説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】環構造を導入したアクリル系重合体においては、耐熱性が向上するものの脆くなり、フィルムの可撓性が低下する傾向がある。また、延伸後のフィルムであれば可撓性を有するものの、実際の製膜ラインでは縦延伸後の一軸延伸フィルムの裂け易さによって、フィルム搬送中、及び横延伸工程においてフィルム破断が頻発し、製膜ライン中での取り扱い性に問題があった。
【解決手段】アクリル系重合体からなるフィルムを、フィルムの流れ方向に縦延伸した後にフィルムの幅方向に横延伸してなる位相差フィルムの製造方法において、面内位相差R0と厚み位相差Rthのそれぞれの絶対値の比(|Rth|/|R0|)が0.6以上2.0以下となるように縦延伸した後に、フィルムの幅方向に横延伸することを特徴とする、逐次二軸延伸位相差フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系重合体からなる位相差フィルムの製造方法に関する。特に、一般的に可撓性が低いとされているアクリル系重合体を、光学特性に優れる位相差フィルムとしてフィルム破断させることなく安定的に生産する方法に関する。
具体的には、縦延伸工程において、面内位相差R0と厚み位相差Rthのそれぞれの絶対値の比(|Rth|/|R0|)が0.6以上2.0以下となるように縦延伸を行ってから横延伸を行うことを特徴とする、逐次二軸延伸位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMAに代表されるアクリル系重合体は光学的特性に優れていることが良く知られており、高い光透過率や低複屈折率、低位相差の光学材料として従来種々の用途に適用されている。しかしながら、アクリル系重合体は、位相差発現性能が低いため、延伸しても必要とされる位相差値を得ることが難しい。また、液晶表示装置の使用環境が厳しくなるなか、光学フィルムの耐熱性の要求が強まっているが、PMMAの延伸フィルムに十分な耐熱性を付与することは困難である。
このため、アクリル系重合体に種々の環構造を導入することにより耐熱性を向上させる検討が行われているが、耐熱性が向上すると樹脂が脆くなり、フィルムの可撓性が低下する傾向があった。
そこで、種々の環構造を導入した耐熱性のアクリル系重合体フィルムに縦横二軸延伸を施すことにより、耐熱性と可撓性を両立させた位相差フィルムが開示されている(特許文献1参照)。しかし、ラボ延伸機では可撓性の向上が確認できるものの、実機では延伸前のフィルム搬送中、或いは延伸中にフィルム破断が発生し、安定的に長尺ロールを得ることは困難であった。
なお、光学用フィルムの分野においては、特許文献2に記載のようなアニールゾーンを有するオーブン縦延伸が一般的である。この延伸方法は一般的にオーブンで加熱しながら長い延伸ゾーンで延伸する方法であり、ロール縦延伸とは異なって自由端一軸延伸となるため、光学的に均一なものが得やすいとされている。さらに、逐次二軸延伸フィルムにおいても、オーブン縦延伸+テンター横延伸による逐次二軸延伸が主流である(特許文献3参照)。しかし、加熱ロールに触れながら搬送されるロール延伸に比べ、オーブンでの加熱は熱伝導的に劣るため、近年の表示画像装置の価格下落に伴う生産性やコストの観点から不利である。また、一旦オーブン縦延伸で自由端一軸延伸となったフィルムはフィルムの流れ方向に裂けやすくなるため、アクリル系重合体のように可撓性の低いフィルムでは横延伸する際の縦裂けが顕著となり、安定生産が難しいという問題があった。
さらに、特許文献4には、縦延伸と横延伸を組み合わせた逐次二軸延伸フィルム、かつ、縦延伸よりも横延伸の方が高温で延伸を行うという方法が紹介されている。しかし、この方法では高温で行うテンターでの加熱のために、縦延伸で付与した配向が緩和される際にフィルムにはテンターの炉内に引き込まれる力が加わる。このため、アクリル系重合体のように可撓性の低いフィルムでは、フィルムの破断が頻発して安定生産が難しいという問題があった。
また縦延伸の方法として、オーブン縦延伸機に対してロール縦延伸機という方式がある。この方式は、周速度の異なる2個の延伸用ロールの間隔を短くし、延伸区間前に配置された数本の加熱用ロールを通過させてフィルムを加熱、昇温させ、延伸区間で所定の延伸温度として延伸する方法である。この方法によると大がかりな保温炉や加熱炉が不要となり、設備導入の面で有利なだけでなく、フィルムは加熱ロールに接触しながら加熱されるため、オーブンでの加熱に比べて熱伝導的にも有利となる。すなわち生産速度を上げることができ、近年の表示画像装置の価格下落に対し、生産性・コストにも有利となる。しかし、加熱用ロールの表面でフィルムが急に熱膨張してしわが発生したり、フィルムがロールから浮いて温度むらが発生し、そのために延伸後の位相差が均一にならないという欠点があった。
これに対し、特許文献5、6に記載のように、ロール縦延伸機の加熱ロールに熱風を吹き付ける装置を取り付けたり、通気孔をもつガイドロールからフィルムに熱風を吹きつける機構を追加するなど、装置を改造する方法が提案されている。しかし、この方法では、オーブン縦延伸機に比べてロール縦延伸機装置の方が、設備費が低いという優位な点を生かすことができない。
このように、近年の表示画像装置の価格下落に対応すべく、アクリル系重合体のように可撓性の低いフィルムを安価な方法で安定的に逐次二軸延伸して位相差フィルムとする方法が望まれているにもかかわらず、現状では果たせていなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−162835号公報
【特許文献2】特開2003−131033号公報
【特許文献3】特開平6−337313号公報
【特許文献4】特開2006−309029号公報
【特許文献5】特開平9−76343号公報
【特許文献6】特開平9−230137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、例えば、耐熱性を向上させるために種々の環構造を導入したアクリル系重合体においては、耐熱性が向上するものの脆くなり、フィルムの可撓性が低下する傾向があること、この可撓性を改善するために縦横二軸延伸を施す事が効果的であることを確認している。
しかし、延伸後のフィルムであれば可撓性を有するものの、実際の製膜ラインでは縦延伸後の一軸延伸フィルムの裂け易さによって、フィルム搬送中、及び横延伸工程においてフィルム破断が頻発し、製膜ライン中での取り扱い性に問題があった。
そこで本発明者らは上記の従来技術では成し得なかった、可撓性が低いアクリル系重合体を用いた二軸延伸位相差フィルムを、設備的に優位性のあるロール縦延伸+テンター横延伸の逐次二軸延伸にて作成する方法を見出し、本発明に到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記事情に鑑み、フィルム製造の初期技術を検討した結果、以下の方法によって、可撓性が低いアクリル系重合体を用いた二軸延伸位相差フィルムを不具合がない状態で長時間連続製造する製造方法を見出した。
すなわち、
〔1〕アクリル系重合体からなるフィルムを、フィルムの流れ方向に縦延伸した後にフィルムの幅方向に横延伸してなる位相差フィルムの製造方法において、面内位相差R0と厚み位相差Rthのそれぞれの絶対値の比(|Rth|/|R0|)が0.6以上2.0以下となるように縦延伸した後に、フィルムの幅方向に横延伸することを特徴とする、逐次二軸延伸位相差フィルムの製造方法。
〔2〕前記縦延伸工程において、面内位相差R0が50〜500nmになるように延伸を行うことを特徴とする、〔1〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔3〕前記縦延伸工程において、入口側のロール中心と出口側のロール中心の距離を延伸区間長A、縦延伸前のフィルム幅をBとしたとき、A/Bが0.05以上0.5以下であることを特徴とする、〔1〕、または〔2〕のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
〔4〕前記縦延伸工程において、少なくとも5本以上の熱ロールとの接触によってフィルムを加熱した後に縦延伸を行うことを特徴とする、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
〔5〕前記縦延伸工程において、IRヒーター、セラミックヒーター、熱風ヒーターの中から選ばれるいずれかの加熱方法を併用することを特徴とする、〔4〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、可撓性が低いアクリル系重合体を用いた二軸延伸位相差フィルムを、設備的に優位性のあるロール縦延伸+テンター横延伸の逐次二軸延伸にて作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳述する。本明細書において「主成分」とは、50重量%以上含有していることが意図される。なお、範囲を示す「a〜b」は、a以上b以下であることを示す。
本発明のアクリル系重合体を用いた位相差フィルムの製法は、公知の方法でフィルム化できるアクリル系重合体全般に効果がある。本発明の製法は、膜厚が、5μm〜600μm、好ましくは、10μm〜400μmの位相差フィルムに適している。
次に本発明に用いるアクリル系重合体について説明する。
本発明に用いるアクリル系重合体は、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体を重合して得られる樹脂およびその誘導体である。例えば、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示す。)で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらのうち1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。中でも、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。
また、アクリル系重合体は、耐熱性の観点より、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドおよびメチルマレイミドなどのN−置換マレイミドが共重合されていてもよいし、分子鎖中(重合体中の主骨格中または主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造およびグルタルイミド構造などが導入されていてもよい。中でも、フィルムの着色(黄変)し難さの点で、窒素原子が含まれない構造が好ましい。また、正の複屈折率(正の位相差)を発現させやすい点で、主鎖にラクトン環構造を有するものが好ましい。主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、特に6員環が好ましい。このように、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合としては、後述する一般式(2)や、特開2004−168882号公報において表される構造などが挙げられるが、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成するうえにおいて、重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(2)で表される構造であることが好ましい。また、これらのアクリル系重合体は、耐熱性を損なわない範囲で共重合可能なその他の単量体成分を共重合した単位を有していても良い。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。)
共重合可能なその他の単量体成分としては、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル類等があげられる。以上のアクリル系重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000以上2,000,000以下の範囲内、より好ましくは5,000以上1,000,000以下の範囲内、さらに好ましくは10,000以上500,000以下の範囲内、特に好ましくは50,000以上500,000以下の範囲内である。
上記アクリル系重合体を製造する方法としては、特開2005−146084号公報、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報、特開2008−9378号公報、特開2008−231748号公報など公知の方法を用いて(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体組成物を重合すればよい。
また、本発明に用いるアクリル系重合体には、併用できる他の熱可塑性樹脂を併用してもよい。併用できる他の熱可塑性樹脂としては、アクリル系重合体と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50重量%以上含有する重合体が挙げられる。なお、アクリル系重合体とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。
さらに本発明に用いるアクリル系重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤および可塑剤、ゴム粒子などの可梼性向上剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、目的に悪影響を及ぼさない範囲で添加する必要がある。
フィルムを成形する方法としては従来公知の方法が可能であり、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)及び溶融押出法等などが挙げられ、そのいずれをも採用することができる。ただし、溶剤の乾燥や回収を行う必要の無い溶融押出法の方が、設備的には有利であり本発明においては好ましい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を用いてフィルムを得ようとする場合は、主成分である熱可塑性樹脂と、必要によりその他の重合体やその他の添加剤などを良溶媒中に撹拌混合して均一混合液とし、支持フィルムやドラムにキャストして自己支持性を有するまで予備乾燥した後、支持フィルムやドラムから剥がして乾燥すると得ることができる。 溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、およびこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンなどが挙げられる。
溶融押出法を用いてフィルムを得ようとする場合は、T型ダイス等を装着した押出機から熱可塑性樹脂、或いは、必要によりその他の重合体やその他の添加剤などを予め混練した熱可塑性樹脂を加熱溶融にて押し出し、得られるフィルムを冷却ドラムによって引き取ることにより任意の厚みを持つフィルムとすることができる。なお、本発明に係るアクリル系フィルムの製造方法においては、当該押出機が、スクリュー部分とダイスとの間にポリマーフィルターを備えており、更に、アクリル系重合体の溶融混練に伴って発生したガスを吸引する揮発分除去手段を備えていることが望ましい。
本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
また、本発明に係るアクリル系フィルムは単層フィルムであっても、積層フィルムであってもよく、積層フィルムの場合にはピノールやフィードブロックを用いて積層後にTダイ口金を用いて吐出する方法、マルチマニホールド型の口金を用いて積層し吐出する方法など、従来公知の方法が使用できる。
本発明のフィルムを製造するためのダイスは従来公知のものを用いることができる。例えば、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ等を用いることができる。また、ダイスから吐出されたアクリル系重合体は、キャスティングドラム上で冷却固化させてフィルムとすることができる。この際、ワイヤーピニングやバキュームチャンバー等で冷却ロールに密着させる公知の方法を併用してもよく、或いはタッチロール成形法、具体的にはプレスロール法や弾性金属ニップロール、金属エンドレスベルトなどでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させてガラス転移温度(Tg)以下まで急冷し、未延伸のフィルムを得る方法であってもよい。
【0012】
本発明のフィルムは延伸を行って延伸フィルムとする必要があるが、延伸フィルムを得るための延伸方法としては、装置の導入コストの観点から縦延伸機と横延伸機を連続的に並べて逐次二軸延伸を行う方式が好ましい。縦延伸には、従来公知の任意の延伸方法が採用されてよいが、装置の導入コストの観点、及び熱伝導の観点からロール縦延伸法が好ましい。なお、ロール縦延伸法とは、所定の温度に設定された加熱ロールでフィルムを加熱しながら搬送してフィルム温度を所定の温度まで上昇させ、延伸ロール間で入口側のロール回転数より出口側のロール回転数を大きくすることによって延伸する方法である。
【0013】
なお、加熱ロールではなくオーブン内で加熱しながら延伸する方法は、上記ロール縦延伸法と区別してオーブン縦延伸法と記載する。
フィルムの延伸温度および延伸倍率は、得られたフィルムの機械的強度および表面性、厚み精度を指標として適宜調整することができるが、このときのフィルム温度は、加熱ロールでフィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、Tg−10℃以上、Tg+20℃以下の範囲にまで加熱することが好ましく、さらに延伸区間内に設けた予備加熱装置によってTg以上、Tg+30℃以下の範囲まで加熱することがより好ましい。加熱ロールでのフィルム加熱は、Tg−10℃よりも低い場合にはフィルムの透明性が悪化しやすく、また、極端な場合には、フィルムが裂ける、割れるなどの工程上の問題を引き起こしやすい。Tg+20℃よりも高い場合には、フィルムがロールに粘着するトラブルが起こりやすい。また、予備加熱装置での加熱がTgよりも低い場合には、フィルムにシワが発生しやすく、フィルムの裂けや割れなどの工程上の問題を引き起こしやすく、Tg+30℃よりも高い場合には、得られたフィルムの伸び率や引っ張り強度、可とう性などの力学的性質が改善されず、2次加工性が悪くなる。なお、加熱ロールの本数は5本以上が好ましい。5本よりも少ない場合には加熱効果が少なくなるため、フィルムを十分に暖めることができない。加熱効果を高めるためにロール径を大きくする方法は、加熱によるフィルムの熱膨張を逃がすことができず、シワの発生およびシワ由来の破断が発生しやすくなるため好ましくない。延伸区間内に設けた予備加熱装置としては、従来公知の方法が使用でき、IRヒーター、セラミックヒーター、熱風ヒーターの中から選ばれるいずれかの加熱方法が装置の導入コストの観点から好ましい。
また、縦延伸は、面内位相差R0と厚み位相差Rthのそれぞれの絶対値の比(|Rth|/|R0|)が0.6以上2.0以下となるように縦延伸することが好ましい。0.6よりも小さい場合、一軸延伸性が高いために、この後に施す横延伸工程においてフィルムの縦裂けが発生しやすく、生産の安定性に劣る。また、2.0より大きい場合には、縦延伸におけるネックイン抑制効果が大きくなりすぎ、幅方向の位相差や厚みの均一性に不利となる。より好ましくは0.7以上、1.8以下、更に好ましくは、0.8以上、1.5以下である。
また、入口側のロール(低速ロール)中心と出口側のロール(高速ロール)中心の距離を延伸区間長A、縦延伸前のフィルム幅をBとした場合、A/Bが0.05以上0.5以下であることが好ましい。0.05より小さい場合は、フィルムの幅に対して延伸区間長が短くなりすぎ、延伸ロールの直径を小さくする必要がある。この場合はロールのたわみなど強度が不足するため、均一な延伸を行うことができなくなる。0.5より大きい場合は、縦延伸におけるネックインの影響がフィルムセンター部まで及ぼされるため、幅方向の位相差や厚みの均一性に不利となる。より好ましくは0.1以上0.45以下である。
また、
横延伸は、横延伸用のクリップ走行装置とオーブンとから構成されるテンター横延伸機が好ましく用いられる。クリップ走行装置はフィルムの横端部をクリップで掴んで搬送すると同時にクリップ走行装置のガイドレールを開いて左右2列のクリップ間の距離を広げることによって延伸する。なお、フィルムの流れ方向にもクリップの拡縮機能を持たせた同時二軸延伸機であっても良い。また、オーブンはフィルムを延伸可能な温度まで加熱すると共に、延伸後は必要に応じて熱処理を行い、その後冷却する。いずれの場合においても、フィルムの加熱は、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−10℃以上Tg+50℃以下が好ましく、より好ましくはTg−5℃以上Tg+30℃以下である。
【0014】
<測定方法>
本発明における物性の測定は以下の方法で行う。実施例及び比較例においても、同様の方法で行った。
(脱アルコール反応率(ラクトン環化率))
脱アルコール反応率(ラクトン環化率)を、重合で得られた重合体組成からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による重量減少から求めた。
すなわち、ラクトン環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の理論重量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した重量減少率)を(Y)とする。なお、理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における前記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X、Y)を脱アルコール計算式:
1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))
に代入してその値を求め、%で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
そして、上記脱アルコール反応率の分だけラクトン環化反応が行われたと仮定して、下記式
ラクトン環の含有割合(重量%)=B×A×MR/Mm
(式中、Bは、ラクトン環化前の重合体における、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体構造単位の重量含有割合であり、MRは生成するラクトン環構造単位の式量であり、Mmはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量であり、Aは脱アルコール反応率である)
により、ラクトン環含有割合を算出することができる。
(重量平均分子量)
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム、クロロホルム溶媒)のポリスチレン換算により求めた。
(樹脂およびフィルムの熱分析)
樹脂およびフィルムの熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。尚、上記ガラス転移温度の測定は、30〜250℃の温度範囲で行った。また、非相溶性混合ポリマーなどのようにガラス転移温度(Tg)が2点以上測定される場合には、それぞれのポリマーにおけるガラス転移温度(Tg)の加重平均を求めて使用した。
(メルトフローレート)
メルトフローレートは、JIS K7210に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
(フィルムの厚さ)
デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
(フィルム温度)
佐藤計量器製作所製放射温度計、SK−8110を用いてフィルムセンター部分を1点測定した。
(屈折率)
JIS K7142に準拠して、測定波長589nmに対する、23℃での値を屈折計((株)アタゴ社製、装置名:デジタルアッベ屈折計DR−M2)を用いて測定した。
(位相差)
波長589nmにおける、フィルムの面内位相差値(R0)及び厚み方向位相差値(Rth)は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて測定した。なお、厚み方向位相差値(Rth)はアッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚d、傾斜中心軸として遅相軸、入射角を40°と入力し、面内位相差値(R0)及び厚さ方向位相差値(Rth)、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて測定した位相差値(R0(40°))、三次元屈折率nx、ny、nzの値を得た後、下記式から求めた。
厚み方向位相差Rth(nm)=d×{(nx+ny)/2−nz}
なお、フィルムの流れ方向の屈折率をnxとしたため、フィルム幅方向に遅相軸が発現した場合のフィルムの面内位相差値(R0)はマイナス表記とした。
また、1cm離れた2点間における面内位相差R0値の差を求める際、幅方向センターから端部へ5mm離れた点と、反対側の端部へ5mm離れた点を測定した。
(折り曲げ試験)
フィルムの折り曲げ試験は、25℃、65%RHの雰囲気下、フィルムを製膜した方向に折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際のフィルムの割れを観察した。試験は2回実施し、2回とも割れなかった場合を「○」、1回割れた場合を「△」、全て割れた場合を「×」として評価した。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[製造例1]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した1m2の反応釜に、204kgのメタクリル酸メチル(MMA)、51kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、249kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として281gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加すると同時に、561gの重合開始剤と5.4kgのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、255gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)を加え、還流下(約90〜110℃)で5時間、環化縮合反応を行った。
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(Φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレット(1A)を得た。
得られた樹脂ペレット(1A)の質量平均分子量は132000、ラクトン環含有割合は28.5%であり、ガラス転移温度は129℃であった。
[製造例2]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量1m2の反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)150kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)75kg、メタクリル酸n−ブチル(BMA)25kg、トルエン250kgを仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.15kgを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富(株)製、ルペロックス570)0.30kgとトルエン3.5kgからなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105℃〜111℃)で溶液重合を行い、開始剤溶液の滴下後さらに2時間かけて熟成を行った。
得られた重合体(2A)の重量平均分子量は195000であり、重合反応率は96.2%であった。また、重合体(2A)中のMHMAの構造単位の含有率は、30.2質量%で、MMA構造単位の含有率は、59.9質量%、BMA構造単位の含有率は9.9質量%であった。
得られた重合体溶液に、環化触媒としてリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学社製、Phoslex A−8)0.250kgを加え、還流下、約85〜105℃で2時間、環化縮合反応(重合体を分子内脱アルコール反応させ、重合体分子内にラクトン環構造を形成させる反応)を行った。
次いで、得られた重合体溶液を、熱交換器に通して220℃まで昇温し、バレル温度250℃、回転数170rpm、減圧度13.3hPa〜400hPa(10mmHg〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で、15kg/時間の処理速度で導入し、押出機内で環化縮合反応と脱揮処理を行った。その際、第一フォアベントと第二フォアベントとの中間で、オクチル酸亜鉛(日本化学産業社製、ニッカオクチックス亜鉛18%)9.8質量部、チバ・スペシャリティケミカルズ社製Irganox1010、0.8質量部、旭電化工業社製アデカスタブAO−412S0.8質量部、トルエン88.6質量部からなる溶液を0.46kg/時間の速度で液注した。前記脱揮操作により、透明な樹脂ペレット(2B)を得た。得られた樹脂ペレット(2B)の重量平均分子量は128000であり、ガラス転移温度は133℃、メルトフローレートは12.4g/10分であった。
[製造例3]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応釜に、MMA40部、MHMA10部、トルエン50部、アデカスタブ2112(ADEKA製)0.025部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05部を添加すると同時に、ターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.1部を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0016】
得られた重合体溶液に、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.05部を加え、90〜105℃の還流下で2時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、バレル温度240℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液は、酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、5部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010)と、失活剤として55部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン45部に溶解させた溶液を用いた。また、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの比率は73質量%/27質量%、重量平均分子量22万)のペレットを投入速度30部/時で投入した。
【0017】
上記脱揮操作により、負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂組成物(3A)のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は146000、ガラス転移温度は122℃、メルトフローレートは13.6g/10分であった。
(実施例1)
製造例1で得られた樹脂ペレット(1A)を温度275℃で溶融押出して厚み165μmの未延伸フィルムを成膜し、そのまま連続的に7本の加熱ロールによってフィルム温度が130℃になるまで予備加熱した後に、IRヒーターで加熱することによってフィルム温度140℃として以下の条件で縦方向に2.0倍に延伸を行った。
【0018】
縦延伸方法 ・・・ ロール縦延伸法
延伸間距離A ・・・ 195mm
延伸前フィルム幅B・・・ 530mm
さらに連続的に、得られた縦延伸フィルムの両端部から20mmの位置を2インチのクリップで掴みテンターへ供給し、145℃で2.0倍に延伸を行った。この後更に連続的にシアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取った。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルム(1AF−2)の特性は次の通りであった。
厚み(μm) :40
面内位相差R0(nm) :3.0
厚み位相差Rth(nm) :27.0
折り曲げ試験 :○
なお、縦延伸後のフィルム(1AF−1)を取り出して測定した特性は以下の通りであった。
厚み(μm) :82
面内位相差R0(nm) :59.1
厚み位相差Rth(nm) :53.8
(実施例2)
製造例2で得られた樹脂ペレット(2B)を温度275℃で溶融押出して厚み300μmの未延伸フィルムを成膜し、そのまま連続的に7本の加熱ロールによってフィルム温度が127℃になるまで予備加熱した後に、IRヒーターで加熱することによってフィルム温度140℃として以下の条件で縦方向に2.0倍に延伸を行った。
【0019】
縦延伸方法 ・・・ ロール縦延伸法
延伸間距離A ・・・ 195mm
延伸前フィルム幅B・・・ 530mm
さらに連続的に、得られた縦延伸フィルムの両端部から20mmの位置を2インチのクリップで掴みテンターへ供給し、145℃で2.5倍に延伸を行った。この後更に連続的にシアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取った。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルム(2BF−2)の特性は次の通りであった。
厚み(μm) :45
面内位相差R0(nm) :50
厚み位相差Rth(nm) :125
折り曲げ試験 :○
なお、縦延伸後のフィルム(2BF−1)を取り出して測定した特性は以下の通りであった。
厚み(μm) :110
面内位相差R0(nm) :250
厚み位相差Rth(nm) :200
(実施例3)
製造例3で得られた樹脂ペレット(3A)を温度275℃で溶融押出して厚み226μmの未延伸フィルムを成膜し、そのまま連続的に7本の加熱ロールによってフィルム温度が125℃になるまで予備加熱した後に、IRヒーターで加熱することによってフィルム温度135℃として以下の条件で縦方向に2.0倍に延伸を行った。
【0020】
縦延伸方法 ・・・ ロール縦延伸法
延伸間距離A ・・・ 195mm
延伸前フィルム幅B・・・ 530mm
さらに連続的に、得られた縦延伸フィルムの両端部から20mmの位置を2インチのクリップで掴みテンターへ供給し、128℃で2.3倍に延伸を行った。この後更に連続的にシアーカッターで幅700mmにトリミングした後、ポリエチレン製の保護フィルムを貼り付け、巻取機で巻取った。途中でフィルムが破断することもなく、連続して500mの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルム(3AF−2)の特性は次の通りであった。
厚み(μm) :70
面内位相差R0(nm) :69
厚み位相差Rth(nm) :−131
折り曲げ試験 :○
なお、縦延伸後のフィルム(3AF−1)を取り出して測定した特性は以下の通りであった。
厚み(μm) :160
面内位相差R0(nm) :−155
厚み位相差Rth(nm) :−124
(比較例1)
製造例2で得られた樹脂ペレット(2B)を温度275℃で溶融押出して厚み240μmの未延伸フィルムを成膜し、そのまま連続的に140℃のオーブン内で1.8倍に延伸した。
【0021】
縦延伸方法 ・・・ オーブン縦延伸法
延伸間距離A ・・・ 8000mm
延伸前フィルム幅B・・・ 530mm
得られたフィルム(2BF−3)の特性は以下の通りであった。
厚み(μm) :180
面内位相差R0(nm) :210
厚み位相差Rth(nm) :105
次に、得られたフィルム(2BF−3)を横延伸すべくテンターへの挿入を試みたが、フィルムの縦裂けによって横延伸することができなかった。
(比較例2)
ロール縦延伸における延伸間距離Aを270mmとした以外は実施例2と同じ方法で製膜・延伸を行ったが、ネックインによる幅収縮によってフィルム端部からシワが発生し、このシワ由来のフィルム破断が多発し安定な延伸が行えなかった。なお、得られたフィルム(2BF−4)の特性は以下の通りであった。
厚み(μm) :120
面内位相差R0(nm) :230
厚み位相差Rth(nm) :135
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のフィルムの製法によると、一般的に可撓性が低いとされているアクリル系重合体を、光学特性に優れる位相差フィルムとしてフィルム破断させることなく長時間安定的に製膜することができるようになる。本発明の製造方法により得られる延伸フィルムは、各種画像表示装置の光学フィルム、特に位相差フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体からなるフィルムを、フィルムの流れ方向に縦延伸した後にフィルムの幅方向に横延伸してなる位相差フィルムの製造方法において、面内位相差R0と厚み位相差Rthのそれぞれの絶対値の比(|Rth|/|R0|)が0.6以上2.0以下となるように縦延伸した後に、フィルムの幅方向に横延伸することを特徴とする、逐次二軸延伸位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記縦延伸工程において、面内位相差R0が50〜500nmになるように延伸を行うことを特徴とする、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記縦延伸工程において、入口側のロール中心と出口側のロール中心の距離を延伸区間長A、縦延伸前のフィルム幅をBとしたとき、A/Bが0.05以上0.5以下であることを特徴とする、請求項1、または2のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記縦延伸工程において、少なくとも5本以上の熱ロールとの接触によってフィルムを加熱した後に縦延伸を行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記縦延伸工程において、IRヒーター、セラミックヒーター、熱風ヒーターの中から選ばれるいずれかの加熱方法を併用することを特徴とする、請求項4に記載の位相差フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−271690(P2010−271690A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266949(P2009−266949)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】