説明

位相差フィルムの製造方法、複合偏光板及び偏光板

【課題】非晶性熱可塑性樹脂を用いて、光学特性に優れた位相差フィルムを得ることができる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、テンター延伸機を用いて、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルムを、幅方向に一軸延伸する工程と、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去することにより、位相差フィルムを得る工程とを備える。本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法をL1、得られる位相差フィルムの幅方向寸法をL2としたときに、L1/L2を1.1以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶表示装置のコントラスト及び視野角を改善するために用いられる位相差フィルムの製造方法、並びに該位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムを用いた複合偏光板及び偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高めるために、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。光学フィルムには、透明性及び光学補償性に優れているだけでなく、用途に応じて種々の光学特性に優れていることも要求されている。
【0003】
液晶が本来有する、複屈折性に起因する光学的な歪み並びに視覚方向により表示が着色するなどの視野角依存性を解消するために、上記光学フィルムとして、光学異方性を応用した位相差フィルムが広く用いられている。
【0004】
位相差フィルムの機能を充分に発揮するためには、液晶パネルの複屈折との合わせ込みが必要であり、更にフィルム面内に均一な位相差値を適切に設計する必要がある。また、VA(Vertically Alignment)方式及びMVA(Multi−domain Vertical Alignment)方式の液晶表示装置の視野角依存性を改善するために、フィルムの厚み方向の屈折率よりも、長さ方向及び幅方向の屈折率を大きくした位相差フィルムの使用が有効であることが知られている。この位相差フィルムは、二軸性位相差フィルムと呼ばれている。
【0005】
上記二軸性位相差フィルムの製造方法として、下記の特許文献1には、熱可塑性樹脂フィルムを縦方向(長さ方向)に縦延伸した後、縦延伸された熱可塑性樹脂フィルムを横方向(幅方向)に横延伸する逐次二軸延伸法が開示されている。縦延伸には、ロール間延伸又は圧延延伸等を用い、横延伸にはテンター延伸機を用いる。
【0006】
しかしながら、上記逐次二軸延伸法では、2回の延伸工程が必要であるため、歩留まりが悪く、製造コストが高くなる。
【0007】
さらに、1回の延伸工程で二軸性位相差フィルムを得る方法が、下記の特許文献2に開示されている。特許文献2では、テンター延伸機等を用いて、ノルボルネン系ポリマーフィルムを、ポリマーのガラス転移温度よりも30℃以上高い温度で、横方向(幅方向)に延伸倍率1.1〜3倍で延伸する横一軸延伸法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の横一軸延伸法では、正面レターデーションRoが大きくばらつくことがある。このため、得られた位相差フィルムを液晶表示装置に用いると、液晶のコントラストを充分に改善できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−148438号公報
【特許文献2】特開2001−215332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、非晶性熱可塑性樹脂を用いて、光学特性に優れた位相差フィルムを得ることができる位相差フィルムの製造方法、並びに該位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムを用いた複合偏光板及び偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の広い局面によれば、テンター延伸機を用いて、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルムを、幅方向に一軸延伸する工程と、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去することにより、位相差フィルムを得る工程とを備え、一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法をL1、得られる位相差フィルムの幅方向寸法をL2としたときに、L1/L2を1.1以上にする、位相差フィルムの製造方法が提供される。
【0012】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のある特定の局面では、上記一軸延伸する工程における延伸倍率を1.1〜3.0倍とし、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去する前に、上記テンター延伸機内で、一軸延伸されたフィルムを連続的に幅方向に、0.5〜10%のリラックス率でリラックス処理する工程がさらに備えられる。
【0013】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の他の特定の局面では、幅方向における正面レターデーションRoの平均値が40nm以上であり、かつ幅方向における正面レターデーションRoの最大値及び最小値がそれぞれ、(幅方向における正面レターデーションRoの平均値)±3nmの範囲内である位相差フィルムを得る。
【0014】
本発明に係る複合偏光板は、上記位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の面に積層された偏光板とを備える。
【0015】
本発明に係る偏光板は、上記位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の面に積層された接着剤層と、該接着剤層の上記位相差フィルムが積層された面とは反対側の面に積層された偏光子とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、テンター延伸機を用いて、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルムを幅方向に一軸延伸した後、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去するので、更に一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法をL1、得られる位相差フィルムの幅方向寸法をL2としたときに、L1/L2を1.1以上にするので、幅方向における正面レターデーションRoのばらつきが良好であり、光学特性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、テンター延伸機を用いて位相差フィルムを製造する方法の一例を説明するための模式的な概略構成図である。
【図2】図2は、溶融押出成形法により、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0019】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、横一軸延伸法による位相差フィルムの製造方法である。
【0020】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、テンター延伸機を用いて、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルムを、幅方向(横方向)に一軸延伸(横一軸延伸)する。次に、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去することにより、位相差フィルムを得る。本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法をL1、得られる位相差フィルムの幅方向寸法をL2としたときに、L1/L2を1.1以上にする。すなわち、本発明では、下記式(1)を満たすようにして、位相差フィルムを製造する。
【0021】
L1/L2≧1.1 ・・・式(1)
【0022】
図1は、テンター延伸機を用いて、位相差フィルムを製造する方法の一例を説明するための模式的な概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、例えば、テンター延伸機1内において、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルム2を、予熱ゾーン5、延伸ゾーン6、リラックス処理ゾーン7、及び冷却ゾーン8をこの順で通過させる。
【0024】
先ず、例えば、ロール状の原反フィルムから、長尺状のフィルム2を巻き出して、フィルム2の幅方向の両側の端部2a,2bを、テンタークリップ等の任意の把持手段3により把持する。フィルム2を矢印Xに示す方向に搬送して、予熱ゾーン5を通過させ、一軸延伸前のフィルム2を加熱する。
【0025】
次に、予熱ゾーン5に続く延伸ゾーン6において、フィルム2を一軸延伸するために、端部2a,2bを把持している把持手段3を互いに離間する方向に徐々に変位させながら、フィルム2を矢印Xに示す方向に搬送する。このように、端部2a,2bを把持手段3により把持し、該把持手段3を離間させることにより、フィルム2を、幅方向に一軸延伸することが好ましい。
【0026】
把持手段3により把持されているフィルム2部分及びその近傍は、延伸されにくく、延伸が不完全な状態となる。本願発明者は、得られる位相差フィルムの幅方向における正面レターデーションRoのばらつきを良好にするためには、一軸延伸前のフィルム2の幅方向寸法L1と、得られる位相差フィルムの幅方向寸法L2とが、上記式(1)の関係を満たすことが重要であることを見出した。
【0027】
上記一軸延伸工程における延伸倍率の好ましい下限は1.1倍、好ましい上限は5倍、より好ましい上限は4倍、更に好ましい上限は3倍である。延伸倍率は、1.1〜3.0倍の範囲内であることが特に好ましい。延伸倍率が上記好ましい下限を満たすと、より一層良好な位相差を達成でき、必要な遅相軸精度を充分に確保できる。このため、液晶表示装置の表示品質をより一層高めることができる。延伸倍率が上記好ましい上限を満たすと、フィルムの破断がより一層生じ難くなる。
【0028】
一軸延伸する際のフィルム2の温度は、予熱ゾーン5の温度を制御することにより調整できる。一軸延伸する際のフィルム2の温度は、位相差フィルムに付与したい補償位相差量によって適宜に調整される。フィルム2を、該フィルム2を構成する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg近傍の温度で一軸延伸することが好ましい。これによって、非晶性熱可塑性樹脂の分子を所定方向に配向させることができる。なお、本明細書において、ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計によって測定される。
【0029】
非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、一軸延伸する際のフィルム2の温度T1は、(Tg−20)℃〜(Tg+35)℃の範囲内であることが好ましい。上記温度T1のより好ましい下限は(Tg−10)℃、より好ましい上限は(Tg+25)℃である。上記温度T1が上記好ましい下限を満たすと、延伸時にフィルム2がより一層破断し難くなる。上記温度T1が上記好ましい上限を満たすと、位相差フィルムの正面レターデーションRoがより一層良好になる。
【0030】
テンター延伸機1内の延伸ゾーン6に続くリラックス処理ゾーン7において、一軸延伸した後、一軸延伸されたフィルム2を連続的に幅方向に、0.5〜30%のリラックス率でリラックス(熱弛緩)処理することが好ましい。該リラックス処理は、一軸延伸されたフィルム2の幅方向の両側の端部を切断して、除去する前に行われる。特に、延伸倍率1.1〜3.0倍で一軸延伸されたフィルムを連続的に幅方向に、0.5〜30%のリラックス率でリラックス処理することが好ましい。一軸延伸されたフィルム2をリラックス処理することにより、フィルム2の幅方向の張力分布を均一にすることができる。上記リラックス率のより好ましい上限は20%、更に好ましい上限は10%である。上記リラックス率は、0.5〜10%の範囲内であることが特に好ましい。上記リラックス率が上記好ましい下限を満たすと、一軸延伸されたフィルム2の幅方向の張力分布がより一層均一になり、位相差フィルムの幅方向における正面レターデーションRoのばらつきがより一層良好になる。上記リラックス率が上記好ましい上限を満たすと、フィルム2が弛みすぎることなく、テンター延伸機1内でフィルム2が擦れて破断することをより一層抑制できる。
【0031】
上記リラックス率は、下記式(11)により求められる。
【0032】
リラックス率(%)=(一軸延伸終了点のフィルム幅−リラックス処理終了点のフィルム幅)/一軸延伸終了点のフィルム幅×100 ・・・式(11)
【0033】
非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、リラックス処理におけるフィルム2の温度T2は、(Tg−30)℃〜(Tg+35)℃の範囲内であることが好ましい。上記温度T2のより好ましい下限は(Tg−20)℃、より好ましい上限は(Tg+25)℃である。上記温度T2が上記好ましい下限を満たすと、リラックス処理が十分となり、位相差フィルムの幅方向における正面レターデーションRoのばらつきをより一層良好にすることができる。上記温度T2が上記好ましい上限を満たすと、位相差フィルムの正面レターデーションRoがより一層低下し難くなる。
【0034】
リラックス処理ゾーン7に続く冷却ゾーン8において、リラックス処理されたフィルム2を冷却することが好ましい。リラックス処理ゾーン7が設けられていない場合には、延伸ゾーンに続く冷却ゾーンにおいて、一軸延伸されたフィルムを冷却することが好ましい。非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、一軸延伸され、かつリラックス処理されたフィルム2は、Tg未満の温度であって、上記延伸温度よりも5℃以上低い温度に冷却されることが好ましい。リラックス処理が行われない場合には、一軸延伸されたフィルムは、Tg未満の温度であって、上記延伸温度よりも5℃以上低い温度に冷却されることが好ましい。これにより、熱緩和による位相差フィルムの正面リタデーションRoの低下をより一層抑制できる。
【0035】
次に、一軸延伸され、かつリラックス処理されたフィルム2の幅方向の両側の端部2a,2bを切断して、除去する。リラックス処理が行われない場合には、一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去する。フィルム2の幅方向の両側の端部2a,2bは、テンタークリップ等の把持手段3にて把持されており、延伸されていない。このため、把持手段3により把持されたフィルム2部分を含むフィルムの両端の端部2a,2bを切断(スリット)して除去する。このとき、上記式(1)の関係を満たすように、両端の端部2a,2bを除去する。
【0036】
このようにして、横一軸延伸フィルムである位相差フィルムを得ることができる。
【0037】
光学特性により一層優れた位相差フィルムを得る観点からは、幅方向における正面レターデーションRoの平均値が、40nm以上である位相差フィルムを得ることが好ましい。さらに、光学特性により一層優れた位相差フィルムを得る観点からは、幅方向における正面レターデーションRoの最大値及び最小値がそれぞれ、(幅方向における正面レターデーションRoの平均値)±3nmの範囲内である位相差フィルムを得ることが好ましい。
【0038】
上記位相差フィルムの幅方向における正面レターデーションRoは、位相差フィルムの幅方向に100mm間隔で測定する。各測定点における正面レターデーションRoの最大値及び最小値は、幅方向における正面レターデーションRoのばらつきを示す。上記正面レターデーションRoは、下記式(2)で表される。
【0039】
Ro (nm)=|nx−ny|×d ・・・式(2)
nx:フィルム面内の最大屈折率
ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率
d:位相差フィルムの平均厚み(nm)
【0040】
得られる位相差フィルムは、VA(Vertically Alignment)方式及びMVA(Multi−domain Vertical Alignment)方式の液晶表示装置の視野角依存性を改善するために好適に用いられる。本発明に係る位相差フィルムの製造方法により得られる位相差フィルムの使用により、色むら等の光学的な品質低下を抑制できる。
【0041】
以下、本発明に係る位相差フィルムの製造方法に用いられる非晶性熱可塑性樹脂及び非晶性熱可塑性樹脂フィルムの詳細を説明する。さらに、本発明に係る位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムを用いた複合偏光板、偏光板及び液晶表示装置の詳細を説明する。
【0042】
(非晶性熱可塑性樹脂)
上記フィルムを構成する非晶性熱可塑性樹脂の透明性は、高いことが好ましい。透明性が高い上記非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系、ポリスルホン系、ポリエーテルスルホン系、ポリスチレン系、環状オレフィン系、ポリビニルアルコール系、酢酸セルロース系、ポリ塩化ビニル系、ポリ(メタ)アクリル系、ポリアリレート系又はポリアミド系などの高分子が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル系高分子としては、ポリメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。非晶性熱可塑性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記非晶性熱可塑性樹脂は、環状オレフィン系高分子であることが好ましく、ノルボルネン系樹脂であることがより好ましい。ノルボルネン系樹脂は、光弾性係数が小さく、外部応力に対するレターデーション安定性に優れている。
【0044】
上記ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加(共)重合体及びこれらの誘導体等が挙げられる。ノルボルネン系樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
開環を伴う(共)重合体では、必然的に、不飽和結合が残留することがある。さらに、付加(共)重合体であっても、モノマーの種類によっては不飽和結合が残留することがある。熱履歴による酸化劣化の抑制又は紫外線等による着変色の抑制などの耐久性を重視する観点からは、不飽和二重結合の量を少なくするために、上記ノルボルネン系樹脂は、水素添加により飽和されていることが好ましい。
【0046】
位相差フィルムの機能を阻害しない範囲において、フィルム成形中における非晶性熱可塑性系樹脂の劣化防止並びに位相差フィルムの耐熱性、耐紫外線性及び平滑性等を向上させるために、上記非晶性熱可塑性樹脂に各種の添加剤が添加されてもよい。該添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤及び帯電防止剤等が挙げられる。上記添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤等が挙げられる。上記熱劣化防止剤としては、ラクトン系熱劣化防止剤等が挙げられる。上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びアクリロニトリル系紫外線吸収剤等が挙げられる。上記滑剤としては、脂肪族アルコールのエステル系滑剤、多価アルコールの部分エステル系滑剤及び部分エーテル系滑剤等が挙げられる。上記帯電防止剤としては、アミン系帯電防止剤等が挙げられる。
【0048】
(非晶性熱可塑性樹脂フィルム)
上記非晶性熱可塑性樹脂を用いて、一軸延伸前のフィルム(原反フィルム)を得る方法としては、従来から汎用されている方法を用いることができる。一軸延伸前のフィルムは、実質的に無延伸のフィルムである。
【0049】
一軸延伸前のフィルムを得る方法としては、具体的には、非晶性熱可塑性樹脂を溶解した溶液を適宜の担持体上に流延した後、溶剤を乾燥により除去し、更に担持体から剥離してフィルムを得る溶液キャスト法、並びに非晶性熱可塑性樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けた金型からフィルム状に押し出してフィルムを得る溶融押出法等が挙げられる。コストが安く、かつ環境負荷が小さいことから、溶融押出法が好ましい。一軸延伸前のフィルムは、溶融押出フィルムであることが好ましい。
【0050】
図2に、溶融押出成形法により、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する装置の一例を示す概略構成図を示す。
【0051】
図2に示す装置11を用いて、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する際には、先ず、押出機12から溶融状態の非晶性熱可塑性樹脂を押出し、金型13に供給する。
【0052】
金型13に供給された非晶性熱可塑性樹脂を金型13の開口から押出し、排出し、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する。排出されたフィルムAを、冷却ロール14に接触させ、冷却する。冷却ロール14にフィルムAを押圧するために、タッチロール15が設けられている。
【0053】
冷却ロール14により冷却されたフィルムAを、冷却ロール16,17により更に冷却して、固化し、巻き取り、ロール状の原反フィルムを得る。
【0054】
金型13の開口から、フィルムAが冷却ロール14に接する接点までの距離、すなわちエアギャップは短いほうが好ましい。エアギャップが短いと、外乱による厚みばらつきを低減できる。すなわち、適正な厚みプロファイルを有するフィルムを安定的に製造できる。エアギャップは、70mm以下であることが好ましい。
【0055】
フィルムAが冷却ロール14に接触する際に、冷却ロール14とフィルムAとの間に空気が入らないことが望ましく、かつ冷却速度がフィルムAの全面で均一であることが望ましい。従って、フィルムAと冷却ロール14との接点の下流側近傍において、タッチロール15などの押圧手段により、フィルムAを冷却ロール14側に押圧することが望ましい。
【0056】
押圧手段は、タッチロール15に限定されない。該押圧手段として、エアナイフ又は静電ピニング等を用いてもよい。安定性に優れており、かつフィルムAを均一に冷却ロール14に圧接させ得るため、弾性材料により形成された表面を有するタッチロールが好適に用いられる。
【0057】
冷却ロール14の温度は、フィルムAを構成する非晶性熱可塑性樹脂の種類によって適宜変更され得る。非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)としたとき、冷却ロール14の温度は、(Tg−10)℃〜(Tg−100)℃の範囲内であることが望ましい。
【0058】
フィルムAの平滑性と透明性とを確保するために、冷却ロール14の表面の表面粗さは、JIS B 0601に定義されているRy値で、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0059】
冷却ロール14は様々な材料で構成され得る。冷却ロール14の表面は、金属により形成されていることが好ましく、炭素鋼又はステンレス鋼により形成されていることがより好ましい。金属表面を有する冷却ロール14を用いた場合、冷却ロール14の温度を速やかに一定温度に維持することができ、かつフィルムAを効率よく冷却できる。
【0060】
フィルムAの長さ方向の厚み精度を高めるために、冷却ロール14の偏心振れは小さい方が望ましい。冷却ロール14の偏心振れは、30μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより望ましい。
【0061】
金型13の温度がばらつくと非晶性熱可塑性樹脂の流動性が変化するので、金型13の温度は安定していることが望ましい。金型13のフィルムAを構成する溶融樹脂に接触する部分の温度は、設定温度±0.5℃以内であることが望ましく、設定温度±0.2℃以内であることがより望ましい。
【0062】
一般に、冷却ロール14の温度は、非晶性熱可塑性樹脂の固化点に大きく影響する。従って、冷却ロール14を様々な温度に温度調節できる構造を有するように、冷却ロール14は軸芯部に、温度調節手段を有することが望ましい。好ましい温度調節手段としては、シーズヒーターが軸芯部に組み込まれており、冷却ロール14を適当な温度に設定するように加熱する電気加熱方式の温度調節手段、誘導発熱コイルによる電磁誘導作用による温度調節手段、並びに軸芯部に設けられた流路に温度制御用の熱媒体を循環させて冷却ロールを設定温度に加熱する熱媒体循環加熱方式などの温度調節手段等が挙げられる。なかでも、熱媒体循環加熱方式が好ましい。該熱媒体循環方式に用いられる熱媒体として、気体を用いてもよく、水又は油などの液体を用いてもよい。上記熱媒体として、熱容量が大きい水又は油などの液体を用いることが望ましい。熱媒体流路の好適な例としては、内部に二条スパイラル構造又は四条スパイラル構造を有するものが挙げられる。
【0063】
(複合偏光板、偏光板及び液晶表示装置)
本発明に係る複合偏光板は、位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の面に積層された偏光板とを備える。上記位相差フィルムと上記偏光板とは一体化されていることが好ましい。
【0064】
本発明に係る偏光板は、上記位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の面に積層された接着剤層と、該接着剤層の上記位相差フィルムが積層された面とは反対側の面に積層された偏光子とを備える。上記位相差フィルムと上記偏光子とは、上記接着剤層を介して一体化されていることが好ましい。
【0065】
液晶表示装置は、例えば液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に、上記複合偏光板又は上記偏光板とを積層することにより得ることができる。この液晶表示装置は、液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に積層された上記複合偏光板又は偏光板とを備える。
【0066】
上記位相差フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられる。上記位相差フィルムは、単独で用いられてもよく、偏光板と積層されて複合偏光板として用いられてもよい。さらに、位相差フィルムは、偏光板の液晶セル側の保護フィルムのかわりとして、接着剤層を介して偏光子に積層されて偏光板として用いられてもよい。
【0067】
上記位相差フィルムを単独で用いた液晶表示装置を製造する方法としては、液晶セルを構成している一対の基板のそれぞれの外表面に偏光板を配設し、上記液晶セルの基板のうちの少なくとも一方の基板と該基板に対向する偏光板との間に上記位相差フィルムを配置し、更に、液晶セルにおける液晶表示面とは反対側の基板側に配設した偏光板上に、バックライト型又はサイドライト型の公知の照明システムを配設し、駆動回路を組み込む方法等が挙げられる。上記位相差フィルムは、液晶表示面側の基板の外表面に配置されることが好ましい。
【0068】
以下、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0069】
(実施例1)
非晶性熱可塑性樹脂として飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア1420」)を用意した。示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、商品名「DSC220C」)を用いて測定された上記飽和ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度Tgは135.5℃であった。
【0070】
上記飽和ノルボルネン系樹脂を一軸押出機に供給して、溶融し、混練し、一軸押出機の先端に取り付けたTダイから溶融押出しして、平均厚み45μm、幅方向寸法1600mmの長尺状の原反フィルムを得た。
【0071】
得られた長尺状の原反フィルムを連続的に巻き出して、テンター延伸機を用いて、幅方向(横方向)に一軸延伸した。フィルムを幅方向寸法1600mmのままで、テンター延伸機内に投入し、フィルムを連続的に138℃に加熱して、延伸倍率1.60倍で一軸延伸した。
【0072】
その後、テンター延伸機内で、一軸延伸されたフィルムを連続的に幅方向に、フィルム温度130℃及びリラックス率2%の条件でリラックス処理をし、次に23℃まで徐々に冷却した。
【0073】
次に、得られる位相差フィルムの幅方向寸法が1300mmとなるように、一軸延伸され、かつリラックス処理されたフィルムの両側の端部を切断して、除去し、ロール状に連続的に巻き取った。このようにして、厚みが28.0μmの位相差フィルムを得た。
【0074】
一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法L1は1600mm、得られた位相差フィルムの幅方向寸法L2は1300mmであるため、L1/L2は1.23であり、L1/L2≧1.1の関係を満たしていた。
【0075】
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−21ADH」)を用いて、得られた位相差フィルムの幅方向における正面レターデーションRoを、フィルムの幅方向に100mm間隔で複数の測定点で測定し、平均値を算出した。この結果、Roの平均値は120.2nmであった。さらに、Roの最大値は122.3nm、Roの最小値は118.7nmであった。従って、Roの最大値及び最小値はそれぞれ、(Roの平均値:120.2)±3nmの範囲内であった。
【0076】
(比較例1)
長尺状の原反フィルムの幅方向寸法、すなわち一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法L1を900mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、厚み27.8μmの位相差フィルムを得、得られた位相差フィルムを評価した。
【0077】
一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法L1は900mm、得られた位相差フィルムの幅方向寸法L2は1300mmであるため、L1/L2は0.69であり、L1/L2≧1.1の関係を満たしていなかった。
【0078】
Roの平均値は125.6nmであった。さらに、Ro最大値は130.2nm、Roの最小値は121.7nmであった。従って、Roの最大値及び最小値はそれぞれ、(Roの平均値:125.6nm)±3nmの範囲外であった。
【0079】
(比較例2)
長尺状の原反フィルムの幅方向寸法、すなわち一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法L1を900mmとし、かつリラックス処理せずにリラックス率を0%にしたこと以外は実施例1と同様にして、厚み27.7μmの位相差フィルムを得、得られた位相差フィルムを評価した。
【0080】
一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法L1は900mm、得られた位相差フィルムの幅方向寸法L2は1300mmであるため、L1/L2は0.69であり、L1/L2≧1.1の関係を満たしていなかった。
【0081】
Roの平均値は126.6nmであった。さらに、Ro最大値は132.4nm、Roの最小値は120.3nmであった。従って、Roの最大値及び最小値はそれぞれ、(Roの平均値:126.6nm)±3nmの範囲外であった。
【符号の説明】
【0082】
1…テンター延伸機
2…フィルム
2a,2b…端部
3…把持手段
5…予熱ゾーン
6…延伸ゾーン
7…リラックス処理ゾーン
8…冷却ゾーン
11…装置
12…押出機
13…金型
14…冷却ロール
15…タッチロール
16,17…冷却ロール
A…フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンター延伸機を用いて、非晶性熱可塑性樹脂により形成された長尺状のフィルムを、幅方向に一軸延伸する工程と、
一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去することにより、位相差フィルムを得る工程とを備え、
一軸延伸前のフィルムの幅方向寸法をL1、得られる位相差フィルムの幅方向寸法をL2としたときに、L1/L2を1.1以上にする、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記一軸延伸する工程における延伸倍率を1.1〜3.0倍とし、
一軸延伸されたフィルムの幅方向の両側の端部を切断して、除去する前に、前記テンター延伸機内で、一軸延伸されたフィルムを連続的に幅方向に、0.5〜10%のリラックス率でリラックス処理する工程をさらに備える、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
幅方向における正面レターデーションRoの平均値が40nm以上であり、かつ幅方向における正面レターデーションRoの最大値及び最小値がそれぞれ、(幅方向における正面レターデーションRoの平均値)±3nmの範囲内である位相差フィルムを得る、請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、
前記位相差フィルムの一方の面に積層された偏光板とを備える、複合偏光板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、
前記位相差フィルムの一方の面に積層された接着剤層と、
前記接着剤層の前記位相差フィルムが積層された面とは反対側の面に積層された偏光子とを備える、偏光板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−128271(P2011−128271A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285008(P2009−285008)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】