低分子ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布
【課題】縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーから低分子ポリマーを簡単に得ることができ、さらに高分子ポリマーと金属とを組み合わせた製品であっても、分離作業を必要としないで低分子ポリマーを得ることができる、低分子ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を提供すること。
【解決手段】縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とする。
【解決手段】縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーは、タイヤ、シート、パイプ材料、電線やケーブルの被覆材料をはじめとして広範な分野に利用されている。
【0003】
しかし、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマー、例えばポリエステルやポリウレタンといった高分子ポリマーの場合、使用後の多くは、埋め立てるか焼却処分するかのいずれかの処分がなされていた。
【0004】
しかし、埋め立ての場合、第1に埋め立て用地の確保が難しいという問題があり、粉砕などにより減容して埋め立て効率を高める場合、粉砕などに多額の費用が発生するという問題があった。
【0005】
使用後の高分子ポリマーを焼却する場合は、焼却時に人体や環境に有害なガスが発生したり、そのガスによって焼却炉が損傷するという問題もあった。
【0006】
このような高分子ポリマーについても再生利用を目的とした検討がなされており、例えばポリウレタンフォーム廃材をその密度別に分別し、粉砕してチップとし、所定の密度の再生成形品を得るように該分別廃材チップから密度の異なる2種もしくはそれ以上の廃材チップの組合せとして選択し、該組合せチップにバインダーを塗布した後、これを金型内に充填し、成形する、再生方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、上記再生品を得るには、廃材の分別、粉砕、粉砕後の廃材チップの組合せ、バインダーの塗布、及び成形といった多数の工程を必要とし、再生コストが高いため、実用化に至っていないのが現状であった。
【0008】
また、電線、ケーブル、タイヤなど、高分子ポリマーと金属とを組み合わせたものを廃棄する場合、ポリマーの部分と金属の部分とを分離しなければならないところ、その分離作業には多くの手間と費用を必要とし、分離しないまま焼却処分し、焼け残った金属の部分のみを再利用するという方法が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−238604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような技術的課題に鑑みなされたものであり、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーから低分子ポリマーを簡単に得ることができ、さらに高分子ポリマーと金属とを組み合わせた製品であっても、分離作業を必要としないで低分子ポリマーを得ることができる、低分子
ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1〜7記載の発明は、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断して、ポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることを特徴とする低分子ポリマーの製造方法をその要旨とした。
【0012】
請求項1〜7記載の方法により得られる低分子ポリマーとは、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーにおける、前記−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合が切断されて、ポリマーの分子量が結合切断前の90%以下とされた、例えばモノマー或いはオリゴマーのレベルにまで分解されたポリマーをいう。
【0013】
請求項8及び9記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法により得られる低分子ポリマーを提案し、請求項10〜13記載の発明は、その低分子ポリマーを用いたことを特徴とする塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を提案するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低分子ポリマーの製造方法によれば、高温高圧下で水と接触させるという簡単な処理で、使用済みの分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを結合切断前の90%以下のモノマーやオリゴマーのレベルに分解することができる。このため、大規模な処理設備を必要とせず、低分子ポリマーの製造に必要なエネルギー、手間並びにコストを大幅に削減することができる。また、本発明の方法には有機溶剤や触媒などを用いないため、環境に悪影響を与えることもない。また、本発明の方法によれば、使用済みの高分子ポリマーを結合切断前の90%以下のレベルに分解することができ、得られる低分子ポリマーは、そのままで或いは架橋剤と混合することで再生重合原料として利用することができる。また、本発明の方法によれば、高分子ポリマーと金属とを組み合わせた製品を再生処理する場合でも、分離作業を必要としないで低分子ポリマーを得ることができる。洗浄工程も不要である。
【0015】
また、本発明の低分子ポリマーの製造方法は、未使用の高分子ポリマーをその用途や要求される性能(性質)に応じた分子量に調整する新規な方法を提案するものでもある。つまり、未使用の分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させて、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することにより、結合切断前の90%以下の要求される性能(性質)に応じた分子量を持つ低分子ポリマーを触媒不存在下で、しかも高温高圧下で水と接触させるという簡単な処理で製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PETの分解物の分析手順を示した模式図。
【図2】高温高圧下で水と接触させる処理(200℃、1.6MPa)の処理時間による外観の変化を示す写真。
【図3】高温高圧下で水と接触させる処理(200℃、1.6MPa)の処理時間による粒径サイズの変化を示すグラフ。
【図4】PETの分解物表面の状態を示す電子顕微鏡写真。
【図5】テレフタル酸の表面の状態を示す電子顕微鏡写真。
【図6】処理時間によるTG曲線の変化を示すグラフ。
【図7】処理時間(200℃、1.6MPa)によるDSC曲線の変化を示すグラフ。
【図8】PETの結晶構造を示す模式図。
【図9】高温高圧下で水と接触させる処理によるPETのX線パターンの変化を示すグラフ。
【図10】高温高圧下で水と接触させる処理によるCP/MAS13C−NMRスペクトルの変化を示すグラフ。
【図11】GPCによる分子量および分子量分布の測定結果を示すグラフ。
【図12】未処理PETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図13】30分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図14】60分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図15】120分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図16】180分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図17】240分間処理をしたPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図18】30分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図19】60分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図20】120分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図21】240分間処理したPETの固体部分(固体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図22】処理時間と温度による数平均分子量変化を示すグラフ。
【図23】処理時間と温度によるテレフタル酸(TPA)の比率を示すグラフ。
【図24】処理時間(200℃)による水酸基価および酸価の変化を示すグラフ。
【図25】処理時間(225℃)による水酸基価および酸価の変化を示すグラフ。
【図26】240分間処理したPETの液体部分(液体1)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図27】処理時間によるPETボトルの変化(200℃、1.6MPa)を示す写真。
【図28】PETおよびPETの分解物を用いたエポキシ化合物の粘弾性(tanδ)を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の低分子ポリマーの製造方法(以下、単に方法という)、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布について、更に詳しく説明する。
【0018】
本発明は、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを、結合切断前の90%以下のモノマーやオリゴマーのレベルに分解することができる、新規な低分子ポリマーの製造方法を提案するものである。
【0019】
本発明の方法によって処理される高分子ポリマーは、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つものである。具体的には1種のモノマーを重合させたポリマー、或いは複数種のモノマーを共重合させた共重合ポリマーにより構成される鎖状、或いは網目状構造を持ち、かつ分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持っているものである。さらに具体的には、エステル、ウレタン、エーテル、イミド、アミド、尿素、カーボネートからなる群から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上を主たる結合として分子の直鎖に持つポリマーを挙げることが
できる。
【0020】
尚、本発明の方法によって処理される高分子ポリマーの範疇には、該高分子ポリマーの成形物、電線、ケーブル、タイヤなど、架橋ポリマーまたは高分子ポリマーと金属とを組み合わせた複合物が含まれる。
【0021】
次に、上記高分子ポリマーを高温高圧下で水を接触させることについて説明する。本発明の方法において、高分子ポリマーは、高温高圧下、好ましくは100℃ 以上、0.1MPa以上の条件下で水と接触される。水は飽和水蒸気となって高分子ポリマーと接触し、該高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断するよう作用する。接触時における温度と圧力が、100℃未満、0.1MPa未満の場合、ポリマーの分解が効果的に進行しないばかりか、処理時間が長くなり、却ってエネルギーコストが高くなることになる。
【0022】
接触時における温度と圧力の条件は、より好ましくは400℃、0.2〜3.0MPaである。この場合、該高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合の切断作用がより効果的に進行し、処理時間を短縮することができ、エネルギーコストの低減化を図ることができるというメリットを有する。
【0023】
また、高分子ポリマーを高温高圧下で水を接触させる時間は、ポリマーの種類、処理する体積の多少、高分子ポリマーが成形物の場合、その大きさや形状に応じ、適宜変更して行うのがよい。具体的は1〜300分が好ましく、より好ましくは30〜250分間である。接触時間が1分を満たない場合、高分子ポリマーと水との接触が不十分となり、高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合が切断されないか、若しくは結合が切断されたとしても不十分な分解となる。接触時間が300分を上回る場合には、接触時間が多くなっても、分解はそれ以上進行しないため、処理自体が無駄となる。
【0024】
本発明の方法は、高分子ポリマーを例えば100℃ 以上、0.1MPa以上といった高温高圧下で水と接触させて行うことから、使用する反応器には、このような温度及び圧力に十分に耐え、かつポリマーの投入並びに排出が容易なものが望ましい。具体的には反応器内でポリマーと水が十分に接触するように、水(水蒸気)の流れが乱流になるものが望ましい。
【0025】
尚、反応器への水(高圧水蒸気)の供給方法としては、例えば反応器内の水を加熱して圧力を上げるオートクレーブのような方法のほかに、強制循環ボイラ、立てボイラ、炉筒ボイラ、自然循環ボイラなどのボイラを使用する方法を採ることができる。
【0026】
本発明の方法により得られる低分子ポリマーは、ポリマーの種類、条件(温度、圧力、接触時間)によって、液状、ペースト状、或いは粒状といった形態となる。
【0027】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、そのままで、或いはジイソシアネート、ビスウレタン、ジアミン、ジカルボン酸、二塩素酸誘導体などの架橋剤と混合することで再生重合原料として利用することができる。
【0028】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーの分子中には、水酸基やアミノ基などの反応基が存在する。これらの反応基は該低分子ポリマーを再生重合原料として再反応させるとき、或いは架橋剤を混合した混合物を再生重合原料として、これら低分子ポリマー及び架橋剤を反応させるときに、これら再反応又は低分子ポリマー及び架橋剤の反応における反応量を決定する機能を持つ。
【0029】
すなわち、本発明の方法で得られた低分子ポリマーをそのままで、或いは低分子ポリマーに架橋剤を混合して、これらを再生重合原料として再生重合物を製造する場合、低分子ポリマーに含まれる反応基の量の分だけ、再反応又は低分子ポリマーと架橋剤との反応が生じるため、その量が少なければ少ないほど、再生重合物を得るのに必要な反応時間は短縮され、架橋剤量も少なくなるのである。反対に反応基量が多ければ多いほど、再生重合物を得るのに必要な反応時間は長くなり、架橋剤量も多くなるのである。
【0030】
このような作用効果を有する反応基は、高分子ポリマーを高温高圧の条件下で水と接触させることにより、高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−結合が切断されるときに生じるため、温度や圧力の条件を適宜変更することで、反応基の量をコントロールすることができるのである。つまり、温度及び圧力が低く、接触時間が短いときは、ポリマーの低分子化、分解は進行しないため、得られる低分子ポリマーにおける反応基の量も少なく分子量も大きくなる。一方、温度及び圧力を高くし、接触時間を長くしたとき、ポリマーの低分子化(分解)は効果的に進行し、得られる低分子ポリマーにおける反応基の量も多くなり分子量も小さくなるのである。
【0031】
例えばポリウレタンからなる高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させたとき、得られる低分子ポリマーの分子中には水酸基やアミノ基が存在し、これらの反応基は水酸基価及びアミン価として現れる。これら水酸基価及びアミン価の大小に従って、架橋剤、すなわちジイソシアネート量を適宜増減させて低分子ポリマーに混合することで、新たなポリウレタン成形物が得られるのである。
【0032】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、これを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を製造することができる。まず、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを用いた塗料について説明する。上述の如く本発明の方法により得られる低分子ポリマーは、ポリマーの種類、条件(温度、圧力、接触時間)によって、液状、ペースト状、或いは粒状といった形態となる。本発明の方法により得られる低分子ポリマーを塗料に適用する場合には、粒状の形態を持つ低分子ポリマーが望ましい。
【0033】
塗料に適用する低分子ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られるものが好ましく、これらの低分子ポリマーを塗料の塗膜形成用樹脂として用いるのである。また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーをメインバインダー樹脂として用いる塗料には、溶剤のほかに着色顔料、防錆顔料、体質顔料を含む各種顔料、分散剤、消泡剤、レベリング剤といった各種添加剤を添加することができる。塗料の調製は、上記成分をプロペラ型攪拌機、ホモジナイザーなど従来公知の混合機を用いて混合することによって、容易に行うことができる。
【0034】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、溶剤を使用しないで、基材に塗布した後、焼き付けで硬化させることで、基材表面に塗膜を形成することができる粉体塗料に適用することもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを粉体塗料に適用する場合、塗料に適用する場合と同じく、使用する低分子ポリマーは、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる粉粒状のものが好ましく、これらの低分子ポリマーを塗料の塗膜形成用樹脂として用いるのである。
【0035】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーを粉体塗料に適用する場合、該粉体塗料は、低分子ポリマーからなる粉体樹脂及び硬化剤のほかに、必要に応じて着色顔料をミキサーでドライブレンドすることで得ることができる。また、ドライブレンドした後、2軸エクストルーダー等の混練機を使用して加熱溶融混練し、冷却、粉砕して製造することもできる
。
【0036】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、これを接着成分として用いることもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを接着剤の接着成分として用いる場合、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる低分子ポリマーを用いるのが好ましい。また、接着剤には、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなる接着成分のほかに、必要に応じて、保湿剤、染料、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤などの添加剤を、接着成分の効果を阻害しない限度において、適宜添加することができる。接着剤の調製は、プロペラ型攪拌機、ホモジナイザーなど従来公知の混合機を用いて混合することによって、容易に行うことができる。
【0037】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは不織布の構成繊維相互を結合するバインダー成分として用いることもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーをバインダー成分として用いる場合、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる低分子ポリマーを用いるのが好ましい。本発明の方法で得られた低分子ポリマーをバインダー成分として用いる不織布の構成繊維としては特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維、ポリビニルアルコール繊維、及び合成パルプなどの合成繊維の他、レーヨンなどの半合成繊維、綿及びパルプ繊維などの天然繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、金属繊維などの無機繊維などを単独で、或いはこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0038】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなるバインダー成分には、充填剤、難燃剤、着色剤、耐光剤、抗菌剤、帯電防止剤等も添加することができる。
【0039】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料として用いることもできる。紡糸材料として用いる場合、低分子ポリマーには、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミド、及びポリカーボネートなどの架橋ポリマーまたは高分子ポリマーから得られるものを用いるのが好ましい。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料として用いる繊維としては特に限定されないが、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料の全部として溶融紡糸 、乾式紡糸又は湿式紡糸により形成された繊維、或いは、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料の一部として、他の紡糸材料と混合して溶融紡糸 、乾式紡糸又は湿式紡糸により形成された繊維を挙げることができる。
【0040】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなる紡糸材料には、充填剤、難燃剤、着色剤、耐光剤、抗菌剤、帯電防止剤等も添加することができる。
【0041】
尚、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」に記載された範囲で自由に変更して実施することができる。
【実施例】
【0042】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)のリサイクル
PETは、熱可塑性ポリエステルの代表的な樹脂で、テレフタル酸とエチレングリコールが縮合し、エステル結合によって連鎖を形成した構造を持っている。
【化1】
【0043】
PETは、当初、繊維やフィルム用材料として使用されていたが、ブロー成形すると透明性、光沢性、剛性に優れたボトルが得られることがわかり、樹脂の価格の低下とともに清涼飲料容器などが多用されるようになってきた。日本では、PETボトルは1977年にしょうゆ業界に最初に採用され、5年後の1982年に厚生省により清涼飲料容器としての使用が許可され、その後PETボトルの使用量は大きく増大し、2005年のPETの消費量は約53万トンであり、1993年の約12万トンと比較すると、この12年で約4倍までに増大している。
【0044】
PETボトルのリサイクルは、自治体による分別収集と店頭回収の2種があるが、自治体回収の方が圧倒的に多いのが現状であり、自治体の回収コストの増加が問題となっている。回収されたPETボトルは、分別、洗浄、粉砕工程後、再生品の出発物質となっているフレーク、ペレットなどにされており、この段階にも大きなコストがかけられているのが現状である。
【0045】
また、従来のPETのケミカルリサイクルには、液体メタノール中で分解するメタノリシス法、液体のエチレングリコール中で分解するグリコリシス法、液体水中での加水分解法があるが、いずれも反応時間が5時間以上と長く、触媒が必要といった問題がある。さらに、触媒を使用せず、短時間でPETを分解する超臨界での研究も行われている。例えば、300℃、15MPaにて超臨界メタノールを使用した反応では、10分でPETは分解されるが、テレフタル酸ジメチルとしてモノマーが回収されるため、テレフタル酸への加水分解過程が必要となる。さらに、400℃、40MPaの超臨界水中でPETの加水分解を行うと、5分間で完全に分解し、モノマーであるテレフタル酸が高収率にて回収されている。一方、もうひとつのモノマーであるエチレングリコールは、テレフタル酸が酸触媒となりエチレングリコールの分解を促進するため収率が大幅に減少していた。超臨界水よりも条件が温和である300℃の亜臨界水では、10分でPETがほぼ完全に分解され、収率89%および93%でテレフタル酸とエチレングリコールを回収できたという研究報告もある。ただし、高圧高温に耐えうる設備は、3MPaを超えると、ボイラー、耐圧容器、バルブ、配管を特別に製造する必要があり、特に大型の装置になるほどコストが飛躍的に上がり実用性が低くなる。
【化2】
【0046】
本発明の方法は、高温高圧下で水と接触させる処理を利用したPETのリサイクル方法を提案するものであり、該方法によれば、酸やアルカリなどの触媒やエチレングリコール、メタノールなどの溶媒も使用することもなく、PETの加水分解を起こし、処理に必要な手間及びコストを大幅に削減できると考える。
【0047】
高温高圧下で水と接触させる処理には、日阪製作所株式会社製のバッチ式爆砕処理試験機を使用した。本装置は、耐圧3.0MPa、ボイラーは、株式会社タクマ製のTMO−300型で最高使用圧力3.0MPa、換算蒸発量300kg/hである。
【0048】
市販のPETボトルを、3cm×10cmに切断した試料を爆砕装置内に配置し、200℃(1.6Mpa)にて、30分、60分、120分、180分、240分、225℃(2.6Mpa)にて30分、60分、120分間、それぞれ高温高圧下で水と接触させる処理を行った。
【0049】
PETの高圧水蒸気処理条件
【表1】
【0050】
PET分解物の分析実験
走査電子顕微鏡(SEM)による表面観察
高温高圧下で水と接触させる処理による分解物の表面を観察するため、サンプルは、減圧乾燥した後、オスニウム蒸着しSEM(S−3000N、日立製)を用い、500倍にて観察した。
【0051】
レーザ回析による粒径分布測定
分散媒としてイソプロピルアルコールをLA−910(堀場製作所製)のフローセルに約200ml、さらに試料を透過光量が95〜70%となるよう加え、超音波分散を4分行い、粒径分布測定を行った。
【0052】
TGの測定
10mgのサンプルをプラチナパン(オーブン)に入れ、エスアイアイ・テクノロジー製EXSTAR−6000 TG/DTA6300にて、昇温速度10℃/minにて50℃から1000℃まで測定を行った。
【0053】
DSCによるガラス転移点、結晶化度、融点の測定
10mgのサンプルを、アルミパン(オーブン)に入れ、結晶化度を観測するため、HIRANUMA製電気炉にて、300℃で15分間加熱し、急冷した後、エスアイアイ・テクノロジー製 EXSTAR−6000 DSC6200にて、昇温速度5℃/minにて25℃から300℃まで測定を行った。
【0054】
XRDによる結晶化度の測定
高圧水蒸気処理をしたPET粉末の結晶化度を調べるために、XRD(RINT−Ultima lll/PCrigaku製)にて試料の測定を行った。ターゲットはCuを用いてX線源は、40kV/40mAとし、2θは、10〜40°の範囲で測定を行った。
【0055】
13C−NMRによる構造解析
日本電子ECA500にて、CP/MAS13C−NMRにてスペクトル測定を行った。
【0056】
固有粘度による分子量測定
200mgのサンプルを採取し、混合溶媒(フェノール:テクラクロロエタン=60:40)50mlを加え、90℃にて試料を溶解した。溶解液は、オストワルド粘度計に10ml計り取り、25℃に保温した後、試験溶液の流出時間を測定し、Mark−Houwink−sakuradaの式より分子量を求めた[11]。
[n]=K・Mα
K×104=7.44
α=0.648
【0057】
GPCによる分子量測定
試料2mgを0.4mlのクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)=3/2(v/v)に溶解後、7.6mlのクロロホルムで希釈して試料溶液を調整した(0.025%)。0.2nmのメンブランフィルターでろ過し、得られた試料溶液のGPC分析を以下の条件で実施した。
装置:Shodex GPC SYSTEM−21
カラム:TSKgelGMHXL ×2+TSKgel G2000HXL (TOSOH)
溶液:クロロホルム/HFIP=98/2(v/v)
流速:0.7ml/min
温度:40℃
検出器:UV(254nm)
分子量は、標準ポリスチレン換算で算出した。
【0058】
1H−NMRによる末端基の定量
BRUKER社AVANCE500にて、水酸基末端とカルボン酸末端を以下に示す溶媒を用い測定を行った。なお、200℃にて120分以上、225℃で30分以上処理したサンプルは、どちらの条件も完全に溶解せず白濁したため、遠心分離し、上清を測定した(図1の液体2)。
【0059】
(1)水酸基末端定量
試料7mgを秤量し、CDCl3/HFIP=1/1(v/v)0.3mlに溶解させ、更にCDCl3を0.3mlと重ピリジン30nlを加え、1H−NMR測定した。
(2)酸末端定量
試料7mgを秤量し、CDCl3/HFIP=1/1(v/v)0.3mlに溶解させ、更にCDCl3を0.3mlと0.2Mトリエチルアミンの重クロロホルム溶液を60nlを加え、1H−NMR測定した。
【0060】
収率の算出
(1)テレフタル酸の収率
240分間処理をしたPETの分解物の、1H−NMR溶媒への不溶物を遠心分離にかけ、沈殿物をフィルターろ過し、乾燥した後、重量を測定した(図1の固体2)。
(2)エチレングリコールの収率
240分間処理をした後、装置を室温まで冷やし、液体を回収した(図1の液体1)。ここに標準物質としてエチレンジアミン(20mg/ml)を加え、1H−NMRにて分析を行った。
【0061】
結果と考察
図2に示すように、高温高圧下で水と接触させる処理を行うと、PETはもろくなり、亀裂が入り、微粉状へと変化した。特に、120分以上処理をしたPETは、白い微粉状へと変化した。また、240分間処理したサンプルは、テレフタル酸の結晶にみられる光沢も観察できた。
【0062】
高温高圧下で水と接触させる処理により得られた粉体の粒径サイズの変化を確認するためレーザ回析による粒径分布測定を行い、処理時間ごとのメディアン径を図3に示した。処理時間が長くなるにつれ、粒子サイズが小さくなっていることが確認できる。
【0063】
また、PETおよび高温高圧下で水と接触させる処理を行ったサンプルは、走査電子顕微鏡(SEM)にて表面観察を行った。図4及び図5より、処理により表面から分解が起こっていることが判断できる。これは、高温高圧下で水と接触させる処理により水がPET表面を攻撃することでエステル結合の加水分解を促進していると考えられる。それは、高温高圧下で水と接触させる処理において、温度の上昇に伴いイオン積も増し(logKw≒−11)、イオン積が通常の水のおよそ1000倍と高く、下記化学式に示すように[H+]によるカチオノイド反応と、[OH-]によるアニオノイド反応が同時に起こる強調反応が起こると考えられている。
【化3】
【0064】
また、240分間処理を行ったサンプルは、PET原料であるテレフタル酸と同等のサイズまで分解されていることも確認できた。さらに、分解物の特性を確認するため、熱分析を行った。TGの測定結果を図6および表2に示す。図6に示すように、TG曲線の最初の重量変化点をT1、2番目の重量変化点をT2とした。TG曲線よりPETの分解温度は409.4℃、テレフタル酸は305.0℃、120分および180分間処理したサンプルは、PETとテレフタル酸の両方の分解点を持つことが分かる。
TGによる重量変化点の温度
【表2】
【0065】
DSCによるガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、融解開始温度(Tim)、および融点(Tm)の測定結果を図7および表3に示す。高圧水蒸気処理時間が120分までは、ガラス転移点(72.1℃→65.9℃)、結晶化温度(125.6℃→97.0℃
)、融解開始温度(223.4℃→181.6℃)、および融点(247.6℃→237.1℃)は、低温側にシフトしている。これは、分解が進み、低分子化が起こっているためと考える。また、融解の吸熱ピークが、処理時間が増すことにブロード化している。これは、加水分解により、分子量が異なる分解物が現われ、分子量の分布が広がっていることを示唆している。なお、180分間処理を行ったサンプルは、異なるDSC曲線を示すのは、低分子化がさらに進み、モノマーとなったエチレングリコールが固体部分から除かれ、分子の構成が異なってきたことが原因と判断する。また、240分間高圧水蒸気処理を行ったサンプルは、テレフタル酸と同様のDSC曲線を示している。
DSCによる処理時間における熱特性変化
【表3】
【0066】
結晶化度の測定
PETは、図8に示すように、ベンゼン環とエチレン鎖がエステル結合で結ばれた繰り返し単位を持ち、結晶構造は空間軍P1−Ci1に属する三斜晶系である。結晶内では、カルボニル基とベンゼン環がほぼ平面を形成している。
【0067】
そこで、高温高圧下で水と接触させる処理による結晶化度の変化を観るため、XRDを測定し、その結果を図9に示した。30分、60分間処理を行うと、2θ=18°、23°、26°のピークが増加している。これらは、PETの(100)、(010)、(110)面のピークであり、PETは処理によって結晶化度が高くなることがわかった。また、180分間処理を行ったものは、2θ=17.4°および27.9°のピークが増加している。これらのピークは、テレフタル酸の(110)面および(200)面のピークであることから、モノマーであるテレフタル酸まで分解が起こっていることを示唆している。
【0068】
また、240分間処理をしたサンプルは、モノマーであるテレフタル酸と同じパターンが得られ、X線回析からもPETはモノマーまで分解されることがわかる。
【0069】
13C−NMRの測定結果を図10に示す。高温高圧下で水と接触させる処理を120分以上行ったサンプルは、カルボン酸のカルボニル炭素シグナル(172ppm)が確認され、エステルを隣に持つメチレン炭素のシグナル(61ppm)の減少および、水酸基を隣に有するメトキシ炭素のシグナル(67ppm)の出現により、エステル結合が分解されたことが認められる。さらに、240分間処理を行ったサンプルは、エチレン炭素のシグナルが確認できなかった。これは、処理によりPETがモノマーまで分解されたエチレングリコールが固体から除かれたこと、また、DSCやX線回析結果と同様に、テレフタル酸であることを示している。また、カルボン酸のカルボニル炭素シグナル(172ppm)が、芳香族よりも強度が小さいのは、4級炭素であるため緩和時間が長くなること、
また、オーバーハウザー効果の影響が小さいためである。
【0070】
さらに、エステル結合が分解されるにつれ、C2(134ppm)は高磁場シフトし、C3(130ppm)は低磁場シフトし、最終的にはピークが重なっている。
0分:δ164(COO),133(aromatic C adjacent to
the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
30分:δ163(COO),133(aromatic C adjacent to the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
60分:δ163(COO),133(aromatic C adjacent to the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
120分:δ172(COOH),163(COO),134(aromatic C),67(HOCH2),61(COOCH2)、
180分:δ172(COOH),131(aromatic C),67(HOCH2),61(COOCH2)、
240分:δ173(COOH),131(aromatic C)。
【0071】
また、固有粘度による分子量測定の結果を表4に示す。高温高圧下で水と接触させる処理により、重量平均分子量は、41000から500に減少していることが分かる。なお、処理を120分以上行ったサンプルは、PETの固有粘度測定に使用されている溶媒には不溶で白濁するため、測定しなかった。このことからも、処理時間を長くすることによって、溶解度が異なるところまで低分子化が起きていることが推測できる。
【0072】
さらに、GPCによる分子量および分子量分布の分析を行い、その結果を表4および図11に示した。30分間処理したサンプルは、PDIが10.9と大きくなっており、分子量分布の広がりが分かる。GPC分析においても、60分以上処理したサンプルは、溶媒に完全に溶解しなかったこと、また、処理サンプルが低分子量のため標準物質がなく、測定ができなかった。そこで、1H−NMRの積分値より数平均分子量を求めた。
高温高圧下で水と接触させる処理(200℃)を行った
PETの分子量測定結果
【表4】
【0073】
1H−NMRの測定結果を図12〜図21に示す。また、数平均分子量の算出は、以下の式に従い算出した。なお、イソフタル酸とジエチレングリコールも存在するが、微量のため計算に含めなかった。
【数1】
【0074】
数平均分子量の算出結果を、表4に、200℃および225℃の数平均分子量の違いを図22に示した。また、200℃では120分以上、225℃では30分以上処理を行ったサンプルは、1H−NMR溶媒に完全に溶けなかった。そこで、各サンプルを遠心分離にかけ、溶解部分(液体2)と不溶解部分(固体2)に分離し、溶解部分のみの測定を行った。1H−NMRより算出した数平均分子量は、GPCの結果よりも低く算出されたが、低分子化する傾向は同じである。また、200℃では180分以上処理を行ったPETは、テレフタル酸(M:166.1)と同等程度まで低下している。
【0075】
遠心分離によって得られた沈殿物(固体2)は、1H−NMRスペクトル(図20)が示すように、テレフタル酸であることが分かった。テレフタル酸の割合は、処理条件が長くなるにつれ増加し、200℃では240分、225℃では120分間処理をしたサンプルでは90%を占めた。(図23)
【0076】
これらの結果より、225℃での処理は、200℃の処理と比較し、反応速度が2倍であることを示している。さらに1H−NMRの積分値より、水酸基および酸基の定量を行った。算出結果を図24及び図25に示す。処理時間を長くすることにより、水酸基とカルボキシル基の量が増加していることがわかる。ただし、200℃では120分、225℃では30分以上処理すると、水酸基末端量が低下している。これは、モノマーまで分解されたエチレングリコールが固体分から分離することに起因すると判断される。この結果からも、高温高圧下で水と接触させる処理により、PETは、ポリマーがオリゴマーへ、さらにはモノマーにまで分解されていることが認められた。
【0077】
高温高圧下で水と接触させる処理後、装置を室温に戻し液体部分を回収し(液体2)、重水にて1H−NMRにて分析した。図26より、液体2にエチレングリコールが含まれていることを確認した。さらに、標準物質として加えたエチレンジアミンとの積分値から
、エチレングリコールの濃度を算出した。
【0078】
また、収率を求めるため、PETのエチレングリコールとテレフタル酸の含有率を図11の1H−NMRの積分値より算出すると、67%と31%となり、残りの2%は、ジエチレングリコールとイソフタル酸であった。240分間処理をしたときのテレフタル酸とエチレングリコールの収率は、64%と29%であり、それぞれの値は、完全にPETが分解されたときの96%と94%と高収率にてモノマーが回収できた。
【0079】
リサイクルの検討
実用化検討
市販のPETボトル(500ml)をそのままの形状で、高温高圧下で水と接触させる処理(200℃)を行った。図27に示すように、PETボトルのまま処理をしても、物理的な力を加えることなく粉体として回収できた。
【0080】
PETボトルの厚みは、0.25mmから開口部の厚みのある部分でも1.5mmであり、量産を行っても表面に高温高圧下で水が接触できれば、実験レベルと同様に酸やアルカリなどの触媒や溶媒を使用することなく、粉体にて回収可能であり、処理時間が増すこともないと考えられる。また、現在、回収されたPETボトルは、分別、粉砕、洗浄などの工程をかけてペレットやフレーク状とされているが、高温高圧下で水と接触させる処理では、これらの段階を1段階にて行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
PETの分解物の利用方法の検討
現在PET分解物の利用方法として、粉体塗料での応用を検討している。粉体塗料用PETは、硬化すれば機械的特性が必要とされず、分子量がコントロール可能であれば、リサイクル用途として考えられる。PET分解物は、末端基の定量にて明らかとなったように、加水分解により末端にカルボン酸が現れる。現行、末端カルボキシル基タイプ飽和ポリエステル樹脂が使用されており、エポキシ樹脂を硬化剤としている。そこで、30分間処理を行ったPETの分解物58gと、硬化剤としてエピコート1003F(油化シェルエポキシ)ビスAエポキシ42g、硬化触媒としてイミダゾール0.2gを混合し、170℃にて20分間加熱し再重合を試みた。重合の際、PETは、250℃、30分加熱した焼付け状態でしか粉体塗料として使用できないのに対し、融点開始温度が223.4℃から221.3℃に低下し吸熱ピークがブロード化したPETの分解物は、170℃でエポキシと反応可能であった。
【0082】
得られた重合物は、レオロジ社DVE−V4にて粘弾性測定を行った。その結果を図28に示す。図28から、PETの分解物を使用したサンプルは、PETと比較しどの温度域においてもtanδが向上している。これは、PETが分解され分子量が一定でないため、融点が広がりを持つことから制振性も向上したと判断される。
【0083】
本発明の高温高圧下で水と接触させる処理により、PETは、低分子化し結晶化した粉状にて回収する事が可能であることが分かった。さらに、処理時間を長くすることにより、モノマーまで分解されることが分かった。さらに、200℃から225℃へと温度条件を挙げることで、反応速度が2倍であることも分かった。
【0084】
また、この処理は酸やアルカリなどの触媒も必要としないので、処理後の精製も必要なく、環境に悪影響を与える事もない。200℃にて240分間高圧水蒸気処理をしたときのテレフタル酸とエチレングリコールの収率は、64%と29%であり、それぞれの値は、完全にPETが分解されたときの96%と94%と高収率にてモノマーが回収できる。したがって、リサイクル法としては最も付加価値の高いボトルからボトルへのリサイクル
も可能であると考えられる。また、2006年のテレフタル酸の日本国内生産量は143万トン、エチレングリコールの生産量は76万トンもあり、原料としての再利用も十分可能であると考えられる。
【0085】
分析結果でわかるように、分解物は、原料であるテレフタル酸にまで低下していき、密閉状態の装置で蒸留を行えば、沸点が197.6℃のエチレングリコールの回収も可能であることが予測できる。
【0086】
現在のPETボトルのリサイクルには、回収後、異物の除去、洗浄、粉砕、という段階を必要とするが、高圧水蒸気処理では、これらを1段階で行うことができ、リサイクルコストを大幅に削減できるものと考える。そして、再生品のコストが下がれば、再利用の用途も広くなるであろう。
【0087】
尚、本発明の製造方法にあっては、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることで、低分子ポリマーを製造しているが、ポリマー製造に係る費用の削減を目的として、モノマーから低分子ポリマーを製造することもできる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーは、タイヤ、シート、パイプ材料、電線やケーブルの被覆材料をはじめとして広範な分野に利用されている。
【0003】
しかし、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマー、例えばポリエステルやポリウレタンといった高分子ポリマーの場合、使用後の多くは、埋め立てるか焼却処分するかのいずれかの処分がなされていた。
【0004】
しかし、埋め立ての場合、第1に埋め立て用地の確保が難しいという問題があり、粉砕などにより減容して埋め立て効率を高める場合、粉砕などに多額の費用が発生するという問題があった。
【0005】
使用後の高分子ポリマーを焼却する場合は、焼却時に人体や環境に有害なガスが発生したり、そのガスによって焼却炉が損傷するという問題もあった。
【0006】
このような高分子ポリマーについても再生利用を目的とした検討がなされており、例えばポリウレタンフォーム廃材をその密度別に分別し、粉砕してチップとし、所定の密度の再生成形品を得るように該分別廃材チップから密度の異なる2種もしくはそれ以上の廃材チップの組合せとして選択し、該組合せチップにバインダーを塗布した後、これを金型内に充填し、成形する、再生方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、上記再生品を得るには、廃材の分別、粉砕、粉砕後の廃材チップの組合せ、バインダーの塗布、及び成形といった多数の工程を必要とし、再生コストが高いため、実用化に至っていないのが現状であった。
【0008】
また、電線、ケーブル、タイヤなど、高分子ポリマーと金属とを組み合わせたものを廃棄する場合、ポリマーの部分と金属の部分とを分離しなければならないところ、その分離作業には多くの手間と費用を必要とし、分離しないまま焼却処分し、焼け残った金属の部分のみを再利用するという方法が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−238604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような技術的課題に鑑みなされたものであり、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーから低分子ポリマーを簡単に得ることができ、さらに高分子ポリマーと金属とを組み合わせた製品であっても、分離作業を必要としないで低分子ポリマーを得ることができる、低分子
ポリマーの製造方法、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1〜7記載の発明は、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断して、ポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることを特徴とする低分子ポリマーの製造方法をその要旨とした。
【0012】
請求項1〜7記載の方法により得られる低分子ポリマーとは、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーにおける、前記−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合が切断されて、ポリマーの分子量が結合切断前の90%以下とされた、例えばモノマー或いはオリゴマーのレベルにまで分解されたポリマーをいう。
【0013】
請求項8及び9記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法により得られる低分子ポリマーを提案し、請求項10〜13記載の発明は、その低分子ポリマーを用いたことを特徴とする塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を提案するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低分子ポリマーの製造方法によれば、高温高圧下で水と接触させるという簡単な処理で、使用済みの分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを結合切断前の90%以下のモノマーやオリゴマーのレベルに分解することができる。このため、大規模な処理設備を必要とせず、低分子ポリマーの製造に必要なエネルギー、手間並びにコストを大幅に削減することができる。また、本発明の方法には有機溶剤や触媒などを用いないため、環境に悪影響を与えることもない。また、本発明の方法によれば、使用済みの高分子ポリマーを結合切断前の90%以下のレベルに分解することができ、得られる低分子ポリマーは、そのままで或いは架橋剤と混合することで再生重合原料として利用することができる。また、本発明の方法によれば、高分子ポリマーと金属とを組み合わせた製品を再生処理する場合でも、分離作業を必要としないで低分子ポリマーを得ることができる。洗浄工程も不要である。
【0015】
また、本発明の低分子ポリマーの製造方法は、未使用の高分子ポリマーをその用途や要求される性能(性質)に応じた分子量に調整する新規な方法を提案するものでもある。つまり、未使用の分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させて、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することにより、結合切断前の90%以下の要求される性能(性質)に応じた分子量を持つ低分子ポリマーを触媒不存在下で、しかも高温高圧下で水と接触させるという簡単な処理で製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PETの分解物の分析手順を示した模式図。
【図2】高温高圧下で水と接触させる処理(200℃、1.6MPa)の処理時間による外観の変化を示す写真。
【図3】高温高圧下で水と接触させる処理(200℃、1.6MPa)の処理時間による粒径サイズの変化を示すグラフ。
【図4】PETの分解物表面の状態を示す電子顕微鏡写真。
【図5】テレフタル酸の表面の状態を示す電子顕微鏡写真。
【図6】処理時間によるTG曲線の変化を示すグラフ。
【図7】処理時間(200℃、1.6MPa)によるDSC曲線の変化を示すグラフ。
【図8】PETの結晶構造を示す模式図。
【図9】高温高圧下で水と接触させる処理によるPETのX線パターンの変化を示すグラフ。
【図10】高温高圧下で水と接触させる処理によるCP/MAS13C−NMRスペクトルの変化を示すグラフ。
【図11】GPCによる分子量および分子量分布の測定結果を示すグラフ。
【図12】未処理PETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図13】30分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図14】60分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図15】120分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図16】180分間処理したPETの1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図17】240分間処理をしたPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図18】30分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図19】60分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図20】120分間処理(225℃)したPET(液体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図21】240分間処理したPETの固体部分(固体2)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図22】処理時間と温度による数平均分子量変化を示すグラフ。
【図23】処理時間と温度によるテレフタル酸(TPA)の比率を示すグラフ。
【図24】処理時間(200℃)による水酸基価および酸価の変化を示すグラフ。
【図25】処理時間(225℃)による水酸基価および酸価の変化を示すグラフ。
【図26】240分間処理したPETの液体部分(液体1)の1H−NMRスペクトルを示すグラフ。
【図27】処理時間によるPETボトルの変化(200℃、1.6MPa)を示す写真。
【図28】PETおよびPETの分解物を用いたエポキシ化合物の粘弾性(tanδ)を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の低分子ポリマーの製造方法(以下、単に方法という)、その方法により得られる低分子ポリマー、その低分子ポリマーを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布について、更に詳しく説明する。
【0018】
本発明は、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを、結合切断前の90%以下のモノマーやオリゴマーのレベルに分解することができる、新規な低分子ポリマーの製造方法を提案するものである。
【0019】
本発明の方法によって処理される高分子ポリマーは、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つものである。具体的には1種のモノマーを重合させたポリマー、或いは複数種のモノマーを共重合させた共重合ポリマーにより構成される鎖状、或いは網目状構造を持ち、かつ分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持っているものである。さらに具体的には、エステル、ウレタン、エーテル、イミド、アミド、尿素、カーボネートからなる群から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上を主たる結合として分子の直鎖に持つポリマーを挙げることが
できる。
【0020】
尚、本発明の方法によって処理される高分子ポリマーの範疇には、該高分子ポリマーの成形物、電線、ケーブル、タイヤなど、架橋ポリマーまたは高分子ポリマーと金属とを組み合わせた複合物が含まれる。
【0021】
次に、上記高分子ポリマーを高温高圧下で水を接触させることについて説明する。本発明の方法において、高分子ポリマーは、高温高圧下、好ましくは100℃ 以上、0.1MPa以上の条件下で水と接触される。水は飽和水蒸気となって高分子ポリマーと接触し、該高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断するよう作用する。接触時における温度と圧力が、100℃未満、0.1MPa未満の場合、ポリマーの分解が効果的に進行しないばかりか、処理時間が長くなり、却ってエネルギーコストが高くなることになる。
【0022】
接触時における温度と圧力の条件は、より好ましくは400℃、0.2〜3.0MPaである。この場合、該高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合の切断作用がより効果的に進行し、処理時間を短縮することができ、エネルギーコストの低減化を図ることができるというメリットを有する。
【0023】
また、高分子ポリマーを高温高圧下で水を接触させる時間は、ポリマーの種類、処理する体積の多少、高分子ポリマーが成形物の場合、その大きさや形状に応じ、適宜変更して行うのがよい。具体的は1〜300分が好ましく、より好ましくは30〜250分間である。接触時間が1分を満たない場合、高分子ポリマーと水との接触が不十分となり、高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合が切断されないか、若しくは結合が切断されたとしても不十分な分解となる。接触時間が300分を上回る場合には、接触時間が多くなっても、分解はそれ以上進行しないため、処理自体が無駄となる。
【0024】
本発明の方法は、高分子ポリマーを例えば100℃ 以上、0.1MPa以上といった高温高圧下で水と接触させて行うことから、使用する反応器には、このような温度及び圧力に十分に耐え、かつポリマーの投入並びに排出が容易なものが望ましい。具体的には反応器内でポリマーと水が十分に接触するように、水(水蒸気)の流れが乱流になるものが望ましい。
【0025】
尚、反応器への水(高圧水蒸気)の供給方法としては、例えば反応器内の水を加熱して圧力を上げるオートクレーブのような方法のほかに、強制循環ボイラ、立てボイラ、炉筒ボイラ、自然循環ボイラなどのボイラを使用する方法を採ることができる。
【0026】
本発明の方法により得られる低分子ポリマーは、ポリマーの種類、条件(温度、圧力、接触時間)によって、液状、ペースト状、或いは粒状といった形態となる。
【0027】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、そのままで、或いはジイソシアネート、ビスウレタン、ジアミン、ジカルボン酸、二塩素酸誘導体などの架橋剤と混合することで再生重合原料として利用することができる。
【0028】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーの分子中には、水酸基やアミノ基などの反応基が存在する。これらの反応基は該低分子ポリマーを再生重合原料として再反応させるとき、或いは架橋剤を混合した混合物を再生重合原料として、これら低分子ポリマー及び架橋剤を反応させるときに、これら再反応又は低分子ポリマー及び架橋剤の反応における反応量を決定する機能を持つ。
【0029】
すなわち、本発明の方法で得られた低分子ポリマーをそのままで、或いは低分子ポリマーに架橋剤を混合して、これらを再生重合原料として再生重合物を製造する場合、低分子ポリマーに含まれる反応基の量の分だけ、再反応又は低分子ポリマーと架橋剤との反応が生じるため、その量が少なければ少ないほど、再生重合物を得るのに必要な反応時間は短縮され、架橋剤量も少なくなるのである。反対に反応基量が多ければ多いほど、再生重合物を得るのに必要な反応時間は長くなり、架橋剤量も多くなるのである。
【0030】
このような作用効果を有する反応基は、高分子ポリマーを高温高圧の条件下で水と接触させることにより、高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−結合が切断されるときに生じるため、温度や圧力の条件を適宜変更することで、反応基の量をコントロールすることができるのである。つまり、温度及び圧力が低く、接触時間が短いときは、ポリマーの低分子化、分解は進行しないため、得られる低分子ポリマーにおける反応基の量も少なく分子量も大きくなる。一方、温度及び圧力を高くし、接触時間を長くしたとき、ポリマーの低分子化(分解)は効果的に進行し、得られる低分子ポリマーにおける反応基の量も多くなり分子量も小さくなるのである。
【0031】
例えばポリウレタンからなる高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させたとき、得られる低分子ポリマーの分子中には水酸基やアミノ基が存在し、これらの反応基は水酸基価及びアミン価として現れる。これら水酸基価及びアミン価の大小に従って、架橋剤、すなわちジイソシアネート量を適宜増減させて低分子ポリマーに混合することで、新たなポリウレタン成形物が得られるのである。
【0032】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、これを用いた塗料、粉体塗料、接着剤、繊維及び不織布を製造することができる。まず、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを用いた塗料について説明する。上述の如く本発明の方法により得られる低分子ポリマーは、ポリマーの種類、条件(温度、圧力、接触時間)によって、液状、ペースト状、或いは粒状といった形態となる。本発明の方法により得られる低分子ポリマーを塗料に適用する場合には、粒状の形態を持つ低分子ポリマーが望ましい。
【0033】
塗料に適用する低分子ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られるものが好ましく、これらの低分子ポリマーを塗料の塗膜形成用樹脂として用いるのである。また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーをメインバインダー樹脂として用いる塗料には、溶剤のほかに着色顔料、防錆顔料、体質顔料を含む各種顔料、分散剤、消泡剤、レベリング剤といった各種添加剤を添加することができる。塗料の調製は、上記成分をプロペラ型攪拌機、ホモジナイザーなど従来公知の混合機を用いて混合することによって、容易に行うことができる。
【0034】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、溶剤を使用しないで、基材に塗布した後、焼き付けで硬化させることで、基材表面に塗膜を形成することができる粉体塗料に適用することもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを粉体塗料に適用する場合、塗料に適用する場合と同じく、使用する低分子ポリマーは、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる粉粒状のものが好ましく、これらの低分子ポリマーを塗料の塗膜形成用樹脂として用いるのである。
【0035】
本発明の方法で得られた低分子ポリマーを粉体塗料に適用する場合、該粉体塗料は、低分子ポリマーからなる粉体樹脂及び硬化剤のほかに、必要に応じて着色顔料をミキサーでドライブレンドすることで得ることができる。また、ドライブレンドした後、2軸エクストルーダー等の混練機を使用して加熱溶融混練し、冷却、粉砕して製造することもできる
。
【0036】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは、これを接着成分として用いることもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを接着剤の接着成分として用いる場合、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる低分子ポリマーを用いるのが好ましい。また、接着剤には、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなる接着成分のほかに、必要に応じて、保湿剤、染料、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤などの添加剤を、接着成分の効果を阻害しない限度において、適宜添加することができる。接着剤の調製は、プロペラ型攪拌機、ホモジナイザーなど従来公知の混合機を用いて混合することによって、容易に行うことができる。
【0037】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーは不織布の構成繊維相互を結合するバインダー成分として用いることもできる。本発明の方法で得られた低分子ポリマーをバインダー成分として用いる場合、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、およびエポキシなどの架橋ポリマー又は高分子ポリマーから得られる低分子ポリマーを用いるのが好ましい。本発明の方法で得られた低分子ポリマーをバインダー成分として用いる不織布の構成繊維としては特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維、ポリビニルアルコール繊維、及び合成パルプなどの合成繊維の他、レーヨンなどの半合成繊維、綿及びパルプ繊維などの天然繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、金属繊維などの無機繊維などを単独で、或いはこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0038】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなるバインダー成分には、充填剤、難燃剤、着色剤、耐光剤、抗菌剤、帯電防止剤等も添加することができる。
【0039】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料として用いることもできる。紡糸材料として用いる場合、低分子ポリマーには、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミド、及びポリカーボネートなどの架橋ポリマーまたは高分子ポリマーから得られるものを用いるのが好ましい。本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料として用いる繊維としては特に限定されないが、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料の全部として溶融紡糸 、乾式紡糸又は湿式紡糸により形成された繊維、或いは、本発明の方法で得られた低分子ポリマーを紡糸材料の一部として、他の紡糸材料と混合して溶融紡糸 、乾式紡糸又は湿式紡糸により形成された繊維を挙げることができる。
【0040】
また、本発明の方法で得られた低分子ポリマーからなる紡糸材料には、充填剤、難燃剤、着色剤、耐光剤、抗菌剤、帯電防止剤等も添加することができる。
【0041】
尚、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」に記載された範囲で自由に変更して実施することができる。
【実施例】
【0042】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)のリサイクル
PETは、熱可塑性ポリエステルの代表的な樹脂で、テレフタル酸とエチレングリコールが縮合し、エステル結合によって連鎖を形成した構造を持っている。
【化1】
【0043】
PETは、当初、繊維やフィルム用材料として使用されていたが、ブロー成形すると透明性、光沢性、剛性に優れたボトルが得られることがわかり、樹脂の価格の低下とともに清涼飲料容器などが多用されるようになってきた。日本では、PETボトルは1977年にしょうゆ業界に最初に採用され、5年後の1982年に厚生省により清涼飲料容器としての使用が許可され、その後PETボトルの使用量は大きく増大し、2005年のPETの消費量は約53万トンであり、1993年の約12万トンと比較すると、この12年で約4倍までに増大している。
【0044】
PETボトルのリサイクルは、自治体による分別収集と店頭回収の2種があるが、自治体回収の方が圧倒的に多いのが現状であり、自治体の回収コストの増加が問題となっている。回収されたPETボトルは、分別、洗浄、粉砕工程後、再生品の出発物質となっているフレーク、ペレットなどにされており、この段階にも大きなコストがかけられているのが現状である。
【0045】
また、従来のPETのケミカルリサイクルには、液体メタノール中で分解するメタノリシス法、液体のエチレングリコール中で分解するグリコリシス法、液体水中での加水分解法があるが、いずれも反応時間が5時間以上と長く、触媒が必要といった問題がある。さらに、触媒を使用せず、短時間でPETを分解する超臨界での研究も行われている。例えば、300℃、15MPaにて超臨界メタノールを使用した反応では、10分でPETは分解されるが、テレフタル酸ジメチルとしてモノマーが回収されるため、テレフタル酸への加水分解過程が必要となる。さらに、400℃、40MPaの超臨界水中でPETの加水分解を行うと、5分間で完全に分解し、モノマーであるテレフタル酸が高収率にて回収されている。一方、もうひとつのモノマーであるエチレングリコールは、テレフタル酸が酸触媒となりエチレングリコールの分解を促進するため収率が大幅に減少していた。超臨界水よりも条件が温和である300℃の亜臨界水では、10分でPETがほぼ完全に分解され、収率89%および93%でテレフタル酸とエチレングリコールを回収できたという研究報告もある。ただし、高圧高温に耐えうる設備は、3MPaを超えると、ボイラー、耐圧容器、バルブ、配管を特別に製造する必要があり、特に大型の装置になるほどコストが飛躍的に上がり実用性が低くなる。
【化2】
【0046】
本発明の方法は、高温高圧下で水と接触させる処理を利用したPETのリサイクル方法を提案するものであり、該方法によれば、酸やアルカリなどの触媒やエチレングリコール、メタノールなどの溶媒も使用することもなく、PETの加水分解を起こし、処理に必要な手間及びコストを大幅に削減できると考える。
【0047】
高温高圧下で水と接触させる処理には、日阪製作所株式会社製のバッチ式爆砕処理試験機を使用した。本装置は、耐圧3.0MPa、ボイラーは、株式会社タクマ製のTMO−300型で最高使用圧力3.0MPa、換算蒸発量300kg/hである。
【0048】
市販のPETボトルを、3cm×10cmに切断した試料を爆砕装置内に配置し、200℃(1.6Mpa)にて、30分、60分、120分、180分、240分、225℃(2.6Mpa)にて30分、60分、120分間、それぞれ高温高圧下で水と接触させる処理を行った。
【0049】
PETの高圧水蒸気処理条件
【表1】
【0050】
PET分解物の分析実験
走査電子顕微鏡(SEM)による表面観察
高温高圧下で水と接触させる処理による分解物の表面を観察するため、サンプルは、減圧乾燥した後、オスニウム蒸着しSEM(S−3000N、日立製)を用い、500倍にて観察した。
【0051】
レーザ回析による粒径分布測定
分散媒としてイソプロピルアルコールをLA−910(堀場製作所製)のフローセルに約200ml、さらに試料を透過光量が95〜70%となるよう加え、超音波分散を4分行い、粒径分布測定を行った。
【0052】
TGの測定
10mgのサンプルをプラチナパン(オーブン)に入れ、エスアイアイ・テクノロジー製EXSTAR−6000 TG/DTA6300にて、昇温速度10℃/minにて50℃から1000℃まで測定を行った。
【0053】
DSCによるガラス転移点、結晶化度、融点の測定
10mgのサンプルを、アルミパン(オーブン)に入れ、結晶化度を観測するため、HIRANUMA製電気炉にて、300℃で15分間加熱し、急冷した後、エスアイアイ・テクノロジー製 EXSTAR−6000 DSC6200にて、昇温速度5℃/minにて25℃から300℃まで測定を行った。
【0054】
XRDによる結晶化度の測定
高圧水蒸気処理をしたPET粉末の結晶化度を調べるために、XRD(RINT−Ultima lll/PCrigaku製)にて試料の測定を行った。ターゲットはCuを用いてX線源は、40kV/40mAとし、2θは、10〜40°の範囲で測定を行った。
【0055】
13C−NMRによる構造解析
日本電子ECA500にて、CP/MAS13C−NMRにてスペクトル測定を行った。
【0056】
固有粘度による分子量測定
200mgのサンプルを採取し、混合溶媒(フェノール:テクラクロロエタン=60:40)50mlを加え、90℃にて試料を溶解した。溶解液は、オストワルド粘度計に10ml計り取り、25℃に保温した後、試験溶液の流出時間を測定し、Mark−Houwink−sakuradaの式より分子量を求めた[11]。
[n]=K・Mα
K×104=7.44
α=0.648
【0057】
GPCによる分子量測定
試料2mgを0.4mlのクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)=3/2(v/v)に溶解後、7.6mlのクロロホルムで希釈して試料溶液を調整した(0.025%)。0.2nmのメンブランフィルターでろ過し、得られた試料溶液のGPC分析を以下の条件で実施した。
装置:Shodex GPC SYSTEM−21
カラム:TSKgelGMHXL ×2+TSKgel G2000HXL (TOSOH)
溶液:クロロホルム/HFIP=98/2(v/v)
流速:0.7ml/min
温度:40℃
検出器:UV(254nm)
分子量は、標準ポリスチレン換算で算出した。
【0058】
1H−NMRによる末端基の定量
BRUKER社AVANCE500にて、水酸基末端とカルボン酸末端を以下に示す溶媒を用い測定を行った。なお、200℃にて120分以上、225℃で30分以上処理したサンプルは、どちらの条件も完全に溶解せず白濁したため、遠心分離し、上清を測定した(図1の液体2)。
【0059】
(1)水酸基末端定量
試料7mgを秤量し、CDCl3/HFIP=1/1(v/v)0.3mlに溶解させ、更にCDCl3を0.3mlと重ピリジン30nlを加え、1H−NMR測定した。
(2)酸末端定量
試料7mgを秤量し、CDCl3/HFIP=1/1(v/v)0.3mlに溶解させ、更にCDCl3を0.3mlと0.2Mトリエチルアミンの重クロロホルム溶液を60nlを加え、1H−NMR測定した。
【0060】
収率の算出
(1)テレフタル酸の収率
240分間処理をしたPETの分解物の、1H−NMR溶媒への不溶物を遠心分離にかけ、沈殿物をフィルターろ過し、乾燥した後、重量を測定した(図1の固体2)。
(2)エチレングリコールの収率
240分間処理をした後、装置を室温まで冷やし、液体を回収した(図1の液体1)。ここに標準物質としてエチレンジアミン(20mg/ml)を加え、1H−NMRにて分析を行った。
【0061】
結果と考察
図2に示すように、高温高圧下で水と接触させる処理を行うと、PETはもろくなり、亀裂が入り、微粉状へと変化した。特に、120分以上処理をしたPETは、白い微粉状へと変化した。また、240分間処理したサンプルは、テレフタル酸の結晶にみられる光沢も観察できた。
【0062】
高温高圧下で水と接触させる処理により得られた粉体の粒径サイズの変化を確認するためレーザ回析による粒径分布測定を行い、処理時間ごとのメディアン径を図3に示した。処理時間が長くなるにつれ、粒子サイズが小さくなっていることが確認できる。
【0063】
また、PETおよび高温高圧下で水と接触させる処理を行ったサンプルは、走査電子顕微鏡(SEM)にて表面観察を行った。図4及び図5より、処理により表面から分解が起こっていることが判断できる。これは、高温高圧下で水と接触させる処理により水がPET表面を攻撃することでエステル結合の加水分解を促進していると考えられる。それは、高温高圧下で水と接触させる処理において、温度の上昇に伴いイオン積も増し(logKw≒−11)、イオン積が通常の水のおよそ1000倍と高く、下記化学式に示すように[H+]によるカチオノイド反応と、[OH-]によるアニオノイド反応が同時に起こる強調反応が起こると考えられている。
【化3】
【0064】
また、240分間処理を行ったサンプルは、PET原料であるテレフタル酸と同等のサイズまで分解されていることも確認できた。さらに、分解物の特性を確認するため、熱分析を行った。TGの測定結果を図6および表2に示す。図6に示すように、TG曲線の最初の重量変化点をT1、2番目の重量変化点をT2とした。TG曲線よりPETの分解温度は409.4℃、テレフタル酸は305.0℃、120分および180分間処理したサンプルは、PETとテレフタル酸の両方の分解点を持つことが分かる。
TGによる重量変化点の温度
【表2】
【0065】
DSCによるガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、融解開始温度(Tim)、および融点(Tm)の測定結果を図7および表3に示す。高圧水蒸気処理時間が120分までは、ガラス転移点(72.1℃→65.9℃)、結晶化温度(125.6℃→97.0℃
)、融解開始温度(223.4℃→181.6℃)、および融点(247.6℃→237.1℃)は、低温側にシフトしている。これは、分解が進み、低分子化が起こっているためと考える。また、融解の吸熱ピークが、処理時間が増すことにブロード化している。これは、加水分解により、分子量が異なる分解物が現われ、分子量の分布が広がっていることを示唆している。なお、180分間処理を行ったサンプルは、異なるDSC曲線を示すのは、低分子化がさらに進み、モノマーとなったエチレングリコールが固体部分から除かれ、分子の構成が異なってきたことが原因と判断する。また、240分間高圧水蒸気処理を行ったサンプルは、テレフタル酸と同様のDSC曲線を示している。
DSCによる処理時間における熱特性変化
【表3】
【0066】
結晶化度の測定
PETは、図8に示すように、ベンゼン環とエチレン鎖がエステル結合で結ばれた繰り返し単位を持ち、結晶構造は空間軍P1−Ci1に属する三斜晶系である。結晶内では、カルボニル基とベンゼン環がほぼ平面を形成している。
【0067】
そこで、高温高圧下で水と接触させる処理による結晶化度の変化を観るため、XRDを測定し、その結果を図9に示した。30分、60分間処理を行うと、2θ=18°、23°、26°のピークが増加している。これらは、PETの(100)、(010)、(110)面のピークであり、PETは処理によって結晶化度が高くなることがわかった。また、180分間処理を行ったものは、2θ=17.4°および27.9°のピークが増加している。これらのピークは、テレフタル酸の(110)面および(200)面のピークであることから、モノマーであるテレフタル酸まで分解が起こっていることを示唆している。
【0068】
また、240分間処理をしたサンプルは、モノマーであるテレフタル酸と同じパターンが得られ、X線回析からもPETはモノマーまで分解されることがわかる。
【0069】
13C−NMRの測定結果を図10に示す。高温高圧下で水と接触させる処理を120分以上行ったサンプルは、カルボン酸のカルボニル炭素シグナル(172ppm)が確認され、エステルを隣に持つメチレン炭素のシグナル(61ppm)の減少および、水酸基を隣に有するメトキシ炭素のシグナル(67ppm)の出現により、エステル結合が分解されたことが認められる。さらに、240分間処理を行ったサンプルは、エチレン炭素のシグナルが確認できなかった。これは、処理によりPETがモノマーまで分解されたエチレングリコールが固体から除かれたこと、また、DSCやX線回析結果と同様に、テレフタル酸であることを示している。また、カルボン酸のカルボニル炭素シグナル(172ppm)が、芳香族よりも強度が小さいのは、4級炭素であるため緩和時間が長くなること、
また、オーバーハウザー効果の影響が小さいためである。
【0070】
さらに、エステル結合が分解されるにつれ、C2(134ppm)は高磁場シフトし、C3(130ppm)は低磁場シフトし、最終的にはピークが重なっている。
0分:δ164(COO),133(aromatic C adjacent to
the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
30分:δ163(COO),133(aromatic C adjacent to the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
60分:δ163(COO),133(aromatic C adjacent to the ester),133(aromatic C),62(COOCH2)、
120分:δ172(COOH),163(COO),134(aromatic C),67(HOCH2),61(COOCH2)、
180分:δ172(COOH),131(aromatic C),67(HOCH2),61(COOCH2)、
240分:δ173(COOH),131(aromatic C)。
【0071】
また、固有粘度による分子量測定の結果を表4に示す。高温高圧下で水と接触させる処理により、重量平均分子量は、41000から500に減少していることが分かる。なお、処理を120分以上行ったサンプルは、PETの固有粘度測定に使用されている溶媒には不溶で白濁するため、測定しなかった。このことからも、処理時間を長くすることによって、溶解度が異なるところまで低分子化が起きていることが推測できる。
【0072】
さらに、GPCによる分子量および分子量分布の分析を行い、その結果を表4および図11に示した。30分間処理したサンプルは、PDIが10.9と大きくなっており、分子量分布の広がりが分かる。GPC分析においても、60分以上処理したサンプルは、溶媒に完全に溶解しなかったこと、また、処理サンプルが低分子量のため標準物質がなく、測定ができなかった。そこで、1H−NMRの積分値より数平均分子量を求めた。
高温高圧下で水と接触させる処理(200℃)を行った
PETの分子量測定結果
【表4】
【0073】
1H−NMRの測定結果を図12〜図21に示す。また、数平均分子量の算出は、以下の式に従い算出した。なお、イソフタル酸とジエチレングリコールも存在するが、微量のため計算に含めなかった。
【数1】
【0074】
数平均分子量の算出結果を、表4に、200℃および225℃の数平均分子量の違いを図22に示した。また、200℃では120分以上、225℃では30分以上処理を行ったサンプルは、1H−NMR溶媒に完全に溶けなかった。そこで、各サンプルを遠心分離にかけ、溶解部分(液体2)と不溶解部分(固体2)に分離し、溶解部分のみの測定を行った。1H−NMRより算出した数平均分子量は、GPCの結果よりも低く算出されたが、低分子化する傾向は同じである。また、200℃では180分以上処理を行ったPETは、テレフタル酸(M:166.1)と同等程度まで低下している。
【0075】
遠心分離によって得られた沈殿物(固体2)は、1H−NMRスペクトル(図20)が示すように、テレフタル酸であることが分かった。テレフタル酸の割合は、処理条件が長くなるにつれ増加し、200℃では240分、225℃では120分間処理をしたサンプルでは90%を占めた。(図23)
【0076】
これらの結果より、225℃での処理は、200℃の処理と比較し、反応速度が2倍であることを示している。さらに1H−NMRの積分値より、水酸基および酸基の定量を行った。算出結果を図24及び図25に示す。処理時間を長くすることにより、水酸基とカルボキシル基の量が増加していることがわかる。ただし、200℃では120分、225℃では30分以上処理すると、水酸基末端量が低下している。これは、モノマーまで分解されたエチレングリコールが固体分から分離することに起因すると判断される。この結果からも、高温高圧下で水と接触させる処理により、PETは、ポリマーがオリゴマーへ、さらにはモノマーにまで分解されていることが認められた。
【0077】
高温高圧下で水と接触させる処理後、装置を室温に戻し液体部分を回収し(液体2)、重水にて1H−NMRにて分析した。図26より、液体2にエチレングリコールが含まれていることを確認した。さらに、標準物質として加えたエチレンジアミンとの積分値から
、エチレングリコールの濃度を算出した。
【0078】
また、収率を求めるため、PETのエチレングリコールとテレフタル酸の含有率を図11の1H−NMRの積分値より算出すると、67%と31%となり、残りの2%は、ジエチレングリコールとイソフタル酸であった。240分間処理をしたときのテレフタル酸とエチレングリコールの収率は、64%と29%であり、それぞれの値は、完全にPETが分解されたときの96%と94%と高収率にてモノマーが回収できた。
【0079】
リサイクルの検討
実用化検討
市販のPETボトル(500ml)をそのままの形状で、高温高圧下で水と接触させる処理(200℃)を行った。図27に示すように、PETボトルのまま処理をしても、物理的な力を加えることなく粉体として回収できた。
【0080】
PETボトルの厚みは、0.25mmから開口部の厚みのある部分でも1.5mmであり、量産を行っても表面に高温高圧下で水が接触できれば、実験レベルと同様に酸やアルカリなどの触媒や溶媒を使用することなく、粉体にて回収可能であり、処理時間が増すこともないと考えられる。また、現在、回収されたPETボトルは、分別、粉砕、洗浄などの工程をかけてペレットやフレーク状とされているが、高温高圧下で水と接触させる処理では、これらの段階を1段階にて行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
PETの分解物の利用方法の検討
現在PET分解物の利用方法として、粉体塗料での応用を検討している。粉体塗料用PETは、硬化すれば機械的特性が必要とされず、分子量がコントロール可能であれば、リサイクル用途として考えられる。PET分解物は、末端基の定量にて明らかとなったように、加水分解により末端にカルボン酸が現れる。現行、末端カルボキシル基タイプ飽和ポリエステル樹脂が使用されており、エポキシ樹脂を硬化剤としている。そこで、30分間処理を行ったPETの分解物58gと、硬化剤としてエピコート1003F(油化シェルエポキシ)ビスAエポキシ42g、硬化触媒としてイミダゾール0.2gを混合し、170℃にて20分間加熱し再重合を試みた。重合の際、PETは、250℃、30分加熱した焼付け状態でしか粉体塗料として使用できないのに対し、融点開始温度が223.4℃から221.3℃に低下し吸熱ピークがブロード化したPETの分解物は、170℃でエポキシと反応可能であった。
【0082】
得られた重合物は、レオロジ社DVE−V4にて粘弾性測定を行った。その結果を図28に示す。図28から、PETの分解物を使用したサンプルは、PETと比較しどの温度域においてもtanδが向上している。これは、PETが分解され分子量が一定でないため、融点が広がりを持つことから制振性も向上したと判断される。
【0083】
本発明の高温高圧下で水と接触させる処理により、PETは、低分子化し結晶化した粉状にて回収する事が可能であることが分かった。さらに、処理時間を長くすることにより、モノマーまで分解されることが分かった。さらに、200℃から225℃へと温度条件を挙げることで、反応速度が2倍であることも分かった。
【0084】
また、この処理は酸やアルカリなどの触媒も必要としないので、処理後の精製も必要なく、環境に悪影響を与える事もない。200℃にて240分間高圧水蒸気処理をしたときのテレフタル酸とエチレングリコールの収率は、64%と29%であり、それぞれの値は、完全にPETが分解されたときの96%と94%と高収率にてモノマーが回収できる。したがって、リサイクル法としては最も付加価値の高いボトルからボトルへのリサイクル
も可能であると考えられる。また、2006年のテレフタル酸の日本国内生産量は143万トン、エチレングリコールの生産量は76万トンもあり、原料としての再利用も十分可能であると考えられる。
【0085】
分析結果でわかるように、分解物は、原料であるテレフタル酸にまで低下していき、密閉状態の装置で蒸留を行えば、沸点が197.6℃のエチレングリコールの回収も可能であることが予測できる。
【0086】
現在のPETボトルのリサイクルには、回収後、異物の除去、洗浄、粉砕、という段階を必要とするが、高圧水蒸気処理では、これらを1段階で行うことができ、リサイクルコストを大幅に削減できるものと考える。そして、再生品のコストが下がれば、再利用の用途も広くなるであろう。
【0087】
尚、本発明の製造方法にあっては、縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることで、低分子ポリマーを製造しているが、ポリマー製造に係る費用の削減を目的として、モノマーから低分子ポリマーを製造することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることを特徴とする低分子ポリマーの製造方法。
【請求項2】
分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーがエステルであることを特徴とする請求項1に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項3】
分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーがポリエステル系ポリマーまたはアクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項2に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項4】
結合切断前の高分子ポリマーがポリマー成形物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項5】
結合切断前の高分子ポリマーを100℃以上、0.1MPa以上の条件下で水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項6】
結合切断前の高分子ポリマーを400℃、0.2〜3.0MPaの条件下で水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項5に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項7】
結合切断前の高分子ポリマーを1〜300分間水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法により得られる低分子ポリマー。
【請求項9】
ポリマーの形態が粉状体であることを特徴とする請求項8に記載の低分子ポリマー。
【請求項10】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする塗料。
【請求項11】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする粉体塗料。
【請求項12】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする接着剤。
【請求項13】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを構成繊維相互を結合するバインダーとして用いたことを特徴とする不織布。
【請求項1】
縮重合により合成され、分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーを高温高圧下で水と接触させることにより、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断してポリマーの分子量を結合切断前の90%以下とすることを特徴とする低分子ポリマーの製造方法。
【請求項2】
分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーがエステルであることを特徴とする請求項1に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項3】
分子の直鎖に−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を持つ高分子ポリマーがポリエステル系ポリマーまたはアクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項2に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項4】
結合切断前の高分子ポリマーがポリマー成形物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項5】
結合切断前の高分子ポリマーを100℃以上、0.1MPa以上の条件下で水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項6】
結合切断前の高分子ポリマーを400℃、0.2〜3.0MPaの条件下で水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項5に記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項7】
結合切断前の高分子ポリマーを1〜300分間水と接触させることで、前記高分子ポリマーの−C(=O)O−または−C(=O)N−の結合を切断することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の低分子ポリマーの製造方法により得られる低分子ポリマー。
【請求項9】
ポリマーの形態が粉状体であることを特徴とする請求項8に記載の低分子ポリマー。
【請求項10】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする塗料。
【請求項11】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする粉体塗料。
【請求項12】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを用いたことを特徴とする接着剤。
【請求項13】
請求項8または9のいずれかに記載の低分子ポリマーを構成繊維相互を結合するバインダーとして用いたことを特徴とする不織布。
【図1】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図28】
【図2】
【図4】
【図5】
【図27】
【図3】
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【図9】
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【図13】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
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【図28】
【図2】
【図4】
【図5】
【図27】
【公開番号】特開2012−219210(P2012−219210A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87909(P2011−87909)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(391033388)三井屋工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(391033388)三井屋工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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