説明

低床式路面電車

【課題】客室において車体全幅にわたり低床面である部分を最大限確保する。
【解決手段】運転台付き車両22,23の客室は、座席22c,22dが車幅方向に向かい合って配置され、座席22c,23c下および通路22d,23dがともに低床部になっている。片側一軸を小径車輪12aとし残りの一軸を大径車輪6aとするボギー台車1の大径車輪6a側が運転台Dの床部の下に、小径車輪12a側が客室Pの床部の下にそれぞれ配置される。座席22c,23dの運転台寄りに隣接して、少なくとも1つの出入り口(ドア22e,23e)が設けられ、その出入り口の床部も座席22c,23c下および通路22d,23dと同じ低床部になっている。座席22c,23c下の床部上に、蓄電池BAが配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてワンマン運転で、軌道を走行する低床式路面電車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
21世紀を迎え、本格的な高齢化社会が訪れようとしているとともに、移動制約者への対応などの理由で、低床式路面電車が注目されつつある(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
ワンマン運転を伴う低床式路面電車としては、車両後方あるいは中程にある乗客入口より先端(運転台背面あるいは側面)の乗客出口まで段差のないフラットな低床面を有することが第1に要求される。このような低床式路面電車を実現するためには、一般的な台車の車軸では、低床部と干渉するので、干渉するおそれがないように小径車輪とすることが考えられるが、電動台車では、モータやギヤボックスがあり、そのような構成とすることが困難である。一方、台車を、車軸の通っていない独立軸台車とすれば、車輪の間に低床部を設けることが可能である。
【0004】
従って、前記要求を満たすためには、台車は、乗客出入口よりも車端寄りの編成端部に限っては串軸台車でもよいが、それ以外の部分に設ける場合には独立軸台車にする必要がある。なお、独立軸台車をボギー台車とすると、十分な貫通路幅を確保できないので、低床部を確保する観点からは、独立軸ボギー台車の採用意義はない。
【0005】
よって、各台車タイプの、列車編成中における配置は、次の表1のパターンになる。
【0006】
【表1】

ここで、「ボギー台車」とは車体に対し旋回し得る台車をいい、「単台車」とは車体に対し旋回しない台車をいい、「串軸」とは左右の車輪が車軸で結合されている輪軸をいい、「独立軸」とは左右の車輪が各々独立に回転し得る輪軸をいう。
【0007】
ところで、一軸台車と二軸台車とでは、ステアリングの観点から、原理的にレールによる案内機構が全く異なる。一軸台車自体ではステアリング機能を有しないので、別途リンク機構などの装置が必要となる。そのため、発明者は、システムの簡便化を図るために、そのような一軸台車を除き、二軸台車を採用することとした。
【0008】
以上の検討結果から、車両の最小単位は、次の4つのタイプに分けられる。
A:単車(ボギーしない独立軸台車を用いた車両)
B:ボギー車(台車は1つ)
B2:ボギー車(台車は2つ)
C:吊り車(前後に連なる車両により支持されている車体であり、台車を持たない)
これらに組み合わせにより、前記要求を満たす編成を作れば、次の表2に示す4タイプが考えられる。
【0009】
【表2】

タイプIIIは、両端に来る単車(A)に出入口をもってくるかどうかで、2タイプIII,III’に分けられる。これらを模式的に表すと、図11のようになる。
【0010】
このようにして、各種低床式路面電車が提案されているが、第2の要求事項として、車体の全幅にわたって低床面となる全幅完全低床部を最大限に確保したいということがある。なぜなら、独立軸台車のある部位は、車輪の間は低床部であるが、車輪の部分はかなり床面が高い高床部であり、腰掛け等の配置にしか利用することができず、鉄道事業者によってシートアレンジを自由に選択できないからである。特に、ワンマン運転では、混雑する乗客出口付近は腰掛けをなくすなど、自由なレイアウトを考えるべきである。また、低床式車両は一般的に、主として屋上に機器を搭載するため、スペースが不足する場合は床上に配置せざるを得ず、この場合も全幅完全低床部が少ないと不利である。
【0011】
そこで、台車スペースB(ボギーしない場合)、B’(ボギーする場合)、出入り口スペースD、連結面間距離G等とすると、車体全幅にわたり低床面であるスペースXi(i=1〜4)は図11に示すとおりとなり、全長15mの車両で、実例の数値を代入すると、全幅完全低床率の大きいものはタイプIやIII’となる。
【0012】
図12に低床率と全幅完全低床率をまとめたものを示す。
【特許文献1】特開2001−158346号公報(段落0006,0007および図1〜3)
【特許文献2】特開2001−138905号公報(段落0006〜0012および図1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
タイプIやIII’では、曲線通過時おける偏倚の関係から車両長が制限されるし、また、逆に低床率は低下してしまう(つまり運転台が大きくなる)。タイプIやIII’を除けば、IIは全幅低床率が最も大きく、また低床率も最大である(ちょうどバスのように乗客出口を最前縁にもってきても半室運転台が構成可能であるため)。しかし、単車のみの構成であるため、重心バランスの都合で客室割り付けに自由度がないし、2両編成までであり、長編成化への発展性がない。
【0014】
したがって、残るのは,タイプIIIとIVであるが、タイプIIIでは降車時に混雑する降車口付近が必ず狭隘な通路部となるため、ワンマン運転を条件とする場合には望ましくなく、降車口付近は自由に客室アレンジができることが望ましい。
【0015】
この意味では、タイプIVが理想であるが、タイプIVは低床率、全幅完全低床率ともに劣る。その原因は先端のボギー台車部でスペースを取りすぎているためであり、この部分のスペースCを縮めることができれば、理想的な低床式車両が構成できることに発明者は着想し、本発明をなすに至ったものである。
【0016】
そして、タイプIVにおいてB’のスペースを縮めてスペースCとしてものをタイプIV’とする。スペースCを実現するために、ボギー台車の片側一軸を小径車輪とし、この部分を低床部に潜り込ませる構成とする。こうすれば、高度な一軸ステアリング技術を用いることなく、ボギー台車にて、車幅の全幅にわたり低床面である完全低床部を拡大することができる。なお、タイプIV’における全幅完全低床部X4’がタイプIIIのX3よりも大きくなる条件は、図11に示すとおり、C<(B+D)/2である。B=2500mm、D=1300mmの実施例ではC<1900mmであればよいことになり、実施例ではC=1500mmで成立していることから、タイプIVの全幅完全低床率39%はタイプIIIの34%よりも大きくなっている。低床率は、同じ63%であり、悪化していない。
【0017】
本発明は、ボギー台車の片側一軸を小径車輪とし、この部分を客室の床部の下に潜り込ませることで、客室において車体全幅にわたり低床面である部分を最大限確保できる低床式路面電車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1の発明は、先端部に運転台が配置され前記運転台より中央寄りが客室に構成される運転台付き車両を備える低床式路面電車であって、片側一軸を小径車輪とし残りの一軸を大径車輪とする二軸ボギー台車の大径車輪側が前記運転台の床部の下に、前記小径車輪側が前記客室の床部の下にそれぞれ配置されていることを特徴とする。ここで、小径車輪の直径は、低床高さが路面より360mm以下を実現できる径とされる。
【0019】
このようにすれば、片側一軸を小径車輪とし残りの一軸を大径車輪とする二軸ボギー台車を用い、前記大径車輪側が前記運転台の床部の下に、前記小径車輪側が前記客室の床部の下にそれぞれ配置することになるので、前記運転台付き車両の客室は、座席下の床部および通路の床部がともに低床面になり、車体全幅低床の部分を最大限確保することを実現できる。
【0020】
この場合、請求項2に記載のように、前記運転台付き車両が客室専用車両の前後に連節された3両編成で構成され、前記客室専用車両は、通路を挟んで座席が設けられ、前記通路が前後の前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面で、前記座席の下がやや高い床部に構成され、この高床部下に軸箱に回転自在に支持された独立車輪が配置されている構成とすることも可能である。
【0021】
このようにすれば、中間の客室専用車両の通路を、前後の前記運転台付き車両の座席下の床部および通路の床部と同じ高さの低床面とすることができ、前後の前記運転台付き車両の客室と中間の客室専用車両の客室との間を、通路を通じて、段差なくスムーズに移動できる。
【0022】
また、請求項3に記載のように、前記運転台付き車両が、吊り車を挟んだ2つの客室専用車両の前後に連節された5両編成で構成され、前記客室専用車両は、通路を挟んで座席が設けられ、前記通路が前後の前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面で、前記座席の下がやや高い床部に構成され、この高床部下に軸箱に回転自在に支持された独立車輪が配置され、前記吊り車の座席下の床部および通路の床部がともに前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面である構成とすることも可能である。
【0023】
このようにすれば、中間の客室専用車両の通路に加えて、吊り車の座席下の床部および通路の床部ともに前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面となるので、前後の前記運転台付き車両、中間の客室専用車両および吊り車の客室の間を、通路を通じて、段差なくスムーズに移動できる。
【0024】
請求項4に記載のように、蓄電池と架線から集電するパンタグラフとを備え、架線を設置した区間ではパンタグラフにより架線から集電して、その電力で走行するとともに前記蓄電池を充電し、架線のない区間では前記蓄電池を電源として走行するもので、車体の屋根上に機器類が、前記パンタグラフとともに配置され、前記運転台付き車両の客室内の座席下の低床面上に、前記蓄電池が配置されている構成とすることも可能である。
【0025】
このようにすれば、大容量および大重量の蓄電池を、客室内の座席下の低床部上に配置することで、デッドスペースを利用して無理なく配置することができ、架線のない区間では前記蓄電池を電源として走行することができる。
【0026】
請求項5に記載のように、前記ボギー台車は、前記小径車輪を誘導輪とするとともに、前記運転台の床部の下に配置される大径車輪を主車輪(駆動輪)として備え、前記大径車輪および小径車輪は、ともに左右の車輪を車軸に固定した串軸とし、前記大径車輪を回転可能に支持する主車軸枠を車体に対し水平旋回可能に取り付け、前記小径車輪を回転可能に支持する副車軸枠の前端部を、前記主車軸枠の後端部に対し上下方向に揺動自在に連設するとともに、前記小径車輪を下向きに付勢する軸ばねを、両車軸枠間に介設した構成とすることができる。
【0027】
このようにすれば、客室において車体全幅低床の部分を最大限確保する上で有利であるボギー台車を簡単に構成することができる。
【0028】
請求項6に記載のように、前記ボギー台車は枕はりを備え、その枕はりの下面左右両側に第1のブラケットがそれぞれ下向きに突出して設けられ、前記各ブラケットと車体の鉛直面部に固定した第2のブラケットとがボルスタアンカにて連結されている構成とすることができる。
【0029】
このようにすれば、これにより、ボギー台車の大径車輪が駆動装置で駆動されることによる動力で、車体がボルタアンカを介して牽引される。
【発明の効果】
【0030】
以上のように構成したから,本発明は、片側一軸を小径車輪とし残りの一軸を大径車輪とする二軸ボギー台車を用い、前記大径車輪側が前記運転台の床部の下に、前記小径車輪側が前記客室の床部の下にそれぞれ配置することになるので、客室において車体全幅低床の部分を最大限確保することを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0032】
図8は本発明に係る低床式路面電車に用いる二軸ボギー台車の一実施の形態を示す平面図、図9は同側面図、図10は左半分が図9のA方向矢視図、右半分が図9のB方向矢視図である。
【0033】
図8および図9に示すように、本発明に係る低床式路面電車21(例えば図1および図2参照)に用いる二軸ボギー台車1は、編成の前後に配置される運転台付き車両22,23の車体20の先端部(最前端部または最後端部)下に左右一対の枕ばね2を介して取り付けられる枕はり3付きの台車で、枕はり3の幅方向の中央位置に心ざら4を中心に水平旋回可能に支持された台車枠5を備えている。この台車枠5の両側の主車軸枠5aの前部間に、車軸6bの両側に大径車輪6a(例えば直径600mm)を一体回転可能に備えた主輪軸6が回転可能に取り付けられている。
【0034】
両側の主車軸枠5a間を連結する横はり5b上の両側には、図10のように、左右の各大径車輪6aに対向する踏面ブレーキ7が設けられている。また、車軸6bの左側に減速歯車装置8が一体に組み込まれ、横はり5bの中央部付近に取り付けられた駆動装置9と減速歯車装置8とが接続され、両側の大径車輪6aが駆動輪として機能する構成とされている。
【0035】
両側の各主車軸枠5aの後端二股部間に、副車軸枠10の前端部がそれぞれ上下方向に揺動自在に水平ピン11で連結されている。両側の副車軸枠10の後部間に、車軸12bの両側に誘導輪である小径車輪12a(例えば250mm)を一体回転可能に備えた副輪軸12が回転可能に取り付けられ、左右の水平ピン11を中心に上下方向に揺動する。各主車軸枠5aの後端部において、水平ピン11よりやや前方の下部からブラケット(スプリング受け)13が側方に一体に張り出して設けられ、副車軸枠10の長手方向に中間位置より側方に張り出した二股部10aの前端部10bとブラケット13の間に、コイルスプリング(軸ばね)14を縮装し、小径車輪12aが下向きに付勢されるようにしている。したがって、水平ピン11を中心に副車軸枠10を介して小径車輪12aが下方へ付勢され、小径車輪12aは軌道(レール)に対し一定の荷重で押し付けられる。
【0036】
これにより、小径車輪12aが軌道上から浮き上がるなどの輪重抜けが防止され、同時に小径車輪12a(もしくは副車軸枠10)と車体20の下面との接触が回避される。
【0037】
なお、小径車輪12aや大径車輪6a(主車輪)の軸ばね定数を非線形として、圧縮すればばね定数が硬くなり、伸び側ではばね定数が柔らかくなるようにすることによって、不静定要因の輪重減少を改善することもできる。
【0038】
図9および図10に示すように、ボギー台車1の枕はり3の下面の左右両側に第1のブラケット15aがそれぞれ下向きに突出して設けられ、各第1のブラケット15aの下端部と、コイルスプリング14の上方に位置する車体20の鉛直面部20aに固定した第2のブラケット15bとがボルスタアンカ15にて連結されている。これにより、ボギー台車1の大径車輪6aが駆動装置9で駆動されることによる動力で、車体20がボルタアンカ15を介して牽引される。なお、台車枠5の先端にガードプレート16の上端が下向きに固定されている。なお、図9において、30は軌道(走行レール)を示す。
【0039】
上記のようにして、低床式路面電車21(例えば図1および図2参照)に用いる二軸ボギー台車1が構成され、この台車によれば、車両22,23の最前端部下または最後端部下に大径車輪6aを配置し、その中央寄りに小径車輪12a(誘導輪)が配置されるので、例えば車両の最前端部および最後端部を運転台とし、それより中央寄りを客室とした車両構成により、客室において車体全幅にわたり低床である部分を最大限確保する、ワンマン運転の車両を実現することができる。また、客室において車体全幅にわたり低床である部分を最大限確保するので、客室に配置する座席のレイアウトの自由度が高まる。ここで、小径車輪12aを直径250mmとしているので、低床高さが路面より360mm以下である低床化が実現される。
【0040】
また、大径車輪6aおよび小径車輪12aの両輪とも両側の車輪を車軸に対して固着した串軸を使用したので、大径車輪6aおよび小径車輪12aの背面間距離が正確に規定され、小曲線や分岐部通過時には車輪の背面をガードレールに沿って接触させ案内させることができる。
【0041】
さらに車両の最前端部または最後端部に大径車輪6aを配置して主車輪とし、前記車両の中央寄りに小径車輪の小径車輪12aを配置し、主車軸枠5aの、車体20に対する水平旋回抵抗により大径車輪6aおよび小径車輪12aに作用する横圧と、曲線に進入しボギー台車1全体を走行させるのに必要な横圧との和が大径車輪6aに作用するようにしたから、小径車輪12a側に過大な横圧が作用するのを防止し、小径車輪12aの輪重抜けやこれに起因する脱線を阻止することができる。
【0042】
続いて、図1および図2に基づき、ボギー軸台車1を備えた、本発明に係る低床式路面電車の一実施の形態について説明する。
【0043】
図1および図2(a)(b)に示すように、本例の低床式路面電車21は、客室P専用車両24の前後に運転台付き車両22,23を連結器28および幌29を介して連節した3両編成の車両からなる。前後の車両22,23は先端部に運転台Dが配置され、運転台Dを除きこの運転台Dより車体長さ方向中央寄りが車体全幅にわたり低床面である客室Pに構成されている。車両22,23の運転台Dの床部22b,23bが客室Pの低床部22a,23aに比べてやや高く上がっているのは、各運転台Dの床部22b,23b下に、片側一軸を小径車輪12a(誘導輪)とするボギー台車1の枕はり3を枕ばね2を介して取り付けるためである。二軸ボギー台車1の小径車輪12aは車体長さ方向中央寄りで客室Pの低床部22a,23aの下側に配置され、もう一軸を構成する大径車輪6aは運転台D下側に配置される。車体20の運転台Dと客室Pとの段差部における鉛直壁20aに左右一対のボルスタアンカ15が連結される。
【0044】
この配置により、座席22c,23c下の床部および通路22d,23dの床部がともに低床になっている。つまり、客室Pが車体全幅にわたり低床面である低床部22a,23aとなっている。ここで、通路幅は、乗客の移動をスムーズに行うために、一定の幅(例えば800mm)以上確保している。
【0045】
そして、車両22,23の客室Pにおいては、座席22c,23cが車幅方向に向かい合って配置され、この座席22c,23c下の低床面上に、大きなデッドスペースを利用して蓄電池BA(例えばニッケル水素電池)が配置され、架線のない区間では蓄電池BAを電源として走行できるようになっている。つまり、架線を設置した区間では後述のパンタグラフ27により架線から集電して、その電力で走行するとともに蓄電池BAを充電し、架線のない区間では蓄電池BAを電源として走行することができる。
【0046】
ところで、電車21は、通常、架線から電力を取り入れ、モータを回転して走行する。ブレーキ時には前記モータを発電機として使用し、頭上の架線に電力を返し、エネルギー効率を高めている(回生ブレーキ)。しかしながら、せっかく架線に電力を返しても、回生電力を使用する他の電車がない場合には、前記モータは発電機として働かず(回生失効)、機械ブレーキに切り替わり電車の運動エネルギーは熱となって発散していた。そこで、この発明の電車は、発電したエネルギーを蓄電池BAに蓄え、発車時のモータ駆動や補機の電源として有効に活用することで、エネルギー効率を飛躍的に高めるようにしているのである。
【0047】
また、車両22,23の座席22c,23cに隣接して、ドア22e,23eにて開閉される出入り口が設けられているが、床部の排水を考慮して出入り口部をわずかに低く下げる傾斜床部を勘案しない場合は、前記出入り口の床部22f,23fも通路と同じ低床部になっている。つまり、前後の車両22,23は運転台Dを除く客室Pが車体全幅にわたり低床である車両となる。
【0048】
中間の客室専用車両24は、通路24aを挟んで両側に車長方向に向かい合うように座席24bが設けられている。通路24aは前後の車両22,23と同じ高さの低床であるが、座席24bの下がやや高い床部24cになっている。これは、この床部24c下に軸箱25aに回転自在に支持された独立車輪25(例えば直径610mm)が配置され、高床部24cと軸箱25aとの間に枕ばね26を設けるためである。なお、車両24の屋根上に、架線から電力を取り入れるパンタグラフ27が配備されており、架線(図示せず)から電流を車内に取り込むようになっている。
【0049】
また、運転台Dは、図3(a)〜(c)に示すように、運転席61の前側にはコンソールボックス62が配置され、このコンソールボックス62は運転者が立ち上がった状態では電車の直前方まで見える高さに設定されている(図3(b)参照)。コンソールボックスの上方には行先表示器63が配置されている。運転席61の右側上方には前側から行先表示設定器64およびカメラ・モニタ制御器65が、左側上方にはブレーキ受量器66がそれぞれ配置されている。それらの間であって運転席の上方には配電盤67A,67Bおよびブザーボックス68が配置されている。運転席61の後部上方には無線装置69およびTFT液晶表示パネル70が配置されている。また運転席61の後方には、運賃箱71が配置され、運転士が運転席61を回転するだけで、運賃の投入の確認ができるようになっている。なお、具体的に図示していないが、運転席61のアームレスト部に運転のためのジョイスティックタイプのマスコンが搭載され、運転席61の前後位置を調整しなくていいように構成されている。
【0050】
このように、周辺機器はできる限り、運転台D上方の天井部に配置され、運転席61の前方から側方にかけての広い視野を確保できるようになっている。
【0051】
また、図4に示すように、車両22,23の屋根の上には、ともに、ブレーキ用空気タンク31(BR)、ブレーキ制御装置32(BCU)、主制御装置/補助電源装置33(VVVF/CVCF)および空調装置34(HVAC)が設けられ、さらに車両22には電源制御装置35(充放電装置)が、車両23にはコンプレッサ36(Comp)および元空気タンク37(MR)がそれぞれ設けられている。車両24の屋根の上には、ブレーキ用空気タンク31(BR)、ブレーキ制御装置32(BCU)、フィルタリアクトル38(FL1 FL2)、高速遮断器45(HB)、メインスイッチ46(MS)、メインヒューズ47(MF)がそれぞれ設けられている。このように、各車両22〜24の屋根の上には、低床化を図るために、通常床下機器とされる各種機器類が全体に亘って重量バランスよく配置されている。
【0052】
上記低床式路面電車21のように3両編成に構成すれば、中間の客室専用車両24の通路24aを、前後の前記運転台付き車両22,23の座席22c,23c下の床部および通路22d,23dの床部と同じ高さの低床面とすることができるので、前後の運転台付き車両22,23の客室Pと中間の客室専用車両24の客室Pとの間を、通路22d,22d,24aを通じて、段差なくスムーズに移動することができる。
【0053】
よって、例えば図5に示すように、車椅子Vでも、通路22d,22d,24a通じて、前後の運転台付き車両22,23の客室Pと中間の客室専用車両24の客室Pとの間を段差なくスムーズに移動することができる。
【0054】
前記実施の形態においては、車両22,23が比較的短い3両編成の連節車両に適用した場合について説明したが、図6(a)(b)に示すように、車両長さがさらに長い前後の運転台付き車両22’,23’を用いて、編成全長をさらに長くした連節車両41とすることも可能である。ここで、22c’,23c’は座席、22d’,23d’は通路で、これらが低床面となっているのは図1および図2に示す電車21と同じある。。
【0055】
また、図7に示すように、さらに、中間の車両24を2つ用い、車両24,24の間に吊り車51を設ける連節車両42とすることも可能である。この場合、前記吊り車51において、客室の座席51a下の床部および通路51bの床部をともに運転台付き車両22’,23’の座席22c’,23c’下および通路22d’,23d’と同じ高さの低床面とすることで、中間の客室専用車両24の通路24aに加えて、吊り車51の座席51a下の床部および通路51bの床部をともに同じ高さの低床面とするので、前後の前記運転台付き車両22’,23’、中間の客室専用車両24,24および吊り車51の間を、通路22d’,23d’,24a,51aを通じて、段差なくスムーズに移動できる。
【0056】
さらに、図示していないが、単一車両の最前端部と最後端部とにそれぞれボギー台車1を設けて、低床式路面電車を実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る低床式路面電車の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】(a)は同側面図、(b)は図(a)のC−C断面(左半分)と図(a)のD−D断面(右半分)とを組み合わせた断面図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ運転台付近の周辺機器のレイアウトの説明図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ屋根上機器の配置を示す概略平面図および側面図である。
【図5】(a)は車椅子の移動を示す平面図、(b)は図5(a)のE−E断面図である。
【図6】(a)(b)はそれぞれ他の実施の形態を示す平面図および側面図である。
【図7】別の実施の形態を示す平面図である。
【図8】本発明に係る低床式路面電車に用いるボギー台車の一実施の形態を示す平面図である。
【図9】同側面図である。
【図10】左半分が図2のA方向矢視図、右半分が図2のB方向矢視図である。
【図11】編成パターンの説明図である。
【図12】タイプ別の低床率、全幅低床率を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
BA 蓄電池
D 運転台
P 客室
1 二軸ボギー台車
6a 大径車輪
12a 小径車輪
20 車体
20a 鉛直面部
21,41,42 低床式路面電車
22,23 運転台付き車両
22a,23a 低床部
22c,23c 座席
22e,23e ドア
24 客室専用車両
24a 通路
24b 座席
24c 床部
27 パンタグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に運転台が配置され前記運転台より中央寄りが客室に構成される運転台付き車両を備える低床式路面電車であって、
片側一軸を小径車輪とし残りの一軸を大径車輪とする二軸ボギー台車の大径車輪側が前記運転台の床部の下に、前記小径車輪側が前記客室の床部の下にそれぞれ配置されていることを特徴とする低床式路面電車。
【請求項2】
前記運転台付き車両が客室専用車両の前後に連節された3両編成で構成され、
前記客室専用車両は、通路を挟んで座席が設けられ、前記通路が前後の前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面で、前記座席の下がやや高い床部に構成され、この高床部下に軸箱に回転自在に支持された独立車輪が配置されていることを特徴とする請求項1記載の低床式路面電車。
【請求項3】
前記運転台付き車両が、吊り車を挟んだ2つの客室専用車両の前後に連節された5両編成で構成され、
前記客室専用車両は、通路を挟んで座席が設けられ、前記通路が前後の前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面で、前記座席の下がやや高い床部に構成され、この高床部下に軸箱に回転自在に支持された独立車輪が配置され、
前記吊り車の座席下の床部および通路の床部がともに前記運転台付き車両の前記座席下および通路と同じ高さの低床面であることを特徴とする請求項1記載の低床式路面電車。
【請求項4】
蓄電池と架線から集電するパンタグラフとを備え、架線を設置した区間ではパンタグラフにより架線から集電して、その電力で走行するとともに前記蓄電池を充電し、架線のない区間では前記蓄電池を電源として走行するもので、
車体の屋根上に機器類が、前記パンタグラフとともに配置され、
前記運転台付き車両の客室内の座席下の低床面上に、前記蓄電池が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低床式路面電車。
【請求項5】
前記ボギー台車は、前記小径車輪を誘導輪とするとともに、前記運転台の床部の下に配置される大径車輪を主車輪として備え、
前記大径車輪および小径車輪は、ともに左右の車輪を車軸に固定した串軸とし、前記大径車輪を回転可能に支持する主車軸枠を車体に対し水平旋回可能に取り付け、前記小径車輪を回転可能に支持する副車軸枠の前端部を、前記主車軸枠の後端部に対し上下方向に揺動自在に連設するとともに、前記小径車輪を下向きに付勢する軸ばねを、両車軸枠間に介設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低床式路面電車。
【請求項6】
前記ボギー台車は枕はりを備え、その枕はりの下面左右両側に第1のブラケットがそれぞれ下向きに突出して設けられ、前記各ブラケットと車体の鉛直面部に固定した第2のブラケットとがボルスタアンカにて連結されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の低床式路面電車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−62680(P2008−62680A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239674(P2006−239674)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】