説明

人工関節置換術用手術器具

【課題】ライナー要素の摺動面に損傷が生じることを防止し、シェル要素に対するライナー要素の取り付けを容易にする人工関節置換術用手術器具を提供する。
【解決手段】ライナー保持部材11は、摺動面104aが内側に形成されたライナー要素104の開口端部104bに係合することでライナー要素104を保持する。ロッド部材12bは、ロッド状に形成された部分33bを有し、ライナー保持部材11がライナー要素104を保持した状態において、一端側の端部31bがライナー保持部材11に対する向きを変更可能な状態でライナー保持部材11に当接するように配置されるとともに他端側の端部32bが打ち付けられることでライナー要素104をシェル要素103に対して打ち込むように付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寛骨臼に配置されるシェル要素とシェル要素に取り付けられるライナー要素とライナー要素に対して摺動する骨頭ボール要素とを有する人工関節に関節を置換する人工関節置換術において、寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人工股関節置換術等のように、関節に異常が認められた患者に対してその関節をシェル要素とライナー要素と骨頭ボール要素とを有する人工関節に置換する手術である人工関節置換術が行われている。ここで、シェル要素は、半球殻状に形成された寛骨臼に配置される。ライナー要素は、シェル要素の内側に取り付けられるとともに半球面状に内側に凹む摺動面が形成されている。骨頭ボール要素は、ライナー要素に対してその摺動面において摺動するように配置される。そして、このような人工関節に関節を置換する人工関節置換術においては、寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けることが行われる。
【0003】
非特許文献1においては、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術において寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具(以下、単に「手術器具」ともいう)が開示されている。非特許文献1の手術器具は、ライナー要素の摺動面に当接するボール状の端部が設けられたロッド状に形成されている。術者は、まず、寛骨臼に配置されたシェル要素の内側にライナー要素を配置した状態で、ライナー要素の摺動面に上記のボール状の端部を当接させる。そして、この状態において、非特許文献1の手術器具におけるボール状の端部とは反対側の端部をハンマーで打ちつけることで、シェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付ける。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Reflection Spiked Surgical Technique”、[online]、6.Acetabular Liner Insertion、平成19年10月31日(http://global.smith-nephew.com/us/19203.htm)、Smith & Nephew、[平成21年1月19日検索]、インターネット(http://global.smith-nephew.com/cps/rde/xbcr/smithnephewls/71380685.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示された手術器具を用いることで、術者は、寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けることができる。しかしながら、この手術器具を用いる場合、術者は、ライナー要素の摺動面に手術器具におけるボール状の端部を当接させた状態で、ハンマーで衝撃力を付与してライナー要素をシェル要素に打ち込んで取り付けることになる。このため、手術器具の端部からライナー要素の摺動面に直接に衝撃力が伝達され、この摺動面に損傷が生じてしまう虞がある。とくに、上記の手術器具が繰り返し使用されている場合、ボール状の端部に傷が生じ、この傷がライナー要素の摺動面に転写され、表面を損傷してしまうことになる。そして、ライナー要素の摺動面に損傷が生じると、骨頭ボール要素と摺動する際における適切な摺動状態の確保に影響を与えてしまう虞がある。
【0006】
一方、ライナー要素をシェル要素に対して打ち込んで取り付ける際に、非特許文献1の手術器具を用いずに、摺動面が内側に形成されたライナー要素の開口端部を直接に或いは他の部材を介してハンマーで打ち込むことで、摺動面でなく開口端部において衝撃力を付与して、ライナー要素をシェル要素に打ち込むことが考えられる。しかしながら、ライナー要素をシェル要素に取り付けるためには、ライナー要素がシェル要素の内側に嵌り込むことが可能な方向に沿った衝撃力がライナー要素に対して全体的にバランスよく付与される必要がある。このため、ライナー要素の開口端部を直接に又は他の部材を介してハンマーで打ち付ける場合、上記のような所定の方向に沿った衝撃力をライナー要素に対して全体的にバランスよく付与するように打ち込むことが非常に困難となる。更に、体内の狭い手術用の空間においては、ライナー要素の開口端部における所望の箇所を正確に打ち付ける作業自体も非常に困難な作業となる。このため、ライナー要素の摺動面に損傷を生じさせることなく、シェル要素にライナー要素を容易に取り付けることが可能な人工関節置換術用手術器具が望まれる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、シェル要素にライナー要素を打ち込んで取り付けるための人工関節置換術用手術器具に関し、ライナー要素における骨頭ボール要素に摺動する摺動面に損傷が生じることを防止できるとともに、シェル要素に対してライナー要素を容易に取り付けることができる、人工関節置換術用手術器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工関節置換術用手術器具は、寛骨臼に配置される半球殻状のシェル要素と前記シェル要素の内側に取り付けられるとともに半球面状に内側に凹む摺動面が形成されたライナー要素と前記摺動面において前記ライナー要素に対して摺動する骨頭ボール要素とを有する人工関節に関節を置換する人工関節置換術において、寛骨臼に配置された前記シェル要素に対して前記ライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具に関する。そして、第1発明に係る人工関節置換術用手術器具は、前記摺動面が内側に形成された前記ライナー要素の開口端部に係合することで当該ライナー要素を保持可能なライナー保持部材と、ロッド状に形成された部分を有し、前記ライナー保持部材が前記ライナー要素を保持した状態において、一端側の端部が前記ライナー保持部材に対する向きを変更可能な状態で当該ライナー保持部材に連結され又は当接するように配置されるとともに他端側の端部が打ち付けられることで前記ライナー要素を前記シェル要素に対して打ち込むように付勢するロッド部材と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、ライナー要素の開口端部に係合するライナー保持部材によってライナー要素が保持される。そして、ライナー保持部材で保持したライナー要素をシェル要素の内側に配置し、ライナー保持部材に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部が連結又は当接するロッド部材の他端側の端部をハンマーで打ちつけることにより、ライナー要素をシェル要素に取り付けることができる。このため、ハンマーが打ちつけられることによりロッド部材から伝達される衝撃力は、ライナー要素に対しては、ライナー保持部材を介して、摺動面でなく開口端部に伝達される。これにより、摺動面に衝撃力が直接に伝達されることがなく、摺動面に損傷が生じることを防止できる。そして、この発明によると、予め定められた所定の箇所でライナー要素に対して係合することでライナー要素を保持したライナー保持部材に対してロッド部材を介して衝撃力が伝達される。このため、ライナー要素に対して衝撃力が作用する位置がずれることが防止される。これにより、ライナー要素がシェル要素の内側に嵌り込むことが可能な方向に沿った衝撃力をライナー保持部材を介してライナー要素に対して全体的にバランスよく付与することを容易に実現することができる。また、ロッド部材は、ライナー保持部材に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部が連結又は当接し、他端側の端部が打ち付けられる。このため、術者は、ロッ
ド部材の他端側の端部の位置を適宜所望の位置に調整し、ライナー保持部材及びロッド部材を介して容易にライナー要素をシェル要素に打ち込んで取り付けることができる。
【0010】
従って、本発明によると、シェル要素にライナー要素を打ち込んで取り付けるための人工関節置換術用手術器具に関し、ライナー要素における骨頭ボール要素に摺動する摺動面に損傷が生じることを防止できるとともに、シェル要素に対してライナー要素を容易に取り付けることができる、人工関節置換術用手術器具を提供することができる。
【0011】
第2発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第1発明の人工関節置換術用手術器具において、前記ロッド部材は、前記ライナー保持部材が前記ライナー要素を保持した状態において、前記ライナー要素における前記摺動面の中心位置と前記開口端部の中心位置とを結ぶ直線上で、前記一端側の端部が前記ライナー保持部材に連結され又は当接するように配置されることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、ロッド部材を介して伝達される衝撃力が、ロッド部材の一端側の端部からライナー要素における摺動面の中心位置と開口端部の中心位置とを結ぶ直線上において伝達される。このため、ライナー要素がシェル要素の内側に嵌り込むことが可能な方向に沿った衝撃力をライナー要素に対して更に全体的にバランスよく付与することができる。これにより、シェル要素に対してライナー要素を更に容易に取り付けることができる。
【0013】
第3発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第1発明又は第2発明の人工関節置換術用手術器具において、前記ロッド部材は、ロッド状に形成された部分において屈曲して延びるように形成された屈曲部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
この発明によると、ロッド部材におけるロッド状に形成された部分に屈曲部が設けられている。このため、術者は、皮膚の開創位置に応じて、骨組織或いは展開している筋等の軟部組織を屈曲部で迂回するように避けて、ライナー保持部材に一端側の端部が連結又は当接するように、ロッド部材を配置することができる。これにより、骨組織や軟部組織との干渉を避けてロッド部材を配置してライナー要素をシェル要素に打ち込むことができ、ライナー要素のシェル要素への取り付け作業を更に容易にすることができる。
【0015】
第4発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第3発明の人工関節置換術用手術器具において、前記ロッド部材は、前記屈曲部の他端側において前記他端側の端部にかけて直線状に延びるとともに手による把持が可能な柄部が形成され、前記柄部が延びる直線方向の延長線上に前記一端側の端部が配置されていることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、ロッド部材には、一端側の端部からの延長線上に沿って延びるように形成された柄部が屈曲部の他端側に設けられている。このため、ロッド部材に屈曲部が設けられていても、術者は、柄部を把持して他端側の端部をハンマーで打ちつけることで、衝撃力が作用する方向がライナー保持部材に連結又は当接する一端側の端部の位置からずれることなく、効率よくライナー要素に衝撃力を付与することができる。
【0017】
第5発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節置換術用手術器具において、前記ライナー保持部材は、中心部分に対して径方向に延びる部分を有する複数の爪部が設けられ、当該複数の爪部がそれぞれ前記開口端部に係合することを特徴とする。
【0018】
この発明によると、ライナー保持部材は、中心部分から径方向に延びる複数の爪部のそれぞれで開口端部に係合してライナー要素を保持する。このため、ライナー保持部材に対
してライナー要素を複数個所で安定して保持することができる。そして、ライナー要素の取付作業中において、術者は、複数の爪部の間からライナー要素を視認することができるため、ライナー要素のシェル要素への取付状態を確認しながら円滑に取付作業を進めることができる。
【0019】
第6発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第1発明乃至第5発明のいずれかの人工関節置換術用手術器具において、前記ロッド部材は、前記ライナー保持部材とは別体の部材として形成され、前記一端側の端部が前記ライナー保持部材に当接するように配置されるとともに前記他端側の端部が打ち付けられることで前記ライナー要素を前記シェル要素に対して打ち込むように付勢することを特徴とする。
【0020】
この発明によると、ロッド部材とライナー保持部材とが別体の部材として設けられる。このため、ロッド部材とライナー保持部材とを必要に応じて独立して交換して用いることができる。また、ロッド部材とライナー保持部材とが別体であるため、保守や収納を効率よく行うことができる。
【0021】
第7発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第6発明の人工関節置換術用手術器具において、前記ライナー保持部材には、前記ライナー要素に係合する側と反対側に突出するように形成されて手による把持が可能な把持部が設けられていることを特徴とする。
【0022】
非特許文献1に開示の手術器具を用いる場合、ライナー要素を保持する構造は全く設けられていないため、まず、把持し難い形状のライナー要素を手で直接把持して体内におけるシェル要素が配置された位置まで移動させてシェル要素に配置する必要がある。このため、ライナー要素の配置作業が難しく、更には、ライナー要素を一旦配置してしまうと、シェル要素に対してライナー要素を回旋させて回旋方向の位置を再度調整することが難しいという問題もある。しかしながら、第7発明によると、術者は、ライナー要素に係合する側と反対側に突出する把持部においてライナー保持部材を把持してライナー要素を所望の位置に移動させることができる。このため、体内におけるライナー要素の配置作業を容易に行うことができる。そして、ライナー要素を一旦配置した後であっても、ライナー保持部材における把持部を把持し、シェル要素に対してライナー要素を回旋させて回旋方向の位置を再度調整することを容易に行うことができる。また、滅菌処理されているライナー要素に直接手で触れることなくライナー保持部材を介してライナー要素を体内まで移動させることができる。
【0023】
第8発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第6発明又は第7発明の人工関節置換術用手術器具において、前記一端側の端部と、前記ライナー保持部材における前記ロッド部材に当接するロッド当接部とにおいて、一方には半球状に突出するように形成された半球状突出部分が設けられ、他方には半球面状に凹むように形成されて前記半球状突出部分に当接する半球状凹み部分が設けられていることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、ロッド部材における一端側の端部とライナー保持部材におけるロッド当接部とのうちの一方に半球状突出部分が設けられて他方に半球状凹み部分が設けられる。このため、半球状突出部分と半球状凹み部分との間での円滑な摺動動作を介して、ライナー保持部材に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部が当接する構成を容易に実現することができる。
【0025】
第9発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第8発明の人工関節置換術用手術器具において、前記半球状突出部分と前記半球状凹み部分とが当接した状態において、前記半球状凹み部分における縁部分と前記半球状突出部分との間に隙間が形成されることを特徴とする。
【0026】
この発明によると、半球状凹み部分における縁部分と半球状突出部分との間に隙間が形成されるため、半球状凹み部分に対する半球状突出部分の可動範囲をより大きく確保することができる。このため、術者は、ロッド部材の他端側の端部の位置を所望の位置までより大きく調整することができ、ライナー要素を打ち込む作業をより容易に行うことができる。
【0027】
第10発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第9発明の人工関節置換術用手術器具において、前記半球状突出部分における半球状の表面の曲率半径が、前記半球状凹み部分における半球面状の凹み面の曲率半径と同じ、もしくは小さいことを特徴とする。
【0028】
この発明によると、半球状突出部分の表面を半球状凹み部分の凹み面に比べて曲率半径が同じ、もしくは小さくなるように設定することで、半球状突出部分と半球状凹み部分との間での円滑な摺動動作を損なうことなく、半球状凹み部分に対する半球状突出部分の可動範囲をより大きく確保することを容易に実現することができる。
【0029】
第11発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第8発明乃至第10発明のいずれかの人工関節置換術用手術器具において、前記半球状凹み部分は前記ロッド当接部として形成され、前記半球状突出部分は前記一端側の端部として形成されていることを特徴とする。
【0030】
この発明によると、半球状凹み部分がライナー保持部材のロッド当接部として設けられるため、半球状凹み部分と半球状突出部分との間で衝撃力が伝達される位置をよりライナー要素に接近した位置に配置することができる。このため、より安定した状態で衝撃力をロッド部材からライナー保持部材に伝達することができる。
【0031】
第12発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第6発明乃至第11発明のいずれかの人工関節置換術用手術器具において、前記ロッド部材として、ロッド状に形成された部分において屈曲して延びるように形成された屈曲部が設けられた屈曲型ロッド部材と、ロッド状に形成された部分が直線状に延びるように形成された直線型ロッド部材とが設けられていることを特徴とする。
【0032】
この発明によると、ロッド部材として、ロッド状の部分に屈曲部を有する屈曲型ロッド部材と、ロッド状の部分が直線状の直線型ロッド部材とが設けられる。このため、術者は、皮膚を切開した位置やその切開部の大きさ、或いは骨組織や軟部組織の位置に応じて、屈曲型ロッド部材と直線型ロッド部材とのうち、より作業をし易いロッド部材を適宜選択して作業を行うことができる。
【0033】
第13発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第5発明の人工関節置換術用手術器具において、前記複数の爪部には、それぞれ前記開口端部に形成された穴に嵌合する突起部分が形成されていることを特徴とする。
【0034】
この発明によると、開口端部に形成された穴に嵌合する突起部分を各爪部に設けるという簡易な構成で、各爪部を確実に開口端部に係合させることができ、ライナー要素をライナー保持部材にて安定して保持することができる。
【0035】
第14発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第5発明の人工関節置換術用手術器具において、前記複数の爪部のうちの少なくとも1つの爪部において前記開口端部に係合する先端側は、前記ライナー保持部材の中心部分に対して周方向に沿って延びて前記開口端部に面接触可能に形成されていることを特徴とする。
【0036】
この発明によると、複数の爪部のうち少なくとも1つにおいて、開口端部に係合する先端側が、周方向に延びて開口端部に面接触する。このため、爪部は、開口端部に対する接触面積を効率よく確保して、衝撃荷重を分散してよりバランスよくライナー要素に伝達することができる。そして、上記の爪部は、周方向に延びて開口端部と面接触するため、爪部の間からライナー要素を確認可能とするライナー要素の視認性を損なうことも防止できる。
【0037】
第15発明に係る人工関節置換術用手術器具は、第1発明乃至第14発明のいずれかの人工関節置換術用手術器具において、前記シェル要素が骨盤の寛骨臼に配置されるとともに、前記骨頭ボール要素が大腿骨に配置されるステム要素に連結され又は一体に形成され、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術において用いられることを特徴とする。
【0038】
この発明によると、ライナー要素の摺動面に損傷が生じることを防止できるとともに、シェル要素に対してライナー要素を容易に取り付けることができる、人工股関節置換術用の手術器具を提供することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、シェル要素にライナー要素を打ち込んで取り付けるための人工関節置換術用手術器具に関し、ライナー要素における骨頭ボール要素に摺動する摺動面に損傷が生じることを防止できるとともに、シェル要素に対してライナー要素を容易に取り付けることができる、人工関節置換術用手術器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工関節置換術用手術器具の全体構成を示す斜視図である。
【図2】人工股関節を示す断面図であり、大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに示す図である。
【図3】図2に示す人工股関節におけるシェル要素の斜視図である。
【図4】図2に示す人工股関節におけるライナー要素を図1に示す手術器具におけるライナー保持部材とともに示す斜視図である。
【図5】図1に示す手術器具におけるライナー保持部材を示す斜視図である。
【図6】図5に示すライナー保持部材の平面図、左側面図、正面図、右側面図及び底面図である。
【図7】ライナー要素をライナー保持部材が保持した状態を示す斜視図である。
【図8】図1に示す手術器具におけるロッド部材の一部とライナー保持部材との切欠き断面図である。
【図9】図1に示す手術器具におけるロッド部材の一部とライナー保持部材との切欠き断面図である。
【図10】図1に示す手術器具におけるロッド部材の平面図である。
【図11】図1に示す手術器具を用いてシェル要素へライナー要素を取り付ける様子を骨盤とともに模式的に示す斜視図である。
【図12】図1に示す手術器具を用いてシェル要素へライナー要素を取り付ける様子を骨盤とともに模式的に示す斜視図である。
【図13】図1に示す手術器具を用いてシェル要素へライナー要素を取り付ける様子を骨盤とともに模式的に示す斜視図である。
【図14】図1に示す手術器具を用いてシェル要素へライナー要素を取り付ける様子を骨盤とともに模式的に示す斜視図である。
【図15】変形例に係る人工関節置換術用手術器具の一部切欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、寛骨臼に配置されるシェル要素とシェル要素に取り付けられるライナー要素とライナー要素に対して摺動する骨頭ボール要素とを有する人工関節に関節を置換する人工関節置換術において、寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具として広く適用することができるものである。尚、以下の説明では、本発明が人工股関節置換術に適用される場合を例にとって説明するが、この例に限らず、人工股関節置換術以外の人工関節置換術(例えば、人工肩関節置換術)において本発明を適用することもできる。
【0042】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工関節置換術用手術器具1(以下、単に「手術器具1」ともいう)の全体構成を説明する斜視図である。図1に示す手術器具1は、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術において用いられる。一方、図2は、人工股関節を示す断面図であり、大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに示している図である。人工股関節置換術においては、股関節を図2に示す人工股関節に置換する手術が行われる。
【0043】
ここで、人工股関節について説明する。人工股関節は、そのコンポーネントとして、ステム(ステム要素)102、シェル(シェル要素)103、ライナー(ライナー要素)104、及び骨頭ボール(骨頭ボール要素)105を備えて構成されている。図3はシェル103の斜視図であり、図4はライナー104を手術器具1における構成要素であるライナーインサータ11とともに示す斜視図である。
【0044】
図2に示すように、ステム102は、大腿骨100の髄腔部100aに一端側が埋植されて配置される棒状に形成される。そして、ボール状に形成された骨頭ボール105が、ステム102の他端側に取り付けられる。尚、本実施形態では、骨頭ボール105がステム102に連結される構成を例にとって説明しているが、この通りでなくてもよく、骨頭ボール105がステム102に一体に形成されていてもよい。
【0045】
図2及び図3に示すように、シェル103は、半球殻状に形成され、骨盤101の寛骨臼101aに配置される。そして、図2及び図4に示すライナー104は、シェル103よりも小径で厚肉の半球殻状に形成され、シェル103の内側の半球面状のライナー取付面103aに対して手術器具1を用いて取り付けられる。
【0046】
ライナー104には、半球面状に内側に凹む摺動面104aが形成されている。また、摺動面104aが内側に形成されたライナー104における開口を区画する端部である開口端部104bには、途中から緩やかなスロープ状に斜めに隆起するスロープ部104cが設けられている。そして、ライナー104がシェル103に取り付けられる際には、ライナー104の側方に形成された合わせ溝104dがシェル103の所定の突起(図示せず)と係合するように位置合わせが行われることで、スロープ部104cがシェル103に対して所定の位置に配置されるように、ライナー104がシェル103に対して取り付けられることになる。また、ライナー104の開口端部104bには、人工股関節再置換術等の際にライナー104をシェル103から取り外すための器具が取り付けられる複数の穴104eが形成されている。後述するように、手術器具1によるライナー104の保持の際には、この穴104eが利用されることになる。そして、上述した人工股関節は、図2に示すように、大腿骨100に配置されたステム102に連結された骨頭ボール105が、ライナー104に対してその摺動面104aにおいて摺動するように配置されることで、構成されることになる。
【0047】
次に、手術器具1について詳しく説明する。図1に示すように、手術器具1は、ライナ
ーインサータ(ライナー保持部材)11と、打ち込みロッド(ロッド部材)12とを備えて構成されている。これらのライナーインサータ11及び打ち込みロッド12は、例えば、金属により形成されている。この手術器具1は、術者が、寛骨臼101aに配置されたシェル103に対してライナー104を打ち込んで取り付けるために用いられる。
【0048】
図5(a)及び(b)は、ライナーインサータ11の見る方向を変えて示す斜視図である。図6は、ライナーインサータ11の平面図(図6(a))、左側面図(図6(b))、正面図(図6(c))、右側面図(図6(d))及び底面図(図6(e))を示したものである。このライナーインサータ11は、ライナー104の開口端部104bに係合することでライナー104を保持する本実施形態のライナー保持部材を構成している。尚、図4は、ライナーインサータ11がライナー104を保持する前の状態を示す斜視図である。一方、図7は、ライナーインサータ11がライナー104を保持した状態を示すライナーインサータ11及びライナー104の斜視図である。
【0049】
図4乃至図7に示すように、ライナーインサータ11には、本体部24、本体部24から延びる複数の爪部21、本体部24と一体に形成される把持部22、本体部24及び把持部22に形成されるロッド当接部23等が設けられている。本体部24は、ライナーインサータ11の中心部分を構成しており、直径方向の寸法に比して高さ方向の寸法が小さい円柱状の部分として形成されている。
【0050】
複数の爪部21は、本体部24からそれぞれ突出するように形成された3つの爪部(21a、21b、21c)として設けられている。各爪部(21a、21b、21c)は、いずれも、本体部24に対して径方向に延びる部分を有するように構成されており、開口端部104bに形成された穴104e(図4参照)に嵌合する突起部分25がそれぞれ形成されている。複数の爪部21は、各爪部(21a、21b、21c)に突起部分25が形成されていることで、それぞれ開口端部104bに係合可能に構成されている。そして、複数の爪部21が開口端部104bに上記のように係合することで、ライナーインサータ11によってライナー104が保持されることになる(図7参照)。尚、複数の爪部21のうちの爪部21aについては、その主要部が、本体部24に対して径方向に延びる部分で構成されている。一方、爪部21b及び爪部21cについては、ライナー104の開口端部104bに係合する先端側が、本体部24に対して周方向に沿って延びて開口端部104bに面接触可能に形成されている。(図7等参照)。尚、爪部21b及び爪部21cにおいては、本体部24に対して周方向に沿って延びる先端側は、本体部24に対して径方向に延びる部分よりも更に先端側に位置するように設けられている。
【0051】
把持部22は、本体部24と一体に形成されるとともに、ライナーインサータ11において、ライナー104に係合する側と反対側に筒状に突出するように形成されて手による把持が可能な部分として設けられている。尚、この把持部22の端部には、把持動作をよい容易にするためのフランジ状の縁部分が形成されている。術者は、複数の爪部21をライナー104の開口端部104bに係合させてライナー104をライナーインサータ11に保持させた状態で、把持部22を手で把持することによって、ライナー104を直接に手で触れずに所望の位置に移動させることになる。
【0052】
ロッド当接部23は、ライナーインサータ11における打ち込みロッド12に当接する部分として設けられている。図8及び図9は、ライナーインサータ11について打ち込みロッド12の一部の断面とともに一部切欠き断面で示す正面図である。尚、図8はロッド当接部23が後述する打ち込みロッド12aと当接している状態を、図9はロッド当接部23が後述する打ち込みロッド12bと当接している状態を、それぞれ示している。図4乃至図9に示すように、ロッド当接部23は、本体部24及び把持部22において、半球面状に凹むように形成された半球状凹み部分として設けられている。
【0053】
図1に示す打ち込みロッド12は、本実施形態におけるロッド部材を構成している。そして、手術器具1においては、ロッド部材として、直線型ロッド部材である打ち込みロッド12aと、屈曲型ロッド部材である打ち込みロッド12bとが設けられている。打ち込みロッド12a及び打ち込みロッド12bは、いずれもライナーインサータ11とは別体の部材として形成されている。そして、打ち込みロッド12aは、ロッド状に形成された部分であるロッド部33aと、手による把持が可能な柄部34aとが設けられている。打ち込みロッド12bも、ロッド状に形成された部分であるロッド部33bと、手による把持が可能な柄部34bとが設けられている。但し、打ち込みロッド12aについては、ロッド部33aが直線状に延びるように形成されている。一方、打ち込みロッド12bについては、ロッド部33bにおいて屈曲して延びるように形成された屈曲部35が設けられている。打ち込みロッド12a及び打ち込みロッド12bは、皮膚を切開した位置やその切開部の大きさ、或いは骨組織や軟部組織の位置に応じ、術者の判断によって適宜使い分けられることになる。
【0054】
図1、図8及び図9に示すように、打ち込みロッド12aの一端側の端部31a及び打ち込みロッド12bの一端側の端部31bは、それぞれ各ロッド部(33a、33b)の先端部として設けられ、半球状に突出するように形成された半球状突出部分として設けられている。一端側の端部(31a、31b)として構成される半球状突出部分(以下、「半球状突出部分(31a、31b)」ともいう)は、ロッド当接部23として設けられた半球状凹み部分(以下、「半球状凹み部分23」ともいう)に当接することが可能な寸法に形成されている。そして、図8及び図9に示すように、半球状突出部分(31a、31b)における半球状の表面の曲率半径は、半球状凹み部分23における半球面状の凹み面の曲率半径よりも小さくなるように設定されている。このため、半球状突出部分(31a、31b)と半球状凹み部分23とが当接した状態において、半球状凹み部分23における縁部分と半球状突出部分(31a、31b)との間には隙間36が形成されている。
【0055】
図1に示すように、打ち込みロッド12aの他端側の端部32a及び打ち込みロッド12bの他端側の端部32bは、円柱状の部分である柄部(34a、34b)よりも直径寸法が大きい円盤状の部分として形成されている。これにより、ハンマーを用いた打ち込み作業を術者がより行い易いように構成されている。
【0056】
図10は、打ち込みロッド12bの平面図である。この図10によく示すように、打ち込みロッド12bにおいては、柄部34bは屈曲部35の他端側において他端側の端部32bにかけて直線上に延びるように形成されている。そして、打ち込みロッド12bは、屈曲部35が弓状に湾曲するように形成されており、柄部34bが延びる直線方向の延長線P(図中において一点鎖線で示す)上に一端側の端部31bが配置されるように構成されている。
【0057】
打ち込みロッド12a及び打ち込みロッド12bは、ライナー104がライナーインサータ11によって保持されてシェル103に配置された状態において用いられる。そして、この状態において、打ち込みロッド12aが用いられる場合は、柄部34aが術者によって把持されて、一端側の端部31aがライナーインサータ11に対する向きを変更可能な状態でライナーインサータ11のロッド当接部23に当接するように配置される(図8参照)。尚、打ち込みロッド12aは、ライナーインサータ11がライナー104を保持した状態において、ライナー104における摺動面104aの中心位置と開口端部104bの中心位置とを結ぶ直線上で、一端側の端部31aがライナーインサータ11に当接するように配置される。そして、一端側の端部31aがロッド当接部23に当接した状態で、打ち込みロッド12aの他端側の端部32aがハンマー(図示せず)によって打ち付けられることで、打ち込みロッド12aがライナー104をシェル103に対して打ち込む
ように付勢することになる。
【0058】
打ち込みロッド12bについても、同様に、ライナーインサータ11によって保持されたライナー104がシェル103に配置された状態で用いられる。そして、この状態において、柄部34bが術者によって把持されて、一端側の端部31bがライナーインサータ11に対する向きを変更可能な状態でライナーインサータ11におけるロッド当接部23に当接するように配置される(図9参照)。尚、打ち込みロッド12bは、ライナーインサータ11がライナー104を保持した状態において、ライナー104における摺動面104aの中心位置と開口端部104bの中心位置とを結ぶ直線上で、一端側の端部31bがライナーインサータ11に当接するように配置される。そして、一端側の端部31bがロッド当接部23に当接した状態で、打ち込みロッド12bの他端側の端部32bがハンマー(図示せず)によって打ち付けられることで、打ち込みロッド12bがライナー104をシェル103に対して打ち込むように付勢することになる。
【0059】
次に、手術器具1を用いたシェル103へのライナー104の取り付けについて説明する。人工関節置換術において、骨盤101の寛骨臼101aにシェル103が配置された状態で、手術器具1が用いられる。この状態において、術者は、まず、ライナー104の開口端部104bの各穴104eにライナーインサータ11の各突起部分25を嵌合させて複数の爪部21を開口端部104bに係合させる(図4参照)。これにより、図7に示すように、ライナー104をライナーインサータ11によって保持する。
【0060】
図11乃至図14は、手術器具1を用いてシェル103へライナー104を取り付ける様子を骨盤101とともに模式的に示す斜視図である。尚、図11乃至図14では、人体の左側における骨盤101の一部を人体に対する斜め後方から見た状態を示しており、骨盤101の表面の凹凸をメッシュ状の線で模試的に示している。また、図11乃至図14では、骨盤101以外の人体組織や術者の手等の図示を省略している。ライナー104をライナーインサータ11で保持すると、その保持した状態で、図11に示すように、骨盤101の寛骨臼101aに配置されたシェル103のところまでライナー104を移動させ、シェル103に対してライナー104を配置する。この場合、術者は、ライナー104を保持したライナーインサータ11の把持部22を把持し、所望の位置まで移動させて、シェル103に対してライナー104を配置する。このとき、把持部22を適宜手で回転させることで、シェル103に対するライナー104の回旋方向の位置を調整することができる。
【0061】
ライナーインサータ11で保持したライナー104を上述のようにシェル103に配置した状態では、ライナー104はシェル103のライナー取付面103aの奥まで嵌め込まれておらず、ライナー104の取り付けはまだ完了していない状態になっている。そこで、打ち込みロッド12を用いてライナー104をシェル103に打ち込んで取り付ける打ち込み作業が続いて行われる。
【0062】
図12及び図13は、打ち込みロッド12bを用いて打ち込み作業が行われる場合を説明する図である。尚、打ち込みロッド12aを用いる場合も同様に打ち込み作業が行われることになる。打ち込み作業を行う場合は、術者は、図12に示すように、打ち込みロッド12bを柄部34bで把持して図中矢印方向に移動させ、シェル103に配置したライナー104を保持したライナーインサータ11に対してロッド当接部23において一端側の端部31bを当接させる。このとき、屈曲部35が設けられていることで、大腿骨100との干渉を容易に避けて、ロッド部33bを体内に配置することができる。図13は、打ち込みロッド12bにおける一端側の端部31bがロッド当接部23においてライナーインサータ11に当接した状態を示している。この状態において、術者は、柄部34bを一方の手で把持し、他方の手でハンマー(図示せず)を用いて他端側の端部32bを図中
矢印で示す方向に打ち込む作業を行う。そして、ライナー104がシェル103のライナー取付面103aの奥まで十分に嵌め込まれた状態で上記の打ち込み作業が終了される。打ち込み作業終了後は、図14に示すように打ち込みロッド12bが取り外される。そして、ライナーインサータ11の突起部分25がライナー104の開口端部104bの穴104eから抜き出されてライナーインサータ11によるライナー104の係合保持状態が解除され、ライナー103のシェル104への取り付けが終了する。
【0063】
以上説明した人工関節置換術用手術器具1によると、ライナー104の開口端部104bに係合するライナーインサータ11によってライナー104が保持される。そして、ライナーインサータ11で保持したライナー104をシェル103の内側に配置し、ライナーインサータ11に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部(31a、31b)が当接する打ち込みロッド12の他端側の端部(32a、32b)をハンマーで打ちつけることにより、ライナー104をシェル103に取り付けることができる。このため、ハンマーが打ちつけられることにより打ち込みロッド12から伝達される衝撃力は、ライナー104に対しては、ライナーインサータ11を介して、摺動面104aでなく開口端部104bに伝達される。これにより、摺動面104aに衝撃力が直接に伝達されることがなく、摺動面104aに損傷が生じることを防止できる。
【0064】
そして、人工関節置換術用手術器具1によると、予め定められた所定の箇所でライナー104に対して係合することでライナー104を保持したライナーインサータ11に対して打ち込みロッド12を介して衝撃力が伝達される。このため、ライナー104に対して衝撃力が作用する位置がずれることが防止される。これにより、ライナー104がシェル103の内側に嵌り込むことが可能な方向に沿った衝撃力をライナーインサータ11を介してライナー104に対して全体的にバランスよく付与することを容易に実現することができる。また、打ち込みロッド12は、ライナーインサータ11に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部(31a、31b)が当接し、他端側の端部(32a、32b)が打ち付けられる。このため、術者は、打ち込みロッド12の他端側の端部(32a、32b)の位置を適宜所望の位置に調整し、ライナーインサータ11及び打ち込みロッド12を介して容易にライナー104をシェル103に打ち込んで取り付けることができる。
【0065】
従って、本実施形態によると、ライナー104における骨頭ボール105に摺動する摺動面104aに損傷が生じることを防止できるとともに、シェル103に対してライナー104を容易に取り付けることができる、人工関節置換術用手術器具1を提供することができる。
【0066】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12を介して伝達される衝撃力が、打ち込みロッド12の一端側の端部(31a、31b)からライナー104における摺動面104aの中心位置と開口端部104bの中心位置とを結ぶ直線上において伝達される。このため、ライナー104がシェル103の内側に嵌り込むことが可能な方向に沿った衝撃力をライナー104に対して更に全体的にバランスよく付与することができる。これにより、シェル103に対してライナー104を更に容易に取り付けることができる。
【0067】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12bにおけるロッド状に形成されたロッド部33bに屈曲部35が設けられている。このため、術者は、皮膚の開創位置に応じて、骨組織或いは軟部組織を屈曲部35で迂回するように避けて、ライナーインサータ11に一端側の端部31bが当接するように、打ち込みロッド12bを配置することができる。これにより、骨組織や軟部組織との干渉を避けて打ち込みロッド12bを配置してライナー104をシェル103に打ち込むことができ、ライナー104のシェル103への取り付け作業を更に容易にすることができる。
【0068】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12bには、一端側の端部31bからの延長線P上に沿って延びるように形成された柄部34bが屈曲部35の他端側に設けられている。このため、打ち込みロッド12bに屈曲部35が設けられていても、術者は、柄部34bを把持して他端側の端部32bをハンマーで打ちつけることで、衝撃力が作用する方向がライナーインサータ11に当接する一端側の端部31bの位置からずれることなく、効率よくライナー104に衝撃力を付与することができる。
【0069】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、ライナーインサータ11は、中心部分の本体部24から径方向に延びる複数の爪部21のそれぞれで開口端部104bに係合してライナー104を保持する。このため、ライナーインサータ11に対してライナー104を複数個所で安定して保持することができる。そして、ライナー104の取付作業中において、術者は、複数の爪部21の間からライナー104を視認することができるため、ライナー104のシェル103への取付状態を確認しながら円滑に取付作業を進めることができる。
【0070】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12とライナーインサータ11とが別体の部材として設けられる。このため、打ち込みロッド12とライナーインサータ11とを必要に応じて独立して交換して用いることができる。また、打ち込みロッド12とライナーインサータ11とが別体であるため、保守や収納を効率よく行うことができる。
【0071】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、術者は、ライナー104に係合する側と反対側に突出する把持部22においてライナーインサータ11を把持してライナー104を所望の位置に移動させることができる。このため、体内におけるライナー104の配置作業を容易に行うことができる。そして、ライナー104を一旦配置した後であっても、ライナーインサータ11における把持部22を把持し、シェル103に対してライナー104を回旋させて回旋方向の位置を再度調整することを容易に行うことができる。また、滅菌処理されているライナー104に直接手で触れることなくライナーインサータ11を介してライナー104を体内まで移動させることができる。
【0072】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12における一端側の端部(31a、31b)とライナーインサータ11におけるロッド当接部23とのうちの一方に半球状突出部分が設けられて他方に半球状凹み部分が設けられる。このため、半球状突出部分と半球状凹み部分との間での円滑な摺動動作を介して、ライナーインサータ11に対して向きを変更可能な状態で一端側の端部(31a、31b)が当接する構成を容易に実現することができる。
【0073】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、半球状凹み部分23における縁部分と半球状突出部分(31a、31b)との間に隙間36が形成されるため、半球状凹み部分23に対する半球状突出部分(31a、31b)の可動範囲をより大きく確保することができる。このため、術者は、打ち込みロッド12の他端側の端部(32a、32b)の位置を所望の位置までより大きく調整することができ、ライナー104を打ち込む作業をより容易に行うことができる。
【0074】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、半球状突出部分(31a、31b)の表面を半球状凹み部分23の凹み面よりも曲率半径が小さくなるように設定することで、半球状突出部分(31a、31b)と半球状凹み部分23との間での円滑な摺動動作を損なうことなく、半球状凹み部分23に対する半球状突出部分(31a、31b)の可動範囲をより大きく確保することを容易に実現することができる。
【0075】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、半球状凹み部分23がライナーインサータ11のロッド当接部23として設けられるため、半球状凹み部分23と半球状突出部分(31a、31b)との間で衝撃力が伝達される位置をよりライナー104に接近した位置に配置することができる。このため、より安定した状態で衝撃力を打ち込みロッド12からライナーインサータ11に伝達することができる。
【0076】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、打ち込みロッド12として、ロッド状の部分に屈曲部35を有する屈曲型ロッド部材12bと、ロッド状の部分が直線状の直線型ロッド部材12aとが設けられる。このため、術者は、皮膚を切開した位置やその切開部の大きさ、或いは骨組織や軟部組織の位置に応じて、屈曲型ロッド部材12bと直線型ロッド部材12aとのうち、より作業をし易いロッド部材12(12a、12b)を適宜選択して作業を行うことができる。
【0077】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、開口端部104bに形成された穴104eに嵌合する突起部分25を各爪部(21a、21b、21c)に設けるという簡易な構成で、各爪部(21a、21b、21c)を確実に開口端部104bに係合させることができ、ライナー104をライナーインサータ11にて安定して保持することができる。
【0078】
また、人工関節置換術用手術器具1によると、複数の爪部21のうち爪部(21b、21c)において、開口端部104bに係合する先端側が、周方向に延びて開口端部104bに面接触する。このため、爪部(21a、21b)は、開口端部104bに対する接触面積を効率よく確保して、衝撃荷重を分散してよりバランスよくライナー104に伝達することができる。そして、爪部(21b、21c)は、周方向に延びて開口端部104bと面接触するため、爪部(21a、21b、21c)の間からライナー104を確認可能とするライナー104の視認性を損なうことも防止できる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0080】
(1)本実施形態では、人工股関節置換術において用いられる人工関節置換術用手術器具を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、人工股関節置換術以外の人工関節置換術(例えば、人工肩関節置換術)においても本発明を適用することができる。
【0081】
(2)本実施形態では、ロッド部材における一端側の端部がライナー保持部材に当接する形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、一端側の端部がライナー保持部材に対する向きを変更可能な状態でライナー保持部材に連結されていてもよい。この場合、例えば、ヒンジ機構を介してロッド部材の一端側の端部とライナー保持部材とを連結してもよい。
【0082】
(3)本実施形態では、ライナー保持部材における把持部が、ライナー保持部材における中心部分と一体に形成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、把持部がライナー保持部材における中心部分から外れた位置に配置されているものであってもよい。また、本実施形態では、ロッド当接部の一部が把持部に形成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、把持部とロッド当接部とが別個に形成されているものであってもよい。
【0083】
(4)本実施形態では、ライナー保持部材においてライナー要素に係合するための構成として、複数の爪部が設けられている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよ
く、爪部以外の形態でライナー要素と係合するものであってもよい。また、爪部を設ける場合であっても、爪部の個数や形状は種々変更して実施してもよい。また、ライナー保持部材とライナー要素とが係合する形態については、突起部分と穴との嵌合による係合形態に限らず、挟み込むようにして嵌り込む形態や、突起と穴以外での嵌合形態など、種々変更して実施することができる。
【0084】
(5)本実施形態では、半球状凹み部分がロッド当接部として設けられ、半球状突出部分がロッド部材における一端側の端部として設けられている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、逆でもよい。即ち、半球状凹み部分がロッド部材における一端側の端部として設けられ、半球状突出部分がロッド当接部として設けられていてもよい。また、半球状突出部分については、可動範囲をより大きく確保する観点から、半球状突出部分に連続する境界の部分が細く括れるように形成されていてもよい。図15は、図9に示す半球状突出部分31bを変形例に係る半球状突出部分31cに変更した例を示す図である。尚、図9と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。この図15に示すように、半球状突出部分31cに連続する境界の部分が細く括れるように形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、寛骨臼に配置されるシェル要素とシェル要素に取り付けられるライナー要素とライナー要素に対して摺動する骨頭ボール要素とを有する人工関節に関節を置換する人工関節置換術において、寛骨臼に配置されたシェル要素に対してライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 人工関節置換術用手術器具
11 ライナーインサータ(ライナー保持部材)
12、12a、12b 打ち込みロッド(ロッド部材)
31a、31b 一端側の端部
32a、32b 他端側の端部
33a、33b ロッド部(ロッド状に形成された部分)
101a 寛骨臼
103 シェル(シェル要素)
104 ライナー(ライナー要素)
104a 摺動面
104b 開口端部
105 骨頭ボール(骨頭ボール要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寛骨臼に配置される半球殻状のシェル要素と前記シェル要素の内側に取り付けられるとともに半球面状に内側に凹む摺動面が形成されたライナー要素と前記摺動面において前記ライナー要素に対して摺動する骨頭ボール要素とを有する人工関節に関節を置換する人工関節置換術において、寛骨臼に配置された前記シェル要素に対して前記ライナー要素を打ち込んで取り付けるために用いられる人工関節置換術用手術器具であって、
前記摺動面が内側に形成された前記ライナー要素の開口端部に係合することで当該ライナー要素を保持可能なライナー保持部材と、
ロッド状に形成された部分を有し、前記ライナー保持部材が前記ライナー要素を保持した状態において、一端側の端部が前記ライナー保持部材に対する向きを変更可能な状態で当該ライナー保持部材に連結され又は当接するように配置されるとともに他端側の端部が打ち付けられることで前記ライナー要素を前記シェル要素に対して打ち込むように付勢するロッド部材と、
を備えていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ロッド部材は、前記ライナー保持部材が前記ライナー要素を保持した状態において、前記ライナー要素における前記摺動面の中心位置と前記開口端部の中心位置とを結ぶ直線上で、前記一端側の端部が前記ライナー保持部材に連結され又は当接するように配置されることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ロッド部材は、ロッド状に形成された部分において屈曲して延びるように形成された屈曲部が設けられていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項4】
請求項3に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ロッド部材は、前記屈曲部の他端側において前記他端側の端部にかけて直線状に延びるとともに手による把持が可能な柄部が形成され、
前記柄部が延びる直線方向の延長線上に前記一端側の端部が配置されていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ライナー保持部材は、中心部分に対して径方向に延びる部分を有する複数の爪部が設けられ、当該複数の爪部がそれぞれ前記開口端部に係合することを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ロッド部材は、前記ライナー保持部材とは別体の部材として形成され、前記一端側の端部が前記ライナー保持部材に当接するように配置されるとともに前記他端側の端部が打ち付けられることで前記ライナー要素を前記シェル要素に対して打ち込むように付勢することを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項7】
請求項6に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ライナー保持部材には、前記ライナー要素に係合する側と反対側に突出するように形成されて手による把持が可能な把持部が設けられていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記一端側の端部と、前記ライナー保持部材における前記ロッド部材に当接するロッド
当接部とにおいて、一方には半球状に突出するように形成された半球状突出部分が設けられ、他方には半球面状に凹むように形成されて前記半球状突出部分に当接する半球状凹み部分が設けられていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項9】
請求項8に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記半球状突出部分と前記半球状凹み部分とが当接した状態において、前記半球状凹み部分における縁部分と前記半球状突出部分との間に隙間が形成されることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項10】
請求項9に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記半球状突出部分における半球状の表面の曲率半径が、前記半球状凹み部分における半球面状の凹み面の曲率半径と同じ、もしくは小さいことを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記半球状凹み部分は前記ロッド当接部として形成され、前記半球状突出部分は前記一端側の端部として形成されていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項12】
請求項6乃至請求項11のいずれか1項に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記ロッド部材として、ロッド状に形成された部分において屈曲して延びるように形成された屈曲部が設けられた屈曲型ロッド部材と、ロッド状に形成された部分が直線状に延びるように形成された直線型ロッド部材とが設けられていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項13】
請求項5に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記複数の爪部には、それぞれ前記開口端部に形成された穴に嵌合する突起部分が形成されていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項14】
請求項5に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記複数の爪部のうちの少なくとも1つの爪部において前記開口端部に係合する先端側は、前記ライナー保持部材の中心部分に対して周方向に沿って延びて前記開口端部に面接触可能に形成されていることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の人工関節置換術用手術器具であって、
前記シェル要素が骨盤の寛骨臼に配置されるとともに、前記骨頭ボール要素が大腿骨に配置されるステム要素に連結され又は一体に形成され、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術において用いられることを特徴とする、人工関節置換術用手術器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−220921(P2010−220921A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73475(P2009−73475)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【出願人】(592212814)
【Fターム(参考)】