説明

位置検出装置

【課題】比較的簡素な回路構成で、高速な走査を実行できる、静電式の位置検出装置を提供する。
【解決手段】交流信号のゼロクロスのタイミングで、複数の電極子とそれらの電極子と直交する複数の電極子の交点に形成されるコンデンサに順次印加する。これらのコンデンサに流れる電流変化を、直交する電極子で捉え、従来技術の積分器に代えて、LPFで包絡線検波を行い、電流の変化を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出装置に適用して好適な技術に関する。
より詳細には、静電容量方式の位置検出装置の、位置検出平面における走査速度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータに位置情報を与える入力装置には、様々なものがある。その中で、タッチパネルと呼ばれる位置検出装置がある。
タッチパネルは、指や専用のペン等の入力体で検出平面に触れた位置を検知して画面上の位置を指定し、コンピュータに指示を与える。
タッチパネルは、PDA(Personal Digital Assistant)や銀行のATM(Automated Teller Machine)、駅の券売機等で広く利用されている。
【0003】
タッチパネルに採用される位置情報検出技術には、様々なものがある。例えば、圧力の変化で位置検出を行う抵抗膜方式や検出平面の表面の膜の静電容量の変化で位置検出を行う静電容量方式等がある。
【0004】
本発明の従来技術として、静電容量方式による位置検出装置を説明する。
図8は、従来の静電容量方式の位置検出装置を示すブロック図である。
駆動部802は、人体に最も吸収され易いとされる周波数である、200kHzの交流電圧を生成する。
駆動部802によって生成された200kHzの交流電圧は、X電極側切り替えスイッチ103を通じて、マトリクス電極104のX軸方向の電極(以下、「X軸電極」という)104aに、選択的に印加される。
マトリクス電極104は、細長い導体の電極を縦横に並べたものであり、各交点が小容量のコンデンサを形成している。これら小容量のコンデンサに、200kHzの交流電圧を印加する。
Y電極側切り替えスイッチ105は、Y電極104bの中からいずれか一本を選択するスイッチである。
受信部803は、Y電極側切り替えスイッチ105が選択した電極から得られる信号を増幅し、所定の信号処理を行うことにより、マトリクス電極104に人間の指等が近接したことによって起こる僅かな信号変化をデジタルデータに変換する。
【0005】
マイコンよりなる位置算出部124は、同期クロック生成部807から得られるアドレス情報と、受信部803から得られる僅かな信号変化のデータを受けて、マトリクス電極104上の指の存在の有無と、その位置の情報を出力する。
なお、説明の便宜のため、マトリクス電極104の、X電極側切り替えスイッチ103に接続されている側の電極群をX電極104aと呼び、Y電極側切り替えスイッチ105に接続されている側の電極群をY電極104bと呼ぶ。
【0006】
これより駆動部802の内部を説明する。
クロック生成器109はクロックを生成する発振器である。クロック生成器109が生成するクロックは読み出し部804に供給される。
サイン波ROM107は、8ビット×256サンプルの疑似サイン波が記憶されているROMである。読み出し部804は、クロック生成器109から供給されるクロックに基づいて、サイン波ROM107のアドレスを指定して、データを読み出す。
サイン波ROM107から読み出し部804によって読み出されたデータは、D/A変換器110によってD/A変換された後、LPF111にて平滑化されることにより、アナログのサイン波信号に変換される。その後、ドライバ112にて電圧増幅され、X電極104aに印加される交流電圧となる。
【0007】
これより受信部803の内部を説明する。
Y電極側切り替えスイッチ105には、オペアンプの反転増幅器である電流電圧変換器113が接続されている。これは、X電極104aとY電極104bの交点に形成される小容量のコンデンサに流れる電流が極めて小さいものであり、増幅して電圧に変換する必要があるからである。
電流電圧変換器113から出力される信号は、さらにオペアンプの反転増幅器であるドライバ117で増幅された後、同期検波器114に入力される。
同期検波器114は、反転増幅器118と切り替えスイッチ119よりなる。切り替えスイッチ119は、駆動部802内の読み出し部804から出力されるコサイン矩形波によって切り替え制御が行われる。このコサイン矩形波は、駆動部802が出力する200kHzの信号とは位相が90°ずれている矩形波である。
【0008】
周知のように、コンデンサに交流電圧を印加すると、この印加された交流電圧の位相に対し電流の位相は90°進む。したがって、Y電極側切り替えスイッチ105で電流を検出した信号を同期検波する際には、X電極側切り替えスイッチ103からマトリクス電極104に入力される交流電圧とは90°位相をずらす必要がある。
同期検波器114は、周知のダイオード検波と同等の機能を、微弱な信号に対して実現する。
同期検波器114の出力信号は、抵抗R120とコンデンサC122とオペアンプ121からなる積分器805に入力される。積分器805の出力信号はA/D変換器116に入力される。A/D変換器116は、入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換して、出力する。
【0009】
図9(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)は、従来の位置検出装置にて発生する信号の変化を示す波形図及び所定の回路部分の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
図9(a)は、駆動部802が発生する200kHzのサイン波電圧である。図8のP821にて検出できる信号波形である。
図9(b)は、ドライバ117にて検出できる、マトリクス電極104の交点において生じた電流であり、図8のP822にて検出される信号波形である。
周知のように、コンデンサに交流電圧を印加すると、この印加した交流電圧に対し電流の位相は90°進む。したがって、図9(b)の波形は図9(a)より位相が90°進んでいる。
【0010】
図9(c)は、図9(b)の信号に対して同期検波を行った結果の波形である。図8のP823にて検出できる信号波形である。同期検波を行うことにより、交流の信号は直流の脈流に変換される。
図9(d)は、図9(c)の信号に対して積分を行った結果の波形である。図8のP824にて検出できる信号波形である。
積分器805は、時点t20から入力信号の積分を開始し、時点t21まで積分を行う。
図9(e)は、A/D変換器116の動作タイミングである。A/D変換器116は、時点t21から時点t22まで、積分器805のアナログ電圧をデジタル値に変換する。
図9(f)は、放電スイッチ806の動作タイミングである。放電スイッチ806は、時点t22から時点t23までの間にオン制御される。これにより、コンデンサC122が放電され、積分器805の出力電圧はゼロに戻される。つまり、放電スイッチ321は、積分器805のリセットスイッチといえる。
【0011】
なお、本出願人の発明に係る従来技術を、特許文献1に示す。
【0012】
【特許文献1】特開平10−020992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の従来技術による静電容量方式の位置検出装置は、X軸電極とY軸電極の各交点ごとに、積分とA/D変換を行っていた。この積分及びA/D変換の処理は、一交点ごとにおよそ30μsecを要した。
この技術は、比較的小規模の位置検出装置ではあまり問題にはならないが、位置検出装置の位置検出平面を大きくしようとすると、問題が顕在化する。つまり、位置検出平面を大きくすると、交点の数が増える。交点の数が増えれば増えるほど、位置検出平面全体を走査(スキャン)する時間が長くなる。
【0014】
一般に、位置検出装置やマウス等のポインティングデバイスの分解能は、10msec程度が好ましいとされる。したがって、位置検出装置において一交点辺り30μsecという制約のままでは、検出面中に設けることのできる交点の数は、およそ333個程度となる。
一方、出願人は広大な面積の位置検出平面を備える、静電容量方式の位置検出装置を実現したいと考えている。目指す位置検出装置の位置検出平面内の交点数は、およそ15000個程度を目標にしている。したがって、前述の従来技術による位置検出装置では、到底実現することはできない。
【0015】
ここで、電磁誘導式の位置検出装置であれば、位置検出平面に印加する交流電圧の周波数を上げて速度を稼ぐ、という方策が考えられる。しかし、一方で200kHzという周波数は、人体が最も吸収し易い周波数である、という固有の制約がある。したがって、速度向上のための解決策として電磁誘導式のようなアプローチをとることができない。
【0016】
また、交点を幾つかの群に分割して、夫々の交点群に対応する位置検出回路を複数設ける方法があるが、この場合は装置が大掛かりになり、コストが嵩むと共に、設計がより難しくなる、という大きな欠点がある。
【0017】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、比較的簡素な回路構成で高速な走査を実行できる、静電容量方式の位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明による位置検出装置は、複数の導体を相互に平行に配置してなるX電極群と、該X軸電極群と直交するように複数の導体を配置してなるY電極群と、X電極群とY電極群との間に設けられた誘電体と、X電極群に交流信号を供給する駆動部と、交流信号のゼロクロスのタイミングごとに同期クロックを生成する同期クロック生成部と、同期クロックが入力され、該同期クロックの入力に応じてX電極群のうちの任意の一の導体である第一の電極を選択する第一の切り替えスイッチと、同期クロックが入力され、該同期クロックの入力に応じてY電極群のうちの任意の一の導体である第二の電極を選択する第二の切り替えスイッチと、第二の切り替えスイッチを介して第二の電極から出力された出力信号を脈流に変換する同期検波器と、脈流に変換された出力信号が入力され、該出力信号の所定周波数以上の周波数成分を遮断して出力するフィルタ部と、フィルタ部から出力された出力信号の変化を検出して、第一の電極と第二の電極との交点の位置を算出する位置算出部と、を具備することを特徴とするものである。
【0019】
一本の電極子に与える入力信号は、200kHzから大きくはずすことはできない。
そこで、200kHzの交流信号を、その交流信号のゼロクロスのタイミングで、複数の電極子とそれらの電極子と直交する複数の電極子の交点に形成されるコンデンサに順次印加する。これらのコンデンサに流れる電流変化を、直交する電極子で捉え、従来技術の積分器に代えて、LPFで包絡線検波を行い、電流の変化を検出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、比較的簡素な回路構成で高速な走査を実行できる静電容量方式の位置検出装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、下記の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げるマトリクス電極を構成するX電極及びY電極の本数等の数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法、形状及び配置関係も概略的なものである。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の例である、位置検出装置の全体ブロック図である。
図1に示すように、位置検出装置101は、駆動部102と、X電極側切り替えスイッチ103と、マトリクス電極104と、Y電極側切り替えスイッチ105と、受信部106と、位置算出部124とからなる。
【0024】
駆動部102は、200kHzの交流電圧を発する。
マトリクス電極104は、細長い導体の電極を縦横に並べて構成され、各交点(以下、「電極交点」という)が小容量のコンデンサを形成する。
駆動部102で生成された200kHzの交流電圧は、X電極側切り替えスイッチ103を通じてX電極104aに印加される。
マトリクス電極104は、複数本の電極からなるX電極104aと、このX電極104aに対し垂直になるように並べられた複数本の電極からなるY電極104bとから構成される。X電極104aとY電極104bとの間には、図4にて後述する薄い誘電体が介在している。このため、X電極104aとY電極104bとの電極交点には、小容量のコンデンサが形成される。したがって、X電極104aの任意の一つと、Y電極104bの任意の一つを選択して、交流電圧を印加すると、電流が流れる。
X電極群104aとY電極群104bとは、表面が薄い絶縁層で覆われているので、人体等に直接は接触しない。しかし、人体の指が近づくと、X電極104aとY電極104bの各電極交点に形成される小容量のコンデンサは、僅かながら静電容量が減少する。電極に人体の指が接近すると、電極から発される電気力線の一部が指に吸い込まれる現象が生じるからである。この現象は、コンデンサに印加する交流電圧の周波数に強く依存する。吸収現象が最も顕著な周波数が、先に述べた200kHzである。
【0025】
受信部106は、駆動部102が発する交流電圧がマトリクス電極104の各電極交点ごとに印加された状態に生じる、微弱な電流の変化を検出する。マトリクス電極104の電極交点に人間の指が近づくと、電極交点近傍の電気力線の一部が指に吸い取られる現象が発生する。このため、指が近づいた電極交点に形成されるコンデンサは、他の電極交点に形成されたコンデンサに比べて静電容量が僅かに減少する。すなわち、コンデンサに流れる電流が僅かに減少する。受信部106は、この僅かな電流の変化を検出する。最終的にはマイコンで指の位置を算出し、位置データ出力として外部に出力する。
【0026】
なお、電気力線が指に吸い取られる現象は、コンデンサに印加する交流電圧の周波数に強く依存する。吸収現象が最も顕著な周波数が、先に述べた200kHzである。
【0027】
従来の技術では、微弱な電流の変化を、フーリエ変換にて検出していた。そのため、積分に要する時間が位置検出装置101の大型化の足かせになっていた。
本実施形態では、積分を行わず、ローパスフィルタ(LPF)を用いて、連続的な電流検出を行う。
【0028】
これより、駆動部102の内部を説明する。
クロック生成器109はクロックを生成する発振器である。クロック生成器109が生成するクロックは読み出し部108に供給される。
サイン波ROM107は、8ビット×256サンプルの疑似サイン波データが記憶されているROMである。読み出し部108は、クロック生成器109から供給されるクロックに基づいて、サイン波ROM107のアドレスを指定して、データを読み出す。
サイン波ROM107から読み出し部108によって読み出されたデータは、D/A変換器110によってD/A変換された後、LPF111にて平滑化されることにより、アナログのサイン波信号に変換される。その後、ドライバ112にて電圧増幅され、200kHzの交流電圧となり、X電極104aのうちの一の電極に印加される。
【0029】
また、読み出し部108は、図2にて後述する交流電圧と同位相且つ整数倍周期のサイン矩形波を生成し、同期クロック生成部125に供給する。また、読み出し部108は、交流電圧と同一の周波数のコサイン矩形波を生成し、後述する同期検波器114のスイッチ119に供給する。読み出し部108から出力されるサイン矩形波とコサイン矩形波は、直交関係にある。
【0030】
ところで、X電極側切り替えスイッチ103は、X電極104aの中からいずれか一本を選択するスイッチである。また、マトリクス電極104と受信部106との間には、Y電極側切り替えスイッチ105が設けられている。このY電極側切り替えスイッチ105は、Y電極104bの中からいずれか一本を選択するスイッチである。なお、これらの切り替えスイッチは、後述する同期クロック生成部125により、スイッチを切り替えるタイミングが制御される。
【0031】
これより、受信部106の内部を説明する。
Y電極切り替えスイッチ105には、オペアンプの反転増幅器である電流電圧変換器113が接続されている。X電極104aとY電極104bとの各電極交点に形成される小容量のコンデンサに流れる電流が極めて小さなものであり、増幅して電圧に変換する必要があるからである。
【0032】
電流電圧変換器113から出力された信号は、さらにプリアンプ117で増幅された後、同期検波器114に入力される。
【0033】
同期検波器114は、反転増幅器118とスイッチ119よりなる。スイッチ119は3つの端子を有しており、それぞれが反転増幅器118、プリアンプ117及び後述するLPF115に接続されている。さらに、このスイッチ119は、駆動部102内の読み出し部108から供給されるコサイン矩形波が入力されるようになっており、このコサイン矩形波によって切り替え制御が行われる。コサイン矩形波が正の場合、スイッチ119はドライバ117側に切り替わり、ドライバ117の出力信号を選択する。
一方、コサイン矩形波が負の場合、スイッチ119は反転増幅器118側の端子に切り替わり、反転増幅器118の出力信号を選択する。コサイン矩形波は、駆動部102が出力する200kHzの電圧信号とは位相が90°ずれている(直交関係にある)矩形波である。周知のように、コンデンサに交流電圧を印加すると、この交流電圧に対し電流の位相は90°進む。したがって、電流を検出した信号を同期検波する際には、マトリクス電極104に入力した交流電圧とは90°位相をずらしたタイミングでスイッチ119の切り替えを行う必要がある。同期検波器114は、周知のダイオード検波と同等の機能を、微弱な信号に対して実現する。
【0034】
同期検波器114から出力される信号は、抵抗R120、R123、オペアンプ121及びコンデンサC122よりなるLPF115に入力される。このLPF115は、入力される信号の50kHz以上の周波数成分を除去するように、カットオフ周波数が50kHzに設定されている。なお、LPF115のカットオフ周波数を50kHzに設定する理由については、後述する。LPF115は、フィルタ部ともいえる。
【0035】
LPF115から出力される信号は、A/D変換器116によって数値データ化され、その後位置算出部124に入力され、所定の演算処理がなされる。
【0036】
位置算出部124はマイコンの一機能である。位置算出部124は、A/D変換器116から得られるデータから、マトリクス電極104の各電極交点に形成された小容量のコンデンサに流れる電流値を算出する。この電流値に基づき、マトリクス電極104上にある指の位置を検出し、これを位置データとして出力する。なお、マトリクス電極104に指が接近していない場合でも、位置算出部124は、マトリクス電極104上に指の存在がないことを検出し、これを位置データとして出力する。
【0037】
同期クロック生成部125はマイコンの一機能である。同期クロック生成部125は、読み出し部108から供給されたサイン矩形波の立ち上がり・立ち下がりのタイミング(図2を参照)で、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105の切り替えを制御する。上述したように、サイン矩形波は、交流電圧の整数倍周期である。つまり、同期クロック生成部125は、交流電圧のゼロクロスになるタイミングで、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105を所定の順序で切り替える。なお、交流信号のゼロクロスになるタイミングでX電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105を切り替える理由については、後述する。X電極側切り替えスイッチ103は第一の切り替えスイッチ、Y電極側切り替えスイッチ105は第二の切り替えスイッチともいえる。
【0038】
次に、図2を参照して駆動部102から発せられる交流電圧と、読み出し部108で生成されるサイン矩形波との関係を説明する。ここで、図2は、交流電圧とサイン矩形波とを示す波形図である。
【0039】
図2(a)は、駆動部102から発せられる交流電圧の波形図である。
図2(b)は、図2(a)の交流電圧と同位相且つ同一周期のサイン矩形波を示す波形図である。図2(b)のサイン矩形波は、読み出し部108で生成されるサイン矩形波の一例である。上述したように、サイン矩形波は交流電圧と同位相で生成されるので、サイン矩形波の立ち上がり・立ち下がりのタイミングと、交流電圧のゼロクロスのタイミングとは、常に一致する関係にある。
図2(c)は、図2(a)の交流電圧と同位相且つ2倍周期の矩形波を示す波形図である。図2(c)のサイン矩形波は、読み出し部108で生成されるサイン矩形波の一例である。この2倍周期のサイン矩形波も交流電圧と同位相で生成されるので、サイン矩形波の立ち上がり・立ち下がりのタイミングと、交流電圧の1周期ごとのゼロクロスのタイミングとは、一致する関係にある。
このサイン矩形波は、同期クロック生成部125が制御する、Y電極側切り替えスイッチ105の切り替えタイミングに利用される。この詳細は後述する。
【0040】
これより、本実施形態に係る位置検出装置の動作原理を説明する。
図3は、マトリクス電極104を示す概略図である。
以下、X電極8本及びY電極8本から構成されるマトリクス電極を例として説明する。図3に示すマトリクス電極104の場合、X電極とY電極の交点、すなわち電極交点の数は、64個となる。各電極交点には、小容量のコンデンサが形成されている。各電極交点の位置は、X電極とY電極の行列で定義される。具体的には、X電極X1とY電極Y2の電極交点を電極交点a12とし、X電極X8とY電極Y8の電極交点を、電極交点a88と定義する。
【0041】
以下、マトリクス電極104における電極交点a34、a44、a54を含む領域303を指302で触った場合を例として、図1及び図4〜図6に従って説明する。ここで、図4は本実施形態に係る位置検出装置のマトリックス電極の断面図及び波形図を、図5はコンデンサにおける電圧と電流との関係を示す図を、図6は本実施形態に係る位置検出装置のマトリクス電極104の断面図及び波形図である。
【0042】
図4(a)は、指302で触れた電極交点a34、a44、a54を含むY電極Y4を、図3のY軸方向から見たマトリクス電極104の断面を示す。
マトリクス電極104の指302で触れる面は、薄い絶縁層412で覆われている。そして、X電極104aとY電極104bとの間には、誘電体413が設けられている。その結果、X電極X1〜X8とY電極106bと誘電体413とから、電極交点a14、a24、a34、a44、a54、a64、a74、a84に8つの小容量コンデンサが形成される。
【0043】
図4(b)は、駆動部108が発する200kHzの交流電圧の波形図を示す。この波形は図1の点P131にて検出できる信号波形である。そして、この交流電圧は、X電極側切り替えスイッチ103を通じて、上述した図4(a)の8つのコンデンサに対応するX電極群104aのいずれかに選択的に入力される。
【0044】
図4(c)、(d)および(e)は、X電極側切り替えスイッチ103の選択により、X電極に入力された交流電圧の波形図である。ただし、Y電極側切り替えスイッチ105は、Y電極Y4を選択しているものとする。
【0045】
図4(c)は、t0時点からt1時点において、電極交点a14に形成されるコンデンサに印加される交流電圧の波形図である。X電極側切り替えスイッチ103が端子Xs1を駆動部102に接続することにより、X電極X1に交流電圧が印加されることで、電極交点a14に形成されるコンデンサにも交流電圧が印加される。
図4(d)は、t1時点からt2時点において、電極交点a24に形成されるコンデンサに印加される交流電圧の波形図である。X電極側切り替えスイッチ103が端子Xs2を駆動部102に接続することにより、a24に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される。
図4(e)は、t7時点からt8時点において、電極交点a84に形成されるコンデンサに印加される交流電圧の波形図である。X電極側切り替えスイッチ103が端子Xs8を駆動部102に接続することにより、a84に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される。なお、t2時点からt7時点においても、図4(c)、(d)及び(e)の交流電圧と同様の特徴を持つ交流電圧が、X電極側切り替えスイッチ103の選択により、電極交点a34,a35,a36,a37に形成される各コンデンサごとに印加される。
【0046】
図4(b)、(c)、(d)及び(e)に示す交流電圧を所定の電極交点に形成されるコンデンサに印加するためのX電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105の切り替え制御について説明を行う。
交流電圧とサイン矩形波とは、図2に示す関係を有しているから、交流電圧と同位相且つ4倍周期のサイン矩形波のゼロクロスのタイミングは、交流電圧の2周期ごとのゼロクロスのタイミングと一致する。本発明はこの関係を利用して、矩形波のゼロクロスのタイミング、すなわち交流電圧の2周期ごとに、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105の切り替えを行っている。
【0047】
ここで、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極切り替えスイッチ105の切り替え手順を、具体例を挙げて説明する。
【0048】
今、図4(b)の交流電圧が駆動部102からX電極側切り替えスイッチ103に供給されている。
【0049】
t0時点において、同期クロック生成部125は、Y電極側切り替えスイッチ105の端子Ys4と受信部106とが接続されるように切り替え制御してから、X電極側切り替えスイッチ103の端子Xs1と駆動部102とが接続されるように切り替え制御する。すると、電極交点a14に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される(図4(c)を参照)。
【0050】
t0時点から交流電圧の2周期後、つまりt1時点において、同期クロック生成部125はX電極側切り替えスイッチ103を切り替え制御し、端子Xs1から端子Xs2に切り替わる。すなわち、駆動部102と端子Xs2とが接続される。すると、電極交点a24に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される(図4(d)を参照)。
以下同様に、同期クロック生成部125は、X電極側切り替えスイッチ103を制御して、端子Xs3から端子Xs8を交流電圧の2周期ごとに順次切り替える。すると、電極交点a34、a44、…、a84の順で、夫々の電極交点に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される。Y電極側切り替えスイッチ105の端子Ys4及びX電極側切り替えスイッチ103の端子Xs8に切り替えられた時点で、Y電極Y4に対するX電極側切り替えスイッチ103の走査が完了する。
【0051】
同期クロック生成部125がY電極側切り替えスイッチ105を端子Ys4及びX電極側切り替えスイッチ103を端子Xs8に切り替え制御してから交流電圧の2周期後、つまりt8時点において、同期クロック生成部125はY電極側切り替えスイッチ105を制御して、その端子Ys5に切り替え、その後、X電極側切り替えスイッチ103を制御して、その端子Xs1に切り替える。すると、電極交点a15に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される。
以下同様に、同期クロック生成部125は、X電極側切り替えスイッチ103を制御して、端子Xs2から端子Xs8を交流信号の2周期ごとに順次切り替える。すると、電極交点a15、a25、…、a85の順で、夫々の電極交点に形成されるコンデンサに交流電圧が印加される。Y電極側切り替えスイッチ105の端子Ys5及びX電極側切り替えスイッチ103の端子Xs8に切り替えられた時点で、Y電極Y5に対するX電極側切り替えスイッチ103の走査が完了する。
【0052】
Y電極側切り替えスイッチ105の端子Ys1から端子Y3及び端子6から端子Ys8についても、X電極側切り替えスイッチ103の端子Xs1から端子Xs8を交流電圧の2周期ごとに順次切り替えられる。すると、マトリクス電極104のすべての電極交点に形成されるコンデンサに順次交流電圧が印加される。
【0053】
以上のように、交流信号のゼロクロス時に、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105の切り替えを行うようにする。これは、各電極交点に対応する、図6(i)にて後述するLPF115を通過した信号夫々の信号レベルを均一化し、電極交点ごとの感度のばらつきを抑えるためである。このようにスイッチの切り替えタイミングを制御することにより、各電極交点において、指を検出する感度が等しくなる。
【0054】
ところで、周知のように、コンデンサに図5(a)に示す交流電圧が印加されると、コンデンサには、図5(b)に示す電流が流れる。この電流は、図5(a)に示す交流電圧に対し、位相が90°進んだ信号である。
【0055】
つまり、図4(b)から(c)に示す交流電圧が、電極交点a14、a24、a34、a54、a64、a74、a84に形成されるコンデンサに印加されると、各コンデンサには、図4(c)から(e)に示す交流電圧より位相の90°進んだ電流が2周期流れる。電極交点a14、a24、a34、a54、a64、a74、a84に形成される各コンデンサに流れる電流をそれぞれ図6(a)から(f)に示す。
【0056】
ここで、図6(c)から(e)に示す、電極交点a34、a44、a54に形成されたコンデンサに流れる電流に注目する。これら3つのコンデンサに流れる電流は、その他の電極交点に形成されるコンデンサに流れる電流より少なくなる。これは、電極交点a34、a44、a54に指302が接近したことにより、電極から発される電気力線の一部が指302に吸い込まれる現象が生じたためである。ただし、完全に指302で覆われている電極交点a44のほうが、指302の一部でしか覆われていない電極交点a34,a54よりも、指302に吸い込まれる電気力線の本数は多くなる。そのため、図6(d)に示す電流のほうが、図6(c)、(e)に示す電流よりも少なくなる。
【0057】
上述したX電極側切り替えスイッチ103の走査により、図6(g)に示す電流は、Y電極切り替えスイッチ105の端子Ys4を通じて、Y電極Y4から電流電圧変換器113へ入力される。
【0058】
図6(g)は、図1のP132にて検出できる信号波形である。この図6(g)に示す波形は、電極交点a14、a24、a34、a54、a64、a74、a84に形成される各コンデンサに流れた電流を電流電圧変換器113にて電圧に変換し、その後、ドライバ117にて増幅した後の信号の波形図である。そして、図6(g)の信号は、同期検波器114に入力される。
【0059】
図6(h)は、図6(g)の信号を同期検波器114により信号処理した後の電圧信号の波形図である。図1のP133にて検出できる信号波形である。図6(h)の電圧信号は、図6(g)の信号を脈流に変換した信号となる。同期検波器114を通じて同期検波された信号はLPF115に入力される。
【0060】
図6(i)は、図6(h)に示す電圧信号がLPF115により信号処理した後の電圧信号の波形図である。図1のP134にて検出できる信号波形である。図6(i)の信号は、図6(h)の電圧信号の50kHz以上の周波数成分を除去した信号である。ところで、マトリクス電極114の各コンデンサに印加される交流電圧は、200kHzである。つまり、図6(h)に示す電圧信号の主要周波数成分も200kHzとなる。図6(h)に示す電圧信号から200kHzの周波数成分を除去し、指302を検出するための理想的な包絡線を得るために、LPF115のカットオフ周波数を50kHzに設定している。
【0061】
次に、マトリクス電極104上の指302の位置検出方法について図7を参照して説明する。
図7は、位置算出部124における処理結果を示す3次元グラフである。この3次元グラフは、マトリクス電極104に含まれるすべての電極交点に対応する、A/D変換器116からの出力を、所定のスケールに正規化したグラフである。この図7に示す3次元グラフにおいて、X軸はX電極104aの本数を示し、8本となっている。Y軸は、Y電極104bの本数を表し、8本となっている。そして、Z軸は、電圧の大きさである。
【0062】
図7に示す3次元グラフで電圧の値が周りより小さくなっている部分701は、マトリクス電極104の電極交点に形成されたコンデンサに流れる電流が、周りより少ない位置と対応する。つまり、この位置は、指302で触れた位置と対応する。
【0063】
なお、本実施形態では、X電極側切り替えスイッチ103及びY電極側切り替えスイッチ105を切り換えるタイミングは交流電圧の2周期ごととした。しかし、これらの切り替えスイッチを切り替えるタイミングは、交流電圧のゼロクロス時であればよい。例えば、交流電圧の1/2周期で順次スイッチを切り換えるには、読み出し部108から同期クロック生成部125へ、交流信号と同周期のサイン矩形波を供給すればよい。
【0064】
以上説明したように、マトリクス電極104のすべての電極交点に形成されるコンデンサに流れる電流(静電容量)を連続的に検出して、マトリクス電極104上に触れた指302の位置及び形を検出し、外部へ指302の位置及び形を出力する。
【0065】
次に、本発明の位置検出装置101が、マトリクス電極104のすべての電極交点を走査するのに要する時間について検証する。
上述したように、位置検出装置101は、最短、駆動部102から発せられる交流電圧の1/2周期で、一つの電極交点を検出することができる。つまり、一つの電極交点を検出するには、1/2(周期)÷200(kHz)=2.5(μsec)必要である。つまり、すべての電極交点を走査するには、2.5(μsec)×電極交点数(個)必要となる。
【0066】
例えば、21インチのタッチパネルには、約15000個の電極交点数がある。
このようなタッチパネルの場合、本発明の位置検出装置101がすべての電極交点の走査をするのに必要な時間は、15000×2.5μsec=0.0375secである。
【0067】
上述した本発明の一実施形態においては、マトリクス電極104の各電極交点に交流電圧を供給するようにスイッチ切り替えを行う際、交流電圧のゼロクロス時に切り替えを行うようにした。これにより、1つの電極交点に形成されるコンデンサに流れる電流を検出するごとに、積分回路をリセットすることなく、すべての電極交点に形成されるコンデンサに流れる電流を連続的に検出できるようにした。すなわち、タッチパネルに触れた指の検出時間を従来技術より短縮できるという効果がある。
【0068】
なお、上述した実施の形態においては、交流電圧の主要周波数成分である200kHzの周波数成分を除去するために、カットオフ周波数を50kHzに設定したローパスフィルタ(LPF)を用いた例を示した。しかし、交流電圧の主要周波数成分を除去することができれば良いので、ローパスフィルタに限らず、例えば、50kHz以上の周波数を遮断できるフィルタ、例えば、かかる周波数を除去できるバンドエリミネートフィルタ及びバンドパスフィルタ等を用いても良い。
【0069】
また、上述した実施の形態においては、マトリクス電極に印加される交流電圧をサイン波としたが、サイン波の代替としてサイン矩形波をマトリクス電極に印加しても同様の効果が得られる。
【0070】
また、上述した実施の形態において、位置検出装置101は、一本の指302でマトリクス電極に触れた場合の、指検出を例としたが、例えば複数本の指でマトリクス電極に触れた場合でも、触れた指すべての位置を検出することが可能である。
【0071】
また、上述した実施の形態においては、マトリクス電極に印加される交流電圧の周波数を200kHzとしたが、人体に吸収される周波数の交流電圧なら、いかなる周波数のものとしてもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態の例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことはいうもでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態の例である、位置検出装置の全体ブロック図である。
【図2】本実施形態に係るマトリクス電極に印加される交流電圧と切り替えスイッチを制御するサイン矩形波との関係性を示す図である。
【図3】本実施形態に係るマトリクス電極を示す図である。
【図4】本実施形態に係る位置検出装置の、マトリクス電極の断面図と、波形図である。
【図5】コンデンサにおける、電圧と電流の関係を示す図である。
【図6】本実施形態に係る位置検出装置の受信部の各ブロックから出力される波形図である。
【図7】指の位置検出を示す図である。
【図8】従来の位置検出装置の全体ブロック図である。
【図9】従来技術の位置検出装置にて発生する信号の変化を示す波形図及び所定の回路部分の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0074】
101…位置検出装置、102…駆動部、103…X電極側切り替えスイッチ、104…マトリクス電極、105…Y電極側切り替えスイッチ、106…受信部、107…サイン波ROM、108…読み出し部、109…クロック、110…D/A変換器、111…LPF、112…ドライバ、113…電流圧変換器、114…同期検波器、115…LPF、116…A/D変換器、119…スイッチ、124…位置算出部、125…同期クロック生成部、302…指、303…領域、412…絶縁層、413…誘電体、801…位置検出装置、802…駆動部、803…受信部、804…積分器、805…スイッチ、806…同期クロック生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体を相互に平行に配置してなるX電極群と、
該X軸電極群と直交するように複数の導体を配置してなるY電極群と、
前記X電極群と前記Y電極群との間に設けられた誘電体と、
前記X電極群に交流信号を供給する駆動部と、
前記交流信号のゼロクロスのタイミングごとに同期クロックを生成する同期クロック生成部と、
前記同期クロックが入力され、該同期クロックの入力に応じて前記X電極群のうちの任意の一の導体である第一の電極を選択する第一の切り替えスイッチと、
前記同期クロックが入力され、該同期クロックの入力に応じて前記Y電極群のうちの任意の一の導体である第二の電極を選択する第二の切り替えスイッチと、
前記第二の切り替えスイッチを介して前記第二の電極から出力された出力信号を脈流に変換する同期検波器と、
前記脈流に変換された出力信号が入力され、該出力信号の所定周波数以上の周波数成分を遮断して出力するフィルタ部と、
前記フィルタ部から出力された出力信号の変化を検出して、前記第一の電極と前記第二の電極との交点の位置を算出する位置算出部と、
を具備することを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記フィルタ部をローパスフィルタで構成したこと、
を特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記駆動部の供給する交流信号は、サイン波であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記駆動部の供給する交流信号は、サイン矩形波であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−192306(P2009−192306A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31857(P2008−31857)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000139403)株式会社ワコム (118)
【Fターム(参考)】