説明

低抵抗導電性ペースト

【課題】200℃以下の硬化温度で硬化可能であり、バインダ樹脂自体は一定水準以上の柔軟性を示すものとなり、同時に、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、少なくとも、10μΩ・cm(20℃)以下に低減することが可能な、銀粒子を導電性フィラーとして利用する導電性ペーストの提供。
【解決手段】導電性フィラー成分を、液状のバインダ樹脂組成物中に均一に混合してなる導電性ペーストにおいて、その組成を、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子を主成分とする導電性フィラー成分100質量部当たり、熱硬化性樹脂成分の主成分とするバインダ樹脂成分を0.5質量部〜6質量部、酸性基を有する有機化合物を0.5質量部〜6質量部、極性溶媒を2質量部〜15質量部を、必須成分として含有してなる液状のバインダ樹脂組成物を含む範囲に選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ならびに熱伝導性に優れた導体層の形成に適する導電性ペーストに関する。本発明は、特には、導電性媒体として、金属フィラーを用い、バインダ樹脂として、熱硬化性樹脂を採用しており、200℃以下の加熱によって、該熱硬化性樹脂の硬化と同時に、金属フィラー相互の融着を行うことで、導電性ならびに熱伝導性に優れた導体層の形成を達成することが可能な導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板あるいはICカードにおける導通回路は、屈曲した状態での使用を予定した回路基板であり、今後ますます利用が広がることが予想される。フレキシブル基板上に回路パターンを形成する手法として、導電性ペーストを所望の回路パターンに印刷し、熱硬化させた導電性ペースト硬化体の利用が進められている。その際、導電性ペーストの印刷法として、スクリーン印刷法を適用して、微細な回路パターンを作製することが可能であり、また、作製される導電性ペースト硬化体層の導電性も十分に高い水準を達成することが求められている。
【0003】
一般に、導電性ペーストでは、バインダ樹脂組成物中に分散される導電性フィラーとして、金属粒子を含有しており、加熱処理を施した際、バインダ樹脂成分が熱硬化に伴って、体積収縮を起す結果、金属粒子相互が物理的に接触する。その結果、作製される導電性ペースト硬化体層中では、金属粒子相互が物理的に接触することで、ネット・ワーク状の電気的な導通経路が形成され、硬化体層全体が導電性を示す。具体的には、ネット・ワーク状の電気的な導通経路全体に、電流は分散して、硬化体層内を伝播していくが、隣接する金属粒子間では、金属粒子相互が物理的に接触する部位を経由している。金属粒子の粒子径と比較して、この金属粒子相互が物理的に接触する部位の接触断面積は、相対的に狭くなっており、導通経路において、金属粒子相互が接触する部位が隘路となっている。
【0004】
また、バインダ樹脂の熱伝導率と金属材料の熱伝導率とを比較すると、金属材料の熱伝導率が桁違いに高くなっている。そのため、作製される導電性ペースト硬化体層内を熱が伝播する過程でも、金属粒子相互が物理的に接触することで形成される、ネット・ワーク状の導通経路が、主要な熱伝導経路となる。この熱伝導経路においても、金属粒子相互が接触する部位が隘路となっている。
【0005】
一方、回路パターンの形成に導電性ペースト硬化体層を利用する際、硬化体層の表面を平坦にし、硬化体層の膜厚を均一に保つ上では、利用される金属粒子の平均粒子径davは、目的とする硬化体層の膜厚Tに応じて、選択されている。具体的には、目的とする硬化体層の最小膜厚Tmin.を基準として、利用される金属粒子の平均粒子径davは、少なくとも、最小膜厚Tmin.の1/5以下に選択している。換言すると、微細な回路パターンを作製する際、その最小線幅Wmin.に対応させて、硬化体層の最小膜厚Tmin.も選択されるため、最小線幅Wmin.が狭くなるに従って、利用される金属粒子の平均粒子径davも小さくなる。作製される導電性ペースト硬化体層の断面積の最小値Smin.は、{Wmin.×Tmin.}に相当している。仮に、導電性フィラーとして、平均粒子径davの球形の金属粒子を用いる場合、その断面には、凡そ、Nmin.≒{Wmin.×Tmin.}/(dav2個程度存在している。
【0006】
電気的な導通経路における隘路となる、金属粒子相互が接触する部位の接触断面積Scontactを、平均粒子径davの金属粒子の最大断面積Sparticle≒(π/4)×(dav2に対して、相対的に広くすることが、高い導電性を得る上で必要である。そのため、延性、展性の大きな金属材料からなる金属粒子が、導電性フィラーとして利用されている。同時に、電気伝導率ならびに熱伝導率にも優れていることが望ましく、延性、展性が大きく、電気伝導率ならびに熱伝導率も高い、銀粒子は、広く導電性フィラーとして利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の銀粒子を導電性フィラーとして利用し、バインダ樹脂成分として、熱硬化性エポキシ樹脂を採用する導電性ペーストにおいては、例えば、平均粒子径davを3μmに選択して、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、30〜15μΩ・cm(20℃)程度まで低減することが可能となっている。その際、得られる導電性ペースト硬化体層中に含有される、熱硬化性エポキシ樹脂と銀粒子の比率、樹脂:銀比は、質量比率で、9:91程度となっている。エポキシ樹脂硬化物の密度約1g・cm-3(20℃)、金属銀の密度10.49g・cm-3(20℃)を基に換算すると、樹脂:銀比は、体積比率で、50:50程度となっている。
【0008】
なお、バルクの銀単体は、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)であり、前記の樹脂:銀比(体積比率)=50:50の条件では、見かけの体積固有抵抗率の下限値は、2×1.59μΩ・cm(20℃)よりは有意に高い値となる。例えば、無電解メッキ法で作製される銀メッキ膜において、その嵩密度が、5g・cm-3(20℃)の場合、見かけの体積固有抵抗率の下限値は、3×1.59μΩ・cm(20℃)程度となっている。従って、銀粒子相互の接触部位における接触抵抗が、銀メッキ膜中のメッキ粒子相互間の接触抵抗と同程度まで低減できると、樹脂:銀比(体積比率)=50:50の条件において、導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、3×1.59μΩ・cm(20℃)程度まで低減するできる可能性がある。
【0009】
導電性ペースト硬化体層は、基板材料表面に対して、バインダ樹脂の接着能を利用して、接着しており、また、用いるバインダ樹脂に柔軟性を付与することで、屈曲した状態での使用を予定するフレキシブル基板上に回路パターンを形成する用途に適合したものなる。特に、その硬化温度を200℃以下に設定でき、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、少なくとも、10μΩ・cm(20℃)以下に低減することが可能となると、フレキシブル基板上に、例えば、最小線幅/スペース幅が、100μm/100μm程度の微細な回路パターンの形成に好適に利用できるようになる。
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、硬化温度を200℃以下に設定でき、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、少なくとも、10μΩ・cm(20℃)以下に低減することが可能な、銀粒子を導電性フィラーとして利用する導電性ペーストを提供することにある。特には、スクリーン印刷を適用して、最小線幅/スペース幅が、100μm/100μm程度、膜厚20μm程度の微細な回路パターンの形成に利用可能であり、200℃以下の硬化温度で硬化可能であり、バインダ樹脂自体は一定水準以上の柔軟性を示すものとなり、同時に、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率を、少なくとも、10μΩ・cm(20℃)以下に低減することが可能な、銀粒子を導電性フィラーとして利用する導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、まず、従前の導電性ペーストにおいて、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率が、30〜15μΩ・cm(20℃)程度に留まっていた原因の解明を進めた。銀メッキ膜中のメッキ粒子相互間の接触部位は、生成した核粒子の表面に銀原子が析出し、隣接するメッキ粒子との間で金属間接合を形成している。一方、導電性ペースト硬化体層中においては、バインダ樹脂の硬化に伴う、体積収縮によって、隣接する銀粒子が圧接され、接触部位を形成している。この圧接されによる接触部位では、物理的には、隣接する銀粒子が、接触断面積Scontactで密に接触しているが、鍛接され、金属間接合が形成された状態となっていないと判断された。導電性ペースト中に、導電性フィラーとして配合されている銀粒子は、別途、所定の平均粒子径davの銀粒子として作製し、バインダ樹脂組成物中に混合している。銀自体は、酸化を受け難い金属ではあるが、微細な銀粒子に調製する過程で、その粒子表面に、極く薄い酸化皮膜が形成されている。従って、従来の導電性ペーストを用いて作製される導電性ペースト硬化体層中では、隣接する銀粒子相互の接触部位は、接触断面全体を、この薄い酸化皮膜層が覆っている状態となっていることが判明した。銀の酸化物は、半導体の性質を示すため、隣接する銀粒子相互の接触部位では、金属銀/銀の酸化物/金属銀からなる、金属/半導体/金属型のトンネル接合が構成されている。この金属/半導体/金属型のトンネル接合は、半導体層に相当する酸化皮膜層の膜厚は極く薄いものの、相当の接合抵抗を示す状態となっている。すなわち、得られる導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率が、30〜15μΩ・cm(20℃)程度に留まっている主要な原因は、隣接する銀粒子相互の接触部位に、金属銀/銀の酸化物/金属銀からなる、金属/半導体/金属型のトンネル接合が構成されていることであることが判明した。
【0012】
隣接する銀粒子が圧接される前に、その表面を被覆している極く薄い酸化皮膜を除去すると、圧接される銀粒子相互の接触部位では、金属銀/金属銀の金属接合が達成され、その接触部位での接触抵抗は格段に低下する。銀粒子表面を被覆している極く薄い酸化皮膜を除去する手段を探索したところ、銀の酸化物は、塩基性の酸化物であり、加熱状態では、一塩基有機酸、例えば、モノカルボン酸と速やかに反応して、モノカルボン酸の銀塩に変換されることを確認した。生成するモノカルボン酸の銀塩は、エチレングリコールモノアルキルエーテの酢酸エステルなど、銀イオンに対する、配位子としての機能を有する極性溶媒中に溶解させることが可能であることも確認した。
【0013】
すなわち、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルなど、銀イオンに対する、配位子としての機能を有する極性溶媒分子の存在下、モノカルボン酸などの一塩基有機酸を、加熱状態で、銀粒子表面の極く薄い酸化皮膜に作用させると、酸化皮膜を構成する、銀の酸化物を、モノカルボン酸の銀塩として、除去できることを確認した。勿論、利用されるモノカルボン酸などの一塩基有機酸は、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルなどの極性溶媒分子により、溶媒和された状態となっている。
【0014】
前記のモノカルボン酸などの一塩基有機酸と、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルなど、銀イオンに対する配位子としての機能を有する極性溶媒を利用して、銀粒子表面の極く薄い酸化皮膜を除去した後、バインダ樹脂組成物中の熱硬化性樹脂を硬化させ、銀粒子相互を圧接させると、圧接される銀粒子相互の接触部位では、金属銀/金属銀の金属接合が達成される。その間、加熱を継続すると、圧接される銀粒子相互の接触部位において、金属銀/金属銀の金属接合界面で相互拡散が進行し、銀粒子相互が融着した状態となる。
【0015】
以上に述べた一連の知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明にかかる導電性ペーストは、
導電性フィラー成分を、液状のバインダ樹脂組成物中に均一に混合してなる導電性ペーストであって、
該導電性ペーストは、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度において、硬化物を形成することが可能であり、
前記導電性フィラー成分は、
平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物であり、
該導電性フィラー成分中の銀粒子の含有比率は、導電性フィラー成分100質量部当たり、銀粒子100質量部〜70質量部の範囲に選択されており;
前記液状のバインダ樹脂組成物は、
バインダ樹脂成分、酸性基を有する有機化合物、ならびに極性溶媒を必須成分として含み、
前記バインダ樹脂成分は、熱硬化性樹脂成分、あるいは、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物であり、
該バインダ樹脂成分中の熱硬化性樹脂成分の含有比率は、バインダ樹脂成分100質量部当たり、熱硬化性樹脂成分100質量部〜30質量部の範囲に選択されており、
前記導電性フィラー成分100質量部当たり、
該バインダ樹脂成分が、0.5質量部〜6質量部の範囲、
前記酸性基を有する有機化合物が、0.5質量部〜6質量部の範囲、
前記極性溶媒が、2質量部〜15質量部の範囲で含有されており;
前記熱硬化性樹脂成分は、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能であり、
前記熱可塑性樹脂成分のガラス転移温度は、−50℃〜130℃の範囲であり、
前記酸性基を有する有機化合物の沸点は、150℃以上であり、
前記極性溶媒の沸点は、150℃以上、300℃以下である
ことを特徴とする導電性ペーストである。
【0017】
その際、
前記酸性基を有する有機化合物は、150〜400の酸価を有することが望ましい。例えば、前記酸性基を有する有機化合物は、酸性基として、一つのカルボキシ基(−COOH)のみを有することが好ましい。
【0018】
本発明にかかる導電性ペーストは、導電性フィラー成分は、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子である構成とすることが好ましい。
【0019】
一方、導電性フィラー成分は、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物である構成を採用する際には、
前記その他の金属粒子として、金、銅、ビスマス、スズ、インジウムからなる群から選択される金属の粒子一種以上が配合されていることが望ましい。
【0020】
本発明にかかる導電性ペーストでは、
前記熱硬化性樹脂成分として、熱硬化性フェノール樹脂を用いることが望ましい。例えば、前記熱硬化性樹脂成分として、レゾール型フェノール樹脂を好適に用いることが可能である。
【0021】
前記バインダ樹脂成分が、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物である場合、前記熱可塑性樹脂成分として、アクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
本発明にかかる導電性ペーストでは、前記液状のバインダ樹脂組成物中に、さらに、シランカップリング剤を添加する形態とすることが可能であり、その際、
該シランカップリング剤の添加量は、導電性フィラー成分100質量部当たり、0.1質量部〜2質量部の範囲に選択されていることが望ましい。
【0023】
前記液状のバインダ樹脂組成物の調製に際して利用される、前記極性溶媒として、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルを採用することができる。
【0024】
本発明にかかる導電性ペーストにおいては、前記銀粒子は、平均粒子径1μm〜8μmの球状銀粉と平均粒子径1μm〜8μmの鱗片状銀粉の混合物であることが望ましく、その際、
球状銀粉と鱗片状銀粉の配合比率は、球状銀粉100質量部当たり、鱗片状銀粉0.5質量部〜50質量部の範囲に選択されていることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる導電性ペーストを、スクリーン印刷を適用して、所望の回路パターン形状に塗布する形態で使用する上では、
前記導電性ペーストの液粘度は、30Pa・s〜250Pa・s(20℃)の範囲に調整されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の導電性ペーストは、銀粒子、あるいは、銀粒子と併用されるその他の金属粒子の表面に形成されている極薄い酸化皮膜層を、配合されている極性溶媒の存在下、加熱処理の過程で、酸性基を有する有機化合物を作用させて、除去した上で、バインダ樹脂成分中に含まれる熱硬化性樹脂の熱硬化を行うため、その硬化体層中では、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子が接触する部位は、粒子相互が、金属/金属の金属接合を形成する。その際、従来の金属/酸化物/金属型のトンネル接合における接触抵抗と比較して、金属/金属の金属接合が形成される、粒子相互が接触する部位における接触抵抗は、顕著に低減される。その結果、本発明の導電性ペーストを用いて作製される、導電性ペースト硬化体層の見かけの体積固有抵抗率は、少なくとも、10μΩ・cm(20℃)以下に低減される。また、得られる導電性ペースト硬化体層中、熱硬化されたバインダ樹脂自体、一定水準の柔軟性を示すものとなり、屈曲した状態での使用を予定するフレキシブル基板上に回路パターンを形成する用途に適合したものなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明にかかる導電性ペーストと、その製造方法に関して、より詳しく説明する。
【0028】
本発明にかかる導電性ペーストは、導電性フィラー成分を、液状のバインダ樹脂組成物中に均一に混合してなる導電性ペーストである。その際、該導電性ペーストは、バインダ樹脂成分として、熱硬化性樹脂成分、あるいは、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物を用い、該熱硬化性樹脂成分には、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能なものを採用することで、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度において、硬化物を形成することを可能としている。その際、熱硬化性樹脂成分は、熱硬化前は、流動性を有するものであるため、該熱硬化性樹脂成分を主要成分として含有するバインダ樹脂組成物は、室温(20℃)においても、液状の組成物となっている。
【0029】
バインダ樹脂成分として、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物を用いる際には、該バインダ樹脂成分中の熱硬化性樹脂成分の含有比率は、バインダ樹脂成分100質量部当たり、熱硬化性樹脂成分100質量部〜30質量部の範囲に選択されている。熱可塑性樹脂成分は、室温(20℃)では、流動性を示さないが、流動性を有する熱硬化性樹脂成分と均一に混和することにより、バインダ樹脂成分全体としては、流動性を示すものとなっている。
【0030】
さらに、バインダ樹脂組成物中には、極性溶媒、ならびに酸性基を有する有機化合物が混合されており、バインダ樹脂成分と、極性溶媒、ならびに酸性基を有する有機化合物を含むバインダ樹脂組成物は、室温(20℃)においても、液状の組成物となっている。導電性フィラー成分は、この液状のバインダ樹脂組成物中に均一に混合されており、加熱した際、熱硬化性樹脂成分の熱硬化が進行するまでは、バインダ樹脂組成物全体は、液状状態に保たれている。従って、加熱を進める際、酸性基を有する有機化合物は、極性溶媒の存在下、導電性フィラー成分に対して、作用することが可能となっている。
【0031】
本発明の導電性ペーストでは、導電性フィラー成分として、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物が含有されている。望ましくは、導電性フィラー成分として、平均粒子径2μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径2μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物が含有されている。この平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子の表面には、極薄い酸化皮膜が形成されているが、加熱を進める際、酸性基を有する有機化合物を、極性溶媒の存在下、この極薄い酸化皮膜に作用させることで、その除去を行っている。酸性基を有する有機化合物として、例えば、モノカルボン酸(R−COOH)を用いると、銀粒子の表面に存在する酸化皮膜を構成する、銀の酸化物、例えば、Ag2Oと、極性溶媒の存在下、温度が上昇すると、下記のような反応を起こす。
【0032】
Ag2O + 2R−COOH → 2R−COO-Ag+ + H2
生成するモノカルボン酸の銀塩:R−COO-Ag+は、極性溶媒の存在下では、該極性溶媒によって、溶媒和を受け、銀粒子の表面から、液相(液状のバインダ樹脂組成物)中へと溶出される。酸性基を有する有機化合物が、モノカルボン酸(R−COOH)のように、比較的に弱い酸である場合、この反応自体は、温度Tが上昇するとともに、反応速度は指数関数的に上昇するが、室温(20℃)近傍では、殆ど進行しない。
【0033】
一方、反応が進行するに伴い、酸性基を有する有機化合物は消費され、液相(液状のバインダ樹脂組成物)中に存在する、酸性基を有する有機化合物の濃度が徐々に低下する。酸性基を有する有機化合物の濃度の低下に起因する反応速度の低下は、温度Tの上昇に伴う反応速度の上昇により補償されるため、実質的には、反応速度の低下は回避される。しかし、除去すべき銀粒子の表面に存在する酸化皮膜の総量に対して、配合されている酸性基を有する有機化合物の量は、過剰量となるように、酸性基を有する有機化合物の含有比率を選択している。
【0034】
その際、除去すべき銀粒子の表面に存在する酸化皮膜の実際の膜厚は、平均粒子径1μm〜8μmの範囲では、粒子径に依存していない。従って、銀粒子の総質量に基づき、その平均粒子径を考慮して、銀粒子の表面積の総和を推定して、その表面積の総和に応じて、銀粒子の表面に存在する酸化皮膜の除去により消費される酸性基を有する有機化合物の量を推定することが可能である。
【0035】
銀粒子の表面に存在する酸化皮膜の厚さは、1分子層程度と推定される。例えば、平均粒子径3μmの銀粒子に対して、酸化皮膜の膜厚は、0.3nm以下と見積もれる。従って、平均粒子径3μmの銀粒子を構成する銀原子全体のうち、0.05%以下が、銀の酸化物、例えば、Ag2Oに変換されていると、推定される。換言すると、平均粒子径3μmの銀粒子を構成する銀原子1モル当たり、銀の酸化物、例えば、Ag2Oが、0.0005モル以下、表面の酸化皮膜として存在していると、推定される。また、平均粒子径1μmの銀粒子に対しても、酸化皮膜の膜厚は、0.3nm以下と見積もれる。従って、平均粒子径1μmの銀粒子を構成する銀原子1モル当たり、銀の酸化物、例えば、Ag2Oが、0.0015モル以下、表面の酸化皮膜として存在していると、推定される。
【0036】
また、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と併用される、平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の表面にも、その金属種Mに応じて、該金属の酸化物からなる酸化皮膜が形成されている。例えば、該金属の酸化物、MOに対しても、酸性基を有する有機化合物として、例えば、モノカルボン酸(R−COOH)を用いると、極性溶媒の存在下、温度が上昇すると、下記のような反応が進行する。
【0037】
MO + 2R−COOH → (R−COO-22+ + H2
本発明の導電性ペーストでは、導電性フィラー成分として、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物を用いるが、導電性フィラー成分中の銀粒子の含有比率は、導電性フィラー成分100質量部当たり、銀粒子100質量部〜70質量部の範囲に選択されている。これら銀粒子、ならびに、併用されているその他の金属粒子の表面に存在する酸化皮膜の除去により消費される酸性基を有する有機化合物の量を推定し、それよりも、過剰な量の酸性基を有する有機化合物を添加する。
【0038】
前記の推定により決定される酸化皮膜の除去により消費される酸性基を有する有機化合物の量は、モル量であり、用いる酸性基を有する有機化合物の分子量、ならびに、該酸性基を有する有機化合物中に存在する酸性基の個数に従って、モル量を、該酸性基を有する有機化合物の重量に換算する。
【0039】
その際、該酸性基を有する有機化合物中に存在する酸性基、1モル量に相当する、該化合物の重量を示す指標として、該酸性基を有する有機化合物の酸価を利用することができる。「酸価」とは、対象となる化合物1g当たりに含有される酸性基を、中和するために消費される水酸化カリウムの量をmg単位で示した値である。
【0040】
本発明の導電性ペーストでは、前記酸性基を有する有機化合物として、150〜400の酸価を有する物質を利用することができる。特には、前記酸性基を有する有機化合物として、酸性基として、一つのカルボキシ基(−COOH)のみを有する有機化合物が好適に利用できる。酸性基として、一つのカルボキシ基(−COOH)のみを有する有機化合物は、一塩基酸に相当している。
【0041】
酸性基を有する有機化合物、例えば、分子量MAのモノカルボン酸:R−COOHの1モル当たり、水酸化カリウム:KOH(式量56.11)を作用させる場合、下記のカルボン酸のカリウム塩を形成する反応を達成する上では、水酸化カリウム1モルを要する。その際、該モノカルボン酸:R−COOHの酸価は、(56.11/MA)×1000となる。
R−COOH+KOH→RCOOK+H2
酸性基を有する有機化合物が、一塩基酸である場合、その酸価が、150〜400の範囲であるとは、150≦(56.11/MA)×1000≦400を意味する。換言すると、その酸価が、150〜400の範囲であるとは、酸性基を有する有機化合物が、一塩基酸である場合、その分子量MAが、56.11×2.5≦MA≦56.11×6.7の範囲、凡そ、140≦MA≦375の範囲であることを意味する。
【0042】
炭素数8のアルカン酸(C715COOH)、例えば、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸の分子量は、144.2であり、前記の分子量範囲の下限(酸価=400)に相当している。例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸、オレイン酸の分子量は、282.5であり、その酸価は、約200である。従って、炭素数8〜21の脂肪族モノカルボン酸、例えば、炭素数8〜21のアルカン酸、アルケン酸は、酸価が400〜170の範囲である酸性基を有する有機化合物に相当している。例えば、アビエチン酸の分子量は、302.46であり、その酸価は、185に相当している。
【0043】
本発明の導電性ペーストでは、前記酸性基を有する有機化合物として、150〜400の酸価を有する物質を利用する際、前記酸性基を有する有機化合物の含有量を、前記導電性フィラー成分100質量部当たり、0.5質量部〜6質量部の範囲に選択することが望ましい。前記酸性基を有する有機化合物として、酸価が400〜150の範囲である酸性基を有する有機化合物、例えば、分子量MAが、144≦MA≦375の範囲であるモノカルボン酸化合物を利用する際には、前記導電性フィラー成分100質量部当たり、0.5質量部〜6質量部の範囲、好ましくは、2質量部〜6質量部の範囲に選択することが望ましい。
【0044】
導電性フィラー成分として利用する、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物に対して、銀粒子、ならびに、その他の金属粒子の表面に存在する酸化皮膜を、前記酸性基を有する有機化合物を利用して除去した後、熱硬化性樹脂成分の熱硬化が進行する形態が好ましい。
【0045】
前記の目的から、本発明の導電性ペーストでは、前記酸性基を有する有機化合物の含有量を、酸化皮膜の除去により消費される酸性基を有する有機化合物の量に対して、過剰量となるように選択している。一方、この酸化皮膜の除去を行う処理は、加熱状態で行われるため、酸化皮膜の除去による消費に加えて、酸性基を有する有機化合物の蒸散に起因する損失も考慮する必要がある。この酸性基を有する有機化合物の蒸散に起因する損失を抑制するため、酸性基を有する有機化合物として、その沸点が、150℃以上であるもの、好ましくは、180℃以上であるもの、より好ましくは、200℃以上であるものを利用する。例えば、炭素数が6のアルカン酸である、ヘキサン酸の沸点は、205.8℃であり、従って、炭素数が8以上の脂肪族モノカルボン酸の沸点は、200℃以上の条件を満たしている。本発明で利用する酸性基を有する有機化合物としては、沸点が、150℃以上で、pKaが4.5以上の一塩基酸、例えば、沸点が、150℃以上で、pKaが4.5以上のモノカルボン酸が好適に利用できる。
【0046】
一方、加熱を進める際、酸性基を有する有機化合物を、極性溶媒の存在下、金属粒子表面の酸化皮膜に作用させている。極性溶媒も、加熱に伴って、蒸散するが、酸化皮膜の除去を行う処理を行う際、極性溶媒の相当量は、残余していることが必要である。そのため、本発明の導電性ペーストでは、極性溶媒として、その沸点が、150℃以上、300℃以下である極性溶媒を選択している。最終的に、導電性ペーストの硬化物を形成する段階では、極性溶媒中、酸性基を有する有機化合物の作用によって、溶出された銀イオン、あるいは、その他の金属イオンに対して、溶媒和しているものを除き、その大半は、蒸散している状況を達成する。
【0047】
酸性基を有する有機化合物の作用によって、溶出される銀イオン、あるいは、その他の金属イオンに対して、溶媒和する機能を有する極性溶媒としては、銀イオン、ならびに、その他の金属イオンに対する、配位子としての機能を有する極性溶媒が好適に利用できる。例えば、銀イオン、ならびに、その他の金属イオンに対する、配位子としての機能の達成には、エーテル結合(−O−)型のオキシ基、あるいは、ヒドロキシ基(−OH)として存在する酸素原子が利用可能である。例えば、分子内にエーテル結合(−O−)型のオキシ基を内在している、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルや、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテルなど、グリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステル、あるいは、グリコールモノアルキルエーテル、グリコールジアルキルエーテルが、前記極性溶媒として利用可能である。
【0048】
なお、該極性溶媒は、酸性基を有する有機化合物に対する溶媒としても機能するものであり、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルなどの、グリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルがより好適に利用できる。
【0049】
該極性溶媒は、酸性基を有する有機化合物の作用によって、溶出される銀イオン、あるいは、その他の金属イオンに対して、溶媒和する機能を達成する必要がある。従って、前記導電性フィラー成分の含有量に基づき、溶出される銀イオン、あるいは、その他の金属イオンの総量の推定し、その推定量を基準として、溶媒和に利用される極性溶媒の総量を推定する。同時に、極性溶媒は、酸性基を有する有機化合物に対して、その溶媒としての役割を有している。従って、本発明の導電性ペースト中に含有される酸性基を有する有機化合物の総量を基準として、その溶媒としての役割に適合するように、該極性溶媒の含有量を選択することが望ましい。
【0050】
本発明の導電性ペーストでは、前記導電性フィラー成分100質量部当たり、該極性溶媒を、2質量部〜15質量部の範囲で含有させる。その他、該極性溶媒は、本発明の導電性ペーストの液粘度を調整する、希釈溶媒としての役割も有している。この機能をも考慮すると、前記の範囲内において、本発明の導電性ペーストの液粘度が、30Pa・s〜250Pa・s(20℃)の範囲となるように、その含有量を調整することが好ましい。
【0051】
特に、本発明の導電性ペーストは、スクリーン印刷によって、基板表面に所望の回路パターンの形状に塗布される。その回路パターン形状における最小線幅/スペース幅を、例えば、100μm/100μmに選択し、塗布膜厚を20μmとする上では、導電性ペーストの液粘度を、30Pa・s〜250Pa・s(20℃)の範囲に選択することが望ましい。
【0052】
本発明の導電性ペーストにおいて、導電性フィラー成分を分散させる分散液相として機能する、液状のバインダ樹脂組成物は、上記のように、バインダ樹脂成分、酸性基を有する有機化合物、ならびに極性溶媒を必須成分として含んでいる。
【0053】
そのうち、バインダ樹脂成分は、該導電性ペーストを熱硬化して、硬化物層を形成した際、導電性フィラー成分に対するバインダ樹脂を形成する。このバインダ樹脂成分は、熱硬化性樹脂成分、あるいは、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物である。その際、該バインダ樹脂成分中の熱硬化性樹脂成分の含有比率は、バインダ樹脂成分100質量部当たり、熱硬化性樹脂成分100質量部〜30質量部の範囲に選択されている。得られるバインダ樹脂自体に、一定水準の柔軟性、可撓性を付与する観点から、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物を用いることがより好ましい。
【0054】
その際、熱硬化性樹脂成分は、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能であり、一方、熱可塑性樹脂成分のガラス転移温度は、−50℃〜130℃の範囲となる組み合わせを選択している。
【0055】
本発明の導電性ペーストにおいて、副次的な樹脂成分として、主成分の熱硬化性樹脂成分と併用される、熱可塑性樹脂成分としては、アクリル樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリル樹脂として、ハリマ化成製AG−025(ガラス転移温度:47℃)などを好適に利用することができる。熱可塑性樹脂は、加熱して、可塑性を示す状態から、冷却して、固化状態とする際、若干の体積収縮を示す。200℃から室温(20℃)へと温度変化する際、含有する溶剤成分を除いた、その体積収縮率が、10%程度となるものが好適に利用される。
【0056】
本発明の導電性ペーストにおいて、上記の酸性基を有する有機化合物の作用によって、銀粒子、あるいは、併用されるその他の金属粒子の表面に存在する酸化皮膜の除去処理の後、バインダ樹脂成分の熱硬化を進行させる。そのため、熱硬化性樹脂成分は、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能であるものを選択し、温度がこの硬化開始温度に達するまでの間に、酸化皮膜の除去処理の大半が進行する構成としている。
【0057】
一方、酸化皮膜の除去処理のため、酸性基を有する有機化合物、例えば、モノカルボン酸を含有しているが、これらプロトン供与能を有する酸性基を有する有機化合物は、エポキシ樹脂に対する反応性を有している。具体的には、プロトン供与能を有する酸性基を有する有機化合物は、エポキシ樹脂に対して、その硬化剤、硬化促進剤としも機能する。そのため、熱硬化性エポキシ樹脂を採用すると、150℃以下の温度においても、プロトン供与能を示す酸性基を有する有機化合物の作用によって、熱硬化が部分的に進行する状態となる。
【0058】
その点を考慮すると、本発明の導電性ペーストにおいては、熱硬化性樹脂成分として、熱硬化性フェノール樹脂を用いることが望ましい。その際、熱硬化性フェノール樹脂の硬化は、硬化剤を利用せず、加熱のみで硬化が進行することが望ましい。特には、自己硬化タイプの熱硬化性フェノール樹脂である、レゾール型フェノール樹脂を利用することが好ましい。150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能である熱硬化性フェノール樹脂として、群栄化学製、PL−2211(ゲル化条件:140℃、3〜7分間)などが好適に利用できる。
【0059】
バインダ樹脂成分は、該導電性ペーストを熱硬化して、硬化物層を形成した際、導電性フィラー成分に対するバインダ樹脂を形成し、その結果、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子が圧接した状態となる。その際、圧接されている、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子との間に存在する隙間は、バインダ樹脂で満たされた状態となる。形成される導電性ペーストの硬化体層において、導電性フィラーが占める体積と、硬化処理後のバインダ樹脂の占める体積との比率は、導電性ペースト中に含有される、導電性フィラー成分とバインダ樹脂成分との含有比率に依存する。
【0060】
本発明の導電性ペーストでは、導電性フィラー成分とバインダ樹脂成分との含有比率を、導電性フィラー成分100質量部当たり、バインダ樹脂成分の含有量を、好ましくは、6質量部〜2質量部の範囲に選択している。対応して、形成される導電性ペーストの硬化体層において、導電性フィラーが占める体積と、硬化処理後のバインダ樹脂の占める体積との比率、導電性フィラー:バインダ樹脂が、63:37〜80:20の範囲としている。
【0061】
その際、形成される導電性ペーストの硬化体層において、導電性フィラー成分の総体積に対する、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子との間に存在する隙間の総体積の比率を、上記の範囲とするため、本発明では、バインダ樹脂成分として、熱硬化性樹脂成分、あるいは、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物を利用している。本発明の導電性ペースト中には、バインダ樹脂成分に加えて、極性溶媒が含まれており、加熱を進める間に、該極性溶媒が徐々に蒸散するが、液相全体の流動性は保たれている。そのため、導電性ペーストの塗布膜層の体積の減少とともに、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子が、緻密に積み重ねられた状態となるように、全体の再配置が進行する。その後、熱硬化性樹脂成分の熱硬化が開始する温度に達すると、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子が、緻密に積み重ねられた状態を達成した上で、バインダ樹脂成分全体の熱硬化が進行する。バインダ樹脂成分全体の熱硬化が完了すると、含まれる、熱硬化性樹脂成分の熱硬化に伴って、緻密に積み重ねられた状態で存在する、高い密度の接触部位において、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子が圧接を受ける。
【0062】
また、導電性フィラー成分として、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物を利用するが、該導電性フィラー成分中の銀粒子の含有比率は、導電性フィラー成分100質量部当たり、銀粒子100質量部〜70質量部の範囲に選択する。
【0063】
銀粒子とその他の金属粒子の混合物を利用する際、併用されるその他の金属粒子として、金、銅、ビスマス、スズ、インジウムからなる群から選択される金属の粒子一種以上が配合されていることが望ましい。金は、銀と比較しても、酸化を受け難く、金粒子の表面には、実質的に酸化皮膜が存在していない。また、金の抵抗率は、2.35μΩ・cm(20℃)であり、銀よりも若干劣るが、延性、展性は銀よりも優れており、上記の範囲で併用する限り、同等の特性が発揮される。銅は、銀と比較すると、酸化を受け易く、銅粒子の表面には、酸化皮膜が存在しているが、酸性基を有する有機化合物を利用して、除去が可能である。銅の抵抗率は、1.673μΩ・cm(20℃)であり、銀よりも僅かに劣るが、延性、展性は十分に高いので、上記の範囲で併用する限り、同等の特性が発揮される。
【0064】
一方、ビスマス(融点271.4℃)、スズ(融点232℃)、インジウム(融点156.6℃)は、抵抗率は、それぞれ、120μΩ・cm(20℃)、11μΩ・cm(20℃)、8.37μΩ・cm(20℃)と、銀と比較すると、格段に劣っている。しかし、何れも、低い融点を示す金属であり、例えば、インジウム(融点156.6℃)は、熱硬化処理を行う際、その融点以上に加熱すると、粒子が溶融し、併用されている、銀粒子相互の接触部位に近接する狭い隙間を、溶融したインジウムが満たす状態となる。その結果、銀粒子相互の接触部位における、見かけの接触抵抗は、大幅に低減される。
【0065】
また、ビスマス(融点271.4℃)は、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度では、柔らかくなり、その際、銀粒子とビスマス粒子の接触部位では、ビスマス粒子が押し潰され、接触面積は格段に拡大する。従って、ビスマス粒子に隣接している複数の銀粒子間では、その中心に位置するビスマス粒子が、押し潰され、格段に広い接触面積を有する接触部位を介する導通経路が形成される。結果的に、この部分では、見かけの接触抵抗は、大幅に低減される。
【0066】
150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度では、スズ(融点232℃)の粒子は、銀粒子と接触すると、その接触界面において、相互拡散を起し、局所的に合金化がなされる。その際、接触部位の全体として、接触面積の拡大と、均質は金属間結合が形成される。結果的に、この部分では、見かけの接触抵抗は、大幅に低減される。
【0067】
さらに、銀粒子自体も、平均粒子径1μm〜8μmの球状銀粉と平均粒子径1μm〜8μmの鱗片状銀粉の混合物を利用すると、導電性フィラー成分の総体積に対する、銀粒子相互、あるいは、銀粒子とその他の金属粒子との間に存在する隙間の総体積の比率を低減することが可能となる。例えば、銀粒子自体も、平均粒子径2μm〜8μmの球状銀粉と平均粒子径2μm〜8μmの鱗片状銀粉の混合物を利用する形態を選択する。具体的には、鱗片状銀粉の周囲を取り囲むように球状銀粉が配置されると、その部分では、銀粒子間に存在する隙間空間の総和は減少する。従って、単位断面積当たりに存在する銀粒子の総数が増加するため、銀粒子相互の接触部位を通過する電流密度は相対的に低下する。従って、個々の銀粒子相互の接触部位における接触抵抗は、同じであっても、個々の銀粒子相互の接触部位における電圧降下量は低下するため、結果的に、導電性ペーストの硬化体層全体の体積固有抵抗率の低減がなされる。
【0068】
上記の効果を発揮するためには、各鱗片状銀粉の周囲を球状銀粉が取り囲むことが可能な程度に、球状銀粉と鱗片状銀粉の含有比率を選択することが好ましい。すなわち、鱗片状銀粉1個当たり、球状銀粉が、少なくとも4個以上、好ましくは、6個以上存在することが好ましい。勿論、鱗片状銀粉と球状銀粉の含有比率が、1個:20個を超えると、その効果は十分に発揮できなくなる。従って、球状銀粉と鱗片状銀粉の配合比率は、球状銀粉100質量部当たり、鱗片状銀粉0.5質量部〜50質量部の範囲に選択されていることが好ましい。
【0069】
なお、本発明では、鱗片状銀粉の粒子径は、該鱗片状銀粉1個の体積と等しい体積を有する球状銀粉の粒子径として、定義される。
【0070】
本発明では、球状銀粉として、アトマイズ法で作製される球状銀粉が好適に利用できる。アトマイズ法で作製される球状銀粉では、各球状銀粉の体積Vの分布は、一般に、ポワソン分布に従う。その際、球状銀粉の平均体積を求め、その体積を与える粒子径を、平均粒子径とすることができる。
【0071】
また、鱗片状銀粉に関しても、その平均体積を求め、それと等しい体積を有する球状銀粉の粒子径を算定し、該鱗片状銀粉の平均粒子径とすることができる。本発明では、鱗片状銀粉として、アトマイズ法で作製される球状銀粉をフレイク化したものが好適に利用できる。
【0072】
本発明にかかる導電性ペーストでは、液状のバインダ樹脂組成物中に、さらに、シランカップリング剤を添加する形態とすることが可能である。すなわち、バインダ樹脂と導電性フィラーとの接着性を向上させる目的で、シランカップリング剤を添加することができる。その際、該シランカップリング剤の添加量は、導電性フィラー成分100質量部当たり、0.1質量部〜2質量部の範囲に選択されていることが望ましい。また、該シランカップリング剤として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどを利用することができる。すなわち、熱硬化性樹脂として利用する、熱硬化性フェノール樹脂中のフェノール性ヒドロキシ基との間で、該シランカップリング剤中の官能基との反応を引き起こし、接着性を向上することもできる。
【0073】
本発明の導電性ペーストの調製は、以下の手順で行うことができる。
【0074】
まず、液状のバインダ樹脂組成物を構成する各成分中、極性溶媒を除く、バインダ樹脂成分、酸性基を有する有機化合物などを予め混合して、液状の組成物を調製する。この液状の組成物と、導電性フィラー成分とを、所定の比率で混合して、液状の組成物中に導電性フィラー成分が均一に分散している、ペースト状の組成物を調製する。
【0075】
作製されるペースト状の組成物に、極性溶媒を所定量加えて、均一に混合することで、全体の液粘度を所定の値に調整して、本発明の導電性ペーストとして用いる。
【実施例】
【0076】
以下に、具体例を挙げて、本発明の導電性銀ペーストとその調製方法をより具体的に説明する。さらには、本発明の導電性ペーストを用いて回路形成したフレキシブル回路基板において、形成されている導通回路自体は、体積固有抵抗率は10μΩ・cm以下の優れた導電性を有することを、具体的な試験例により示す。これら具体例は、いずれも、本発明の導電性ペーストにおいて、最良の実施形態の一例であるが、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
本実施例1の導電性ペーストの調製方法を説明する。
【0078】
まず、バインダ樹脂成分として、予め、溶解溶剤であるメタノールから、希釈溶媒として使用するn−ブチルカルビトールアセテートに溶剤を置換した、熱硬化性樹脂のレゾール型フェノール樹脂(群栄化学製、PL−2211)と、予め、希釈溶媒として使用するn−ブチルカルビトールアセテート溶媒中で合成した、熱可塑性樹脂のアクリル樹脂(ハリマ化成製、Ag−025、ガラス転移温度 47℃)とを併用している。また、酸性基を有する有機化合物として、2−エチルヘキサン酸(沸点237℃、分子量144.2)を、シランカップリング剤成分として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを採用している。レゾール型フェノール樹脂41.6質量部(固形25質量部、溶剤16.6質量部)、アクリル樹脂44.1質量部(固形18.8質量部、溶剤25.3質量部)、2−エチルヘキサン酸12質量部、前記シランカップリング剤2.5質量部を、容器に入れる。これらを、温度23℃で、十分に撹拌・混合し、均一な液状熱硬化性樹脂組成物を調製する。
【0079】
該液状熱硬化性樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂(固形分換算):25質量部、アクリル樹脂(固形分換算):18.8質量部、2−エチルヘキサン酸:12質量部、シランカップリング剤:2.5質量部、溶媒(n−ブチルカルビトールアセテート):41.9質量部の組成を有する。
【0080】
一方、導電性フィラー成分として、平均粒子径3μmの球状銀粉(三井金属製)と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉(福田金属箔粉製)を併用している。なお、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉は、所謂、フレイク状の形状を有しており、その平均粒子径は、BET法によって測定した値である。調製された液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、平均粒子径3μmの球状銀粉738質量部と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉316質量部を加え、十分に撹拌・混合し、均一な銀ペーストとする。従って、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉の総和1054質量部(9.8モル)に対して、酸性基を有する有機化合物の2−エチルヘキサン酸12質量部(0.08モル)が添加されている。
【0081】
作製された銀ペーストに対して、希釈溶媒として、n−ブチルカルビトールアセテート(沸点226℃)を添加し、十分に撹拌・混合することにより、粘度を約60Pa・s(20℃)に調整している。この場合、液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、n−ブチルカルビトールアセテートの添加量は、5.8質量部に選択されている。液粘度調整された、本実施例1の導電性ペースト中、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉と、液状熱硬化性樹脂組成物との、配合比率;樹脂:銀比は、質量比率では、4.2質量部:95.8質量部である。この樹脂:銀比を、体積比率に換算すると、32:68に相当している。また、熱硬化性樹脂組成物と、希釈溶媒の配合比率、樹脂:溶媒は、体積比率に換算すると、44:56に相当している。
【0082】
液粘度を調整した、本実施例1の導電性ペーストを、ガラス基板上にスクリーン印刷によって、塗布膜厚20μm、10mm×50mmのパターン形状に塗布する。その後、この導電性ペースト塗布膜に、180℃×60minの加熱処理を施し、バインダ樹脂成分の硬化を行う。その結果、形成される導電性ペーストの硬化体は、平均膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状となる。
【0083】
膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状の均一な体積固有抵抗率を示す導体層と仮定して、作製される導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率を評価する。評価された導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率は、6.0μΩ・cm(20℃)である。
【0084】
なお、バルクの銀単体は、密度10.49g・cm-3(20℃)、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を示す。従って、作製された導電性ペースト硬化体は、良好な導電性を示すものと判断される。
【0085】
(実施例2)
本実施例2の導電性ペーストの調製方法を説明する。
【0086】
まず、バインダ樹脂成分として、熱硬化性樹脂のレゾール型フェノール樹脂(群栄化学製、PL−2211)と、熱可塑性樹脂のアクリル樹脂(ハリマ化成製、Ag−025、ガラス転移温度 47℃)とを併用している。また、酸性基を有する有機化合物として、酸無水物;オクテニルコハク酸とアミン;ジブチルアミン、トリブチルアミンから調製されるアミド化合物(熱分解温度190℃、分子量525.9)を採用している。また、シランカップリング剤成分として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを採用している。レゾール型フェノール樹脂25質量部(固形15質量部、溶剤10質量部)、アクリル樹脂26.5質量部(固形11.3質量部、溶剤15.2質量部)、前記アミド化合物48質量部、前記シランカップリング剤1.5質量部を、容器に入れる。これらを、温度23℃で、十分に撹拌・混合し、均一な液状熱硬化性樹脂組成物を調製する。
【0087】
該液状熱硬化性樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂(固形分換算):25質量部、アクリル樹脂(固形分換算):11.3質量部、アミド化合物:48質量部、シランカップリング剤:2.5質量部、溶媒(n−ブチルカルビトールアセテート):25.2質量部の組成を有する。
【0088】
該アミド化合物の酸価は、213.0に相当している。
【0089】
一方、導電性フィラー成分として、平均粒子径3μmの球状銀粉(三井金属製)と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉(福田金属箔粉製)を併用している。なお、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉は、所謂、フレイク状の形状を有しており、その平均粒子径は、BET法によって測定した値である。調製された液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、平均粒子径3μmの球状銀粉1060質量部と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉454質量部を加え、十分に撹拌・混合し、均一な銀ペーストとする。従って、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉の総和1514質量部(14.0モル)に対して、酸性基を有する有機化合物の前記アミド化合物48質量部(0.09モル)が添加されている。
【0090】
作製された銀ペーストに対して、希釈溶媒として、n−ブチルカルビトールアセテート(沸点226℃)を添加し、十分に撹拌・混合することにより、粘度を約60Pa・s(20℃)に調整している。この場合、液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、n−ブチルカルビトールアセテートの添加量は、40質量部に選択されている。液粘度調整された、本実施例2の導電性ペースト中、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉の総和と、液状熱硬化性樹脂組成物との、配合比率;樹脂:銀比は、質量比率では、1.8質量部:98.1質量部である。この樹脂:銀比を、体積比率に換算すると、17:83に相当している。また、液状熱硬化性樹脂組成物と、希釈溶媒の配合比率、樹脂:溶媒は、体積比率に換算すると、26:74に相当している。
【0091】
液粘度を調整した、本実施例1の導電性ペーストを、ガラス基板上にスクリーン印刷によって、塗布膜厚20μm、10mm×50mmのパターン形状に塗布する。その後、この導電性ペースト塗布膜に、180℃×60minの加熱処理を施し、バインダ樹脂成分の硬化を行う。その結果、形成される導電性ペーストの硬化体は、平均膜厚16μm、10mm×50mmの矩形形状となる。
【0092】
膜厚16μm、10mm×50mmの矩形形状の均一な体積固有抵抗率を示す導体層と仮定して、作製される導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率を評価する。評価された導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率は、4.5μΩ・cm(20℃)である。
【0093】
なお、バルクの銀単体は、密度10.49g・cm-3(20℃)、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を示す。従って、作製された導電性ペースト硬化体は、良好な導電性を示すものと判断される。
【0094】
(実施例3)
本実施例3の導電性ペーストの調製方法を説明する。
【0095】
まず、バインダ樹脂成分として、予め、溶解溶剤であるメタノールから、希釈溶媒として使用するn−ブチルカルビトールアセテートに溶剤を置換した、熱硬化性樹脂のレゾール型フェノール樹脂(群栄化学製、PL−2211)と、予め、希釈溶媒として使用するn−ブチルカルビトールアセテート溶媒中で合成した、熱可塑性樹脂のアクリル樹脂(ハリマ化成製、Ag−025、ガラス転移温度 47℃)とを併用している。また、酸性基を有する有機化合物として、2−エチルヘキサン酸(沸点237℃、分子量144.2)を、シランカップリング剤成分として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを採用している。レゾール型フェノール樹脂33質量部(固形20質量部、溶剤13質量部)、アクリル樹脂35質量部(固形15質量部、溶剤20質量部)、2−エチルヘキサン酸30質量部、前記シランカップリング剤2質量部を、容器に入れる。これらを、温度23℃で、十分に撹拌・混合し、均一な液状熱硬化性樹脂組成物を調製する。
【0096】
該液状熱硬化性樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂(固形分換算):20質量部、アクリル樹脂(固形分換算):15質量部、2−エチルヘキサン酸:30質量部、シランカップリング剤:2質量部、溶媒(n−ブチルカルビトールアセテート):33質量部の組成を有する。
【0097】
一方、導電性フィラー成分として、スズとビスマスと銀(質量比42:57:1)からなる平均粒子径10μmの球状合金粉(三井金属製)と、平均粒子径3μmの球状銀粉(三井金属製)と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉(福田金属箔粉製)を併用している。なお、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉は、所謂、フレイク状の形状を有しており、その平均粒子径は、BET法によって測定した値である。調製された液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、スズとビスマスと銀(質量比42:57:1)からなる平均粒子径10μmの球状合金粉120質量部と、平均粒子径3μmの球状銀粉837質量部と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉239質量部を加え、十分に撹拌・混合し、均一な銀ペーストとする。従って、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉の総和1076質量部(10モル)、スズとビスマスと銀(質量比42:57:1)からなる平均粒子径10μmの球状合金粉120質量部(0.7モル)に対して、酸性基を有する有機化合物の2−エチルヘキサン酸30質量部(0.2モル)が添加されている。
【0098】
上記合金粉を構成する、スズとビスマスと銀(質量比42:57:1)合金の融点は、139℃である。このスズとビスマスと銀(質量比42:57:1)合金の抵抗率は、45.1μΩ・cm(20℃)である。
【0099】
作製された銀ペーストに対して、希釈溶媒として、n−ブチルカルビトールアセテート(沸点226℃)を添加し、十分に撹拌・混合することにより、粘度を約60Pa・s(20℃)に調整している。この場合、液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、n−ブチルカルビトールアセテートの添加量は、13質量部に選択されている。液粘度調整された、本実施例3の導電性ペースト中、スズとビスマスと銀(質量比42:57:1)からなる平均粒子径10μmの球状合金粉、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉と、液状熱硬化性樹脂組成物との、配合比率;樹脂:金属比は、質量比率では、3.0質量部:97.0質量部である。この樹脂:金属比を、体積比率に換算すると、25:75に相当している。また、熱硬化性樹脂組成物と、希釈溶媒の配合比率、樹脂:溶媒は、体積比率に換算すると、38:62に相当している。
【0100】
液粘度を調整した、本実施例3の導電性ペーストを、ガラス基板上にスクリーン印刷によって、塗布膜厚20μm、10mm×50mmのパターン形状に塗布する。その後、この導電性ペースト塗布膜に、180℃×60minの加熱処理を施し、バインダ樹脂成分の硬化を行う。その結果、形成される導電性ペーストの硬化体は、平均膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状となる。
【0101】
膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状の均一な体積固有抵抗率を示す導体層と仮定して、作製される導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率を評価する。評価された導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率は、10.0μΩ・cm(20℃)である。
【0102】
なお、バルクの銀単体は、密度10.49g・cm-3(20℃)、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を示す。従って、作製された導電性ペースト硬化体は、良好な導電性を示すものと判断される。
【0103】
液粘度を調整した、本実施例3の導電性ペーストを、銅基板上にスクリーン印刷によって、塗布膜厚20μm、10mm×50mmのパターン形状に塗布する。その後、この導電性ペースト塗布膜に、180℃×60minの加熱処理を施し、バインダ樹脂成分の硬化を行う。その結果、形成される導電性ペーストの硬化体は、平均膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状となる。得られた導体層に対し、クロスカット試験を実施した
(比較例)
比較例の導電性ペーストの調製方法を説明する。
【0104】
まず、バインダ樹脂成分として、熱硬化性樹脂のレゾール型フェノール樹脂(群栄化学製、PL−2211)と、熱可塑性樹脂のアクリル樹脂(ハリマ化成製、Ag−025、ガラス転移温度 47℃)とを併用している。また、シランカップリング剤成分として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを採用している。一方、酸性基を有する有機化合物は配合していない。レゾール型フェノール樹脂47.5質量部(固形28.5質量部、溶剤19質量部)、アクリル樹脂49.7質量部(固形15.9質量部、溶剤33.8質量部)、前記シランカップリング剤2.8質量部を、容器に入れる。これらを、温度23℃で、十分に撹拌・混合し、均一な液状熱硬化性樹脂組成物を調製する。
【0105】
該液状熱硬化性樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂(固形分換算):28.5質量部、アクリル樹脂(固形分換算):15.9質量部、シランカップリング剤:2.8質量部、溶媒(n−ブチルカルビトールアセテート):52.8質量部の組成を有する。
【0106】
一方、導電性フィラー成分として、平均粒子径3μmの球状銀粉(三井金属製)と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉(福田金属箔粉製)を併用している。なお、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉は、所謂、フレイク状の形状を有しており、その平均粒子径は、BET法によって測定した値である。調製された液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、平均粒子径3μmの球状銀粉841質量部と、平均粒子径3μmの鱗片状銀粉370質量部を添加し、十分に撹拌・混合し、均一な銀ペーストとする。
【0107】
作製された銀ペーストに対して、希釈溶媒として、n−ブチルカルビトールアセテート(沸点226℃)を添加し、十分に撹拌・混合することにより、粘度を約60Pa・s(20℃)に調整している。この場合、液状熱硬化性樹脂組成物100質量部当たり、n−ブチルカルビトールアセテートの添加量は、20質量部に選択されている。液粘度調整された、本実施例2の導電性ペースト中、平均粒子径3μmの球状銀粉と平均粒子径3μmの鱗片状銀粉の総和と、液状熱硬化性樹脂組成物との、配合比率;樹脂:銀比は、質量比率では、4.2質量部:95.8質量部である。この樹脂:銀比を、体積比率に換算すると、32:68に相当している。また、液状熱硬化性樹脂組成物と、希釈溶媒の配合比率、樹脂:溶媒は、体積比率に換算すると、42:58に相当している。
【0108】
液粘度を調整した、比較例の導電性ペーストを、ガラス基板上にスクリーン印刷によって、塗布膜厚20μm、10mm×50mmのパターン形状に塗布する。その後、この導電性ペースト塗布膜に、180℃×60minの加熱処理を施し、バインダ樹脂成分の硬化を行う。その結果、形成される導電性ペーストの硬化体は、平均膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状となる。
【0109】
膜厚15μm、10mm×50mmの矩形形状の均一な体積固有抵抗率を示す導体層と仮定して、作製される導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率を評価する。評価された導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率は、20μΩ・cm(20℃)である。
【0110】
上記実施例1、実施例2の導電性ペーストを用いて作製される導電性ペースト硬化体と、比較例の導電性ペーストを用いて作製される導電性ペースト硬化体の体積固有抵抗率の評価結果を、表1に纏めて示す。
【0111】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明にかかる導電性ペーストは、フレキシブル基板の回路配線パターンの形成に利用可能である。特には、スクリーン印刷法を利用して、配線パターンの最小線幅/スペース幅を100μm/100μmに設定する微細なパターンを作製する際、本発明にかかる導電性ペーストを利用することで、良好なパターン描画特性と、優れた導電性と熱伝導性を有する導電性ペースト硬化体の作製が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラー成分を、液状のバインダ樹脂組成物中に均一に混合してなる導電性ペーストであって、
該導電性ペーストは、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度において、硬化物を形成することが可能であり、
前記導電性フィラー成分は、
平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子、あるいは、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子径3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物であり、
該導電性フィラー成分中の銀粒子の含有比率は、導電性フィラー成分100質量部当たり、銀粒子100質量部〜70質量部の範囲に選択されており;
前記液状のバインダ樹脂組成物は、
バインダ樹脂成分、酸性基を有する有機化合物、ならびに極性溶媒を必須成分として含み、
前記バインダ樹脂成分は、熱硬化性樹脂成分、あるいは、熱硬化性樹脂成分と熱可塑性樹脂成分の混合物であり、
該バインダ樹脂成分中の熱硬化性樹脂成分の含有比率は、バインダ樹脂成分100質量部当たり、熱硬化性樹脂成分100質量部〜30質量部の範囲に選択されており、
前記導電性フィラー成分100質量部当たり、
該バインダ樹脂成分が、0.5質量部〜6質量部の範囲、
前記酸性基を有する有機化合物が、0.5質量部〜6質量部の範囲、
前記極性溶媒が、2質量部〜15質量部の範囲で含有されており;
前記熱硬化性樹脂成分は、150℃〜200℃の範囲に選択される加熱温度で熱硬化が可能であり、
前記熱可塑性樹脂成分のガラス転移温度は、−50℃〜130℃の範囲であり、
前記酸性基を有する有機化合物の沸点は、150℃以上であり、
前記極性溶媒の沸点は、150℃以上、300℃以下である
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記酸性基を有する有機化合物は、150〜400の酸価を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記酸性基を有する有機化合物は、酸性基として、一つのカルボキシ基(−COOH)のみを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
導電性フィラー成分は、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
導電性フィラー成分は、平均粒子径1μm〜8μmの銀粒子と平均粒子3μm〜30μmのその他の金属粒子の混合物であり、
前記その他の金属粒子として、金、銅、ビスマス、スズ、インジウムからなる群から選択される金属の粒子一種以上が配合されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂成分は、熱硬化性フェノール樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂成分は、レゾール型フェノール樹脂である
ことを特徴とする請求項6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂成分は、アクリル樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記液状のバインダ樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤が添加されており、
該シランカップリング剤の添加量は、導電性フィラー成分100質量部当たり、0.1質量部〜2質量部の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記極性溶媒は、エチレングリコールモノアルキルエーテルの酢酸エステルである
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記銀粒子は、平均粒子径1μm〜8μmの球状銀粉と平均粒子径1μm〜8μmの鱗片状銀粉の混合物であり、
球状銀粉と鱗片状銀粉の配合比率は、球状銀粉100質量部当たり、鱗片状銀粉0.5質量部〜50質量部の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項12】
前記導電性ペーストの液粘度は、30Pa・s〜250Pa・s(20℃)の範囲に調整されている
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の導電性ペースト。

【公開番号】特開2009−123607(P2009−123607A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298165(P2007−298165)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】