説明

人工関節

【課題】 靭性を確保すると共に、摺動部の高い耐摩耗性を有する人工関節を提供すること。
【解決手段】 互いに摺動するカップ部4及び骨頭部8を備え、該カップ部4及び骨頭部8の少なくとも摺動面4a,8aを含む表層のみをセラミックスで形成させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工関節は、人やその他の動物に関する医療分野において、各部関節の代替品として広く利用されるようになっている。人工関節は、摺動面積が大きく、かつ大きな負荷が掛かるので、特に、優れた強度特性及び高い耐摩耗性が要求され、これまで数多くのものが提供されている。
【0003】
一般に人工関節では、一方の骨に球状をなした骨頭部を備えるステムを挿入し、他方の骨に該骨頭部と摺動するカップ部を設けることにより、一方の骨が他方の骨に対して回動するようになっている。
【0004】
ところが、カップ部の内面と骨頭部の外表面とが摺動すると、摩耗により摩耗粉が生じてしまう。この摩耗粉は非常に小さい粒径をなしているので、生体内の細胞に取り込まれると、体外に排出されにくく、生体内に蓄積してしまうおそれがあった。細胞内に摩耗粉が取り込まれると、人工関節を支持する骨に悪影響を及ぼし、骨は次第に脆弱になっていく。そして、それが進行するに連れて人工関節は徐々に骨との間に隙間を生じさせ、生体側は、この緩みによる人工関節の揺動により痛みを感じることがあった。
【0005】
そこで、従来の人工関節では、その摺動面において、金属,樹脂及びセラミックス等が用いられ、それぞれの摺動面は、例えば、金属同士,樹脂同士,金属と樹脂及び樹脂とセラミックス等のように組み合わせて用いられてきた。最近では、体液中において摩擦係数が極端に低いセラミックスがそれぞれの摺動面に用いられるようになっており、セラミックスは他の材料との組み合わせに比べても耐摩耗性に優れることから、摺動の面からみても理想的な材料と考えられている。
【0006】
このような、従来の人工関節は、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【0007】
【特許文献1】実開平5−21923号公報
【特許文献2】特開20004−24361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般に、セラミックスは金属材料に比べて強度が劣っており、破損し易かった。生体内に人工関節を設置する場合には、カップ部の内側に骨頭部を大きな負荷を掛けて挿入することから、しばしば、セラミックスで形成されたカップ部と骨頭部とは、その組み付け時おいて破損してしまうという問題あった。このような問題は、生体側へも大きな負担を強いられることとなっていた。
【0009】
従って、本願発明は上記課題を解決するものであり、靭性を確保すると共に、摺動部の高い耐摩耗性を有する人工関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に係る人工関節は、
互いに摺動する摺動部材を備え、該摺動部材の少なくとも摺動面を含む表層のみをセラミックスで形成させる
ことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に係る人工関節は、
第1の発明に係る人工関節において、
前記セラミックス層を溶射により形成させる
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に係る人工関節は、
第2の発明に係る人工関節において、
前記セラミックス層を内側から表面にかけて組成を傾斜的に増加させる
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に係る人工関節は、
第2または3の発明に係る人工関節において、
前記セラミックス層の密度を内側から表面にかけて高く形成させる
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第5の発明に係る人工関節は、
第1の発明に係る人工関節において、
前記セラミックス層を薄膜状に形成させたものを接合する
ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第6の発明に係る人工関節は、
第1乃至5のいずれかの発明に係る人工関節において、
前記摺動部材はカップ部材と骨頭部材とからなる人工股関節である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に係る人工関節によれば、互いに摺動する摺動部材を備え、該摺動部材の少なくとも摺動面を含む表層のみをセラミックスで形成させることにより、靭性を確保すると共に、前記摺動部の高い耐摩耗性を有することができる。
【0017】
第2の発明に係る人工関節によれば、第1の発明に係る人工関節において、前記セラミックス層を溶射により形成させることにより、前記セラミックス層を容易に形成させることができる。
【0018】
第3の発明に係る人工関節によれば、第2の発明に係る人工関節において、前記セラミックス層を内側から表面にかけて組成を傾斜的に増加させることにより、前記セラミックス層の密着性を向上させることができる。
【0019】
第4の発明に係る人工関節によれば、第2または3の発明に係る人工関節において、前記セラミックス層の密度を内側から表面にかけて高く形成させることにより、更に、前記セラミックス層の密着性を向上させることができる。
【0020】
第5の発明に係る人工関節によれば、第1の発明に係る人工関節において、前記セラミックス層を薄膜状に形成させたものを接合することにより、前記セラミックス層を容易に形成させることができ、高い密着性を有することができる。
【0021】
上記課題を解決する第6の発明に係る人工関節は、第1乃至5のいずれかの発明に係る人工関節において、前記摺動部材をカップ部材と骨頭部材とすることにより、人工関節の中で、最も高い靭性及び耐摩耗性が必要とされる人工股関節に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る人工股関節を骨盤と大腿骨とに挿着した状態を示す部分破断側面図、図2は人工股関節の概略図、図3はカップ部及び骨頭部の断面を模式的に示した図である。
【0023】
図1,2に示すように、骨盤1と大腿骨2とを繋いでいるのが人工股関節3である。骨盤1側には、略半球状をなしたチタン合金製のカップ部4が、同じくチタン合金製のねじ5により固定されている。そして、このカップ部4の内側には、表面にセラミックス層を有する摺動面4aが形成されている。
【0024】
一方、大腿骨2側には、チタン合金製のステム本体6が挿入され、セメント7により固定されている。そして、このステム本体6のステムネック6aの先端には、略球状をなしたチタン合金製の骨頭部8が嵌合されている。また、骨頭部8の外表面には、表面にセラミックス層を有する摺動面8aが形成されている。
【0025】
つまり、カップ部4の内側に骨頭部8を嵌め込むことで、摺動面4aと摺動面8aとが摺動され、骨盤1と大腿骨2とが回動可能に繋がれることになる。
【0026】
次に、図3を用いてカップ部4と骨頭部8との摺動面構造を説明する。図3に示すように、溶射により摺動面4a,8aの表面に向けてセラミックスを傾斜的に形成されている。例えば、摺動面4a,8aは、カップ部4及び骨頭部8の基材であるチタン合金を100%含有するする第1層,セラミックスを30%とチタン合金70%とを含有する第2層,セラミックス70%とチタン合金30%とを含有する第3層,及びセラミックスを100%含有する第4層から構成されている。
【0027】
更に、第1層から第4層にかけて、気孔率(密度)が高くなるように形成されている。例えば、第1層では気孔率95%、第2層では60%、第3層では30%、第4層では気孔率0%となるように形成される。気孔率は、溶射時の加熱温度や加熱時間等を変更することにより設定させることができ、また、第1層から第4層になるに従い、溶射させるセラミックスの粒子径を大きくしていくことにより変更させることもできる。
【0028】
従って、上述したように構成をなすことにより、カップ部4及び骨頭部8の基材を金属であるチタン合金で形成させると共に、摺動面4a及び摺動面8aの表層のみをセラミックスで形成させているので、靭性を確保しつつ、摺動部4a,8aの高い摩耗性を有することができる。これにより、摩擦係数が極端に低くなり、摺動面4a,8a同士が摺動しても削られて摩耗粉が発生することがなく、生体に悪影響を及ぼすことがない。また、生体内に人工股関節3を設置する場合において、カップ部4の内側に骨頭部8を大きな負荷を掛けて挿入しても、その衝撃によりカップ部4及び骨頭部8の破損を防止することができる。
【0029】
そして、摺動面4a,8aに溶射によりセラミックス層を形成させるので、曲面を有するカップ部4及び骨頭部8であっても容易に薄層で形成させることができる。しかも、セラミックス層を摺動面4a,8aの表面にかけてセラミックスの割合がチタン合金の割合に対して増加するように組成を傾斜させると共に、摺動面4a,8aの表面にかけて気孔率を高くするように形成させているので、セラミックス層とチタン合金との応力を緩和させ、密着性を向上させることができる。
【0030】
なお、本発明においては人工股関節に適用して説明したが、これに限定されることがなく、一方が曲面状の凹部を有するものであって、他方はその凹部に対応する曲面状の凸部を有するものであればよく、例えば、手指関節,肘関節,肩関節及び膝関節等に適用することも可能である。
【0031】
カップ部4の基材,ねじ5,ステム本体6及び骨頭部8の基材をチタン合金としているが、他の高い靭性を有する金属材料であってもよく、例えば、ステンレス,コバルトクロム合金でも構わない。また、ポリエチレン及びポリアセタール等の有機材料であっても構わない。
【0032】
摺動面4a,8aのセラミックス層は、例えば、アルミナセラミックスやジルコ二アセラミックス等からなり、溶射により形成されているが、CVD(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition)やPVD(物理気相成長法:Physical Vapor Deposition)等を用いることも可能である。あるいは、摺動面4a,8aにおいて、セラミックスを薄膜状に形成させた部材で覆い、溶接や接着剤等を用いて接合させることも可能である。
【0033】
そして、層の数を4層になるようにしたが、この数量に限定されることはなく、また、各層におけるセラミックスの基材に対する割合,傾斜率及び気孔率も、適宜変更しても構わない。
【0034】
従って、本発明に係る人工関節によれば、チタン合金からなるカップ部4及び骨頭部8において、互いに摺動する摺動面4a,8aを形成させ、該摺動面4a,8a表層のみをセラミックスで形成させることにより、靭性を確保すると共に、摺動面4a,8aの高い耐摩耗性を有することができる。これにより、摺動面4a,8aが削られて摩耗粉が発生することがなく、人工股関節3の取り付け時の衝撃による破損を防止することができる。
【0035】
また、セラミックス層を溶射により形成させることにより、曲面状をなす摺動面4a,8aであっても容易に形成させることができる。
【0036】
また、セラミックス層を内側から表面にかけて傾斜的に組成させると共に、表面にかけて気孔率を高くするように形成させることにより、セラミックス層とチタン合金とのの密着性を向上させることがでる。
【0037】
更に、セラミックスを薄膜状に形成させた部材を接合しても、セラミックス層を容易に形成させることができ、高い密着性を有することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
生体の各部関節に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例に係る人工股関節を骨盤と大腿骨とに挿着した状態を示す部分破断側面図である。
【図2】人工股関節の概略図である。
【図3】カップ部及び骨頭部の断面を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 骨盤
2 大腿骨
3 人工股関節
4 カップ部
4a 摺動面
5 ねじ
6 ステム本体
6a ステムネック
7 セメント
8 骨頭部
8a 摺動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動する摺動部材を備え、該摺動部材の少なくとも摺動面を含む表層のみをセラミックスで形成させる
ことを特徴とする人工関節。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節において、
前記セラミックス層を溶射により形成させる
ことを特徴とする人工関節。
【請求項3】
請求項2に記載の人工関節において、
前記セラミックス層を内側から表面にかけて組成を傾斜的に増加させる
ことを特徴とする人工関節。
【請求項4】
請求項2または3に記載の人工関節において、
前記セラミックス層の密度を内側から表面にかけて高く形成させる
ことを特徴とする人工関節。
【請求項5】
請求項1に記載の人工関節において、
前記セラミックス層を薄膜状に形成させたものを接合する
ことを特徴とする人工関節。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の人工関節において、
前記摺動部材はカップ部材と骨頭部材とからなる人工股関節である
ことを特徴とする人工関節。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−149699(P2006−149699A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345175(P2004−345175)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】