説明

位相差板と複合偏光板、それらの製造方法及び液晶表示装置

【課題】 有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で形成され、ヘイズ値の改善された位相差板を提供し、その位相差板を用いた複合偏光板及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含有し、前者/後者の重量比が2を超え5未満である組成物をフィルム状に形成してなる位相差板が提供される。この位相差板は、粘着剤層を介して偏光板に積層し、複合位相差板とされるが、この際、粘着剤層12付きの偏光板11を用意し、別途転写基材20上に上記組成のコーティング層からなる位相差板15を形成し、その露出面を前記偏光板の粘着剤層12に積層し、次いで転写基材20を剥離して、複合偏光板10とするのが有利である。この複合偏光板を液晶セルの片面に配置し、液晶セルの他面には別の位相差板と偏光板を配置して、液晶表示装置とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差板とそれを用いた複合偏光板、それらの製造方法、及び、その複合偏光板を用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が少なく、低電圧で駆動し、軽量でかつ薄型の液晶ディスプレイが、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。液晶技術の進展に伴い、さまざまなモードの液晶ディスプレイが提案されて、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶ディスプレイの問題点が解消されつつある。しかしながら、依然として、陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘され、視野角拡大のために各種の試みがなされている。
【0003】
このような視野角特性を改良する液晶表示方式の一つとして、例えば特許第 2548979号公報(特許文献1)に開示されているような、垂直配向モードのネマチック型液晶表示装置(VA−LCD)が開発されている。かかる垂直配向モードは、非駆動状態においては液晶分子が基板に対して垂直に配向するため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに偏光軸が直交するように直線偏光板を配置することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を与えるものとなる。
【0004】
しかしながら、このような液晶セルに偏光板のみを備えた垂直配向モードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配置された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうことと、セル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して、光漏れが生じ、コントラスト比が著しく低下してしまう。
【0005】
かかる光漏れを解消するためには、液晶セルと直線偏光板との間に光学補償フィルムを配置する必要があり、従来は、二軸性の位相差板を液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚づつ配置する仕様や、一軸性の位相差板と完全二軸性の位相差板を、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に、又は2枚とも液晶セルの片側に配置する仕様が採用されてきた。例えば、特開 2001-109009号公報(特許文献2)には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下偏光板と液晶セルの間に、それぞれa−プレート(すなわち、正の一軸性の位相差板)及びc−プレート(すなわち、完全二軸性の位相差板)を配置することが記載されている。
【0006】
正の一軸性位相差板とは、面内の位相差値R0 と厚み方向の位相差値R′との比 R0/R′が概ね2のフィルムであり、また完全二軸性の位相差板とは、面内の位相差値R0 がほぼ0のフィルムである。ここで、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx 、フィルムの面内進相軸方向(遅相軸方向と直交する方向)の屈折率をny 、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、そしてフィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0及び厚み方向の位相差値R′は、それぞれ下式(I)及び(II)で定義される。
【0007】
0 =(nx−ny)×d (I)
R′=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (II)
正の一軸性フィルムではnz≒ny となるため、R0/R′≒2となる。一軸性のフィルムであっても、 R0/R′は延伸条件の変動により、1.8〜2.2程度の間で変化する。完全二軸性のフィルムではnx≒ny となるため、R0≒0となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ものであることから、負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また前述のとおり、c−プレートと呼ばれることもある。二軸性のフィルムは、nx>ny>nz となる。
【0008】
上記のような目的で用いられる完全二軸性の位相差板として、特開平 10-104428号公報(=USP 6,060,183 ;特許文献3)には、有機溶媒に分散可能な有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で位相差板を形成することが開示されている。このコーティング層からなる位相差板を所定の形態で偏光板に積層した複合偏光板は、その構成が簡略化され、液晶表示装置に適用した場合に、優れた視野角特性と簡略さを兼ね備えたものとなる。
【0009】
【特許文献1】特許第2548979号公報
【特許文献2】特開2001−109009号公報(請求項15及び段落0036)
【特許文献3】特開平10−104428号公報(=USP 6,060,183)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、このような有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で形成された位相差板を偏光板に積層して複合偏光板とし、これを液晶表示装置に適用した場合に、その位相差板に由来するヘイズによって偏光解消が生じ、コントラスト比が低下することがあった。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で形成される位相差板において、バインダーとして特定の樹脂を用いることにより、この問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって本発明の目的は、有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で形成され、ヘイズ値の改善された位相差板及びその製造方法を提供することにある。本発明のもう一つの目的は、この位相差板を偏光板に積層してなり、液晶表示装置の視野角特性の改良に有効な複合偏光板及びその製造方法を提供することにある。さらに本発明のもう一つの目的は、この複合偏光板と液晶セルを組み合わせて、視野角特性が改良され、コントラスト比も高い液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明によれば、有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含有し、前者/後者の重量比が2を超え5未満である組成物をフィルム状に形成してなる位相差板が提供される。
【0013】
ここで、ウレタン樹脂は、イソホロンジイソシアネートをベースとするものが有利である。また有機修飾粘土複合体は、炭素数1〜30のアルキル基を有する4級アンモニウム化合物とスメクタイト族に属する粘土鉱物の複合体であるのが有利である。
【0014】
この位相差板は、ヘイズ値を2%以下、とりわけ 1.5%以下とすることができる。またこの位相差板は、面内の位相差値R0 が0〜10nmであり、厚み方向の位相差値R′が40〜300nmであるのが好ましい。
【0015】
上記の位相差板は、有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂と、有機溶媒とを含有する組成物を、基材上に塗工し、次いで有機溶媒を除去する方法により、製造することができる。
【0016】
また本発明によれば、偏光板、粘着剤、及び上記いずれかの位相差板が、この順に積層されてなる複合偏光板も提供される。この複合偏光板において、位相差板の外側には、さらに第二の粘着剤層を形成することができる。
【0017】
上記の複合偏光板は、有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含有する組成物を転写基材上にコーティングして位相差板を形成し、粘着剤層を有する偏光板の粘着剤層側にこのコーティング位相差板の露出面を貼合し、次いで転写基材を前記コーティング位相差板から剥離する方法により、有利に製造することができる。
【0018】
さらに本発明によれば、上記した複合偏光板と液晶セルとを備える液晶表示装置も提供される。この際、複合偏光板は、液晶セルの一方の面に、その位相差板側が液晶セルと向き合うように、すなわち、偏光板よりも位相差板が液晶セル側となるように配置される。位相差板の外側に第二の粘着剤層が形成されている場合は、その第二の粘着剤層を介して液晶セルに貼合される。液晶セルの他方の面には、面内の位相差値R0 が30〜300nmで、面内の位相差値R0と厚み方向の位相差値R′の比R0/R′が0を越え2未満である第二の位相差板と、第二の偏光板とをこの順で配置することにより、液晶セルの視野角特性を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の位相差板は、ヘイズ値が小さく制御されており、それと偏光板を積層した複合偏光板は、薄肉で構成が簡略化されるとともに、光学特性に優れたものとなる。また、この複合偏光板を液晶セルの一方の面に配置し、液晶セルの他方の面には異なる光学特性を有する位相差板(第二の位相差板)とともに第二の偏光板を配置することで、従来の二軸性位相差板を上下に1枚づつ有する垂直配向モードの液晶表示装置と同等又はそれ以上の光学性能、特にコントラストに優れた液晶表示装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、位相差板について説明する。本発明の位相差板は、有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とが、前者/後者の重量比で2を超え5未満となるように配合された組成物からフィルム状に形成されたものである。この組成物からなる単独のフィルム状や、あるいは支持基材上にこの組成物がコーティングされたフィルム状の形態で提供される。
【0021】
脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂は、イソシアナト基を分子内に複数有する脂肪族化合物と、水酸基等の活性水素を分子内に複数有する化合物とを付加反応させることにより、生成するものである。イソシアナト基を分子内に複数有する脂肪族化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中では、特にイソホロンジイソシアネートをベースとするものが好ましい。
【0022】
また、水酸基を分子内に複数有する化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールが好ましく用いられるが、これに限るものではなく、またこれらの混合物を用いてもよい。
【0023】
ポリエーテルポリオールは、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α−メチルトリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルトリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテルの開環重合又は共重合によって製造され、ポリエーテルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールとも称されるものである。
【0024】
ポリエステルポリオールは、多塩基性有機酸、特にジカルボン酸と、ポリオールとから重縮合によって製造される。ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソセバシン酸のような飽和脂肪酸、マレイン酸、フマル酸のような不飽和脂肪酸、フタル酸、イソフタル酸のような芳香族カルボン酸などが挙げられる。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのようなジオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、グリセリンのようなトリオール、ソルビトールのようなヘキサオールなどが挙げられるが、これらに限るものではなく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
ウレタン樹脂は、そのガラス転移温度が20℃以下であることが好ましく、さらに好ましくはガラス転移温度が−20℃以下である。ガラス転移温度の高いウレタン樹脂は、ゴム弾性が不足し、位相差板やそれを偏光板に積層した複合偏光板において、密着性や可撓性に劣ることがある。
【0026】
有機修飾粘土複合体は、有機物と粘土鉱物との複合体であって、具体的には、層状構造を有する粘土鉱物と有機化合物を複合化したものである。層状構造を有する粘土鉱物としては、スメクタイト族や膨潤性雲母などが挙げられ、その陽イオン交換能によって有機化合物との複合化が可能となる。中でもスメクタイト族は、透明性にも優れることから、好ましく用いられる。スメクタイト族に属するものとしては、ヘクトライト、モンモリロナイト、ベントナイトなどや、これらの置換体、誘導体及び混合物などが例示できる。これらの中でも、化学合成されたものは、不純物が少なく、透明性に優れるなどの点で好ましい。特に、粒径を小さく制御した合成ヘクトライトは、可視光線の散乱が抑制されるために好ましく用いられる。
【0027】
粘土鉱物と複合化される有機化合物としては、粘土鉱物の酸素原子や水酸基と反応しうる化合物、また交換性陽イオンと交換可能なイオン性の化合物などが挙げられ、有機修飾粘土複合体が有機溶媒に膨潤又は分散できるようになるものであれば特に制限はないが、具体的には含窒素化合物などを挙げることができる。含窒素化合物としては、例えば、1級、2級又は3級のアミン、4級アンモニウム化合物、尿素、ヒドラジンなどが挙げられる。中でも、陽イオン交換が容易であることなどから、4級アンモニウム化合物が好ましく用いられる。
【0028】
4級アンモニウム化合物としては、例えば、長鎖アルキル基を有するもの、アルキルエーテル鎖を有するものなどが挙げられる。中でも、炭素数1〜30のアルキル基、n=1〜50の −(CH2CH(CH3)O)nH基、又は−(CH2CH2CH2O)nH基を有する4級アンモニウム化合物が好ましい。さらに好ましくは、炭素数6〜10のアルキル基を有するものである。
【0029】
有機修飾粘土複合体は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。適当な有機修飾粘土複合体の市販品には、それぞれコープケミカル(株)から“ルーセンタイト STN”や“ルーセンタイト SPN”の商品名で販売されている合成ヘクトライトと4級アンモニウム化合物との複合体などがある。
【0030】
本発明では、有機修飾粘土複合体/ウレタン樹脂の重量比が2を超え5未満となるように両者を配合する。両者の配合比がこの範囲を外れると、得られる位相差板のヘイズ値を望ましいレベルに保つことが難しくなる。両者の配合重量比は、 2.5以上となるようにするのがより好ましい。
【0031】
そこで本発明の位相差板は、そのヘイズ値が 1.5%以下であることが望ましく、さらに 1.0%以下であることがより好ましい。ヘイズ値が 1.5%を越えると、透過する直線偏光の散乱によって偏光解消が生じ、この位相差板を用いた液晶表示装置のコントラストが低下することがある。ヘイズ値は曇価とも呼ばれ、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される数値であり、 JIS K 7105 に規定されている。バインダーとして前記した特定のウレタン樹脂を所定の割合で用いることにより、かかるヘイズ値を小さくすることができる。
【0032】
このような位相差板を得る方法としては、有機修飾粘土複合体と前記のウレタン樹脂を有機溶媒に分散又は溶解させて塗工液を調製し、平坦な基材上に塗布し、乾燥させる方法が好ましい。この塗布、乾燥によって、有機修飾粘土複合体の単位結晶層は、その層状構造が平坦な基材面と平行に、かつ面内の向きはランダムに配向する。したがって、特別な配向処理を必要とすることなく、フィルム面内の屈折率がフィルム厚み方向の屈折率よりも大きい屈折率構造を示すようになる。
【0033】
塗工液に用いる有機溶媒は特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンのような低極性の芳香族炭化水素類のほか、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、メタノール、エタノール、プロパノールのような低級アルコール類、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素類などを包含する高極性溶媒などが挙げられる。中でも、有機修飾粘土複合体を分散させ、ウレタン樹脂を溶解することが可能であり、塗工液のゲル化を抑制することができる点で、トルエン、キシレン、アセトン、メチルイソブチルケトンや、それらの混合物が好ましい。
【0034】
この塗工液の固形分濃度は、調製後の塗工液が実用上問題ない範囲でゲル化したり白濁したりしなければ制限はないが、通常、有機修飾粘土複合体とウレタン樹脂の合計固形分濃度が3〜15重量%程度の範囲で使用される。最適な固形分濃度は、有機修飾粘土複合体とウレタン樹脂それぞれの種類や両者の組成比によって異なるため、組成毎に設定される。この塗工液には、基材上に製膜する際の塗布性を向上させるための粘度調整剤や、疎水性及び/又は耐久性をさらに向上させるための架橋剤など、各種の添加剤を加えてもよい。
【0035】
本発明の位相差板を得るために上記塗工液を塗布する基材も特に限定されないが、例えば、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられる。また、塗工フィルムを乾燥させる温度と時間は、用いた溶媒を除去するのに充分なものであれば特に限られるものではないが、例えば、温度は50℃〜150℃程度、また時間は30秒〜30分間程度の範囲から、適宜選択すればよい。
【0036】
本発明の位相差板は、面内の位相差値R0 が0〜10nmの範囲にあることが好ましく、厚み方向の位相差値R′が40〜300nmのh範囲にあることが好ましい。ここで、面内の位相差値R0 が10nmを上回ると、その値が無視できなくなり、厚み方向の負の一軸性が損なわれる。また、厚み方向の位相差値R′は、この位相差板の用途、特に複合偏光板が貼合して用いられる液晶セルの特性に合わせて適宜選択されるものであるが、特に好ましくは50〜200nm程度である。この厚み方向の位相差値R′は、上記塗工液を塗工する際の厚みによって制御することができる。したがって、乾燥された位相差板を形成するためのフィルム厚みは特に限られるものではなく、位相差板に求められる位相差を実現するのに必要な厚みであればよい。
【0037】
厚み方向の屈折率異方性は、前記式(II)により定義される厚み方向の位相差値R′で表され、この値は、面内の遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40と面内の位相差値R0 とから算出できる。
【0038】
式(II)による厚み方向の位相差値R′は、面内の位相差値R0 、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、及びフィルムの平均屈折率n0を用いて、以下の式 (III)〜(V)から数値計算によりnx、ny及びnzを求め、これらを前記式(II)に代入して、算出することができる。
【0039】
0 =(nx−ny)×d (III)
40=(nx−ny')×d/cos(φ) (IV)
(nx+ny+nz)/3=n0 (V)
ここで、
φ=sin-1〔sin(40°)/n0
y'=ny×nz/〔ny2×sin2(φ)+nz2×cos2(φ)〕1/2
【0040】
次に複合偏光板について説明する。本発明の複合偏光板は、図1(A)に示すように、偏光板11、粘着剤層12及び上で説明した位相差板15が、この順に積層されたものである。偏光板11と粘着剤層12は、通常、粘着剤付き偏光板13の形で用意される。位相差板15は、屈折率異方性を有する前記したコーティング層からなり、このコーティング層は1層で構成されていてもよいし、2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0041】
この複合偏光板10は、通常、その位相差板15が液晶セル側となるように、換言すれば、偏光板11が外側となる状態で、液晶セルに貼合して用いられる。そこで、液晶セルへの貼合のため、図1(B)に示す如く、位相差板15の外側には第二の粘着剤層17を設けることができる。この場合、第二の粘着剤層17のさらに外側には離型フィルム18が設けられ、この離型フィルム18は、貼合前に剥離除去され、第二の粘着剤層17の表面で液晶セルに貼合されることになる。離型フィルム18上に粘着剤層17が設けられた粘着剤付きフィルム19を用意し、その粘着剤層17側でコーティング層15に積層することもできる。
【0042】
本発明の複合偏光板を形成するには、例えば、コーティング層からなる位相差板15を転写基材上に形成した後、粘着剤付き偏光板13の粘着剤層12の表面に転写する方法が挙げられる。その例を図2に基づいて説明する。
【0043】
まず、図2(A)に示すように、偏光板11の表面に粘着剤層12が形成された粘着剤付き偏光板13を用意する。別途、図2(B)に示すように、転写基材20の表面にコーティング層15を形成する。次いで、(A)に示される粘着剤付き偏光板13の粘着剤層12と、(B)に示される転写基材15上のコーティング層15とが接着するように貼合して、図2(C)に示す偏光板11/粘着剤層12/コーティング層15/転写基材20からなる状態の半製品25とする。その後、図2(D)に示すように転写基材20を剥離すれば、図1(A)に示した状態の複合偏光板10が得られる。さらに図2(E)に示すように、転写基材が剥離された後のコーティング層からなる位相差板15の表面に第二の粘着剤層17と離型フィルム18を設ければ、図1(B)に示す状態の粘着剤層17付き複合偏光板10が得られる。第二の粘着剤層17は、コーティング層15に粘着剤を直接塗工して設けることもできるし、離型フィルム18上に予め粘着剤を塗工し、乾燥して得られる粘着剤付きフィルム19を用意し、その粘着剤層17側をコーティング層15に貼り合わせて設けることもできる。
【0044】
また、粘着剤12と位相差板15、位相差板15と第二の粘着剤17の粘着力を高めるために、いずれかの表面にコロナ処理を施してもよい。
【0045】
複合偏光板に用いられる偏光板11は、特定振動方向の直線偏光に対して選択的透過能を有するものであれば特に限られるものではない。具体的には、ポリビニルアルコール系などの樹脂フィルムをベースとし、そこに二色性色素を吸着配向させたものがある。二色性色素として、典型的にはヨウ素又は二色性有機染料が用いられる。例えば、一軸延伸ポリビニルアルコールにヨウ素分子を吸着配向させたものや、一軸延伸ポリビニルアルコールにアゾ系の二色性染料を吸着配向させたものなどが、偏光板の例として挙げられる。これらの二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系偏光子は、二色性色素の配向方向に振動面を持つ直線偏光を吸収し、それと直交する方向に振動面を持つ直線偏光を透過する機能を有する。
【0046】
これらの偏光板は一般に、ポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子の片面又は両面に、トリアセチルセルロースフィルムなどの高分子フィルムからなる保護層が形成された形で用いられる。偏光子の片面にのみ保護層を有する場合は、その保護層が液晶セルに貼合したときの外側となり、そして保護層のない面が粘着剤層12側となるように配置される。
【0047】
複合偏光板の形成に用いる粘着剤としては、アクリル系重合体や、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとしたものを挙げることができる。中でも、アクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれなどの問題を生じないものを選択して用いるのが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基やブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合して重合させた、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。粘着剤層12,17の厚みはそれぞれ通常15〜30μm 程度である。
【0048】
次に、本発明による複合偏光板の製造方法について説明する。先に図2を参照して説明したように、本発明では、屈折率異方性を有するコーティング層15を転写基材20上に予め形成した後、それを偏光板11上の粘着剤層12に転写する方法が好ましく採用される。このような方法を採用することにより、コーティング層を乾燥させる工程を偏光板上で行う必要がないため、熱による偏光子の劣化や、乾燥不足によるコーティング層の不具合を生じることがなく、複合偏光板を有利に製造することができる。
【0049】
転写基材20は、その表面に形成された層を容易に剥離できるような処理が施されたフィルムであって、一般に、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルムの表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの離型剤を塗布して離型処理されたフィルムが販売されている。また、転写基材20の上にコーティング層15を形成するため、転写基材20の水接触角は90〜130°の範囲にあるのが好ましく、さらには100°以上、また120°以下の水接触角であるのが、より好ましい。水接触角が90°未満では、転写基材20の剥離性が悪く、コーティング層からなる位相差板15に位相差ムラなどの欠陥が生じやすい。また、水接触角が130°より大きいと、転写基材20上で乾燥前の塗工液にハジキが発生しやすく、面内に斑点状の位相差ムラが発生することがある。ここで、水接触角とは、液体として水を用いたときの接触角であり、その値が大きいほど(上限180°)、水に濡れにくいことを意味する。
【0050】
同じく図2、特にその(E)を参照して先に説明したように、コーティング層からなる位相差板15の外側には、第二の粘着剤層17を設けることができる。このように第二の粘着剤層17を設ける場合は、転写基材20上にコーティング層15を形成した後、そのコーティング層15の露出面を偏光板11の粘着剤層12に積層する第一工程、及び、偏光板に積層したコーティング層15から転写基材20を剥離しながら、そのコーティング層15の転写基材剥離面に第二の粘着剤層17を形成する第二工程の順に行うのが有利である。複合偏光板をロール状で生産する場合について、上記第一工程の概要を図3に側面図で、また第二工程の概要を図4に側面図で、それぞれ例示した。
【0051】
第一工程では、転写基材上に屈折率異方性を有するコーティング層を形成し、そのコーティング層の空気への露出面に偏光板の粘着面を貼合して巻き取る。図3を参照してさらに詳しく説明すると、転写基材送り出しロール30から繰り出された転写基材20の表面に、塗工機32を介してコーティング層用塗工液が塗布され、引き続き乾燥ゾーン34を通って乾燥された後、粘着剤付き偏光板13との貼合に供される。粘着剤付き偏光板13は通常、その粘着剤層表面に剥離可能な離型フィルムが貼合された形で供給されるので、偏光板送り出しロール36より繰り出された粘着剤付き偏光板13からは、まず離型フィルム14が剥離されて離型フィルム巻取りロール38に巻き取られる。そして、粘着剤付き偏光板13の粘着剤層が露出した面は、前記転写基材上に形成されたコーティング層の表面に貼り合わされて、偏光板/粘着剤層/コーティング層/転写基材からなる層構成の半製品25となり、半製品ロール40に巻き取られる。
【0052】
この第一工程は、コーティング層の空気への露出面にプロテクトフィルムを貼合して巻き取り、さらにこれを繰り出して、プロテクトフィルムを剥離しながら偏光板と貼合する通常の方法に比べて、工程数が減少し、コスト的に有利であるばかりでなく、プロテクトフィルム剥離時の泣き別れなどに由来する欠陥、プロテクトフィルム由来の異物欠陥などが発生しにくいため、極めて良好な品質の半製品25が得られる。また、この半製品を巻き取る際、巻き取り圧力でコーティング層に転写基材20の離型剤が移行するのを防ぐために、サイドテープを用いて、半製品の表面同士が接触しないように巻き取ることも、有用な技術である。
【0053】
第一工程でコーティング層を形成するのに使用する塗工方式は特に制限されるものでなく、ダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、バーコート法など、公知の各種コート法を用いることができる。中でも、カンマコート法や、バックアップロールを用いないダイコート法などが、厚み精度に優れるため、好ましく採用される。
【0054】
続く第二工程は、第一工程で得られる半製品から転写基材を剥離しながら、剥離後のコーティング層表面に粘着剤層を形成する、すなわち粘着加工を施すものである。図4を参照してさらに詳しく説明すると、図3に示す第一工程で一旦半製品ロール40に巻き取られた半製品25は、同じロール40から繰り出され、転写基材剥離ロール43で転写基材21を剥離した後、剥離によって露出したコーティング層の表面に、送り出しロール45から繰り出される粘着剤付きフィルム19が、その粘着剤層側で貼り合わされるように供給し、両者が貼り合わされて、製品ロール50に巻き取られるようになっている。半製品25から剥離された転写基材21は、転写基材巻き取りロール44に巻き取られるようになっている。ここでは、第二の粘着剤層の形成に粘着剤付きフィルム19を用いる形態を示したが、先述の如く、粘着剤をコーティング層に直接塗工してもよい。これらの工程を経て、偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層の順に配置された複合偏光板が得られる。
【0055】
図3に示した第一工程と図4に示した第二工程とを連続化することもできる。この場合の例を図5に概略的な側面図で示す。図5において、図3又は図4と同じ部分には同じ符号を付し、これらについての詳しい説明は省略する。この例では、転写基材送り出しロール30から繰り出された転写基材20の表面に、塗工機32を用いてコーティング層用塗工液が塗布され、引き続き乾燥ゾーン34を通って乾燥された後、そのコーティング層側に、偏光板送り出しロール36から繰り出されて離型フィルム14を剥離した後の粘着剤付き偏光板13が、その粘着剤層側で貼り合わされて、偏光板/粘着剤層/コーティング層/転写基材からなる層構成の半製品25が得られるようになっており、ここまでは図3に示した第一工程と同じである。
【0056】
その後、半製品25はロールに巻き取られることなく、半製品巻廻ロール41を通ってから、転写基材剥離ロール43で転写基材が剥離され、剥離後の転写基材21は巻取りロール44に巻き取られる。一方、転写基材21を剥離した後のコーティング層表面には、粘着剤塗工機46を介して粘着剤が塗布され、粘着剤乾燥ゾーン47を通って乾燥された後、その塗工面に、離型フィルムロール48から繰り出される離型フィルム18が貼合され、製品ロール50に巻き取られるようになっている。この例では、第二の粘着剤層の形成に、粘着剤塗工機46と乾燥ゾーン47を用いた直接塗工・乾燥方式を示したが、図4に示したような、粘着剤付きフィルムを用いる方式を採用することもできる。
【0057】
コーティング層15を転写基材20に接触させたまま長時間放置すると、転写基材20上の離型剤がコーティング層15へ移行し、転写基材20(剥離後は21)を剥離した後のコーティング層15の表面の水接触角を高めることがある。転写基材21を剥離した後のコーティング層15の表面と第二の粘着剤層17との密着性の観点からすると、転写基材剥離後のコーティング層15表面の水接触角は、転写基材20上にコーティング層15を形成したとき〔図2(B)参照〕のコーティング層15の空気への露出面の接触角に比べ、15°以内、好ましくは10°以内の増加量となる条件で、第二工程の転写基材剥離及び粘着加工を行うのが好ましい。このためには、第一工程終了後、できるだけ速やかに第二工程へ移るのが好ましい。また、転写基材21を剥離した後のコーティング層15に粘着加工を行うにあたり、コーティング層15及び第二の粘着剤層17のうち、いずれかの表面にコロナ処理を施すことも、有用な技術である。
【0058】
なお、図3〜図5において、曲線矢印は、ロールの回転方向を表す。
【0059】
次に液晶表示装置について説明する。本発明の液晶表示装置は、図6にその構成例を断面模式図で示すように、液晶セル60の一方の面に、上で説明した複合偏光板10がその位相差板15側で、一般には第二の粘着剤層17を介して配置され、液晶セル60の他方の面には、第二の位相差板62及び第二の偏光板64がこの順に配置されたものである。
【0060】
液晶セル60と第二の偏光板64との間に配置される第二の位相差板62は、面内の位相差値R0が30〜300nmであり、面内の位相差値R0と厚み方向の位相差値R′との比R0/R′ が0を越え2未満、すなわち0<R0/R′<2 であるもので構成する。このような位相差特性を有する位相差板を、前記した本発明の複合偏光板と組み合わせることで、液晶表示装置の視野角特性を改良することができる。このような位相差特性を与える位相差板は、例えば高分子原反フィルムを、テンターなどを用いて、固定端一軸延伸、具体的には固定端横一軸延伸する方法により、製造することができる。第二の位相差板62は、固定端一軸延伸で容易に作製できることや、液晶表示装置に適用したときの光学特性が良いことなどの理由から、R0/R′が0.8〜1.4の範囲にあるのが好ましい。R0/R′は1.3以下であることもできる。
【0061】
第二の位相差板62の材質は特に限定されるものでなく、例えば、ポリカーボネート、ポリウレタン、ノルボルネンの如き多環オレフィンをモノマーとする環状オレフィン系樹脂、セルロース類、ポリオレフィン類、これらの高分子化合物を構成するモノマーを2種以上用いた共重合体などであることができる。高温及び高湿熱条件下、あるいは張力のかかった状態での光学特性の安定性という観点からは、光弾性係数の小さい環状オレフィン系樹脂が好ましい。また、この第二の位相差板62において、位相差値の波長依存性も特に限定されるものではないが、見た目の着色を抑制するという観点から、短波長になるにつれて位相差値が小さくなるような位相差分布を持っているものが好ましい。
【0062】
第二の偏光板64は、先に図1を参照して説明した偏光板11と同様、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系偏光子の片面又は両面に、高分子フィルムからなる保護層が形成されたものであることができる。
【0063】
第二の偏光板64の少なくとも露出面(図6では下側)には、保護層が存在するように配置するのが好ましい。また、第二の位相差板62は、第二の偏光板64の片側保護層の代わりとして、第二の偏光板64の偏光子に接着剤又は粘着剤を用いて直接密着させてもよい。この場合、第二の偏光板64は、直線偏光子の片面にのみ保護層を有し、その保護層を有しない側に第二の位相差板62が積層されることになる。
【0064】
第二の偏光板64と第二の位相差板62とは、前者の吸収軸と後者の遅相軸とが80〜100°の間で交わるように設置すればよいが、より高いコントラスト比や色ムラの低減という観点からは、両者の軸角度が85〜95°の間にあるのが好ましい。さらに好ましくは、両者の軸角度が89〜91°の間となるように設置される。
【0065】
なお、図示は省略するが、液晶セル60と第二の位相差板62との貼り合わせには、アクリル系などの粘着剤を用いることができる。また、第二の位相差板62と第二の偏光板64との貼り合わせ、特に第二の偏光板64が両面に保護層を有する場合の貼り合わせにも、アクリル系などの粘着剤を用いることができる。アクリル系粘着剤については、先の説明と同様のことがいえる。
【0066】
図6に示す液晶表示装置を透過型で用いる場合は、その複合偏光板10の外側、又は第二の偏光板64の外側のいずれかに、バックライトが配置される。バックライトはどちら側に配置してもよい。したがって、液晶表示装置の第一の形態は、本発明による複合偏光板10を液晶セル60のフロント側(視認側)に配置し、第二の位相差板62及び第二の偏光板64をリア側(透過型の場合はバックライト側)に配置するものである。また、液晶表示装置の第二の形態は、複合偏光板10を液晶セル60のリア側に配置し、第二の位相差板62及び第二の偏光板64をフロント側に配置するものである。これらの配置においては、視野角特性が最適となるように各層の軸角度などが設定される。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%は、特記ないかぎり重量基準である。以下の例でコーティング層の形成に用いた材料は、次のとおりである。
【0068】
(A)有機修飾粘土複合体
商品名“ルーセンタイト STN”: コープケミカル(株)製、合成ヘクトライトとトリオクチルメチルアンモニウムイオンとの複合体。
商品名“ルーセンタイト SPN”: コープケミカル(株)製、合成ヘクトライトとポリオキシプロピレン(25)メチルジエチルアンモニウムイオンとの複合体。ここで、「ポリオキシプロピレン(25)」は、オキシプロピレン単位が約25個つながっていることを意味する。
【0069】
(B)バインダー
(B−1)ウレタン樹脂
商品名“SBU ラッカー 0866 ”: 住化バイエルウレタン(株)製、イソホロンジイソシアネートベースで固形分濃度30%のウレタン樹脂ワニス。
(B−2)アクリル樹脂
商品名“アロンタック S1601”: 東亞合成(株)製、固形分濃度30%のアクリル系樹脂ワニス。
【0070】
また、サンプルの物性値測定及び評価は、以下の方法に基づいて行った。
【0071】
(1)面内の位相差値R0
転写基材上に形成されたコーティング層である位相差板を、粘着剤を介して4cm角のガラス板に転写する。こうしてガラス板に貼合した状態で、王子計測機器(株)製の測定機“KOBRA-21ADH ”を用い、波長559nmの単色光で回転検光子法により、面内の位相差値R0 を測定する。樹脂の延伸フィルムからなる位相差板の面内位相差値R0 は、そのまま上記の“KOBRA-21ADH ”を用いて測定する。
【0072】
(2)厚み方向の位相差値R′
面内の位相差値R0 、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜して測定した位相差値R40、コーティング層の厚みd及びコーティング層の平均屈折率n0 を用いて、先に示した方法でnx、ny及びnz を求め、次いで、前記式(II)により厚み方向の位相差値R′を計算する。
【0073】
(3)ヘイズ値
ガラス板上に形成されたコーティング層である位相差板につき、スガ試験機(株)製のヘーズメータ“HGM-2DP”を用いて測定する。
【0074】
(4)コントラスト
所定の偏光板を配置した液晶表示装置を黒表示及び白表示が可能なようにバックライトと組み合わせて制御し、ELDIM 社製の視野角別輝度測定装置“EZ-Contrast ”により、表示面の法線方向におけるコントラスト(正面コントラスト)を測定する。ここでコントラストは、黒表示時の輝度に対する白表示時の輝度の比で表される。
【0075】
実施例1
(a)コーティング位相差板の作製
以下の組成で塗工液を調製した。
【0076】
ウレタン樹脂ワニス“SBU ラッカー 0866 ” 10%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト STN” 9%
トルエン 81%
【0077】
この塗工液の固形分濃度は12%であり、有機修飾粘土複合体/ウレタン樹脂の固形分重量比は3/1である。この塗工液を、離型処理が施された厚さ38μm のポリエチレンテレフタレートフィルム(離型処理面の水接触角110°)上にアプリケーターを用いて塗工し、その後50℃で1分、次に90℃で3分乾燥させ、フィルム上にコーティングされた位相差板を得た。このコーティング層の位相差値を測定したところ、R0=0.2nm、R′=94nmであった。また、同様にしてガラス板上にコーティングした位相差板のヘイズ値は 0.6%であった。
【0078】
(b)複合位相差板の作製
上記(a)で得られた位相差板のコーティング層の露出面に、ポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子の両面に保護層を有し、片面に粘着剤層が付された偏光板(住友化学工業(株)製の商品名“スミカラン SRW842A”)を、その粘着剤側で貼合し、偏光板/粘着剤層/コーティング層/離型フィルムからなる半製品を作製した。さらに、離型フィルムを剥離した後のコーティング層表面に、別途、離型処理面に粘着剤が塗工されたポリエチレンテレフタレートフィルムをその粘着剤側で貼合し、偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を作製した。
【0079】
(c)液晶表示装置の作製と評価
上記(b)で得られた偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板の離型フィルムを剥がし、その粘着剤層を介して、VA型液晶セル(市販品)の上面に積層し、液晶セルの下面には、環状ポリオレフィンの延伸フィルムからなり、面内の位相差値R0=100nm 、厚み方向の位相差値R′=130nmである第二の位相差板を、粘着剤を介して積層し、さらにその下に、ポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子の片面に保護層を有する第二の偏光板(住友化学工業(株)製の商品名“スミカラン SQ0642A”)を、下面の最下層が第二の偏光板の保護層となるように、粘着剤を介して積層し、液晶表示装置を作製した。ここで、複合偏光板と第二の偏光板との吸収軸がなす角度を90°、第二の偏光板の吸収軸と第二の位相差板の遅相軸とのなす角度を90°に配置した。この液晶表示装置のコントラストを測定したところ、706.6であった。
【0080】
比較例1
(a)コーティング位相差板の作製
以下の組成で塗工液を調製した。
【0081】
アクリル樹脂ワニス“アロンタック S1601” 10%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト STN” 9%
トルエン 81%
【0082】
この塗工液の固形分濃度は12%であり、有機修飾粘土複合体/アクリル樹脂の固形分重量比は3/1である。この塗工液を、離型処理が施された厚さ38μm のポリエチレンテレフタレートフィルム上に実施例1と同一条件で塗工し、乾燥して、フィルム上にコーティングされた位相差板を得た。このコーティング層の位相差値を測定したところ、 R0=0.1nm 、R′=82nmであった。また、同様にしてガラス板上にコーティングした位相差板のヘイズ値は 3.5%であった。
【0083】
(b)複合位相差板の作製
上記(a)で得られた位相差板を用い、実施例1の(b)と同様にして、偏光板/粘着剤層/コーティング層/離型フィルムからなる半製品を作製し、さらに偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を作製した。
【0084】
(c)液晶表示装置の作製と評価
上記(b)で得られた偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を用いて、実施例1の(c)と同様にして液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置のコントラストを測定したところ、635.0であった。
【0085】
比較例2
(a)コーティング位相差板の作製
以下の組成で塗工液を調製した。
【0086】
アクリル樹脂ワニス“アロンタック S1601” 10%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト STN” 6.8%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト SPN” 2.2%
トルエン 45.8%
アセトン 35.2%
【0087】
この塗工液の固形分濃度は12%であり、有機修飾粘土複合体/アクリル樹脂の固形分重量比は3/1である。この塗工液を、離型処理が施された厚さ38μm のポリエチレンテレフタレートフィルム上に実施例1と同一条件で塗工し、乾燥して、フィルム上にコーティングされた位相差板を得た。このコーティング層の位相差値を測定したところ、 R0=0.1nm 、R′=84nmであった。また、同様にしてガラス板上にコーティングした位相差板のヘイズ値は 2.0%であった。
【0088】
(b)複合位相差板の作製
上記(a)で得られた位相差板を用い、実施例1の(b)と同様にして、偏光板/粘着剤層/コーティング層/離型フィルムからなる半製品を作製し、さらに偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を作製した。
【0089】
(c)液晶表示装置の作製と評価
上記(b)で得られた偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を用いて、実施例1の(c)と同様にして液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置のコントラストを測定したところ、645.9であった。
【0090】
比較例3
(a)コーティング位相差板の作製
以下の組成で塗工液を調製した。
【0091】
ウレタン樹脂ワニス“SBU ラッカー 0866” 13.3%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト STN” 6.0%
有機修飾粘土複合体“ルーセンタイト SPN” 2.0%
トルエン 78.7%
【0092】
この塗工液の固形分濃度は12%であり、有機修飾粘土複合体/アクリル樹脂の固形分重量比は2/1である。この塗工液を、離型処理が施された厚さ38μm のポリエチレンテレフタレートフィルム上に実施例1と同一条件で塗工し、乾燥して、フィルム上にコーティングされた位相差板を得た。このコーティング層の位相差値を測定したところ、 R0=0.2nm 、R′=88nmであった。また、同様にしてガラス板上にコーティングした位相差板のヘイズ値は 1.7%であった。
【0093】
(b)複合位相差板の作製
上記(b)で得られた位相差板を用い、実施例1の(b)と同様にして、偏光板/粘着剤層/コーティング層/離型フィルムからなる半製品を作製し、さらに偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を作製した。
【0094】
(c)液晶表示装置の作製と評価
上記(b)で得られた偏光板/粘着剤層/コーティング層/粘着剤層/離型フィルムからなる複合偏光板を用いて、実施例1の(c)と同様にして液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置のコントラストを測定したところ、662.0であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る位相差板を偏光板に積層した複合偏光板は、垂直配向(VA)のほか、ねじれネマチック(TN)、光学補償ベンド(OCB)等、各種モードの液晶表示装置に対し、視野角特性の改良に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明に係る複合偏光板の構成例を示す断面模式図である。
【図2】複合偏光板の製造工程を概略的に例示する断面模式図である。
【図3】複合偏光板をロール状で製造する場合に、コーティング層を形成し、そこに粘着剤付き偏光板を貼合するまでの工程を概略的に示す側面図である。
【図4】複合偏光板に第二の粘着剤層を設ける工程を概略的に示す側面図である。
【図5】コーティング層の形成から第二の粘着剤層の形成までを連続的に行う場合の工程を概略的に示す側面図である。
【図6】本発明に係る液晶表示装置の構成例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0097】
10……複合偏光板、
11……偏光板、
12……粘着剤層、
13……粘着剤付き偏光板、
14……偏光板の離型フィルム、
15……コーティング層からなる位相差板、
17……第二の粘着剤層、
18……粘着剤層の離型フィルム、
19……粘着剤付きフィルム、
20……転写基材、
21……剥離後の転写基材、
25……半製品、
30……転写基材送り出しロール、
32……塗工機、
34……コーティング層乾燥ゾーン、
36……偏光板送り出しロール、
38……離型フィルム巻取りロール、
40……半製品ロール、
41……半製品巻廻ロール、
43……転写基材剥離ロール、
44……転写基材巻取りロール、
45……粘着剤付きフィルム送り出しロール、
46……粘着剤塗工機、
47……粘着剤乾燥ゾーン、
48……離型フィルム送り出しロール、
50……製品ロール、
60……液晶セル、
62……第二の位相差板、
64……第二の偏光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含有し、前者/後者の重量比が2を超え5未満である組成物をフィルム状に形成してなることと特徴とする、位相差板。
【請求項2】
ウレタン樹脂が、イソホロンジイソシアネートをベースとするものである請求項1に記載の位相差板。
【請求項3】
有機修飾粘土複合体が、炭素数1〜30のアルキル基を有する4級アンモニウム化合物とスメクタイト族に属する粘土鉱物の複合体である請求項1又は2に記載の位相差板。
【請求項4】
ヘイズ値が1.5%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の位相差板。
【請求項5】
面内の位相差値が0〜10nmであり、厚み方向の位相差値が40〜300nmである請求項1〜4のいずれかに記載の位相差板。
【請求項6】
有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂と、有機溶媒とを含有する組成物を、基材上に塗工し、次いで有機溶媒を除去することを特徴とする、位相差板の製造方法。
【請求項7】
偏光板、粘着剤、及び請求項1〜5のいずれかに記載の位相差板が、この順に積層されてなることを特徴とする、複合偏光板。
【請求項8】
位相差板の外側に、さらに第二の粘着剤層が形成されている請求項7に記載の複合偏光板。
【請求項9】
偏光板、粘着剤及び位相差板がこの順に積層された複合偏光板の製造方法であって、有機修飾粘土複合体と、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂とを含有する組成物を転写基材上にコーティングして位相差板を形成し、粘着剤層を有する偏光板の該粘着剤層側にこのコーティング位相差板の露出面を貼合し、次いで転写基材を前記コーティング位相差板から剥離することを特徴とする、複合偏光板の製造方法。
【請求項10】
液晶セルと、
該液晶セルの一方の面に、偏光板よりも位相差板が液晶セル側となるように配置された請求項7又は8に記載の複合偏光板と、
該液晶セルの他方の面に配置され、面内の位相差値(R0 )が30〜300nmで、面内の位相差値(R0)と厚み方向の位相差値(R′)の比(R0/R′)が0を越え2未満である第二の位相差板と、
該第二の位相差板の液晶セルと反対側に配置された第二の偏光板と
を備えることを特徴とする、液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−10912(P2006−10912A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186037(P2004−186037)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】