説明

位相差フィルム

【課題】広範囲の波長における光学補償が可能となる新規な組成を有する位相差フィルムを提供する。
【解決手段】セルロース系樹脂(A)および、(I)ガラス転移温度が110℃以上であり、(II)負の固有複屈折を示し、且つ、(III)特定の分子構造または複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する、アクリル系樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなり、波長が短くなるほど面内位相差Reが小さくなる波長分散性を示す位相差フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系樹脂およびアクリル系樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる位相差フィルムと、このフィルムを備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した複屈折性を有する光学フィルムが、画像表示分野において幅広く使用されている。例えば、複屈折により生じる位相差を利用した光学フィルムが、画像表示装置の色調の補償、視野角の補償などに広く用いられている。具体的な例として、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リタ−デ−ション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が用いられる。これら複屈折性を有する光学フィルム(以下、単に「複屈折フィルム」または「位相差フィルム」ともいう)は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
位相差フィルムには、これまで、ポリカ−ボネ−トや環状オレフィンなどが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)特性を有する。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、少なくとも可視光の領域において、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を有する複屈折フィルムが望まれる。なお、本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子(ならびに当前記高分子により形成された複屈折フィルム)が有する波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
これまで、逆波長分散性を有する複屈折フィルムを得るために、位相差あるいは波長分散性が異なる2種の複屈折フィルムを積層したり、特定の光学特性を有する微粒子を部材に添加したりすることがなされている(例えば、微粒子の添加について、特許文献1を参照)。しかし、2種の複屈折フィルムを積層して逆波長分散性を実現するためには、双方の部材を所定の角度で精密に裁断し、さらに両者を所定の角度で精密に積層することが求められるため、製造工程が複雑となって、複屈折フィルムのコスト性、生産性に大きな課題が生じる。また、モバイル機器に用いる画像表示装置では、その小型化、軽量化に対する要求が高いが、2種の部材を積層して逆波長分散性を実現する方法では、得られる複屈折フィルムが厚くなるため、この要求への対応が難しい。一方、微粒子を添加する方法では、製造工程が複雑となり、複屈折フィルムのコスト性、生産性に大きな課題が残る。
【0005】
これらの技術とは別に、特許文献2には、正の固有複屈折を有するポリマ−と、負の固有複屈折を有するポリマ−とをブレンドして得た、逆波長分散性を有する位相差板が開示されている。当前記文献には、正の固有複屈折を有するポリマ−としてノルボルネン系樹脂が、負の固有複屈折を有するポリマ−としてスチレン系ポリマ−が例示されている。特許文献3には、正の固有複屈折を有する分子鎖と、負の固有複屈折を有する分子鎖とを有する共重合体を含む組成物を用いて形成された、逆波長分散性を有する位相差板が開示されている。当前記文献には、正の固有複屈折を有する分子鎖としてノルボルネン鎖が、負の固有複屈折を有する分子鎖としてスチレン鎖などのスチレン系の分子鎖が例示されている。
【0006】
また、特許文献4には、セルロース系樹脂が構造によっては単層で逆波長分散性を有することが開示されている。従来セルロース系樹脂は偏光子保護フィルムなどに用いられてきたこともあり、偏光子保護フィルムの機能を有する位相差フィルムとしての開発が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−156864号公報
【特許文献2】特開2001−337222号公報
【特許文献3】特開2001−235622号公報
【特許文献4】特開2000−137116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、セルロース系樹脂を逆波長分散性を有する位相差フィルムとして使用する場合、光弾性係数が大きいため、例えば、フィルム製造時の延伸工程において、張力の僅かな振れにより、位相差のバラツキが生じ易かったり、また、高温暴露時においては、フィルムのレターデーションが不均一となりやすく、特に大型の液晶表示装置に用いた際にはコントラストのムラが発生する傾向があった。さらには、セルロース系樹脂は厚み方向の位相差が大きくなりやすいなどの問題点も有しており、例えば、自由端の一軸延伸をしてもNz係数が大きくなりやすく、フィルム面内に正の一軸性を有するフィルムの製造が容易でないといった現象も見られた。本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、広範囲の波長における光学補償が可能となる新規な組成を有する位相差フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差フィルムは、セルロース系樹脂(A)および、(I)ガラス転移温度が110℃以上であり、(II)負の固有複屈折を示し、且つ、(III)以下の式(1)、(2)もしくは(3)に示される分子構造または複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する、アクリル系樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなり、波長が短くなるほど面内位相差Reが小さくなる波長分散性を示す。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
(前記式(1)において、nは1〜4の範囲の自然数、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。)
また、本発明の液晶表示装置は、前記本発明の位相差フィルムを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の位相差フィルムは、セルロース系樹脂(A)および、特定のアクリル系樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなりことにより、優れた光学特性や逆波長分散性を示すため、広範囲の波長における光学補償が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を、それぞれ意味する。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。

《セルロース系樹脂(A)》
本発明に係るセルロース系樹脂としては、特に限定はされず、例えば芳香族カルボン酸エステル等も用いられるが、光学特性等の得られるフィルムの特性を鑑みると、セルロースの低級脂肪酸エステルを使用するのが好ましい。本発明においてセルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が5以下の脂肪酸を意味し、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースピバレート等がセルロースの低級脂肪酸エステルの好ましいものとして挙げられる。力学特性と溶融製膜性の双方を両立させるために、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等のように混合脂肪酸エステルを用いてもよい。その中でも、アクリル系重合体と相溶性が高いことから、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートが好ましく用いられる。この中でも位相差の波長分散性からはセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。
セルロース系樹脂(A)は、50000〜150000の数平均分子量(Mn)を有することが好ましく、55000〜120000の数平均分子量を有することが更に好ましく、60000〜100000の数平均分子量を有することが最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比が1.3〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0であり、更に好ましくは1.7〜4.0であり、更に好ましくは2.0〜3.5のセルロース系樹脂が好ましく用いられる。
セルロース系樹脂(A)の原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜時の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロース系樹脂は適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
セルロース系樹脂(A)は、例えば、原料セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及び/または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基及び/またはブチル基を置換することで得られる。このようなセルロース系樹脂の合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10−45804号或いは特表平6−501040号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0016】
セルロース系樹脂(A)は、公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質量体などである。添加剤の添加量は、例えば0.01〜20%であり、好ましくは0.1〜5%であり、より好ましくは0.1〜0.5%である。

《アクリル系樹脂(B)》
本発明に係るアクリル系樹脂(B)は、(I)ガラス転移温度が110℃以上であり、(II)負の固有複屈折を示し、且つ、(III)、以下の式(1)、(2)もしくは(3)に示される分子構造または複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
(前記式(1)において、nは1〜4の範囲の自然数、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。)
ここでアクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する樹脂のことである。アクリル系樹脂が有する全構成単位における(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合の合計は、10重量%以上が好ましく、より好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。また、アクリル系樹脂(B)は、重合後の環化反応などにより主鎖に環構造を導入してもよい。この場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50重量%以上であれば、アクリル系樹脂(B)とする。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルおよび2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどのα−ヒドロキシアクリル酸メチル、などの各単量体に由来する構成単位である。アクリル系樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが特に好ましく、この場合、成形品の光学特性と熱安定性が向上する。アクリル系樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
【0022】
アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度は110℃以上である。好ましくは、110℃〜200℃、より好ましくは115℃〜200℃、さらに好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足することがあるため好ましくない。また、200℃を超えると成形加工性が低下する場合があるため好ましくない。
【0023】
アクリル系樹脂(B)は負の固有複屈折を示す。一般のアクリル系樹脂の固有複屈折は弱い負を示すが、耐熱アクリル系樹脂は主鎖に環構造を導入しているため、正の固有複屈折となることが知られている。本発明に係るアクリル系樹脂(B)は、式(1)、(2)もしくは(3)に示される分子構造または複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有しているため、主鎖に環構造を導入した場合においても負の固有複屈折を示す。
【0024】
なお、重合体の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。また、樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる各重合体によって生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。
【0025】
アクリル系樹脂(B)は、前記式(1)、(2)もしくは(3)に示される分子構造または複素芳香族基を有する。式(1)、(2)、(3)に示される分子構造および複素芳香族基を分子構造Xとすると、例えば、アクリル系樹脂(B)は、分子構造Xが結合した構成単位(繰り返し単位)を有する重合体を含む。また、アクリル系樹脂(B)は、2種以上の分子構造Xを有していてもよい。
【0026】
アクリル系樹脂(B)の一例は、以下の式(4)、(5)または(6)に示される単位もしくは複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B−1)である。換言すれば、アクリル系樹脂(B)は、以下の式(4)、(5)または(6)に示される単位もしくは複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B−1)を含んでいてもよい。また、重合体(B−1)は2種以上の構成単位Yを有してもよい。
【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】

(式(4)において、nは1〜4の範囲の自然数、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。)
以下、式(4)、(5)、(6)に示される単位および複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を、構成単位Yと呼ぶ。また、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を、単に、不飽和単量体単位と記載する。
【0031】
構成単位Yのうち式(4)、(5)、(6)に示される単位は、各々、式(1)、(2)、(3)に示される分子構造に、重合性基であるビニル基またはメチレン基が結合した単量体の重合により形成される構成単位である。また、不飽和単量体単位は、典型的には、複素芳香族基に重合性基であるビニル基またはメチレン基が結合した単量体の重合により形成される構成単位である。
【0032】
重合体(B−1)は、式(4)または(5)に示される単位もしくは不飽和単量体単位を有することが好ましく、式(4)に示される単位または不飽和単量体単位を有することがより好ましい。
【0033】
式(4)に示される単位は、式(1)に示されるラクタム構造に、重合性基であるビニル基が結合した単量体(ビニルラクタム)の重合により形成される。式(4)に示される単位は、例えばN−ビニル−2−ピロリドン単位、N−ビニル−ε−カプロラクタム単位、N−ビニル−2−ピペリドン単位、N−ビニル−4−メチル−2−ピロリドン単位、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン単位およびN−ビニル−ω−ヘプタラクタム単位から選ばれる少なくとも1種である。
【0034】
式(5)に示される単位は、ビニルアントラセン単位である。当該単位は、式(2)に示されるアントラセン構造に、重合性基であるビニル基が結合した単量体(ビニルアントラセン)の重合により形成される。なお、式(5)に示す環上の水素原子の一部が、後述の式(8)における有機残基として例示した基によって置換されていてもよい。
【0035】
式(6)に示される単位は、ジベンゾフルベン単位である。当該単位は、式(3)に示されるフルオレン構造に、重合性基であるメチレン基が結合した単量体(ジベンゾフルベン)の重合により形成される。なお、式(6)に示す環上の水素原子の一部が、後述の式(8)における有機残基として例示した基によって置換されていてもよい。
【0036】
複素芳香族基は、例えばカルバゾール基、ピリジン基、イミダゾール基およびチオフェン基から選ばれる少なくとも1種である。その中で、セルロース系樹脂との相溶性からはカルバゾール基が好ましい。
【0037】
不飽和単量体単位は、例えばビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。ビニルカルバゾール単位を、以下の式(7)に示す。なお、式(7)に示す環上の水素原子の一部が、後述の式(8)における有機残基として例示した基によって置換されていてもよい。
【0038】
【化10】

【0039】
アクリル系樹脂(B)は、公知の方法により製造できる。例えば、構成単位として不飽和単量体単位(例えばビニルカルバゾール単位)およびアクリル酸エステル単位を有する重合体(B)は、上述したアクリル酸エステルと、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体(例えば式(7)に示すビニルカルバゾール単量体)とを含む単量体群を重合して形成できる。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることにより、不飽和単量体単位を構成単位として有するとともに、主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂(B)としてもよい。
【0040】
重合方法としては特に限定されず、ラジカル性やイオン性の開始剤による重合が可能である。重合形態としても特に限定されず、バルク重合や溶液重合、エマルジョン重合や懸濁重合を行うことが可能である。また、重合後は必要に応じて、乾燥や脱揮などの処理を行い、粉体やペレットとすることも出来る。
【0041】
アクリル系樹脂(B)は、主鎖に環構造を有することが好ましい。主鎖に環構造を有することにより、耐熱性が向上する。アクリル系樹脂(B)が主鎖に環構造を有する場合は、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位および環構造の割合の合計が50重量%以上であれば、主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂とする。
【0042】
主鎖の環構造としては、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミドなどのN−置換マレイミド、または、無水マレイン酸を共重合してN−置換マレイミド由来の環構造や無水酸無水物由来の環構造を導入してもよいし、重合後の環化反応により、主鎖にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド由来の環構造などを導入してもよい。耐熱性からは、ラクトン環構造、環状イミド構造(N−アルキル置換マレイミド由来の環構造やグルタルイミド環など)および環状酸無水物構造(無水マレイン酸由来の環構造やグルタル酸無水物など)を有するものが好ましく、光学特性から、主鎖にラクトン環構造を持つものが特に好ましい。
【0043】
主鎖のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、6員環が更に好ましい。また、主鎖のラクトン環構造が6員環である場合、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成する上において重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を得易い点、更にメタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、下記一般式(8)で表される構造であることが好ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;前記アルキル基、前記不飽和脂肪族炭化水素基および前記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。)
アクリル系樹脂(B)が環構造を有する場合、環構造の含有率は特に限定されないが、通常、5〜90重量%であり、10〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。前記含有率が過度に小さくなると、樹脂組成物を成形して得た樹脂成形品の耐熱性が低下したり、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、前記含有率が過度に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下する。
【0046】
アクリル系樹脂(B)への環構造の導入は公知の方法により可能である。環構造が無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造であるアクリル系樹脂は、例えば、WO2007/26659号公報あるいはWO2005/108438号公報に記載の方法により製造できる。環構造が無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド構造であるアクリル系樹脂は、例えば、特開昭57−153008号公報、特開2007−31537号公報に記載の方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル系樹脂は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報あるいは特開2007−63541号公報に記載の方法により製造できる。
【0047】
アクリル系樹脂(B)は、公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質量体などである。添加剤の添加量は、例えば0.01〜20%であり、好ましくは0.1〜5%であり、より好ましくは0.1〜0.5%である。

《熱可塑性樹脂組成物(C)》
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)は前記セルロース系樹脂(A)と前記アクリル系樹脂(B)を含む。好ましくは、前記セルロース系樹脂(A)5〜95重量%とアクリル系樹脂(B)95〜5重量%を含み、より好ましくは、セルロース系樹脂(A)20〜80重量%とアクリル系樹脂(B)20〜80重量%を含み、さらに好ましくはセルロース系樹脂(A)30〜70重量%とアクリル系樹脂(B)30〜70重量%を含む。セルロース系樹脂(A)の割合が高すぎると耐湿性や、光学特性が低下し、低すぎると可とう性が低下する。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは110℃〜200℃、さらに好ましくは115℃〜200℃、特に好ましくは120℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足することがあるため好ましくない。また、200℃を超えると成形加工性が低下する場合があるため好ましくない。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)は、前記セルロース系樹脂(A)と前記アクリル系樹脂(B)以外の成分を、当該組成物に占める割合にして好ましくは50重量%未満、より好ましくは30重量%、更に好ましくは10重量%未満の範囲で含んでいてもよい。
【0050】
その他の熱可塑性樹脂を含む場合、その他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン含有ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレンポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;などである。
【0051】
前記例示した熱可塑性樹脂のなかでも、アクリル系重合体との相溶性、特に主鎖に環構造を有するアクリル系重合体との相溶性に優れることから、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位と芳香族ビニル単量体に由来する構成単位とを含む共重合体が好ましい。当該共重合体は、例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体である。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジーヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタン等が挙げられる。サリシケート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシケート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。また、トリアゾール系化合物としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。さらに、トリアジン系化合物としては、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス「2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル」−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤が挙げられる。市販品としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤として「チヌビン1577」「チヌビン460」「チヌビン477」(チバスペシシャリティーケミカルズ社製)、トリアゾール系紫外線吸収剤として「アデカスタブLA−31」(旭電化工業社製)等が挙げられる。
【0053】
これらは単独で、または2種類以上の組み合わせて使用することができる。前記紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、フィルム中に0.01〜25重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜10重量%である。添加量が少なすぎると耐候性向上の寄与が低く、また多すぎると機械強度の低下や黄変を引き起こす場合がある。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)は、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤は特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系あるいはイオウ系などの公知の酸化防止剤を、1種で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0055】
酸化防止剤はフェノール系の酸化防止剤であってもよい。フェノール系酸化防止剤は、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオールビス[(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカンである。
【0056】
フェノール系酸化防止剤は、チオエーテル系酸化防止剤またはリン酸系酸化防止剤と組み合わせて使用することが好ましい。組み合わせる際の酸化防止剤の添加量は、アクリル系重合体に対してフェノール系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤の各々が0.01%以上、あるいはフェノール系酸化防止剤およびリン酸系酸化防止剤の各々が0.025%以上である。
【0057】
チオエーテル系酸化防止剤は、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートである。
【0058】
リン酸系酸化防止剤は、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトである。 本発明の熱可塑性樹脂組成物における酸化防止剤の添加量は、例えば0.001〜10%であり、好ましくは0.001〜5%であり、より好ましくは0.01〜2%であり、さらに好ましくは0.05〜1%である。酸化防止剤の添加量が過度に大きくなると、成形時に酸化防止剤のブリードアウトやシルバーストリークスが発生することがある。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤は、例えば、位相差上昇剤、位相差低減剤などの位相差調整剤;位相差安定剤、光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAやABSなどのゴム質量体などである。本発明の熱可塑性樹脂組成物における、前記その他の添加剤の添加量は、例えば0.01〜5%であり、好ましくは0.1〜2%であり、より好ましくは0.1〜0.5%である。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(C)の製造方法は特に限定されず、セルロース系樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)とを公知の方法により混合して製造できる。例えば、それぞれの樹脂を溶剤に溶解してから混合した後、溶液キャスト法により成膜、乾燥することで、フィルム状の熱可塑性樹脂組成物が製造可能である。また、両樹脂を押出機などで溶融させて混合してもよく、必要に応じて、ペレタイザーなどによりペレット化してもよい。

《位相差フィルム》
本発明の位相差フィルムは、前記熱可塑性樹脂組成物(C)からなる。
【0061】
本発明の位相差フィルムは、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折率が小さくなる。フィルムの波長分散性は、異なる波長でフィルムの位相差を測定することで評価が可能であり、例えば測定波長が589nmにおける位相差値を基準(R0)として、その他の波長における位相差Rとの比(R/R0)が589nm以下では1未満の場合で、かつ、589nmを超える波長では1を超える場合に、可視光領域において波長が短くなるほど複屈折率が小さくなっており、すなわち、逆波長分散となる。R/R0は447nm/589nmでは0.6以上1未満が好ましく、より好ましくは0.7以上0.95未満、さらに好ましくは0.75以上0.93未満であり、750nm/589nmでは1.0を超えて1.4以下が好ましく、より好ましくは1.02を超えて1.3以下である。
【0062】
本発明の位相差フィルムの光弾性係数は、10×10−12/Pa未満が好ましい。より好ましくは、5×10−12/Pa未満であり、更に好ましくは、3×10−12/Paである。光弾性係数が10×10−12/Pa以上では、外力による位相差の変化が大きくなり、画像むらが発生する。
【0063】
本発明の位相差フィルムの面内位相差Reは特に限定されず、液晶セルや他の光学補償フィルムの特性に応じて設計することが可能である。本発明に係る位相差フィルムは、測定波長589nmにおける面内位相差Reは50〜400nmが好ましい。より好ましくは50〜300nmであり、さらに好ましくは50〜200nmである。面内位相差Reが前記の値をとることにより、特にVAモードの液晶表示装置において画質が向上する。また厚さ方向の位相差Rthは、好ましくは50〜400nmであり、より好ましくは50〜200nmである。
【0064】
ここでいう面内位相差Reは、
Re=(nx−ny)×d
で、厚み方向位相差Rthは、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
で、定義される。なお、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。
【0065】
本発明の位相差フィルムは、光学的にフィルム面内に正の一軸性を有するフィルム(ポジティブAフィルム)であることが可能である。一軸性とは、前記フィルムの3種類の屈折率(nx、ny、nz)の内、2種類の屈折率がほぼ同一であり、もう一種類の屈折率が異なることである。フィルム面内に光学的に正の一軸性を有するとは、nyとnzがほぼ同一であり、且つnxがnyとnzより大きいという関係(nx>ny≒nz)を満たすことである。光学的にフィルム面内に正の一軸性を有するフィルムはポジティブAフィルムとも呼ばれる。
【0066】
本発明の位相差フィルムがポジティブAフィルムの場合、面内位相差Reは特に限定されないが、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは120〜300nmである。面内位相差Reが前記の値をとることにより、特にVAモードの液晶表示装置において画質が向上する。また、厚み方向位相差Rthは特に限定されないが、好ましくは50〜200nmであり、より好ましくは60〜150nmである。
【0067】
本発明の位相差フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜500μmであり、20μm〜300μmが好ましく、30μm〜150μmが特に好ましい。
本発明の位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、位相差フィルムとして適さない。
【0068】
本発明の位相差フィルムは、着色が少なく、250μm厚みあたりのb値が好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下である。
【0069】
本発明の位相差フィルムは、好ましくはヘイズが5%以下であり、より好ましくは3%以下である。ヘイズが5%を越えると透過率が低下し、光学用途に適さないことがある。
【0070】
本発明の位相差フィルムのガラス転移温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは110℃〜200℃、さらに好ましくは115℃〜200℃、特に好ましくは120℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足することがあるため好ましくない。また、200℃を超えると加工性が低下する場合があるため好ましくない。
【0071】
次に、本発明の位相差フィルムの製造方法について説明する。本発明の位相差フィルムの製造方法は熱可塑樹脂組成物(C)からなる以外は特に限定されず、公知の製法が可能である。フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
【0072】
溶融押出法の具体的な例としては、押出混練に用いる混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、あるいは加圧ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。また、熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加剤を添加し、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練してもよい。
【0073】
溶融押出法には、例えば、Tダイ法、インフレーション法などがあり、その際の成形温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255〜300℃、特に好ましくは260〜300℃である。
【0074】
Tダイ法を用いる場合、押出機の先端部にTダイを取り付け、このTダイから押し出したフィルムを巻き取ることで、ロール状に巻回させた樹脂フィルムを得ることができる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御して、フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えることも可能である。また、押し出し方向と垂直な方向にフィルムを延伸して、逐次二軸延伸あるいは同時二軸延伸などを実施してもよい。
【0075】
押出成形に押出機を用いる場合、その種類は特に限定されず、単軸であっても二軸であっても多軸であってもよいが、そのL/D値は(Lは押出機のシリンダーの長さ、Dはシリンダー内径)、熱可塑性樹脂組成物を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂組成物を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。一方、L/D値が100を超えると、熱可塑性樹脂組成物に対して過度に剪断発熱が加わることで、組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0076】
またこの場合、シリンダーの設定温度は、好ましくは200〜350℃以下であり、より好ましくは250〜300℃以下である。設定温度が200℃未満では、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が過度に高くなって、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、設定温度が350℃を超えると、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0077】
押出成形に押出機を用いる場合、その形状は特に限定されないが、押出機が1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることによって、開放ベント部から分解ガスを吸引することができ、得られた樹脂フィルムに残存する揮発成分の量を低減できる。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよく、その減圧度は、開放ベント部の圧力にして、931〜1.3hPaの範囲が好ましく、798〜13.3hPaの範囲がより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高い場合、揮発成分、あるいは樹脂の分解により発生する単量体成分などが、熱可塑性樹脂中に残存しやすい。一方、開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは工業的に困難である。
【0078】
本発明の位相差フィルムを製造する場合、ポリマーフィルターで濾過するなどの濾過工程を取り入れることが好ましい。濾過工程を取り入れることにより、熱可塑性樹脂組成物中に存在する異物を除去できるため、得られたフィルムの外観上の欠点を低減できる。なお、ポリマーフィルターによる濾過時には、熱可塑性樹脂組成物は高温の溶融状態となる。このため、ポリマーフィルターを通過する際に熱可塑性樹脂組成物が劣化し、劣化により形成されたガス成分や着色劣化物が組成物中に流れだして、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。この欠点は、特にフィルムの連続成形時に観察されやすい。このため、ポリマーフィルターで濾過した熱可塑性樹脂組成物を成形する際には、その成形温度は、熱可塑性樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける熱可塑性樹脂の滞留時間を短くするために、例えば255〜350℃であり、260〜320℃が好ましい。
【0079】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0080】
ポリマーフィルターによる濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下になると、熱可塑性樹脂組成物の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなる他、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、濾過精度が15μmを超えると、熱可塑性樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
【0081】
ポリマーフィルターにおける、時間あたりの樹脂組成物処理量に対する濾過面積は特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物の処理量に応じて適宜設定できる。前記濾過面積は、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/時間)である。
【0082】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
【0083】
ポリマーフィルターにおける熱可塑性樹脂の滞留時間に特に制限はないが、好ましくは20分以下であり、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下である。また、濾過時におけるフィルター入口圧およびフィルター出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲が好ましい。圧力損失が1MPa以下になると、熱可塑性樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
【0084】
ポリマーフィルターに導入される熱可塑性樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
【0085】
ポリマーフィルターを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ないフィルムを得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で熱可塑性樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で熱可塑性樹脂の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で熱可塑性樹脂組成物の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルターによる熱可塑性樹脂組成物の濾過処理を行ってもよい。
【0086】
ポリマーフィルターによって熱可塑性樹脂組成物を濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の熱可塑性樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
【0087】
熱可塑性樹脂組成物は、その製造後、そのまま押出成形してフィルムとすることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物をペレット化した後に、得られたペレットを再溶融してフィルムを成形する場合に比べて、熱履歴を少なくできるため、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑制できる。また、この手法では、環境からの異物の混入を抑制できるため、得られたフィルムに異物が存在したり、得られたフィルムが着色することを抑制できる。なお、押出機とTダイの間に、ギアポンプおよびポリマーフィルターを配置することが好ましい。
【0088】
溶液キャスト法の場合、セルロース系樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)とを含む溶液を作成し、キャスト法により成膜、乾燥することで、フィルム状の熱可塑性樹脂組成物が製造可能である。工程としては、(1)溶解工程、(2)流延工程、(3)乾燥工程を有する。
【0089】
(1)溶解工程:
セルロース系樹脂とアクリル系樹脂とを溶媒に溶解する場合、個別に溶媒に溶解してから溶液同士を混合しても良いし、セルロース系樹脂とアクリル系樹脂を含む樹脂組成物を溶剤に溶解しても良い。アクリル系樹脂は脱揮工程を経ずに重合溶剤を含んだ重合溶液の状態とで溶解工程に用いることが可能であり、別に準備したセルロース系樹脂溶液を攪拌しながら、アクリル系樹脂溶液を少しずつ添加していくことで、溶液製膜に用いるドープを用意することが出来る。溶解中または後のドープに必要な添加剤を加えて溶解した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。 濾過の濾材は、絶対濾過精度0.04mm以下のものが好ましく、0.01〜0.02mmの範囲がより好ましい。濾材の材質には特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0090】
溶媒としては、メチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等の溶液流延法で用いられる良溶媒を用いることができ、同時にメタノール、エタノール、ブタノール等の貧溶媒を用いてもよい。本発明においては、アクリル系樹脂の重合溶液に含まれる重合溶媒も用いることができる。これらの内、複数の溶媒が溶液に含まれていても良い。溶解の過程で−20℃以下に冷却したり、80℃以上に加熱したりしてもよい。
【0091】
セルロース系樹脂の溶液を作成するには、セルロース系樹脂(フレーク状の)に対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜中で該セルロース系樹脂、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体や添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成すること、あるいはセルロース系樹脂溶液にアクリル系樹脂の溶液や添加剤溶液を混合してドープを形成することが考えられる。セルロース系樹脂の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号、同9−95557号または同9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることが出来るが、ドープ中のセルロース系樹脂の濃度は10〜35重量%が好ましい。
【0092】
(2)流延工程:
ドープを支持体上に流延し、均一な膜を得る工程である。
【0093】
一般に、製膜工程で変形応力を受ければ、配向が進んでフィルムの複屈折値は増大する。複屈折値の増大に伴い、フィルムの均一性を維持しにくくなり、光学特性のバラツキも増大するので、粘度の低い状態で比較的小さな応力のもとに製膜することが望ましい。また、ドープが低粘度であることは塗工後のレベリング効果によって膜厚が均一化される効果もあるため好ましい。溶解液の好ましい粘度は10ポイズ以から100ポイズであり、より好ましくは15ポイズから70ポイズである。なお、10ポイズよりも低いと支持体上から流れ出してしまうため、適宜仕切り板を設けるなどの対処が必要となる。
【0094】
塗工方法としてはダイコーター、ドクターブレードコーター、ロールコーター、コンマコーター、リップコーター等が好ましいが、これらの例に限定されずに通常使用される種々の方法が可能である。
【0095】
好ましい支持体としては、ステンレス鋼のエンドレスベルトや回転する金属ドラム等の金属支持体、あるいはポリイミドフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム等のようなフィルムを用いることができる。
【0096】
(3)乾燥工程:
金属支持体上にドープを流延したドープ膜を加熱し、溶媒蒸発させて乾燥フィルムを得る工程である。
【0097】
加熱乾燥は流延もしくは塗布直後の液膜が乾燥していない状態では、急激な風の流れや加熱などがあると、厚みムラが生じやすいため厚みムラをなくすよう注意しながら乾燥する。すなわち、直接的にフィルムに風を与えないようにしたり、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。また、急激な加熱・冷却を防いだりすることが重要となる。さらに、雰囲気中の湿度によってドープ膜が発泡したりするため、湿度のコントロールも重要となる。その後、半固化状態になった後に熱風等を吹きつけて残留溶媒を少なくするように乾燥するのが好ましい。
【0098】
キャスト後の乾燥は、支持体に担持されたまま行うことも可能であるが、必要に応じて、自己支持性を有するまで予備乾燥したフィルムを支持体から剥離し、さらに乾燥することもできる。フィルムの乾燥は、一般にはフロート法や、テンターあるいはロール搬送法が利用できる。フロート法の場合、フィルム自体が複雑な応力を受け、光学的特性の不均一が生じやすい。また、テンター法の場合、フィルム両端を支えているピンあるいはクリップの距離により、溶剤乾燥に伴うフィルムの幅収縮と自重を支えるための張力を均衡させる必要があり、複雑な幅の拡縮制御を行う必要がある。一方、ロール搬送法の場合、安定なフィルム搬送のためのテンションは原則的にフィルムの流れ方向(MD方向)にかかるため、応力の方向を一定にしやすい特徴を有する。従って、フィルムの乾燥は、ロール搬送法によることが最も好ましい。中でも、重力による応力を低減させるため、上下に複数のロールを配置し、フィルムを上下上下・・・と通すバーチカルパス方式(垂直懸垂パス方式)が、オーブンの設置スペースを省略しつつ長い乾燥経路を確保できるため好ましい。
【0099】
また、溶剤の乾燥時にフィルムが水分を吸収しないよう、湿度を低く保った雰囲気中で乾燥することは、機械的強度と透明度の高いフィルムを得るには有効な方法である。
【0100】
本発明の位相差フィルムを得るための延伸方法としては、位相差フィルムに光学的に一軸性を付与できる限り、従来公知の延伸方法が適用できる。必要な面内位相差Reと厚さ方向位相差Rthを発現させるという面からは、自由端一軸延伸が好ましい。また、フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、逐次二軸延伸も好ましい形態のひとつである。面内の任意の直交する二方向としては、例えば、フィルム面内の遅相軸と平行方向およびフィルム面内の遅相軸と垂直な方向が挙げられる。なお、所望の位相差、所望の耐折れ曲げ性に応じて、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件を適宜設定すればよく、特に限定はされない。
【0101】
延伸等を行う装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、オーブン延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても、本発明の位相差フィルムを得ることができる。
【0102】
延伸温度としては、フィルム原料の重合体、若しくは延伸前のフィルムのガラス転移温度近辺で行うことが好ましい。具体的には、(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+50)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+20)℃、さらに好ましくは(ガラス転移温度−10)℃〜(ガラス転移温度+10)℃である。(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(ガラス転移温度+50)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0103】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、さらに好ましくは1.3〜5倍の範囲で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0104】
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲、より好ましくは1.1〜5倍の範囲、さらに好ましくは1.2〜3倍の範囲で行われる。1.05倍よりも小さいと、所望の位相差が得られない場合があり好ましくない。10倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
【0105】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0106】
本発明の位相差フィルムは偏光子保護フィルムとして使用することも可能である。偏光子保護フィルムは、偏光子の片面または両面に接合された状態で使用される。偏光子は、典型的には、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色して形成されるが、染色に水溶液を使用するため、偏光子に接合される偏光子保護フィルムは、本来、水透過性を有することが好ましい。偏光子と偏光子保護フィルムとの接合に水系の接着剤が使用されることも、水透過性を有する偏光子保護フィルムが好ましい理由の一つである。例えば、シクロオレフィン重合体からなるフィルムは、当該重合体の疎水性が強いために水透過性をほとんど示さず、偏光子保護フィルムとして必ずしも適しているとはいえない。これに対して、式(1)に示される分子構造は高い親水性を有する。このため、熱可塑性樹脂組成物(C)における当該構造の含有率など、具体的な構成にもよるが、当該構造を有する熱可塑性樹脂組成物(C)からなる層を有する本発明のフィルムは、高い水透過性を示し、偏光子保護フィルムとして好適となる。
【0107】
本発明の位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合、例えば、ポリビニルアルコール系脂フィルムを二色性物質(ヨウ素や二色性染料など)で染色して一軸延伸した偏光子の片面あるいは両面に、接着剤層あるいはアンカー層を介して位相差フィルムを接着できる。
【0108】
偏光子としては、特定の振動方向をもつ光のみを透過する機能を有する偏光子であれば如何なるものでもよく、例えばポリビニルアルコール系フィルム等を延伸し、ヨウ素や二色性染料などで染色したポリビニルアルコール系偏光子;ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルム系偏光子;等が挙げられ、これらのなかでもポリビニルアルコール系脂フィルムを二色性物質で染色して一軸延伸した偏光子が好適に用いられる。これら偏光子の厚さは特に制限されず、一般的に、5〜100μm程度である。
【0109】
本発明の位相差フィルムは前記偏光子に接着剤層を介して接着されてなることが好ましい。好ましい接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂の接着剤、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化する接着剤やアクリル系、シリコン系、ゴム系等の粘着剤が挙げられる。尚、偏光子の偏光機能が低下しない条件で加熱圧着してもよいことはいうまでもなく、その場合は、ゆるやかな加熱圧着条件で接着することができる。
【0110】
前記の接着剤を用いて接着する方法は、特に限定されず、例えば、キスコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート、カーテンコート、バーコート、ドクターブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、オフセットグラビアコート、リップコート、スプレーコート、コンマコートなどの各種の方法を用い、偏光フィルム及び/又は接合されるフィルムの接着面に接着剤を塗布し、両者を重ね合わせる方法などが可能である。接着剤を塗布した後、偏光フィルムとそれに接合されるフィルムをニップロールなどにより挟んで、貼り合わせる。貼り合せる場合は、前記位相差フィルムの光軸と偏光子の吸収軸を直交または平行に配置することが好ましい。
【0111】
本発明の位相差フィルムは、偏光子と接する面に接着性向上のために易接着処理を施すことができる。易接着処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理やアンカー層を形成する方法が挙げられ、これらを併用することもできる。これらの中でも、コロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。アンカー層としては、特に限定されず、公知のアンカー層が使用され、アクリル系、セルロース系、ポリウレタン系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系や分子中にアミノ基を含んだポリマー等が使用される。これらのアンカー層は、単独で用いても2種以上を併用・積層してもよい。
アンカー層の厚さは、乾燥・硬化または乾燥後の厚さで、例えば、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmである。アンカー層の厚さが0.01μm未満であると、偏光子とフィルムとの接着強度が不充分になることがある。逆に、アンカー層の厚さが10μmを超えると、耐水性または耐湿性試験において、偏光板の色抜けや変色が起こりやすくなることがある。
本発明の位相差フィルムの偏光子と対向する面にアンカー層コーティング組成物を塗布する方法は、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーターなどを用いた通常のコーティング技術を採用すればよく、特に限定されるものではない。また、塗布したアンカー層コーティング組成物を乾燥させる方法や条件は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥機や赤外線乾燥機を用いて、好ましくは50〜130℃、より好ましくは75〜110℃の温度で、乾燥させればよい。また、アンカー層コーティング組成物のウレタン結合生成反応および/または硬化に関して、養生工程を設けても何ら問題ない。養生工程が必要な場合、養生温度は、例えば、好ましくは20〜100℃、より好ましくは20〜50℃であるが、前記組成物の乾燥に使用した熱である程度は進行し、接着剤を用いた偏光子と位相差フィルムとの接着工程でさらに進行するので、常温養生でも充分な物性が得られる。
なお、表面の濡れ張力を調整するために、アンカー層を設けたフィルムの前記アンカー層の表面には、後の接着工程の前に、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
【0112】
位相差フィルムは、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有していても良い。他の光学フィルムや液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層を設けることができる。粘着剤層を形成する粘着剤は、特に限定されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0113】
前記粘着剤層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式でフィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着剤層を形成してそれをフィルム面に移着する方式などがあげられる
本発明の位相差フィルムは積層体であることも可能であり、前記した延伸の前後に積層させることもできる。積層方法としては共押出や粘・接着層を介した貼り合せなどの公知の方法が可能である。
【0114】
本発明の位相差フィルムは、実施形態や用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。また、粘接着剤層、接着層、アンカー層、必要に応じて、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、反射防止層、防眩(ノングレア)層、ハードコート層、帯電防止層、光触媒層などの防汚層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー性等の種々の機能性コーティング層を各々積層塗工したり、各々の単独の機能性コーティング層が塗工された部材を粘着剤や接着剤を介して積層させてもよい。なお、各層の積層順序は特に限定されるものではなく、積層方法も特に限定されない。
【0115】
本発明の位相差フィルムは、種々の画像表示装置に使用することが可能である。具体例としては、特に限定されず、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)の各種画像表示装置に好ましく用いることが出来る。
【0116】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、前記本発明の位相差フィルムを備える。図1は、液晶表示装置の画像表示面の概略断面図の一例である。液晶表示装置は、主な構成としては、液晶セル4(液晶層、ガラス基板、透明電極、配向膜、等を含む)と、液晶セル4を挟んで配置された偏光板9、10と、バックライト部8(光源、反射シート、導光板、拡散板、拡散シート、プリズムシート、輝度向上フィルム、等を含む)を備える。偏光板9、10は、偏光子2及び偏光子6と、偏光子を挟んで配置された偏光子保護フィルム1、3,5,7を備える。第1の偏光子(偏光子2)と第2の偏光子(偏光子6)は液晶セルの両側に配置され、偏光軸が互いに直交することが好ましい。
【0117】
本発明の液晶表示装置において、前記本発明の位相差フィルムは、液晶セルの両側に配置された偏光軸が互いに直交する第1の偏光子及び第2の偏光子の間、すなわち、図1における偏光子2及び偏光子6の間に位置することが好ましい。特に限定はされないが、液晶セル4と偏光板9の間および/または液晶セル4と偏光板10の間に位置することは好ましい形態のひとつである。さらには、本発明の液晶表示装置において、本発明に係る位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして使用することが可能であり、その場合、偏光子保護フィルム3および/または5が本発明の位相差フィルムとなる。
【0118】
本発明に係る位相差フィルム以外の偏光子保護フィルムとしては公知の樹脂を採用することが可能であり、例えばトリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネートム、環状ポリオレフィン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、等が挙げられる。光学特性や偏光板のカールが抑制できる点から、アクリル系樹脂が好ましい。
【0119】
上記アクリル系樹脂としては、耐熱性からは主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂フィルムが特に好ましい。アクリル系樹脂が主鎖に有する環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。より具体的な環構造の例は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびN−置換マレイミドや無水マレイン酸由来の構造から選ばれる少なくとも1種である。その中でも光学特性と耐熱性からは、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。具体的なラクトン環構造は特に限定されないが、前記の式(8)により示される構造である。
【0120】
偏光子保護フィルムには公知の機能性を付与することが可能である。例えば、偏光子保護フィルム1と7には紫外線吸収剤を含有させて紫外線吸収能を付与したり、最表面となる偏光子保護フィルム1にハードコート処理および/または反射防止、低反射処理など公知の防眩処理を行うこともできる。
【0121】
本発明の液晶表示装置の具体例としては、特に限定されず、反射型、透過型、半透過型LCDあるいはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型、IPS型等の各種駆動方式の液晶表示装置(LCD)で用いられる。この中で、VAモードの液晶表示装置であることが好ましく、本発明に係る位相差フィルムを備えることにより、特にコントラストが高く高品位の画像の表示が可能となる。
【0122】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0124】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は、ゲルパ−ミエ−ションクロマトグラフィ−(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は以下の通りである。
【0125】
システム:東ソ−社製
カラム:TSK−GEL superHZM−M 6.0×150 2本直列
TSK−GEL superHZ−L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK−GEL superH−RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量 0.6mL/分
カラム温度:40℃
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、脱揮示差操作熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0126】
[面内位相差Re]
フィルムの測定波長589nmにおける面内位相差(厚さ100μmあたり)は、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。
【0127】
[厚み方向位相差Rth、Nz係数]
フィルムの測定波長589nmにおける厚み方向位相差(厚さ100μmあたり)とNz係数は、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。
【0128】
[光弾性係数]
延伸フィルムの光弾性係数は、エリプソメーター(日本分光社製、M−150)を用いて評価した。
【0129】
[可とう性]
フィルムの可とう性(耐折曲げ性)は、25℃、65%RHの雰囲気下、厚さ100μmのフィルムを、延伸方向が折り目となるように、折り曲げ半径1mmにおいて90°折り曲げた際の外観を観察した。
【0130】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)30重量部、メタクリル酸メチル(MMA)54重量部、N−ビニルカルバゾール6重量部、メタクリル酸ブチル(BMA)10重量部、トルエン90重量部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、105℃まで昇温し、還流開始したところで重合開始剤として、t−アミルパーオキシイソノナノエート(ルペロックス570、アルケマ吉富社製)0.04重量部を添加すると同時に、トルエン10重量部にt−アミルパーオキシイソノナノエート(ルペロックス570、アルケマ吉富社製)0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、還流下、約105℃〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間加温し続けた。
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル/ジステアリル混合物0.2重量部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間環化縮合反応を行った。さらに、オートクレーブ中で240℃、90分間加熱、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系樹脂の透明な溶液を得た。このようにして得た溶液を、バレル温度250℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜670hPa(10〜500mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2kg/時の処理速度で導入し、脱揮することで重合体(A−1)を得た。脱揮時には、第2ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.04kg/時の注入速度で注入した。酸化防止剤・失活剤混合溶液には、2.3重量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、2.3重量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび10重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)をトルエン86重量部に溶解させた溶液を用いた。得られた重合体(A−1)の重量平均分子量は11万であり、ガラス転移温度は137℃であった。
【0131】
(実施例1)
製造例1で得られた重合体(A−1)と、市販のセルロース化合物(Acros Organics社製、セルロースアセテートプロピオネート、数平均分子量75,000)とを、重合体(A−1)/セルロース化合物 = 60/40の重量比でフィーダーを用いフィードしながら、二軸押出機を用いて、250℃の温度で混錬し、アクリル系樹脂とセルロース系樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物(SB−1)を得た。
【0132】
得られた熱可塑性樹脂組成物(SB−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約150μmのフィルム(FB−1)とした。次に、作製したフィルム(FB−1)を、オートグラフ(島津製作所製)により、延伸倍率が2.0倍となるように延伸温度135℃で一軸延伸し、厚さ100μmの延伸フィルム(XB−1)を得た。得られた延伸フィルム(XB−1)における面内位相差Reおよび、厚み方向位相差Rthを、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を以下の表1に示す。表に示す位相差は、フィルム厚100μmあたりに換算した値である。尚、得られたフィルム(FB−1)の光弾性係数は、−7×10−12/Paであった。得られた延伸フィルム(XB−1)のNz係数は1.07であった。なお、表1では、測定波長を589nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、得られたフィルム(XB−1)を延伸方向が折り目となるように90°に折り曲げたが、フィルムの割れ等は、確認されなかった。
【0133】
【表1】

【0134】
(比較例1)
市販のセルロース系樹脂(Acros Organics社製、セルロースアセテートプロピオネート、数平均分子量75,000)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、セルロース系樹脂からなるフィルム(FB−2)および、延伸フィルム(XB−2)を得た。得られた延伸フィルム(XB−2)における面内位相差Reおよび、厚み方向位相差Rthを、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。評価結果を表2に示す。表に示す位相差は、フィルム厚100μmあたりに換算した値である。尚、得られたフィルム(FB−2)の光弾性係数は、−15×10−12/Paであった。得られた延伸フィルム(XB−2)のNz係数は1.21であった。なお、表2では、測定波長を589nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、得られたフィルム(XB−2)を延伸方向が折り目となるように90°に折り曲げたが、フィルムの割れ等は、確認されなかった。
【0135】
【表2】

【0136】
(比較例2)
製造例1で作製した樹脂(A−1)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系樹脂からなるフィルム(FB−3)および、延伸フィルム(XB−3)を得た。得られた延伸フィルム(XB−3)における面内位相差Reおよび、厚み方向位相差Rthを、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。評価結果を表3に示す。表に示す位相差は、フィルム厚100μmあたりに換算した値である。尚、得られたフィルム(FB−3)の光弾性係数は、−2×10−12/Paであった。得られた延伸フィルム(XB−3)のNz係数は1.00であった。なお、表3では、測定波長を589nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、得られたフィルム(XB−3)を延伸方向が折り目となるように90°に折り曲げたところ、フィルムの割れを確認した。
【0137】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置(LCD)をはじめとする画像表示装置に幅広く使用できる。この位相差フィルムの使用により、広範囲の波長における光学補償が可能となり、画像表示装置における表示特性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】液晶表示装置の画像表示面の概略断面図の一例である。
【符号の説明】
【0140】
液晶セル4(液晶層、ガラス基板、透明電極、配向膜、等を含む)
液晶セル4を挟んで配置された偏光板9、10
バックライト部8(光源、反射シート、導光板、拡散板、拡散シート、プリズムシート、輝度向上フィルム、等を含む)
偏光子2、6
偏光子を挟んで配置された偏光子保護フィルム1、3、5、7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系樹脂(A)および、(I)ガラス転移温度が110℃以上であり、(II)負の固有複屈折を示し、且つ、(III)以下の式(1)、(2)もしくは(3)に示される分子構造または複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する、アクリル系樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなり、波長が短くなるほど面内位相差Reが小さくなる波長分散性を示す位相差フィルム。
【化1】

【化2】

【化3】

(前記式(1)において、nは1〜4の範囲の自然数、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。)
【請求項2】
前記複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位、およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル系樹脂である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記環構造が、ラクトン環構造、環状イミド構造および環状酸無水物構造から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記セルロース系樹脂が、セルロースアセテートである請求項4に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
光弾性係数が、10×10−12/Pa未満である、請求項1に記載の位相差フィルム
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の位相差フィルムを備える液晶表示装置。


【図1】
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【公開番号】特開2011−123165(P2011−123165A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279351(P2009−279351)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】