説明

低帯電性粉末の製造方法

高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥し、低帯電性粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低帯電性粉末の製造方法、詳しくは高帯電性化合物およびポリエチレングリコール(以下、PEGとすることもある)を含有する液状組成物を乾燥することにより製造される低帯電性粉末の製造方法に関する。別の態様として、トリテルペン誘導体およびPEGを含有する粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に用いる式(I):

(式中、Rは水素または代謝性エステル残基、Rは水素または−R−Rを表す。但し、RはSO、CHCOO、COCOOまたはCORCOO(Rは低級アルキレンまたは低級アルケニレン)、Rは水素または代謝性エステル残基を表す)
で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物(以下、化合物(I)とすることもある)は特許文献1に記載されている化合物である。
該化合物は血管収縮作用を有する内皮細胞由来のペプチドであるエンドセリンの受容体拮抗剤であり、エンドセリンの過剰分泌に起因する様々な疾患の治療または予防に特に有効であることが示唆されている。そのような疾患の例として、高血圧、虚血性心疾患、脳循環障害、腎障害、諸臓器の循環不全、喘息等を挙げることができる。
該化合物の医薬製剤として特許文献2に、注射用医薬製剤が開示されている。この製剤は化合物(I)等に塩基性物質を添加してpHを調整することにより、再溶解時の泡立ちを抑制するものであり、化合物(I)の帯電性については何ら示唆されていない。
【0003】
PEGは医薬の分野においては基剤、可溶化剤、コート剤または結合剤等として使用されている添加剤であり、非イオン界面活性剤の1種である。
界面活性剤により静電気を抑制する技術は既に樹脂、化粧品、繊維等の分野で応用されている。
例えば特許文献3には、帯電防止性に優れたABS樹脂組成物が開示されており、必須成分の1つとして、「ポリアルキレングリコールおよびポリアルキレングリコール系共重合体から選択される少なくとも1種」が挙げられている。
特許文献4には、(A)ゴム補強ビニル芳香族重合体、(B)−(CHRCHO)n−で示されるポリエーテル、またはポリエーテルを含有するブロックポリマー、および(C)RCOOM(R=水素またはアルキル、Mはアルカリ金属)からなる永久帯電防止性を有する樹脂組成物が記載されている。
特許文献5には、ポリエステル中に二酸化ケイ素およびポリアルキレングリコール(重量平均分子量1000以上、0.1〜10重量%)を配合した制電性ポリエステルが開示されている。
特許文献6には、ポリアスパラギン酸を含む帯電防止剤およびそれを含有する化粧料が開示されており、界面活性剤との併用により帯電防止能が増加すると記載されている。
特許文献7には、染料を含有する液状組成物にPEGを加えて噴霧乾燥し、染料顆粒調合物を得る方法が記載されている。この方法で得られる顆粒は輸送中等に微細な粉末に変化することが防止される旨記載されているが、帯電性については何ら示唆されていない。
【0004】
医薬分野においては、特許文献8で皮膜系製剤を水およびエタノールの混合溶剤に溶解させて錠剤をコーティングする方法が記載されている。当該方法によれば、水を添加することにより静電気発生が減少され、静電気による着火や引火爆発の危険性が軽減される。製剤例においてPEGを含むコーティング液が開示されているが、PEGによる静電気発生抑制効果については示唆されていない。
粉末の吸着水分は表面電位の減衰速度を増加させることが公知であるが、水分含量が極めて低い乾燥粉末において、乾燥前にPEGを添加しておくことにより帯電性が抑制されることは上記特許文献のいずれにも示唆されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平第7−53484号公報
【特許文献2】国際出願WO03/007967号パンフレット
【特許文献3】特開平10−36629号公報
【特許文献4】特開平3−2252号公報
【特許文献5】特開平5−311515号公報
【特許文献6】特開平8−41445号公報
【特許文献7】特開昭60−240767号公報
【特許文献8】特開昭52−41213号公報
【0006】
帯電性の高い化合物を製造または加工する場合、器具や容器への付着、飛散およびほこりの付着等が問題となる。特に高帯電性の粉末は充填器具に付着し容器への粉末充填が困難になるなど著しく操作性を損なう。食品、化粧品および医薬品等の分野では衛生的であることや添加量、充填量等の厳密性が要求されることから、帯電性を軽減し、操作性を向上させることが求められている。
粉末の吸着水分が表面電位の減衰速度を増加させることが知られていることから、本発明者らは粉末の水分値を制御することにより帯電性を低下させることを試みたが帯電性に変化は見られなかった。従って、全く別の手法により帯電性を制御する方法が求められた。
【発明の開示】
【0007】
本発明は下記を提供するものである。
(1)高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することを特徴とする、低帯電性粉末を製造する方法。
(2)高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより、得られる粉末の帯電性を抑制する方法。
(3)低帯電性粉末の平均電荷が、−2q/m以上である、(1)または(2)記載の方法。
(4)高帯電性化合物の平均電荷が−2q/m未満である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)低帯電性粉末の平均電荷の絶対値が高帯電性化合物の平均電荷の絶対値の1/4以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)平均電荷が、測定化合物および鉄粉を1:9の比で混合したサンプルを用い、粒子帯電量分布測定装置(電圧500V)により測定したものである、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥して得た低帯電性粉末のかため嵩密度が、高帯電性化合物のかため嵩密度の1.5倍以上である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)ポリエチレングリコールの重量平均分子量が350〜10500の範囲内である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)ポリエチレングリコールの凝固点が4℃以上である、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)ポリエチレングリコールがポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール4000およびポリエチレングリコール600からなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の混合物である、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【0008】
(11)ポリエチレングリコールの添加量が高帯電性化合物1mgに対し、0.01〜0.5mgの割合である、(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)高帯電性化合物が医薬活性成分である、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)乾燥が噴霧乾燥である、(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)医薬活性成分およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、医薬活性成分を含む液状組成物を乾燥して得た粉末と比較して帯電性が軽減された粉末を製造する方法。
(15)(1)〜(14)のいずれかに記載の方法で得られた粉末。
(16)式(I):

(式中、Rは水素または代謝性エステル残基、Rは水素または−R−Rを表す。但し、RはSO、CHCOO、COCOOまたはCORCOO(Rは低級アルキレンまたは低級アルケニレン)、Rは水素または代謝性エステル残基を表す)
で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物およびポリエチレングリコールを含有する粉末。
(17)(16)記載の式(I)で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより得られる低帯電性粉末。
(18)(16)または(17)に記載の粉末を含有する医薬製剤。
【0009】
(19)高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより、器具または容器への付着性が軽減された粉末を製造する方法。
(20)高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより製造することを特徴とする、器具または容器への付着性が軽減された粉末。
(21)式(I):


(式中、Rは水素または代謝性エステル残基、Rは水素または−R−Rを表す。但し、RはSO、CHCOO、COCOOまたはCORCOO(Rは低級アルキレンまたは低級アルケニレン)、Rは水素または代謝性エステル残基を表す)
で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物にポリエチレングリコールを添加して製造することを特徴とする、器具または容器への付着性が軽減された粉末。
(22)医薬活性化合物およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、帯電性が抑制された乾燥組成物を製造する方法。
(23)医薬活性化合物およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、得られる乾燥組成物の帯電性を抑制する方法。
(24)乾燥が噴霧乾燥である、(22)または(23)記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
[図1]アセトアミノフェンおよびPEG4000(PEG添加比0.03)を含む溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
[図2]アセトアミノフェン(PEG無添加)を含む溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
[図3]化合物(I−1)およびPEG400(PEG添加比0.37)を含む溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
[図4]化合物(I−1)19重量%の溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
[図5]化合物(I−1)10重量%の溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
[図6]化合物(I−1)5重量%の溶液を噴霧乾燥した粉末の写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書中において「低帯電性粉末」とは、表面電位の負への帯電が軽減された粉末(負電荷を持ちにくい粉末)を意味し、正の電荷を帯びた粉末も包含する。具体的には粒子帯電量分布測定装置(例えばレーザードップラー速度計を用いた粒子帯電量分布測定装置)により測定した平均電荷の下限が−2q/m以上(すなわち、電荷が負であって絶対値が2以下、または電荷がゼロまたは正の数である)、さらに好ましくは−1q/m以上である粉末を意味する。好ましくは平均電荷の上限が+5以下、さらに好ましくは+3以下、最も好ましくは+1以下の粉末である。
粒子帯電量分布測定装置による電荷測定は使用する装置のマニュアルに従って行えばよく、特に測定条件や測定機器を限定するものではない。例えば、測定対象とする化合物および鉄粉を約1:9の比で混合後、約1gを分取する。これをレーザードップラー速度計を用いた粒子帯電量分布測定装置に装填し、約500Vの電圧をかけて適当数の粒子の平均電荷を測定すればよい。
【0012】
「高帯電性化合物」とは、高い負の表面電位を有する化合物はいずれも包含する。具体的には、粒子帯電量分布測定装置(例えばレーザードップラー速度計を用いた粒子帯電量分布測定装置)により測定した平均電荷が−2q/m未満(すなわち、電荷が負の数であってその絶対値が2より大きい)である、さらに好ましくは−5q/m未満(電荷が負の数であってその絶対値が5より大きい)である、最も好ましくは−10q/m未満(電荷が負の数であってその絶対値が10より大きい)である化合物を意味する。
粒子帯電量分布測定装置による電荷測定方法は特に測定条件や測定機器が限定されるものではなく、一例は上述の通りである。
「高帯電性化合物」とは、化合物自身が高い負の表面電位を有していても良く、化合物を乾燥(例えば噴霧乾燥等)させて得られた乾燥物が高い負の表面電位を有していてもよい。
「高帯電性化合物」として例えば医薬活性成分、医薬品添加物(乾燥水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウム等)、食品および食品添加物等が挙げられる。
「医薬活性化合物」とは、帯電性に関わらず、医薬活性を有する全ての化合物を包含する。例えば上記化合物(I)、アセトアミノフェン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、濃厚膵臓性消化酵素、アスペルギルス産生消化酵素、細菌性脂肪分解酵素、繊維素分解酵素、ピンドロール、塩酸セフカペン、ピボキシル、トリクロルメチアジド、マレイン酸レボメプロマジン、塩酸ジサイクロミン、サリチルアミド、無水カフェインおよびメチレンジサリチル酸プロメタジン等)等が挙げられる。
上記「高帯電性化合物」および「医薬活性化合物」とは、好ましくは化合物(I)またはアセトアミノフェンであり、さらに好ましくは化合物(I)である。特に式:

で示される化合物(以下、化合物(I−1)とすることもある)、または化合物(I−1)の2個のCOONa基がCOOH基である遊離酸(以下、化合物(I−2)とすることもある)が好ましい。
【0013】
本明細書中、「代謝性エステル残基」とは、化学的または代謝的に分解され、生体内において薬学的に活性な化合物を産生し得るエステル残基を意味する。例えば、メチル、エチルおよびt−ブチル等の炭素数1〜6のアルキル;フェニル等のアリール;ピバロイルオキシメチル、アセトキシメチルおよび1−アセトキシエチル等の1−(アシルオキシ)アルキル;1−(エトキシカルボニルオキシ)エチルおよび1−(イソプロポキシカルボニルオキシ)エチル等の1−(アルキルオキシカルボニルオキシ)アルキル;(5−メチル−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル等を挙げることができる。
「低級アルキレン」は、炭素数1〜6の直鎖または分枝状のアルキレンを包含する。例えば、メチレン、エチレンおよびトリメチレン等を挙げることができる。
「低級アルケニレン」は炭素数2〜6の直鎖または分枝状のアルケニレンを包含する。好ましくは、−(CH=CH)m−(mは1〜3の整数を表す。)で表される基である。
「アルキル」、「アルキルオキシカルボニルオキシ」の「アルキル」部分は炭素数1〜6の直鎖または分枝状のアルキルを包含し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。好ましくはメチル、エチル等である。
「アシルオキシ」とは(i)炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝状のアルキルカルボニルオキシもしくはアルケニルカルボニルオキシ、(ii)炭素数4〜7のシクロアルキルカルボニルオキシおよび(iii)アリールカルボニルオキシを包含する。具体的には、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、アクリロイルオキシ、プロピオロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、シクロプロピルカルボニルオキシ、シクロヘキシルカルボニルオキシおよびベンゾイルオキシ等を包含する。好ましくはピバロイルオキシ、アセチルオキシである。
「アリール」はフェニル、ナフチル等を包含し、好ましくはフェニルである。
化合物(I)はその製薬上許容される塩を包含し、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等の鉱酸の塩;ギ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマール酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸の塩;アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム等の有機塩基の塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩またはカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等を挙げることができる。
化合物(I)はその溶媒和物も包含し、化合物(I)1分子に対し、任意の数の溶媒分子と配位していてもよい。
【0014】
「液状組成物」とは、溶液、懸濁液、スラリー、乳液等の液体状であるものを全て包含する。好ましくは溶液または懸濁液であり、さらに好ましくは溶液である。
「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」中の高帯電性化合物の濃度は特に限定されるものではなく、化合物の溶解度等を考慮して設定すればよい。好ましくは該液状組成物全重量に対して約0.1〜50重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、最も好ましくは1〜20重量%程度である。
これ以上の濃度であれば高帯電性化合物が溶媒中に十分に溶解または懸濁せず、操作性が低下する。また、これ以下の濃度であれば目的量の低帯電性粉末を得るために多量の液状組成物を乾燥する必要が生じ、生産効率が低下する。また、水分量が多くなるため、高帯電性化合物が分解しない温度では十分に乾燥せず、好適な乾燥粉末が得られない場合がある。
【0015】
「ポリエチレングリコール」とはHOCH(CHOCH)nCHOH(ここでnは2〜600、好ましくは7〜100)で示される化合物を意味する。
低帯電性粉末が医薬品、化粧品または食品等に利用できるものである場合には、PEGは日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格、医薬部外品原料規格、化粧品原料基準、化粧品原料基準外成分規格または食品添加物公定書等に収載されているものを用いることができ、これらから選択される2種以上のPEGを混合して用いてもよい。例えばPEG200、PEG300、PEG400、PEG600、PEG1000、PEG1500、PEG1540、PEG4000、PEG6000およびPEG20000等が挙げられ、これらの単独使用またはこれらから選択される2種以上を組み合わせて用いることができる。重量平均分子量が350〜4500の範囲であるものが好ましい。また、凝固点が4℃以上であるもの、好ましくは15℃以上であるもの、さらに好ましくは50℃以上であるものが好ましい。具体的にはPEG400、PEG4000またはPEG600の単独使用またはこれらから選択される2種以上を組み合わせが好ましく、特に融点が高く乾燥工程での溶融が起こりにくいため、PEG4000の単独使用が好ましい。
【0016】
「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」へのPEGの添加量は高帯電性化合物の種類、その添加量、PEGの種類およびその添加量等により異なるが、好ましくは高帯電性化合物1mgに対し、PEGの添加量は約0.01mg、好ましくは約0.03mg以上の割合である。これ以下の量であれば十分な制電効果が得られない。
本発明の目的である帯電性抑制のためには、PEGの添加量の上限は特に限定されない。例えば低帯電性粉末が医薬品である場合には医薬品添加物としての適切な使用量を考慮し、高帯電性化合物1mgに対し、上限は0.5mg以下、好ましくは0.4mg以下、さらに好ましくは0.2mg未満の割合とすればよい。
【0017】
本発明方法に用いる「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」はさらに任意の添加物を含んでいても良い。
添加物の種類は高帯電性化合物の性状および得られる低帯電性粉末の用途等により異なり、特に限定されるものではない。低帯電性粉末が医薬品、化粧品または食品等に用いられるものである場合には、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格、医薬部外品原料規格、化粧品原料基準、化粧品原料基準外成分規格または食品添加物公定書等に収載されている添加物が使用できる。
例えば医薬品として用いる場合、賦形剤(乳糖、コーンスターチ、PEG4000、D−マンニトール、リン酸水素カルシウム、結晶セルロース等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、マクロゴール4000、ステアリン酸等)、崩壊剤(部分アルファ化デンプン、カルメロースナトリウム、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デキストリン等)、保存剤(安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、ビタミンE、ブチルハイドロキシトルエン等)、湿潤剤(グリセリン、プロピレングリコール等)、矯味剤(ブドウ等、サッカリンナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等)、着色剤(カロチン、酸化チタン等)および香料(メントール等)等の通常医薬に使用される添加物1種〜数種を適宜選択し、製剤化の適当な段階で添加することができる。
「器具または容器への付着性が軽減」とは、例えば以下の方法により具体的に確認することができる。
高帯電性化合物または低帯電性粉末を同じ形状、重量の容器(例えばガラスバイアル等のガラス容器)にそれぞれ同重量ずつ充填し、密閉した後にガラス容器を約10回程度上下反転させて回転させる。蓋を開けてガラス容器を逆転させ、容器を軽く1回タッピングして高帯電性化合物または低帯電性粉末を排出する。容器に内容物が付着している場合には内容物と一緒にガラス容器の重量を測定する。高帯電性化合物および低帯電性粉末の充填量および付着量からそれぞれ付着率を算出する。それぞれの付着率の差が3%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、最も好ましくは50%以上である場合に「器具または容器への付着性が軽減」されたと判断することができる。「乾燥組成物」とは、上記「液状組成物」を噴霧乾燥、凍結乾燥または減圧乾固等の通常の乾燥手段に付し、水分が除去された組成物を全て包含する。好ましくは粉末である。
【0018】
高帯電性化合物が化合物(I)である場合、「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」は、添加物として塩基性物質および糖またはアミノ酸を含有することが好ましい。
ここで塩基性物質とは、化合物(I)の液状組成物のpHを8.5以上にできるものであれば特に制限されないが、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウム等が挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。
糖とはグルコース、マルトース、ラクトース、シュークロース、フルクトースおよびマンニトール等が挙げられ、マンニトールが好ましい。
アミノ酸は好ましくは中性アミノ酸であり、グリシンおよびアラニン等が挙げられる。好ましくはアラニンである。
【0019】
高帯電性化合物が化合物(I)である場合の「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」の好ましい態様は以下の通りである。
A)化合物(I)、PEGおよび塩基性物質を含む液状組成物、
B)化合物(I)が前記化合物(I−1)であるA)の液状組成物、
C)塩基性物質の添加量が化合物(I−1)100mgに対して0.5〜5mg、好ましくは1〜3mg、さらに好ましくは1.5〜2.5mgの割合であるB)の液状組成物、
D)化合物(I)が前記化合物(I−2)であるA)の液状組成物、
E)塩基性物質の添加量が化合物(I−2)100mgに対して5〜20mg、好ましくは10〜20mg、さらに好ましくは12〜18mgの割合であるD)の液状組成物、
F)液状組成物のpHが8.5以上、好ましくは9〜9.8であるA)〜E)のいずれかの液状組成物、
G)さらに糖またはアミノ酸を含有するA)〜F)のいずれかの液状組成物、
H)糖またはアミノ酸の添加量が化合物(I−1)の25重量%以上、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは50重量%であるG)の液状組成物。
【0020】
高帯電性化合物がアセトアミノフェンである場合、「高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物」はアセトアミノフェンおよびPEGのみを含む水溶液であることが好ましい。
【0021】
高帯電性化合物の平均電荷が−2q/m未満であれば本発明方法により低帯電性粉末を得、本発明の効果を十分に享受することができるが、「高帯電性化合物およびPEG以外の上記添加物を含む液状組成物を乾燥して得られた粉末の電荷」または「医薬活性成分を含む液状組成物(該液状組成物はPEGは含まない)を乾燥して得た粉末の電荷」が−2q/m未満、さらに好ましくは−10q/m未満である場合にも、本発明の効果を十分に得られる。
高帯電性化合物が化合物(I)である場合、「高帯電性化合物およびPEG以外の上記添加物を含む液状組成物」または「医薬活性成分を含む液状組成物」とは、具体的には上記A)〜H)からPEGを除いたものである。
【0022】
該液状組成物に用いる溶媒は特に限定されず、アルコールもしくはエーテル等の有機溶媒、緩衝液または水を用いることができるが、環境問題、製造工程における安全性および注射剤として用いる場合には特に生体への影響を考慮し、水を用いることが好ましい。低帯電性粉末を注射剤として用いる場合には注射用水を用いることが好ましい。
【0023】
本発明方法の液状組成物を乾燥する手段は特に限定されず、噴霧乾燥、凍結乾燥または減圧乾固等が挙げられ、好ましくはスプレードライヤーまたは流動層造粒機等を用いた噴霧乾燥である。
例えばスプレードライヤーを使用する場合、以下のような方法で乾燥すればよい。
適当量の高帯電性化合物およびPEGを適当な溶媒に溶解または懸濁し、該液をスプレードライヤーの液に設置し、入口部温度100〜250℃、出口部温度室温〜180℃、捕集瓶の加温温度を室温〜100℃程度に設定して乾燥し捕集瓶に収集する。送液速度は送風速度および噴霧圧力等の条件は溶液濃度、使用する機械の種類、サイズ等によって異なるため、適宜調整する。
スプレードライヤーの液滴の微粒子化方法はノズル方式、ディスク方式および2流体ノズル方式等が挙げられ、いずれであってもよいが、2流体ノズル方式が好ましい。
また、流動層造粒機を使用する場合には、上記と同様にして得た液状組成物を層内温度室温から90℃程度の条件で常法により乾燥すれば目的とする粉末が得られる。噴霧圧力、送液速度、噴霧エアー流量、逆洗エアー等の条件は使用する溶液濃度、使用する機械の種類、サイズ等によって異なるため、適宜調整する。例えば下記条件が想定される。
噴霧圧力:0.01MPa
液速度:14〜15g/分
噴霧エアー流量:45L/分
逆洗エアー:0.4秒/15秒(on/off)
【0024】
本発明方法により得られた低帯電性粉末は、多数の小型粒子がポリエチレングリコールを介して結合した大型塊状粒子を構成している。
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥する手段として噴霧乾燥を採用した場合、低帯電性粉末の粒子は長径と短径を有する場合もある。
塊状粒子の平均粒子径は20μm以上、好ましくは100μm以上、さらに好ましくは200μm以上である。塊状粒子が長径および短径を有する形状である場合、平均粒子径の長径は小型粒子の平均粒子径の30〜200倍、好ましくは50〜150倍程度、短径は小型粒子の平均粒子径の20〜100倍、好ましくは30〜80倍程度である。
本発明方法により得られる粉末の平均粒子径は、PEGを添加せずに高帯電性化合物を含む液状組成物を噴霧乾燥して得られる粒子の平均粒子径の10〜50倍、好ましくは10〜30倍程度となる。長径および短径を有する形状である場合には、塊状粒子の平均粒子径の長径はPEGを添加せずに高帯電性化合物を含む液状組成物を噴霧乾燥して得られる粒子の平均粒子径の10〜50倍、好ましくは10〜30倍程度、短径は該粒子の平均粒子径の5〜30倍、好ましくは5〜20倍程度である。
当該形状を有する粉末の一例は図1の走査電子顕微鏡写真で示すとおりである。
【0025】
尚、ここでいう「平均粒子径」の測定方法は特に限定されず、使用する粒子径測定装置のマニュアルに従って測定すればよい。例えば粒子径の測定を行う粉末を約20〜30mg程度を分取し、粒子径測定装置に装填、測定する。
【0026】
本発明方法により得られる粉末の表面電位は、「高帯電性化合物の表面電位」、「高帯電性化合物およびPEG以外の添加物を含む液状組成物を乾燥して得られた粉末の表面電位」または「医薬活性成分を含む液状組成物を乾燥して得た粉末の表面電位」と比較して絶対値が1/4以下、好ましくは1/10以下に低下させることができる。これにより低帯電性粉末と器具や容器(特にガラス容器)の帯電傾向を近づけることが可能となり、器具や容器への付着や飛散を著しく軽減することができる。機械による粉末の吸引、充填機から容器への充填等の操作性が格段に改善され、輸送や保管中においても容器の側壁や蓋に付着することがない。医薬品のように厳密な使用量が要求される場合には帯電性軽減は非常に重要である。得られた粉末は練合性が高く、医薬品の場合にはペレット製剤への適応が可能となる。
さらに、本発明方法により得られる粉末は溶媒への溶解性が極めて高く、下記試験例3記載の方法で約20秒、好ましくは約10秒以内にほぼ全ての粉末が溶解する。本粉末を用時溶解の注射用製剤等に用いる場合には速溶性は臨床現場において非常に有用性が高い。
本発明方法は液状組成物から1回の噴霧乾燥工程により直接目的とする粉末が得られるため、非常に簡便であり、製造コストも安価に抑えることができる。また、粒子径が大きくなり、安定性が向上するという効果も得られる。
【0027】
得られた粉末の帯電性抑制の指標として、粉末の表面電位を測定する他、粉末のかため嵩密度を測定する方法も用いることができる。高帯電性の粉末は粒子間隙が大きくなり、かため嵩密度が低くなることから、かため嵩密度増加が帯電性低下、操作性向上のひとつの指標となり得る。かため嵩密度が0.25g/cc以上、好ましくは0.28g/ccであれば機械による吸引、充填機から充填容器への移動を良好に行うことができ、一定の操作性が確保できると考えられる。
ここでかため嵩密度とは以下のような方法で求めた値である。
まず、容器に測定するサンプルを3cc充填した後、軽く数回〜10回、好ましくは3回程度のタッピングを行う。嵩が減った際には粉末を追加して同一操作を繰り返す。嵩変化がなくなった時点での1ccあたりのサンプル重量を求める。
本発明方法によって得られた低帯電性粉末のかため嵩密度は、「高帯電性化合物のかため嵩密度」、「高帯電性化合物およびPEG以外の上記添加物を含む液状組成物を乾燥して得られた粉末のかため嵩密度」または「医薬活性成分を含む液状組成物を乾燥して得た粉末のかため嵩密度」の1.5倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上となる。
【0028】
本発明方法により得られる粉末は例えば食品、化粧品、医薬品および塗料等あらゆる用途に使用することができる。
得られた粉末を医薬品として用いる場合には、常法により散剤、顆粒剤、カプセル剤またはペレット剤等として調製することが可能である。
また、使用する用具および材料等を予め滅菌し、全ての工程を無菌・無塵で行うことにより、注射用医薬品粉末を得ることも可能である。
使用する用具および材料等は非滅菌物の形態、耐熱性、耐圧性等を考慮して、常法(例えば高圧蒸気滅菌、乾熱滅菌、γ線滅菌等)により滅菌すればよい。
高帯電性の医薬活性成分、PEGおよび必要に応じて各種医薬添加物を適当量の溶媒(例えば注射用水)を加えて撹拌し、液状組成物を調製する。液状組成物の濃度は溶媒の種類および高帯電性医薬活性成分の溶解度等を考慮して決定することができる。該液状組成物を常法により、無菌ろ過する。必要であれば、無菌ろ過の前に分解物、汚染物質等の除去を目的とした粗ろ過を行ってもよい。また、高帯電性の医薬活性成分が熱に安定である場合には、液状組成物をオートクレーブ等で滅菌してもよい。
こうして得られた無菌液を上記滅菌した乾燥装置(スプレードライヤー、流動層造粒機等)で噴霧乾燥し、低帯電性粉末を得、該粉末の適当量を、例えば滅菌されたガラスバイアルに充填して用時溶解注射剤とする。これを患者に投与する際には注射用蒸留水を加えて撹拌し、注射液として投与すればよい。
乾燥装置および充填装置自体は、アースすることにより帯電性が軽減されていると考えられるが、高帯電性粉末を処理する際には装置への粉末の付着が避けられず、操作性が低下する。また、ガラスバイアルはプラスに帯電しやすく、高帯電性粉末を充填すると壁面に付着しやすい。本発明の低帯電性粉末であれば装置およびガラスバイアルの壁面への付着が著しく軽減される。
【0029】
化合物(I)、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物を高濃度で含有する液状組成物を噴霧乾燥することにより、PEGを添加することなく速溶性粉末を得ることができる。すなわち、本技術により
(25)上記(16)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物を濃度7重量%以上で含有する液状組成物を噴霧乾燥することにより製造される速溶性粉末、
(26)液状組成物の濃度が25重量%以下である、上記(25)記載の速溶性粉末、
(27)速溶性粉末が中空状の粉末である、上記(25)または(26)記載の速溶性粉末、
(28)上記(25)〜(27)のいずれかに記載の粉末を含有する医薬製剤、および
(29)上記(16)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物を濃度10重量%以上で含有する液状組成物を噴霧乾燥することを特徴とする、速溶性粉末の製造方法
が提供される。
【0030】
本技術に用いる化合物(I)は好ましくは化合物(I−1)または(I−2)である。その濃度は好ましくは7重量%以上、さらに好ましくは7〜25重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。
この濃度範囲の液状組成物を噴霧乾燥した場合、PEGを添加しなくとも得られる粉末は中空状となり、速溶性粉末を得ることができる。
この濃度範囲以下の液状組成物を噴霧乾燥する場合、PEG無添加であれば得られる粉末の大部分は中空状にならず速溶性粉末とならない。また、液状組成物の濃度を25重量%以上に設定した場合には、化合物(I)が十分に溶解または懸濁されず好適に噴霧乾燥することができない。
該液状組成物の溶媒は特に限定されず、アルコール、エーテル等の有機溶媒、緩衝液または水を用いることができるが、環境問題、製造工程における安全性および注射剤として用いる場合には特に生体への影響を考慮し、水を用いることが好ましい。
本技術で用いる噴霧乾燥の手段は特に限定されず、上述の通り、スプレードライヤーまたは流動層造粒機等を用いて常法により乾燥すればよい。
【0031】
本技術で用いる液状組成物は、化合物(I)に加えて、前述の通常医薬に使用される添加剤を適宜選択し、製剤化の適当な段階で添加することができる。好ましくは以下のような水溶液である。
A)化合物(I)および塩基性物質を含む水溶液
B)塩基性物質の添加量が化合物(I−1)100mgに対して0.5〜5mg、好ましくは1〜3mg、さらに好ましくは1.5〜2.5mgの割合であるA)の水溶液
C)塩基性物質の添加量が化合物(I−2)100mgに対して5〜20mg、好ましくは10〜20mg、さらに好ましくは12〜18mgの割合であるA)の水溶液
D)溶液状態でのpHが8.5以上、好ましくは9〜9.8であるA)〜C)のいずれかの水溶液
E)さらに糖またはアミノ酸を含有するA)〜D)のいずれかの水溶液
F)糖またはアミノ酸の添加量が化合物(I−1)の25重量%以上、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは50重量%であるE)の水溶液。
ここで塩基性物質、糖およびアミノ酸としては前述と同様のものが挙げられる。
【0032】
本技術で得られた速溶性粉末は約20秒、好ましくは約10秒以内にほぼ全ての粉末が溶解する。
ここで溶解時間は、容器に測定するサンプル300mgおよび水10mlを入れて振とうして測定する。医薬の場合には測定サンプルは医薬活性成分が300mg相当であればよく、それに加えて医薬品添加物を含有するものであってもよい。振とう方法や時間等は特に制限されない。具体的には後述の試験例3記載の方法で測定すればよい。
【実施例】
【0033】
実施例1 PEG4000を用いたアセトアミノフェン粉末の製造
アセトアミノフェンおよびPEG4000をそれぞれ2.8gおよび701mg(混合比率4:1、PEG添加比(医薬活性成分1mgに対するPEGのmg数)0.25)、2.8gおよび351mg(混合比率8:1、PEG添加比0.125)、2.8gおよび176mg(混合比率16:1、PEG添加比0.06)並びに14gおよび437mg(混合比率32:1、PEG添加比0.03)の各割合で混合し、そこへ水を適量加えてアセトアミノフェンの最終濃度を1.4重量%とした。これを下記条件で噴霧乾燥し、粉末を得た。
いずれの比率でも搬送性が良好で無着色の粉末が得られた。PEG添加比0.03の粉末が特に操作性が優れていた。
対照として製造したPEG無添加アセトアミノフェンを噴霧乾燥した粉末は若干の着色が見られた。
PEG添加比0.03のアセトアミノフェン粉末の写真を図1に、PEG無添加アセトアミノフェン粉末の写真を図2に示す。
噴霧乾燥機条件
噴霧乾燥機 スプレードライヤーSD−1000型(東京理化器械株式会社製)
送液量 30目盛(約6ml/分)
入口温度 170℃
出口温度 95〜100℃
乾燥空気量 0.60m/分噴霧圧力 70kPa
【0034】
実施例2 PEG4000を用いた化合物(I−1)粉末の製造
特開平7−53484号記載の方法に従い製造した化合物(I−1)300mgおよびD−マンニトール150mgに注射用水を適量加えて(最終添加量2.55gまたは1.11g)化合物(I−1)の最終濃度が10重量%または18重量%となるように調整した。そこへPEG4000を110mg添加(PEG添加比0.37)し、十分に撹拌し、下記条件にて噴霧乾燥を行った。
噴霧乾燥機条件
噴霧乾燥機 スプレードライヤーSD−1000型(東京理化器械株式会社製)
送液量 30目盛(約6ml/分)
入口温度 150℃
出口温度 90℃
乾燥空気量 0.60m/分噴霧圧力 50kPa(水溶液中の(I−1)濃度:18重量%)
70kPa(水溶液中の(I−1)濃度:10重量%)
【0035】
実施例3 PEG400を用いた化合物(I−1)粉末の製造
PEG4000の代わりにPEG400(111mg)を用い(PEG添加比0.37)、化合物(I−1)の溶液における最終濃度を19重量%とする以外は実施例2と同様にして化合物(I−1)粉末を製造した。得られた粉末は搬送性が高く、操作性に優れたものであった。得られた粉末の写真を図3に示す。
噴霧乾燥機条件
噴霧乾燥機 スプレードライヤーSD−1000型(東京理化器械株式会社製)
送液量 10目盛(約2ml/分)
入口温度 170℃
出口温度 120〜130℃
乾燥空気量 0.50〜0.55m/分
噴霧圧力 50kPa
捕集瓶 加温(60℃)
【0036】
試験例1 電荷測定
実施例1により得られたPEG4000含有アセトアミノフェン400mg(アセトアミノフェン:PEG=32:1、PEG添加比0.03)およびキャリアとして3600mgの鉄粉(TEFV−200/300(登録商標)、パウダーテック社製)をガラス製サンプル容器に入れ、10秒間手混合を行った。これを約1g(粒子の真密度1.20g/cm)分取し、イースパートアナライザ(ホソカワミクロン社製)を用いて電荷測定を行なった(粒子数3000個、電圧:500V、供給フィーダ:マグネット型標準フィーダによる標準方法)。対照として、PEG無添加のアセトアミノフェンを用い、同様に測定した(粒子数500個)。
それぞれ2回の電荷測定を行い、その平均を求めた。結果を以下に示す。

上記結果より、PEG4000添加アセトアミノフェンは著しく帯電性が抑制されていることが明らかである。
【0037】
試験例2 電荷測定
試験例1と同様の方法で下記サンプルについて電荷測定を行った。
i)化合物(I−1)300mg
ii)化合物(I−1)300mg、マンニトール150mgおよびPEG4000 120mg(下記条件で噴霧乾燥)
結果を以下に示す。

噴霧乾燥機条件
噴霧乾燥機 スプレードライヤーSD−1000型(東京理化器械株式会社製)
送液量 30目盛(約6ml/分)
入口温度 170℃
出口温度 115℃
乾燥空気量 0.70m/分噴霧圧力 50kPa(水溶液中の(I−1)濃度:5重量%)
【0038】
試験例3 かため嵩密度測定
実施例1により得られたPEG4000添加アセトアミノフェン(PEG添加比0.03)および実施例2により得られたPEG4000添加化合物(I−1)の粉末を用い、かため嵩密度を測定した。ドライボックス内で容器に3ccまで供試化合物の粉末を充填したのち、軽く3度のタッピングを行い、嵩が減った際には粉末を追加して同一の操作を繰り返した。最終的に嵩の変化が無くなった時点で粉末を追加するのをやめ、その時のかため嵩密度(g/cc)の測定を行った。
対照として、PEG無添加アセトアミノフェンおよびPEG無添加化合物(I−1)を用い、同様に測定を行った。
結果を以下に示す。

上記結果より明らかな通り、PEGを添加した薬物ではかため嵩密度が高くなり、搬送性が向上した。これはPEG添加による帯電防止効果によるものと推察される。特に化合物(I−1)はPEG無添加でかため嵩密度が低いため、PEG添加により、製剤化工程において粉末充填の操作性が格段に改善されることが明らかである。
【0039】
試験例4
実施例2と同様の方法により調製したPEG添加化合物(I−1)(PEG4000、添加比0.4)約70mgをガラスバイアル(肩までの容量が14ml)に充填し、密閉した後に10回上下反転させて回転させた。蓋を開けてガラスバイアルを逆転させ、容器を軽く1回タッピングしてPEG添加化合物(I−1)を排出した。ガラスバイアルの重量を測定し、PEG添加化合物(I−1)の付着量および付着率を算出した。対照として、化合物(I−1)50mgに対しマンニトール25mgを添加し、実施例2と同様の方法で噴霧乾燥を行った噴霧乾燥粉末(PEG無添加化合物(I−1))を用いて同様に付着量および付着率を求めた。結果を以下に示す。

上記結果より、PEGを添加した薬物には容器への付着が著しく軽減されていることがわかる。
【0040】
試験例5 溶解時間測定
バイアル(肩までの容量が20ml)内に実施例2または実施例3により得られたPEG添加化合物(I−1)の粉末300mg相当を充填した。そこへ注射用蒸留水10mlを入れて振とう(アームの長さ約20センチ、振幅45°で20回/10秒)し、溶解時間の測定を行った。
結果を以下に示す。

PEGを添加した場合には溶解時間が短縮し、即溶性粉末が得られることが判明した。
【0041】
参考例1 溶液濃度調整による溶解性改善効果
化合物(I−1)300mg、D−マンニトール150mgおよび水酸化ナトリウム適量を混合し、それを用いて種々の濃度の水溶液(pH9.5〜9.75)を調製した。得られた水溶液を実施例1と同様の条件で噴霧乾燥し、得られた粉末について上記試験例3と同様の方法により溶解時間を測定した。また下記条件下で粒子径も測定した。
乾式粒度測定条件
乾式粒度分布計 SKレーザーマイクロンサイザーLMS−30(セイシン企業)
分散媒 圧縮空気0.4M
試料 約20〜30mg
結果を以下に示す。

上記より、水溶液濃度を10重量%以上とした場合には溶解時間が著しく短縮されることが明らかとなった。高濃度での噴霧乾燥を行うことにより中空状の粉末を選択的に得ることができたため、溶解時間の短縮につながったと考えられる。
濃度19、10、5重量%の水溶液から得られた粉末の写真をそれずれ図4〜6に示す。
以上の試験例から明らかなように本発明方法で得られた低帯電性粉末は、かため嵩密度が高く操作性が飛躍的に向上しており、溶解性も向上した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により器具や容器への付着、飛散等の問題を回避し、操作性が向上した粉末が得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することを特徴とする、低帯電性粉末を製造する方法。
【請求項2】
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより、得られる粉末の帯電性を抑制する方法。
【請求項3】
低帯電性粉末の平均電荷が、−2q/m以上である、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
高帯電性化合物の平均電荷が−2q/m未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
低帯電性粉末の平均電荷の絶対値が高帯電性化合物の平均電荷の絶対値の1/4以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
平均電荷が、測定化合物および鉄粉を1:9の比で混合したサンプルを用い、粒子帯電量分布測定装置(電圧500V)により測定したものである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥して得た低帯電性粉末のかため嵩密度が、高帯電性化合物のかため嵩密度の1.5倍以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ポリエチレングリコールの重量平均分子量が350〜10500の範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ポリエチレングリコールの凝固点が4℃以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ポリエチレングリコールがポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール4000およびポリエチレングリコール600からなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の混合物である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ポリエチレングリコールの添加量が高帯電性化合物1mgに対し、0.01〜0.5mgの割合である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
高帯電性化合物が医薬活性成分である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
乾燥が噴霧乾燥である、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
医薬活性成分およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、医薬活性成分を含む液状組成物を乾燥して得た粉末と比較して帯電性が軽減された粉末を製造する方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法で得られた粉末。
【請求項16】
式(I):

(式中、Rは水素または代謝性エステル残基、Rは水素または−R−Rを表す。但し、RはSO、CHCOO、COCOOまたはCORCOO(Rは低級アルキレンまたは低級アルケニレン)、Rは水素または代謝性エステル残基を表す)
で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物およびポリエチレングリコールを含有する粉末。
【請求項17】
請求項16記載の式(I)で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより得られる低帯電性粉末。
【請求項18】
請求項16または17に記載の粉末を含有する医薬製剤。
【請求項19】
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより、器具または容器への付着性が軽減された粉末を製造する方法。
【請求項20】
高帯電性化合物およびポリエチレングリコールを含有する液状組成物を乾燥することにより製造することを特徴とする、器具または容器への付着性が軽減された粉末。
【請求項21】
式(I):

(式中、Rは水素または代謝性エステル残基、Rは水素または−R−Rを表す。但し、RはSO、CHCOO、COCOOまたはCORCOO(Rは低級アルキレンまたは低級アルケニレン)、Rは水素または代謝性エステル残基を表す)
で示される化合物もしくは製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物にポリエチレングリコールを添加して製造することを特徴とする、器具または容器への付着性が軽減された粉末。
【請求項22】
医薬活性化合物およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、帯電性が抑制された乾燥組成物を製造する方法。
【請求項23】
医薬活性化合物およびポリエチレングリコールを含む液状組成物を乾燥することにより、得られる乾燥組成物の帯電性を抑制する方法。
【請求項24】
乾燥が噴霧乾燥である、請求項22または23記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/108163
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506760(P2005−506760)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007608
【国際出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】