説明

伝動ベルト及びその製造方法

【課題】継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コードを備え、破断が生じにくく、かつ、製造が容易な伝動ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】伝動ベルトB1は、抗張力体となる環状金属コードC1と、環状金属コードC1を覆う被覆部70とを備え、環状金属コードC1は、複数のストランド材1,2同士を撚り合わせた金属コード20が解撚されて合計断面積の異なる2つの線材群に分けられ、合計断面積の大きい方のストランド材1の群を再使用線材群3とし、合計断面積の小さい方のストランド材2の群を不使用線材群4として、再使用線材群3の内の1本のストランド材が、複数周回環状にされつつその環状部分1dにおける再使用線材3の内の他のストランド材1及び不使用線材群4の抜けた螺旋状の空隙部5に余長部1eが嵌め入れられて巻き付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、伝動ベルトの一種として、例えば特許文献1に記載されているように、芯材に金属コードを用いたものが知られている。芯材となる金属コードは、中心コアとなる少なくとも1本のフィラメントと、中心コアを取り巻く複数本のフィラメントとを備えている。
また、特許文献2に記載されているように、芯材に撚糸コードを用いた伝動ベルトも知られている。この伝動ベルトでは、一対の撚糸コードの端部を一旦解撚して結合し、結合後に再び撚り合わせたものを芯材としている。
【0003】
また、環状金属コードを製造する方法として、例えば特許文献3,4に記載されているように、ワイヤーロープを構成する線材の半分を解撚または切除して取り除いた後に、残った線材を一部環状にしつつその周囲に巻き付けてエンドレス加工することが知られている。
【0004】
特許文献3に記載されたワイヤーロープの簡易エンドレス加工法は、まず、設計寸法リングの内周長の2倍強の長さをもった6本の素線が撚り合されて構成されたワイヤーロープを用意する。これを3本の素線の撚り合せ線2本に解き別けて内周長と当該内周長より少し長いより代とを有する基糸を形成する。次に、当該3本素線撚り合せ線からなる基糸の一方を用いて、まず設計寸法の基本となるリング部とその組み合わせ部から延出するストランド部を形成する。そのうえ、当該延出するストランド部をリング部に撚り合せながら巻き付けて2本の基糸(6本の素線)が撚り合された状態のエンドレス加工を行う。その後、基糸の撚り合せ端部をロック止めもしくは半かご差しまたは半かご差しとロック止めの組み合わせ処理のいずれかの端部処理をする。
【0005】
特許文献4に記載されたエンドレススリングは、次のようにして製造されている。まず、所定長さのワイヤーロープの全長にわたって、全本数の1/2のストランドを切除し、ワイヤーロープの全長の1/2の心綱を切除する。残った心綱の両端部を同心に突き合わせたうえ、心綱を切除した側のストランドを、心綱を切除しない側のストランドの切除部に巻き付けて同心状のエンドレスとする。その後、心綱及びストランドの両端部にまたがってスリーブを圧縮加工する。
【0006】
特許文献5に記載されたエンドレスリングは、ワイヤーロープの一部を輪状に交差させて輪状部を形成し、ワイヤーロープを前記輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させた後、ワイヤーロープの残り部分を撚り合わせた部分の内部にロープ心として入れ込んで形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−307146号公報
【特許文献2】特開2000−213601号公報
【特許文献3】特許第3069796号公報
【特許文献4】特開平5−132881号公報
【特許文献5】特開2007−63677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の伝動ベルトでは、金属コードの両端部を結合して環状にする作業が必要である。金属コードの両端部を結合する際には、特許文献2に記載の撚糸コードの結合方法を金属コードに適用することができる。しかしながら、特許文献2に記載の結合方法を適用した場合には、フィラメントの解撚作業、結合作業、及び撚合作業が発生する。そのため、結合にかかる工程が煩雑となり、伝動ベルトの製造が困難となる。また、フィラメントの端部を再び撚り合わせる際に、結合部分と他の部分とで撚りの状態が異なってしまい、結合部分の機械的強度が低下するおそれがある。結合部分の機械的強度が低下すると、金属コードの破断が生じ、その結果、伝動ベルトも破断しやすくなる。
【0009】
金属コードの両端部を結合する方法としては、金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法も考えられる。しかしながら、この方法では、周方向の一箇所に結合部分が集中することとなるため、金属コードの完全破断が生じやすくなる。
【0010】
特許文献3,4に記載の環状金属コードは、何れも玉掛け用吊り具であり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。これらの環状金属コードは、ワイヤーロープを横断面でみて円周上の線材の本数を一旦半分にして、残った線材の余長を空いている残り半分のスペースに再巻き付けしているものであるため、隣り合う線材同士の接触抵抗が弱い。そのため、前記のような繰り返し負荷が加わると撚り緩みが生じやすく、そのまま使用を続けていると最後には破断してしまう。
【0011】
さらに、環状に巻き付けた後の端末処理は、特許文献3では端末を撚り合わせた箇所に差し込むかご差しやロック止めであるため、前記のような繰り返し負荷が加わるとこれらの箇所に応力集中が起こり、早期に破断してしまう。また、特許文献2ではスリーブにより両端末を固定するため、その部分だけコード径が太くなり、荷重が環状方向で不均一になる。このように、特許文献1,2に記載の環状金属コードは、継続的な繰り返し負荷に対して耐え得る構造ではない。
【0012】
特許文献5に記載の環状金属コードであるエンドレスリングは、ワイヤーロープを輪状部の回りに撚り合わせながら所定の回数周回させることにより、ワイヤーロープ全体を使用して巻き付けることになるが、この場合巻き付けピッチが一巻き毎にばらついてしまい、コード径が太くなり、環状方向で均一な強度が得られない。また、このエンドレスリングも、荷吊り作業に用いられるものであり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。
【0013】
これらのような環状金属コードを伝動ベルトに用いると、撚り緩みや端末の結合部などの影響で回転負荷が変動し、比較的短期間で破損してしまうおそれがある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる環状金属コードを備え、破断が生じにくく、かつ、製造が容易な伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトは、抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、
前記環状金属コードは、
複数の線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて合計断面積の異なる2つの線材群に分けられ、
合計断面積の大きい方の線材群を再使用線材群とし、合計断面積の小さい方の線材群を不使用線材群として、
前記再使用線材群の内の1本の再使用線材が、複数周回環状にされつつ前記再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされていることを特徴とする。
【0016】
このように、抗張力体となる環状金属コードにおいて、再使用線材における再使用線材群の内の他の線材及び不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部は、不使用線材群が存在していた部分の断面積が再使用線材群の合計断面積より小さい。再使用線材が複数周回にて環状に巻き付けられることにより、再使用線材の余長部が螺旋状の空隙部に複数回嵌め入れられると、再使用線材の隣り合う部分同士が押圧された状態となる。線材同士の接触抵抗が大きく、線材の全長に亘って線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトは、継続的な繰り返し負荷に対しても環状金属コードの撚り緩みが生じず形状を維持することができるため、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ製造が容易となる。
【0017】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記再使用線材群における前記再使用線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることが好ましい。
線材が単線ではなく金属素線を撚り合わせた構造であると、線材表面の凹凸により線材同士の接触抵抗も大きくなるので、撚り緩みがさらに生じにくくなる。また、環状金属コードの柔軟性が向上し、外力に対して均一負荷となりやすいので破断強度の低下を抑制でき、延いては伝動ベルトについても、破断強度の低下を抑制できる。
【0018】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることが好ましい。
線材内の金属素線同士の撚り方向と線材の巻き付け方向を逆にすることで、環状金属コードの機械的特性に方向性が生じることを抑制し、伝動ベルトの回転駆動時に蛇行しにくくなる。
【0019】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記1本の再使用線材が前記空隙部に嵌め入れられて巻き付けられて環状とされた後の環状金属コードにおける前記再使用線材の直径型付率が86%以上105%以下であることが好ましい。
再使用線材の直径型付率が86%未満であると原コードを解撚して再使用線材を取り出したとき、螺旋波の高さが縮んで空隙部が小さくなり、所定周回の巻き付けが困難となる。
また、再使用線材の直径型付率が100%を超えると螺旋波の高さが高くなり空隙部が大きくなり、嵌め入れなくても簡単に巻き付けることができて線材間の接触抵抗が減る。但し、ゴム等と複合化して使用する伝動ベルトにおいては、大きくなった空隙部にゴム等が浸透するため、直径型付率が100%を超えても耐久性が低下しにくく105%までは許容される。
なお、直径型付率は、環状金属コードの直径(再使用線材が複数周回空隙部に嵌め入れられた断面直径(線径))をDとし、型付けされた再使用線材の波高さ(自己径含む)をHとすると、「直径型付率(%)=H/D×100」で表される。
【0020】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記再使用線材の始端及び終端が、巻き付けられた余長部同士の間から差し込まれて内部に格納されていることが好ましい。
始端及び終端が余長部同士の間から差し込まれているので、線材の端部を容易に固定することができ、しかも、線材の余長部同士の接触機会が増え、撚り緩みに対して有利である。
【0021】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記環状金属コードは焼鈍処理が施されていることが好ましい。
環状金属コードに焼鈍処理が施されているので、撚り合わせ時の加工歪が除去されており、伝動ベルトの耐久性が高められている。
【0022】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、前記再使用線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることが好ましい。
これにより、線材に適度な剛性をもたせることができ、線材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。その結果、伝動ベルトをより耐久性に優れたものにできる。
【0023】
本発明に係る伝動ベルトにおいて、互いに巻き付けられた前記再使用線材の環状部分における中心軸に対する前記再使用線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることが好ましい。
これにより、線材の巻き付け作業が容易となるため、環状金属コードをより容易に製造できる。また、適度な伸度を有し、かつ線材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができ、伝動ベルトを破断強度及び耐疲労性に優れたものとできる。
【0024】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備えた伝動ベルトの製造方法であって、
複数の線材同士を撚り合わせた原コードを解撚して合計断面積の異なる2つの線材群に分け、
合計断面積の大きい方の線材群を再使用線材群とし、合計断面積の小さい方の線材群を不使用線材群として、
前記再使用線材群の内の1本の再使用線材を、複数周回環状にしつつ再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて、前記環状金属コードを形成することを特徴とする。
【0025】
このように、抗張力体となる環状金属コードは、原コードを解撚して合計断面積の大きい方の線材群の内の1本の線材を再使用線材として複数周回環状にし、再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けることで、容易に環状金属コードを製造することができる。再使用線材における螺旋状の空隙部は、不使用線材群が存在していた部分の断面積が再使用線材群の合計断面積より小さく、再使用線材が複数周回にて環状に巻き付けられることにより、再使用線材の余長部が螺旋状の空隙部に複数回嵌め入れられると、再使用線材の隣り合う部分同士が押圧された状態となる。これにより、線材同士の接触抵抗が大きくなり、線材の全長に亘って線材同士が強く拘束されるため、繰り返し負荷が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、線材同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、端末処理を簡素なものにすることができる。
このように、本発明によれば、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず形状を維持することができ、破断強度及び耐疲労性に優れる環状金属コードを容易に製造することができる。
したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトもまた、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ製造が容易となる。
【0026】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法において、前記不使用線材群における前記線材は単線であってもよい。
不使用線材群は環状金属コードに組み込まれないため、撚り合わせを必要としない単線を使用することで、製造コストを抑えることができる。
【0027】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法において、前記再使用線材群における残りの再使用線材の1本を、複数周回環状にしつつ再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることが好ましい。
再使用線材群の内の残りの線材によって環状金属コードを製造することができ、経済的である。
【0028】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法において、前記再使用線材の始端及び終端を直線化し、巻き付けた余長部同士の間から差し込んで内部に格納することが好ましい。
始端及び終端を余長部同士の間から差し込むことにより、線材の端部を容易に固定することができ、しかも、線材の余長部同士の接触機会を増やし、撚り緩みに対して有利にすることができる。
【0029】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法において、前記環状金属コードに焼鈍処理を施すことが好ましい。
焼鈍処理を施すことにより、撚り合わせ時の加工歪を除去することができ、耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、継続的な繰り返し負荷に対しても撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することができる伝動ベルト及びその製造方法を提供することができる。したがって、本発明の伝動ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係る伝動ベルトの断面斜視図である。
【図2】本実施形態に係る環状金属コードの斜視図である。
【図3】環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図4】(a)は環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)は環状金属コードの側面図である。
【図5】環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図6】環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【図7】環状金属コードの製造に用いられる金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図8】図7の金属コードから不使用線材群を取り除いた再使用線材群を示す斜視図である。
【図9】図8の再使用線材群から環状金属コードを形成していく一過程を示す概略図である。
【図10】伝動ベルトの変形例を示す断面斜視図である。
【図11】環状金属コードの耐久試験装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る伝動ベルトの断面斜視図である。本実施形態に係る伝動ベルトB1は、一般産業用のVベルトである。伝動ベルトB1は、抗張力体である環状金属コードC1と、被覆部70とを備えている。被覆部70は環状金属コードC1を覆っており、この被覆部70の上面及び下面には、布層72が設けられている。被覆部70は、例えばゴムといった材料を含んでいる。
【0034】
伝動ベルトB1は、5本の環状金属コードC1を有している。図2は、本実施形態に用いられる環状金属コードの斜視図であり、図3は環状金属コードを示す径方向の断面斜視図であり、図4(a)は、環状金属コードC1を示す径方向の断面図であり、同図(b)は、環状金属コードC1の側面図である。
図2から図4に示すように、環状金属コードC1は、線材として予め複数の金属素線が撚り合わされたストランド材(再使用線材)1を1本用いている。
【0035】
本実施形態の環状金属コードC1は、予め螺旋状にくせ付けされた1本のストランド材1を用意し、その略1/6分の長さを環状にした状態で、残りの余長部をその環状部分に複数周回(5周)巻き付けて形成されている。巻き付けの撚り方向は、例えばZ撚である。この環状金属コードC1をストランド材1の径方向の断面で見ると、6本のストランド材1が円周状に均等配置された構造を有している。
【0036】
各ストランド材1は、5本の金属素線10がS撚方向で撚り合わされた(下撚りされた)ものである。金属素線10は、例えば、炭素(C)を0.70質量%以上含む高炭素鋼ワイヤからなるものである。0.70質量%以上のCを含む材料を選定することで、金属素線10をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。また、金属素線10の表面には、銅合金(例えば、真鍮)または亜鉛のめっき処理が施されていてもよい。なお、金属素線10の材質は、前記のものに限られず、例えば、ピアノ線でもよい。
【0037】
また、金属素線10の直径は0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である。このように、金属素線10の直径が0.06mm以上であるので、ストランド材1の剛性を最低限維持することができ、環状金属コードC1を変形に耐え得るものとすることができる。また、金属素線10の直径が0.30mm以下であるので、ストランド材1の剛性が過度に大きくならずにすむ。したがって、環状金属コードC1は、繰り返し曲げ応力による疲労破断を生じにくくすることができる。
【0038】
つまり、このような径の金属素線10でストランド材1を形成すると、適度な剛性を有するストランド材1を得ることができる。よって、ストランド材1の巻き付けが容易となり、かつ巻き付け後の巻き緩みが生じにくくなる。
【0039】
ストランド材1同士は、Z撚、つまりストランド材1を構成する金属素線10の撚り方向とは逆方向に巻き付けられる。一方、ストランド材1自身は金属素線10がS撚された構成であるため、環状金属コードC1はS撚構造とZ巻構造を組み合わせたものとなる。金属素線10の撚り方向と、ストランド材1の巻き付け方向とが逆であると、環状金属コードC1の機械的特性に方向性が生じることが抑制されて捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。また、環状金属コードC1を内部に組み込んだ伝動ベルトB1の回転駆動時に蛇行しにくくなる。
【0040】
また、ストランド材1は、6本の撚り合わせ中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、ストランド材1が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図4(b)に示すように、X方向、すなわち環状金属コードC1の中心軸が延びる方向に対するストランド材1の巻き付け角度θは、4.5度以上13.8度以下となっている。巻き付け角度θを4.5度以上とすることで、ストランド材1の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度以下とすることで、ストランド材1の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、ストランド材1の巻き付け角度θを4.5度以上13.8度以下とすることで、適度な伸度を有し、かつしなやかな環状金属コードC1を得ることができる。
【0041】
図5に示すように、ストランド材1の巻き付けの始端部1aと巻き付けの終端部1bとは、巻き付けられた余長部1e同士の間から差し込まれて中心に形成された内部の空間内に格納されている。
【0042】
なお、図6に示すように、ストランド材1の巻き付けの始端部1aと巻き付けの終端部1bとは、互いに突き合わせ、さらに、その突き合わせ部分1cと、突き合わせ部分1cを含む近傍部分を、接着剤によって固定しても良い。接着剤は、硬化後も環状金属コードC1の弾性変形に対応して伸縮可能な材質を使用する。
この場合、この始端部1aと終端部1bとの突き合わせ部分1cは、環状金属コードC1の円弧に対して、その円弧の内周側及び外周側を除く、両側部側の一方に配置するのが好ましい。これにより、環状金属コードC1がその径方向に変形しても、この突き合わせ部分1cに作用する負荷の低減を図ることができ、結合部分における破断を抑制できる。
【0043】
また、突き合わせ部分1cの接着を行う前に、環状金属コードC1全体に低温焼鈍処理が施されているとよい。低温焼鈍処理により、撚り合わせ時(下撚、上撚)に発生する歪が除去される。これにより、環状金属コードC1の一層の耐疲労性の向上が期待できる。始端部1a及び終端部1bが余長部1e同士の間に差し込んで固定されている場合も同様に、低温焼鈍処理が施されているとよい。
【0044】
また、環状金属コードC1の環状方向全域に亘って、ストランド材1同士が接触する境目には接着系樹脂が塗布されているとよい。これにより、ストランド材1同士をその接触抵抗だけでなく樹脂の接着力によっても移動しないように保持できるため、さらに撚り緩みが生じにくくなり、形状が安定する。接着系樹脂は、硬化後も環状金属コードC1の弾性変形に対応して伸縮可能な材質を使用する。
【0045】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。
図7は、環状金属コードC1を製造するために用意された金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
図7に示すように、金属コード20は、上記の金属素線10を5本撚り合わせて(下撚りして)なるストランド材1を3本と、金属素線11を5本撚り合わせて(下撚りして)なるストランド材2を3本と、を撚り合せた(上撚りした)撚線構造を有している。3本のストランド材1は、環状金属コードC1を構成するために用いられる再使用線材群3であり、3本のストランド材2は、環状金属コードC1を構成しない不使用線材群4である。なお、これら6本のストランド材1,2を撚り合わせる前に、それぞれ螺旋状の型付けを施しておくとよい。
【0046】
再使用線材群3と、不使用線材群4は、それぞれの合計断面積を比較すると再使用線材群3の方が大きくなるように構成されている。すなわち、再使用線材群3を構成する3本のストランド材1の合計断面積をAS1とし、不使用線材群4を構成する3本のストランド材2の合計断面積をAS2とすると、式「AS1>AS2」の関係を満たしている。
ここで、再使用線材群3の合計断面積をAS1は、ストランド材1の本数をnとし、断面積をaS1とすると、AS1=n・aS1で表わされる。
【0047】
このような関係を満たすには、再使用線材群3及び不使用線材群4の本数が同数であるならば、例えば、線径dである金属素線10,11を用いてストランド材1,2を形成する際に、金属素線11の線径dが公称径より細いものを使用すればよい。もしくは、金属素線10の線径dが公称径より太いものを使用してもよい。また、上記式を満たす為には、金属素線10,11の線径設計値を予め異ならせてもよいし、ストランド材に用いる金属素線10,11の本数を異ならせてもよい。また、再使用線材群3と、不使用線材群4に用いるストランド材の本数を異ならせてもよい。
【0048】
このような金属コード20を解撚して、ストランド材1の群である再使用線材群3とストランド材2の群である不使用線材群4に分け、さらに、再使用線材群3の内の1本のストランド材(再使用線材)1を用いる。これ以降、不使用線材群4は用いず、再使用線材群3の内の1本のストランド材1を用いて環状金属コードC1を製造する。不使用線材群4を取り外した再使用線材群3の内の1本のストランド材1とした状態を図8に示す。
【0049】
図8に示すように、不使用線材群4を取り除いた再使用線材群3の内の1本のストランド材1は、再使用線材群3の内の他のストランド材1及び不使用線材群4が存在していた箇所に螺旋状の空隙部5が形成されている。この空隙部5における不使用線材群4が存在していた部分は、再使用線材群3の断面積より小さい面積である不使用線材群4と同等の断面積を有している。つまり、この空隙部5は、5本のストランド材1の断面積の合計よりも小さい断面積を有している。
【0050】
次いで、図9に示すように、ストランド材1の長さの略1/6分の長さを環状にして、その環状部分1dにおける螺旋状の空隙部5にストランド材1の余長部1eを嵌め入れて、複数周回(5周)環状に沿って巻き付けていく。ストランド材1における螺旋状の空隙部5は、その断面積が5本のストランド材1の断面積の合計よりも小さく、5周環状に沿って巻き付けられるストランド材1の余長部1eがそれ自身より狭い螺旋状の空隙部5に嵌め入れられるため、巻き付けられたストランド材1の隣り合う余長部1e同士が径方向に押圧された状態となる。これにより、ストランド材1同士の接触抵抗が大きくなり、ストランド材1の全長に亘ってストランド材1同士が強く拘束されるため、繰り返し荷重が加わっても撚り緩みが生じにくい。また、ストランド材1同士の接触抵抗によって巻き付け状態が維持されるため、ストランド材1の始端部1aと終端部1bの端末処理を簡素なものにすることができる。このように本実施形態によれば、継続的な繰り返し負荷に対してもストランド材1の撚り緩みが生じず、ストランド材1を巻き付けた形状を維持することができる環状金属コードC1を容易に製造することができる。
【0051】
また、再使用線材群3を構成するストランド材1が単線ではなく、複数の金属素線10同士を撚り合わせた線材であるため、ストランド材1表面の凹凸によりストランド材1同士の接触抵抗も大きくなるので、撚り緩みがさらに生じにくくなる。また、環状金属コードC1の柔軟性が向上し、外力に対して均一負荷となりやすいので破断強度の低下を抑制できる。
【0052】
環状金属コードC1とされたストランド材1は、直径型付率が86%以上105%以下であるとよい。ストランド材1の直径型付率が86%未満であると金属コード20を解撚してストランド材1を取り出したとき、螺旋波の高さが縮んで空隙部5が小さくなり、所定周回の巻き付けが困難となる。
また、ストランド材1の直径型付率が100%を超えると螺旋波の高さが高くなり空隙部5が大きくなり、嵌め入れなくても簡単に巻き付けることができてストランド材1間の接触抵抗が減る。但し、ゴム等と複合化して使用する伝動ベルトB1においては、大きくなった空隙部5に被覆部70(図1参照)のゴム等が浸透するため、直径型付率が100%を超えても耐久性が低下しにくく105%までは許容される。
なお、直径型付率は、環状金属コードC1の断面直径(1本のストランド材1が複数周回空隙部に嵌め入れられて6本のストランド材1が円周状に配置された断面の直径)をDとし、型付けされたストランド材1の波高さ(自己径含む)をHとすると、「直径型付率(%)=H/D×100」で表される。
【0053】
環状に巻き付けを行った後、ストランド材1の始端部1a及び終端部1bにおける型付けをなくすように伸ばして直線化して極力真直状態とし、巻き付けられた余長部1e同士の間から差し込んで中心に形成された内部の空間内に格納することにより、ストランド材1の始端部1a及び終端部1bを固定する。ストランド材1の始端部1a及び終端部1bを直線化し、余長部1e同士の間に差し込むことで、始端部1a及び終端部1bを容易に固定することができ、しかも、ストランド材1の余長部1e同士の接触機会を増やし、撚り緩みに対して有利にすることができる。
【0054】
なお、ストランド材1の巻き付けの始端部1aと巻き付けの終端部1bとを互いに突き合わせて、その突き合わせ部分1cと、突き合わせ部分1cを含む近傍部分を接着剤によって固定してもよい。
また、突き合わせ部分1cの接着を行う前に、環状金属コードC1全体に低温焼鈍処理を行って、撚り合わせ時(下撚、上撚)に発生する歪を除去するとよい。始端部1a及び終端部1bを余長部1e同士の間に差し込んで固定する場合は、その後に低温焼鈍処理を行う。これにより、環状金属コードC1の一層の耐疲労性の向上が期待できる。
【0055】
また、環状金属コードC1の環状方向全域に亘って、ストランド材1同士が接触する境目に接着系樹脂を塗布してもよい。これにより、ストランド材1同士をその接触抵抗だけでなく樹脂の接着力によっても移動しないように保持できるため、さらに撚り緩みが生じにくくなり、形状が安定する。
【0056】
また、上記実施形態では、3本の再使用線材群3の内の1本のストランド材1を用いて環状金属コードC1を製造したが、再使用線材群3の残りの2本のそれぞれのストランド材1についても同様に、前述したように、複数周回環状にしつつ再使用線材群3の内の他の線材及び不使用線材群4の抜けた螺旋状の空隙部5に、余長部1eを嵌め入れて巻き付けて環状金属コードC1を製造することができ、経済性を高めることができる。
【0057】
なお、上記実施形態で示した例以外でも、上記式の関係を満たすものであれば再使用線材群と不使用線材群の構成を適宜変更可能である。
例えば、最初に用意する金属コードを5本のストランド材からなる撚線とし、そのストランド材は金属素線を7本撚りしたものとする。そして、5本のストランド材のうち2本を不使用線材群として解撚して取り除き、3本のストランド材からなる再使用線材群を形成する。この再使用線材群には、ストランド材2本分の断面積を有する螺旋状の空隙部が形成されている。したがって、「再使用線材群の合計断面積AS1>不使用線材群の合計断面積AS2」の関係を満たしている。この再使用線材群の内の1本を図8で説明したのと同様にして環状部分に余長部を再使用線材群で形成されるストランド材の本数の2倍(最初の環状部分含む)だけ周回させ嵌め入れて巻き付けることで、ストランド材同士が接触抵抗により強く拘束された環状金属コードを得ることができる。この例の場合、再使用線材群と不使用線材群に使用するストランド材の本数が異なるため、再使用線材群と不使用線材群に使用する金属素線の線径は全て同じでもよいし、不使用線材群の方が若干細い径または太い径であってもよい。
【0058】
また、不使用線材群における線材は、環状金属コードC1を構成するものではないため、構造を簡略化したり、材質を変更することができる。
例えば、不使用線材群における線材をストランド材とせずに単線とすることで、製造コストを抑えることができる。ストランド材を不使用線材群に使用すると、金属素線を撚り合わせてストランド材を形成する分だけ製造コストがかかってしまう。
【0059】
また、不使用線材群における線材を金属線とせずに、金属線より剛性の弱い繊維等の材質の線材としてもよい。例えば、束状に撚り合わせたアラミド繊維や炭素繊維を使用することができる。不使用線材群の剛性が再使用線材群より弱いと、コードを解撚する際に不使用線材群の線材を取り出しやすく、作業がしやすい。また、不使用線材群の線材に金属以外の剛性の弱い材質を使用することで、再使用することも可能であり、材料コストを抑えることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の伝動ベルトB1は、抗張力体として環状金属コードC1を有している。環状金属コードC1は、上記のように継続的な繰り返し負荷に対してもストランド材1の撚り緩みが生じず、ストランド材1を巻き付けた形状を維持することができる。このような環状金属コードC1を被覆部70で覆った伝動ベルトB1は、継続的な繰り返し負荷に対しても環状金属コードC1の撚り緩みが生じず形状を維持することができるため、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ製造が容易なものとなる。
【0061】
また、本実施形態の伝動ベルトB1は、環状金属コードC1を5本有するとしたが、環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる耐屈曲性及び耐久性に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0062】
また、伝動ベルトの種類は一般産業用Vベルトに限られない。図10は、伝動ベルトの他の変形例を示す断面斜視図である。図10に示される伝動ベルトB2は、歯付タイミングベルトであって、環状金属コードC1を抗張力体とし被覆部80で覆ったものである。被覆部80は、例えばゴムといった材料を含んでいる。このような伝動ベルトB2もまた、破断強度及び耐疲労性に優れたものとなる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明に係る伝動ベルトの実施例について説明する。
まず、伝動ベルトの抗張力体となる環状金属コードの実施例を説明する。
種々の条件で環状金属コードを作製して耐久性の変化を調べた。
【0064】
(第1実施例)
6×5×d(公称径d=0.15mm)の環状金属コード
(1)ストランド材の作製
(1−1)再使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径0.90mmのスチールコード用鋼線を熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後、拡散により合金化し、伸線工程を経て直径0.15mmまで伸線する。
このように、直径0.15mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で直径0.151〜0.155mmの素線を用い、5本撚りができるチューブラー型撚線機を使用して5.0mmの撚りピッチでS撚りにて5本を下撚りし、再使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−2)不使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径0.90mmのスチールコード用鋼線を熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後、拡散により合金化し、伸線工程を経て直径0.15mmまで伸線する。
このように、直径0.15mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で直径0.146〜0.150mmの素線を用い、5本撚りができるチューブラー型撚線機を使用して5.0mmの撚りピッチでS撚りにて5本を下撚りし、不使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−3)金属コードの作製
6本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて、上記の再使用線材群用の3本のストランド材及び不使用線材群用の3本のストランド材を、7.5mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして6×5×dの金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(1−4)金属コードの解撚
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
【0065】
(2)作製する環状金属コード
(2−1)実施例の環状金属コード
(実施例1,2)
分離した6本のストランド材の内の再使用線材群の平均素線径du(0.153mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×5×duの環状金属コードとする。
なお、実施例2は、減圧環境下にて、約260℃で10分間、焼鈍処理を施す。
(比較例2,3)
分離した6本のストランド材の内の不使用線材群の平均素線径dn(0.147mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×5×dnの環状金属コードとする。
(比較例1,4)
比較用として用意した線径が0.150±0.002mmの範囲にある平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×5×daの環状金属コードとする。
(2−2)端末の接続構造
ストランド材の始端及び終端は、必要長さを残して切断し、螺旋波状を極力平坦化する。そして、比較例1ではスリーブに挿入して接続し、比較例2では半かご差しにて接続し、比較例3ではスリーブへの挿入及び半かご差しにて接続し、比較例4,実施例1,2では中心部へ挿し込んで接続する。
【0066】
(3)耐久試験
(3−1)耐久試験装置
図11に耐久試験装置を示す。図11に示すように、耐久性試験装置は、駆動モータ51によって回転される駆動プーリ52と、この駆動プーリ52に対して水平方向へ接離可能に支持された従動プーリ53と、従動プーリ53を駆動プーリ52から離間させる方向へ荷重を付与する張力付加部54とを備える。
駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、39.4mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約40mmとなるようにした。
張力付加部54は、従動プーリ53にロープ55を介して取り付けられた重り56と、ロープ55が掛けられた滑車57とを有し、重り56の荷重によって従動プーリ53が駆動プーリ52から離間される。そして、この張力付加部54では、重り56の重さを15kgに調整し、付加張力を7.5kgf(コードの強度の5%前後)とした。
(3−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。
(3−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、再使用線材群の平均素線径du(0.153mm)のストランド材の1本を使用して6×5×duの環状金属コードとした実施例1,2では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例2では切断が認められなかった。
これに対して、不使用線材群の平均素線径dn(0.147mm)のストランド材の1本を使用して6×5×dnの環状金属コードとした比較例2,3では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
また、比較用として用意した平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して6×5×daの環状金属コードとした比較例1,4の場合も、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0069】
(第2実施例)
6×7×d(公称径d=0.15mm)の環状金属コード
(1)ストランド材の作製
(1−1)再使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径0.90mmのスチールコード用鋼線を熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後、拡散により合金化し、伸線工程を経て直径0.15mmまで伸線する。
このように、直径0.15mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で直径0.146〜0.150mmの素線を用い、7本撚りができるチューブラー型撚線機を使用して5.0mmの撚りピッチでS撚りにて7本を下撚りし、再使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−2)不使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径0.90mmのスチールコード用鋼線を熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後、拡散により合金化し、伸線工程を経て直径0.15mmまで伸線する。
このように、直径0.15mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で直径0.151〜0.155mmの素線を用い、7本撚りができるチューブラー型撚線機を使用して5.0mmの撚りピッチでS撚りにて7本を下撚りし、不使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを2リール用意する。
(1−3)金属コードの作製
5本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて、上記の再使用線材群用の3本のストランド材及び不使用線材群用の2本のストランド材を、6.5mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして5×7×dの金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(1−4)金属コードの解撚
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
【0070】
(2)作製する環状金属コード
(2−1)実施例の環状金属コード
(実施例3,4)
分離した5本のストランド材の内の再使用線材群の平均素線径du(0.147mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の4本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×7×duの環状金属コードとする。
なお、実施例4は、減圧環境下にて、約260℃で10分間、焼鈍処理を施す。
(比較例6,7)
分離した5本のストランド材の内の不使用線材群の平均素線径dn(0.153mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、2周少ない3周回移動させて他の4本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで4×7×dnの環状金属コードとする。
(比較例5)
比較用として用意した線径が0.150±0.002mmの範囲にある平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、1周少ない4周回移動させて他の4本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで5×7×dnの環状金属コードとする。
(比較例8)
比較用として用意した線径が0.150±0.002mmの範囲にある平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の4本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×7×dnの環状金属コードとする。
(2−2)端末の接続構造
ストランド材の始端及び終端は、必要長さを残して切断し、螺旋波状を極力平坦化する。そして、比較例5ではスリーブに挿入して接続し、比較例6では半かご差しにて接続し、比較例7ではスリーブへの挿入及び半かご差しにて接続し、比較例8,実施例3,4では中心部へ挿し込んで接続する。
【0071】
(3)耐久試験
(3−1)耐久試験装置
前述した耐久性試験装置(図11参照)を用いる。
なお、駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、39.4mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約40mmとなるようにした。
また、張力付加部54では、重り56の重さを15kgに調整し、付加張力を7.5kgf(コードの強度の5%前後)とした。
(3−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。
(3−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2から明らかなように、再使用線材群の平均素線径du(0.147mm)のストランド材の1本を使用して6×7×duの環状金属コードとした実施例3,4では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例4では切断が認められなかった。
これに対して、不使用線材群の平均素線径dn(0.153mm)のストランド材の1本を使用して4×7×dnの環状金属コードとした比較例6,7では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
また、比較用として用意した平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して5×7×daの環状金属コードとした比較例5の場合も、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
さらに、比較用として用意した平均素線径da(0.150mm)のストランド材の1本を使用して6×7×daの環状金属コードとした比較例8の場合も、両端末を中心部に挿し込む際、ストランド材直径が環状金属コードの中心部内接円直径より大きいため、挿し込んだものの、その箇所だけ撚り乱れが生じたため、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0074】
(第3実施例)
6×(3+9)×d(公称径d=0.082mm)の環状金属コード
(1)ストランド材の作製
(1−1)再使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径4.0mmのスチールコード用鋼線を酸洗し、伸線工程を経て直径1.5mmまで伸線する。さらに、熱処理及び酸洗して直径0.55mmまで伸線したら、熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後拡散により合金化した後、直径0.082mmまで伸線する。
このように、直径0.082mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で平均直径0.085mmの素線を用い、チューブラー型撚線機を使用して3.0mmの撚りピッチでS撚りにて3本を下撚りし、さらに、その外周側に、チューブラー型撚線機を使用して4.5mmの撚りピッチでS撚りにて9本を下撚りし、3+9の再使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−2)不使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径4.0mmのスチールコード用鋼線を酸洗し、伸線工程を経て直径1.5mmまで伸線する。さらに、熱処理及び酸洗して直径0.55mmまで伸線したら、熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後拡散により合金化した後、直径0.082mmまで伸線する。
このように、直径0.082mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で平均直径0.079mmの素線を用い、チューブラー型撚線機を使用して3.0mmの撚りピッチでS撚りにて3本を下撚りし、さらに、その外周側に、チューブラー型撚線機を使用して4.5mmの撚りピッチでS撚りにて9本を下撚りし、3+9の不使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−3)金属コードの作製
6本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて、上記の再使用線材群用の3本のストランド材及び不使用線材群用の3本のストランド材を、6.0mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして6×(3+9)×dの金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(1−4)金属コードの解撚
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
【0075】
(2)作製する環状金属コード
(2−1)実施例の環状金属コード
(実施例5,6)
分離した6本のストランド材の内の再使用線材群の平均素線径du(0.085mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×(3+9)×duの環状金属コードとする。
なお、実施例6は、減圧環境下にて、約260℃で10分間、焼鈍処理を施す。
(比較例10,11)
分離した6本のストランド材の内の不使用線材群の平均素線径dn(0.079mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×(3+9)×dnの環状金属コードとする。
(比較例9,12)
比較用として用意した線径が0.082±0.002mmの範囲にある平均素線径da(0.082mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×(3+9)×daの環状金属コードとする。
(2−2)端末の接続構造
ストランド材の始端及び終端は、必要長さを残して切断し、螺旋波状を極力平坦化する。そして、比較例9ではスリーブに挿入して接続し、比較例10では半かご差しにて接続し、比較例11ではスリーブへの挿入及び半かご差しにて接続し、比較例12,実施例5,6では中心部へ挿し込んで接続する。
【0076】
(3)耐久試験
(3−1)耐久試験装置
前述した耐久性試験装置(図11参照)を用いる。
なお、駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、24.5mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約25mmとなるようにした。
また、張力付加部54では、重り56の重さを11kgに調整し、付加張力を5.5kgf(コードの強度の5%前後)とした。
(3−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。
(3−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3から明らかなように、再使用線材群の平均素線径du(0.085mm)のストランド材の1本を使用して6×(3+9)×duの環状金属コードとした実施例5,6では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例6では切断が認められなかった。
これに対して、不使用線材群の平均素線径dn(0.079mm)のストランド材の1本を使用して6×(3+9)×dnの環状金属コードとした比較例10,11では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
また、比較用として用意した平均素線径da(0.082mm)のストランド材の1本を使用して6×(3+9)×daの環状金属コードとした比較例9,12の場合も、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0079】
(第4実施例)
6×2×d(公称径d=0.25mm)の環状金属コード
(1)ストランド材の作製
(1−1)再使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径5.5mmのスチールコード用鋼線を酸洗し、伸線工程を経て直径1.3mmまで伸線する。さらに、熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後拡散により合金化した後、直径0.25mmまで伸線する。
このように、直径0.25mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で平均直径0.253mmの2本の素線を用い、チューブラー型撚線機を使用して7.0mmの撚りピッチでS撚りにて下撚りし、再使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−2)不使用線材群用のストランド材の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径5.5mmのスチールコード用鋼線を酸洗し、伸線工程を経て直径1.3mmまで伸線する。さらに、熱処理及び酸洗し、例えば、銅及び亜鉛めっきを順次施した後拡散により合金化した後、直径0.25mmまで伸線する。
このように、直径0.25mmまで伸線加工した素線の内、マイクロメーターによる線径実測値で平均直径0.247mmの2本の素線を用い、チューブラー型撚線機を使用して7.0mmの撚りピッチでS撚りにて下撚りし、再使用線材群用のストランド材とする。
なお、プレフォーム装置により事前に93%前後の直径型付け率に調整する。そして、このストランド材を所定量巻き取ったリールを3リール用意する。
(1−3)金属コードの作製
6本撚りができるチューブラー型撚線機を用いて、上記の再使用線材群用の3本のストランド材及び不使用線材群用の3本のストランド材を、10.0mmの撚りピッチでZ撚りにて所定量上撚りして6×2×dの金属コードとする。なお、プレフォーム装置を用いて事前に93%前後の直径型付け率に調整する。
(1−4)金属コードの解撚
上撚りした金属コードを、余長分も含めて環状金属コードの環状径(層心径:D1)の約20倍((D1)π×6)の長さで切断した後、全長にわたって解撚し、各ストランド材毎に分離する。
【0080】
(2)作製する環状金属コード
(2−1)実施例の環状金属コード
(実施例7,8)
分離した6本のストランド材の内の再使用線材群の平均素線径du(0.253mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×2×duの環状金属コードとする。
なお、実施例8は、減圧環境下にて、約260℃で10分間、焼鈍処理を施す。
(比較例14,15)
分離した6本のストランド材の内の不使用線材群の平均素線径dn(0.247mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×2×dnの環状金属コードとする。
(比較例13,16)
比較用として用意した線径が0.250±0.002mmの範囲にある平均素線径da(0.250mm)のストランド材の1本を使用して、例えば、直径200mmの環状径を形成し、その後、5周回移動させて他の5本のストランド材が抜けた螺旋状の空隙部に余長部を嵌め込んで6×2×daの環状金属コードとする。
(2−2)端末の接続構造
ストランド材の始端及び終端は、必要長さを残して切断し、螺旋波状を極力平坦化する。そして、比較例13ではスリーブに挿入して接続し、比較例14では半かご差しにて接続し、比較例15ではスリーブへの挿入及び半かご差しにて接続し、比較例16,実施例7,8では中心部へ挿し込んで接続する。
【0081】
(3)耐久試験
(3−1)耐久試験装置
前述した耐久性試験装置(図11参照)を用いる。
なお、駆動プーリ52及び従動プーリ53の直径は、74.2mmとし、環状金属コードを巻回した際のコードの中心を通る径が約75mmとなるようにした。
また、張力付加部54では、重り56の重さを16kgに調整し、付加張力を8.0kgf(コードの強度の5%前後)とした。
(3−2)耐久試験方法
上記の耐久性試験装置の駆動プーリ52と従動プーリ53とに、各環状金属コードを巻き掛けて駆動プーリ52を3,500rpmにて回転させ、環状金属コードに繰り返し引っ張り曲げ応力をかけ、環状金属コードの切断、弛み、ワイヤー(素線)の切れ等の不具合の発生の有無及び不具合発生までの耐久回数(換算回数)を調べて評価した。
(3−3)耐久試験結果
耐久試験結果を、表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4から明らかなように、再使用線材群の平均素線径du(0.253mm)のストランド材の1本を使用して6×2×duの環状金属コードとした実施例7,8では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が極めて多くなり、特に、焼鈍処理を施した実施例8では切断が認められなかった。
これに対して、不使用線材群の平均素線径dn(0.247mm)のストランド材の1本を使用して6×2×dnの環状金属コードとした比較例14,15では、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
また、比較用として用意した平均素線径da(0.250mm)のストランド材の1本を使用して6×2×daの環状金属コードとした比較例13,16の場合も、耐え得る繰り返し引っ張り曲げ回数が少なかった。
【0084】
上記第1〜第8実施例から、再使用線材群の合計面積より小さい空隙部に再使用線材群のストランド材の余長部を複数回嵌め入れられることにより、ストランド材の隣り合う部分同士が押圧されることとなり、撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することが可能な強固な環状金属コードとすることができることが分かった。特に、焼鈍処理を施すことにより、さらに強度が高められた環状金属コードが得られることが分かった。
【0085】
さらに、実施例1〜8において製造された環状金属コードは、何れも、上記の伝動ベルトB1に用いて継続的な繰り返し負荷を掛けても、撚り緩みが生じず巻き付けた形状を維持することが確認できた。
【符号の説明】
【0086】
1…ストランド材(再使用線材)、2…ストランド材(線材)、1a…始端部、1b…終端部、1d…環状部分、1e…余長部、3…再使用線材群、4…不使用線材群、5…空隙部、10…金属素線、20…金属コード(コード)、B1,B2…伝動ベルト、C1…環状金属コード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、
前記環状金属コードは、
複数の線材同士を撚り合わせた原コードが解撚されて合計断面積の異なる2つの線材群に分けられ、
合計断面積の大きい方の線材群を再使用線材群とし、合計断面積の小さい方の線材群を不使用線材群として、
前記再使用線材群の内の1本の再使用線材が、複数周回環状にされつつ前記再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部が嵌め入れられて巻き付けられて環状とされていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の伝動ベルトであって、
前記再使用線材群における前記再使用線材は複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項3】
請求項2に記載の伝動ベルトであって、
前記金属素線同士の撚り方向と前記空隙部に嵌め入れられている巻き付けの螺旋方向とが逆方向であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記1本の再使用線材が前記空隙部に嵌め入れられて巻き付けられて環状とされた後の環状金属コードにおける前記再使用線材の直径型付率が86%以上105%以下であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記再使用線材の始端及び終端が、巻き付けられた余長部同士の間から差し込まれて内部に格納されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記環状金属コードは焼鈍処理が施されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記再使用線材は、直径が0.06mm以上0.30mm以下の範囲内である複数の金属素線同士を撚り合わせた構造であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
互いに巻き付けられた前記再使用線材の環状部分における中心軸に対する前記再使用線材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下の範囲内であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項9】
抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備えた伝動ベルトの製造方法であって、
複数の線材同士を撚り合わせた原コードを解撚して合計断面積の異なる2つの線材群に分け、
合計断面積の大きい方の線材群を再使用線材群とし、合計断面積の小さい方の線材群を不使用線材群として、
前記再使用線材群の内の1本の再使用線材を、複数周回環状にしつつ再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて、前記環状金属コードを形成することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記不使用線材群における前記線材は単線であることを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記再使用線材群における残りの再使用線材の1本を、複数周回環状にしつつ再使用線材群の内の他の線材及び前記不使用線材群の抜けた螺旋状の空隙部に、余長部を嵌め入れて巻き付けて環状とすることを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項12】
請求項9から11の何れか一項に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記再使用線材の始端及び終端を直線化し、巻き付けた余長部同士の間から差し込んで内部に格納することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項13】
請求項9から12の何れか一項に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記環状金属コードに焼鈍処理を施すことを特徴とする伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−249310(P2010−249310A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234527(P2009−234527)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】