説明

介護浴槽

【課題】
介護者の扉部材操作に係る負担を軽減するとともに、要介護者が圧迫感を受けることなくより安全に入退浴することができる介護浴槽を提供すること。
【解決手段】
少なくとも一側壁面が切除形成されてなる開口部4を水密に閉塞可能な扉部材6を有する浴槽2と、扉部材6を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段10を備え、浴槽2の内底面2bであって少なくとも要介護者が着座する内底面2bは要介護者が腰掛ける座面に相当する高さに設定されており、扉移動手段10は少なくとも開口部4に面する扉部材6の上面が浴槽2の内底面2bと略面一か又はそれ以下になる所定下方位置まで扉部材6を移動可能であり、要介護者は開口部4から内底面2bに直接移乗し入浴ができる介護浴槽である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体障害者及び高齢者(以下、要介護者)、特に要介護度の低い要介護者の自立入浴を可能とした浴槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、浴槽側壁の一部に開口部を設け、浴槽底面の高さを車椅子等の搬送機器と略同等とすることで要介護者が側壁を跨ぐことなく搬送機器から浴槽内に自力で移乗し入浴を行うことができる介護浴槽(例えば、特許文献1及び特許文献2)が知られている。
【0003】
特許文献1に記載される浴槽は、出入用開口部に着脱可能に装着される蓋体を浴槽本体から手動で取り除くことで、要介護者が出入用開口部から浴槽底面に直接腰掛けできる構成とされている。
【0004】
一方、特許文献2に記載される入浴装置は、浴槽のドア開口部を閉鎖する扉部材を手動で下方位置から上方位置まで垂直に旋回することで、要介護者がドア開口部から座面上に簡単に移動できるように構成されている。
【特許文献1】特開2002−143260号公報
【特許文献2】特開2002−325818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の浴槽において、蓋体を開口部から取り除くには、コ型連結部材を除去するとともに、締付具を緩めて切欠溝と蓋体との係合を解き、次に、蓋体を係止片に案内させて所定量右方向へスライドさせた後、90°回転させて浴槽右隅部に立て掛ける作業が必要であり、逆に、蓋体を開口部に気密に固定するには、蓋体を係止片上に載置した後、左端面を規制板に押し当てた状態で盲孔間をコ型連結部材を用いて掛け渡し、次に締付具を係止片のねじ穴に挿入する作業が必要であり、蓋体の着脱作業が非常に煩雑で介護者の負担が大きいという問題点を有していた。
【0006】
また、特許文献2記載の入浴装置においては、入退浴する際に扉部材が浴槽上縁の上方位置にある為、要介護者が圧迫感や恐怖感を受けるばかりでなく、場合によっては要介護者が頭部や肩部を誤って扉部材に激突させ負傷する危険性があるという問題点を有していた。
【0007】
本発明はこれらの諸問題点を解決すべくなされたものであって、その目的は、介護者の扉部材操作に係る負担を軽減するとともに、要介護者が圧迫感を受けることなくより安全に入退浴することができる介護浴槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現する為、請求項1記載の発明は、少なくとも一側壁面が切除形成されてなる開口部を水密に閉塞可能な扉部材を有する浴槽と、前記扉部材を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段を備え、前記浴槽の内底面であって少なくとも要介護者が着座する内底面は要介護者が腰掛ける座面に相当する高さに設定されており、前記扉移動手段は少なくとも前記開口部に面する前記扉部材の上面が前記浴槽の内底面と略面一か又はそれ以下になる前記所定下方位置まで前記扉部材を移動可能であり、要介護者は前記開口部から前記内底面に直接移乗し入浴ができることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記扉部材が一枚構成とされることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、少なくとも一側壁面が切除形成されてなる開口部を水密に閉塞可能な扉部材を有する浴槽と、前記扉部材を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段を備え、前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、該第二の扉部材は前記第一の扉部材の前面方向に回転可能に設けられ、前記扉移動手段は少なくとも前記開口部に面する前記第一の扉部材の上面が前記浴槽の内底面と略面一か又はそれ以下になる前記所定下方位置まで前記第一の扉部材を移動可能であることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記第二の扉部材を前記第一の扉部材と略直交する方向に固定可能としたことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、前記扉移動手段は前記第一の扉部材を上下方向に移動させる第一の扉移動手段と、前記第二の扉部材を前記第一の扉部材に対して上下方向に移動させる第二の扉移動手段を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、前記扉移動手段は前記第一の扉部材及び前記第二の扉部材を連動して移動させる連動移動機構を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発明において、浴槽に要介護者が把持する把手を付設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、扉部材を所定上方位置から所定下方位置へ移動させる操作を行うだけで、要介護者が車椅子等の搬送機器から浴槽の内底面へ直接移乗可能となり、しかも浴槽の開口部を閉塞するには所定下方位置にある扉部材を所定上方位置へ移動させる操作を行うだけでよく、従来技術のように扉部材の煩雑な着脱操作は不要であり、扉部材の操作に係る介護者の負担を大幅に軽減できる。扉部材の移動を自動化すれば介護者の負担をより一層軽減でき好適である。
【0016】
入退浴時には、扉部材はその上面が浴槽の内底面と略面一か又はそれ以下になる所定下方位置にまで移動しているので、扉部材の上面近傍部が移乗動作の妨げになることなく、また、要介護者が扉部材による圧迫感を受けることなく、また、要介護者が頭部や肩部を扉部材に誤って激突させ負傷するという危険性もなく安全に入退浴動作が行える。また、従来の横開き方式の扉部材を有する浴槽に比して扉部材の開閉に係るスペースが不要となり、小規模な浴室への設置も可能となる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、扉部材の構造、該扉部材を移動させる扉移動手段の構造を簡素化でき、製造コストを安価に抑えることができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、扉部材の上下寸法に左右されず浴室床面から浴槽の内底面までの高さを要介護者が腰掛け易い高さに維持できるとともに、浴槽上下の寸法を増大することなく浴槽の有効水深を十分確保することができ、座高の大きい要介護者であっても肩部等が湯面から露出することなく全身を湯に浸け快適な入浴が行える。
【0019】
また、入退浴に際して、第一の扉部材を所定下方位置まで移動した後、第二の扉部材を第一の扉部材の前面方向に180°回転させ下方に位置させることで浴槽の内底面から上方への第二の扉部材の突出を抑えることができ、第二の扉部材の上面近傍部が要介護者の移乗動作の妨げとなることがない。また、第一の扉部材を所定上方位置とし第二の扉部材を回転させ下方に位置させることで、浴槽を半身浴用の浴槽として利用できるとともに、第二の扉部材の高さを低くでき、介護者は扉部材越しに介護作業がし易くなる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、第一の扉部材が所定下方位置にあるときに第二の扉部材を第一の扉部材と直交する方向に固定することで、要介護者が車椅子等の搬送機器から浴槽内へ移乗する時や浴槽内から搬送機器へ移乗する時に第二の扉部材を移乗台として利用できる。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、扉部材の上下寸法に左右されず浴室床面から浴槽の内底面までの高さを要介護者が腰掛け易い高さに維持できるとともに、浴槽上下の寸法を増大することなく浴槽の有効水深を十分確保することができ、座高の大きい要介護者であっても肩部等が湯面から露出することなく全身を湯に浸け快適な入浴が行える。また、入退浴に際して第一の扉部材と第二の扉部材をともに所定下方位置まで移動させることで、浴槽の内底面より上方へ両扉部材が突出しなくなるので両扉部材の上面近傍部が要介護者の移乗動作の妨げになることがない。
【0022】
また、第一の扉部材を所定上方位置とし第二の扉部材を第一の扉部材に対して所定下方位置へ移動させることで、浴槽を半身浴用の浴槽として利用できるとともに、第二の扉部材の高さを低くでき、介護者は扉部材越しに介護作業がし易くなる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、連動移動機構を介することで一つの扉移動手段で第一の扉部材及び第二の扉部材を連動して同時に上方向又は下方向の同方向へ移動することが可能となるので、介護者の扉移動に係る操作手数を軽減できる。又、個々の扉部材に対して個別に扉移動手段を配設する必要がなくなり、扉移動手段の構造を簡素化でき、製造コストを安価に抑えることができる。
【0024】
請求項7記載の発明によれば、入退浴動作時に要介護者が把手を把持することで転倒防止が図れ、要介護者は安全に入退浴動作が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1乃至3は本発明の第一の実施形態を示している。図1は介護浴槽1の正面図、図2は同介護浴槽1の左側面図、図3は同介護浴槽1の平面図である。
【0026】
介護浴槽1の全体形状は略直方体状をなしており、介護浴槽1は、浴槽2と、該浴槽2の一方長辺側の側面(浴槽2の後面)に併設配置されるとともに不図示のポンプ及び配管部材等からなる浴湯移送手段を介して浴槽2と連通接続され浴槽2へ供給する浴湯を貯湯する貯湯槽3とを主たる構成要素としている。
【0027】
浴槽2は貯湯槽3の併設側と反対側(前面)方向における浴槽2側面の全面域を切除して形成した開口部4を有する略直方体状の樹脂製またはステンレス製の容器9が支持フレーム8で所定高さに支持されている。そして、後述する扉移動手段10(図3参照)を介して所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動するとともに、後述する閉塞手段11を介して浴槽3の前面側に面する左右側壁面2aと下側壁面2a(以下、開口部4の周縁面と称呼する)との間を水密に閉塞可能になす一枚の扉部材6が設けられている。
【0028】
前記支持フレーム8は該フレーム8下面に配設される四個の設置脚26によって床面5から離間して載置されている。床面5から要介護者が着座する浴槽2(容器9)の内底面2bまでの高さH1は不図示の一般的なシャワーチェアや入浴用の車椅子等の搬送機器に着座した要介護者が内底面2bへ直接移乗し易い高さ、具体的には400mm乃至500mmの高さ範囲、好ましくは450mmに設定されている。要介護者が着座する内底面2bの部分は略水平状に形成されている。
【0029】
浴槽2内左右の内側面2dには、上面部が上縁面2cの近傍に位置するとともに前面部が左右側壁面2a近傍に位置するように正面視で略コ字形状の把手7がそれぞれ付設されている。この把手7は前記搬送機器から浴槽2内へ、また、浴槽2内から前記搬送機器へ移乗動作する際に要介護者が把持するものである。尚、把手7の取着位置は当該位置に限定されることなく、要介護者が把持し易い位置であればどのような位置に設けてもよい。
【0030】
図1に示すように、扉部材6は上下外寸法及び左右外寸法が開口部4の各内寸法より長く設定され正面視で略長方形状を呈している。開口部4の周縁面に面する側(後面側)の扉部材6の左右端縁及び下端縁に沿って略U字形状に軟質ゴム素材でなるシール部材16が貼着されている。尚、シール部材16は扉部材6後面側でなく、所定上方位置に移動した扉部材6後面の前記左右端縁及び前記下端縁の各端縁位置に対応するように開口部4の周縁面側に貼着けしてもよい。
【0031】
次に、扉部材6を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段10と、扉部材6と開口部4の周縁面との間を水密に閉塞する閉塞手段11の構成について説明する。図3に示すように、扉移動手段10と閉塞手段11は浴槽2の左右短辺側方向にそれぞれ配設されるが、各手段は互いに同一構成をなしているので、以下、一方(左短辺側方向)の扉移動手段10と閉塞手段11の構成に着目して説明を行うものとする。
【0032】
まず、扉移動手段10の構成について説明する。図2に示すように、浴槽2の前面寄り位置において支持フレーム8の上下端に亘って支持柱12が立設固定され、該支持柱12に沿って上下方向に移動可能に移動部材13が設けられている。図3に示すように、移動部材13は一方側(扉部材6側)が浴槽2の外側方向に向かって平面視略コ字形状に折り曲げ成形された折曲部13aとされ、他方側は平板面部13bとされている。
【0033】
平板面部13bと支持柱12に対する平板面部13bの反対側方向に設けられる平板部材17に、ローラ軸25にて支持柱12外周面を前後方向から挟み込み支持柱12に沿って転動自在とされる四輪のローラ14が取着支持されている。
【0034】
図2に示すように、前記平板面部13bと平板部材17後方の上方位置に先端が軸着される伸縮作動可能なロッド部15aと、該部15aを伸縮作動可能に保持し下部が支持フレーム8に軸着固定される保持部15bを有するアクチュエータ15が配置されている。上述した移動部材13及びアクチュエータ15は、扉部材6を所定上方位置と所定下方位置との間において上下方向に移動させる扉移動手段10を構成している。
【0035】
従って、例えば、図2に示すように収縮状態にあるロッド部15aを伸長する方向に作動させると、四輪のローラ14が支柱12の外周面に沿って転動し移動部材13、即ち扉部材6が上方向に移動することになる。ロッド部15aは扉部材6の上面6aが浴槽2の上縁面2cと略同一の高さとなる位置(所定上方位置)に至るとその伸長作動が停止するように電気的に制御される。
【0036】
逆に、伸長状態にあるロッド部15aを収縮する方向に作動させると、扉部材6が下方向に移動することになる。ロッド部15aは平板面部13bの後方下面が支持フレーム8下面部から床面5方向に突出して設けられるリミットスイッチ27に当接する位置でその収縮作動が停止し、このとき、扉部材6の上面6aは浴槽の内底面2bと略面一の高さ位置(所定下方位置)となる。
【0037】
図2に示すように、側面視でくの字状に折曲成形され互いに同一形状を呈する上側カム19と下側カム20が、前記平板面部13b側から延出して折曲部13aで包囲形成されるコ字状空間18内に臨む態様で上下に整列してそれぞれ配設されている。上側カム19及び下側カム20の一方端側はそれぞれ扉部材6左辺の上下位置から平板面部13bと面一となる折曲部13a面を貫通する連結軸21を介して扉部材6と連結されている。
【0038】
上側カム19及び下側カム20は、その折曲部分において折曲部13aの対向する両面にわたって挿通される支軸22にてそれぞれ軸着され、他方端側は上下方向に延在して設けられ細長板形状のカム操作板23の上方部と下端部にそれぞれ連結軸24にて軸着されている。図3中、28は上側カム19一方端の左右両面に固着されているボスであって、上側カム19の左右方向への不必要な遊びを抑制することで扉部材6の上下方向への移動時に該扉部材6が左右に揺動するのを防ぐ役割を果たしている。
【0039】
上述した上側・下側カム19・20及びカム操作板23は、扉部材6を開口部4の周縁面方向に押圧することでシール部材16を周縁面に圧接させ、開口部4を扉部材6で水密に閉塞する閉塞手段11を構成している。
【0040】
従って、例えば、図2に示す下方位置に扉部材6があるときは閉塞手段11が作用せず、シール部材16は開口部4の周縁面に非圧接状態となっている(図3参照)。この位置にある扉部材6を、扉移動手段10を用いて上方向へ移動させると、ある位置でカム操作板23の上面が支持フレーム8の上面縁部8aに接触する。
【0041】
更に、扉部材6を上方向へ移動させると、上面縁部8aへの接触によってカム操作板23が扉部材6の移動方向と正反対の下方向に押し上げられる結果、上側カム19と下側カム20がそれぞれの支軸22を支点として図2中の一点鎖線で示す状態に回転する。この回転によって扉部材6が浴槽2の周縁面方向に押圧され、シール部材16が周縁面に圧接され開口部4が扉部材6で水密に閉塞される。
【0042】
図2に示すように、上側カム19と下側カム20を互いに同形状にし、対応する連結軸24、支軸22、連結軸21を上下方向の同一位置に整列配置し、連結軸24と支軸22の軸間距離及び支軸22と連結軸21の軸間距離を上側カム19と下側カム20において互いに同値としているので、扉部材6が所定上方位置に至った時点で上側カム19と下側カム20の回転によるそれぞれのカムが移動する距離はともに同一距離となり、従って、扉部材6の上方部及び下方部にそれぞれ及ぼす押圧力は同一力となる。
【0043】
尚、詳細な説明は省略するが、浴槽2の上縁面2cには、介護浴槽1の電源スイッチの他、前記扉部材6の上方向への移動及び下方向への移動の開始を指示する扉移動スイッチや貯湯槽3から浴槽2への浴湯の貯湯開始を指示する貯湯スイッチ等の各種スイッチ、浴槽2内の湯温を表示する湯温表示部等が装備される操作表示部29が設けられている。
【0044】
次に、第一の実施形態の介護浴槽1の使用方法について説明する。尚、扉部材6は所定上方位置に移動しており、貯湯槽3内には所定量の浴湯が貯湯された状態にあるものと仮定する。介護者は電源スイッチをオンにした後、扉移動スイッチを押下し扉部材6を所定下方位置にまで移動させる。シャワーチェア等の搬送機器に着座した要介護者を開口部4の近傍位置に導く。
【0045】
要介護度の低い、例えば、要介護度が1の要介護者は、開口部4から浴槽2の内底面2bへ、把手7を必要に応じて把持しながら自力で移乗する。また、要介護度が3等の要介護度が高い要介護者の場合は、介護者の補助を受けながら内底面2bへ移乗すればよい。このとき、扉部材6の上面6a近傍部は内底面2bの上方へ突出していないので、要介護者の移乗動作や介護者の補助作業の妨げになることはない。また、床面5から内底面2bまでの高さH1を前記搬送機器の座面と略同等の高さに設定しているので、要介護者は前記搬送機器から内底面2bへの移乗に著しい労力を伴うことなく、容易に移乗できる。
【0046】
要介護者が浴槽1内に完全に入ったことを確認した後、介護者は扉移動スイッチを押下し扉部材6を所定上方位置にまで移動させる。扉移動手段10によって扉部材6が所定上方位置に至ると閉塞手段11が自動的に作動するので、介護者は扉移動スイッチを押下するという極めて容易な操作のみで開口部4を水密に閉塞でき、介護者の扉移動に係る操作負担は極めて少ないものである。
【0047】
貯湯スイッチを押下し、貯湯槽3の浴湯を浴槽2へ供給移動する。退浴する場合は、まず浴槽2内の浴湯を排水する。排水が完了したことを確認した後、扉移動スイッチを押下し、扉部材6を所定下方位置まで移動させる。要介護者は自力、または介護者の補助を受けながら搬送機器に移乗し、入浴を完了する。
【0048】
上述した第一の実施形態では、扉部材6が所定上方位置に至った時点で上側カム19及び下側カム20が扉部材6の上方部及び下方部にそれぞれ及ぼす押圧力を同一力となるように設定しているが、浴槽2内に供給された浴湯が扉部材6に及ぼす水圧は扉部材6の上方へいくにつれて低圧となるので、前記時点で上側カム19による押圧力を下側カム20の押圧力に対して低くなるようにしてもよい。例えば、上側カム19における現在の連結軸21の位置を下方へ移動し支軸22と連結軸21の軸間距離を減少する変更を施すことで上側カム19の押圧力を低力とすることが可能となる。
【0049】
このように変更することで、扉部材6を開口部4の周縁面に対して押圧したときに扉部材6上方部がシール部材16から受ける反発力を軽減でき、より好適に開口部4を扉部材6で閉塞することが可能となる。
【0050】
次に、図4乃至7を用いて本発明の第二の実施形態について説明する。図4は第二の実施形態の介護浴槽1を示す正面図、図5は同介護浴槽1の一部分を示す左側面図、図6は同介護浴槽1を示す平面図、図7は第一の扉部材31の形状を模式的に示す斜視図である。尚、図4乃至7において図1乃至3と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0051】
第二の実施形態に示す介護浴槽1は、第一の実施形態における扉部材6を、該扉部材6の上方部が正面視略凹形状となるように切欠領域30を形成した第一の扉部材31と、前記切欠領域30の全域を覆うことができる正面視で略長方形状の第二の扉部材32とから構成し(図4参照)、該第二の扉部材32下面の左右端部をそれぞれ第一の扉部材31に設けられる水平支持軸33で支持し、第二の扉部材32を水平支持軸33を支点として浴槽2前方向に回転可能にする(図4参照)とともに、閉塞手段11を、第一の扉部材31と開口部4の周縁面との間を水密に閉塞する第一の閉塞手段34と、第一の扉部材31前面における切欠領域30の周縁面37と第二の扉部材32後面との間を水密に閉塞する第二の閉塞手段35とから構成(図5、6参照)するものである。
【0052】
尚、第一の扉部材31と第二の扉部材32からなる扉部材6を上下方向に移動させる扉移動手段10の構成及び前記第一の閉塞手段34の構成は、第一の実施形態と同一であるので説明は省略する。
【0053】
第一の扉部材31は、図7に示すような箱蓋形状を呈しており、前面から後面方向に削り取られて形成されるスペース44に後述する第二の扉部材32が配置される。第一の扉部材31の後面側には、左右寸法が開口部4の左右内寸法と略同等で、上下寸法が第一の扉部材31の上下外寸法の略三分の一に相当する切欠領域30が形成されている。
【0054】
図4に示すように、第二の扉部材32は正面子で略長方形状を呈しており、その上下外寸法及び左右外寸法は切欠領域30の各寸法より長く設定され、切欠領域30の全域を覆えるように形成されている。切欠領域30に面する側(後面側)であって第二の扉部材32の左右端縁及び下端縁には、第二の扉部材32と第一の扉部材31における切欠領域30の周縁面37との間を水密に閉塞するシール部材36が貼着されている。尚、シール部材36は、第二の扉部材32後面側でなく、切欠領域30の全域を覆う位置にある第二の扉部材32後面の前記左右端縁及び前記下端縁の各端縁位置に対応するように第一の扉部材31の周縁面37側に貼着けしてもよい。
【0055】
周縁面37と直交する第一の扉部材31の左右内壁面45の上下中間位置よりやや上方位置には浴槽2内方に向かって水平に突出する水平支持軸33がそれぞれ設けられ、第二の扉部材32がその下面の左右端部を水平支持軸33によって回転自在に支持されており(図4参照)、第二の扉部材32は両水平支持軸33を支点とし第一の扉部材31に対し前面方向へ回転が可能とされている。尚、図4中、一点鎖線で図示する第二の扉部材32は実線で示す当該扉部材32を180°下方へ回転させた状態を示している。
【0056】
次に、第一の扉部材31における切欠領域30の周縁面37と第二の扉部材32後面との間を水密に閉塞する第二の閉塞手段35について説明する。図4に示すように、第二の閉塞手段35は扉部材6の左右上方向にそれぞれ対称的に配設されるが、互いに同一構成をなしているので、以下、一方(図4中、左上方向)の第二の閉塞手段35の構成に着目して説明を行うものとする。
【0057】
図6において、第二の扉部材32左辺面の上方から外方向に向かって水平に突出固着されるピン部材38に、該部材38の軸心方向と直交する方向に回転可能に係止部材39が設けられる。図5に示すように係止部材39は左側面視で略逆L字形状を呈しており、一方部は介護者が把持可能な長さ寸法の把持部39aとされ、他方部は第一の扉部材31の内壁面45から浴槽2内方に向かって水平に突出固着されるピン部材41からなる被係止部材42に係止可能にフック形状の係止部39bが形成されている。
【0058】
係止部材39はピン部材38と係止部材39に介在する捻りバネ40によって通常、図5における左回り方向に付勢されている。図4中、46は捻りバネ40による係止部材39の左回りの回転を食い止める回転止め具である。尚、図6では回転止め具46の図示を省略している。
【0059】
従って、要介護者が両把持部39aを掴みピン部材38を支点として係止部材39を浴槽2前面方向に回転させると、ピン部材41に対する係止部39bの係止が解除され、第二の扉部材32の回転が許容されることになる。逆に、係止部39bをピン部材41に係止すると、第一の扉部材31に対する第二の扉部材32の回転が規制されると同時にシール部材36が第一の扉部材31の周縁面37に圧接され、周縁面37と第二の扉部材32との間が水密に閉塞される。
【0060】
扉移動手段10により扉部材6(第一の扉部材31と第二の扉部材32)を所定下方位置まで移動させた後、第二の扉部材32を第一の扉部材31に対し180°下方へ回転させると、内底面2b上方に第二の扉部材32が突出しなくなるので、第二の扉部材32が入退浴時における移乗動作の妨げになることなく、要介護者は容易に移乗動作を行える。尚、第二の実施形態における第一の扉部材31の下方移動端である所定下方位置とは、切欠領域30が形成される第一の扉部材31の上面49と浴槽2内底面2bが面一となる位置(図4に示す第一の扉部材31の位置)を指す。
【0061】
第二の実施形態の介護浴槽1によれば、第一の実施形態に比して、浴槽2の上下外寸法を増大することなく床面から内底面2bまでの高さ寸法を低減(H1>H3)でき要介護者の移乗動作をより行い易くできるとともに、その結果として浴槽2の内底面2bから上縁面2cまでの高さを増大(H2<H4)することができ、浴槽の有効水深を十分確保することができるので、座高の大きい要介護者であっても肩部等が湯面から露出することなく全身を湯に浸け快適な入浴が行える。
【0062】
また、浴槽2内の浴湯水位が第一の扉部材31の上面49未満の場合であって、浴槽2内の要介護者に対する介護作業を扉部材6越しに行いたい場合、上述したように第二の扉部材32を第一の扉部材31に対して180°下方へ回転させることにより、開口部4に面する扉部材6の高さを低減できるので、身長の低い介護者であっても浴槽2外から扉部材6越しに介護作業が容易に行えることになる。
【0063】
次に、図8、図9を用いて本発明の第三の実施形態について説明する。図8は第二の扉部材32を第一の扉部材34前面に直交する水平方向に固定した状態の介護浴槽1を示す正面図、図9は図8におけるA−A矢視方向の部分拡大断面図である。尚、図8、図9において図1乃至7と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0064】
第三の実施形態は第二の実施形態の介護浴槽1において、第二の扉部材32を第一の扉部材31の前面方向であって、該扉部材31に直交する水平方向に固定可能とする扉固定機構43を設けたものである。扉固定機構43は第一の扉部材31と第二の扉部材32の左右辺部において両扉部材の間に介在してそれぞれ左右対称的に配設されるが、互いに同一構成であるので、以下、一方の構成(図8中、右側の構成)に着目して説明をする。
【0065】
扉固定機構43は正面視で略クランク形状の扉支持部材47(図8参照)と、第一の扉部材31の内壁面45に刻設され縦溝部48aと横溝部48bを有するガイド溝48(図9参照)とから構成される。
【0066】
扉支持部材47は、一方水平軸部47aが第二の扉部材32前面の右辺近傍でやや上辺寄りの位置に軸受支持されるとともに他方水平軸部47bがガイド溝48に遊嵌され該ガイド溝48に沿って移動自在とされている。詳細な説明は省略するが、他方水平軸部47bはガイド溝48から容易に抜け出ないように構成されている。
【0067】
図9に示すように、縦溝部48aは第二の扉部材32下面から第一の扉部材31内底面近傍にわたる上下範囲に延在して刻設されており、横溝部48bは縦溝部48aの上下中間位置よりやや上方の位置において、縦溝部48aに直交し第一の扉部材31の後面方向に延在して刻設されている。
【0068】
次に、上述した扉固定機構43の作用について説明する。尚、第二の扉部材32は、図9中、一点鎖線で示す状態にあるものと仮定する。係止部材39を回転操作し被係止部材42から外し第二の扉部材32を水平支持軸33を支点として第一の扉部材31の前面方向に倒伏させるように回転させると、縦溝部48a内の上端近傍に位置する他方水平軸部47bは該縦溝部48aに沿って下方へ移動する。この他方水平軸部47bを横溝部48b内に移動させると、図9の実線で示すように第二の扉部材32が第一の扉部材31と直交する水平位置に固定される。
【0069】
このとき、上記固定によって上面側に配置される第二の扉部材32後面と切欠領域30が形成される第一の扉部材31の上面49と浴槽2内底面2bが面一となる。要介護者は水平位置に固定された第二の扉部材32を入退浴動作時の移乗台として利用でき、搬送機器から浴槽2の内底面2bへ、また、内底面2bから搬送機器へ容易に移乗することができる。
【0070】
第二の扉部材32を移乗台として利用しない場合は、他方水平軸部47bを横溝部48b内に移動させずに縦溝部48aに沿って該縦溝部48a内の下端まで移動させれば、図9中、二点鎖線で示す位置に第二の扉部材32が回転する。第二の扉部材32をこのように回転させることで、内底面2b上方に第二の扉部材32が突出しなくなるので、第二の扉部材32が入退浴時における移乗動作の妨げになることなく、容易に移乗動作が行える。また、浴槽2内の浴湯水位が第一の扉部材31の上面49未満であり、第一の扉部材31が所定上方位置にある時に第二の扉部材32を第一の扉部材31と直交する位置に固定すれば、第二の扉部材32を入浴シャンプーや入浴石鹸等を載置するテーブル台として利用でき、更には入浴中の要介護者が肘を載せる肘掛けとしても利用できる。
【0071】
次に、図10乃至12を用いて本発明の第四の実施形態について説明する。第四の実施形態は、扉部材6を開口部4に面する一部域に切欠領域53が形成される第一の扉部材50と、該第一の扉部材50の面と重なり合う部分を有するとともに切欠領域53の全域を覆えるように設けられる第二の扉部材51とから構成し、扉移動手段10を第一の扉部材50を上下方向に移動させる第一の扉移動手段54と、第二の扉部材51を第一の扉部材50に対して上下方向に移動させる第二の扉移動手段55から構成したものである。
【0072】
図10は第一の扉部材50と第二の扉部材51の双方を所定下方位置にまで移動させた状態の介護浴槽1を示す正面図、図11は同介護浴槽1の左側面図、図12は同介護浴槽1の平面図である。尚、図10乃至12において図1乃至9と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0073】
第一の扉部材50は、図10に示すように扉取付枠57の上方左右端位置及び下方中央寄りの左右位置に固着されたブロック体76のそれぞれに前面から後面方向に向かって貫通された支持ピン58に板体80が取り付けされ支持されて構成される。尚、各支持ピン58はブロック体76に対して前後面方向に移動可能に設けられている。支持ピン58とブロック体76との間には圧縮バネからなる付勢部材60がそれぞれ介装されており、これによって第一の扉部材50全体は通常浴槽2前面方向(第一の扉部材50が開口部4の周縁面から離間する方向)に付勢されている。
【0074】
板体80には、左右寸法が開口部4の左右内寸法と略同等で、上下寸法が第一の扉部材50の上下外寸法の略三分の一に相当する切欠領域53が形成されている。板体80前面における切欠領域53の周縁面には板体80と第二の扉部材51との間を水密に閉塞するシール部材52が切欠領域に沿って略U字形状に貼着されている。尚、シール部材52は、第一の扉部材50の板体80前面でなく、板体80前面の切欠領域53の周縁面に対応するように第二の扉部材51後面側に貼着けしてもよい。図10中、89は扉取付枠57と第一の扉部材50の大半部分を覆うケーシング、90は第二の扉部材51の大半部分を覆うケーシングである。
【0075】
第一の扉移動手段54は、アクチュエータ15と、支持柱12に沿って上下方向に移動可能な左側面視略長方形状の移動部材56と、該移動部材56に固着され第一の扉部材50が取り付けされる扉取付枠57とから構成され(図11参照)、図12に示すように浴槽2の左右辺方向に同一構成のものが設けられている。アクチュエータ15のロッド部15aを伸長する方向へ作動させると移動部材56、即ち第一の扉部材50が上方向に移動し、逆にロッド部15aを収縮する方向に作動させると第一の扉部材50が下方向に移動する。第一の扉部材50は第一の扉移動手段54によって、上面(ケーシング89最上面)が浴槽2の上縁面2cと面一となる所定上方位置と、切欠領域53の最下面に相当する面(ケーシング89上面)が浴槽2の内底面2bと面一となる所定下方位置との範囲間を上下方向に移動する。
【0076】
次に、第一の扉部材50と開口部4の周縁面との間を水密に閉塞する第一の閉塞手段59について説明する。第一の閉塞手段59は、図11に示すように、扉取付枠57の前方下面に垂下取着される二枚の挟持片61に上方部が回転軸62を介して回動可能に軸着される左側面視逆くの字形状の下側カム63と、扉取付枠57の上方部に中途部が回転軸62を介して回動可能に軸着される上側カム64とを有する。下側カム63は一方部63aが後方に向かって延出している。
【0077】
図11に示すように下側カム63の折れ曲がり端部が軸65を介して長板状の連結片66一端部と軸連結され、該連結片66の他端部は上側カム64の一端部と軸65で軸連結されている。この下側カム63と上側カム64と連結片66とを有する構成は、第一の扉部材50の左右端部にそれぞれ配設されている。また、図10に示すように、第一の扉部材50の左右中央部であってその下方位置には下側カム63のみを有する構成が設けられている。第一の閉塞手段59はこれらの構成より成り立っている。
【0078】
次に、上述した第一の閉塞手段59の作用について説明する。尚、第一の扉部材50は図10乃至12に示す所定下方位置にあるものとする。浴槽2外部に面する前面下方位置には図11に示すように前面上部から後面下部にかけて傾斜する傾斜面67が形成されている。第一の扉移動手段54を作動させ、第一の扉部材50を上方へ移動させると、ある時点で下側カム63の一方部63aが傾斜面67に当接し押されることによって下側カム63が回転軸62を支点として左方向に回転し、図11中、一点鎖線で示す状態に至る。
【0079】
この下側カム63の回転に伴い連結片66が上方へ移動する結果として上側カム64が回転軸62を支点とし左方向に回転し、図11中、一点鎖線で示す状態に至る。下側カム63と下側カム64の前記回転によって第一の扉部材50が開口部4の周縁面に圧接され第一の扉部材50と当該周縁面との間が水密に閉塞される。
【0080】
第二の扉部材51は平板75前面の上下水平方向に棒状部材74が平行配設されて構成され、第一の扉部材50前面の左右辺寄りであって上端から下方に延在して固着される一対のレール部材68に浴槽2内方向に互いに対向形成される凹溝68aに上下棒状部材74のぞれぞれの左右端部が嵌合されており、第二の扉部材51は後述する第二の扉移動手段55によって第一の扉部材50に対して上下方向に移動可能に設けられている(図10参照)。
【0081】
第二の扉移動手段55は図10に示すように、扉取付枠57の左下方位置にロッド部69aが右方向に配置されるように設けられるアクチュエータ69と、ロッド部69a先端部に一端部が軸着され、折れ曲り部が扉取付枠57に回転軸77にて軸着されるとともに他端部が第二の扉部材51下方部に該部材51の左右方向に移動可能に設けられる移動枠71の左右中央よりやや左位置において軸着される正面視で略L字形状の折曲リンク片70と、該リンク片70の左方向であって一端部が扉取付枠57に軸着されるとともに他端部が移動枠71下方の右端部に軸着される正面視で長方形板状のリンク片72とから構成される。
【0082】
それぞれの回転軸77の取着位置と同列位置に相当する第二の扉部材51前面下端にはガイドピン73が浴槽2前面方向に向かって突出固着されており、それぞれのガイドピン73は移動枠71上方に水平方向に延在するように刻設される長孔78に挿通されている。
【0083】
次に、第一の扉部材50に対して第二の扉部材51を上方向または下方向へ移動させる場合について説明をする。第二の扉移動手段55を作動させアクチュエータ69のロッド部69aを伸長する方向に作動させると、折曲リンク片70とリンク片72がそれぞれの回転軸77を中心としてワイパー状に同期して回転作動(図10中、左回転する方向に回転作動)し、移動枠71が図10中の一点鎖線で示す左上方向に移動する結果、第二の扉部材51が第一の扉部材50に対して上方向に移動することになる。ロッド69aが図10中、右方向に伸長作動し折曲リンク片70がリミットスイッチ87に当接するとロッド69aの伸長作動が停止され、第二の扉部材51の上方向への移動が停止される。このとき、第二の扉部材51上面は第一の扉部材50の最上面(ケーシング89最上面)と面一になる上方位置まで移動し切欠領域53の全域を覆うことが可能となる。
【0084】
逆に、伸長したロッド部69aを収縮する方向に作動させると、折曲リンク片70とリンク片72が図10中、右回転する方向に回転作動することにより第二の扉部材51が下方向へ移動する。ロッド69aが図10中、左方向に収縮作動し折曲リンク片70がリミットスイッチ91に当接するとロッド69aの収縮作動が停止され、第二の扉部材51の下方向への移動が停止される。このとき第二の扉部材51上面は切欠領域53の最下方に位置する第一の扉部材50の水平面(ケーシング89上面)と略面一になる下方位置まで移動している。
【0085】
尚、第四の実施形態において、第一の扉部材50と第二の扉部材51からなる扉部材6の下方移動端である所定下方位置とは、切欠領域53の最下方に位置する第一の扉部材50の水平面と第二の扉部材51上面がともに浴槽2内底面2bと面一となる位置(図10乃至12に示す位置)を指し、扉部材6の上方移動端である所定上方位置とは第一の扉部材50最上面と第二の扉部材51上面がともに浴槽2上縁面2bと面一となる位置を指す。
【0086】
次に、第一の扉部材50前面における切欠領域53周縁部と第二の扉部材51後面との間を水密に閉塞する第二の閉塞手段79について説明する。それぞれのレール部材68に形成される凹溝68aは図11中の点線で示すように上方部において板体80方向に向かって傾斜するように形成されている。この傾斜した凹溝68aによって第二の扉部材51が所定上方位置に移動した際に第一の扉部材50に対して圧接され、切欠領域53周縁部と第二の扉部材51後面との間が水密に閉塞される。
【0087】
第一の扉部材50と第二の扉部材51の両扉部材を所定下方位置に移動すると、両扉部材の上面は浴槽2内底面2bと略面一の高さとなるので、要介護者は搬送機器から浴槽2の内底面2bへ、また、内底面2bから搬送機器へ容易に移乗することができる。
【0088】
詳細な説明は省略するが、第四の実施形態における操作表示部29(図12参照)には第一の扉部材50と第二の扉部材51のそれぞれを上下方向に移動させる第一の扉移動スイッチ及び第二の扉移動スイッチが設けられている。尚、一個の扉移動スイッチで第一の扉部材50と第二の扉部材51の両扉部材を同時に上方向または下方向の同方向に移動開始の指示ができるように構成してもよい。
【0089】
次に、図13及び14を用いて本発明の第五の実施形態について説明する。第五の実施形態は第四の実施形態における第二の扉移動手段55を取り除き、替わりに第一の扉移動手段54によって第一の扉部材50と第二の扉部材51双方を連動して上方向又は下方向に移動させる連動移動機構81を設けたものである。図13は第一の扉部材50と第二の扉部材51の双方を所定下方位置にまで移動させた状態の介護浴槽1を示す正面図、図14は図13におけるB−B矢視方向の部分拡大断面図である。尚、図13及び14において図1乃至12と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0090】
連動移動機構81は折曲リンク片70の回転軸77を共軸とし折曲リンク片70前面側に固着される正面視で略扇形状の第一の平歯車82と、該第一の平歯車82の円弧辺部82aに形成される歯部(図示省略)と噛合するように配置して設けられ正面視円形状の第二の平歯車83と、浴槽2前面方向に延出する第二の平歯車83の歯車軸84先端に固着されるピニオン85と、浴槽2前面寄り下方に不図示の固定手段によって上下方向に鉛直に立設して設けられピニオン85の歯部(図示省略)と噛合う歯部(図示省略)が形成されるラック86とから構成される。
【0091】
歯車軸84は、図14に示すように、断面視逆コ字形状の扉取付枠57下面から下方に垂下固着される二枚の板状ブラケット92で固着支持される保持筒93に回転可能に挿通されている。
【0092】
第一の扉部材50を上下方向に移動させる第一の扉移動手段54は第四の実施形態で説明した構造と同一である。図13及び14に示す所定下方位置にある第一の扉部材50と第二の扉部材51を所定上方位置に移動させるには、第一の扉移動手段54(図11参照)を作動させればよい。第一の扉移動手段54の作動により第一の扉部材50が上方向への移動を開始すると、ピニオン85がラック86に沿って回転し上方向へ移動し、第二の平歯車83が図13中、右回転方向に回転する。この回転に追従して第一の平歯車82が図13中、右回転方向に回転することにより、折曲リンク片70とリンク片72がワイパー状に同期して回転作動し、第二の扉部材51が第一の扉部材50に対して上方向へ移動する。
【0093】
本発明は、上述した第一乃至第五の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能であることはいうまでもない。例えば、第一乃至第五の実施形態においては側面視で開口部4の周縁面が鉛直上下方向を指向するように開口部4を形成したが、側面視で浴槽2上方部が下方部より長くなるように上縁面2cから内底面2b方向に向かって傾斜状に開口部を形成し、該開口部の傾斜周縁面に沿って扉部材を上下方向に移動できるように扉移動手段を浴槽の各位置に配設してもよい。また、第一乃至第五の実施形態における各アクチュエータロッドの伸長開始時付近・伸長停止時付近の速度及び収縮開始時付近・収縮停止時付近の速度を電気的に制御することで、扉部材の上方向及び下方向への移動を緩やかに開始するとともにその移動を緩やかに停止するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、要介護者、特に要介護度の低い要介護者の自立入浴を可能とした浴槽に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る介護浴槽を示す正面図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る介護浴槽を示す左側面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る介護浴槽を示す平面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る介護浴槽を示す正面図である。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る介護浴槽の一部分を示す左側面図である。
【図6】本発明の第二の実施形態に係る介護浴槽を示す平面図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る第一の扉部材の形状を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明の第三の実施形態に係る第二の扉部材を第一の扉部材に直交する水平方向に固定した状態の介護浴槽を示す正面図である。
【図9】図8におけるA−A矢視方向の部分拡大断面図である。
【図10】本発明の第四の実施形態に係る第一の扉部材と第二の扉部材の双方を所定下方位置にまで移動させた状態の介護浴槽を示す正面図である。
【図11】本発明の第四の実施形態に係る介護浴槽を示す左側面図である。
【図12】本発明の第四の実施形態に係る介護浴槽を示す平面図である。
【図13】本発明の第五の実施形態に係る第一の扉部材と第二の扉部材の双方を所定下方位置にまで移動させた状態の介護浴槽を示す正面図である。
【図14】図13におけるB−B矢視方向の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 介護浴槽
2 浴槽
2b内底面
4 開口部
6 扉部材
10 扉移動手段
30 切欠領域
31 第一の扉部材
32 第二の扉部材
50 第一の扉部材
51 第二の扉部材
81 連動移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一側壁面が切除形成されてなる開口部を水密に閉塞可能な扉部材を有する浴槽と、前記扉部材を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段を備え、前記浴槽の内底面であって少なくとも要介護者が着座する内底面は要介護者が腰掛ける座面に相当する高さに設定されており、前記扉移動手段は少なくとも前記開口部に面する前記扉部材の上面が前記浴槽の内底面と略面一か又はそれ以下になる前記所定下方位置まで前記扉部材を移動可能であり、要介護者は前記開口部から前記内底面に直接移乗し入浴ができることを特徴とする介護浴槽。
【請求項2】
前記扉部材は一枚構成とされることを特徴とする請求項1記載の介護浴槽。
【請求項3】
少なくとも一側壁面が切除形成されてなる開口部を水密に閉塞可能な扉部材を有する浴槽と、前記扉部材を所定上方位置と所定下方位置の間で上下方向に移動させる扉移動手段を備え、前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、該第二の扉部材は前記第一の扉部材の前面方向に回転可能に設けられ、前記扉移動手段は少なくとも前記開口部に面する前記第一の扉部材の上面が前記浴槽の内底面と略面一か又はそれ以下になる前記所定下方位置まで前記第一の扉部材を移動可能であることを特徴とする介護浴槽。
【請求項4】
前記第二の扉部材を前記第一の扉部材と略直交する方向に固定可能としたことを特徴とする請求項3記載の介護浴槽。
【請求項5】
前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、前記扉移動手段は前記第一の扉部材を上下方向に移動させる第一の扉移動手段と、前記第二の扉部材を前記第一の扉部材に対して上下方向に移動させる第二の扉移動手段を備えることを特徴とする請求項1記載の介護浴槽。
【請求項6】
前記扉部材は前記浴槽の側壁面と重なり合う部分を有するとともに前記開口部に面する一部域に切欠領域が形成される第一の扉部材と、該第一の扉部材の面と重なり合う部分を有するとともに前記切欠領域の全域又は一部域を覆えるように設けられる第二の扉部材を備え、前記扉移動手段は前記第一の扉部材及び前記第二の扉部材を連動して移動させる連動移動機構を備えることを特徴とする請求項1記載の介護浴槽。
【請求項7】
浴槽に要介護者が把持する把手を付設したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の介護浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−215604(P2007−215604A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37038(P2006−37038)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】