説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】広い範囲に亘り簡便かつ容易にフィルムのレタデーション値を容易にコントロールできる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン−ノルボルネン共重合体などの環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体(フィルム又はストランド状成形体)を、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度以上の温度(溶融温度など)で加熱処理した後、フィルム又はシート状に成形して、少なくとも一軸方向に延伸倍率1.05〜5倍で延伸処理し、位相差フィルムを製造する。環状オレフィン系樹脂は非晶質の透明樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂で構成され、光学部材として有用な位相差フィルムを製造する方法、この方法で製造された位相差フィルム、並びにフィルムのレタデーション値を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性、耐薬品性、防湿性、機械的特性などに優れるため、光学用途や、医薬又は医療機器用途などの材料として用いられている。例えば、フィルム状又はシート状成形品や、ブリスターパッケージなどの包装材料などにも利用されている。なかでも、その優れた透明性に着目して、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)を構成する光学フィルム、例えば、位相差フィルム、偏光フィルム及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、視野角拡大(補償)フィルムなどへの使用が検討されている。
【0003】
環状オレフィン系樹脂フィルムの製造方法として、有機溶媒を用いた流延法が知られている。例えば、特開2007−98643号公報(特許文献1)には、環状オレフィン系樹脂の溶剤溶液を支持体上に流延してフィルムを形成する工程、前記支持体から前記フィルムを剥離する工程、および剥離した前記フィルムを延伸する工程を含むフィルムの製造方法において、フィルム中の残留溶剤が15〜60質量%の状態で前記フィルムの剥離と延伸を行う環状オレフィン系樹脂フィルムの製造方法が開示されている。
【0004】
環状オレフィン系樹脂を溶融押し出し成形し、フィルム又はシートを延伸及び熱処理し、環状オレフィン系樹脂フィルムを製造することも知られている。例えば、特開2006−194997号公報(特許文献2)には、実質的に無配向のノルボルネン系樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂フィルムの幅方向両端部をテンタークリップにより把持して、幅方向に拡幅しながら延伸倍率1.2〜2.5倍で一軸延伸し、二軸性を有する位相差フィルムを製造する方法が開示されている。この文献には、延伸されたフィルムの配向を揃える熱緩和工程及び配向を固定する冷却工程も記載され、上記熱緩和工程の温度が高過ぎると、レターデーション値が低下するので、この工程の温度はTg〜Tg+10℃であって、延伸温度より低い温度であるのが好ましいことも記載されている。特開2007−10882号公報(特許文献3)には、ノルボルネン系樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に一軸延伸した後、前記樹脂のガラス転移温度Tgと関連づけて、所定の温度T1(T1≦Tg−20)(℃)で冷却し、T2(Tg−20≦T2≦Tg+30)(℃)で熱処理し、位相差フィルムを製造することが開示されている。特開2007−10863号公報(特許文献4)には、高い位相差を安定化させるため、エチレン−ノルボルネン共重合体などの熱可塑性樹脂で構成され、かつ少なくとも一軸延伸したフィルムを、90℃〜(ガラス転移温度−5℃)の温度で加熱処理し、位相差フィルムを製造する方法が開示されている。しかし、これらの方法では、フィルムのレタデーションを向上させるためには、高い延伸倍率で延伸する必要がある。そのため、環状オレフィン系樹脂フィルムのレタデーション値を高めるには限度がある。
【0005】
特開平6−298956号公報(特許文献5)には、単層または多層のフィルムであって、少なくとも1層が、メタロセン触媒を用いて環式オレフィン系単量体(ノルボルネンなど)と非環式オレフィン系単量体(エチレンなど)とを共重合させた部分的に結晶質のシクロオレフィン共重合体を含むフィルムが開示されている。この文献には、シクロオレフィン共重合体が交互に並んだシクロオレフィン/オレフィン配列を含んでいること、部分的に結晶質のシクロオレフィン共重合体を溶融押出して急速に冷却してもあまり結晶化していないが、延伸後、熱処理によりフィルムの結晶化度が増加することも記載されている。しかし、シクロオレフィン系共重合体が部分的に結晶質であるため、透明性が低く、光学的特性を向上させることが困難である。
【特許文献1】特開2007−98643号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−194997号公報(特許請求の範囲,[0035][0041])
【特許文献3】特開2007−10882号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2007−10863号公報(特許請求の範囲,[0006])
【特許文献5】特開平6−298956号公報(特許請求の範囲,[0036][0046][0047])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、広い範囲に亘りレタデーション値を容易にコントロールできる位相差フィルムの製造方法、及びフィルムのレタデーション値を向上させる方法、並びにレタデーション値がコントロールされた位相差フィルムを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、透明性が高く、フィルムのレタデーション値を大きく向上できる位相差フィルムの製造方法、この方法により得られた位相差フィルムを提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、簡便かつ容易にフィルムのレタデーション値を向上できる位相差フィルムの製造方法、この方法により得られた位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、無配向の環状オレフィン系樹脂の成形体(ペレットなど)に代えて、延伸又は配向処理した環状オレフィン系樹脂の成形体(フィルム状又はストランド状成形体など)を加熱処理すると、加熱処理により高分子の会合体又は微結晶が生成するためか、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)において、高分子量成分のピークが現れること、このような加熱処理した後、フィルム又はシート状に成形して延伸処理すると、レタデーション値を広い範囲で簡便かつ容易にコントロールできるという知見を得た。本発明はこれらの知見に基づき、さらに検討を加えて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明の方法では、環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)において加熱処理前に観測されるピークに加えて、高分子量側に新たなピークが観測される加熱処理を施した後、フィルム状に延伸処理し、位相差フィルムを製造する。前記加熱処理により、GPCで、加熱処理前の環状オレフィン系樹脂には観測されなかった新たな高分子量側のピークが発現する。この高分子量側のピークは、高分子鎖の会合体(又は微結晶体、物理的な架橋点で緩やかに架橋した高分子体など)に起因するものと推測される。
【0011】
環状オレフィン系樹脂としては、通常、非晶質の透明樹脂が使用できる。環状オレフィン系樹脂は、橋架環式シクロアルケン系単量体と共重合性単量体とを重合成分とする共重合体、例えば、ノルボルネン系単量体と鎖状オレフィン系単量体とを重合成分とするランダム共重合体(エチレン−ノルボルネン共重合体など)であってもよい。環状オレフィン系樹脂としては、通常、透明性の高い樹脂、例えば、JIS 7361−1による全光線透過率が80〜100%程度の樹脂を用いてもよい。成形体は環状オレフィン系樹脂で構成されたフィルム又はストランド状の成形体であってもよい。成形体の加熱処理温度は、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度以上の温度(例えば、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg+10℃以上の温度)であってもよく、例えば、成形体を溶融温度又は流動性を示す温度で加熱処理してもよい。また、加熱処理温度は、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg〜(Tg+150)℃の温度であってもよい。延伸工程では、少なくとも一軸方向に延伸倍率1.05〜5倍(例えば、1.1〜2倍)で延伸してもよい。また、延伸工程では、加熱処理した成形体をフィルム又はシート状に成形し、少なくとも一軸方向に延伸してもよい。
【0012】
本発明は、環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)において加熱処理前に観測されるピークに加えて、高分子量側に新たなピークが観測される加熱処理を施した後、延伸処理し、フィルムのレタデーション値を向上させる方法も包含する。さらに、本発明は、前記製造方法により得られた位相差フィルムも含む。
【0013】
なお、本明細書において、「ノルボルネン系単量体」を単に「ノルボルネン」と称する場合がある。また、「ノルボルネン系単量体の単位」とは、ノルボルネン系単量体の1又は複数の連鎖(連子)単位を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、配向又は延伸処理された成形体を加熱処理した後延伸処理するため、広い範囲に亘りレタデーション値を容易にコントロールできる。また、透明性が高く、フィルムのレタデーション値が大きく向上した位相差フィルムも得ることができる。さらに、本発明では、簡便かつ容易にフィルムのレタデーション値を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[環状オレフィン系樹脂]
本発明のフィルムを構成する環状オレフィン系樹脂は、橋架環式シクロアルカン環(又はシクロアルケン環)を有していればよく、橋架環式シクロアルケン系単量体の単独重合体(付加重合体)であってもよいが、通常、橋架環式シクロアルケン系単量体と共重合性単量体との共重合体(付加共重合体)で構成されている。橋架環式シクロアルケン系単量体としては、ノルボルネン系単量体、ジシクロペンタジエン系単量体などが例示できる。これらの単量体については、前記特許文献1〜特許文献5などを参照できる。
【0016】
ノルボルネン系単量体には、ノルボルネン、及び1又は複数の置換基を有するノルボルネン誘導体が含まれる。前記置換基としては、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基などのC1−10アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基などのC1−10アルコキシ基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシカルボニル基)、アシル基(例えば、アセチル基などのC2−5アシル基など)、アミノ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基(=O)、複素環基(ピリジル基などの窒素原子含有複素環基など)などが挙げられる。好ましい置換基は、アルキル基、アルコキシカルボニル基などであり、特にメチル基などのC1−4アルキル基(特にメチル基)である。置換位置は、特に制限されないが、通常、2−ノルボルネンにおいて、5又は6位に置換される場合が多い。置換基の数は、1〜6、好ましくは1〜4、通常、1又は2であってもよい。
【0017】
具体的なノルボルネン系単量体としては、例えば、2−ノルボルネン;5−メチル−2−ノルボルネンなどのC1−4アルキル−2−ノルボルネン;5,5又は5,6−ジメチル−2−ノルボルネンなどのジC1−4アルキル−2−ノルボルネン;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのC1−4アルコキシカルボニル−2−ノルボルネン;5,5又は5,6−ジメトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのジC1−4アルコキシカルボニル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。前記ノルボルネン系単量体は、単独で又は2種以上組み合わせて重合成分としてもよい。好ましいノルボルネン系単量体は、2−ノルボルネン、5−C1−4アルキル−2−ノルボルネン又は5,6−ジC1−4アルキル−2−ノルボルネンであり、特に、2−ノルボルネン又は5−メチル−2−ノルボルネンが好ましい。
【0018】
鎖状オレフィン系単量体としては、直鎖状又は分岐鎖状オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−C2−12鎖状オレフィンなどが挙げられる。これらの鎖状オレフィン系単量体は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。好ましい鎖状オレフィン系単量体は、α−C2−6鎖状オレフィン、特にα−C2−4鎖状オレフィン(エチレンなど)である。
【0019】
鎖状オレフィン系単量体と橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体など)との割合は、前者/後者(モル比)=90/10〜20/80、好ましくは85/15〜25/75、さらに好ましくは80/20〜30/70(例えば、75/25〜35/65)程度であってもよい。環状オレフィン系樹脂は水素添加物であってもよい。環状オレフィン系樹脂は、市販されており、例えば、ポリプラスチックス(株)から商品名「トパス(TOPAS)」、三井化学(株)から商品名「アペル」、JSR(株)から商品名「アートン(Arton)」、日本ゼオン(株)から商品名「ゼオノア(Zeonor)」、商品名「ゼオネックス(Zeonex)」として入手できる。
【0020】
好ましい環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネン系単量体と鎖状オレフィン系単量体とを重合成分とするランダム共重合体、例えば、エチレン−ノルボルネン共重合体である。
【0021】
前記共重合体は、ブロック共重合体であってもよいが、通常、ランダム共重合体である。ランダム共重合体においては、通常、単量体が連鎖していない部位(又は非連鎖部位、交互配列部位)と、単量体が連鎖している部位(又は連子部位、ブロック配列部位)とが混在する。例えば、エチレン−ノルボルネン共重合体では、下記式(1)で表されるように、ノルボルネンが連鎖していない部位と複数のノルボルネンが連鎖している部位とが存在する。
【0022】
【化1】

【0023】
本願明細書では、例えば、前記共重合体中、同一の又は異なる橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体など)が2単位連鎖している部位を「二連子部位(二連鎖部位)、又はNN−ダイアド」と称し、同一の又は異なる橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体など)が3単位連鎖している部位を「三連子部位(三連鎖部位)、又はNNN−トリアド」と称する場合がある。なお、前記二連子部位とは、前記三連子部位中に含まれる橋架環式シクロアルケン系単量体が2単位連鎖している部位は含まない意味で用いる。
【0024】
橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体など)の単位が連なった二連子部位は、共重合体中の全橋架環式シクロアルケン系単量体の単位に対し、例えば、10〜70モル%、好ましくは12〜60モル%、さらに好ましくは15〜55モル%程度であってもよい。
【0025】
また、二連子部位(ノルボルネン系単量体などの二連子部位)の立体配置について、共重合体中二連子部位の二組の不斉炭素が同じ立体配置である場合をメソ型(下記式(2))、立体配置が互いに異なる場合をラセモ型(下記式(3))と称する。
【0026】
【化2】

【0027】
本発明では、前記共重合体中に含まれる二連子部位について、メソ型とラセモ型との割合は、例えば、前者/後者(モル比)が0.2以上(例えば、0.2〜200程度)、好ましくは1以上(例えば、1〜150程度)、さらに好ましくは2以上(例えば、2〜130程度)、特に2.5以上(例えば、3〜120程度)であってもよい。メソ型とラセモ型との割合は、0.5〜20、好ましくは1〜18、さらに好ましくは1.5〜17程度であってもよい。メソ型とラセモ型との割合が前記割合である共重合体は、優れた複屈折、成形性(特に、薄膜成形性)を有する。
【0028】
三連子部位は、光学用途に使用する場合など、固有複屈折の点から、共重合体中の全橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体など)の単位に対し、例えば、1〜30モル%、好ましくは2〜30モル%、さらに好ましくは2.5〜28モル%、特に3〜26モル%(例えば、3.5〜25モル%)程度であってもよい。このような割合で前記三連子部位を含む共重合体は、優れた複屈折、成形性(特に、薄膜成形性)を有する。さらに、前記三連子部位の割合に応じ、位相差の大きさ(特に、厚み方向の位相差の大きさ)を調整することができる。
【0029】
また、三連子部位(ノルボルネン系単量体の三連子部位など)の立体配置については、前記と同様に、三連子部位中、2単位連鎖している部位の立体配置を組み合わせて表すことができ、具体的には、メソ−メソ型、メソ−ラセモ型、ラセモ−ラセモ型として表される。光学用途に使用する場合は、固有複屈折の点から、メソ−メソ型を多く有していることが好ましい。
【0030】
なお、前記共重合体は、本発明の特性を損なわない限り、他の共重合性単量体を含んでいてもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、他の環状オレフィン系単量体(例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどの単環式C3−10シクロアルケン、又はこれらの誘導体(アルキル置換体など));ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど);ジエン系単量体(例えば、ブタジエン、イソプレンなど);(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、又はこれらの誘導体((メタ)アクリル酸エステルなど)など)などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。他の共重合性単量体の割合は、全単量体に対し、例えば、0〜50モル%程度の範囲から選択でき、好ましくは1〜40モル%、さらに好ましくは3〜30モル%(特に5〜20モル%)程度であってもよい。
【0031】
なお、鎖状オレフィン系単量体と橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体)の割合、および二連子部位、三連子部位、並びにメソ−ラセモ比は、13C−NMRによって観測されたスペクトルの積分値より算出できる。それぞれのスペクトルにより同定されるポリマーの一次構造は、「Macromol. Chem. Phs. 1999, Vol. 200, Page 1340」、「Macromolecules 2004, Vol. 37, Page 9681」、「Macromolecules 2000, Vol. 33 , Page 8931」等に記載されている。
【0032】
鎖状オレフィン系単量体がエチレンで、橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体)がノルボルネンである場合を例にとって、以下に、具体的なパラメータの算出方法について説明する。
【0033】
まず、組成の算出について説明する。組成は、13C―NMRによって得られたスペクトルチャートのケミカルシフト値44.5−56.0ppmで観測される積分値:IC2,C3(ノルボルネン環の2,3位に由来)とケミカルシフト値37.0−44.0ppmで観測される積分値:IC1,C4(ノルボルネン環の1,4位の炭素に由来)、ケミカルシフト値36.5−33.0ppmで観測される積分値:IC7(ノルボルネン環の7位の炭素に由来)、ケミカルシフト値44.5−56.0ppmで観測される積分:IC5,C6+I(ノルボルネン環の5,6位の炭素およびエチレン部の炭素に由来)より、以下の式から求めることができる。
【0034】
【数1】

【0035】
二連子部位、三連子部位の量の比率は、「Macromol. Chem. Phs. 1999, Vol. 200, Page 1340」に記載されている6つのトリアド(EEE、EEN、NEN、NNN、NNE、ENE)の分布を求め、以下の式から算出することができる。
【0036】
【数2】

【0037】
NNダイアドのメソ体のモル分率は、CのENNE−メソ体のピーク(28.0−28.5ppm)の積分値とCのENNE−メソ体のピーク(31.5−31.8ppm)の合計を、C、C、エチレン部分の領域のピーク(29.4−32.5ppm)で除した値と、CのENNE−メソ体のピーク(33.1−33.2ppm)の積分値をノルボルネンの組成およびC領域(32.6−39ppm)の積分値で除した値との平均値から求められる。同様にしてNNダイアドのラセモ体のモル分率は、CのENNE−ラセモ体のピーク(28.0−28.5ppm)の積分値とCのENNE−ラセモ体のピーク(31.2−31.4ppm)の合計をC、C、エチレン部分の領域のピーク(28−32.5ppm)で除した値と、CのENNE−ラセモ体のピーク(33.4−33.8ppm)の積分値をノルボルネンの組成およびC領域(32.6−39ppm)の積分値で除した値との平均値から求められる。
【0038】
なお、本発明におけるサンプル調製条件および測定条件の一例は以下の通りである。
【0039】
溶媒:1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2(10容量%ヘキサメチルジシラン含有)
濃度:70mg/mL
装置:Bruker AVANCE600(水素原子の共鳴周波数:600MHz)
サンプルチューブ径:10mm
測定方法:パワーゲート式
パルス幅:15μsec
遅延時間:2.089sec
データ取り込み時間:0.911sec
観測周波数幅:35971.22Hz
デカップリング:完全デカップリング
積算回数:18000回
ケミカルシフトのリファレンス:ヘキサメチルジシランのピークを−2.43ppmとする。
【0040】
前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、60〜190℃、好ましくは70〜180℃、さらに好ましくは75〜175℃(例えば、100〜170℃)程度であり、110〜170℃程度であってもよい。
【0041】
前記環状オレフィン系樹脂の数平均分子量は、0.5×10〜30×10程度の範囲から選択でき、通常、1×10以上、例えば、1.5×10〜20×10、好ましくは2×10〜10×10程度である。上記分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりトルエンを溶媒として60℃で測定することができる。分子量は示差屈折率計と差圧粘度計より標準ポリスチレンを用いてユニバーサルキャリブレーションを作成し、このユニバーサルキャリブレーションから求めた分子量である。
【0042】
環状オレフィン系樹脂は結晶性であってもよいが、通常、非晶質の透明樹脂であるのが好ましい。このような樹脂を用いると、透明性及び光学的特性に優れたフィルムを製造できる。環状オレフィン系樹脂の結晶性及び非晶性は、示差走査熱量計(DSC)などの分析手段により吸熱ピークの有無とそのピーク強度で評価できる。好ましい環状オレフィン系樹脂は、通常、DSC分析により吸熱ピークを示さない。
【0043】
また、本発明で用いる環状オレフィン系樹脂は配向又は延伸した成形体を加熱処理することにより、会合体又は微結晶が生成するためか、GPCにより、加熱処理前の環状オレフィン系樹脂にはない高分子量成分のピークが観測されるが、このような挙動は溶液状態で観察されてもよい。すなわち、本発明で用いる環状オレフィン系樹脂は、有機溶媒に溶解し、特定の条件で調製した試料のDSC分析において吸熱ピーク、すなわち溶液中での分子鎖の秩序構造(会合体又は微結晶)の形成が観測される樹脂であってもよい。より詳細には、環状オレフィン系樹脂を含有する溶液のDSC測定による吸熱ピークは、例えば、次のようにして観測できる。環状オレフィン系樹脂2gをデカリン8.8gに入れ、窒素雰囲気下、120℃で3時間攪拌して均一に溶解させた後、23℃に冷却し放置する。この溶液は、例えば、温度120℃から23℃になった直後は流動性の高い溶液であるが、時間の経過とともに溶液粘度が高くなり、24時間後には流動性を全く示さないゲル状になる場合がある。この試料10mgをDSC用の溶液セル(特に溶剤用気密セル)に封入し、20℃/分の速度で室温から昇温することにより、分子鎖の秩序構造(会合体又は微結晶)が崩れる吸熱ピーク又は融解ピーク(例えば、92℃程度での吸熱ピーク)が観測される。また、前記試料を上記と同様にしてDSC分析に供しても同様の吸熱ピークが観察される。なお、上記吸熱ピーク又は融解ピークは初回の測定(First Run)で観測され、2回目以降の測定では観測されない場合がある。
【0044】
また、環状オレフィン系樹脂は、透明性の高い樹脂であるのが好ましくは、例えば、JIS 7361−1による全光線透過率が80〜100%、好ましくは85〜98%、さらに好ましくは90〜98%(例えば、91〜95%)程度である。
【0045】
前記環状オレフィン系樹脂は、慣用の方法、例えば、チーグラー触媒又はメタロセン触媒を用い、重合成分(又は単量体)を付加重合することにより調製できる。なお、特開2007−9010号公報(参考例1)、特開2006−83266号公報(実施例1)などを参照し、触媒の種類に応じて、橋架環式シクロアルケン系単量体の連鎖(連子)部位の立体規則性(メソ型とラセモ型との割合)を制御してもよい。
【0046】
前記環状オレフィン系樹脂は、他の熱可塑性樹脂、例えば、鎖状オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などと組み合わせてもよい。これら他の熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これら他の熱可塑性樹脂のうち、環状オレフィン系樹脂との相溶性などの点から、鎖状オレフィン系樹脂が好ましい。
【0047】
鎖状オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂[例えば、低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体又はそのアイオノマー、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−(メタ)アクリレート共重合など]、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのプロピレン含有80重量%以上のプロピレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリ(メチルペンテン−1)樹脂などが挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
これらのオレフィン系樹脂のうち、低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、特に、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0049】
他の熱可塑性樹脂の割合は、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、例えば、100重量部以下であり、好ましくは50重量部以下(例えば、0.1〜50重量部)、さらに好ましくは10重量部以下(例えば、1〜10重量部)程度である。
【0050】
環状オレフィン系樹脂には、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、安定化剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤など)、可塑剤、軟化剤、着色剤、分散剤、離型剤、滑剤(例えば、ワックス類、飽和高級脂肪酸又はそのアルカリ土類金属塩、多価アルコール飽和高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドなど)、帯電防止剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、結晶核成長剤、充填剤(シリカやタルクなどの粒状充填剤や、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填剤など)などを添加してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤の割合は、特に限定されないが、種類に応じて、例えば、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、0.01〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜50重量部、好ましくは0.05〜30重量部程度であってもよい。
【0051】
[配向又は延伸処理された成形体]
前記環状オレフィン系樹脂で構成された成形体は、配向又は延伸処理されている。配向処理及び延伸処理は、環状オレフィン系樹脂の分子鎖が所定方向に配向する限り特に制限されず、電気的及び/又は磁気的作用により配向させてもよいが、例えば、所定の形態でダイから溶融押出した後、溶融押出物を所定の方向(押出方向など)に引き取って配向又は延伸したり、溶融押出した後、冷却して延伸することにより配向させる場合が多い。より具体的には、例えば、環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物を溶融混練してダイ(例えば、Tダイ、サーキュラーダイ、筒状ダイなど)からフィルム状(シート状)又はストランド状(棒状、線状、繊維状など)の形態で押出し、ガラス転移温度Tg以上の温度(例えば、Tg〜(Tg+50)℃、好ましくはTg〜(Tg+20)℃程度の温度)で延伸することにより、配向又は延伸処理された成形体を得ることができる。フィルム状又はシート状の形態で押し出すには、慣用の押出成形法(Tダイ押出成形法、ブロー成形法など)が利用できる。延伸は一軸又は二軸延伸であってもよく、延伸倍率は各延伸方向に対して1.1〜10倍(好ましくは1.2〜8倍、さらに好ましくは1.5〜5倍)程度であってもよい。配向又は延伸処理された成形体は所定サイズにカット又は成形してもよい。
【0052】
成形体の配向又は延伸の程度は特に制限されず、例えば、厚み70μm換算で、10〜300nm、好ましくは25〜250nm(例えば、50〜230nm)、さらに好ましくは75〜220nm(例えば、100〜200nm)程度の面内方向のレタデーション値で配向していてもよい。
【0053】
前記成形体の形態は特に制限されずペレット状などであってもよいが、通常、フィルム又はシート状やストランド状である場合が多い。
【0054】
[成形体の加熱処理]
このようにして配向又は延伸処理された成形体に加熱処理を施すと、高分子鎖が配向した状態(高分子鎖に規則性をもたせた状態)で加熱するためか、高分子の会合体(又は微結晶体、物理的な架橋点で緩やかに架橋した高分子体など)が生成するようである。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により加熱処理した環状オレフィン系樹脂の分子量分布を測定すると、未加熱処理では現れなかった高分子量側にピークが観察される。一方、高分子量成分のピークが観察された環状オレフィン系樹脂を高温で高沸点溶媒(デカリンなど)に溶解し、GPCにより分子量分布を測定すると、高分子量成分のピークが消失する。これらのことから、成形体の加熱処理により高分子の会合体が生成するものと思われる。
【0055】
成形体の加熱処理温度は、会合体の融解温度未満であれば特に制限されず、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度未満(例えば、50〜150℃程度)であってもよいが、処理効率を高める点から、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)に応じて、環状オレフィン系樹脂のTg以上の温度、例えば、100〜300℃、好ましくは125〜275℃、さらに好ましくは150〜260℃(例えば、175〜250℃)程度である。加熱処理は、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tgを基準にしたとき、Tg〜(Tg+150)℃、好ましくは(Tg+30)〜(Tg+120)℃、さらに好ましくは(Tg+50)〜(Tg+100)℃程度の温度で行うことができる。加熱処理は、(Tg+10℃)以上の温度、例えば、(Tg+10)〜(Tg+130)℃、好ましくは(Tg+25)〜(Tg+100)℃程度である場合が多い。なお、非晶質の環状オレフィン系樹脂は融点を示さず、Tg近傍の温度で溶融する場合がある。このような場合も含めて、成形体は、環状オレフィン系樹脂の溶融温度(環状オレフィン系樹脂が溶融状態の温度)又は流動性を示す温度で加熱処理してもよい。成形体がフィルムである場合、延伸配向により一旦発現した位相差がほとんど消失するような熱処理工程を含んでもよい(例えば、厚み70μm換算でRe=10nm以下となるような熱処理であってもよい)。なお、環状オレフィン系樹脂の溶融開始温度は慣用の方法、例えば、JIS K7121−1987により測定できる。
【0056】
環状オレフィン系樹脂が溶融状態(又は流動状態)の温度は、例えば、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tgを基準にしたときの前記加熱処理温度であってもよく、通常、(Tg+40)〜(Tg+150)℃、さらに好ましくは(Tg+50)〜(Tg+120)℃程度であってもよい。
【0057】
さらに、成形体は減圧下で加熱してもよく常圧又は加圧して加熱処理してもよい。成形体に作用する加圧力は、例えば、1〜100MPa(例えば、3〜50MPa、好ましくは5〜25MPa)程度であってもよい。
【0058】
なお、加熱処理時間は特に制限されず、例えば、10秒〜12時間、好ましくは30秒〜6時間(例えば、1分〜1時間)程度であってもよい。
【0059】
加熱処理は、空気中で行ってもよく、不活性ガス(チッ素、ヘリウムなど)雰囲気又は真空(又は減圧)下で行ってもよい。
【0060】
[延伸処理]
加熱処理された成形体は、成形体の形態に応じて、フィルム状に延伸処理される。すなわち、加熱処理された成形体は、必要に応じてフィルム又はシート状に成形して延伸処理される。例えば、加熱処理された成形体の形態がフィルム又はシート状である場合には、そのまま延伸処理に供してもよく、必要であればフィルム又はシート状に成形して延伸処理してもよい。また、加熱処理された成形体がフィルムやシートの形態でない場合には、フィルム又はシート状に成形して延伸処理される。
【0061】
前記フィルム又はシート状の形態には、例えば、溶液流延法、溶融押出法(例えば、Tダイ法、インフレーション法など)、カレンダー法、プレス法(前記成形体を加熱加圧して成形(例えば、溶融温度でプレス成形)する方法)などの成膜法を利用して成形してもよい。加熱処理された成形体は、溶融してフィルム又はシート状の形態に成形してもよい。カレンダー法、プレス法(加熱加圧成形などの方法)で、成形体の溶融状態においては大きな撹拌剪断力を作用させることなくフィルム又はシート状の形態に成形してもよく、溶融混合又は混練して剪断力を作用させてフィルム又はシート状の形態に成形してもよい。なお、配向又は延伸処理された成形体を加熱処理して高分子量側のピークを生成又は発現させた後、フィルム又はシート成形においては、高分子量側のピーク発現の原因と思われる会合体の解離温度(擬似的な融点)未満の温度であれば、適当な剪断力を作用させてもよい。すなわち、配向又は延伸処理された成形体を加熱処理した後溶融させても、通常、会合体の解離温度以上の温度にしない限り、フィルム又はシート成形において、一旦生成した配向状態を消失させても特に支障はないようである。そのため、通常の溶融押出法、例えば、加熱処理された成形体を溶融してダイ(Tダイ、サーキュラーダイなど)からフィルム又はシート状に押出成形(又はブロー成形)することにより成形してもよい。
【0062】
得られたフィルム又はシートを延伸処理することにより位相差フィルムが得られる。なお、通常、フィルム又はシートを所定の温度に予熱して延伸する場合が多い。フィルム又はシートは少なくとも一軸方向(一軸又は二軸方向)に延伸すればよく、通常、一軸延伸する場合が多い。延伸倍率は、各延伸方向において、1.05〜10倍程度の範囲から選択でき、通常、1.05〜5倍、好ましくは1.1〜3倍、さらに好ましくは1.2〜2.5倍(例えば、1.3〜2.3倍)程度である。延伸倍率は、各延伸方向において、1.1〜2倍(例えば、1.2〜1.8倍)程度であってもよい。
【0063】
なお、延伸操作において、加熱処理した成形体(又は配向又は延伸処理された成形体)での高分子の配向方向に少なくとも延伸方向してもよく、高分子の配向方向と異なる方向(直交する方向など)に延伸してもよい。例えば、加熱処理した成形体を加熱溶融してシート状に加圧成形し、生成したシートを加熱処理した成形体(又は配向又は延伸処理された成形体)での高分子の配向方向に延伸してもよい。なお、必要であれば、延伸により生成した配向は、熱処理により緩和させてもよい。
【0064】
本発明では前記成形体に高分子の会合体が生成しているためか、位相差の発現性が向上しており、延伸によりフィルムの位相差(レタデーション値)を大きく向上できる。特に、小さな延伸倍率であってもフィルムの位相差(レタデーション値)を大きく向上できるとともに、位相差を制御することができる。そのため、広範囲にフィルムのレタデーション値を調整でき、位相差補償性能を高めることかできる。また、延伸により、靱性や耐衝撃性などの機械的強度をさらに向上させることができる。なお、二軸延伸する場合、縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率とは異なっていてもよく、同程度であってもよい。
【0065】
延伸は、環状オレフィン系樹脂のTg以上の温度、例えば、Tg〜(Tg+30)℃、好ましくは(Tg+2)〜(Tg+25)℃、さらに好ましくは(Tg+3)〜(Tg+20)℃[例えば、(Tg+5)〜(Tg+15)℃]程度の温度で行うことができる。なお、延伸時間は、一軸方向について、10〜150秒(例えば、20〜100秒)程度であってもよい。
【0066】
延伸処理した後、冷却することにより位相差フィルムが得られる。なお、延伸処理した後、必要により、高分子の配向を所定方向に揃えるため、前記延伸温度よりも低い温度(例えば、Tg〜(Tg+10)℃程度の温度)で緩和させてもよく、延伸処理又は緩和処理の後、フィルムを急冷して高分子の配向を固定してもよい。
【0067】
なお、フィルムのレタデーションには、面内方向(X軸/Y軸方向)のレタデーションReと、厚み方向(Z軸方向)のレタデーションRthとが知られている。本発明の方法では、環状オレフィン系樹脂を延伸して配向させているため、一軸延伸、逐次二軸延伸などの方法により、面内方向のレタデーションRe及び厚み方向のレタデーションRthの双方を調整することもできる。面内方向のレタデーションRe及び厚み方向のレタデーションRthは以下の式で定義できる。
【0068】
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚みを示す)
本発明の位相差フィルムでは、延伸倍率が低くても、厚み70μm換算で、面内方向のレタデーションReを10〜800nm(例えば、10〜600nm)程度の範囲でコントロールできる。また、要求される位相差性能によっても異なるが、延伸条件により、面内方向のレタデーション値を0〜600nm、厚み方向のレタデーションを−50〜600nm(例えば、0〜400nm)の範囲内でコントロールできる。面内方向のレタデーションReは、厚み70μm換算で、100〜600nm、好ましくは140〜600nm、さらに好ましくは140〜300nm(例えば、145〜300nm)程度であってもよい。また、厚み方向のレタデーションRthは、厚み70μm換算で、−50〜600nm、好ましくは−25〜500nm、さらに好ましくは−10〜300nm程度であってもよい。
【0069】
位相差フィルムの厚みは、1〜500μm程度の範囲から選択でき、通常、3〜250μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜150μm(例えば、15〜120μm)程度であってもよい。位相差フィルムの厚みは、10〜70μm(例えば、20〜50μm)程度であってもよい。
【0070】
本発明の位相差フィルムは、透明性も高く、JIS 7361−1による全光線透過率が80〜100%、好ましくは85〜98%、さらに好ましくは90〜98%(例えば、91〜95%)程度である。位相差フィルムのヘイズ(全ヘイズ)は、例えば、0.01〜30%、好ましくは0.05〜20%、さらに好ましくは0.1〜15%(特に、0.2〜10%)程度である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の位相差フィルムを液晶表示装置に使用すると、液晶物質の複屈折を効果的に補償して表示むらを解消できるとともに、高いコントラスト及び優れた視角特性で高品位な画像を表示できる。そのため、パーソナル・コンピュータのモニタ、テレビジョン、携帯電話、カー・ナビゲーション、タッチパネルなどの表示装置の光学フィルム(位相差フィルム、偏光板保護フィルム、視野角拡大(補償)フィルム、光学補償フィルムなど)として有用である。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例においては、以下のようにしてフィルムを調製した。
【0073】
実施例1
[環状オレフィン系樹脂の製造]
連続重合装置に、ノルボルネン、炭化水素系溶媒、エチレン及び水素を、ノルボルネン濃度2.95mol/L、エチレン濃度1.05mol/L、水素対エチレンの比率が0.21×10−3の条件で供給した。同時に、触媒としてラセミ−イソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド、助触媒としてメチルアルミノキサン(10%トルエン溶液)からなる触媒系を反応装置に供給した。反応装置の温度は90℃に保った。反応後、高温で減圧し溶媒を除去した。溶融状態の共重合体をストランド状に押出し、押し出されたストランドを切断して、長さ3mm、直径2mmのペレットを調製した。共重合体100重量部に対して0.6重量部の酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製「イルガノックス1010」)、および0.4重量部のペンタエリスリトールテトラステアレートを添加した。得られたエチレン―ノルボルネン共重合体のガラス転移温度(Tg)は131.3℃であった。
【0074】
[配向又は延伸処理された成形体]
得られたエチレン―ノルボルネン共重合体の樹脂をTダイつき押出機に供給し、溶融温度230℃、引き取り速度20m/分で冷却ロール上に溶融押出し、幅300mm、厚み100μmのフィルムを得た。得られた溶融押し出しフィルムを、フィルム端をチャックで固定するバッチ式2軸延伸装置を用いて135℃で、縦方向に1.3倍、横方向に1.1倍で逐次延伸を行った。得られた延伸フィルムを23℃、50%RH下で、自動複屈折計(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR、測定波長590nm)を用いて測定したところ、位相差値はRe=175nm,Rth=140nmであった。
【0075】
[熱処理]
得られた延伸フィルムを、小型プレス機(東洋精機(株)製「MINI TEST PRESS10」)を用いて、220℃、10MPaのプレス圧で3分間プレス成形することにより厚み4mmのプレスシートを作製し、さらに、220℃、15MPaのプレス圧で3分間の条件で再度プレスすることにより厚み200μmのフィルムを得た。
【0076】
得られたフィルムの中央部分の位相差値Reを、23℃、50%RH下で、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WPR、測定波長590nm)を用いて測定したところ、厚み70μm換算でRe=0.2nm,Rth=−6nmであり、延伸配向により一旦発現した位相差がほとんど消失していることが確認された。
【0077】
また、得られたフィルムのGPC測定を行った。GPC測定は、60℃で行い、溶離液にトルエンを用いた。検出器は示差屈折率計(Viscotec製 TDA302)を用い、カラムは昭和電工(株)製「Shodex GPC K−806L」を3本連結して使用した。得られたフィルムを2mg/mLの濃度に調整し、90℃、5時間かけて溶解させたトルエン溶液をGPC測定したところ、図1のクロマトグラムを得た。このクロマトグラムには主成分のピークの他に、高分子量側にピークが見られた。
【0078】
なお、前記延伸フィルムを、デカリン中で120℃、5時間かけて溶解させた溶液にトルエンを加え2mg/mL(トルエン/デカリン=1/1(vol/vol%))にした溶液をGPC測定したところ、図2のクロマトグラムを得た。このクロマトグラムでは、図1には観測された高分子量体成分のピークは消失していた。このことから熱処理により高分子の会合体又は微結晶が生成したために高分子量成分のピークが観測され、これらの会合体又は微結晶が高温で溶解することにより解離して高分子量成分のピークが観測されなかったものと思われる。
【0079】
さらに、前記延伸フィルム2gをデカリン8.8gに入れ、窒素雰囲気下、120℃で3時間攪拌して均一に溶解させた後、23℃に冷却して24時間放置したところ、流動性を全く示さず、プリン状になった。この試料10mgをDSC用の溶液セル(溶剤用気密セル)に封入し、示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製「DSC EXSTAR6200」)を用いて、20℃/分の速度で室温から150℃まで昇温させたところ、図4に示すように、約92℃の温度域に吸熱ピークが観測された。
【0080】
[延伸処理]
GPC測定に供したのと同様の延伸フィルムを、恒温ユニットを備えた引っ張り試験機(ORIENTEC社製テンシロン UCT−5T)を用いて、評価フィルムを幅20mmに切り出し、チャック間20mmで(Tg+10)℃の温度で1分間予熱したのち、引っ張り速度50mm/分で1.2倍、1.4倍、1.8倍のそれぞれの倍率に延伸し、設定倍率延伸後、速やかに室温に冷却することにより、延伸サンプルを得た。得られた延伸サンプルの中央部分の位相差値Reを、23℃、50%RH下で、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WPR、測定波長590nm)を用いて測定した。1.2倍延伸によりRe=216nm、1.4倍延伸によりRe=366nm、1.8倍延伸によりRe=408nmであった。
【0081】
比較例1
実施例1と同様にしてエチレン―ノルボルネン共重合体をTダイつき押出機に供給し、幅300mm、厚み100μmのフィルムを得た。実施例1と同様の方法で、位相差値を測定したところ、Re=0nm,Rth=4nmであった。
【0082】
得られた未延伸フィルムを、実施例1と同様の方法でプレス成形し、厚み200μmのフィルムを得た。実施例1と同様の方法でGPC測定したところ、図3のクロマトグラムが得られた。主成分のピークの他に、このクロマトグラムには会合体を示唆するピークは見られなかった。また、実施例1と同様にしてデカリン溶液を調製しDSC測定に供しても、吸熱ピークは観察されなかった。
【0083】
GPC測定に供したのと同様のフィルムを、実施例1と同様の方法で1.2倍、1.4倍、1.8倍の各倍率で延伸し、延伸サンプルを得た。得られた延伸サンプルについて実施例1と同様の方法で位相差測定を行なったところ、位相差値は1.2倍延伸でRe=150nm、1.4倍延伸でRe=232nm、1.8倍延伸でRe=336nmであった。
【0084】
比較例2
実施例1と同様にしてエチレン―ノルボルネン共重合体をTダイつき押出機に供給して溶融押出フィルムを調製し、押出フィルムを延伸処理及び加熱処理することなく、実施例1と同様にして、恒温ユニットを備えた引っ張り試験機を用いて、1.2倍、1.4倍、1.8倍のそれぞれの倍率に延伸し、延伸サンプルを得た。得られた延伸サンプルについて実施例1と同様の方法で位相差測定を行なったところ、位相差値は1.2倍延伸でRe=143nm、1.4倍延伸でRe=222nm、1.8倍延伸でRe=330nmであった。
【0085】
なお、実施例1と同様にして押出フィルムをGPC測定に供したところ、主成分のピークの他に、このクロマトグラムには会合体を示唆するピークは見られなかった。また、押出フィルムをデカリンに溶解しDSC測定に供しても、吸熱ピークは観察されなかった。
【0086】
面内レタデーション値Re(厚み70μm換算)の測定結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は実施例1で熱処理された成形体のGPCクロマトグラムを示す。
【図2】図2は実施例1で熱処理された成形体を高温で溶解した溶液のGPCクロマトグラムを示す。
【図3】図3は比較例1で熱処理された成形体のGPCクロマトグラムを示す。
【図4】図4は実施例1で熱処理された成形体のデカリン溶液のDSCチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて加熱処理前に観測されるピークに加えて、高分子量側に新たなピークが観測される加熱処理を施した後、フィルム状に延伸処理する位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱処理する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
環状オレフィン系樹脂で構成されたフィルム又はストランド状の成形体に、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg+10℃以上の温度で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて加熱処理前に観測されるピークに加えて、高分子量側に新たなピークが観測される加熱処理を施す工程と、加熱処理工程の後、フィルム状に延伸処理する工程とを含む請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
環状オレフィン系樹脂が非晶質の透明樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
環状オレフィン系樹脂が橋架環式シクロアルケン系単量体と共重合性単量体とを重合成分とする共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
環状オレフィン系樹脂が、ノルボルネン系単量体と鎖状オレフィン系単量体とを重合成分とするランダム共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
加熱処理した成形体を、少なくとも一軸方向に延伸倍率1.05〜5倍で延伸する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
JIS 7361−1による全光線透過率が80〜100%である環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体を、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg〜(Tg+150)℃の温度で加熱処理し、少なくとも一軸方向に1.1〜2倍延伸する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
配向又は延伸処理された成形体を、溶融又は流動性を示す温度で加熱処理した後、加熱処理した成形体をフィルム又はシート成形して延伸する請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
環状オレフィン系樹脂で構成され、かつ配向又は延伸処理された成形体に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて加熱処理前に観測されるピークに加えて、高分子量側に新たなピークが観測される熱処理を施した後、フィルム状に延伸処理し、フィルムのレタデーション値を向上させる方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られた位相差フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−198747(P2009−198747A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39658(P2008−39658)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】