説明

位相同期検出回路

【課題】同期検出角周波数ωSの一周期区間が正確に同期し、かつ検出遅れを少なくした移動平均演算ができる位相同期移動平均フィルタを実現でき、これによって安定で即応性の高い位相同期制御ができる。
【解決手段】回転座標変換した電圧成分vd,vqから高調波除去電圧-d-qを取り出す位相同期移動平均フィルタ3Bは、移動平均演算の位相入力を前記同期検出位相θnとし、この検出した同期検出位相θnの情報と、同期検出角周波数ωSの周期に同期した位相区間の1個の要素を得るために、この位相区間における非同期検出期間の比率を重みとして計算し、この重みで電圧成分の検出値vnを乗算補正し、この重み補正後の電圧成分を個々の位相区間分について積算して同期検出角周波数ωSの周期と同期した平均電圧に変換し、その変換後の平均電圧を移動平均する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源系統の電圧と同期した位相を得るための位相同期検出回路に係わり、特に電源系統の電圧と非同期のサンプル検出信号に対応した位相同期検出回路に関する。
【背景技術】
【0002】
自然エネルギーを利用して商用電源系統に電力を供給する分散電源などでは、供給する電力を商用電源系統と連系するために電力変換器を設けるが、商用電源系統の電圧に同期した適切な電流が流れるように電力変換器の出力(周波数、振幅、位相)を制御する必要がある。このうち、電力変換器と商用電源系統の電圧位相の同期制御には、位相同期(PLL:Phase Locked Loop)方式が多く採用されている。
【0003】
この位相同期方式は、電源電圧検出信号の種類で大別すると、3相の相電圧や線間電圧の零クロスを検出して電源電圧の一周期に数回程度のパルス的な信号を利用して制御する方式と、3相の電源電圧の検出を高速に逐次行ないながら3相2相変換や回転座標変換などを利用して常時位相同期を制御する方式などがある。
【0004】
特許文献1,2,3は後者の電源電圧を逐次検出して位相を演算する方式である。また、特許文献1および非特許文献1では、電源電圧波形が不平衡になった場合や高調波成分が重畳した場合まで考慮した方式である。
【0005】
これら位相同期方式を適用した電力変換器と分散電源の連系制御による安定性については、連系する系統の瞬時電圧低下時にも停止することなく運転を継続する機能が望まれている。そのためには、電源電圧の振幅だけでなく不平衡状態や高調波成分までが過渡的に変動する場合であっても、これらの電圧情報から安定な基準同期信号を得る必要がある。特に、不平衡時には電源電圧には正相成分と逆相成分が混在するため、逆相分を正確に除去できないと基準位相が二次高調波で揺らいでしまい、安定なエネルギーの制御ができない。
【0006】
図6に一般的な電圧検出形の位相同期検出回路の構成を示す。この位相同期検出回路は、入力は3相電圧検出成分とし、出力には同期検出位相θS及び同期検出角周波数ωSを得る連続系の位相同期検出回路構成としている。
【0007】
図6において、3相/2相変換部1は、3相交流電圧の検出信号を直交2軸座標系(αβ座標)に変換する。これにより零相電圧成分を除去することができる。
【0008】
回転座標変換部2は、直交2軸座標の電圧成分vα,vβを同期検出位相θSに同期した座標系(dq座標)の電圧成分vd,vqに回転座標変換する。これにより、同期検出後の定常状態では、d軸とq軸電圧成分vd,vqは直流となる。そのため、外乱を除去するフィルタには低域通過フィルタが利用できる。
【0009】
位相誤差検出部の低域通過フィルタ3は、d軸とq軸電圧成分vd,vqに混入している高調波成分を除去する。例えば、電源の検出電圧が3相不平衡電圧なら2次高調波成分が重畳しており、また整流負荷などでは6次高調波成分が重畳されることが多く、これら高調波成分をフィルタ3で除去して高調波除去電圧-d-qを抽出する(なお、直流分を意味する変数記号の前に付した符号「-」は図面中では文字vなどの上部に付して示す)。
【0010】
位相誤差検出部の極座標変換部4は、低域通過フィルタ3の高調波除去電圧-d-qから同期誤差位相Δθを求める。低域通過フィルタ3を通した出力は同期検出位相θSに同期した座標系の電圧であるので、同期が完了した状態なら、電圧ベクトルは設定した基準軸上に存在するはずである。しかし、位相同期ずれがあると直流電圧のベクトル成分は基準軸に対して異なる位相に存在することになる。そこで、極座標変換部4は高調波除去電圧-d-qから極座標変換により位相情報を計算し、これを同期誤差位相Δθとして出力する。
【0011】
PI演算部5は、極座標変換部4の同期誤差位相Δθより、比例積分制御を適用して、同期検出角周波数ωSを推定する。角速度時間積分部6は、推定した同期検出角周波数ωSを時間積分して、前述の同期検出位相θSを演算する。
【0012】
以上に説明した位相同期検出回路において、位相同期制御については代表例として一般的なPI制御で示しているが、この方式に限定する必要は無く、他のフィードバック演算方法でもよい。また、フィルタ3と極座標変換部4の演算順序を逆にする方法もある。この方法は、先に極座標変換により位相情報を得て、それを低域フィルタで処理するもので、図6の回路構成による同期位相方式と比較しても似たような効果が得られる。
【0013】
図6は連続系の表現を使用した位相同期検出回路の例を示したが、ディジタル回路を利用する場合には図7のような離散系で構成される。図7における図6との差異のみを示すと、電源電圧検出は、サンプラ7により検出周期TSにてサンプルホールドされてA/D(アナログ/ディジタル)変換器8などによりディジタル量に変換される。また、推定した同期検出角周波数ωSから同期検出位相θSを得る積分器6に代えて、前回の検出位相を記憶するサンプラ9と、同期検出角周波数ωSと離散時間検出周期TS乗算部10および前回の同期検出位相θn=(Z-1・θS)との積算を求める加算器11によって、同期検出角周波数ωSの時間積分をオイラー近似している。ここで、このサンプラの遅れ時間を補正したい場合には、検出した位相に同期検出角周波数ωSを利用した遅れ位相補償を適用する方法などもあることや、積分を近似する演算法なども多数存在するが、本発明とは直接関係が無いので省略している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】譲原逸男、河村篤男、“不平衡三相三線式交流の線間電圧に基づく星形電圧と零相分電圧の瞬時値導出法と三相PWMコンバータ制御への応用”電学論D、Vol.131、No.3,pp.372−379(2011)
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3374685号公報
【特許文献2】特開昭55−34851号公報
【特許文献3】実開平01−101175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記の位相同期検出回路において、低域通過フィルタ部分の特性に問題が生じる。前記の説明では定常状態を想定して説明しているが、実際には系統に瞬時電圧低下などの過渡状態が発生する。また、電圧の不平衡状態なども変化する。したがって、位相同期フィルタには、電源周波数の基本波成分は少ない時間遅れで通過させるが、高次成分や外乱成分は遮断するという過渡現象における即応性と広帯域抑圧特性との両方が要求される。この即応性と周波数遮断特性とは相反しており、適切なフィルタを選定する必要がある。
【0017】
ディジタルフィルタにはIIRフィルタ(無限インパルス応答フィルタ)やFIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)など多数の種類があるが、応答性能を要求する場合にはFIRフィルタが適しているといえる。このFIRフィルタの簡単な構成例の一つに、電源周波数の逓倍周期を演算区間とする移動平均フィルタがある。通常のFIRフィルタはエイリアジング(折り返し信号)による誤差などの影響が生じないように、数周期にわたる期間の検出データと窓関数のようなゲイン設定が必要になり、演算時間が掛かるだけでなく、過渡現象時の検出遅れも大きくなる欠点がある。
【0018】
これを防止する方法として、同期周波数と同一周期期間における移動平均をとる方法がある。ポイントは検出する電圧の基本波周期に正確な移動平均を適用することによりエイリアジングの影響を除去することであり、そのため演算データも基本波周期分だけあればよく、検出遅れ時間も同期周波数の基本波周期の1/2程度ですむという長所を有している。
【0019】
しかし、この移動平均法の欠点は検出する電圧成分が同期検出角周波数ωSに正確に同期していなければならないことである。電圧成分の検出周期TSが固定されている場合には、同期検出角周波数ωSはこの検出周期TSの整数倍になるとは限らない。電源周波数は変動するので、同期検出角周波数ωSと電圧成分の検出周期TSが同期しなくなり、その場合には正確な移動平均が得られない。
【0020】
検出周期と基本波周期が同期していない場合において、単純な発想で移動平均の誤差を抑制しようと機能改善した試行例を図8に示す。図8は低域通過フィルタ3に代えて移動平均フィルタ3Aを設け、検出回数演算部12は同期検出した同期検出角周波数ωSより、
N=(2π/ωS)/TS …(1)
にて、移動平均の検出回数Nを計算して、移動平均フィルタ3に平均する検出回数Nを指令する構成としている。
【0021】
図9は横軸に時間をとり、上段に検出周期TSに同期した基準位相データθn(後述の図1の同期検出位相(前回値)Z-1・θSに相当)と、下段にそのときの電圧検出値vn(後述の図1のvd,vqに相当)を示したものである。
【0022】
しかし、移動平均の検出回数Nは整数になるとは限らないため、図9に示す「2π=移動平均したい一周期区間」と検出周期TSが一致しなくなる。この検出周期TSと希望する移動平均期間2πとの誤差である少数点以下の期間に含まれる電圧成分が誤差として現れてくる。この誤差期間を無視するとそれによる誤差成分により高調波成分が変動したり、さらに誤差の極性によって同期検出角周波数ωSが増加したり減少したりする。さらに、前述の(1)式で求める検出回数Nにも影響を与えてしまう。そのため、この従来方式をシミュレーションしてみると正確に同期検出角周波数ωSの一周期期間(=2π)に同期した移動平均が実現できず、位相同期制御も不安定になってしまい、安定な電源の同期位相検出ができないことが判明した。
【0023】
本発明の目的は、上記の方式にさらに改良を加え、同期検出角周波数ωSの一周期区間に正確に同期し、かつ検出遅れを少なくした移動平均演算ができる位相同期移動平均フィルタを実現して、これによって安定で即応性の高い位相同期制御ができる位相同期検出回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、前記の課題を解決するため、回転座標変換した電圧成分vd,vqから高調波除去電圧-d-qを取り出す移動平均フィルタは、移動平均演算の位相入力を同期検出角周波数ωSに非同期の電圧成分の検出周期TSに同期した同期検出位相θnとし、この検出した同期検出位相θnの情報と、同期検出角周波数ωSに同期した位相区間の1個の要素を得るために、この位相区間における非同期検出期間の比率を重みとして計算し、この重みで電圧成分の電圧検出値vnを乗算補正し、この重み補正後の電圧成分を個々の位相区間分について積算して同期検出角周波数ωSと同期した平均電圧に変換し、この変換後の平均電圧を移動平均する位相同期移動平均フィルタとしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0025】
(1)電源系統の3相電圧検出成分を3相/2相変換し、この3相/2相変換した直交2軸座標の電圧成分vα,vβから電圧成分の検出周期TSに同期した同期検出位相θnを使ってdq座標系の電圧成分vd,vqに回転座標変換し、移動平均フィルタによって前記電圧成分vd,vqから高調波除去電圧-d-qを取り出し、この高調波除去電圧-d-qから極座標変換により位相情報を計算して同期誤差位相Δθを求め、この同期誤差位相Δθより同期検出角周波数ωSを推定し、同期検出位相θSを求める位相同期検出回路において、
前記移動平均フィルタは、移動平均演算の位相入力を前記同期検出位相θnとし、この検出した同期検出位相θnの情報と、同期検出角周波数ωSの周期に同期した位相区間の1個の要素を得るために、この位相区間における非同期検出期間の比率を重みとして計算し、この重みで電圧成分の検出値vnを乗算補正し、この重み補正後の電圧成分を個々の位相区間分について積算して同期検出角周波数ωSの周期と同期した平均電圧に変換し、その変換後の平均電圧を移動平均する位相同期移動平均フィルタとしたことを特徴とする。
【0026】
(2)前記位相同期移動平均フィルタは、
前記基準位相データθnに「移動平均点数M/同期検出角周波数ωSの一周期区間(=2π)」を乗算して位相区間mに相当する整数部m(n)と各区間mの重み係数knに相当する少数部knを求め、このうち整数部m(n)と少数部knを分離して抽出し、前記回転座標変換した電圧成分の検出値vnのうち、区間mとこの区間mの1つ前の区間を含む電圧成分の最初のデータには重み係数knを乗じたvn・knを求め、区間mに全て含まれるデータには重み係数(kn−kn-1)を乗じたvn・(kn−kn-1)を求め、区間mとこの区間mの次の区間を含む電圧成分の最後のデータには重み係数(1.0−kn-1)を乗じたvn・(1.0−kn)を求める重み演算部(20)と、
前記重み演算部(20)で区間mの各電圧サンプル値Δvnに重みを乗算した電圧成分の検出値Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m…の総和を区間mの平均電圧データ-ma(m)として、前記整数部mが前回値と変化したタイミングを利用して求める非同期→同期変換部(30)と、
前記非同期→同期変換部(30)で求めた平均電圧データ-ma(m)をM個のスタックメモリに順次格納して同期位相に換算した移動平均データ-v(Δθm-M)について、それらを合計加算した後に(1/M)を乗算して移動平均出力vmaを求める移動平均演算部(40)を備えたことを特徴とする。
【0027】
(3)前記位相同期移動平均フィルタは、
前記同期検出位相θnに「移動平均点数M/同期検出角周波数ωSの一周期区間(=2π)」を乗算して位相区間mに相当する整数部m(n)と各区間mの重み係数knに相当する少数部knを求め、このうち整数部m(n)と少数部knを分離して抽出し、前記回転座標変換した電圧成分の検出値vnのうち、区間mとこの区間mの1つ前の区間を含む電圧成分の最初のデータには重み係数knを乗じたvn・knを求め、区間mとこの区間mの次の区間を含む電圧成分に全て含まれるデータには重み係数(kn−kn-1)を乗じたvn・(kn−kn-1)を求め、区間mの最後のデータには重み係数(1.0−kn-1)を乗じたvn・(1.0−kn)を求める重み演算部(20)と、
前記重み演算部(20)で区間mの各電圧成分の検出値Δvnに重みを乗算した電圧成分の検出値Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m…を、スタックメモリにデータアドレスを選択しながら書き込みと加算をして同期位相に換算したデータ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)を求める非同期→同期変換部(30A)と、
前記非同期→同期変換部(30A)で求めたデータ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)を入力データとし、整数部mの変化時のデータ-v(Δθm)を加算し、M個前のデータ-v(Δθm-M)を減算してM個の検出期間の積算値DSUM(m)を求め、この積算値DSUM(m)に(1/M)を乗算して移動平均出力vmaを求める移動平均演算部(40A)を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上のとおり、本発明によれば、回転座標変換した電圧成分vd,vqから高調波除去電圧-d-qを取り出す移動平均フィルタは、移動平均演算の位相入力を同期検出角周波数ωSに非同期の電圧成分の検出周期TSに同期した同期検出位相θnとし、この検出した同期検出位相θnの情報と、同期検出角周波数ωSに同期した移動平均のための位相区間の1個の要素を得るために、この位相区間における非同期検出期間の比率を重みとして計算し、この重みで電圧成分の電圧検出値vnを乗算補正し、さらに、この重み補正後の電圧成分を個々の位相区間分について積算して同期検出角周波数ωSと同期した平均電圧に変換し、この変換後の平均電圧を移動平均する位相同期移動平均フィルタとしたため、同期検出角周波数ωSの一周期と移動平均区間が正確に同期し、かつ検出遅れを少なくした移動平均演算ができる位相同期移動平均フィルタを実現でき、これによって安定で即応性の高い位相同期制御ができる。
【0029】
具体的には、系統電圧の振幅や不平衡などの成分が変化した場合でも、高次高調波成分の抑制効果と基本波成分の検出遅れが少ないという特徴を有する位相同期検出回路を実現できる。
【0030】
ひいては、この位相同期検出回路を電力変換器と分散電源の連系制御に適用してその回生電力の電流波形などの安定化が実現できる。
【0031】
また、さらに逆位相の回転座標変換と同一の特性を有する移動平均フィルタを追加すれば、逆相成分つまり同期座標系で2次高調波成分を検出することもできるなど、多岐の応用も可能になる。もし、不平衡時の逆相電圧成分も安定で即応性の高い検出ができれば、不平衡電圧時においても分散電源の系統電力供給装置における電力品質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態の位相同期検出回路の概略構成図。
【図2】位相補間演算による電気角−周期の移動平均演算の説明図。
【図3】非同期検出値の同期検出データへの変換方法の説明図。
【図4】実施形態の位相同期移動平均フィルタの回路構成図(その1)。
【図5】実施形態の位相同期移動平均フィルタの回路構成図(その2)。
【図6】電圧検出形の位相同期検出回路の構成図(連続系)。
【図7】電圧検出形の位相同期検出回路の構成図(離散系)。
【図8】移動平均フィルタを適用した位相同期検出回路(離散系)。
【図9】基準位相データθnとそのときの電圧成分の検出値vnの関係図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(1)位相同期検出回路の概略構成
図1は、本発明で提案する位相同期検出回路の概略構成図である。同図が図8と異なる部分は、移動平均フィルタ3Aと検出回数演算部12に代えて、位相同期移動平均フィルタ3Bを設け、この移動平均位相入力を検出周期TSの同期検出位相θn(前回値)=Z-1・θSとし、この同期検出位相θnにより検出周期TSの電圧成分を正確に移動平均する点にある。
【0034】
(2)位相同期検出の原理的な説明
図9のタイムチャートは、横軸を時間にとり、位相同期検出回路の同期位相を縦軸にとって描いたものである。この時間軸と位相軸の横軸と縦軸を入れ替えたものが図2である。下段には電圧成分の検出値vnを縦軸成分として示しており、検出周期TSに相当する位相に同期させているので図9と等価である。
【0035】
提案する移動平均方法は、複数の非同期検出データ(n番データ)から位相と同期したM点のデータ(m番データ)に変換し、その結果をM点の移動平均演算を行なって出力するものである。
【0036】
図2では、説明を簡単にするため、同期検出角周波数ωSの一周期期間(=2π)成分の区間をM=8点に区分した例で示している。もちろんこの区分数は任意に設定できる。図2ではかならずこの位相区間内に1個以上の検出周期TSが存在するように設定しているが、これも説明を簡単にするためであり、もし検出が無かった場合には例外処理を適用すればよい。実際に実現する場合には以降に示す区間平均の概念を拡張すれば容易にこの例外処理方法を類推することができるので以降の説明ではこれに関する記述を省略する。
【0037】
図2の入出力信号および内部変数として下記のものを使用する。
【0038】
(a)非同期検出入力に係る変数
θn:電圧成分の検出周期TSに同期した位相(図1の同期検出位相(前回値)Z-1・θSに相当)
n:位相θnと同一タイミングで検出された電圧(図1の電圧成分vd,vqに相当)
{ EMBED Equation.3 , }:同期検出角周波数ωSの一周期期間(=2π)に同期した移動平均点数(位相の区分数)
Enable:移動平均演算の演算開始タイミングを示す制御信号(1=演算許可、0=演算停止およびリセット)
(b)同期変換のための変数
n:非同期検出データの番号
m:同期検出角周波数ωSの一周期(2π)成分をM個に区分したもののうち特定の区間を示す番号
θm:{ EMBED Equation.3 , }個に区分した位相区間の区切りの位相(区間の初期位相)
n,kn+1,kn+2,…:M個に区分した位相区間に対する初期位相θmからθn,θn+1,θn+2,…までの重み関数
Δvn,m,Δvn+1,m,Δvn+2,m…kn:区間mにおいて、n、n+1,n+2,…番目の検出電圧に、区間平均用の重みkn,kn+1,kn+2…を乗算補正した電圧成分
-v(Δθm):M個に区分した位相区間のm番目の区間の同期平均電圧成分に変換した値(Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m、…の積算値)
(c)出力信号
-ma(m):M個の-v(Δθm)を移動平均した高次高調波成分を除去した電圧出力成分
ENma:Enable=1(演算許可)信号の入力後に移動平均がM個に達し、正常出力が得られていることを示すステータスフラグ
まず、図3を利用して非同期データから同期データに変換する原理を説明する。図3の区間m=−1(θm-1からθmまでの区間)の同期電圧成分を求める例で説明する。この区間mにおいて、電圧データは(n−1)番目から(n+3)番目のデータまでが関係している。そこで、これらの電圧成分の検出データを利用して区間mの平均電圧-v(Δθm)を計算する。
【0039】
ここで、注意することは、最初と最後の(n−1)番と(n+3)番のデータは、区間mの位相区切りにより途中で切断されていることである。一方、それ以外のn番〜(n+2)番のデータは検出期間が区間mに全て含まれている。したがって、区間mの平均電圧を正確に計算するためには、この位相区間をまたぐデータについても、正確な補正演算を適用しなくてはならない、そこで、各電圧成分に次の3種類の重み係数を乗算してこの非同期なn番データから同期した部分を正確に抽出する。
【0040】
・区間mの最初のデータ(ここでは(n−1))は、次式から求める。
【0041】
【数1】

【0042】
・区間mに全て含まれる中間のデータ(ここでは、n,(n+1),(n+2))は、例えば、(n+1)の例では次式から求める。
【0043】
【数2】

【0044】
・区間mの最後のデータ(ここでは、(n+3))は、次式から求める。
【0045】
【数3】

【0046】
この3種類の計算を行い、区間mにおけるΔvn+imの総和を同期した平均電圧-ma(m)とする。これが、非同期検出データを位相同期データに変換する原理である。
【0047】
このようなデータ変換によって、図9のように、電圧成分の検出周期TSが同期検出角周波数ωSの位相と同期していない場合であっても、図3のように一旦、位相同期データに変換することにより、非同期データであってもより正確な同期検出角周波数ωSの整数倍の周期で移動平均演算を行なうことができる。
【0048】
(3)位相同期移動平均フィルタの具体的な回路構成(その1)
図4は、前記の位相同期移動平均フィルタ3Bの回路構成例を示す。同図は、非同期→同期変換の重み演算部20と、非同期→同期変換部30および同期変換されたデータの移動平均演算部40で構成され、それぞれの詳細を以下に説明する。
【0049】
(A)非同期→同期変換の重み演算部20
同期検出位相θnは(0≦θn<2π)の周期データとする。重み計算部20ではこれに乗算器21でM/(2π)を乗算してm(n)+kn(ここで、m(n)は整数部、knは小数部を意味する)として小数点以下まで求める。そして、整数部抽出部22で抽出する整数部をm(n)(0≦m<M)、少数下部抽出部23で抽出する小数点以下の部分をknとする。少数下部抽出部23は、M/(2π)を乗算したm(n)+knから整数部m(n)を削除したことにより、その演算結果knは、
【0050】
【数4】

【0051】
と等価な値になる。
【0052】
これにより基本となるθmとθn区間の重み関数が計算できるので、前記の区間mとこの区間mの1つ前の区間を含む電圧成分の最初のデータには重み乗算器24がvn・knと重み係数knをそのまま使用した乗算値を出力し、区間mにすべて含まれるデータには重み乗算器25がサンプラ27による前回値との差分した係数を乗算した値vn・(kn−kn-1)を出力し、そして区間mとこの区間mの次の区間を含む電圧成分の最後のデータには重み乗算器26が1.0までの期間に相当する係数を乗算した値vn・(1.0−kn)を出力する。
【0053】
(B)非同期→同期変換部30
非同期→同期変換部30は、重み演算部20で区間mの各電圧成分Δvnに3種類の重みを乗算した電圧成分Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m…の総和を区間mの平均電圧データ-ma(m)として求める。3種類の重みを乗算したデータのうち最初の2種類の加算制御は整数部mが前回値と変化したかどうかで判断する。この判断結果として、整数部抽出部22で抽出する位相区間番号m(n)とサンプラ28で記憶する前回の位相区間番号m(n−1)とを判定部32が一致/不一致を判定した信号selとして与える。
【0054】
位相区間データ平均用積算器31では、次の動作を行なう。
【0055】
・整数部mが前回値と変化した場合(sel=1):vn・knを初期値としてsumに格納する。
【0056】
・整数部mが前回値と変化しない場合(sel=0):前回値sumにvn・(kn−kn-1)を加算する。
【0057】
3種類の重みを乗算したものの内、最後の種類のデータは、この位相区間データ平均用積算器31の出力sumに常時加算しているが、実際には次段の移動平均用のデータメモリに格納されるタイミングは整数部mの変化時であり、ちょうど最後のデータが有効なタイミングしで次段にラッチされる。つまり、それ以外の時には無視されるので常時加算していても無視されるので実害は無い。
【0058】
(C)同期変換されたデータの移動平均演算部40
移動平均演算部40では位相区間mの平均電圧データ出力-v(Δθm)から-v(Δθm-M)のデータをM個のスタックメモリ41に順次格納し、それらを合計加算した後に乗算器42で(1/M)を演算し、移動平均出力vmaを求める。これにより同期検出角周波数ωSに同期した移動平均を、整数部mの更新タイミングにおいて逐次出力できる。
【0059】
ところで、移動平均はM個のデータが蓄積されるまでは正確なデータを出力できないので、vma(m)の更新タイミングカウンタ43により計測して、M回更新したことを検出してデータの有効/無効ステータスフラグENmaを出力している。このステータスフラグENmaは必須なものではなく、適当なウエイトタイマーなどで代用することも可能である。あくまでこの位相同期データ出力には開始時に無効期間の示すためだけに図4では追加した。
【0060】
(4)位相同期移動平均フィルタの具体的な回路構成(その2)
図5は、前記の位相同期移動平均フィルタの他の回路構成を示す。同図が図4と異なる部分は移動平均の演算方法だけである。図5では移動平均を積算器と加減算器で構成する方法を適用しており、図4のようにM個の加算器41が必要ない。それ以外は図4の移動平均演算と等価な演算回路を使用している。
【0061】
この、移動平均を積算器と加減算器で構成する方法は、既に良く知られている方法であるので、下記に-v(Δθm-M)の代わりに入力をD(m)という一般的な変数で表現した簡単な原理式のみを示す。
【0062】
D(m)の入力データにおいてM個の移動平均をとる場合
・最初の(1〜M−1)個の検出期間
【0063】
【数5】

【0064】
・M個以降の検出期間mの演算
【0065】
【数6】

【0066】
非同期→同期変換部(同期データメモリスタック部)30A内の「スタックメモリ書き込み・加算・読み出し部31Aでは上式の演算のうち、重み係数を乗算した電圧成分を入力とし、スタックメモリ31Bにデータアドレスを選択しながら書き込みと加算を行なうことにより、このスタックメモリを積算値の格納メモリとして流用しながら同期位相に換算したデータ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)を計算している。これはDSUM(m)の演算に必要な加減算データ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)の読み出しを制御していることに相当する。
【0067】
移動平均演算部40A内の積算部44では、DSUM(m)に相当する演算を行なっており、整数部mの変化時のデータ-v(Δθm)を加算し、M個前のデータ-v(Δθm-M)を減算してM個の検出期間の積算値DSUM(m)を求める。
【0068】
もちろん、この場合でも移動平均はM個のデータが蓄積されるまでは正確なデータを出力できない。また、Enable=0の場合には、カウンタ43や31Bのメモリスタックをクリアする機能なども必要に応じて追加する。
【0069】
以上のように、図5の構成によれば、CPUなどで実現する場合には演算時間の大幅な短縮が、またFPGAなどの論理回路で実現する場合にはロジック数の大幅な削減ができる、
【符号の説明】
【0070】
1 3相/2相変換部
2 回転座標変換部
3 低域通過フィルタ
3A 移動平均フィルタ
3B 位相同期移動平均フィルタ
4 極座標変換部
5 PI演算部
7、9 サンプラ
12 検出回数演算部
20 重み演算部
30,30A 非同期→同期変換部
40,40A 移動平均演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源系統の3相電圧検出成分を3相/2相変換し、この3相/2相変換した直交2軸座標の電圧成分vα,vβから電圧成分の検出周期TSに同期した同期検出位相θnを使ってdq座標系の電圧成分vd,vqに回転座標変換し、移動平均フィルタによって前記電圧成分vd,vqから高調波除去電圧-d-qを取り出し、この高調波除去電圧-d-qから極座標変換により位相情報を計算して同期誤差位相Δθを求め、この同期誤差位相Δθより同期検出角周波数ωSを推定し、同期検出位相θSを求める位相同期検出回路において、
前記移動平均フィルタは、移動平均演算の位相入力を前記同期検出位相θnとし、この検出した同期検出位相θnの情報と、同期検出角周波数ωSの周期に同期した位相区間の1個の要素を得るために、この位相区間における非同期検出期間の比率を重みとして計算し、この重みで電圧成分の検出値vnを乗算補正し、この重み補正後の電圧成分を個々の位相区間分について積算して同期検出角周波数ωSの周期と同期した平均電圧に変換し、その変換後の平均電圧を移動平均する位相同期移動平均フィルタとしたことを特徴とする位相同期検出回路。
【請求項2】
前記位相同期移動平均フィルタは、
前記基準位相データθnに「移動平均点数M/同期検出角周波数ωSの一周期区間(=2π)」を乗算して位相区間mに相当する整数部m(n)と各区間mの重み係数knに相当する少数部knを求め、このうち整数部m(n)と少数部knを分離して抽出し、前記回転座標変換した電圧成分の検出値vnのうち、区間mとこの区間mの1つ前の区間を含む電圧成分の最初のデータには重み係数knを乗じたvn・knを求め、区間mに全て含まれるデータには重み係数(kn−kn-1)を乗じたvn・(kn−kn-1)を求め、区間mとこの区間mの次の区間を含む電圧成分の最後のデータには重み係数(1.0−kn-1)を乗じたvn・(1.0−kn)を求める重み演算部(20)と、
前記重み演算部(20)で区間mの各電圧サンプル値Δvnに重みを乗算した電圧成分の検出値Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m…の総和を区間mの平均電圧データ-ma(m)として、前記整数部mが前回値と変化したタイミングを利用して求める非同期→同期変換部(30)と、
前記非同期→同期変換部(30)で求めた平均電圧データ-ma(m)をM個のスタックメモリに順次格納して同期位相に換算した移動平均データ-v(Δθm-M)について、それらを合計加算した後に(1/M)を乗算して移動平均出力vmaを求める移動平均演算部(40)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の位相同期検出回路。
【請求項3】
前記位相同期移動平均フィルタは、
前記同期検出位相θnに「移動平均点数M/同期検出角周波数ωSの一周期区間(=2π)」を乗算して位相区間mに相当する整数部m(n)と各区間mの重み係数knに相当する少数部knを求め、このうち整数部m(n)と少数部knを分離して抽出し、前記回転座標変換した電圧成分の検出値vnのうち、区間mとこの区間mの1つ前の区間を含む電圧成分の最初のデータには重み係数knを乗じたvn・knを求め、区間mとこの区間mの次の区間を含む電圧成分に全て含まれるデータには重み係数(kn−kn-1)を乗じたvn・(kn−kn-1)を求め、区間mの最後のデータには重み係数(1.0−kn-1)を乗じたvn・(1.0−kn)を求める重み演算部(20)と、
前記重み演算部(20)で区間mの各電圧成分の検出値Δvnに重みを乗算した電圧成分の検出値Δvn,m、Δvn+1,m、Δvn+2,m…を、スタックメモリにデータアドレスを選択しながら書き込みと加算をして同期位相に換算したデータ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)を求める非同期→同期変換部(30A)と、
前記非同期→同期変換部(30A)で求めたデータ-v(Δθm)と-v(Δθm-M)を入力データとし、整数部mの変化時のデータ-v(Δθm)を加算し、M個前のデータ-v(Δθm-M)を減算してM個の検出期間の積算値DSUM(m)を求め、この積算値DSUM(m)に(1/M)を乗算して移動平均出力vmaを求める移動平均演算部(40A)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の位相同期検出回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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