状物質を付着させる。このため、金属棒2が挿入された管状体1を、当該管状体1を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に挟み込まれるように収容する。その際、それぞれの型部材に形成された溝部に上記所定のゲル状物質を注入し、一定時間乾燥させる。
【0018】
図3は、金属棒2が挿入された管状体1を収容する溝部が形成された一対の型部材について示す模式図である。なお、図3においては、一方の型部材についてのみ示し、同一形状を有する他方の型部材は省略している。図3に示すように、型部材3は、本実施の形態に係る人工血管の製造方法で製造される人工血管の長さに応じた長尺の形状を有している。型部材3には長手方向に沿って溝部4が形成されている。溝部4は、金属棒2が挿入された管状体1の略半分を収容する形状に設けられている。すなわち、それぞれの型部材3に形成された溝部4を対向するように合わせた状態で、金属棒2が挿入された管状体1の全体が収容されるように構成されている。
【0019】
本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、このような形状を有する型部材3の溝部4に所定のゲル状物質を注入し、一定時間乾燥させる。図4は、図3に示す型部材3の溝部4に所定のゲル状物質を注入した状態について示す模式図である。溝部4に注入する所定のゲル状物質5の容量は、例えば、溝部4が有する深さの半分に相当する容量とすることが実施の形態として好ましい。金属棒2が挿入された管状体1を収容する際にゲル状物質が流出することを考慮したものである。
【0020】
ここで、金属棒2が挿入された管状体1に浸透させる所定のゲル状物質について説明する。所定のゲル状物質は、特定の液状シリコーンに対して一定割合の硬化剤を混入して得られる生成物と、特定のゲル状物質に対して一定割合の専用硬化剤を混入して得られる生成物とを混合攪拌して生成される。具体的には、80グラムの第1の液状シリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:RTV−2 VP7550)及び20グラムの第2の液状シリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:SLJ3253)の合計100グラムに対し、2〜4%の硬化剤(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:CATALYST T−40)を混入して攪拌する。これにより生成されるゲル状物質をゲル状物質(A)という。
【0021】
一方、特定のゲル状物質(株式会社エクシールコーポレーション製:人肌のゲル、硬度0)を15グラムに対し、5%の専用硬化剤を混入して攪拌する。これにより生成されるゲル状物質をゲル状物質(B)という。そして、上記ゲル状物質(A)及びゲル状物質(B)をそれぞれ5分間脱泡した後、速やかに室温(20〜30℃)にて混合攪拌する。これにより生成されるゲル状物質をゲル状物質(C)という。このゲル状物質(C)が上述の所定のゲル状物質5に相当する。
【0022】
本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、このような所定のゲル状物質を生成する際、生体血管と見た目を近似させるべく、上記ゲル状物質(B)に対する特定色の顔料による着色を行う。具体的には、専用硬化剤を混入して攪拌する前に特定色(例えば、赤色)の顔料を混入することで、ゲル状物質(B)に対する特定色の着色を行っている。
【0023】
このように生成される所定のゲル状物質5が、上記一対の型部材3の溝部4に適量注入される。かかる所定のゲル状物質5は、溝部4に注入された後、約15分で硬化し始める。本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、このように溝部4に注入した所定のゲル状物質5が硬化し始めるタイミングで、金属棒2が挿入された管状体1を、一方の型部材3の溝部4に収容されるように載置する。図5は、一方の型部材の溝部に注入したゲル状物質が硬化し始めるタイミングで載置された管状体の状態について示す模式図である。図5に示すように、金属棒2が挿入された管状体1は、その半分が溝部4に収容された状態となる。
【0024】
管状体1を一方の型部材3の溝部4に載置するのと同様に、他方の型部材3の溝部4に注入した所定のゲル状物質5が硬化し始めるタイミングで、他方の型部材3の溝部4に管状体1が収容されるように当該型部材3を被せる。図6は、他方の型部材の溝部に管状体が収容されるように当該型部材を被せた管状体の状態について示す模式図である。なお、図6においては、管状体1が載置される一方の型部材3を型部材3Dと示し、被せられる他方の型部材3を型部材3Uと示している。図6に示すように、他方の型部材3を被せると、管状体1は一対の型部材3に形成された溝部4に完全に収容された状態となり、その両端部から露出した金属棒2のみが型部材3から突出した状態となる。
【0025】
このように一対の型部材3に形成された溝部4に管状体1を収容した後、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、この一対の型部材3に一定の圧力を付与しながら一定時間放置する。具体的には、10Kgの圧力を一対の型部材3に付与し、室温(20〜30℃)で24時間固定した状態で放置する。これにより、一対の型部材3の溝部4に注入した所定のゲル状物質5を硬化させる。
【0026】
なお、一対の型部材3に一定の圧力を付与する際にはいかなる方法を用いても良い。最も単純な方法としては、平坦面に当該一対の型部材3を載置し、その上に10Kgの重りを載置することが考えられる。しかし、かかる方法は一例に過ぎず、一対の型部材3に一定の圧力を付与する方法としてはこれに限定されず、適宜変更が可能である。特に、作業性の向上を考慮して作業の一部又は全体を自動化することは実施の形態として好ましい。
【0027】
このように一対の型部材3に圧力を付与しながら一定時間放置した後、一対の型部材3から管状体1を取り出す。これにより、図7に示す状態の管状体1が得られる。図7は、管状体の全体に所定のゲル状物質を付着させた状態について示す模式図である。
【0028】
このように管状体1の全体に所定のゲル状物質5が付着した状態の管状体1を得た後、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、金属棒2を管状体1から引き抜く。図8は、金属棒2を管状体1から引き抜いた後の状態について示す模式図である。図8に示すように、金属棒2を引き抜いた後は所定のゲル状物質5が管状体1の繊維質部分に浸透し、適度な弾力を与えた状態で硬化している。一方、管状体1の繊維質部分には、特定の化学繊維を織って伸展性を付与されている。これにより、生体血管に近似する弾性及び伸展性を有する管状体1が構成される。
【0029】
図9は、かかる工程を経て製造された人工血管の断面図である。図9に示すように、人工血管においては、中空状態の管状体1の上層に所定のゲル状物質5が付着した状態となっている。なお、管状体1には、所定のゲル状物質5が浸透した状態となっているが、図9においてはその詳細は省略している。このように管状体1の周面を、所定のゲル状物質5が覆うことで人工血管の表面が形成されるようになっている。
【0030】
このようにして得た人工血管の両端部を所望の長さに切断することで、本実施の形態に係る人工血管の製造方法による人工血管が完成する。なお、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、所定のゲル状物質5により人工血管の表面が構成されることから、その表面がべた付く場合が発生し得る。このようなケースを想定して、べた付きを抑える所定のパウダーを付着させる工程を最終工程に追加することは実施の形態として好ましい、この場合、所定のパウダーが人工血管の表面に発生する過剰なべた付きを抑制するので、より生体血管の表面特性に近似させることが可能となる。
【0031】
なお、ここでは、外径が一種類の人工血管について説明しているが、これよりも外径が大きいもの、或いは、小さいものを製造することも可能である。外径が異なる人工血管を製造する際の作業例としては、例えば、一対の型部材3の溝部4の径を変更することが考えられる。また、外形が小さいものを製造する際の作業例としては、管状体1に対する所定のゲル状物質5の付着量を低減するようにしても良い。
【0032】
このように本実施の形態に係る人工血管の製造方法によれば、繊維質よりなる管状体1に棒状体2を挿入し、この管状体1を収容する溝部4が形成された一対の型部材3の当該溝部4に硬化剤を混入して生成される所定のゲル状物質5を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体1を一方の型部材3(例えば、3D)の溝部4に収容すると共に他方の型部材3(例えば3U)の溝部4に管状体1が収容されるように当該型部材3を被せる。そして、上記管状体1を収容した状態で一対の型部材3に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体1から棒状体2を引き抜くようにしたので、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管を提供することが可能となる。
【0033】
特に、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、管状体1に、硬化剤を混入して生成されるゲル状物質5を浸透させて人工血管の表面を構成するようにしている。このように人工血管の表面に、硬化剤を混入して生成されるゲル状物質5を使用するため、人工血管における耐熱性を向上すると共に、その表面の強度を調整することが可能となる。
【0034】
なお、本実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、上述のように、生体血管と近似する弾性や伸展性を有する人工血管を安価に製造できることから、手術手技を習得するための教育又は練習用に用いる際に好適な人工血管を提供することが可能となる。特に、教育又は練習用に用いる人工血管に適用する場合には、上述のように、人工血管における弾性を変化させることで、病的な生体血管(例えば、動脈硬化状態の血管)に類似した人工血管を製造することができる。この結果、通常、臨床においてしか習得することができない、病的な生体血管に対する手術手技を習得することが可能となる。
【0035】
また、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0036】
例えば、上記実施の形態に係る人工血管の製造方法においては、通常の周面を有する棒状体2を用いて人工血管を製造する場合について示している。しかし、本発明はこれに限定されるものでなく、棒状体2の形状については適宜変形が可能である。例えば、棒状体2の周面に溝部を形成しても良い。この場合において、棒状体2に形成される溝部を、螺旋状にすることは実施の形態として好ましい。溝部を螺旋状に形成した場合には、螺旋状に形成された溝部に沿って回転させながら棒状体2を引き抜くことで、容易に棒状体2を引き抜くことが可能となる。以下、棒状体2の周面に螺旋状の溝部を形成する変形例について説明する。
【0037】
図10は、周面に螺旋状の溝部(以下、「螺旋溝」という)が形成された棒状体2の模式図である。図10に示すように、棒状体2の周面には、その一端から他端まで導かれる螺旋溝2Aが形成されている。このように螺旋溝2Aが形成された棒状体2を用いて上記実施の形態に係る人工血管の製造方法を実行する場合には、所定のゲル状物質5を棒状体2の全体に付着させた場合に当該棒状体2の周辺のゲル状物質5の形状が上記実施の形態と相違する。
【0038】
すなわち、螺旋溝2Aが形成された棒状体2を用いて上記実施の形態に係る人工血管の製造方法を実行すると、所定のゲル状物質5は、螺旋溝2Aの内部に入り込む。そして、一定時間乾燥すると、螺旋溝2Aに入り込んだ形状で硬化する。図11は、図10に示す棒状体2を用いて製造した人工血管の断面図である。図11に示すように、図10に示す棒状体2を用いて製造した場合には、図9に示す人工血管の断面と異なり、管状体1の内側に螺旋溝2Aに沿って形成された所定のゲル状物質5が配置されている。
【0039】
このように製造された人工血管においては、螺旋溝2Aに入り込んだゲル状物質5により人工血管における弾力性が補強されることとなるので、より生体血管に近似した特性を当該人工血管に付与することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、繊維質よりなる管状体に棒状体を挿入し、この管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に硬化剤を混入して生成されるゲル状物質を注入して一定時間乾燥させ、上記管状体を一方の型部材の溝部に収容すると共に他方の型部材の溝部に棒状体が収容されるように当該型部材を被せ、上記管状体を収容した状態で一対の型部材に一定の圧力を付与しながら一定時間放置した後、当該管状体から棒状体を引き抜くようにして、複雑な工程を経ることなく安価に製造することができ、代用血管としての必要条件に含まれる弾性や伸展性に優れた人工血管を提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工血管の製造方法で用いられる管状体の一例を示す模式図である。
【図2】管状体に棒状体が挿入された場合の状態について示す模式図である。
【図3】棒状体が挿入された管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材について示す模式図である。
【図4】図3に示す型部材の溝部に所定のゲル状物質を注入した状態について示す模式図である。
【図5】一方の型部材の溝部に注入したゲル状物質が硬化し始めるタイミングで載置された管状体の状態について示す模式図である。
【図6】他方の型部材の溝部に管状体が収容されるように当該型部材を被せた管状体の状態について示す模式図である。
【図7】管状体の全体に所定のゲル状物質を付着させた状態について示す模式図である。
【図8】棒状体を管状体から引き抜いた後の状態について示す模式図である。
【図9】上記実施の形態に係る人工血管の製造工程を経て製造された人工血管の断面図である。
【図10】周面に螺旋状の溝部が形成された棒状体の模式図である。
【図11】図10に示す棒状体を用いて製造した人工血管の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:管状体
2:棒状体(金属棒)
3:型部材
4:溝部
5:ゲル状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質よりなる管状体に棒状体を挿入する工程と、前記棒状体が挿入された管状体を収容する溝部が形成された一対の型部材の当該溝部に硬化剤を混入して生成されるゲル状物質を注入して一定時間乾燥させる工程と、前記棒状体が挿入された管状体を一方の前記型部材の溝部に収容する工程と、他方の前記型部材の溝部に前記管状体が収容されるように当該型部材を被せる工程と、前記管状体を収容した状態で前記一対の型部材に一定の圧力を付与しながら一定時間放置する工程と、前記管状体から前記棒状体を引き抜く工程と、を具備することを特徴とする人工血管の製造方法。
【請求項2】
前記繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を織って形成されることを特徴とする請求項1記載の人工血管の製造方法。
【請求項3】
前記繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を平織りすることで形成されることを特徴とする請求項2記載の人工血管の製造方法。
【請求項4】
前記繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を綾織りすることで形成されることを特徴とする請求項2記載の人工血管の製造方法。
【請求項5】
前記繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を編んで形成されることを特徴とする請求項1記載の人工血管の製造方法。
【請求項6】
前記繊維質よりなる管状体は、特定の化学繊維を経編みすることで形成されることを特徴とする請求項5記載の人工血管の製造方法。
【請求項7】
前記棒状体の表面に溝部を形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の人工血管の製造方法。
【請求項8】
前記溝部を螺旋上に形成したことを特徴とする請求項7記載の人工血管の製造方法。
【請求項9】
手術手技を習得するための教育又は練習用に用いる人工血管を製造することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の人工血管の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の人工血管の製造方法により製造されることを特徴とする人工血管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−334278(P2006−334278A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165376(P2005−165376)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(592248835)日本エー・シー・ピー株式会社 (56)
【出願人】(501249054)有限会社立花商会 (4)
【Fターム(参考)】