説明

伝動ベルト、伝動ベルト及び回転体を含む動力伝達機構、並びに、伝動ベルトの回転体への装着方法

【課題】回転体への装着後にも十分な張力を維持可能とする。
【解決手段】伝動ベルトは1、互いに離隔配置されたプーリ8,9に巻回されつつこれらの間に架渡されるようにして装着されている。伝動ベルト1は、プーリ8,9のレイアウト周長に対して2.0〜3.5%短い基準周長を有し、且つ、プーリ8,9に装着したときの周長方向の張力が30〜150N/リブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの補機駆動システムに適用される、伝動ベルト、伝動ベルト及び回転体を含む動力伝達機構、並びに、伝動ベルトの回転体への装着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトにおいて、心線にポリアミド繊維を用いることで、弾性率を比較的低くしたもの(所謂低モジュラスベルト)が知られている(特許文献1参照)。低モジュラスベルトは、高弾性率のもの(所謂高モジュラスベルト)と比較して急激な張力低下が抑制されること、また、装着対象であるプーリ等の回転体のレイアウト周長よりもベルト周長を短くしてベルトを治具等により伸長させつつ回転体に装着する方法を採用し易く、この方法の採用によりオートテンショナー等の張力調整機構が不要になる、という利点があるといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004‐532959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、伝動ベルトは、動力伝達を良好に行うため、回転体への装着後も十分な張力を維持する必要がある。回転体への装着時における伝動ベルトの周長方向の張力(以下、伝動ベルトの「装着時張力」と称す。)が一定以上でないと、伝動ベルト及び回転体を含む動力伝達機構の駆動開始後の早い段階において伝動ベルトが伸び、動力伝達を確実に行うことができないという問題が生じ得る。特許文献1には、伝動ベルトの装着時張力について何ら提案がなく、この問題を回避することができない。
【0005】
本発明の目的は、回転体への装着後にも十分な張力を維持可能な伝動ベルト、伝動ベルト及び回転体を含む動力伝達機構、並びに、当該伝動ベルトの回転体への装着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1観点によると、環状の基部と、前記基部内において前記基部の周長方向に沿って延在する心線と、それぞれ前記基部から前記基部の前記周長方向及び幅方向と交差する方向に突出すると共に前記周長方向に沿って延在し、前記基部の前記幅方向に関して互いに間隔をなして並列配置された複数のリブとを備えた、前記周長方向に伸縮可能な伝動ベルトにおいて、当該伝動ベルトの装着対象である互いに離隔配置された2以上の回転体のレイアウト周長に対して2.0〜3.5%短い基準周長を有し、前記回転体に装着したときの前記周長方向の張力が30〜150N/リブであることを特徴とする伝動ベルトが提供される。
【0007】
ここで、「回転体のレイアウト周長」とは、伝動ベルトの装着対象である互いに離隔配置された2以上の回転体における、各回転体の外周を連結するように当該外周に沿って環状に形成された線(即ち、伝動ベルトの経路)の長さをいう。「伝動ベルトの基準周長」とは、リブが形成された面を外側にした状態で伝動ベルトを2つの平プーリ(外周面に溝が形成されていない回転体)に巻回しつつこれらの間に架渡されるように装着し、伝動ベルトの周長方向の撓みが除去される程度の張力を伝動ベルトに付加したときの、伝動ベルトの周長方向の長さをいう。
【0008】
上記第1観点によれば、伝動ベルトの装着時張力を30〜150N/リブとすることで、回転体への装着後にも十分な張力を維持可能である。
【0009】
本発明に係る伝動ベルトは、前記張力が300〜400N/リブとなるまで前記伝動ベルトに引張力を付加した後、当該引張力を除去したときに生じる永久歪が1.0〜1.5%であることが好ましい。永久歪が1.0%未満の場合、後述の実施例において示されるように、伝動ベルトの周長方向の最大張力が小さくなると共に周長方向の伸びも小さくて装着時の伸びに達しないため、伝動ベルトを回転体に装着する作業が困難となる(装着の際、伝動ベルトを基準周長から4.5%以上(好ましくは4.5〜6.0%)伸長させる必要がある)。一方、永久歪が1.5%を超えると、後述の実施例において示されるように、伝動ベルトの装着時張力が30N/リブ未満になる可能性がある。この場合、回転体への装着後に伝動ベルトの十分な張力を維持することが困難となる他、伝動ベルトの走行時におけるスリップや発音が生じ得る。さらに、永久歪が1.5%を超える場合、後述の実施例において示されるように、伝動ベルトの周長方向の最大張力が大きくなるため、回転体への装着の際に大きな力が必要となり、例えば治具等に大きな応力がかかって治具が回転体から外れる等、装着作業も困難となる。そこで、永久歪を1.0〜1.5%とすることで、上記のような問題を回避することができる。
【0010】
本発明に係る伝動ベルトは、前記心線がポリアミド繊維からなることが好ましい。この場合、低モジュラスベルトとして、急激な張力低下の抑制効果を得ることができると共に、回転体への装着方法として上記のような張力調整機構が不要で且つ装着作業が容易な方法を採用し易いという効果を得ることができる。
【0011】
本発明に係る伝動ベルトは、前記心線がポリアミド6.6からなることが好ましい。この場合、伝動ベルトを比較的安価なものとすることができる。
【0012】
本発明に係る伝動ベルトは、自動車用エンジンの駆動システムに適用されてよい。この場合、上記のとおり張力調整機構が不要なため、エンジンの軽量化を図ることができ、燃費向上効果が期待される。
【0013】
本発明の第2観点によると、上記第1観点に係る伝動ベルトと、前記伝動ベルトが装着された前記2以上の回転体とを備えたことを特徴とする動力伝達機構が提供される。
【0014】
本発明の第3観点によると、環状の基部と、前記基部内において前記基部の周長方向に沿って延在する心線と、それぞれ前記基部から前記基部の前記周長方向及び幅方向と交差する方向に突出すると共に前記周長方向に沿って延在し、前記基部の前記幅方向に関して互いに間隔をなして並列配置された複数のリブとを備えた、前記周長方向に伸縮可能な伝動ベルトを、互いに離隔配置された2以上の回転体に装着する方法において、前記回転体のレイアウト周長を取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得された前記レイアウト周長に対して2.0〜3.5%短い基準周長を有する前記伝動ベルトを準備する準備ステップと、前記準備ステップにおいて準備された前記伝動ベルトを前記周長方向に伸長させつつ前記回転体に装着する装着ステップとを備え、前記装着ステップにおいて、前記伝動ベルトを前記回転体に装着したときの前記周長方向の張力を30〜150N/リブとすることを特徴とする方法が提供される。
【0015】
上記第2及び第3観点によると、上記第1観点と同様、回転体への装着後にも十分な張力を維持できるという効果が得られ、動力伝達を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る伝動ベルトを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る動力伝達機構を示す斜視図である。
【図3】図2に示す伝動ベルトのプーリへの装着方法における装着ステップの一例を示す斜視図である。
【図4】図3の状態から一方のプーリを略110°回転させた状態を示す斜視図である。
【図5】図4の状態から一方のプーリをさらに略10°回転させた状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施例における、伝動ベルトの第1引張試験の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例における、伝動ベルトの第2引張試験の結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例における、伝動ベルトの第3引張試験の結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例における、伝動ベルトの装着性・スリップ試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
先ず、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る伝動ベルト1の構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の伝動ベルト1は、環状(図2参照)の基部2、基部2内において基部2の周長方向に沿って延在する複数の心線3、基部2の一面(即ち、基部2の周長方向及び幅方向に沿った表面及び裏面のうちの一方であり、図1では下方の面)から突出した4つのリブ4、並びに、基部2の他面(図1における上方の面)を覆う伸長部5を有する、所謂Vリブベルトである。心線3は、基部2の幅方向に関して互いに所定間隔をなして並列配置され、基部2の内部に埋没されている。リブ4は、それぞれ基部2の一面から当該面に直交する方向(図1では下方)に突出すると共に基部2の周長方向に沿って延在し、基部2の幅方向に関して互いに所定間隔をなして並列配置されている。伝動ベルト1は周長方向に伸縮可能である。
【0020】
リブ4は、ゴム組成物等の弾性材料からなる。ゴム組成物としては、例えば天然ゴム、ブチルゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー、エチレン‐α‐オレフィンゴム等、又はこれらの混合物を用いてよい。エチレン‐α‐オレフィンゴムとしては、エチレンとα‐オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等)との共重合体、エチレンとα‐オレフィンと非共役ジエンとの共重合体等が挙げられ、より具体的には、エチレン‐プロピレンゴム(EPR)、エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体(EPDM)等が挙げられる。上記非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン、ジシクロぺンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン等の、炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。EPDMは耐熱性及び耐寒性に優れ、リブ4の材料としてEPDMを用いることで、伝動ベルト1の耐熱性及び耐寒性を向上させることができる。さらにEPDMの中でも、ヨウ素価が3〜40のものが好ましい。これは、ヨウ素価が3未満の場合、ゴム組成物の加硫が不十分で、摩耗や粘着の問題が生じ易く、ヨウ素価が40を超えると、ゴム組成物のスコーチが短くなって取扱いが困難となり、耐熱性も悪化するためである。
【0021】
また、リブ4は、ポリアミド6、ポリアミド6.6、ポリエステル、綿、アラミド等からなる短繊維を混入することで、耐側圧性を向上させることができる。また、リブ4におけるプーリ8,9(図2参照)と接触する面に、上記短繊維を当該面から突出するように設けることで、リブ4の摩擦係数を低減し、伝動ベルト1の走行時における騒音を抑制することができる。アラミド繊維としては、分子構造中に芳香環を有するもの(例えば、商品名コーネックス、ノーメックス、ケブラー、テクノーラ、トワロン等)が好ましい。
【0022】
基部2は、リブ4と同様のゴム組成物から形成されてよい。ただし、心線3との接着性を向上させるため、基部2には上記のような短繊維を混入させなくてよい。
【0023】
心線3は、ポリアミド繊維(例えば、ポリアミド6.6、ポリアミド4.6等。より好ましくは、ポリアミド6.6)からなり、例えば、800〜1200dtexのフィラメント群を上撚り数8〜13回/10cm、下撚り数15〜30回/10cmで諸撚りした、総繊度4800〜7200dtexの撚糸コードである。
【0024】
伸長部5は、周長方向に伸縮可能な適宜の材料からなり、例えばリブ4と同様のゴム組成物のみから形成されてよい。或いは、織物、編物、不織布等により伸長部5を形成してもよい。
【0025】
次に、図2を参照し、本発明の一実施形態に係る動力伝達機構10の構成、及び、伝動ベルト1をプーリ8,9に装着する方法について説明する。
【0026】
動力伝達機構10は、例えば自動車用エンジンの補機駆動システムに適用されるものであって、図1の伝動ベルト1、及び、同径の2つのプーリ8,9を含む。プーリ8,9の軸は固定されており、即ちこれらの軸間距離は変更不能である。プーリ8,9の外周面上には、伝動ベルト1のリブ4と係合可能な円周方向に沿った溝が複数形成されている。伝動ベルト1は、リブ4を内側・伸長部5を外側にし、各プーリ8,9に巻回しつつこれらの間に架渡されるようにして、プーリ8,9に装着されている。
【0027】
一方のプーリ8は、エンジンの出力軸(レシプロエンジンのクランクシャフト、ロータリーエンジンのエキセントリックシャフト等)に連結された駆動プーリであり、他方のプーリ9は、各種補機(ウォーターポンプやオルタネータ等)に連結された従動軸に取り付けられた従動プーリである。出力軸のトルクによって駆動プーリ8が回転すると、当該駆動プーリ8の回転に伴って伝動ベルト1が走行する。そして伝動ベルト1の走行に伴って従動プーリ9が回転することにより、各種補機が駆動するように構成されている。
【0028】
一方のプーリ8は、2段構成となっており、軸方向に積層された2つのプーリ8a,8bを有する。各プーリ8a,8bは、他方のプーリ9と同じサイズ及び形状を有する。これらプーリ8a,8bは一体となっており、動力伝達機構1の駆動時に共に回転する。プーリ8a,8b,9の軸方向長さは伝動ベルト1の幅と略同じであり、伝動ベルト1は一方のプーリ8の下側プーリ8bと他方のプーリ9とに巻回されている。
【0029】
伝動ベルト1のプーリ8,9への装着は、例えば以下のような方法により行われる。
【0030】
先ず、プーリ8,9のレイアウト周長Lpを取得する(取得ステップ)。「プーリ8,9のレイアウト周長Lp」とは、伝動ベルト1の装着対象である互いに離隔配置されたプーリ8,9における、各プーリ8,9の外周を連結するように当該外周に沿って環状に形成された線(即ち、伝動ベルト1の経路)の長さをいう。本実施形態においては、プーリ8,9が同径であって伝動ベルト1がプーリ8,9間において平行に延在するため、各プーリ8,9の半円周とプーリ8,9の軸間距離の2倍との和により、概略的に算出される。レイアウト周長Lpは、演算により取得してもよいし、実測等により取得してもよい。
【0031】
次に、上記取得ステップにおいて取得されたレイアウト周長Lpに対して2.0〜3.5%短い基準周長Lbを有する伝動ベルト1を準備する(準備ステップ)。「伝動ベルトの基準周長Lb」とは、リブ4が形成された面を外側にした状態で伝動ベルト1を2つの平プーリ(外周面に溝が形成されていない回転体。例えば後述の実施例において用いた固定プーリ及び移動プーリ)に巻回しつつこれらの間に架渡されるように装着し、伝動ベルト1の周長方向の撓みが除去される程度の張力を伝動ベルト1に付加したときの、伝動ベルト1の周長方向の長さをいう。また、「基準周長Lbがレイアウト周長Lpに対して2.0〜3.5%短い」とは、基準周長Lbと当該基準周長Lbの2.0〜3.5%の長さとの和がレイアウト周長Lpに等しいことを意味する。
【0032】
次に、上記準備ステップにおいて準備された伝動ベルト1を周長方向に伸長させつつプーリ8,9に装着する(装着ステップ)。
【0033】
装着ステップは、例えば図3〜図5に示すように、治具50を用いて行ってよい。即ち、先ず図3に示すように、一方のプーリ8のボス8cにレンチ60の連結部60aを固定し、治具50におけるプーリ8の外周に沿った湾曲形状を有する湾曲部51を上側プーリ8aの外周に沿わせつつ、平面視においてプーリ8,9の軸8x,9xを結ぶ線と軸8xと治具50とを結ぶ線とが略直角になるように、治具50を配置する。そして伝動ベルト1を、治具50の当該湾曲部51と突出部52との間に挿入し且つガイド53に当接させつつ、他方のプーリ9とレンチ60の連結部60とに架渡す。ガイド53は、治具50の本体50aにおける角部(図3において突出部52が突出した面の下端の辺)に丸みを付すことで形成されたものである。伝動ベルト1は、ガイド53により屈曲され、ガイド53より下方の部分が下側プーリ8bの外周に沿うように配置される。
【0034】
その後、治具50を上側プーリ8aに対して固定しつつ、レンチ60を用いてプーリ8をA方向に略110°回転させる(図4参照)。このとき上側及び下側プーリ8a,8bは一体となって回転すると共に、上側プーリ8aに固定された治具50も軸8xに関してA方向に略110°回転する。また、この回転時において伝動ベルト1に周長方向の引張力が徐々に付加されるが、このとき伝動ベルト1に生ずる張力が治具50を上側プーリ8aに対して押圧するよう作用する。図4の状態において、伝動ベルト1はレンチ60の連結部60aから離隔し、また、伝動ベルト1における治具50の回転の軌跡に対応する部分は下側プーリ8bに巻回されている。
【0035】
その後図4に示す状態からさらにレンチ60を用いてプーリ8をA方向に略10°回転させると、図5に示すように、伝動ベルト1は、引張力により蓄えられた弾性エネルギーが最小となるよう、治具50の湾曲部51と突出部52との間から下方に移動し、治具50及び上側プーリ8aから離隔して、下側プーリ8bに巻回される。この後、治具50を回収する。
【0036】
上記のような装着ステップにおいて、伝動ベルト1をプーリ8,9に装着したときの周長方向の張力(伝動ベルト1の装着時張力)を30〜150N/リブとする。本実施形態の装着方法により装着された伝動ベルト1は、その周長が基準周長から2.0〜3.5%伸長し、且つ、周長方向に30〜150N/リブの張力を有しつつ、プーリ8,9に装着されている。
【0037】
以上に述べたように、本実施形態の伝動ベルト1、動力伝達機構10、及び、伝動ベルト1のプーリ8,9への装着方法によると、伝動ベルト1の装着時張力を30〜150N/リブとすることで、プーリ8,9への装着後にも伝動ベルト1の十分な張力を維持可能である。
【0038】
具体的には、伝動ベルト1の装着時張力が30N/リブ未満の場合、後述の実施例において示されるように、伝動ベルト1が周長方向に伸長し易く、プーリ8,9への装着後に伝動ベルト1の十分な張力を維持することが困難となる。さらに、プーリ8,9の回転数が一定(後述の実施例では5000rpm)以上の場合、遠心力の影響により、伝動ベルト1とプーリ8,9との接触面積が小さくなることから、伝動ベルト1とプーリ8,9との間のスリップ及びこれによる発音が生じ得る。一方、伝動ベルト1の装着時張力が150N/リブを超えると、伝動ベルト1の装着作業が困難となり(例えば伝動ベルト1の装着時張力が160/リブのとき、45〜60Nmのピークトルクが発生し)、手作業によっては装着不能となる場合がある他、装着対象であるプーリ8,9やプーリ8,9に取り付けられた軸にも大きな負荷がかかるため、これらプーリ8,9や軸の耐久性にも問題が生じ得る。そこで、伝動ベルト1の装着時張力を30〜150N/リブとすることで、上記のような不都合を回避し、プーリ8,9への装着後にも伝動ベルト1の十分な張力を維持することができる。
【0039】
また、伝動ベルト1の基準周長Lbをプーリ8,9のレイアウト周長Lpに対して2.0〜3.5%短くしたことで、プーリ8,9への装着方法として、上記のように伝動ベルト1を伸長させつつプーリ8,9に装着する方法、即ち張力調整機構が不要で且つ装着作業が容易な方法を採用することができる。
【0040】
伝動ベルト1は、後述の実施例において示されるように、周長方向の張力が300〜400N/リブとなるまで引張力を付加した後、当該引張力を除去したときに生じる永久歪が1.0〜1.5%であることが好ましい。永久歪が1.0%未満の場合、後述の実施例において示されるように、伝動ベルト1の周長方向の最大張力が小さくなると共に周長方向の伸びも小さくて装着時の伸びに達しないため、伝動ベルト1をプーリ8,9に装着する作業が困難となる(装着の際、伝動ベルト1を基準周長から4.5%以上(好ましくは4.5〜6.0%)伸長させる必要がある)。一方、永久歪が1.5%を超えると、後述の実施例において示されるように、伝動ベルト1の装着時張力が30N/リブ未満になる可能性がある。この場合、プーリ8,9への装着後に伝動ベルト1の十分な張力を維持することが困難となる他、伝動ベルト1の走行時におけるスリップや発音が生じ得る。さらに、永久歪が1.5%を超える場合、後述の実施例において示されるように、伝動ベルト1の周長方向の最大張力が大きくなるため、プーリ8,9への装着の際に大きな力が必要となり、例えば治具50等に大きな応力がかかって治具50がプーリ8,9から外れる等、装着作業も困難となる。そこで、永久歪を1.0〜1.5%とすることで、上記のような問題を回避することができる。
【0041】
伝動ベルト1は、心線3がポリアミド繊維からなるため、低モジュラスベルトとして、急激な張力低下の抑制効果を得ることができると共に、プーリ8,9への装着方法として上記のような張力調整機構が不要で且つ装着作業が容易な方法を採用し易いという効果を得ることができる。
【0042】
さらにポリアミド繊維の中でも、ポリアミド6.6を心線3に用いた場合、伝動ベルト1を比較的安価なものとすることができる。
【0043】
伝動ベルト1は、自動車用エンジンの駆動システムに適用されるものである。この場合、上記のとおり張力調整機構が不要なため、エンジンの軽量化を図ることができ、燃費向上効果が期待される。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0045】
先ず、図1に示すような伝動ベルト1(基部2の内部に基部2の周長方向に沿って且つ基部2の幅方向に所定間隔をなして心線3が延在し、基部2の一面から4つのリブ4が突出し、基部2の他面に伸長部5が形成された伝動ベルト1)を、以下のようにして製造した。
【0046】
即ち、短繊維を混入させたEPDMゴム組成物(EPDM100重量部、ナイロン6.6短繊維10重量部、ZnO3.5重量部、ステアリン酸1.0重量部、カーボンブラック65重量部、老化防止剤2.0重量部、パラフィンオイル5.0重量部、共架橋剤2.0重量部、有機過酸化物2.0重量部、硫黄0.15重量部)からなる第1シート(伸長部5となるシート)と、短繊維を含まない上記と同様のEPDMゴム組成物からなる第2シート(基部2となるシート)とを積層し、この積層体を第1シートを内側にして円筒状モールドに巻回した。そして、外側の第2シート上に、後述のようにして作製した心線3を1.10mmのピッチでスピニングし、この上に、第1シートと同様の短繊維を混入させたEPDMゴム組成物からなる第3シート(リブ4となるシート)を巻回して、成形を行った。そしてこの成形体を適宜の方法により温度160℃・時間30分等の条件で加硫し、環状の加硫ゴムスリーブを得た。その後、当該加硫ゴムスリーブを研磨機の駆動ロール及び従動ロールに装着して張力を付加しつつ走行させながら、150メッシュのダイヤモンドが表面に設けられた研磨ホイールを当該スリーブの表面(即ち、第3シートの表面)に当接させつつスリーブの走行方向とは逆方向に1600rpmで回転させることで、第3シート表面を部分的に研磨し、リブ4を形成した。そしてリブ4が形成されたスリーブを、研磨機から取り出し、切断機に設置して、回転させながら幅方向に所定長さに切断し、リブピッチ3.56mm、リブ高さ2.9mm、リブ角度40°、基準周長816mmの伝動ベルト1を得た。
【0047】
なお、心線3の作製方法は、以下のとおりである。即ち、撚糸コード(ポリアミド6.6、構成940dtex/2×3、諸撚り、総繊度5640dtex)を、トルエン90重量%にPAPI(化成アップジョン社製ポリイソシアネート化合物)10重量%からなる接着剤でプレディップし、乾燥炉において200℃の温度下で2分間乾燥させた。そして、乾燥処理後のコードを、RFL液からなる接着剤に含浸させ、さらに230℃で2分間熱処理を行った後、ヒートセット延伸率3.8%にて熱延伸固定した。そして、ゴム糊(EPDM配合のゴム組成物を固形分濃度10%となるよう希釈したもの)にコードを浸漬させ、その後160℃で4分間熱処理することにより、心線3を得た。
【0048】
上記のようにして製造した伝動ベルト1を用い、引張試験、及び、装着性・スリップ試験を行った。
【0049】
引張試験においては、リブ4が形成された面を外側にした状態で伝動ベルト1を固定プーリ及び移動プーリの2つの平プーリ(図示せず)に装着し、移動プーリの移動を制御することにより、伝動ベルト1を周長方向に速度50mm/分で引っ張って伝動ベルト1に対して周長方向の引張力を徐々に付加し、伝動ベルト1の周長方向の張力が所定値に達した時点で伝動ベルト1に付加していた引張力を除去した。
【0050】
図6は、上記所定値を300N/リブとして上述の引張力の付加及び除去の一連の操作を3回繰り返し行うこと(第1引張試験)によって得られたヒステリシス曲線を示す。図7は、上記所定値を200、300、及び375N/リブとして上述の引張力の付加及び除去の一連の操作を1回行うこと(第2引張試験)によって得られたヒステリシス曲線を示す。図8は、上記所定値を500N/リブとして上述の引張力の付加及び除去の一連の操作を3回繰り返し行うこと(第3引張試験)によって得られたヒステリシス曲線を示す。図6〜図8において、縦軸は伝動ベルト1の周長方向の張力、横軸は伝動ベルト1の周長変化率である。周長変化率とは、リブ4が形成された面を外側にした状態で伝動ベルト1を上記2つの平プーリに装着して周長方向の撓みが除去される程度の張力を伝動ベルト1に付加したときの伝動ベルトの周長方向の長さを「基準周長」とし(このときの変化率を0%として)、その後張力の付加に応じて伝動ベルト1が周長方向に伸長したときの基準周長に対する伸長した長さの割合をいう。
【0051】
図6及び図8において、(1)(2)(3)で示す曲線はそれぞれ上記操作の1、2、3回目に係るヒステリシス曲線であり、2回目及び3回目に係るヒステリシス曲線は共に略一致している。図7において、(i)(ii)(iii)で示す曲線はそれぞれ上記所定値200、300、及び375N/リブに対応するヒステリシス曲線である。
【0052】
第1引張試験(図6参照)において、1回目の操作により生じた永久歪は1.0%強であり、その後の2,3回目の操作により生じた永久歪は共に1.0〜1.5%の範囲内であった。第2引張試験(図7参照)において、上記所定値200N/リブの場合(i)は永久歪が略0.6%、上記所定値300N/リブの場合(ii)は永久歪が略1.2%、上記所定値375N/リブの場合(iii)は永久歪が略1.3%であった。第3引張試験(図8参照)において、1回目の操作により生じた永久歪は略1.7%であり、その後の2,3回目の操作により生じた永久歪は共に2.0%前後であった。
【0053】
装着性・スリップ試験においては、先ず、プーリ8,9に伝動ベルト1を装着する際の装着性(装着作業を容易に行えるか否か)に関して、装着時張力が互いに異なる6種類の伝動ベルト1を用いて確認した。装着においては、上述の実施形態と同様に治具50(図3〜図5参照)を用いて、クランクシャフトに連結された駆動プーリ8(直径133mm)とコンプレッサーに連結された従動プーリ9(直径100mm)とに伝動ベルト1を装着した。プーリ8,9のレイアウト周長Lpは837mmであり、伝動ベルト1の基準周長Lb(816mm)が当該レイアウト周長Lpに対して略2.5%短いものとした。その後、プーリ8,9に伝動ベルト1を装着した状態でプーリ8を回転数750〜5000rpmにて駆動し、伝動ベルト1を走行させ、伝動ベルト1とプーリ8,9との間のスリップ及びこれによる発音の有無を試験者の聴覚により確認した。
【0054】
図9(装着性・スリップ試験の結果を示す表)から解されるように、装着時張力が15、30、60、100、130N/リブの伝動ベルト1においては、装着作業が容易であり、160N/リブの伝動ベルト1においては、装着作業が困難であった(具体的には、45〜60Nmのピークトルクが発生し、伝動ベルトの装着作業が困難となる他、装着対象であるプーリやプーリに取り付けられた軸にも大きな負荷がかかるため、これらプーリや軸の耐久性も懸念された)。スリップ及び発音の有無に関しては、装着時張力が15N/リブの伝動ベルト1において、プーリ8の回転数が5000rpmのときにスリップ及びこれによる発音が生じたが、その他の伝動ベルト1(装着時張力が30、60、100、130、160N/リブ)についてはプーリ8の回転数が5000rpmを超えてもスリップ等は生じなかった。
【0055】
以上、本発明の好適な実施の形態及び実施例について説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0056】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、心線3がポリアミド6.6等のポリアミド繊維からなることには限定されない。また、伸長部5を省略したり、心線3の数やリブ4の数を任意に変更したりしてよい。
【0057】
本発明に係る動力伝達機構において、回転体の数は2に限定されず、3以上であってよく、各回転体の直径やこれらのレイアウトも様々であってよい。
【0058】
本発明に係る動力伝達機構は、上述の実施形態のように自動車用エンジンの補機駆動システムに適用されることに限定されず、その他適宜の動力伝達システムに適用可能であり、例えば窓、ドア、蓋等の開閉部材の開閉角度に応じてトルクを変化させるシステムにも適用可能である。
【0059】
本発明に係る伝動ベルトの装着方法は、上記のような様々な駆動伝達システムに適用可能である。
【0060】
伝動ベルトの回転体への装着は、上述の実施形態の治具50以外の様々な治具を用いて行ってよく、また、治具を用いず手動で行ってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 伝動ベルト
2 基部
3 心線
4 リブ
8,9 プーリ(回転体)
10 動力伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の基部と、
前記基部内において前記基部の周長方向に沿って延在する心線と、
それぞれ前記基部から前記基部の前記周長方向及び幅方向と交差する方向に突出すると共に前記周長方向に沿って延在し、前記基部の前記幅方向に関して互いに間隔をなして並列配置された複数のリブと
を備えた、前記周長方向に伸縮可能な伝動ベルトにおいて、
当該伝動ベルトの装着対象である互いに離隔配置された2以上の回転体のレイアウト周長に対して2.0〜3.5%短い基準周長を有し、
前記回転体に装着したときの前記周長方向の張力が30〜150N/リブであることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
前記張力が300〜400N/リブとなるまで前記伝動ベルトに引張力を付加した後、当該引張力を除去したときに生じる永久歪が1.0〜1.5%であることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記心線がポリアミド繊維からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
前記ポリアミド繊維がポリアミド6.6であることを特徴とする請求項3に記載の伝動ベルト。
【請求項5】
自動車用エンジンの駆動システムに適用されることを特徴とする請求項1〜4に記載の伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の伝動ベルトと、
前記伝動ベルトが装着された前記2以上の回転体と
を備えたことを特徴とする動力伝達機構。
【請求項7】
環状の基部と、前記基部内において前記基部の周長方向に沿って延在する心線と、それぞれ前記基部から前記基部の前記周長方向及び幅方向と交差する方向に突出すると共に前記周長方向に沿って延在し、前記基部の前記幅方向に関して互いに間隔をなして並列配置された複数のリブとを備えた、前記周長方向に伸縮可能な伝動ベルトを、互いに離隔配置された2以上の回転体に装着する方法において、
前記回転体のレイアウト周長を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記レイアウト周長に対して2.0〜3.5%短い基準周長を有する前記伝動ベルトを準備する準備ステップと、
前記準備ステップにおいて準備された前記伝動ベルトを前記周長方向に伸長させつつ前記回転体に装着する装着ステップとを備え、
前記装着ステップにおいて、前記伝動ベルトを前記回転体に装着したときの前記周長方向の張力を30〜150N/リブとすることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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