説明

位相差フィルム

【課題】逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】測定波長450nmにおけるフィルム面内位相差Ro(450)と測定波長550nmにおけるフィルム面内位相差Ro(550)とが下記式を満足し、かつ、光弾性係数が2×10−11Pa−1以下である位相差フィルム。
Ro(450)/Ro(550)<1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター等の表示装置において、ブラウン管式のCRT(Cathode Ray Tube)とともに、液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)が多用されている。このような液晶表示装置は、通常、液晶分子を封入した電極が組み込まれたガラスセルに透明な粘着剤を介して位相差フィルムが貼り合わされ、更にその上に粘着剤を介して偏光板が貼り合わされた構成となっている。ここで用いられる位相差フィルムは、一般的にポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリサルホン系樹脂、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂等の熱可塑性樹脂を、流延(溶液キャスト)製膜法、カレンダー製膜法、溶融押出製膜法等により製膜し、これを縦方向又は横方向若しくは双方に延伸することで作製されている。
【0003】
反射型液晶表示装置や反射型偏光板において用いられる位相差フィルムには、可視光領域(400〜700nm)において直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換する作用(位相差がλ/4(nm))を有することが求められる。しかしながら、ポリカーボネート系樹脂等からなる一般の位相差フィルムは、複屈折が短波長ほど大きく、長波長ほど小さくなる性質を有しており、特に短波長側においてこの性能を満たすのは困難であった。
【0004】
特許文献1、2には、位相差やアッベ数の異なる2種の位相差フィルムを積層することにより、可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することが記載されている。しかし、2枚のフィルムを積層する方法では、フィルム貼り合わせ工程の増加によるコスト増や、光学設計上の負荷増大等の問題があった。
【0005】
これに対して特許文献3には、正の光学異方性となるモノマーと負の光学異方性となるモノマーとを共重合させた樹脂を用いることにより、測定波長が短波長ほど複屈折が小さい性質(いわゆる逆分散性)を有する位相差フィルムが得られ、この位相差フィルムは1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載された位相差フィルムは、主としてポリカーボネート成分からなるため光弾性係数が大きく、外部からの応力により位相差値が変化し易いという問題があった。特に近年では液晶テレビ等の大型の液晶表示装置に対する需要が増大しているが、光弾性係数の大きな位相差フィルムではコントラストむらの発生が避けられず、ほとんど採用されていないのが現実であった。また、特許文献3に記載された位相差フィルムは、耐溶剤性に劣るという問題もあった。位相差フィルムには、例えば液晶性材料をコーティングする等の工程を行うことがあり、耐溶剤性に劣ると使える溶剤が制限されたり、位相差フィルム自体の使用が制限されてしまったりすることがあった。
【特許文献1】特開平10−68816号公報
【特許文献2】特開平2−285304号公報
【特許文献3】国際公開WO00/26705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
測定波長450nmにおけるフィルム面内位相差Ro(450)と測定波長550nmにおけるフィルム面内位相差Ro(550)とが下記式を満足し、かつ、光弾性係数が2×10−11Pa−1以下である位相差フィルムである。
Ro(450)/Ro(550)<1
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体とを含有する重合性組成物から形成される架橋高分子からなるフィルムは、一定の条件を満たした場合には延伸等により容易に配向フィルムとして位相差を付与することができ、このような配向フィルムからなる位相差フィルムは、高い耐溶剤性を発揮できることを見出した。
従来の技術常識では、架橋高分子からなるフィルムを延伸等すること自体が難しく、充分な位相差を有する配向フィルムとすることは困難であると考えられていた。従って、現在提案されている位相差フィルムのほとんどは熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸等して配向したものである。しかしながら、重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体とを含有する重合性組成物から形成される架橋高分子からなるフィルムは、動的粘弾性(DMA)測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)が一定範囲となるように単量体を選択することにより、充分な位相差を有する程度に延伸可能となる。
【0010】
この知見をもとに更に鋭意検討を行った結果、重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体として、
(1)得られた架橋高分子からなるフィルムが動的粘弾性(DMA)測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)が1.5×10Pa以下であるような単量体を選択すること、
(2)正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体と負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体とを両方含むように選択すること、及び、
(3)脂環構造を有するものを含むように選択すること、
の3つの条件を満たすように選択し、得られた架橋高分子からなるフィルムを延伸して配向させることで、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明において用いる架橋高分子からなるフィルムのDMA測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)の好ましい上限は1.5×10Paである。1.5×10Paを超えると、tanδピークの温度以上に加温しても延伸することができないことがある。より好ましい上限は1.0×10Paである。貯蔵弾性率(E’)の下限については特に限定されないが、好ましい下限は1.0×105Paである。1.0×105Pa未満であると、フィルムが柔軟すぎて延伸の作業性が著しく低下することがある。
なお、上記DMAを測定する場合の好ましい代表的な条件としては、例えば、サンプルのサイズ:1mm×6mm×45mm、測定温度範囲:20℃〜200℃、周波数:1Hz、測定モード:引っ張り、を挙げることができる。
【0012】
本発明の位相差フィルムは、架橋高分子の配向フィルムからなるものであって、上記架橋フィルムは重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体とを含有する重合性組成物から形成されるものである。
【0013】
上記重合性組成物に含まれる重合時に架橋基点成分となる単量体は、架橋高分子中において網目構造を形成して、得られる位相差フィルムに耐溶剤性を付与する役割を有する。
上記重合性組成物に含まれる重合時に鎖延長成分となる単量体は、得られる架橋高分子中における架橋点間距離を調整して、上述のDMA測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)を所望の範囲に調整する役割を有する。
更に、上記重合時に架橋基点成分となる単量体及び重合時に鎖延長成分となる単量体の分極の方向により、得られる位相差フィルムの位相差をコントロールすることができる。
まずは、上記重合時に架橋基点成分となる単量体及び重合時に鎖延長成分となる単量体の基本事項について説明する。
【0014】
上記重合時に架橋基点成分となる単量体としては、ラジカル重合性官能基やカチオン重合性官能基のような単独で連鎖重合できる官能基であれば、1分子中に反応性基を2個以上有するものが挙げられる。また、付加反応や縮合反応で逐次重合する反応性基であれば、1分子中に3個以上の反応性基を有するものが挙げられる。
上記単独で連鎖重合できる官能基としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のラジカル重合性のエチレン性不飽和基;ビニルエーテル基、エポキシ基等のカチオン重合性基が挙げられる。
上記付加反応や縮合反応で逐次重合する反応性基としては、同じ反応性基同士でもよいが、異なる2種類以上の反応性基を組み合わせることが好ましい。好ましい反応性基の組み合わせとしては、例えば、エポキシ基とカルボキシル基の組み合わせ、エポキシ基と酸無水物基の組み合わせ、エポキシ基とイソシアネート基の組み合わせ、イソシアネート基と水酸基の組み合わせ、イソシアネート基とアミノ基の組み合わせ、ビニル基とヒドロシリル基の組み合わせ等公知の組み合わせ等が挙げられる。
【0015】
上記重合時に架橋基点成分となる単量体としては、活性光線による短時間硬化が可能であることから、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を1分子中に2個以上有する化合物、カチオン重合性のエポキシ基を1分子中に2個以上有する化合物、カチオン重合性のビニルエーテル基を1分子中に2個以上有する化合物が好適である。なかでも、化学構造のバリエーションが非常に豊富で材料設計の自由度が高いことから、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を1分子中に2個以上有する化合物がより好適であり、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する化合物が特に好適である。
【0016】
上記ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を1分子中に2個以上有する化合物としては特に限定されず、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、側鎖にエチレン性不飽和基を有するビニル系共重合体等が挙げられる。なかでも、原料の入手性、反応の制御の容易性、得られるフィルムの透明性等の観点から、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂が特に好適である。
なお、本明細書においてエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とは、エポキシ樹脂のエポキシ基に、(メタ)アクリル酸、アクリル酸ダイマー等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物のカルボキシル基を付加反応させて得られる樹脂を意味する。
【0017】
上記エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の原料となるエポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカーボネート、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
【0018】
上記エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の原料となるエポキシ樹脂としては、分子構造の両末端にエポキシ基があり、かつ、平均分子量が500以上であるものが好適である。このようなエポキシ樹脂を用いたエポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、架橋点間距離が大きくなることから、DMA測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)を所望の範囲に調整しやすい。
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。
なお、原料エポキシ樹脂の平均分子量が500未満であっても、コハク酸、アジピン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のようなジカルボン酸を一部用いることにより分子量を大きくしても構わない。
【0019】
上記エポキシ(メタ)アクリレート樹脂を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、上記エポキシ樹脂と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物とを反応器に仕込み、空気を吹き込みながら反応を行う方法等が挙げられる。このときの反応温度の好ましい下限は70℃、好ましい上限は150℃である。70℃未満であると、反応時間が長くなり経済的ではないことがあり、150℃を超えるとゲル化して反応が進行しないことがある。より好ましい下限は80℃、より好ましい上限は140℃である。
【0020】
上記エポキシ樹脂と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物とを反応させる際には、反応触媒を添加してもよい。反応触媒を添加することにより、反応時間を短縮することができる。
上記反応触媒としては特に限定されず、例えば、3級アミン系化合物、ホスフィン化合物、オニウム塩等が挙げられる。
上記3級アミン系化合物としては特に限定されず、例えば、ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられ、ホスフィン系化合物としてはトリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。
上記オニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩;テトラフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラメチルホスホニウムテトラフェニルボレート等の4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0021】
上記反応触媒を添加する場合の添加量としては、エポキシ樹脂とカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の総和に対して好ましい下限が0.05重量%、好ましい上限が3重量%である。0.05重量%未満であると、反応の促進効果が得られないことがあり、3重量%を超えると得られる樹脂に着色することがある。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は2重量%である。
【0022】
上記重合時に鎖延長成分となる単量体としては、上記重合時に架橋基点成分となる単量体の有する反応性基と反応可能な単量体が挙げられる。ラジカル重合性官能基やカチオン重合性官能基のように単独で連鎖重合できる官能基に対しては、1分子中に反応性基を1個有するものが挙げられる。また、付加反応や縮合反応で逐次重合する反応性基に対しては、1分子中に2個反応性基を有するものが挙げられる。例えば、上記重合時に鎖延長成分となる単量体としてエポキシ(メタ)アクリレート樹脂を用いる場合には、上記重合時に鎖延長成分となる単量体としては単官能のエチレン性不飽和モノマーが好適である
【0023】
このような重合時に架橋基点成分となる単量体及び重合時に鎖延長成分となる単量体の基本事項を踏まえたうえで、上述の条件(1)〜(3)を満たすように単量体の選択を行う。
【0024】
上記重合時に架橋基点成分となる単量体としては、例えば、水添ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート等が挙げられる。
上記重合時に鎖延長成分となる単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、スチレン、p−メトキシスチレン等が挙げられる。
【0025】
これらの単量体のなかで、正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体は、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−アクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、水添ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートである。
これらの単量体のなかで、負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、スチレン、p−メトキシスチレンである。
逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができる位相差フィルムを得るためには、これらのなかから正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体と負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体を選択して組み合わせる(選択条件(2))。
【0026】
測定波長450nmにおけるフィルム面内位相差Ro(450)と測定波長550nmにおけるフィルム面内位相差Ro(550)とが上記式を満足する位相差フィルムを得るためには、上記正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体と負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体との配合比を適宜決定する必要がある。位相差フィルムとしたときに正の屈折率異方性を与える為には上記正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体を増やす必要があり、また負の屈折率異方性を与えるためには上記負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体を増やす必要がある。また、単純に正・負の配合比だけでなく波長分散性についても考慮して配合する必要がある。上記式を満たし、位相差フィルムが正の屈折率異方性となるためには上記正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体と上記負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体の波長分散性(Ro450/Ro550)の関係が負の成分の波長分散性が上記正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体のそれよりも大きいものを選択しなければならない。また位相差フィルムとして負の屈折率異方性を与える場合は逆に上記正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体の波長分散性が上記負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体よりも大きいものを選択しなければならない。
【0027】
これらの単量体のなかで脂環構造を有するものは、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−シクロヘキシルマレイミド、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートである。低光弾性係数の位相差フィルムを得るためには、これらのうちの少なくとも1つを選択する(選択条件(3))。
【0028】
得られる位相差フィルムの光弾性係数を2×10−11Pa−1以下とするためには、上記原料となる重合時に架橋基点成分となる単量体及び重合時に鎖延長成分となる単量体中、上記脂環構造の含有量を15重量%以上とすることが好ましい。より好ましくは25重量%以上である。
【0029】
更に、これらの可能な選択肢のなかで、得られた架橋高分子からなるフィルムが動的粘弾性(DMA)測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)が1.5×10Pa以下であるように選択する(選択条件(1))。
【0030】
好ましい単量体の組み合わせとしては、例えば、重合時に架橋基点成分となる単量体として正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体であり、かつ、脂環構造を有する単量体である水添ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートを、鎖延長成分となる単量体として負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体であるスチレンを選択し、弾性率を調整する等の目的で他の単量体を組み合わせること等が挙げられる。
【0031】
上記重合性組成物において、上記重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体との配合比については特に限定されないが、上記重合時に架橋基点成分となる単量体の全単量体に占める配合量の好ましい下限は3モル%、好ましい上限は25モル%である。3モル%未満であると、得られる位相差フィルムが充分な耐溶剤性を発揮できないことがあり、25モル%を超えると、DMA測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)を所望の範囲内に調整することができず、延伸不能になることがある。より好ましい下限は5モル%、より好ましい上限は20モル%である。
【0032】
上記重合性組成物は、本発明の目的を損なわない範囲、特にDMA測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)を所望の範囲からはずれない範囲で、他のラジカル重合性のエチレン性不飽和基を1分子中に2個以上有する化合物を配合してもよい。
そのような化合物としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO4モル付加ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO3モル付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジビニルベンゼン、4,4’−ジビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0033】
上記重合性組成物は、更に、熱重合開始剤及び/又は光重合開始剤を含有することが好ましい。
上記熱重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステル等の有機過酸化物系の熱重合開始剤が好適である。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3,−トリメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジブチルパーオキシヘキサン等が挙げられる。
上記光重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル-プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0034】
上記重合性組成物は、必要に応じて、重合促進剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、可塑剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0035】
上記重合性組成物は、例えば、上記重合時に架橋基点成分となる単量体、重合時に鎖延長成分となる単量体、重合開始剤及び必要に応じて添加される添加剤を混合、攪拌した後、脱泡することにより調製することができる。
【0036】
本発明の位相差フィルムは、上記重合性組成物から形成される架橋高分子の配向フィルムからなる。
上記重合性組成物を用いてフィルムを調製する方法としては特に限定されないが、例えば、上記重合性組成物からなる塗膜を形成した後、該塗膜を硬化させる方法等が挙げられる。
【0037】
上記重合性組成物からなる塗膜を形成する方法としては特に限定されず、例えば、支持基体上に上記重合性組成物を塗工又は印刷する方法が挙げられる。具体的には、例えば、ブレードコーティング、ワイヤードクターコーティング、ナイフコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、ダイコーティング等の塗工手法や、フレキソ印刷等の凸版印刷、ダイレクトグラビア印刷、オフセットグラビア印刷等の凹版印刷、オフセット印刷等の平版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷手法による方法が挙げられる。
上記支持基体としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、セロファン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種樹脂フィルム;ガラス板、金属板等が挙げられる。
また、上記重合性組成物を2枚の支持基材で挟み支持基材の間で塗膜を形成してもよい。
【0038】
上記塗膜を硬化させる方法としては特に限定されず、例えば、加熱する方法、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。
なお、上記重合性組成物がラジカル重合性の化合物を含有する場合には、ラジカル重合性の化合物は空気中の酸素により重合が阻害されることから、塗膜の硬化工程は窒素パージ等による酸素を遮断した環境下で行うことが好ましい。
【0039】
本発明の位相差フィルムとなる配向フィルムは、上記重合性組成物から形成される架橋高分子のフィルムを配向することにより得ることができる。
上記配向の方法としては、フィルムを延伸により配向させる方法、磁力、光刺激等によって配向させる方法等を挙げることができるが、延伸により分子鎖を配向させる方法が簡便であり好ましい。即ち、DMAによって得られたtanδピークの温度以上の温度で延伸することが好ましい。
【0040】
測定波長450nmにおけるフィルム面内位相差Ro(450)と測定波長550nmにおけるフィルム面内位相差Ro(550)とが下記式を満足する。
Ro(450)/Ro(550)<1
このような位相差フィルムは、広い波長領域において円偏光を直線偏光に、直線偏光を円偏光に変換することができる。このような位相差フィルムは、偏光板一枚型やゲストホスト型の反射型液晶表示装置、片方の円偏光だけ反射するような反射型偏光素子に応用することにより、画質に優れる液晶表示装置や高性能の反射型偏光素子を提供することができる。
【0041】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が2×10−11Pa−1以下である。このような光弾性係数を有する位相差フィルムは、大型の液晶表示装置に用いた場合にでも、ほとんどコントラストむらが発生することがない。光弾性係数のより好ましい上限は1×10−11Pa−1である。
【0042】
本発明の位相差フィルムは、トルエン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール等の液晶性材料をコーティングする際に用いられる有機溶剤に対する耐溶剤性にも優れる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の位相差フィルムは、架橋高分子からなるフィルムを延伸等の配向処理することにより位相差を付与した配向フィルムからなることから、従来の熱可塑性樹脂を延伸配向させてなる位相差フィルムに比較して、耐溶剤性に優れる。また、架橋高分子を構成する単量体を選択することにより、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができると同時に、光弾性係数を低くすることができる。
本発明によれば、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
(1)重合時に架橋基点成分となる単量体の合成
温度計、攪拌装置、冷却管、ガス導入管を取付けた1Lのフラスコに、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量700)350g(0.5当量)、スチレン44gを仕込み、100℃に加熱して水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を完全に溶解させた後、メタクリル酸43g(0.5モル)、テトラフェニルホスホニウムクロライド2.6g、メトキノン0.2gを加え、空気を吹き込みながら120〜125℃で7時間反応を行った。酸価3となった段階で冷却し水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm)90重量%と、スチレン単位10重量%の樹脂1を得た。
【0046】
(2)重合性組成物の調製
得られた樹脂1の75.6重量部[水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm:重合時に架橋基点成分となる単量体/正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体/脂環構造を有する単量体)68重量部、スチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)7.6重量部含有]に対して、重合時に鎖延長成分となる単量体としてスチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)2.4重量部、メチルメタクリレート20重量部(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)、及び、イソボルニルメタクリレート(正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体)12重量部を加え、更に、熱重合開始剤(日本油脂社製、パーオクタO−70)1.5phrを加えた。攪拌機(東京理化器械社製、MAZELA Z2300)を用いて10分間(回転数:50rpm)攪拌した後、減圧脱泡することにより重合性組成物を調製した。
【0047】
(3)試験用架橋高分子板の調製
内側に離型フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼付した2枚のガラス板の間に厚さ1mmのスペーサを挟み、この隙間に得られた重合性組成物を流し込んだ。これを120℃のオーブンに入れ、20分熱硬化した後冷却して架橋高分子からなる板状体を得た。これを6mm×45mmのサイズにカットしたものを試験用架橋高分子板とした。
【0048】
(4)試験用架橋高分子フィルムの調製
内側に離型フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼付した2枚のガラス板の間に厚さ100μmのスペーサを挟み、この隙間に得られた重合性組成物を流し込んだ。これを120℃のオーブンに入れ、10分熱硬化した後冷却して、厚さ100μmの架橋高分子からなるフィルムを得た。
【0049】
(5)位相差フィルムの調製
得られた試験用架橋高分子フィルムを60mm×20mmのサイズにカットし、これを引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロンRTC)を用いて下記の条件により延伸して配向フィルムを得、これを位相差フィルムとした。
チャック間距離:40mm
引張速度:300mm/分
引張距離:20mm(1.5倍に延伸)
延伸温度:tanδのピークトップ温度+5℃
冷却固化:延伸動作が停止したとほぼ同時に恒温槽扉を開けて急冷固化を行う
【0050】
(実施例2)
樹脂1の75.6重量部[水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm:重合時に架橋基点成分となる単量体/正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体/脂環構造を有する単量体)68重量部、スチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)7.6重量部含有]に対して、重合時に鎖延長成分となる単量体としてスチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)0.4重量部、メチルメタクリレート10重量部(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)、イソボルニルメタクリレート(正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体)4重量部、及び、N−アクリロイルモルホリン(正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体)20重量部を加え、更に、熱重合開始剤(日本油脂社製、パーオクタO−70)1.5phrを加えた。攪拌機(東京理化器械社製、MAZELA Z2300)を用いて10分間(回転数:50rpm)攪拌した後、減圧脱泡することにより重合性組成物を調製した。
得られた重合性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして試験用架橋高分子板、試験用架橋高分子フィルム及び位相差フィルムを調製した。
【0051】
(実施例3)
(1)重合時に架橋基点成分となる単量体の合成
温度計、攪拌装置、冷却管、ガス導入管を取付けた1Lのフラスコに、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量700)350g(0.5当量)、コハク酸 3.0g(0.025モル)、イソボルニルメタクリレート 69.6gを仕込み、100℃に加熱して水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を完全に溶解させた後、メタクリル酸 38.7g(0.45モル)、テトラフェニルホスホニウムクロライド2.6g、メトキノン0.2gを加え、空気を吹き込みながら120〜125℃で7時間反応を行った。酸価3となった段階で冷却し水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm−1)85重量%とイソボルニルメタクリレート単位が15重量%含有されている樹脂2を得た。
【0052】
(2)重合性組成物等の調製
樹脂2の80重量部[水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm−1:重合時に架橋基点成分となる単量体/正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体/脂環構造を有する単量体)68重量部、イソボルニルメタクリレート(正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体)12重量部含有]に対して、重合時に鎖延長成分となる単量体としてスチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)10重量部、メチルメタクリレート20重量部(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)を加え、更に、熱重合開始剤(日本油脂社製、パーオクタO−70)1.5phrを加えた。攪拌機(東京理化器械社製、MAZELA Z2300)を用いて10分間(回転数:50rpm)攪拌した後、減圧脱泡することにより重合性組成物を調製した。
得られた重合性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして試験用架橋高分子板、試験用架橋高分子フィルム及び位相差フィルムを調製した。
【0053】
(実施例4)
(1)重合時に架橋基点成分となる単量体の合成
温度計、攪拌装置、冷却管、ガス導入管を取付けた1Lのフラスコに、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量700)350g(0.5当量)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸 4.3g(0.025モル)、イソボルニルメタクリレート69.8gを仕込み、100℃に加熱して水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を完全に溶解させた後、メタクリル酸 38.7g(0.45モル)、テトラフェニルホスホニウムクロライド2.6g、メトキノン0.2gを加え、空気を吹き込みながら120〜125℃で7時間反応を行った。酸価3となった段階で冷却し水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm−2)85重量%とイソボルニルメタクリレート単位が15重量%含有されている樹脂3を得た。
【0054】
(2)重合性組成物等の調製
樹脂3の80重量部[水添ビスフェノールA型エポキシメタクリレート樹脂(2Bm−2:重合時に架橋基点成分となる単量体/正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体/脂環構造を有する単量体)68重量部、イソボルニルメタクリレート(正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体)12重量部含有]に対して、重合時に鎖延長成分となる単量体としてスチレン(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)10重量部、メチルメタクリレート20重量部(負の屈性率異方性を有する高分子を形成する単量体)を加え、更に、熱重合開始剤(日本油脂社製、パーオクタO−70)1.5phrを加えた。攪拌機(東京理化器械社製、MAZELA Z2300)を用いて10分間(回転数:50rpm)攪拌した後、減圧脱泡することにより重合性組成物を調製した。
得られた重合性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして試験用架橋高分子板、試験用架橋高分子フィルム及び位相差フィルムを調製した。
【0055】
(比較例1)
比較例1として、市販の液晶表示装置に使用されていた逆分散性を有する位相差フィルム(帝人社製)を用いた。
【0056】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1で得られた試験用架橋高分子板、試験用架橋高分子フィルム及び位相差フィルムを用いて以下の評価を行った。
結果を表1に示した。
【0057】
(1)損失正接(tanδ)のピークトップ温度及び引張貯蔵弾性率(E’)の測定
得られた試験用架橋高分子板について延伸性を評価した。即ち、動的粘弾性測定機(オリエンテック社製、レオバイブロンDDV−25FP)を用いて、測定温度範囲:0℃〜200℃、周波数:1Hz、測定モード:引っ張り、の条件にて、損失正接(tanδ)のピークトップ温度及び該損失正接(tanδ)のピークトップ温度+40℃における引張貯蔵弾性率(E’)を測定した。
【0058】
(2)延伸性の評価
得られた試験用架橋高分子フィルムからなるフィルムを60mm×20mmのサイズにカットし、これを引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロンRTC)を用いて下記の条件により延伸して延伸性を評価した。
チャック間距離:40mm
引張速度:300mm/分
引張距離:20mm(1.5倍に延伸)
延伸温度:tanδのピークトップ温度+5℃
延伸性について、以下の基準により評価した。
○:延伸
×:破断
【0059】
(3)位相差特性の評価
光学測定装置(大塚電子社製、RETS−1200RF)を用いて波長550nmにおける位相差を測定した。測定は回転検光子法による方法で行った。
【0060】
(4)光弾性係数の評価
位相差フィルムを、延伸方向と長手方向とがほぼ平行となるようにして、10mm幅で切り出し、サンプルとした。
得られたサンプルの長手方向に平行に力をかけながら位相差を測定した。荷重はクリップの一方に取り付けられているロードセル(イマダ社製、デジタルフォースゲージZPSシリーズ)により測定した。フィルムへの荷重はフィルムの両端をクリップで把持し、クリップ間の距離を調整することで行った。距離調整の作業を止めると緩和の為、値が減少する場合があるので、ほぼ一定の速度で変化させ、クリップの移動を止めた時に表示された値を荷重値として読み取った。荷重は0.3N付近から略1N間隔で10N付近まで荷重をかけた。個々の荷重に対して位相差を測定した。
【0061】
得られた荷重と位相差とのデータをもとに複屈折Δn及び応力σを求めた。横軸を応力σ、縦軸を複屈折Δnとしてプロットし、線形近似(最小二乗法)より傾きを求め、これを光弾性係数とした。
なお、Δn(無次元)は、測定した位相差値(nm単位)を測定した部位の厚み(nm単位)で割った値とした。厚みはミツトヨ製ダイヤルゲージ(最小目盛り1μm)を用いて測定した。また、応力σ(Pa)は、測定部位の断面積(m単位)を求め、荷重値(N単位)をそれで割って求めた。更に、断面積はΔn計算のときに用いた厚みと幅10mmとから算出した。
【0062】
(5)耐溶剤性の評価
位相差フィルムを15mm×15mmに切り出し、常温でトルエン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコールに1時間浸漬した後取り出し、状態の観察を行い、以下の基準にて評価した。
○:外観上の変化が無い場合
×:表面の曇り、白化、割れ、溶解等フィルムに変化があった場合
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、逆分散性を有し1枚だけで可視光領域全域において理想の位相差(λ/4(nm))を実現することができるとともに、光弾性係数が低く、耐溶剤性にも優れる位相差フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定波長450nmにおけるフィルム面内位相差Ro(450)と測定波長550nmにおけるフィルム面内位相差Ro(550)とが下記式を満足し、かつ、光弾性係数が2×10−11Pa−1以下であることを特徴とする位相差フィルム。
Ro(450)/Ro(550)<1
【請求項2】
重合時に架橋基点成分となる単量体と重合時に鎖延長成分となる単量体とを含有する重合性組成物から形成される架橋高分子からなるフィルムを配向させてなる位相差フィルムであって、
前記重合時に架橋基点成分となる単量体及び重合時に鎖延長成分となる単量体は、正の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体と負の屈折率異方性を有する高分子を形成する単量体とを含み、かつ、脂環構造を有するものを含むものであり、
前記架橋高分子からなるフィルムは、動的粘弾性(DMA)測定により得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度+20℃以上における引張貯蔵弾性率(E’)が1.5×10Pa以下である
ことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項3】
重合時に架橋基点成分となる単量体は、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する化合物は、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂であることを特徴とする請求項3記載の位相差フィルム。
【請求項5】
重合時に鎖延長成分となる単量体は、単官能のエチレン性不飽和モノマーであることを特徴とする請求項4記載の位相差フィルム。

【公開番号】特開2009−42673(P2009−42673A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210099(P2007−210099)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】