説明

伸びフランジ性の異方性評価方法

【課題】プレス成形において、伸びフランジ割れを発生しない限界歪の異方性を正確に評価する方法を提供する。
【解決手段】金属板の圧延方向に対し、採取方向の異なる2種類以上の試験片を採取し、試験片の上面に罫書き線又は標点をマーキングし、各々異なる位置の支点に回動自在に取付けられた1対の腕部の先端部において、前記1対の腕部の先端部と1対の把持部の間に、前記試験片の1枚の両端部の上下面を固定し、前記1対の腕部の後端に荷重を加え、試験片の長手方向中央部の端面が広げられるように引張及び曲げ変形を付与した後、罫書き線又は標点に基づき、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に割れが貫通した際の歪を算出する一連の工程を、採取方向の異なる試験片について繰返し、最も歪の大きい試験片採取方向を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の伸びフランジ性の異方性を評価するための方法に関する。特に、自動車のシャーシーを構成するフレームやアームなどを構成するための鋼板の伸びフランジ性の異方性を適切に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のシャーシーを構成するフレームやアームなどの部材は、所定の形状が得られるように予め切断された鋼板(板厚:0.7〜4.0mm)(ブランク、成形原板ともいう)を、プレス成形して形成される。プレス成形においては、鋼板は、曲げ変形や伸びフランジ変形などの変形を受ける。このとき、変形した箇所に割れや亀裂が生じないようにすることが重要であり、成形する部材の形状に応じて適切な金型やプレス成形方法を選択する一方、成形材料についても十分な成形能を有するものを選定することが行われている。
たとえば、図13の(a)、(b)に示すように、部材によっては、伸びフランジ変形のみを受ける場合や、或いは伸びフランジ変形と穴拡げ変形などを併せて受ける場合などがあり、部品形状、すなわち鋼板が受ける変形の程度に応じた材料の選定が必要となる。
また、金属板、特に自動車の構造に用いられる鋼板などは、通常、鋼片を熱間や冷間で圧延して製造されるため、金属板の圧延方向によって金属板の機械的性質などが異なること、すなわち異方性のあることが知られている。
【0003】
従来、伸びフランジ性を評価する方法として、穴広げ試験や切欠き引張り試験など一般的に適用されてきた。しかしながら、この方法では、アームやフレームのような引張り変形が優勢な場合の伸びフランジ性を評価するには問題があった。
例えば、穴拡げ試験法では、i)歪分布が周方向に急激に変化するのに対して、伸びフランジ変形では周方向半径方向に緩やかな歪勾配を有して変化するものである。また、ii)材料の異方性は穴拡げ率(λ)に反映されないが、材料の伸びフランジ性はブランキング方向(材料の採取方向)により影響を受け、異方性がある。また、iii )穴拡げ試験では抜きシャー角は考慮できないが、伸びフランジ性には大きな影響を与える。
このように、従来から用いられている穴拡げ試験では、実際に部材をプレス成形する場合のブランクの板取りによる伸びフランジ性の差、すなわち伸びフランジ性の異方性を適切に評価することが難しい。
【0004】
非特許文献1には、伸びフランジ性の評価に関する上記のような問題点を解決するために、引張曲げ試験方法が提案されている。すなわち、図11の(b)に示すように、試験片43の長手方向中央部には曲率半径Rの切欠き部47が設けられると共に、試験片の表面には伸び歪を測定するための罫書き線48が設けられている。また、試験片の両端部にはノックピン孔42が設けられている。一方、試験装置は、図11の(a)に示すように、それぞれ回転中心ピン44に回動自在に支持され、かつその脚部46が交差するように配置された一対の押上げパンチ41と、押し上げパンチの脚部46の下端に設けられた油圧ジャッキ45を備えている。試験片43は、両端部に加工されたノックピン孔42にノックピン(図示せず)を挿入することによって試験装置の押上げパンチ41に固定されるようになっている。
【0005】
油圧ジャッキ45をストロークさせると、押上げパンチが回転中心ピン44を軸として試験片43を回転させながら押し上げる。その結果、材料は周方向に引張を受けながら曲げ成形され、破断に至る。このとき破断は、厚さ方向の端面に貫通割れを生じたときとする。そして、試験片の表面に設けておいた罫書き線の間隔の変化に基づいて歪(伸び)を求めるものである。この方法によれば、従来の穴拡げ試験とは異なり、貫通割れ後の伸び歪は割れの大きさに左右されないものとすることができる、というものである。
非特許文献1の試験方法では、プレス成形する場合において、成形形状や成形部位の状況に応じた伸びフランジ性、すなわち、破断や亀裂を生じない歪(限界歪)を評価する点において有効な方法である。
【0006】
また、特許文献1には、プラスチック材料やプラスチック複合材料などの帯状材料に曲げと引張りが合わさって作用して破断する場合の破断強度を測定するための破断試験装置が提案されている。この装置は、図12の(a)、(b)に示すように中心軸51で自転する自転機構52に支持され、曲率半径を設けた加圧ヘッド53と、この加圧ヘッドに沿うように保持された帯状試料54の両側で帯状試料を保持するチャック55と、加圧ヘッド先端部とチャック間で帯状試料に張力を加える張力付加機構56と、前記加圧ヘッド先端を観察する画像認識手段57を有し、前記チャックのどちらか一方が張力測定器58に連設されているものであり、張力測定器によりで張力測定を行うとともに、加圧ヘッド先端を観察する画像認識手段57によって帯状試料の端面を拡大観察して、帯状試料に破断の有無を確認し、微小クラックを発生させるときの破断強度を測定するものである。
【0007】
【特許文献1】特開2007−78606号公報
【非特許文献1】長井美憲、永井康友「伸びフランジ評価法の開発」PK技報 第6号 1995−1 第14〜第19ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、非特許文献1に開示された試験方法によって、鋼材の伸びフランジ性を試験し、評価した。しかしながら、上記の方法では、試験片の両端部に開けられたピン穴にノックピンを挿入することにより、試験片が試験装置に固定されているため、引張り曲げ変形を受ける際には、図11の(c)に示すように、試験片の長手方向にピン穴が延びて変形し、付加された荷重が試験片の変形に的確に伝達されず、板厚方向の端面に貫通割れが発生した時点の伸びフランジ性を評価する正確な歪の測定ができないという問題があった。
また、従来の穴拡げ試験方法では、金属板の伸びフランジ性の異方性を評価することが困難であった。
【0009】
また、特許文献1では、プラスチックやプラスチック複合材料のような帯状材料に引張りと曲げが合わさって、曲げ外周表面に微小クラックを発生させる際の破断強度を測定することができる。しかしながら、この場合は帯状試料の外周表面にクラックが発生したときの際の破断強度を確認することは可能であるが、伸びフランジ性における限界歪、すなわち板厚方向に貫通割れが発生した時点での歪を測定するものではない。
【0010】
本発明は、これらの従来の問題点を解決するものであって、プレス成形における鋼材などの金属材料の伸びフランジ性の異方性を、伸びフランジ割れを発生しない限界に近い歪、すなわち限界歪に基づいて的確に評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)金属板の圧延方向に対し試験片採取方向が異なる2種類以上の試験片を採取し、前記試験片の上面に罫書き線または標点をマーキングし、それぞれ異なる位置の支点に回動自在に取り付けられた1対の腕部の先端部において、前記1対の腕部と1対の把持部の間に、前記試験片の1つの両端部の上下面を固定した後、前記1対の腕部の後端に荷重を加え、それぞれ前記支点を中心として、前記1対の腕部の先端部がそれぞれ逆方向に移動して離れることにより、前記試験片の長手方向中央部における端面が広げられるように引張及び曲げ変形を付与し、前記罫書き線または標点に基づいて前記試験片の長手方向中央部における板厚方向の端面に割れが貫通したときの歪を算出する一連の工程を、試験片採取方向の異なる他の試験片について繰り返し行うことにより、最も歪の大きい試験片採取方向を特定することを特徴とする伸びフランジ性の異方性評価方法。
【0012】
(2)試験片の長手方向中央部における板厚方向の端面を第一の観察手段により観察し、試験片の長手方向中央部における上面を第二の観察手段により観察し、観察した試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面及び上面の画像をそれぞれ記憶手段に記憶し、前記記憶手段により記憶した画像に基づいて、前記第一の観察手段により観察した試験片の板厚方向の端面に割れが貫通したときの歪を、前記第二の観察手段により観察した前記罫書き線または標点に基いて算出することを特徴とする(1)に記載の伸びフランジ性の異方性評価方法。
【0013】
(3)前記歪を、計算手段により自動的に算出することを特徴とする(2)に記載の伸びフランジ性の異方性評価方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の評価方法によれば、プレス成形における金属材料の伸びフランジ性の異方性を、伸びフランジ割れを発生しない限界に近い歪、すなわち限界歪の差として的確、かつ精度よく評価することができる。従って、プレス成形部材の成形部位の所要に応じて、金属材料の圧延方向を考慮して成形原板の板取りを行うことができ、プレス成形を安定してかつ、効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の金属板の伸びフランジ性の異方性を評価するのに使用する試験装置の構成概念とその機能を説明する模式図であり、(a)は斜視図、(b)は試験装置の腕部への試験片の固定、係止関係を示す正面図、(c)は平面図である。
図1において、試験装置は、それぞれ異なる位置に固定された二つの支点(支柱) 4(4a、4b)にそれぞれ回動自在に取り付けられ、それぞれ先端部1at,1btと脚部1af、1bfを有する1対の腕部1(1a,1b)と、この腕部の先端部1at,1btにおいて、試験片3の両端部の上下面をそれぞれ腕部の先端部1at,1btと共に固定する1対の把持部2(2a、2b)と、前記1対の腕部1a,1bの後端1ae、1beに荷重を加える荷重付与手段5を有し、1対の腕部は、脚部1af、1bfが互いに交差するように構成されている。なお、腕部の先端部1at、1btと脚部1af、1bfは、上記支点(支柱)4(4a、4b)を境として区分するものとする。
【0016】
図1の(b)は、腕部1(1a、1b)と把持部2(2a,2b)からなる係止手段と試験片3との係止、固定の状況を示すものである。試験片は、試験片3の両端部3a、3bの面(上面および下面)を、腕部1(1a、1b)の先端部1at、1btと把持部2(2a、2b)の間に挟むように配置し、ボルト2’等の締め付け手段により腕部に固定してセットされる。
【0017】
これにより、試験片は広い面によって試験装置に係止、固定されるので、荷重付与手段5により試験装置の腕部の後端に作用する引張曲げ力が、試験片の両端部の広い面に分散して伝達され、従来のように試験片の両端部の局所、例えばピン穴周辺に集中するのを避けることができる。つまり、本発明に使用する上記の装置によれば、従来の試験装置のように試験装置の腕部と試験片がノックピンなどによって局所的に固定、係止されるものではないので、図11の(c)に示したように試験片のピン穴が延びて変形し、その結果、引張曲げ力が試験片に的確に伝達されず、正確な歪の測定ができないという問題を解決することができる。
【0018】
なお、このような観点から、係止手段、すなわち、試験片2の両端部3a,3bの表面と対向する腕部の先端部1at、1bt、及び/または把持部2a,2bの表面には、凹凸を形成した粗面zとすることが好ましい。腕部の先端部1at、1bt、及び/または把持部2a,2bの表面の少なくとも試験片の表面と対向する面を粗面zとすることによって、試験片が、より広い面によってさらに確実に係止、固定されることとなる。
なお、図1の(b)では、把持部の板厚が腕部の板厚と同じにされており、このため、この正面図(b)では腕部と把持部とが重なった状態で示されている(図1(a)参照)。
【0019】
図1の(c)は、本発明の評価方法に使用する試験装置の動作を説明するものである。上述のように、試験装置に試験片3を係止、固定した後、荷重付与手段5により試験装置の1対の腕部1(1a,1b)の後端1ae,1beに、矢印方向、すなわち腕部の先端部方向に荷重を加える。これによって、腕部はそれぞれ1対の支点4(4a,4b)を中心として、1対の腕部の先端部が互いに逆方向に離れるように移動する(図1の(c)の二点鎖線で示す)。すなわち、腕部と把持部からなる係止手段により係止、固定された試験片に引張及び曲げ力を付与するように機能する。
なお、支点(支柱)の間隔は、試験片に十分な引張曲げ変形を与えうるものであればよく、試験片の長手方向の大きさを勘案して適宜設定することができる。
また、試験片は、後述するように、採取方向が金属板の圧延方向に対して異なる2種類以上が採取される。この試験片には、長手方向中央部に円弧状の打抜き部が形成されており、この打抜き部の円弧の開放部側が、上記試験装置による引張曲げの外側になるように取り付けられる。
【0020】
荷重付与手段5の荷重の付与による引張、曲げ変形により、試験片3の曲率半径rの円弧状の打抜き部は、曲率半径が拡大するように変形する。荷重付与が増加すると、試験片はさらに変形し、試験片の板厚方向の端面に微小な割れが発生する。荷重付与の増加と共に、この微小な板厚方向の端面の割れは、板厚方向に貫通する。そしてさらに荷重付与が増加すると、貫通割れが試験片の幅方向にまで進展し、板厚方向に開口部が広がり、試験片が破断する。本発明の評価方法においては、試験装置において試験片に与えた荷重によって試験片に変形が生じ、この変形に基づいて、後述するように、伸びフランジ性の異方性を評価する限界歪を測定することができる。
【0021】
なお、試験装置の荷重付与手段5は特に限定するものではなく、油圧或いは電動ジャッキなど、腕部の後端に、腕部の先端方向の荷重を付与できるものであればよい。また、腕部及び支点など、試験装置を構成する部材の強度は、被試験材の強度等を勘案して決めればよいことはいうまでもない。
【0022】
上述のように本発明に使用する試験装置においては、荷重付与の進展により試験片の変形状態が変化する。発明者らは、試験片の変形状態と、実際のプレス成形において材料の伸びフランジ性を評価するための限界歪との関係を検討した結果、プレス成形における材料の伸びフランジ性を適切に評価するには、試験片の板厚方向の端面に貫通割れが生じた時点とすることが適切であることが判った。
【0023】
すなわち、図2は、本発明の方法において使用する試験装置によって試験片に引張曲げ変形を与えた場合、試験片の表面の変形状態、板厚方向の端面の割れの発生状態とそのときの歪の関係を模式的に示す図である。
荷重付与を開始すると試験片に変形が始まり((a)→(b))、板厚方向の端面には微小な割れ(毛割れ)が生じる。この時点で測定された歪は、限界歪(プレス成形の伸びフランジ変形において割れが生じない最大の歪)に対して50%程度であり、限界歪に対する評価精度は低い。荷重付与がさらに増加すると変形が進行し((b)→(c))、板厚方向の端面に割れが貫通する。この時点で測定された歪は、限界歪に対して80〜100%前後となっており、限界歪に対する測定精度は極めて高い。そしてさらに、荷重付与が増加すると、試験片が破断(板厚方向の端面に開口部が生じる状態を含む)((c)→(d))する。
この時点で測定された歪は、上記の限界歪を大きく超えており(120%程度)、限界歪に対する測定精度は低いものとなっている。これは、例えば引張試験における破断伸びの状態となっており、この時点の歪では、本発明が目的とする、プレス成形における伸びフランジ性の異方性を適正に評価することはできない。
【0024】
このように、伸びフランジ性の異方性を適切に評価するためには、試験片の板厚方向の端面に貫通割れが生じた時点において荷重の付与を停止し、その時点での歪を測定することが重要であることが判った。
言い換えれば、図2の(b)の時点では荷重付加を停止するタイミングが早すぎ、(d)の時点では荷重付加を停止するタイミングが遅すぎ、いずれも伸びフランジ変形における限界歪を適正に評価することはできない。
したがって、本発明の伸びフランジ性の異方性を評価する方法においては、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に貫通割れが生じた時点の歪を限界歪として評価するものとする。この時点は、上記の図2の(c)に示したように、板厚方向の端面に上面−下面に割れが生じた状態をいうものであり、この割れが進展して開口部(破断部)を形成した状態(破断)とは区別する。
【0025】
また、図3の(a)、(b)、及び図4の(a)、(b)は、同一材料、同一形状の試験片について、上記試験装置により荷重付加停止タイミングを変えて引張曲げ試験後を行った後の試験片3の状態を示すものであり、(a)は試験片の上面の、(b)は試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面の状態をそれぞれ示す写真である。図3の(a)では、試験片長手方向中央部の割れの箇所は点状であり、(b)では端面6に線状の割れが板厚方向に貫通しており、板厚方向の端面に貫通割れ部9が発生した状態を示していることが判る。本発明は、上述のように、この状態における歪を限界歪として評価するものである。一方、これに対して、図4の(a)では、割れがV字状に試験片の幅方向に進展し、(b)では板厚方向の端面6に開口部が生じており、板厚方向に破断部10が生じている状態であることが判る。
このように、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面と、長手方向中央部の上面を観察することにより、試験片の板厚方向の端面に貫通割れが生じたかどうかを判定することができる。
【0026】
ここで、本発明において使用する試験片の形状、採取方法および試験片の歪の測定について説明する。
先ず、図5は、本発明の試験方法において使用する試験片の形状及び採取方法を説明する図である。
図5の(a)に示すように、試験片3は、矩形の板(長手方向長さl(mm)、幅w(mm)、板厚t(mm))であり、長手方向中央部に円弧状の打抜き部7が形成されている。打抜き部7の曲率半径r(mm)、打抜き深さd(mm)(打抜き部の円弧の頂点と試験片幅方向の円弧開放部側の端部との距離)は、特に限定するものではなく、プレス成形対象部材の伸びフランジ変形を受ける部位の曲率半径、打抜き深さ等を勘案して決めれば良い。すなわち、曲率半径や打抜き深さを変えることにより、歪勾配を変えた場合の伸びフランジ変形の限界歪を把握することができる。通常、l:100mm、w:35mmであり、r:15mm、d:15mmとする。
なお、試験片3の上面には、後述する歪を測定するための罫書き線8または標点(図示せず)が設けられている。
【0027】
図5(b)に示すように、上記試験片3は、試験片採取方向を長手方向(図5(a)で紙面右方向)とすると、試験片採取方向が金属板の圧延方向(図5(b)の右向き矢印の方向)に対して異なるように2種類以上採取される。(i)は長手方向が金属板の圧延方向と同じ方向(L方向とする)となるように、(ii)は長手方向が金属板の圧延方向と直交する方向(C方向とする)となるように、(iii )は、長手方向が金属板の圧延方向と任意の傾斜角度X°をなす方向(X方向)となるように、それぞれ採取される。傾斜角度Xは所要に応じて任意の角度とすることができ、通常、例えば30°、45°などとすることもあるが、これに限定するものではない。
【0028】
また、試験方法においては、試験片の打抜き部の表面性状、すなわち、打抜き部の板厚方向の端面の表面性状を適宜調整することも可能である。例えば、打抜き部7の板厚方向の端面は剪断面(シャー面)とすることが好ましい。通常、プレス成形で使用される金属材料板のブランクが剪断により製作されていることを勘案すると、その状態も含めて伸びフランジ成形性に反映させて評価できるからである。
なお、通常、打抜きのクリアランスは、板厚tが3〜4mmの場合、板厚の17〜22%程度であるがこれに限定されるものではない。
【0029】
次に、歪を測定、計算する方法について説明する。
試験片の上面には、上述の図5に示すように罫書き線8または標点(図示せず)がマーキングされる。これは、試験装置によって変形させた後、罫書き線8或いは標点の間隔を計測することにより、変形(歪)を計算するためのものである。罫書き線また標点の間隔は特に限定するものではないが、通常1mm〜3mmである。
【0030】
図5に示した試験片(l:100mm、w:35mm、t:3.2mm、r:15mm、d:15mm)の表面には、罫書き線の間隔(ゲージ長さ:GL)を2mmとしてマーキングした例である。図5に示した試験片を上述の試験装置に係止、固定し、荷重を付加して引張曲げ試験を行い、長手方向中央部の板厚方向の端面に貫通割れが生じた時点で荷重の付加を停止して試験を終了した。
図6は、試験終了後の試験片の長手方向中央部の上面の状態を示したものである。
【0031】
次に、この試験片の上面の罫書き線に基づいて、貫通割れの生じた部位9を含む端面の位置での罫書き線の間隔(GL2’(mm))を測定し、これを試験前の罫書き線の間隔(GL2:2(mm))で除すること(GL2’/GL2)により、歪(伸び)を計算することができる。
なお、罫書き線の間隔は、罫書き線8と端面6との交点近傍での間隔を測定するものとする。貫通割れを生じた部位と罫書き線の位置が不明確な場合は、測定対象とする罫書き線の間隔数を増やし、例えば、図6のように、貫通割れ部位9を含む3つの間隔(罫書き線4本)について間隔(GL6’(mm))を測定し、これを試験前の罫書き線の間隔(GL6:3×2=6(mm))で除すること(GL6’/GL6)により歪(伸び)を計算することができる。
計測する罫書き線の間隔の個数は、被試験材料の伸びフランジ変形の程度に応じて設定すればよく、通常1〜3個である。
【0032】
罫書き線の間隔の測定は、上述のように、試験片の罫書き線または標点の間隔を直接測定することでもよく、また、後述するように、試験片の長手方向中央部の罫書き線または標点を含む画像に基づいて行ってもよく、また、この画像を記憶する記憶手段を設け、記憶により再生した画像に基づいて罫書き線または標点の間隔を自動的に測定し、かつ歪を自動的に計算する計算手段を設けて歪を計算することも好ましい。
【0033】
上述のように、本発明では、伸びフランジ性の異方性を評価するに際しては、先ず、上記の試験において、各試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に貫通割れが生じた時点の歪を限界歪として把握することが必要である。
すなわち、本発明の伸びフランジ性の異方性の試験方法においては、試験中、試験装置の試験者が肉眼で、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面、並びに試験片の長手方向中央部の上面の双方を観察しながら試験装置の荷重付与を制御し、板厚方向の端面に貫通割れが発生したことを確認した時点で荷重付与を停止する。その後、上述のように、試験片にマーキングした罫書き線または標点の間隔を測定し、間隔の変化から、伸びフランジ変形における限界歪を求めるものである。
【0034】
このようにして、採取方向の異なる試験片について、限界歪を測定し、試験片採取方向ごとの限界歪を比較することにより、最も限界歪の値の大きい試験片の採取方向を特定し、金属板の伸びフランジ性の異方性を把握することができる。なお1つの方向について3〜5個の試験片を採取してその平均値を用いて評価することも好ましい。
本発明により、ブランクの板取りに際して、成形部材の伸びフランジ割れが生じる可能性の高い部位が、金属板の伸びフランジ性の高い方向、すなわち限界歪の大きい方向を含むように板取を行うことができ、割れのない成形部材を安定して得ることができる。
【0035】
図7は、本発明の評価方法を利用して、金属板からプレスブランクの板取りする例を示すものである。
所要の成形部材形状に対して伸びフランジ割れ発生の可能性の高い部位AをFEM解析等により予め把握しておき、一方、当該部品に使用する金属板について、上述の試験片をその長手方向が金属板のL方向、C方向およびX方向となるように採取して、本発明の評価方法に従ってL方向、C方向およびX方向の限界歪を測定する。図7の(a)に示すように、金属板のL方向の伸びフランジ限界歪が高い場合は、上記部材の部位Aが金属板のL方向を多く含むように板取りして金属板を切断し、ブランクとする。図7の(b)に示すように、金属板のC方向の伸びフランジ限界歪が高い場合は、上記部材の部位Aが金属板のL方向を多く含むように板取りして金属板を切断し、ブランクとする。同様に、図7の(c)に示すように、金属板のX方向の伸びフランジの限界歪が高い場合は、上記部材の部位Aが金属板のX方向を含むように板取りして金属板を切断し、ブランクとする。このようにブランクの採取方向を変えることにより、プレス成形において割れのない成形部材を安定して得ることができる。
【0036】
ところで、本発明の評価方法における上述の試験において、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面や、長手方向中央部の上面は、それぞれの部位の観察によって板厚方向の端面に割れや貫通割れの発生を少なくとも判定しうる程度に観察可能であれば、その手段は特に限定するものではなく、例えば、肉眼で、或いは必要に応じて拡大鏡などを使用して、観察し、確認することができる。
【0037】
しかしながら、試験者による貫通割れの発生時点の確認および、荷重付与の停止のタイミングのバラツキによる歪の測定値の変動を小さくするために、上記試験装置において、図8に示すように、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面を観察する第一の観察手段11、及び試験片の長手方向中央部の罫書き線または標点を含む上面を観察する第二の観察手段12を設け、さらにこれら第一及び第二の観察手段によって得られた画像をそれぞれ記憶する記憶手段(図示せず)を備えることが好ましい。
上記第一及び第二の観察手段は、特に限定するものではないが、ITV或いはCCDカメラなどが使用でき、これらの観察手段により得られた画像を記憶する手段としては、画像を記憶できる通常のコンピューター、パーソナルコンピューターなど公知の手段を適宜使用することができる。
試験片において貫通割れが発生し易い箇所は、通常、打抜き部の長手方向中央部の端面であることから、これらの観察手段は、少なくともこれらの範囲が観察可能な範囲となるように設定されることは言うまでもない。
【0038】
このように、本発明の試験装置に試験片の長手方向中央部における板厚方向の端面を観察する第一の観察手段11と、試験片の長手方向中央部にマーキングされた罫書き線または標点を含む上面を観察する第二の観察手段12を備えるとともに、前記第一の観察手段11及び前記第二の観察手段12で観察した画像をそれぞれ連続的又は断続的に記憶する記憶手段を設ければ、試験完了後に必要により画像を再現することができ、これらの再現画像を再確認して、試験片3の長手方向中央部における板厚方向の端面に貫通割れが発生した時点を的確に把握することができる。
そして、その時点での試験片の長手方向中央部における上面の罫書き線または標点の間隔を正確に確認し、測定することができ、伸びフランジ変形における限界歪をより高い精度で計算することができる。これに基づいて最も限界歪の大きい方向を特定すること、すなわち、金属材料の伸びフランジ性の異方性をより適切に特定することができる。
【0039】
また、さらに好ましくは、試験装置は、上記の第一の観察手段、第二の観察手段、および観察画像の記憶手段に加えて、さらに、罫書き線または標点の画像情報に基づいて歪を算出する計算手段を備える。すなわち、第一の観察手段により観察された試験片の板厚方向の端面の画像情報および第二の観察手段により観察された試験片の長手方向中央部の上面にマーキングされた罫書き線または標点の画像情報に基づいて、先ず、板厚方向の端面に貫通割れが発生したことを判断する。次いで、この第二の観察手段により観察されたその時点の画像を上記計算手段に送り、この画像に基づいて試験片の罫書き線または標点の間隔を測定し、伸びフランジ変形における歪を計算するものである。このような計算手段として、例えば、キーエンス社製のCV3500および高解像度カメラを用いたシステムなどを利用することができる。これにより、板厚方向の端面に貫通割れが発生した時点を的確に把握することができると共に、罫書き線あるいは標点の間隔測定をより安定して行えるため、バラツキが少なく、より精度で高い限界歪を測定し、計算することができる。これにより、各試験片の伸びフランジ変形の限界歪をより的確に得ることができ、これに基づいて最も限界歪の大きい方向を特定すること、すなわち、金属材料の伸びフランジ性の異方性をより適切に特定することができる。
【0040】
図9は、本発明の評価方法に使用する試験装置の一実施形態の構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示す。
なお、この実施形態では、第一の観察手段、第二の観察手段を備えるものとし、また、試験片の上面に罫書き線または標点が設けられ、従って第二の観察手段は、試験片を上面から観察するようなものとしている。
【0041】
図9の(a)、(b)、(c)に示すように、試験装置13の基台14には、試験・観察部として、補強支材15に背面を支持された状態で固定された垂直な壁部材16と、この壁部材16から後方(図の右方向を前方とする)に突出して固定された架台板17と、この壁部材16から後方(図の左方向とする)に突出し、垂直方向に高さ調整可能に取り付けられた支持板18とが設けられている。
架台板17上には、1対の腕部1(1a,1b)を回動自在に支持するための支点として1対の支柱4(4a,4b)が、間隔を開けて垂直方向に固定され、この1対の支柱4(4a,4b)には、把持部2(2a,2b)と共に腕部の先端部1at,1btにより試験片の係止手段を構成する1対の腕部1(1a,1b)が、脚部1af,1bfを互いに交差するようにして取り付けられている。
【0042】
第一の観察手段11として、支持板18の上に水平方向の前後に移動可能に取り付けられた載置台19の上に、CCDカメラが取り付けられている。また、壁部材16には、架台板17の上面の高さを中心とした上下方向の高さを有し、かつ前記一対の腕部の水平方向の間隔を超える幅を有する貫通孔20が設けられている。
第一の観察手段11としてのCCDカメラ11’の高さ方向及び水平方向の位置は、試験片3の位置に対して調整可能とされており、この貫通孔20を通して、試験片の長手方向中央部(打抜き部)の板厚方向の端面を観察可能となっている。
【0043】
第二の観察手段12として、壁部材16の上端から上方に突出するように伸びる垂直支柱22と、この垂直支柱22に昇降可能に取り付けられた高さ調整部材23と、この高さ調整部材23に取り付けられた水平部材24と、この水平部材24に水平方向の前後に移動可能に取り付けられた水平距離調整部材25と、この水平距離調整部材から垂直下方に延びる支持片26とから構成される支持機構の支持片26に、CCDカメラ12’が取り付けられている。すなわち、第二の観察手段12してのCCDカメラ12’の高さ方向及び水平方向の位置は、試験片3の位置に対して調整可能とされており、試験片の長手方向中央部の上面が、罫書き線または標点を含めて観察可能となっている。
【0044】
また、基台14には、荷重付与部として、架台板17の後方端よりさらに後方側(紙面左側)において、補強支材15に背面を支持された状態で支持部材27が設けられ、この支持部材27に荷重付与手段5が支持、固定されている。荷重付与手段5は、油圧シリンダー28とその先端のヘッド29を有しており、油圧シリンダーに備えられたアクチュエーター30の作動により油圧シリンダーが前方(図の右方向)に進行し、ヘッド29が腕部1(1a,1b)の後端1ae,1beを押すことによって、荷重を付与し、試験片3に引張曲げを与えるようになっている。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
図9に示したような試験装置を用いて、鋼板の伸びフランジ性の異方性を確認する試験を行った。この実施例では、第一の観察手段及び第二の観察手段を使用することなく、肉眼で観察しながら試験を行った。なお、試験片の係止手段である腕部の先端部1at,1btおよび把持部2a,2bが試験片の上下面と対向して接触する部分には格子状に凹凸を形成し、粗面とした。
試験に使用した鋼板は、自動車の車体部材として一般に使用される板厚3.2mmの熱延鋼板とした。
試験片は図5の(a)に示した形状とし、長さl:100mm、幅w:35mmとし、板厚tは上記のように3.2mmとした。また、打ち抜き部は、曲率半径r:15mm、打抜き深さd:15mmとしてシャークリアランスを板厚の20%として、鋼板を打ち抜いて形成した。試験片の上面には、罫書き線の間隔(ゲージ長さ:GL)を2mmとしてマーキングした。
また、このとき、試験片は、その長手方向が上記の各鋼板の圧延方向に対して(i)L方向、(ii)C方向、および(iii )X方向(圧延方向に対する傾斜角度を45°)となるように、それぞれ採取方向を変えて3種類打抜いて作成した。なお、試験片は各方向についてそれぞれ5個を作製した。
そして図1に示すように、試験片3の打抜き部の開放端が引張曲げの外側になるように、係止手段により試験片3を腕部1に取り付け、荷重付与手段5によって1〜5トンの荷重を腕部の後端に加え、試験片に引張曲げ変形を付与した。このとき、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面、及び長手方向中央部の上面を、拡大鏡を使用して肉眼で観察しながら荷重付与を制御し、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に割れが貫通した時点で荷重の付与を停止した。
試験終了後、試験片を取り外し、試験片の長手方向中央部上面の罫書き線の間隔を、罫書き線と端面との交点近傍において測定し、歪を計算した。測定した罫書き線の間隔数は3個(GL=2mm×3=6mm)とした。同様の試験を上記の各試験片に対して繰り返した。その結果を図10の(a)に示す。
図10の(a)に示すように、歪の値は、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対してどのような関係にあるかによって大きく異なることが判った。すなわち、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対して平行な場合(L方向)と直交する場合(C方向)は、フランジ割れの限界歪の値には大きな差がないが、金属板の圧延方向に対して45°の傾斜角度を有する場合(X方向)は、限界歪の値は、L方向、C方向の場合に比べて限界歪が大きくなっており、鋼板の伸びフランジ性に著しい異方性があることが判った。
なお、歪の値は、L方向は、平均値が50%、バラツキが−22〜+20%でバラツキが大きかったが、C方向は平均値が48%、バラツキが−12%〜+20%、X方向は、平均値が82%、バラツキが−20〜+18%であった。
ここで、バラツキとは、例えばL方向の場合、平均値は50%、下限は39%、上限は60%であり、下限のバラツキ=(39−50)/50×100=−22%、上限のバラツキ=(60−59)/50×100=+20%とする(以下、同じ)。
また、試験後の試験片の両端部の上下面には、いずれも図3の(a)に示すような、試験装置の腕部の先端部及び把持部が試験片の係止面と対向する面に形成した粗面の模様が、ずれたりすることなく鮮明に転写されており、確実に力が伝達されていることが判った。
また、上記鋼板において、参考のため従来の穴拡げ試験(日本鉄鋼連盟規格JFS T1001)を行ったが、いずれの場合も穴拡げ率は75%であり、異方性は評価できなかった。
(実施例2)
【0046】
図9に示したような試験装置において、第一の観察手段及び第二の観察手段としてそれぞれCCDカメラを設けて試験を行い、試験中、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面、および長手方向中央部の上面の罫書き線を含む領域を連続して観察、撮影し、その画像をコンピューターに記憶させた。荷重付与手段による腕部への荷重付与は、1〜5トンとし、試験片が破断するまで付与した。なお、使用した試験片の材料、試験片の採取方法および試験片の形状、作成個数などは、実施例1と同じとした。また、試験装置の係止手段については実施例1と同様に粗面を形成した。
試験後、コンピューターから記憶させた第一の観察手段及び第二の観察手段による画像を再現し、再現画像に基づいて、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に割れが貫通した時点を試験者が確認した。
次いで、割れが貫通した時点における第二の観察手段の画像に基づいて試験片の上面の罫書き線を確認し、実施例1と同様にその間隔を測定して歪を計算した。同様の試験を上記の試験片について繰り返した。
その結果を図10の(b)に示す。図10の(b)に示すように、実施例1の場合と同様、歪の値は、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対してどのような関係にあるかによって大きく異なっており、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対して平行な場合(L方向)と直交する場合(C方向)は、フランジ割れの限界歪の値には大きな差がないが、金属板の圧延方向に対して45°の傾斜角度を有する場合(X方向)は、限界歪の値は、L方向、C方向の場合に比べて限界歪が大きくなっており、鋼板の伸びフランジ性に著しい異方性があることが判った。
歪(限界歪)の値は、L方向:平均値が50%、バラツキが−16〜+12%、C方向:平均値が48%、バラツキが−12〜+10%、X方向:平均値が82%、バラツキが−8〜+12%と、バラツキはL方向がC方向、X方向に比べて大きくなっていることも判った。しかしながら、そのバラツキは実施例1に比べるといずれの場合も小さくなっており測定の精度が向上していることが判った。また、試験後の試験片の両端部の上下面には、実施例1と同様、係止手段の粗面の模様が、ずれを生じることなく転写されており、確実に力が伝達されていることが確認された。
(実施例3)
【0047】
図9に示したような試験装置を用い、実施例2と同様に、第一の観察手段及び第二の観察手段としてそれぞれCCDカメラを設けて試験を行い、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面、および長手方向中央部の上面の罫書き線を含む領域を観察、撮影し、その画像をコンピューターに記憶させた。さらに、罫書き線の画像に基づいて歪を計算する手段(キーエンス社製のCV3500及び高解像度カメラを用いたシステム)を有するコンピューターを用いた。荷重付与手段による腕部への荷重付与は、実施例2と同様に1〜5トンとし、試験片が破断するまで付与した。なお、使用した試験片の材料、および試験片の形状、作成個数などは、実施例1と同じとした。また、試験装置の係止手段については実施例1と同様に粗面を形成した。
試験後、コンピューターに記憶させた第一の観察手段及び第二の観察手段による画像を再現し、再現画像に基づいて、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に割れが貫通した時点を試験者が確認した。
次いで、割れが貫通した時点における第二の観察手段の画像をコンピューターに送り、画像に基づいて歪を自動的に計算した。同様の試験を上記の試験片について繰り返した。
その結果を図10の(c)に示す。実施例1、2の場合と同様、歪の値は、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対して平行な場合(L方向)と直交する場合(C方向)は、フランジ割れの限界歪の値には大きな差がないが、金属板の圧延方向に対して45°の傾斜角度を有する場合(X方向)は、限界歪の値は、L方向、C方向の場合に比べて限界歪が大きくなっており、鋼板の伸びフランジ性に著しい異方性があることが判った。歪(限界歪)の値は、L方向:平均値が50%、バラツキが−10〜+12%、C方向:平均値が48%、バラツキが−4〜+4%、X方向:平均値が82%、バラツキが−12〜+8%と、バラツキはL方向がC方向、X方向に比べて大きくなっていることも判った。しかしながら、そのバラツキは実施例1、2に比べるといずれの場合も小さくなっており測定の精度が向上していることが判った。
また、試験後の試験片の両端部の上下面には、実施例1と同様、係止手段の粗面の模様が、ずれを生じることなく転写されており、確実に力が伝達されていることが確認された。
(比較例)
【0048】
比較のため、図11の(a)に示すような従来の引張曲げ試験装置を用いて試験を行った。使用した試験片の材料、試験片の採取方法および試験片の形状、作成個数などは、実施例1と同じとした。
ただし、試験片の取り付けには、本発明のような把持部を有する係止手段を使用せず、図11の(a)に示すように試験片3の両端部にノックピン穴(φ10mm)を設け、ノックピンにより試験片を試験装置に係止、固定した。試験方法は、実施例1と同様に、荷重付与手段によって1〜5トンの荷重を腕部の後端に加え、試験片に引張曲げ変形を付与した。
このとき、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面、及び長手方向中央部の上面を、拡大鏡を使用して肉眼で観察しながら、荷重付与を制御し、試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面に割れが貫通した時点で荷重の付与を停止した。
なお、試験後、実施例1と同様に歪の計測、計算を行った。同様の試験を上記の試験片について繰り返した。
その結果を図10の(d)に示す。図10の(d)に示すように歪の値は、試験片の長手方向が金属板の圧延方向に対して平行な場合(L方向)と直交する場合(C方向)は、フランジ割れの限界歪の値には大きな差がないが、金属板の圧延方向に対して45°の傾斜角度を有する場合(X方向)は、限界歪の値は、L方向、C方向の場合に比べて限界歪が大きくなっており、鋼板の伸びフランジ性に著しい異方性があることが判った。図10の(d)から判るように、歪はL,C,Xの各方向とも大きくばらついており(L方向:平均値が58%、バラツキが−32〜+14%、C方向:平均値が55%、バラツキが−36〜+32%、X方向:平均値が71%、バラツキが−46〜+36%)、また、試験後の試験片の両端部のノックピンのピン穴が図11の(c)に示すよう、試験片の長手方向に変形しており、引張曲げ力が均等に伝達されておらず、上記のような歪の測定値のばらつきの原因となっていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を実施するための試験装置の要部の構成概要を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は試験片の係止固定状況を説明する正面図、(c)は(a)の平面図である。
【図2】本発明における伸びフランジ性を評価する限界歪の測定方法の概念を説明する図である。
【図3】本発明の試験方法において、試験片の板厚方向の端面に割れが貫通した時点の状態を示すもので、(a)は試験片の上面の状態、(b)は長手方向中央部の板厚方向の端面の状態を示す図である。
【図4】本発明の試験方法において、試験片の板厚方向の端面に破断が生じた時点の状態を示すもので、(a)は試験片の上面の状態、(b)は長手方向中央部の板厚方向の端面を示す図である。
【図5】本発明において使用する試験片の一例を説明する図であり、(a)は試験片の形状を示す斜視図、(b)は試験片の長手方向と金属板の圧延方向との関係を示す図である。
【図6】試験後の試験片の歪の測定を説明する図である。
【図7】金属板の異方性と成形原板(ブランク)の板取の関係の一例を示す図である。
【図8】本発明を実施するための試験装置において、第一の観察手段および、第二の観察手段の配置した場合の状況を例示する模式図である。
【図9】本発明を実施するための試験装置の一実施形態の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図10】実施例の結果を示す図であり、(a)は実施例1の、(b)は実勢例2の、(c)は実施例3の、(d)は比較例の、それぞれ結果を示す。
【図11】従来の引張曲げ試験の概要を示す図であり、(a)は試験装置を、(b)は(a)の装置に使用する試験片の形状を、(c)は(a)の試験装置によって試験した後の試験片の形状を、それぞれ示す。
【図12】従来の帯状材料の破断強度を測定する装置の例を示すものであり、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図13】プレス成形された部材の各種の変形部位を示す模式図であり、(a)はフレームの場合の伸び部位を、(b)はロアアームの場合の穴拡げ部位と伸び部位を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 1a、1b 腕部
1at、1bt 腕部の先端部
1af、1bf 腕部の脚部
1ae、1be 腕部の後端
2 2a,2b 把持部
2’ ボルト
3 試験片
3a,3b 試験片の端部(両端部)
4 4a,4b 支点(支柱)
5 荷重付与手段
6 板厚方向の端面
7 打抜き部
7’ 打抜き部の円弧の開放部
8 罫書き線
9 貫通割れ部
10 破断部
11 第一の観察手段
11’ CCDカメラ
12 第二の観察手段
12’ CCDカメラ
13 試験装置
14 基台
15 補強支材
16 壁部材
17 架台板
18 支持板
19 載置台
20 貫通孔
22 垂直支柱
23 高さ調整部材部材
24 水平部材
25 水平距離調整部材
26 支持片
27 支持部材
28 油圧シリンダー
29 ヘッド
30 アクチュエーター
41 押し上げパンチノックピン孔
42 ノックピン孔
43 試験片
44 回転中心ピン
45 油圧ジャッキ
46 押し上げパンチの脚部
47 切り欠き部
48 罫書き線
51 中心軸
52 自転機構
53 加圧ヘッド
54 帯状試料
55 保持チャック
56 張力付加機構
57 画像認識手段
58 張力測定器
d 試験片の打抜き部の打抜き深さ
l 試験片の長さ
r,R 試験片の打抜き部の曲率半径
t 試験片(金属板)の板厚
w 試験片の幅
z 粗面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の圧延方向に対して試験片採取方向が異なる2種類以上の試験片を採取し、前記試験片の上面に罫書き線または標点をマーキングし、それぞれ異なる位置の支点に回動自在に取り付けられた1対の腕部の先端部において、前記1対の腕部と1対の把持部の間に、前記試験片の1つの両端部の上下面を固定した後、前記1対の腕部の後端に荷重を加え、それぞれ前記支点を中心として、前記1対の腕部の先端部がそれぞれ逆方向に移動して離れることにより、前記試験片の長手方向中央部における端面が広げられるように引張及び曲げ変形を付与し、前記罫書き線または標点に基づいて前記試験片の長手方向中央部における板厚方向の端面に割れが貫通したときの歪を算出する一連の工程を、試験片採取方向の異なる他の試験片について繰り返し行うことにより、最も歪の大きい試験片採取方向を特定することを特徴とする伸びフランジ性の異方性評価方法。
【請求項2】
試験片の長手方向中央部における板厚方向の端面を第一の観察手段により観察し、試験片の長手方向中央部における上面を第二の観察手段により観察し、観察した試験片の長手方向中央部の板厚方向の端面及び上面の画像をそれぞれ記憶手段に記憶し、前記記憶手段により記憶した画像に基づいて、前記第一の観察手段により観察した試験片の板厚方向の端面に割れが貫通したときの歪を、前記第二の観察手段により観察した前記罫書き線または標点に基づいて算出することを特徴とする請求項1記載の伸びフランジ性の異方性評価方法。
【請求項3】
前記歪を、計算手段を用いて自動的に算出することを特徴とする請求項2記載の伸びフランジ性の異方性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162545(P2009−162545A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340276(P2007−340276)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】