説明

低アルカリ摺動材および低アルカリ摺動材含有組成物

【課題】 麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材からなる摺動材であって、従来のものよりpHが低い摺動材を提供する。
【解決手段】 麩糠類と実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られるpH8〜10の多孔性炭素材からなる低アルカリ摺動材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部品の材料として使用される低摩擦特性、低摩耗特性の摺動材およびそれを含有する組成物に関し、さらに詳述すると、麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材からなる摺動材およびそれを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を原料とし、この原料を金型を用いて成形した後に700℃以上の温度で焼成、炭化することにより得られる多孔性炭素材(RBC:RiceBran Ceramics)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔性炭素材は、硬質で、潤滑剤がなくても低摩擦特性、低摩耗特性を有するため、軸受などの摺動部品の材料として利用されている。この場合、上記多孔性炭素材では、通常、麩糠類と混合する熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂が使用されている。
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3060389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述した熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂を使用した多孔性炭素材は、pHが12程度という強アルカリ性であり、そのため次のような問題を有していた。
【0005】
第1の問題は、上述した強アルカリ性の多孔性炭素材を使用した摺動部品の摺動における相手側部位がアルカリ性に弱い材料により形成されている場合、この相手側部位が摺動部品のアルカリ性によって変質を起こす危険性があることである。すなわち、例えば、相手側部位がポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ガラス繊維含有FRP、亜鉛めっき鋼板等のアルカリ性に弱い材料で形成されている場合、摺動部品のアルカリ性によって相手側部位の摩擦特性、摩耗特性、耐熱性などが低下するおそれがあった。また、相手側部位が劣化して摺動面がひび割れしたり、相手側部位が処理被膜である場合にはその処理被膜が剥がれたりするおそれがあった。
【0006】
第2の問題は、上述した強アルカリ性の多孔性炭素材を塗料に混合して潤滑性塗料を作製し、この潤滑性塗料を摺動面に塗布し乾燥して使用するような場合、塗料としてアルカリ性下で反応しやすい塗料、例えばシリコーン樹脂系塗料を使用すると、塗料が化学変化を起こして塗料のゲル化が促進されることである。そのため、上記潤滑性塗料のポットライフが短くなるばかりか、商品価値が低下することがあった。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材からなる摺動材であって、従来の熱硬化性樹脂として残留金属成分を含むレゾール型フェノール樹脂を使用した強アルカリ性の多孔性炭素材よりpHが低く、したがって前述した従来の多孔性炭素材を摺動材として用いた場合の問題点を解決することが可能な低アルカリ摺動材およびそれを含有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材において、熱硬化性樹脂として実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂を用いた場合、pH8〜10の低アルカリ性の多孔性炭素材を得ることができ、したがってこの低アルカリ性の多孔性炭素材を摺動材として用いることにより、前述した強アルカリ性の多孔性炭素材を摺動材として用いた場合の問題点を解決できることを見出した。
【0009】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたもので、麩糠類と実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られるpH8〜10の多孔性炭素材からなることを特徴とする低アルカリ摺動材を提供する。
【0010】
また、本発明は、麩糠類と実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られるpH8〜10の多孔性炭素材の粉末と、バインダー成分とを含有することを特徴とする低アルカリ摺動材含有組成物を提供する。
【0011】
本発明において、熱硬化性樹脂として実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂を用いることにより、pH8〜10の低アルカリ性の多孔性炭素材を得ることができる理由は明らかではないが、以下のように推測することができる。すなわち、熱硬化性樹脂として従来使用されている残留金属成分を含むレゾール型フェノール樹脂は、製造時の配合成分などに由来する残留金属成分が含まれており、そのため麩糠類とフェノール樹脂との混合物の焼成時に起こる熱化学反応により残留金属成分が関与するフェノール樹脂の変質が生じ、その結果多孔性炭素材のpHが高くなり、強アルカリ性に変化すると推定される。これに対し、熱硬化性樹脂として実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂を用いた場合には、麩糠類とフェノール樹脂との混合物の焼成時に起こる熱化学反応により残留金属成分が関与するフェノール樹脂の変質が生じないので、多孔性炭素材のpHが高くならないものと推定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低アルカリ性摺動材は、pH8〜10という低アルカリ性の多孔性炭素材からなるため、摺動における相手側部位がアルカリ性に弱い材料であっても、相手側部位が変質を起こす危険性がない。したがって、本発明の摺動材を用いた摺動部品は、アルカリ性に対して悪影響が懸念される箇所にも問題なく使用することができる。
【0013】
また、本発明の低アルカリ摺動材含有組成物は、pH8〜10という低アルカリ性の多孔性炭素材の粉末とバインダー成分とを混合したものであるため、バインダー成分がアルカリ性下で反応しやすいものであっても、バインダー成分が化学反応を起こすことを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明の低アルカリ摺動材は、麩糠類と特定のレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材からなるもので、この多孔性炭素材は例えば特許文献1等に記載された公知の方法で製造することができる。
【0015】
この場合、上記麩糠類としては、例えば、米糠、脱脂米糠、麩、籾殻、蕎麦殻、大豆殻およびグルテンフィードから選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、穀類を加工処理する過程で発生する麩糠類であればいずれのものでも用いることができる。これら麩糠類は、適宜粒度に調整して用いることが好ましい。
【0016】
また、本発明において、実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とは、例えばNa、K、Ca、Ba、Mg、Liといった触媒などに由来する金属成分が実質的に残留していないレゾール型フェノール樹脂をいう。より具体的には、上記レゾール型フェノール樹脂として、大日本インキ化学工業株式会社製のST−611LVを用いることができる。
【0017】
上述した麩糠類とレゾール型フェノール樹脂との混合物において、麩糠類の配合量は全体の15〜35重量%、特に20〜30重量%、レゾール型フェノール樹脂の配合量は全体の65〜85重量%、特に70〜80重量%とすることが適当である。また、上記混合物には、麩糠類およびレゾール型フェノール樹脂に加え、必要に応じ、水、糊料、澱粉、糖液等の任意成分を適宜配合することができる。得られた混合物は、金型、造粒器などによって適宜形状に成形することができる。
【0018】
上記混合物の焼成は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中において、700℃以上の温度、好ましくは900℃程度の温度で行うことが適当である。この焼成により、pH8〜10の多孔性炭素材が形成される。多孔性炭素材のpHのより好ましい範囲はpH8〜9である。
【0019】
本発明の低アルカリ摺動材含有組成物は、前述した多孔性炭素材の粉末と、バインダー成分とを含有するものである。上記多孔性炭素材の粉末は、例えば、粉砕機等を用いて多孔性炭素材を粉砕することによって得ることができる。この場合、低アルカリ摺動材の粉末は粒度を1〜106μmに調整することが好ましい。また、バインダー成分としては、各種の塗料や樹脂を用いることができる。
【0020】
上記塗料としては、例えば、シリコーン樹脂系塗料等を挙げることができる。塗料としてアルカリ性下で反応しやすいシリコーン樹脂系塗料を用いた場合には、塗料のゲル化が抑制されるため、ポットライフの延長が可能となり、商品価値を向上させることができるという利点が得られる。
【0021】
また、上記樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタート、ポリエチレンテレフタート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエチルエーテルケトン、熱可塑性フッ素樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0022】
本発明の低アルカリ摺動材含有組成物において、多孔性炭素材粉末の配合量は全体の1〜60重量%、特に10〜30重量%、バインダー成分の配合量は全体の99〜40重量%、特に90〜70重量%とすることが組成物の性能確保の点で適当である。また、本発明の低アルカリ摺動材含有組成物には、多孔性炭素材粉末およびバインダー成分に加え、必要に応じ、任意成分を適宜配合することができる。
【0023】
前述した本発明の低アルカリ摺動材は、適宜形状に成形して例えば軸受等の摺動部品として利用することができる。前述した塗料と多孔性炭素材粉末とを混合した本発明の低アルカリ摺動材含有組成物は、摺動面に塗布し乾燥して利用することができる。前述した樹脂と多孔性炭素材粉末とを混合した本発明の低アルカリ摺動材含有組成物は、所望の形状に成形して摺動部品として利用したり、さらに追加工して摺動部品として利用したりすることができる。
【実施例】
【0024】
以下の実験を行った。
(実施例)
粉末状の脱脂米糠75重量%と、残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製ST−611LV)25重量%とを混合し、得られた混合物を成形した後、この成形物をロータリーキルンを用いて窒素ガス雰囲気中で900℃において1時間焼成した。
(比較例)
粉末状の脱脂米糠75重量%と、残留金属成分を含むレゾール型フェノール樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製OG−560)25重量%とを混合し、得られた混合物を成形した後、この成形物をロータリーキルンを用いて窒素ガス雰囲気中で900℃において1時間焼成した。
(参考例)
粉末状の脱脂米糠のみをロータリーキルンを用いて窒素ガス雰囲気中で900℃において1時間焼成した。
【0025】
実施例、比較例および参考例における焼成物のpHを測定した。この場合、各例ではいずれも複数回の焼成およびpH測定を行った。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果より、麩糠類と熱硬化性樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られる多孔性炭素材において、熱硬化性樹脂として残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂を用いた場合、pH8〜10の低アルカリ性の多孔性炭素材を得ることができることが確認された。これに対し、熱硬化性樹脂として残留金属成分を含むレゾール型フェノール樹脂を用いた場合には、多孔性炭素材が強アルカリ性になるものであった。また、レゾール型フェノール樹脂を用いない場合は、焼成物のpHは上昇せず、pH8以下の中性付近であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麩糠類と実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られるpH8〜10の多孔性炭素材からなることを特徴とする低アルカリ摺動材。
【請求項2】
麩糠類と実質的に残留金属成分を含まないレゾール型フェノール樹脂とを含有する混合物を焼成することにより得られるpH8〜10の多孔性炭素材の粉末と、バインダー成分とを含有することを特徴とする低アルカリ摺動材含有組成物。
【請求項3】
前記バインダー成分はシリコーン樹脂系塗料であることを特徴とする請求項2に記載の低アルカリ摺動材含有組成物。

【公開番号】特開2006−335943(P2006−335943A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164045(P2005−164045)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】