説明

伝熱部材の製造方法および伝熱部材

【課題】 短時間に材料表面に凹凸構造を形成すること。
【解決手段】 高密度エネルギービーム照射装置10を用いて高密度エネルギービーム11を材料1の表面に照射して穴2を形成する処理を当該表面に沿った方向に一定以上のピッチをおいて繰り返し行うことにより、表面に凹凸構造を有する伝熱部材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、伝熱管や熱交換装置などに適用される伝熱部材の製造方法および伝熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の伝熱管や冷却装置などに適用される伝熱部材、例えば冷却フィンは、有効伝熱面積を増大させることによって熱伝達の向上を図っている。有効伝熱面積を増やすためには、一般に、微細な機械加工を行う。伝熱管にフィンや溝を形成する場合においても、複雑かつ微細な加工を行っている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−14304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来、伝熱部材の熱伝達を向上させるためには、複雑・微細な構造を形成しているが、加工が困難であることから、加工工数が増大するという問題がある。
【0005】
上記実情に鑑みると、短時間に材料表面に凹凸構造を形成する技術の提示が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、高密度エネルギービーム照射装置を用いて高密度エネルギービームを材料の表面に照射して穴を形成する処理を当該表面に沿った方向に一定以上のピッチをおいて繰り返し行うことにより、表面に凹凸構造を有する伝熱部材を製造することを特徴とする伝熱部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る伝熱部材の製造方法の一例を示す図。
【図2】照射スポットを材料の表面上で順列に配置させる例を示す図。
【図3】照射スポットを材料の表面上でランダムに配置させる例を示す図。
【図4】電流(mA)と周波数(Hz)との関係を示すグラフ。
【図5】試験片毎の「穴径(mm)」、「深さ(μm)」、「穴径/深さ」、「熱伝達比」のデータを示す表。
【図6】図5のデータを元に「穴径/深さ」と「熱伝達率増加率」との関係を示すグラフ。
【図7】図5のデータを元に「深さ」と「熱伝達率増加率」との関係を示すグラフ。
【図8】高密度エネルギービームで形成する穴の直径と深さとの比の範囲を示すグラフ。
【図9】Cassieの式を用いて、「穴径」毎に算出した「空隙率」、「COSθc」、「接触角」のデータを示す表。
【図10】不具合の生じなかった個々の試験片の「穴径」毎の「空隙率」のデータを示す表。
【図11】図9のデータを元に「空隙率」と「接触角(度)」との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
(基本事項)
図1は、本発明の一実施形態に係る伝熱部材の製造方法の一例を示す図である。
【0010】
本実施形態では、高密度エネルギービームを照射する高密度エネルギービーム照射装置10を用いて高密度エネルギービーム11を材料1(ステンレスなどの金属からなる板状部材など)の表面に照射して穴2を形成する処理を当該表面に沿った方向に一定以上のピッチ(以下、「照射ピッチ」と称す)をおいて繰り返し行うことにより、表面に凹凸構造を有する伝熱部材を製造する。この伝熱部材は、伝熱管や熱交換装置などに適用されるものである。
【0011】
一般に、従来の技術では、高密度エネルギービームは、溶接あるいは表面改質、鏡面加工に用いられ、対象物に対して連続照射するようにして使用される。すなわち、照射スポットを重ねながら加工を行う。これに対し、本実施形態では、当該高密度エネルギービームは、凹凸構造を有する伝熱部材を製造するために用いられ、材料1に対して連続照射するのではなく、照射ピッチをおいて断続的に照射することにより、すなわち、照射スポットを離間させて照射を行うことにより、材料1の表面に複数の穴2を形成し、これにより表面全体にわたって凹凸構造を形成する。
【0012】
高密度エネルギービーム照射装置10の具体例としては、電子ビームを照射する電子ビーム照射装置であってもよいし、あるいは、レーザを照射するレーザ照射装置であってもよい。そのほか、アーク、プラズマ、イオン、ミリ波などを照射する照射装置を適用することも可能である。
【0013】
高密度エネルギービーム照射装置10は、高密度エネルギービーム11を照射すべき材料1の表面上の個々の照射位置や照射ピッチなどの寸法データを含むCADデータに従って、高密度エネルギービーム11を自動で走査して照射を行うことが可能であり、かつ照射速度は最速10000mm/secと非常に高速な照射を実現することが可能である。そのため、加工時間をきわめて短くでき、短時間で材料表面に凹凸構造を形成することが可能となる。
【0014】
このように短時間で材料表面に凹凸構造を形成することにより、材料表面の有効伝熱面積が広がることおよび流体の凹凸部での剥離や自励振動を誘起することから、温度境界層の発達が抑制されて熱伝達が促進される。
【0015】
(照射スポットの配置例1)
照射スポットは、例えば、材料1の表面上で順列に整列されるようにする。この場合、高密度エネルギービーム照射装置10は、照射スポットを材料1の表面上で順列に整列させるためのCADデータに従って、図1に示されるように、複数の穴2が材料1の表面に沿って一定のピッチをおいて直線状に配置されるように高密度エネルギービーム11を走査する。このように走査された結果を図2(a)に示す。また、図2(a)中の矢視A−Aに示す断面形状を図2(b)に示す。このように、複数の穴2が材料1の表面に一定のピッチをおいて規則正しく整列されるため、熱伝達をより一層効果的に促進させることが可能となる。
【0016】
(照射スポットの配置例2)
また、別の例として、照射スポットが材料1の表面上でランダムに配置されるようにすることも可能である。この場合、高密度エネルギービーム照射装置10は、照射スポットを材料1の表面上でランダムに配置させるためのCADデータに従って、図3に示されるように、複数の穴2が材料1の表面にランダムに配置されるように高密度エネルギービーム11を走査する。このように複数の穴2を材料1の表面にランダムに配置することにより、材料1の表面への高密度エネルギービーム照射に伴う入熱がランダムとなるため、材料1に対する熱の影響を効果的に分散させることができる。この方法は、入熱の影響を受けやすい薄板や細長い形状の材料に適している。
【0017】
(穴径の範囲)
高密度エネルギービーム11により形成される穴2の直径(穴径)は、当該高密度エネルギービームの性質上、0.05mm〜0.5mmの範囲内とすることが望ましい。この範囲内でれば、円形の穴2を形状を崩すことなく無理なく形成することができる。このような円形の穴2が材料1の表面に形成されることにより、流体の凹凸部での剥離や自励振動を誘起することから、温度境界層の発達が抑制されて熱伝達が促進される。
【0018】
なお、ここで示した穴径の範囲は、現段階において有効と考えられる範囲を示したものであり、少なくともこの範囲内であれば有効であることを示すものである。従って、今後の更なる実験等による検討結果によっては、実際に有効となる範囲が、ここで示した範囲よりも広いことが明らかになることがあり得る。
【0019】
(照射ピッチ、電流×周波数の範囲)
材料1の表面上にて設定されたピッチで円形の穴2を適切に形成するためには、高密度エネルギービーム11を走査する際の出力電流と周波数の逆数である走査速度との関係を考慮することが重要である。すなわち、電流値が小さく、走査速度が速いと、穴2の形状を形成するために必要なパワーが得られず、所望の凹凸形状を形成することが困難となる。一方、出力電流値を大きくして、走査速度を遅くすると、円形状を形成できず、形状が楕円形状になる傾向がある。
【0020】
ここで、電流(mA)と周波数(Hz)との関係を図4のフラグに示す。このグラフから、電流(mA)と周波数(Hz)とを乗算した値が一定の照射条件範囲3内に収まるように設定する必要があることが分かる。
【0021】
従って、所望の凹凸形状を形成するためには、照射ピッチに加え、電流値と走査速度との適切な組み合わせを考慮することが必要となる。本実施形態では、照射ピッチを少なくとも「0.2mm〜0.8mm」の範囲内に設定するとともに、高密度エネルギービームを走査するための電流(mA)と周波数(Hz)とを乗算した値を少なくとも「200〜2000」の範囲内に設定することにより、穴2の形状を形成するために必要なパワーが得られ、かつ、楕円とならない円形の穴を形成することができ、全体として所望の凹凸形状を形成することができることを見出した。
【0022】
なお、ここで示した照射ピッチの範囲および電流×周波数の範囲は、現段階において有効と考えられる範囲を示したものであり、少なくともこの範囲内であれば有効であることを示すものである。従って、今後の更なる実験等による検討結果によっては、実際に有効となる範囲が、ここで示した範囲よりも広いことが明らかになることがあり得る。
【0023】
(穴径/深さの範囲)
沸騰熱伝達においては、穴から発生する気泡により熱伝達が向上すると言われている。穴の深さは浅い場合でも気泡発生に寄与するが、穴径に対してある程度の深さがないと気泡が発生しにくい。そこで、熱伝達を向上させるための穴径と深さとの比を調べるため、穴径・深さがそれぞれ異なる複数の試験片により沸騰熱伝達における熱伝達比を測定する試験を行った。その試験結果を図5〜図8に示す。
【0024】
図5は、試験片毎の「穴径(mm)」、「深さ(μm)」、「穴径/深さ」、「熱伝達比」のデータを表にまとめたものある。
【0025】
試験片No.0は、穴加工がされていない平板であり、この平板の熱伝達率を1(基準)としている。試験片No.1〜No.6は、「穴径」および「深さ」がそれぞれ異なるものであり、「熱伝達比」としては図5のようにそれぞれ異なる測定結果が得られた。但し、試験片No.2およびNo.5については、試験中に不具合が生じたことから、「熱伝達率」の測定結果が得られなかった。
【0026】
図6は、図5のデータを元に、「穴径/深さ」と「熱伝達率増加率」(平板である試験片No.0の熱伝達率を1とした場合の「熱伝達比」)との関係をグラフ化したものである。なお、不具合が生じた試験片No.2およびNo.5のデータは未記載としている。参考までに、図7に、図5のデータを元に「深さ」と「熱伝達率増加率」との関係をグラフ化したものを示す。図5および図6のグラフのうち、特に図5からは、ある程度の特性を捉えることができる。すなわち、図8に示されるように、「穴径/深さ」が一定以上である場合は、「熱伝達率増加率」を一定以上とすることができることが分かる。但し、高密度エネルギービーム11が実際に形成し得る現実的な穴径および深さの実績を考慮すると、「穴径/深さ」の下限は「5」、上限は「12」とすることが妥当である。すなわち、高密度エネルギービーム11で形成する穴の直径と深さとの比を、図8中の符号R1に示されるように、少なくとも「5〜12」の範囲内に設定することにより、一定以上の熱伝達向上を達成できることが分かる。
【0027】
なお、ここで示した穴径/深さの範囲は、現段階において有効と考えられる範囲を示したものであり、少なくともこの範囲内であれば有効であることを示すものである。従って、今後の更なる実験等による検討結果によっては、実際に有効となる範囲が、ここで示した範囲よりも広いことが明らかになることがあり得る。
【0028】
(空隙率)
一般に、材料表面の撥水性が高いと熱伝達率が高いと言われており、沸騰熱伝達においては、穴が形成された表面の撥水性が高いと、気泡が離脱しやすくなる。この撥水性は、材料表面において空気の領域が占める面積の比率と関連性がある。すなわち、撥水性は材料表面の穴の存在しない部分の面積の比率を示す空隙率と関連性があるといえる。撥水性の程度を示す指標としては、材料表面に水滴を垂らした場合の材料表面と水滴の接触角が挙げられる。接触角が高いほど、水滴状態が円球状に近くなるため、撥水性が向上する。そこで、熱伝達を向上させるための空隙率を調べるため、空隙率と接触角との関係について調べた。
【0029】
図9は、Cassieの式「COSθc=Φc(COSθl+1)−1」を用いて、「穴径」毎に算出した「空隙率」、「COSθc」、「接触角」のデータを表にまとめたものある。但し、θcはCassieの接触角、Φcは空隙率を示す。θlは穴なしの場合の接触角を示しており、実験結果に基づき本計算では65度を適用している。また、全体面積を1mmとしている。
【0030】
一方、図10は、前述の不具合の生じなかった個々の試験片の「穴径」毎の「空隙率」のデータを表にまとめたものある。
【0031】
図11は、図9のデータを元に、「空隙率」と「接触角(度)」との関係をグラフ化したものである。図11中、四角いドットで示されるデータは、図9のデータに相当する。このグラフより、「空隙率」を低くすれば、「接触角」を高くすることができ、撥水性が高まるという特性を捉えることができる。撥水性は、一般的に「接触角」が90度以上となることにより向上するといわれている。但し、実際に形成し得る現実的な接触角や空隙率を考慮すると、空隙率の下限は「0.5」、上限は「0.7」とすることが妥当である。すなわち、材料1の表面において空隙率を、図11中の符号R2に示されるように、少なくとも「0.5〜0.7」の範囲内に設定することにより、熱伝達を向上できることが分かる。これにより、図10に示される個々の試験片のうち、試験片No.3、No.4、No.6は熱伝達の向上に適していることが分かる。図11中、丸いドットで示されるデータは、図10の試験片No.3、No.4、No.6のデータに相当する。
【0032】
なお、ここで示した空隙率の範囲は、現段階において有効と考えられる範囲を示したものであり、少なくともこの範囲内であれば有効であることを示すものである。従って、今後の更なる実験等による検討結果によっては、実際に有効となる範囲が、ここで示した範囲よりも広いことが明らかになることがあり得る。
【0033】
以上詳述したように本実施形態の伝熱部材の製造方法によれば、短時間に材料表面に所望の凹凸構造を形成することができ、さらに熱伝達を一層向上させることができる。
【0034】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…材料、2…穴、3…照射条件範囲、10…高密度エネルギービーム照射装置、11…高密度エネルギービーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度エネルギービーム照射装置を用いて高密度エネルギービームを材料の表面に照射して穴を形成する処理を当該表面に沿った方向に一定以上のピッチをおいて繰り返し行うことにより、表面に凹凸構造を有する伝熱部材を製造することを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の伝熱部材の製造方法において、複数の穴が材料の表面に沿って一定のピッチをおいて直線状に配置されるように高密度エネルギービームを走査することを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の伝熱部材の製造方法において、複数の穴が材料の表面にランダムに配置されるように高密度エネルギービームを走査することを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、高密度エネルギービームで形成する穴の直径を0.05mm〜0.5mmの範囲内としたことを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、照射ピッチを0.2mm〜0.8mmの範囲内とし、高密度エネルギービームを走査するための電流(mA)と周波数(Hz)とを乗じた値を200〜2000の範囲内としたことを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、高密度エネルギービームは電子ビームであることを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、高密度エネルギービームはレーザであることを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、高密度エネルギービームで形成する穴の直径と深さとの比を5〜12の範囲内としたことを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の伝熱部材の製造方法において、材料の表面において穴の存在しない部分の面積の比率を示す空隙率を0.5〜0.7の範囲内としたことを特徴とする伝熱部材の製造方法。
【請求項10】
高密度エネルギービーム照射装置を用いて高密度エネルギービームを材料の表面に照射して穴を形成する処理を当該表面に沿った方向に一定以上のピッチをおいて繰り返し行うことにより表面に凹凸構造が形成されたことを特徴とする伝熱部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−13396(P2012−13396A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153206(P2010−153206)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】