説明

位相差フィルム用原反フィルム、位相差フィルムおよび液晶表示装置

【課題】高透明で位相差ムラの少ないポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】プロピレン系ランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体から選択されるプロピレン系共重合体からなる位相差フィルム用原反フィルムであって、該フィルムは、
該フィルムを構成しているプロピレン系共重合体内の全結晶に占めるスメチカ晶の割合が90%以上であり、
面内位相差が50nm以下であり、
厚みが30〜200μmの範囲内にあり、
前記プロピレン系共重合体は、それからなるフィルムを、歪み200%における応力が0.8±0.1 MPaとなる温度において、引張速度100mm/分で延伸したときの応力−歪み曲線について定義される式(1)により算出されるパラメータ(A)が、0.0007〜0.1の範囲内にある位相差フィルム用原反フィルム。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
液晶表示装置は、液晶分子がもつ電気光学特性を利用して画像を表示をする。しかしながら、液晶には本来光学的異方性があるため、液晶表示装置では、複屈折性に起因する光学的な歪みや視覚方向による変調に起因する表示の着色などが生じることがある。このような欠点を解消するため、従来、位相差フィルムが用いられている。位相差フィルムとしては、ポリカーボネート樹脂や環状オレフィン系重合体からなる原反フィルムを延伸して得られる位相差フィルムが知られているが、これらの材料樹脂は高価であるため、より安価なプラスチック材料からなる位相差フィルムの開発が要望されている。
【0002】
安価なプラスチック材料からなる位相差フィルムとして、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムが既に提案されている。しかし、ポリプロピレン系樹脂は通常、押出しによるフィルム成形、あるいはその後の延伸により非常に強く配向することから、そのフィルムは通常、大きな位相差を発現してしまい、位相差フィルムとして使用することは困難であった。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの製造方法として、ポリプロピレン系樹脂をTダイ成形機でフィルム状に成形する際に、Tダイから押し出した溶融状フィルムをその流れ方向に低倍率で縦延伸する方法が提案されている(特開昭60−24502号公報)。確かに本方法によれば、部分的には、位相差フィルムとして使用可能な程度の位相差を発現するポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることができる。しかしながら前記方法では、得られるフィルムの巾方向に配向ムラが生じてしまい、その結果位相差ムラを生じたり、場合によっては巾方向に厚みムラを生じたりして、実際に位相差フィルムとして使用可能なフィルムを安定的に製造することは未だ実現できていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−24502号公報
【0005】
また、多くのポリプロピレン系樹脂は結晶性プラスチック材料であるため、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムでは、樹脂の結晶による光の散乱によって、フィルムの透明性が低下し、ひいては正面コントラストの低下など、液晶表示装置の光学特性に悪影響を及ぼす可能性が懸念される。
【0006】
かかる状況において本発明者らは、均一な厚みを有し、高透明で位相差ムラの少ないポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを製造する方法について鋭意検討を行った。ポリプロピレン系樹脂は、一般に低倍率で均一に延伸することが困難な材料であるが、特別な延伸挙動を示すポリプロピレン系樹脂を特定の条件で成形し、結晶形態が制御されたフィルムを延伸に供することで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、プロピレン系ランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体から選択されるプロピレン系共重合体からなる位相差フィルム用原反フィルムであって、
該フィルムを構成しているプロピレン系共重合体はスメクチック晶を含有する結晶を有しており、該プロピレン系共重合体の全結晶に占めるスメクチック晶の割合が90%以上であり、
該フィルムは、面内位相差が50nm以下であり、厚みが30〜200μmの範囲内にあり、
前記プロピレン系共重合体は、それからなるフィルムを、歪み200%における応力が0.8±0.1 MPaとなる温度において、引張速度100mm/分で延伸したときの応力−歪み曲線について定義される式(1)により算出されるパラメータ(A)が、0.0007〜0.1の範囲内にある重合体である位相差フィルム用原反フィルムである。
(A)=(B600−B200)/400・・・式(1)
(式中、B600およびB200は、歪み600%における応力(MPa)および歪み200%における応力(MPa)をそれぞれ表わす。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の位相差フィルム用原反フィルムを延伸することで得られる位相差フィルムは、大型液晶テレビなどの大画面の液晶ディスプレイに適用しても、光学的な不均一性に由来するムラがなく視野角依存性を改善する効果に優れる。また、本発明のフィルムを延伸することで得られる位相差フィルムは内部ヘイズが低く、そのため、この位相差フィルムを適用した液晶表示装置は、正面コントラストに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフィルムは、下記の予備試験で求められるパラメータ(A)が0.0007〜0.1であるプロピレン系共重合体からなり、このようなプロピレン系共重合体は、プロピレン系ランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体から選択される少なくとも1種類の重合体である。
[予備試験]
ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムから、該フィルムの縦方向の長さ70mm、横方向の長さ60mmのサンプルを採取する。ここで、該フィルムのMD方向が縦方向であり、フィルム面内で縦方向に垂直な方向が横方向である。該サンプルをJIS K−7163に準じ、恒温槽を設置した引張試験装置を用い、サンプルの縦方向の両端をチャックで、チャック間距離が30mmとなるように挟持し、歪み200%における応力が0.8±0.1 MPaとなる温度において、引張速度100mm/minで、歪みが600%になるまでフィルムの縦方向に延伸する。これにより得られる応力−歪み曲線(いわゆるS-Sカーブ)において、式(1)でパラメータ(A)を求める。
パラメータ(A)=(B600-B200)/400・・・(1)
(式中、B600およびB200は、歪み600%における応力(MPa)および歪み200%における応力(MPa)をそれぞれ表わす。)
前記予備試験における延伸温度は、次の方法により決定される。まず、前記フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂の融点付近の任意の温度において、引張速度100mm/minでフィルムの引張試験を行う。温度を変えて同様の引張試験を行い、歪み200%のときの応力が0.8±0.1 MPaとなる温度を、前記予備試験での延伸温度とする。なお、歪みとは、試料の被延伸部分の長さの延伸による増分の、被延伸部分の延伸前長さに対する割合を意味する。
【0010】
プロピレン系ランダム共重合体およびブロック共重合体としては、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のα−オレフィンとを共重合して得られる共重合体が挙げられる。本発明におけるプロピレン系共重合体は、プロピレン系ランダム共重合体であることが好ましい。
前記炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられ、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましい。より好ましくは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンであり、さらに好ましくは、1−ブテン、1−ヘキセンである。
【0011】
前記プロピレン系ランダム共重合体の例としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィン(C4〜20)ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィン(C4〜20)ランダム共重合体等が挙げられる。より具体的には、プロピレン−α−オレフィン(C4〜20)ランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられ、プロピレン−エチレン−α−オレフィン(C4〜20)ランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられ、好ましくはプロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体である。
【0012】
プロピレン系ランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体におけるコモノマー(すなわち、プロピレン以外のモノマー)由来の構成単位の含量は、フィルムの透明性と耐熱性のバランスの観点から、1重量%以上40重量%以下が好ましく、1重量%以上20重量%以下がより好ましく、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下である。なお、プロピレン系共重合体2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体である場合には、該共重合体に含まれる全てのコモノマー由来の構成単位の合計含量が、前記範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明におけるプロピレン系共重合体の製造方法としては特に限定されるものではないが、例えば、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のα−オレフィンとの共重合体は、オレフィン重合用触媒を用いて、プロピレンと所定のコモノマーとを共重合することにより製造することができる。
適用可能な重合触媒としては、例えば、
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒等が挙げられる。
これらの中で、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物およびテトラエチルジアルモキサンが挙げられ、電子供与性化合物としては、好ましくはシクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが挙げられる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。メタロセン触媒としては例えば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
【0014】
プロピレン系共重合体を製造するための重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを反応基質および溶剤として用いる塊状重合法、気相中で気体のモノマーを重合させる気相重合法等が挙げられ、好ましくは塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。プロピレン系共重合体の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのどの形式であってもよい。本発明で用いるプロピレン系共重合体は、耐熱性の点からシンジオタクチック、あるいはアイソタクチックのプロピレン系重合体であることが好ましい。
【0015】
プロピレン系共重合体は、添加剤を含有していてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収材、紫外線遮断剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)や、1分子中に例えばフェノール系酸化防止部とリン系酸化防止部とを有する複合型の酸化防止剤などが挙げられる。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤が挙げられ、紫外線遮断剤としては、ベンゾエート系など紫外線遮断剤が挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、及びその金属塩などが挙げられる。造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては球状、あるいは球に近い形状の微粒子が無機系、有機系に関わらず使用できる。添加剤は、複数種を併用してもよい。
【0016】
本発明のフィルムを構成しているプロピレン系共重合体はスメクチック晶を含有する結晶を有しており、該プロピレン系共重合体の全結晶に占めるスメクチック晶の割合が90%以上である。プロピレン系共重合体の主な結晶構造はα晶とスメクチック晶であるが、本発明のフィルムは、プロピレン系共重合体の全結晶に占めるスメクチック晶の割合が90%以上である。本発明において、全結晶に占めるスメクチック晶の割合とは、広角X線回折で測定したX線回折プロファイルの全体面積中、スメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合のことである。回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するプロファイルであることが好ましい。また、α晶が存在する場合であっても、そのα晶が球晶構造でないことが好ましい。
α晶に由来する回折プロファイルとは、回折角(2θ)が10〜30度の範囲での広角X線回折測定において観測される、14.2度付近、16.7度付近、18.5度付近および21.4度付近の4つのシャープなピークからなるものであり、スメクチック晶に由来する回折プロファイルとは、14.6度付近と21.2度付近の2つのブロードなピークからなるものである。
回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するプロファイルであるか否かは、回折角が13〜15度の範囲に現れるピークがブロードであるか否かで判定し、このピークがブロードであるとき、回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するプロファイルである。具体的には次のように判定する。X線回折プロファイルにおいて、回折角が13〜15度の範囲で最も回折強度が高いピークの強度をCとするとき、そのピークの、C×0.8のレベルにおけるピーク幅Dが1度以上である場合に、その回折プロファイルの大部分はスメクチック晶に由来するプロファイルであると判定する。(図2参照)
広角X線回折プロファイルの全体面積中に占めるスメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合は下記のようにして算出する。
(1)回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するか否かを上記の方法で判定する。
(2)回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来すると判定されたとき、以下の手順でスメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合を算出する。
(3)回折プロファイルをピーク分離ソフトウェアで処理してスメクチック晶のプロファイルとα晶のプロファイルとに分離する。
(4)回折角が10〜30度の範囲において、回折プロファイルの全体面積と、スメクチック晶に由来する回折プロファイルの面積を求め、前者に対する後者の割合を算出する。
本発明のフィルムを延伸すると、透明性が高く、位相差の均一性がよく、正面コントラストの高い位相差フィルムとなる。コントラストとは、液晶表示装置を白表示した場合の輝度(白輝度)と黒表示した場合の輝度(黒輝度)の比である。正面コントラストとは、白輝度と黒輝度を液晶表示装置の正面方向から測定した場合のコントラストの値である。位相差フィルムを液晶表示装置内に設置する場合には、高い正面コントラストを示すことが求められる。
【0017】
また、延伸後に厚みや配向が不均一であることに由来する光学的なむらをできるだけ小さくするために、本発明のフィルムは、光学的に均質な、無配向であるか、あるいは無配向に近いフィルムである。このようなフィルムの面内位相差は50nm以下である。
【0018】
本発明のフィルムの製造方法としては、プロピレン系共重合体を押出機内で溶融混練した後、該押出機に取り付けられたTダイから押し出し、Tダイから押し出された溶融状シートを冷却ロールに接触させて冷却固化しながら引き取る方法が挙げられる。Tダイから押し出された溶融状シートをロールに接触させて冷却固化する方法としては、大別して次の3つの方法がある。
[1] Tダイから押し出された溶融状シートを二本のロールの間で狭圧する方法。
[2] Tダイから押し出された溶融状シートを冷却ロールと、該冷却ロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製無端ベルトとの間で狭圧する方法。
[3] Tダイから押し出された溶融状シートを、二本のロールの間で狭圧することなく冷却ロールに接触させて冷却する方法。
Tダイから押し出された溶融状シートを二本のロールの間で狭圧する方法としては、高硬度ロール(所謂、冷却ロール)と低硬度ロール(所謂、タッチロール)により挟圧する方法が挙げられる。Tダイから押し出された溶融状シートを二本のロールの間で狭圧せずにロールに接触させて冷却する方法としては、冷却ロールとエアーチャンバーを用いて冷却する方法、冷却ロールと静電ピニングを用いて冷却する方法などが挙げられる。
【0019】
全結晶に占めるスメクチック晶の割合が90%以上である本発明のフィルムは、プロピレン系共重合体を用いて、例えば、冷却ロールの表面温度を20℃以下とすることで作製することができる。例えば、Tダイより押し出された溶融状シートを二本のロールの間で狭圧する方法の場合、少なくとも一本のロールの表面温度を20℃以下とすればよい。また、全結晶に占めるα晶の割合の低減に有利である点では、冷却ロールとタッチロールにより挟圧する方法や、冷却ロールと、該冷却ロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製無端ベルトとの間で挟圧する方法が好ましい。また、溶融体を冷却固化する際に溶融体全体を速やかに冷却することができるように、フィルムの厚みは30〜200μmであることが好ましい。
【0020】
得られるフィルムの面内位相差を50nm以下にするためには、Tダイから押し出した溶融状シートを冷却固化させる工程において、バンク(樹脂溜まり)を生成させないことが必要である。バンクは、溶融状シートを冷却ロールとタッチロールとの間や冷却ロールと金属製無端ベルトとの間で挟圧する際に、挟圧力が高すぎる場合に発生する。バンクの発生を防止するために、挟圧力が20N/mm以下とすることが好ましく、より好ましくは10N/mm以下である。また、Tダイから押し出された溶融状シートを冷却ロールとエアーチャンバーを用いて冷却する方法や、溶融状シートを冷却ロールと静電ピニングを用いて冷却する方法は、ロール間で溶融状シートを挟圧しないのでバンクは発生せず、そのため、面内位相差の低減のためには有利である。溶融状シートを低圧で挟圧するためには、冷却ロールとタッチロールにより挟圧する方法におけるタッチロールとしては、ゴムロールが好ましい。また、冷却ロールと金属製無端ベルトにより挟圧する方法における金属製無端ベルトとしては、弾性変形可能な金属製無端ベルトが好ましく、より詳細には、弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に、弾性体からなる弾性変形可能なロールとを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造が好ましい。
【0021】
タッチロールとしてゴムロールを使用する場合は、鏡面表面を有する位相差フィルムを生成させるために、Tダイから押し出された溶融体を、冷却ロールとゴムロールとの間で支持体と重ねて挟圧することが好ましい。支持体としては、厚さが5〜50μmの熱可塑性樹脂二軸延伸フィルムが好ましい。
【0022】
溶融状シートを冷却ロールと金属製無端ベルトとの間で狭圧する方法でフィルムを成形する場合には、該無端ベルトは、冷却ロールの周方向に該冷却ロールの回転軸と平行に配置された複数のロールによって保持されていることが好ましい。無端ベルトが、直径100〜300mmの二本のロールで保持され、無端ベルトの厚みが100〜500μmであることがより好ましい。
【0023】
光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得るためには、該位相差フィルムを製造する際に用いるフィルム(所謂、原反フィルム)は厚みむらが小さいことが好ましく、フィルムの厚みの最大値と最小値の差が10μm以下であることがより好ましく、この差が4μm以下であることが特に好ましい。
【0024】
本発明のフィルムを延伸することにより、位相差フィルムを得ることができる。延伸方法としては、縦延伸、横延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が挙げられる。位相差フィルムが組み込まれる液晶表示装置の種類により、該位相差フィルムを作製する延伸方法は異なり、縦延伸のみの場合もあり、横延伸のみの場合もあり、二軸延伸の場合もある。垂直配向モード液晶ディスプレイに使用する場合は、二軸延伸により位相差フィルムを作製する。逐次二軸延伸の場合、縦延伸を先に行った後、横延伸を行う方法と、横延伸を先に行った後、縦延伸を行う方法のどちらの方法で行ってもよい。
【0025】
縦延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により原反フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロール間にオーブンを有する縦延伸機を用い、該オーブン中で原反フィルムを加熱しながら前記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。光学的な均一性が高い位相差フィルムを得るためには、ロングスパン縦延伸法が好ましい。とりわけエアーフローティング方式のオーブンを用い、該オーブン中でロングスパン縦延伸することが好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、該オーブン中に原反フィルムを導入した際に、該原反フィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造であり、複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されたオーブンである。該オーブン中、原反フィルムが前記上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しないようにしながら、延伸する。この場合の延伸温度は、90℃以上、プロピレン系共重合体の融点以下である。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
【0026】
縦延伸倍率は、通常、1.01〜5倍であり、光学的な均一性がより高い位相差フィルムを得るために、延伸倍率は1.05〜3倍であることが好ましい。
【0027】
横延伸方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム巾方向の両端を固定したフィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法においては、予熱工程を行うゾーン、延伸工程を行うゾーン、熱固定工程を行うゾーンのオーブン温度は独立に温度調節をすることができる装置を使用する。横延伸倍率は、通常、2〜10倍であり、光学的な均一性がより高い位相差フィルムを得るために、横延伸倍率は4〜7倍であることが好ましい。
【0028】
横延伸の予熱工程は、フィルムを幅方向に延伸する工程の前に設置される工程であり、フィルムを延伸するのに十分な高さの温度まで該フィルムを加熱する工程である。ここで予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行うゾーン内の雰囲気の温度を意味する。予熱温度は延伸するフィルムのプロピレン系共重合体の融点以上であってもよいし、融点以下であってもよい。通常、得られる位相差フィルムの位相差の均一性を良好にするために、予熱温度は、プロピレン系共重合体の融点よりも10℃低い温度から、プロピレン系共重合体の融点よりも10℃高い温度までの範囲内で設定するのが好ましく、より好ましくはプロピレン系共重合体の融点よりも5℃低い温度から、プロピレン系共重合体の融点よりも5℃高い温度までの範囲で設定する。
【0029】
横延伸の延伸工程は、フィルムを幅方向に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度(これは、オーブンの延伸工程を行うゾーン内の雰囲気の温度を意味する)は予熱温度より低い温度としてもよいし、高い温度でとしてもよいし、同じ温度としてもよい。通常、予熱されたフィルムを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、該フィルムを均一に延伸できるようになり、その結果、位相差の均一性が優れた位相差フィルムが得られるため、延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。
【0030】
横延伸の熱固定工程とは、延伸工程終了時におけるフィルム幅を保った状態で該フィルムをオーブン内の所定温度の雰囲気内を通過させる工程である。熱固定温度は、延伸工程における延伸温度より低い温度としてもよいし、高い温度でとしてもよいし、同じ温度としてもよい。通常、フィルムの位相差や光軸など光学的特性の安定性を効果的に向上させるために、延伸温度よりも10℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの範囲内であることが好ましい。
【0031】
横延伸の工程は、更に熱緩和工程を有してもよい。この工程は、テンター法においては通常、延伸ゾーンと熱固定ゾーンとの間に設けられ、他のゾーンから独立して温度設定が可能な熱緩和ゾーンにおいて行われるか、熱固定工程を行うゾーンで行われる。具体的には、熱緩和は、延伸工程においてフィルムを所定の幅に延伸した後、チャックの間隔を数%(通常は、0.1〜10%)だけ狭くし、無駄な歪を取り除くことで行われる。
【0032】
位相差フィルムに求められる位相差は、該位相差フィルムが組み込まれる液晶表示装置の種類により異なるが、通常、面内位相差R0は30〜150nmである。垂直配向モード液晶ディスプレイに使用する場合は、視野角特性に優れるという観点から、面内位相差R0が40〜70nmであり、厚み方向位相差Rthは、90〜230nmであることが好ましい。位相差フィルムの厚みは、通常10〜100μmである。液晶表示装置を薄肉化するために、位相差フィルムの厚みは薄いほうが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。位相差フィルムを製造する際の延伸倍率と、原反フィルムの厚みを制御することにより、所望の位相差と厚みを有する位相差フィルムを得ることができる。
【0033】
延伸は、原反フィルムのスメクチック晶の割合が90%以上である状態で行うことが、位相差の均一性が高い位相差フィルムを生成させるために必要である。原反フィルム製造直後はスメクチック晶の割合が90%以上であっても、時間の経過とともにスメクチック晶の割合は低下して、スメクチック晶の割合が90%未満となる場合もある。そのため、原反フィルムを製造してから168時間以内に延伸を行うことが好ましく、72時間以内に延伸を行うことがより好ましい。また、製造した原反フィルムを巻き取ることなくそのまま延伸を行う方法も、スメクチック晶の割合が高い状態のまま延伸を行うためには好ましい。原反フィルムのスメクチック晶の割合が90%以上である状態を保つためには、原反フィルムを製造してから、延伸するまでの間、できるだけ低温で原反フィルムを保管することが好ましい。原反フィルムの保管温度は、具体的には30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下が特に好ましい。原反フィルムの保管温度の下限に制限はないが、保管温度は通常は−10℃以上である。
【0034】
本発明の位相差フィルムは、偏光板や液晶層などと積層し、携帯電話、パソコン、大型テレビ等の液晶表示装置として好ましく使用される。本発明のフィルムから製造される位相差フィルムは内部ヘイズが0.5%以下であり非常に透明である。そのため、本発明の位相差フィルムを用いた液晶表示装置の正面コントラストは高くなる。ヘイズはフィルムの透明性をあらわす指標であり、ヘイズが小さいほどがフィルムはより透明である。ヘイズは、JIS K−7136に従い測定できる物性値である。フィルムの透明性はフィルムの表面状態に起因する散乱の影響と結晶状態などフィルムの内部状態に起因する散乱の影響を受け、それぞれの散乱の度合いが大きいほどフィルムの透明性が低下する。フィルムの表面状態に起因する散乱の影響で低下する透明性は、本発明の位相差フィルムを用いた液晶表示装置の正面コントラストを低下させないため、本発明の位相差フィルムの性能を正しく評価するために、フィルムの表面状態に起因する散乱の影響により低下した透明性を除外した値を評価することにした。その指標を本発明においては内部ヘイズと呼ぶ。内部ヘイズは、フィルムを石英ガラス製の容器(セル)に、ポリプロピレン系樹脂とほぼ同じ屈折率を有する液体であるフタル酸ジメチルと、測定するフィルムを入れた状態で、JIS K−7136に準じた方法で測定した値である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(1)予備試験
ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムから、フィルムの縦方向の長さ70mm、横方向の長さ60mmのサンプルを採取する。ここで、該フィルムのMD方向が縦方向であり、フィルム面内で縦方向に垂直な方向が横方向である。該サンプルをJIS K−7163に準じ恒温槽を設置した引張試験装置を用い、サンプルの縦方向の両端をチャックで、チャック間距離が30mmとなるように挟持し、歪み200%における応力が0.8±0.1 MPaとなる温度において、引張速度100mm/minで、歪みが600%になるまでフィルムの縦方向に延伸する。これにより得られる応力−歪み曲線(S-Sカーブ)において、式(1)でパラメータ(A)を求める。
パラメータ(A)=(B600-B200)/400・・・(1)
(式中、B600およびB200は、歪み600%における応力(MPa)および歪み200%における応力(MPa)をそれぞれ表わす。)
【0037】
(2)延伸フィルムの均一性の評価
上記予備試験と同様の手順で行われる引張試験において、引張の前に、フィルムのチャック間に位置する部分にフィルムの横方向に平行な7本の直線を5mm間隔で引いておき(図1参照)、延伸後にその平行な線間の距離を測定し、6つの線間距離の標準偏差を延伸フィルムの均一性の指標とした。この標準偏差の値は、位相差の均一性と良く一致していた。
【0038】
(3)融点
ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムの切片(10mg)について、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下で下記[1]〜[5]の熱履歴を加えた後、50℃から180℃まで昇温速度5℃/分で加熱して融解曲線を作成した。この融解曲線において、最高吸熱ピークを示す温度(℃)を求め、これを該プロピレン系重合体の融点(Tm)とした。
[1]220℃で5分間加熱する;
[2]降温速度300℃/分で220℃から150℃まで冷却する;
[3]150℃において1分間保温する;
[4]降温速度5℃/分で150℃から50℃まで冷却する;
[5]50℃において1分間保温する。
【0039】
(4)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
【0040】
(5)エチレン含有量、ブテン含有量
プロピレン系共重合体について、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されているIRスペクトル測定を行い、該共重合体中のエチレン由来の構成単位の含量を求めた。プロピレン系共重合体中のブテン由来の構成単位の含量は、同様に、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第619頁に記載されているIRスペクトル測定を行い、求めた。
【0041】
(6)広角X線回折
回折角(2θ)が10〜30度の範囲で測定を行った。得られた回折プロファイルを以下の手順で解析した。
先ず、回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するか否かを判定する。具体的には、回折プロファイルにおいて、回折角が13〜15度の範囲で最も回折強度が高いピークの強度をCとするとき、そのピークのC×0.8のレベルにおけるピーク幅Dが1度以上である場合に、その回折プロファイルの大部分はスメクチック晶に由来するプロファイルであると判定する。
広角X線回折プロファイルの全体面積中に占めるスメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合は下記のようにして算出する。
(i) 回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来するか否かを上記の方法で判定する。
(ii) 回折プロファイルの大部分がスメクチック晶に由来すると判定されたとき、以下の手順でスメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合を算出する。
(iii) 回折プロファイルをピーク分離ソフトウェアで処理してスメクチック晶のプロファイルとα晶のプロファイルとに分離する。解析ソフトウェアとして、株式会社リガク製のJADE(Ver.5)ソフトウェアを用いる。ソフトに付属のピーク分離コマンドから、回折プロファイルのピーク分離に必要なプロファイル特性をPearson−V11=1.5とする。
(iv) 精密化のために、実施例および比較例では、ピーク分離で用いる回折角度は、スメクチック晶に由来する14.6度と21.2度、およびα晶に由来する14.2度および16.7度および18.5度および21.4度とし、これらを固定値とした。
(v) さらに、精密化の変数として、高さ、半値幅、計定数、非対称を選択して、最適化を実行し、スメクチック晶に由来する14.6度と21.2度にピークを有する回折プロファイルの面積を算出し、これを回折プロファイルの総面積で除算することにより、スメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合を求めた。
【0042】
(7)面内位相差R0、厚み方向位相差Rth
面内位相差R0および厚み方向位相差Rthは位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)を用いて測定した。
【0043】
(8)内部ヘイズ
内部ヘイズは、フィルムを石英ガラス製の容器(セル)に、ポリプロピレン系樹脂とほぼ同じ屈折率を有する液体であるフタル酸ジメチルと、測定するフィルムを入れた状態で、JIS K−7136に準じた方法で測定した。
【0044】
(9)正面コントラスト
正面コントラストは、下記のような手順に従い、位相差フィルムを作製し、偏光板に貼合した後、液晶表示装置(ソニー(株)製の液晶テレビ“BRAVIA KDL-32S1000 ”)に組み込んで測定を行った。正面コントラストの値が大きいほど、液晶表示装置に表示される画面の色がより鮮やかに見える。
【0045】
(A)位相差フィルムの作製
原反フィルムを、縦延伸倍率 約2倍、横延伸倍率 約4倍で逐次二軸延伸して、面内位相差が約60nm、厚み方向位相差が約110nmとなる二軸性位相差フィルムを得た。続いて、この位相差フィルムの表面にコロナ放電処理を施した。
(B)複合偏光板の作製
ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している偏光子を用意し、その片面に、上記位相差フィルムのコロナ放電処理面を、偏光子のもう一方の面には表面がケン化処理されたトリアセチルセルロースフィルムを、それぞれ水溶性ポリアミドエポキシ樹脂(住友化学(株)スミレーズレジン 650)とポリビニルアルコールの水溶液である接着剤を介して接合した。その後80℃で5分間乾燥させ、さらに40℃で約72時間養生して、複合偏光板を作製した。
(C)複合偏光板の評価
ソニー(株)製の液晶テレビ“BRAVIA KDL-32S1000 ”を分解して、液晶セル上下の偏光板を剥がした。製品に組み込まれていた偏光板の代わりに、上で得た複合偏光板をそれぞれ位相差フィルム側で感圧式接着剤を介して貼合した。再びテレビを組み立ててからバックライトを点灯し、正面コントラストを、ELDIM 社製の液晶視野角測定装置“EZ Contrast 160R”で測定した。
【0046】
[実施例1]
プロピレン−エチレンランダム共重合体(MFR=8g/10分、エチレン含有量=4.6重量%)を、シリンダー温度を250℃とした50mmφ押出機に投入して溶融混練し、13kg/hの押出量で前記押出機に取り付けられた450mm巾Tダイより押し出した。押し出された溶融状シートを、13℃に温調した250mmφの冷却ロールと、13℃に温調した金属スリーブ(外筒)およびその内部にある弾性体ロールから構成されるタッチロールとにより挟圧して冷却し、厚さ100μmのフィルムを得た。このときの狭圧線圧は5N/mmであり、冷却ロールとタッチロールとの間にバンクは発生していなかった。Tダイの吐出口とロールとの距離(エアーギャップ)は20mm、冷却ロールとタッチロールとの間で溶融状シートを挟圧した距離は10mmであった。こうして得られたフィルムから、種々の評価用サンプルを採取した。サンプルの融点は136℃であり、面内位相差は30nmであった。広角X線回折測定により得られた回折プロファイルにおいて、回折角が13〜15度の範囲で最も回折強度が高いピークの強度Cは10900cpsであり、C×0.8のレベルにおけるピーク幅Dは2.5度であった。この結果より、このサンプルの回折プロファイルは、大部分がスメクチック晶に由来するプロファイルであると判定した。X線回折プロファイルの全体面積中、スメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合は96%であった。また、このサンプルには球晶は生成していなかった。
前記「(1)予備試験」の手順に従い、延伸温度140℃で、歪みが600%になるまでサンプルを縦方向に延伸した。歪み200%における応力B200は0.77MPaで、歪み600%における応力B600は1.19MPa、式(1)より求めたパラメータ(A)は0.0011であった。
前記「(2)延伸フィルムの均一性の評価」の手順に従い、延伸後にフィルム上の線間距離の標準偏差を求めたところ、1.5であり、位相差むらは小さかった。
また、前記フィルムをその製造完了から23℃で20時間保管した後に、該フィルム(原反フィルム)をエアーフローティング方式のオーブンを用いたロングスパン縦延伸機を用いて縦方向に2倍延伸した後、テンター横延伸機を用いて横4倍延伸して、厚みが15μm、面内位相差が50nm、厚み方向位相差が110nmの延伸フィルムを得た。原反フィルムのX線回折プロファイルの全体面積中、スメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合は、原反フィルムの製造完了から20時間後も4%であり、球晶は生成していなかった。得られた延伸フィルムの内部ヘイズは0.1%であった。この延伸フィルムを液晶表示装置内に設置して正面コントラストを測定したところ、正面コントラストは1500であった。
【0047】
[実施例2]
プロピレン−エチレンランダム共重合体(MFR=1.5g/10分、エチレン含有量=5.7重量%)を、シリンダー温度を240℃とした65mmφ押出機に投入して溶融混練し、46kg/hの押出量で前記押出機に取り付けられた1200mm巾Tダイより押し出した。押し出された溶融状シートを、13℃に温調した400mmφの冷却ロールと、13℃に温調した金属スリーブ(外筒)とその内部にある弾性体ロールから構成されるタッチロールとにより挟圧して冷却し、厚さ200μmのフィルムを得た。エアーギャップは150mm、冷却ロールとタッチロールとの間で溶融状シートを挟圧した距離は20mmであった。こうして得られたフィルムから、種々の評価用サンプルを採取した。サンプルの融点は129℃であり、面内位相差は25nmであった。サンプルのX線回折プロファイルの全体面積中、スメクチック晶に由来するプロファイルの面積の割合は96%であった。
前記「(1)予備試験」の手順に従い、延伸温度130℃で、歪みが600%になるまでサンプルを縦方向に延伸した。B200、B600、パラメータ(A)、延伸フィルムの均一性は表1に示した。延伸フィルムの位相差むらは小さかった。
【0048】
[比較例1]
冷却ロールとタッチロールの温度をともに30℃とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、予備試験を実施した。このフィルムの広角X線回折測定により得られた回折プロファイルにおいて、回折角が13〜15度の範囲で最も回折強度が高いピークの強度Cは5400cpsであり、C×0.8のレベルにおけるピーク幅Dは0.6度であった。この結果より、このサンプルのX線回折プロファイルにおいて、スメクチック晶に由来するプロファイルは、明らかに回折プロファイルの全体面積の90%未満であると判定した。またこのフィルムには球晶は生成していた。このフィルムの面内位相差は30nmであった。
上記フィルムを原反フィルムとして用い、これをエアーフローティング方式のオーブンを用いたロングスパン縦延伸機を用いて縦方向に1.5倍延伸した後、テンター横延伸機を用いて横3.5倍延伸して、面内位相差が50nm、厚み方向位相差が110nmの延伸フィルムを得た。この延伸フィルムを液晶表示装置内に設置して正面コントラストを測定したところ、正面コントラストは300であった。
【0049】
[比較例2]
フィルムの材料をプロピレン−エチレンランダム共重合体(MFR=2g/10 分、エチレン含有量=0.5重量%)とした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、延伸フィルムの均一性の評価などを実施した。延伸前のフィルムの面内位相差は35nmであった。
【0050】
【表1】

*1) 「--」は未測定を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のフィルムは、位相差フィルムの製造において延伸に供する原フィルムとして有用である。このフィルムの延伸によって得られる位相差フィルムは、透明性が高いため、液晶表示装置に組み込まれたときに、高い正面コントラストを発現することから、液晶表示装置の構成要素として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】引張試験用サンプルの模式図である。
【図2】広角X線回折プロファイルの解析方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
1 フィルム
2 フィルム上に引かれた線
3 C×0.8のレベルにおけるピーク幅D(度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系ランダム共重合体およびプロピレン系ブロック共重合体から選択されるプロピレン系共重合体からなる位相差フィルム用原反フィルムであって、
該フィルムを構成しているプロピレン系共重合体はスメクチック晶を含有する結晶を有しており、該プロピレン系共重合体の全結晶に占めるスメクチック晶の割合が90%以上であり、
該フィルムは、面内位相差が50nm以下であり、厚みが30〜200μmの範囲内にあり、
前記プロピレン系共重合体は、それからなるフィルムを、歪み200%における応力が0.8±0.1 MPaとなる温度において、引張速度100mm/分で延伸したときの応力−歪み曲線について定義される式(1)により算出されるパラメータ(A)が、0.0007〜0.1の範囲内にある重合体である位相差フィルム用原反フィルム。
(A)=(B600−B200)/400・・・式(1)
(式中、B600およびB200は、歪み600%における応力(MPa)および歪み200%における応力(MPa)をそれぞれ表わす。)
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムを延伸して得られる位相差フィルム。
【請求項3】
内部ヘイズが0.5%以下であり、厚みが10〜50μmであり、面内位相差が30〜150nmである請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の位相差フィルムを備える液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−276162(P2008−276162A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245036(P2007−245036)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】