説明

低分子シロキサン量の揮散を低減した難燃樹脂組成物

【課題】樹脂中における分散性が良好であり、樹脂に対して優れた難燃性を付与できることに加えて、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を10ppm未満に低減させることができる難燃粉体及びこれを用いた難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂100質量部に対して、下記に記載する難燃粉体を10〜200質量部配合した難燃樹脂組成物であり、重量平均分子量100,000〜3,500,000で表されるオルガノポリシロキサンにより無機難燃粉体を加圧条件下で混練して表面処理してなる難燃粉体であって、上記オルガノポリシロキサンが、アセトン抽出により定量されるケイ素数2〜10の低分子シロキサンを2,000ppm以下含有することを特徴とする難燃粉体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子シロキサン量を低減したオルガノポリシロキサンを表面処理した難燃粉体、及び低分子シロキサン量の揮散を低減した難燃樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機難燃粉体とオルガノポリシロキサンを樹脂に配合した場合、それらの相乗効果が発揮されて、摺動性、難燃性、成型時の流動性等の多彩な特性が樹脂に付与されることがあり、そのため、各種用途において、無機難燃粉体とオルガノポリシロキサンが併用されている。
ところで、近年、無機難燃粉体として、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の粉体を用いた様々な技術が提案されており、特に金属水酸化物の粉体とオルガノポリシロキサンを併用してポリオレフィン樹脂等に添加した場合、それらの難燃性が大きく向上することが報告されている(特許文献1〜8参照)。
しかしながら、オルガノポリシロキサンは樹脂中に均一に分散させることが難しく、通常のブレンドでは分散が不均一になる場合が多い。
そこで、本発明者は、この問題を解決するため検討を重ねた結果、無機難燃粉体とRaSiO(4-a)/2で表されるオルガノポリシロキサンの合計量に対する該オルガノポリシロキサンの割合が0.1〜15質量%未満となるように、オルガノポリシロキサンと無機難燃粉体を加圧型混練機にて混練した場合、無機難燃粉体表面がオルガノポリシロキサンで均一に被覆された難燃粉体を得ることができ、この被覆難燃粉体を樹脂に添加することにより、オルガノポリシロキサンを樹脂中に均一に分散させることができること、そして、樹脂の難燃性が大きく向上することを確認し、かかる知見に基づき、樹脂中における分散性、難燃性、及びハンドリング性に優れたオルガノポリシロキサン被覆粉体及びその製造方法を報告した(特許文献9参照)。
【0003】
しかしながら、オルガノポリシロキサン製品には、その原料である沸点の低い低分子シロキサンが残留しているため、例えば、クリーンルームにおいてオルガノポリシロキサン製品を電子デバイスの製造に使用すると、揮散した低分子シロキサンにより生成される絶縁物がデバイス基板に付着して、電気接点不良等の障害を起こす恐れがある。
このため、樹脂中における分散性が良好であり、樹脂に対して優れた難燃性を付与できることに加えて、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を顕著に低減させることができるシリコーン系難燃材料が必要とされている。なお、低分子シロキサンによる電気接点不良等の障害を防止するには、最終成型樹脂加工品から揮散する低分子シロキサンの量を10ppm以下にすればよいことが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特公昭59−30178号公報
【特許文献2】特公昭58−55181号公報
【特許文献3】特公平01−13730号公報
【特許文献4】特公平01−20652号公報
【特許文献5】特公平06−76524号公報
【特許文献6】特公平05−64656号公報
【特許文献7】特開昭62−81435号公報
【特許文献8】特開昭62−236838号公報
【特許文献9】特開2004−51990号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 C Vol. J86-C No.3 p.219-228 2003年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を踏まえ、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を10ppm未満に低減させることができる難燃樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料である熱可塑性樹脂100質量部に対して無機難燃粉体94質量部と低分子シロキサン(ケイ素数2〜10)量が400ppmのオルガノポリシロキサン6質量部を加熱混練して作製した難燃樹脂組成物は、測定(75℃、10分間、ヘリウム気流中での加熱条件下でパージ・トラップガスクロマトグラフ質量分析装置(P&T−GC/MS))される低分子シロキサン量が12.5ppmであるが、熱可塑性樹脂100質量部に対して無機難燃粉体94質量部表面を低分子シロキサン(ケイ素数2〜10)量が400ppmのオルガノポリシロキサン6質量部で加圧処理した難燃粉体(マスターバッチ)100質量部とを加熱混練し作製した難燃樹脂組成物は、測定される低分子シロキサン量が0.3ppmとなることを確認した。
このことは、低分子シロキサン量を低減したオルガノポリシロキサンを他の原料と共に単に加熱混練した組成物は、表面から揮散する低分子シロキサン量を10ppm以下に抑えることは難しいが、低分子シロキサン量を低減したオルガノポリシロキサンを難燃粉体に加圧混練したマスターバッチとして熱可塑性樹脂と加熱混練した樹脂組成物は、揮散する低分子シロキサン量を大幅に少なくすることができることを意味している。
さらに検討を進めた結果、熱可塑性樹脂100質量部に対して無機難燃粉体表面を低分子シロキサン量が2,000ppm以下のオルガノポリシロキサンで表面を加圧混練処理した難燃粉体(マスターバッチ)10〜200質量部とを加熱混練し作製した難燃樹脂組成物は、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を10ppm未満に低減させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の難燃樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、下記難燃粉体を10〜200質量部配合したものである。この配合処方によって、樹脂中における良好な分散性が得られると共に、優れた難燃性が樹脂組成物に対して付与され、さらに、該難燃樹脂組成物を75℃、10分間、ヘリウム気流中で加熱し、発生するケイ素数2〜10の低分子シロキサン量をパージ・トラップガスクロマトグラフ質量分析装置(P&T−GC/MS)で測定した場合、該低分子シロキサン量を10ppm未満とすることができる。
平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンにより無機難燃粉体を加圧条件下で混練して表面処理してなる難燃粉体であって、上記オルガノポリシロキサンが、アセトン抽出により定量されるケイ素数2〜10の低分子シロキサンを2,000ppm以下含有することを特徴とする難燃粉体。

(式(1)中、R1は炭素数1〜10の一価炭化水素基及び水酸基から選ばれる同種又は異種の置換基である。nはオルガノポリシロキサンの重量平均分子量100,000〜3,500,000を満たす数である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の難燃粉体は、樹脂中における分散性が良好であり、また、優れた難燃性を樹脂に付与することができることに加えて、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を10ppm未満に低減させることができる。そのため、クリーンルーム内等において、低分子シロキサンによる接点不良等の障害のない成型材料の製造を可能とする。
本発明の上記効果は、前記したように、無機難燃粉体を上記オルガノポリシロキサンで表面処理することによって得ることができ、この無機難燃粉体を熱可塑性樹脂に配合した難燃性樹脂組成物は、樹脂から揮散する低分子シロキサン量を10ppm未満に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
前記したように、本発明の難燃粉体は、無機難燃粉体を所定のオルガノポリシロキサンで表面処理してなるものである。
本発明で使用する無機難燃粉体としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、四酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、炭酸カルシウム、シリカ、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、タルク、アクリルシリコーンパウダー、酸化チタン、ろう石、石英、けいそう土、硫化鉱、硫化焼鉱、黒鉛、ベントナイト、カオリナイト、活性炭、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄、大理石、澱粉、木粉、綿じん、革粉、コルク粉、ベークライト、ポートランドセメント、SiO2パウダー、窒化ホウ素、合成マイカ、ガラスビーズ、マイカ、セリサイト、各種プラスチック粉砕物、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、各種リン系難燃剤、膨脹性黒鉛、シアヌール酸メラミン、スルファミン酸グアニジン、光酸化チタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、特に金属水酸化物が優れており、中でも水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムが好ましい。
また、上記した無機難燃粉体は、未処理のものであっても、あるいは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、チタネートカップリング剤、シランカップリング剤、熱可塑性樹脂等の表面処理剤で処理されているものであってもよい。
【0009】
本発明で使用する無機難燃粉体の体積平均粒子径は、得られる難燃粉体の分散性を良好にする上で0.01〜10μmが好ましく、特に好ましくは0.01〜5μm、最も好ましくは0.1〜3μmである。この体積平均粒子径は、コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター社製、商品名)による電気抵抗法で測定される。
【0010】
本発明で使用するオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンである。

(式(1)中、R1は炭素数1〜10の一価炭化水素基及び水酸基から選ばれる同種又は異種の置換基である。nはオルガノポリシロキサンの重量平均分子量100,000〜3,500,000を満たす数である。)
上記式(1)のR1を構成する一価炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;アリル基、プロペニル基、ブテニル基等の不飽和アルキル基;ベンジル基、フェネチル基、β−フェニルプロピル基等のアラルキル基が例示される。
【0011】
本発明で使用するオルガノポリシロキサンは、アセトン抽出により定量されるケイ素数2〜10の低分子シロキサンを2,000ppm以下含有するものであることを要する。上記低分子シロキサンの総量が2,000ppmを超えるオルガノポリシロキサンを使用すると、難燃化効果が低下したり、揮散する低分子シロキサン量が10ppm以上になる場合がある。ケイ素数2〜10の低分子シロキサンの定量は、アセトンを溶媒として抽出し、その抽出液をガスクロマトグラフィーで測定する。なお、上記低分子シロキサンには、環状体及び非環状体の両方を含む。
【0012】
オルガノポリシロキサンからケイ素数2〜10の低分子シロキサンを除去して、オルガノポリシロキサンに含有される該低分子シロキサンの総量を2,000ppm以下にする方法としては、例えば、(1)低分子シロキサンを溶解し、分子量1,000以上のオルガノポリシロキサンに対しては不溶であるアセトン、メタノール、エタノール等の有機溶剤で洗浄する方法、(2)オルガノポリシロキサンを高温条件下で長時間減圧ストリップする方法、を挙げることができる。
【0013】
本発明で使用するオルガノポリシロキサンの分子量は、特に限定されるものではないが、分子量が大きすぎても、あるいは、小さすぎても、樹脂中における分散性、及び難燃化効果が不十分になるため、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量を100,000〜3,500,000、特に200,000〜1,000,000の範囲とすることが好ましい。
【0014】
本発明の難燃粉体の製造方法としては、加圧条件下で混練を行うことができる加圧型ミキサー、加圧ニーダー等を用いて、上記オルガノポリシロキサンと無機難燃粉体の混合分散を加圧条件下で行い、無機難燃粉体をオルガノポリシロキサンで表面処理する方法が挙げられる。その際の圧力は0.1MPa以上であることが好ましく、0.5MPa以上であることが更に好ましい。圧力の上限は適宜選定されるが、通常10MPa以下である。加圧できないタイプの混練機では、1時間以上混練を行ってもオルガノポリシロキサンの塊が残るだけでなく、得られた粉体の体積平均粒子径を核となる無機難燃粉体の体積平均粒子径の10倍以下にすることは困難であり、また、得られた粉体を樹脂に添加すると、樹脂組成物表面へのオルガノポリシロキサンのブリードが起こりやすく、その結果、検出される低分子シロキサン量が10ppm以上になる場合があり、また、最終的に得られる成型物の難燃性も十分ではない。
上記混練の処理時間は30分未満とし、処理温度は0〜80℃、特に10〜50℃が適しており、通常は室温でよい。
【0015】
本発明に係る難燃粉体においては、上記オルガノポリシロキサンの量が上記無機難燃粉体の質量に対して1〜30質量%、特に2〜20質量%であることが好ましく、さらに好ましい範囲は5〜15質量%である。1質量%未満の場合は、無機難燃粉体の表面処理が十分に行われないため、樹脂への分散性が悪くなり、難燃化効果が低下する。一方、30質量%を超える場合は、難燃粉体が塊状となり、樹脂への分散が悪くなり、難燃樹脂組成物の物性、特に引張強度や伸びを低下させるので好ましくない。
【0016】
本発明の難燃粉体の体積平均粒子径は0.1〜10μm、特には0.5〜5μmであって、原料である無機難燃粉体の体積平均粒子径の10倍以下であることが好ましい。難燃粉体の体積平均粒子径が10μmより大きいと、樹脂中での分散が不均一となり、また、難燃樹脂組成物の引張強度や伸び等の機械的物性及び難燃性が低下する場合があり、0.1μm未満であると、樹脂中における分散性、及び難燃化効果が不十分になる場合がある。さらに、本発明の難燃粉体の体積平均粒子径が無機難燃粉体の体積平均粒子径の10倍を超えると、樹脂中における分散性、及び難燃化効果が低下する場合がある。なお、本発明の難燃粉体及びその原料である無機難燃粉体の体積平均粒子径の測定は、コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター社製、商品名)にて行う。
【0017】
本発明の難燃樹脂組成物は、上記した難燃粉体を熱可塑性樹脂100質量部に対して10〜200質量部、好ましくは20〜180質量部配合することにより得られるものである。難燃粉体が10質量部未満では十分な難燃性が発揮されないため好ましくなく、200質量部より多いと組成物が硬く、もろくなるため好ましくない。
かかる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネートとポリフェニレンエーテルを除く以外は、特に限定されるものではなく、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン系エラストマー、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸アミド共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、アイオノマー等の各種熱可塑性エラストマー、ポリスチレン、スチレン系熱可塑性エラストマー、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。熱可塑性樹脂は、単独でも2種以上の併用でも構わない。
上記に挙げた熱可塑性樹脂の中でも、特に、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体は難燃性(酸素消費指数)が他の樹脂よりも高くなるので好ましい。
【0018】
本発明の難燃粉体には、その特性を阻害しない範囲で、その目的に応じて添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、安定剤、光安定剤、相溶化剤、接着助剤、流動性改質剤、滑剤、充填剤等を挙げることができる。
【0019】
本発明において使用可能な上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチルメチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレンジホスホナイト、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルデシル)クロマン−2−オール、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタン等が挙げられる。
【0020】
本発明において使用可能な上記安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等の各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系及びメルカプト系の各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油等のエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイト等のホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸等のβ−ジケトン化合物、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等のポリオール、ハイドロタルサイト類やゼオライト類等を挙げることができる。
【0021】
本発明において使用可能な上記光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
【0022】
本発明において使用可能な上記相溶化剤としては、アクリル−オルガノポリシロキサン共重合体、シリカとオルガノポリシロキサンの部分架橋物、シリコーンパウダー、MQレジン、無水マレイン化グラフト変性ポリオレフィン、カルボン酸化グラフト変性ポリオレフィン、ポリオレフィングラフト変性オルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0023】
本発明において使用可能な上記接着助剤としては、各種アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0024】
本発明において使用可能な上記流動性改質剤としては、ケイ酸、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラック、カオリンクレー、焼成クレー、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等を挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において、部はいずれも質量部である。
【0026】
[実施例1〜5、比較例1〜13]
(オルガノポリシロキサン処理難燃粉体No.1〜4の調製)
表1に示した所定量の各原料を加圧型のラボプラストミルR200ミキサー(東洋精機社製、商品名)に入れ、0.5MPaの加圧下及び室温下において、撹拌速度100rpmで5分間混合してオルガノポリシロキサン処理粉体を調製した。
得られた各粉体について、体積平均粒子径(μm)を以下の測定方法により測定した。また、手による触感から粉体中におけるジメチルポリシロキサンの塊の有無を測定し、これによりジメチルポリシロキサンの分散状態を評価した。結果を表1に示す。
【0027】
(体積平均粒子径の測定方法)
粉体0.1部に対して、ノニオン系界面活性剤0.6部と水20部を加え、超音波振動機等を用いて粉体を分散した後、コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター社製、商品名)を用いて測定を行った。
【0028】
【表1】

無機難燃粉体:脂肪酸処理水酸化マグネシウム(キスマ5A:協和化学社製、商品名、平均粒子径1.3μm)
ジメチルポリシロキサンA:重合度3,400、重量平均分子量約251,000のジメチルポリシロキサンでアセトン抽出による低分子シロキサン量(ケイ素数2〜10の環状体及び非環状体の総量)が400ppm(信越化学工業社製)
ジメチルポリシロキサンB:重合度3,500、重量平均分子量約259,000のジメチルポリシロキサンでアセトン抽出による低分子シロキサン量(ケイ素数2〜10の環状体及び非環状体の総量)が1,900ppm(信越化学工業社製)
ジメチルポリシロキサンC:重合度3,500、重量平均分子量約259,000のジメチルポリシロキサンでアセトン抽出による低分子シロキサン量(ケイ素数2〜10の環状体及び非環状体の総量)が20,000ppm(信越化学工業社製)
【0029】
(オルガノポリシロキサン加圧処理難燃粉体の評価)
次に、表2に示した所定量の各成分を、前記ラボプラストミルにて、150℃、5分間、30rpm、加圧なし、及び加圧有り(0.5MPa)の条件で混合し、コンパウンドとした後、このコンパウンドを150℃、1分間、30MPaの条件下でプレス成形することにより、サンプル片を作製した。比較例5については、オルガノポリシロキサン処理難燃粉体を用いず、各原料(エバフレックス460、キスマ5A及びジメチルポリシロキサンA)をラボプラストミルにて、150℃、5分間、30rpmの条件下で混合した後、150℃、1分間、30MPaの条件下でプレス成形することにより、サンプル片を作製した。これらのサンプル片を用いて、難燃性及び低分子シロキサン量の評価を以下のようにして行った。結果を表2に示す。
【0030】
(難燃性の評価)
各サンプル片の酸素消費指数(OI)をJIS K 7201により測定した。難燃性の判定は、OI 45以上を合格、45未満を不合格とした。
【0031】
(低分子シロキサン量の評価)
各サンプル片20mgをヘリウム気流中(50ml/分)で75℃、10分間加熱し、発生してきたガスをパージ・トラップガスクロマトグラフ質量分析装置(P&T−GC/MS)(QP−5050A、島津製作所社製、商品名)で分析することにより、揮散する低分子シロキサン量(ケイ素数2〜10の環状体及び非環状体の総量)を測定した。低分子シロキサン量の判定は、低分子シロキサン量が10ppm未満を合格、10
ppm以上を不合格とした。
【0032】
【表2】

熱可塑性樹脂:酢酸ビニル含有量20%のEVA樹脂(エバフレックス460:三井デュポンポリケミカル社製、商品名)
【0033】
表2の結果からわかるように、本発明の難燃粉体を用いた実施例1〜5では、難燃性及び低分子シロキサン量のいずれの評価においても良好な結果が得られた。それに対し、本発明の難燃粉体を用いていない比較例1〜13では、難燃性又は低分子シロキサン量のいずれかの評価において良好な結果が得られなかった。このように、本発明の難燃粉体を用いることにより、低分子シロキサンフリーの難燃樹脂組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、下記に記載する難燃粉体を10〜200質量部配合した難燃樹脂組成物。
平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンにより無機難燃粉体を加圧条件下で混練して表面処理してなる難燃粉体であって、上記オルガノポリシロキサンが、アセトン抽出により定量されるケイ素数2〜10の低分子シロキサンを2,000ppm以下含有することを特徴とする難燃粉体。

(式(1)中、R1は炭素数1〜10の一価炭化水素基及び水酸基から選ばれる同種又は異種の置換基である。nはオルガノポリシロキサンの重量平均分子量100,000〜3,500,000を満たす数である。)
【請求項2】
オルガノポリシロキサンの量が、無機難燃粉体に対して1〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃樹脂組成物。
【請求項3】
体積平均粒子径が0.1〜10μmであり、無機難燃粉体の体積平均粒子径の10倍以下である請求項1記載の難燃粉体。
【請求項4】
無機難燃粉体が、金属水酸化物からなる請求項1又は2記載の難燃粉体。

【公開番号】特開2007−321142(P2007−321142A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112034(P2007−112034)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】