説明

位相制御装置

【課題】本発明は、簡易な構成で、指令値に対して、前記負荷における所望の物理量が比例関係を有するように、前記負荷に印加される電圧を制御すると共に、オープンループでのトルク制御も可能である位相制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、負荷2に関わる物理量を制御するために、制御整流素子3を用いて負荷2に印加される電圧を位相制御する位相制御装置1に係るものであり、前記物理量の大きさを指定する指令値とそれに対応する制御整流素子3の点弧タイミングとの関係を格納したタイミングテーブル6A,6Bを備え、前記指令値に対応する点弧タイミングは、該指令値と負荷2に関わる物理量との間に比例関係が成立するように設定され、前記指令値に対応する点弧タイミングで制御整流素子3を点弧させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に印加される電圧を位相制御する位相制御装置に関し、より詳細には、負荷に関わる物理量を指定する指令値に基づいて、前記位相制御を行なう位相制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、双方向性制御整流素子であるトライアック32を用いた位相制御によってインダクションモータ31のトルクを制御する位相制御装置の従来例を示している。
【0003】
この位相制御装置30において、インダクションモータ31は、トライアック32を介して商用交流電源33に接続されている。トライアック32の両端間には、固定抵抗器34と可変抵抗器35とコンデンサ36とが直列に接続され、また、可変抵抗器35とコンデンサ36との結合点とトライアック32のゲートとの間には、トリガーダイオード37が接続されている。
【0004】
トライアック32は、可変抵抗器35で調整された点弧タイミングでオンする。これに伴ってモータ31に位相制御された電圧が印加されるので、この電圧に基づくトルクを該モータ31が発生する。
【0005】
図7は、商用交流電源41とモータ42との間に設けたスライダック43によってモータ42の印加電圧を調整する従来例を示している。この例では、スライダック43の出力電圧に応じてモータ42のトルクが変化する。
【0006】
他の従来技術として、特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1の技術では、速度フィードバックに基づく位相制御によりユニバーサルモータへの指令位相の調整幅とモータに与えられる電力量(ゲイン)との非線形を改善して、電圧位相に関係なく制御系のゲインが一定になるようにモータ印加電圧を調整している。
【特許文献1】特開平8−154392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インダクションモータの発生トルクはモータ印加電圧の二乗に比例するため、仮に発生トルクをn倍にする場合、モータ印加電圧は√n倍とする必要がある。TMをモータ発生トルク、KTをトルク定数、VMをモータ印加電圧とすると、以下の関係式が成り立つ。
M=KT・VM2
【0008】
図6を参照して説明したトライアック32による位相制御装置では、抵抗値に比例した時定数(τ=CR)により該トライアック32の点弧角が決定される。したがって、可変抵抗器35の値(指令値)とモータ31の出力トルクとが非線形の関係を有することになる。
なお、仮に前記可変抵抗器35の値に対してモータ31の印加電圧を電圧二乗の関係を満たすように増加させたとしても、位相制御ではモータ印加電圧波形が正弦波ではなく、歪み波となるため、電圧の二乗とモータ31の出力トルクとの関係が比例関係にならない。これは、この位相制御装置においては、可変抵抗器35の値とモータの発生トルクの比例関係が保証できないことを意味している。
【0009】
一方、図7を参照して説明したスライダック43によってモータ42の印加電圧を調整する技術では、指令値に対して該印加電圧を電圧二乗の関係を満たすように増加させることにより、指令値と発生トルクとの間に比例関係が成立することになる。しかし、スライダック43の出力電圧を上記関係を満たすように変化させるには、非常に大掛かりで高価な制御装置が必要となる。
【0010】
さらに、前記特許文献1に開示された方法においては、速度フィードバックに基づく位相制御を行なっているので、先に述べた位相制御に起因する問題、つまり、モータ印加電圧波形の歪みのために、電圧の二乗と発生トルクとの関係が比例関係にならないという問題を生じる。加えて、この方法は、フィードバック制御が前提となっているため、オープンループでのトルク制御に応用できないという問題点もある。
【0011】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑み、指令値と負荷に関わる物理量との間に比例関係が成立する位相制御を簡易な構成で実現することができる位相制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、負荷に関わる物理量を制御するために、制御整流素子を用いて該負荷に印加される電圧を位相制御する位相制御装置に係るものである。本発明は、上記目的を達成するために、前記物理量の大きさを指定する指令値とそれに対応する前記制御整流素子の点弧タイミングとの関係を格納したタイミングテーブルを備え、前記指令値に対応する点弧タイミングは、該指令値と前記負荷に関わる物理量との間に比例関係が成立するように設定され、前記指令値に対応する点弧タイミングで前記制御整流素子を点弧させている。
【0013】
前記タイミングテーブルを、前記電圧の周波数の種類に応じて個別に設けても良い。この場合、前記電圧の周波数の種類を検出する周波数検出手段と、前記周波数検出手段で検出された周波数に対応するタイミングテーブルを選択するテーブル選択手段とを設けて、前記タイミングテーブルの選択を自動化することが望ましい。
前記負荷がモータである場合、前記物理量は例えば、該モータの発生トルクになる。前記モータは、例えば、インダクションモータである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、指令値と負荷に関わる物理量とが比例関係を持つような位相制御を実現する点弧タイミングをタイミングテーブルに格納し、このタイミングテーブルに格納された点弧タイミングで制御整流素子を点弧させるようにしている。したがって、指令値と負荷に関わる物理量とが比例関係を持つような位相制御を簡易な構成によって実現することができる。
また、オープンループでの制御も可能であるとともに、位相制御に起因する電圧波形の歪みの影響も受けない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付の図を参照して説明する。図1に第1の実施形態に係る位相制御装置の回路図を模式的に示す。この図1において、モータ2は、双方向制御整流素子であるトライアック3を介して商用交流電源4に接続されている。本実施形態において、モータ2はインダクションモータである。周波数検出器5は、電源4の周波数(ここでは、50Hz又は60Hz)を検出するものであり、該電源4に対して並列に設けられている。タイミングテーブル6A,6Bの入力がトルク指令値設定器7に接続され、それらの出力が切換スイッチ8を介してゲート信号発生器9の入力に接続されている。ゲート信号発生器9の出力は、トライアック3のゲートに接続されている。
【0016】
タイミングテーブル6A,6Bは、前記トルク指令値設定器7を介して入力される指令値に対応した前記トライアック3の点弧タイミングを格納している。このタイミングテーブル6A,6Bに格納する点弧タイミングについては、後述する。
【0017】
次に、上記位相制御装置1の動作について説明する。電源4が投入されると、周波数検出器5によって電源4の周波数が検出される。スイッチ素子8は、周波数50Hzが検出された場合にテーブル6Aを、周波数60Hzが検出された場合にテーブル6Bをそれぞれ選択する。インダクションモータは、印加される電圧の周波数でそのインピーダンスが変化するため、印加電圧の周波数が50Hzの場合と60Hzの場合とでそのトルク特性に違いが生じる。これは、同一のトルクをモータに出力させるためのトライアック3の点弧タイミングが50Hzと60Hzとでは相違することを意味する。50Hz用のタイミングテーブル6Aと、60Hz用のタイミングテーブル6Bを設けて、それらを選択的に使用するようにしたのは、以上の理由によるものである。
【0018】
例えば、図示のように、テーブル6Aが選択されている状態で、トルク指令値設定器7からトルク指令が出力されると、この指令に対応した点弧タイミング信号が該タイミングテーブル6Aから、出力される。
【0019】
タイミングテーブル6Aから出力される点弧タイミング信号は、トライアック3の点弧角を規定するものである。ゲート信号発生器9は、上記点弧タイミング信号で規定される点弧角においてゲート信号をトライアック3のゲートに加え、これにより、トライアック3が該点弧角でオンされる。
【0020】
ここで、上記タイミングテーブル6A,6Bに格納された点弧タイミングについて、より詳細に説明する。タイミングテーブル6A,6Bに格納される点弧タイミングは、トルク指令値設定器7で設定されるトルク指令値とモータの発生トルクとが比例関係を持つように、つまり両者が第4図に特性aとして、例示した1次関数の関係を持つように設定される。上記の比例関係を実現するためのトライアック3の点弧角は、予め実験やシミュレーション等によって得ることができる。
【0021】
なお、上記点弧タイミングは、VMをモータ印加電圧、V0を定格モータ電圧、Tをモータ出力トルク[%]とすると、理論的には、モータ印加電圧VMがVM=√(V02・T[%]/100)となるような点弧タイミングである。
しかしながら、前述したように、位相制御を実行した場合には、モータ印加電圧の波形が歪むので、該モータにおいて、理想的な回転磁界が作られないことになる。このため、実際には、モータの発生トルクとモータ印加電圧との間に上記関係式が成り立たない。これは、タイミングテーブル6A,6Bに格納する点弧タイミングを計算によって求めることが困難であることを示している。
そこで、本実施形態では、上記実験等で得られる点弧タイミングをタイミングテーブル6A,6Bに格納するようにしている。
【0022】
本実施形態では、タイミングテーブル6A,6Bに格納された点弧タイミングでトライアック3にゲート信号が入力されるので、指令値に比例するトルクがモータ2に発生する。
【0023】
本発明の特徴をより明確にするために、位相制御装置1の作用と、図6に示した従来の位相制御装置30の作用とを比較する。
以下の説明は、両装置1,30によって制御されるモータを共に塊状ロータモータとした場合のものである。塊状ロータモータは、インダクションモータの一種であり、ロータが鉄の塊で作られ、通常のインダクションモータに比べて、すべりが大きく、トルクと速度の関係が垂下特性を有している。フィルムなどの巻取り運転に適しており、印加電圧により起動トルクの調整が容易なモータである。
【0024】
図8に、従来の位相制御装置30における点弧角とモータ印加電圧の関係を示す。図8に示した点弧角T1〜T5(T1>T2>T3>T4>T5)は、線形に変化する5つの所定の指令値(可変抵抗35の値)に対応するものであって、負荷印加電圧の半波の位相を等分するように設定されている。
この従来装置30の場合、図4の特性bに示すように、線形に変化する指令値とモータ31の発生トルクとの間に比例関係が成立しないことになる。
【0025】
図9は、上記各点弧角T1〜T5でトライアック32がオンした場合のモータ31の回転速度−トルク特性をそれぞれ例示している。図9に示した各特性から明らかなように、従来装置30によれば、点弧角の変化T5→T1に対してモータ31の発生トルクが急激に低下し、点弧角T1の場合はモータ31の起動すらできないことがある。
【0026】
一方、第1の実施形態に係る位相制御装置1を用いて位相制御を行なった場合の点弧角とモータ印加電圧との関係を図2に示す。図2に示した点弧角T1´〜T5´(T1´>T2´>T3´>T4´>T5´)は、上記従来装置30で使用した線形に変化する5つの指令値に対応する点弧タイミングである。この点弧タイミングT1´〜T5´は、前記タイミングテーブル6A,6Bに格納されたものであるので、前述のように、指令値とモータの発生トルクとが比例関係を持つような値に設定されている。したがって、点弧角T1´〜T5´は、図8に示した点弧角T1〜T5のように負荷印加電圧の半波の位相を等分する値にはならない。
この点弧角T1´〜T5´でモータ2の負荷印加電圧が位相制御されると、図4に特性aとして例示されるように、発生トルクが指令値に対して比例関係を有することになる。
【0027】
図3は、各点弧角T1´〜T5´でトライアック3がオンした場合のモータ2の回転速度−トルク特性をそれぞれ示す。この図3に示すように、本実施形態に係る位相制御装置1によれば、点弧角の変化T5´→T1´に対してモータ2の発生トルクが線形に低下する。つまり、図9に示したような急激な低下を生じない。
【0028】
図4に示す特性a,bの変化から明らかなように、特性aをもたらす第1の実施形態に係る位相制御装置1によれば、従来の位相制御装置30よりも広いトルク調整範囲が得られる。
【0029】
上記位相制御装置1によれば、以下のような様々な効果を簡易な構成によって得ることができる。すなわち、指令値に比例するトルクをモータ2から出力させるので、トルク調整が容易になる。また、図4を参照して述べたように、トルク指令値設定器7の有効範囲(トルク調整範囲)が広がる。加えて、指令値に対してトルクが線形に発生するため、制御系に組み込んだ場合のゲイン設計が容易になる。さらに、上記各種効果を発揮する位相制御をオープン制御で実現することができるので、電圧、電流、回転速度、トルクを検出するためのセンサーが不要になる。
【0030】
以上、本発明の第1の実施形態について述べたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、第1の実施形態では、位相制御素子として、トライアック3を用いているが、サイリスタを用いても良い。
【0031】
また、本発明は、従来装置による位相制御によっては、指令値と負荷に供給される電圧との関係が非線形になるような様々な他の負荷にも適用することができ、図5にその適用例を第2の実施形態として示す。
【0032】
この第2の実施形態に係る位相制御装置10は、モータに限定されない任意の負荷11を制御するようにした点と、図1のトルク指令値設定器7の代わりに、電圧指令部16を備えている点とにおいて、上記第1の実施形態に係る位相制御装置1と異なっている。他の構成要素であるトライアック12、交流電源電圧13、周波数検出器14、タイミングテーブル15A,15B、切換スイッチ17及びゲート信号発生器18は、第1の実施形態の対応する構成要素と同様である。
【0033】
タイミングテーブル15A,15Bには、電圧指令値とそれに対応する点弧タイミング(点弧角)との関係が格納されている。このタイミングテーブル15A,15Bに格納された点弧タイミングは、前記指令値と前記負荷11に印加される電圧との間に比例関係が成立するように設定されている。したがって、電圧指令部16からタイミングテーブル15A又はタイミングテーブル15Bに指令値が与えられると、前記関係に従った点弧タイミングでトライアック12が点弧され、その結果、指令値に比例した負荷印加電圧が負荷11に印加される。
この第2の実施形態に係る位相制御装置10は、電力変換装置としての機能を有している。
【0034】
なお、負荷11の抵抗が電源13の周波数に依存しない場合には、当然、タイミングテーブルは1つ設ければよく、それに伴って、周波数検出器14及び切換スイッチ17は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1の実施形態に係る位相制御装置の構成を模式的に示した構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る位相制御装置によって制御される電圧とトライアック点弧角との関係を示した波形図である。
【図3】図2に示した点弧角に対応する回転速度−トルク特性を示した特性図である。
【図4】第1の実施形態に係る位相制御装置におけるトルク指令値と発生トルクとの関係を、従来技術と比較して示したグラフである。
【図5】第2の実施形態に係る位相制御装置を模式的に示した構成図である。
【図6】従来技術における位相制御装置の構成を模式的に示した回路図である。
【図7】従来技術における電圧調整装置の構成を模式的に示した回路図である。
【図8】図6に示す位相制御装置によって制御される電圧とトライアック点弧角との関係を示す波形図である。
【図9】図8に示した点弧角に対応する回転速度−トルク特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0036】
1 位相制御装置
2 モータ
3 トライアック
4 商用交流電源
5 周波数検出器
6A,6B タイミングテーブル
7 トルク指令値設定器
8 切換スイッチ
9 ゲート信号発生器
10 位相制御装置
11 負荷
12 トライアック
13 商用交流電源
14 周波数検出器
15A,15B タイミングテーブル
16 電圧指令部
17 切換スイッチ
18 ゲート信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に関わる物理量を制御するために、制御整流素子を用いて該負荷に印加される電圧を位相制御する位相制御装置であって、
前記物理量の大きさを指定する指令値とそれに対応する前記制御整流素子の点弧タイミングとの関係を格納したタイミングテーブルを備え、
前記指令値に対応する点弧タイミングは、該指令値と前記負荷に関わる物理量との間に比例関係が成立するように設定され、前記指令値に対応する点弧タイミングで前記制御整流素子を点弧させることを特徴とする、位相制御装置。
【請求項2】
前記タイミングテーブルは、前記電圧の周波数の種類に応じて個別に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の位相制御装置。
【請求項3】
前記電圧の周波数の種類を検出する周波数検出手段と、
前記周波数検出手段で検出された周波数に対応するタイミングテーブルを選択するテーブル選択手段と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相制御装置。
【請求項4】
前記負荷はモータであり、前記物理量は該モータの発生トルクである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相制御装置。
【請求項5】
前記モータは、インダクションモータであることを特徴とする、請求項4に記載の位相制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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