説明

低曇り度コーティングの製法並びにそれにより製造したコーティング及び被覆された物品

【課題】本発明は低曇り度のコーティングの製法並びにそれにより製造したコーティング及び被覆された物品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によるコーティングは、実質的に結晶質の第1層と、第1層上に与えられた実質的に結晶質の第2層とを有する。ブレーカー層が、第1層と第2層との間に与えられ、第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている。第1層の下に色抑制層が与えられることもある。コーティングは基体の上に与えて、被覆された物品を造ることができる。基体を被覆する方法は、基体の少なくとも一部分の上に実質的に結晶質の第1層を堆積し、次いで、第1層上にブレーカー層を堆積することを含む。ブレーカー層は、第1層上に、後で堆積される層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は、1999年12月17日に出願された米国暫定出願通し番号第60/172,283号、及び1999年3月18日に出願された米国暫定出願通し番号第60/125,050号の利益を主張し、また、それら暫定出願の開示内容は、これらに言及することによって本明細書に組み入れる。
【0002】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、概してコーティング(coating,増透膜)及び被覆された物品(coated articles,コーティングされた物品)に関する;一層詳しく言えば、複数のコーティングを堆積する方法、並びに低曇り度(haze,ヘーズ)及び/又は低放射率を有する被覆された物品の製法に関する。本発明は更に、赤外線(IR)エネルギー[特に、近赤外線(NIR)エネルギー]の透過を低減させ;同時に、比較的高い可視光線透過と、被覆された物品の、透過された実質的に中間色(neutral color)及び/又は反射された実質的に中間色とを維持する;物品のための、太陽光制御コーティングにも関する。
【0003】
(2.現在利用することのできる技術の記述)
基体(例えばガラス基体)上に堆積された低放射率コーティングは、多くの用途[例えば、2、3例挙げると、シースルーの(see-through,透けて見える,透視の)冷蔵庫のドア、オーブン(oven)のドアウィンドウ、建築用窓(例えば、市販の窓、又は住宅用窓)、及び自動車の窓]に使用される。放射率とは、表面のエネルギー放出の性向或いはエネルギー放射の性向をいう。「低放射率コーティング」によって、紫外線(UV)エネルギー(例えば、400nm未満)、及び可視波長エネルギー(例えば、400nm〜約780nm)は窓を通って通過するが、赤外線(IR)エネルギー(例えば、780nmより大きい)は反射する。そのような低放射率コーティングは、建築用窓と共に使用すれば魅力的である。なぜなら、例えば、そのような低放射率コーティングは、寒候期の間にその窓を通って放射熱が損失するのを防ぎ、冬の間の暖房費及び夏の間の空調費を低減するからである。
【0004】
しかし、低放射率コーティングは、南部アメリカ等の暑い地域で使用するのはあまり適していない。なぜなら、低放射率コーティングは、ビルディングの内部を加熱することのできる日中に、高率の可視光を通過させるからである。一般に使用される低放射率コーティングの例には、酸化スズ(SnO2)等の金属酸化物、又はフッ素(F)ドープト酸化スズ等のドープト金属酸化物が含まれる。米国特許第4,952,423号明細書は、フッ素−ドープト酸化スズの低放射率コーティングを開示する。
【0005】
暑い地域では、低放射率だけでなく、太陽エネルギー反射若しくは太陽エネルギー吸収、低遮光率等の太陽光制御特性を与えるコーティングが望ましい。用語「遮光率(shading coefficient)」は通常、ガラス工業界で使用されており、[1/8インチ厚の透明の単一窓ガラスの一定面積を通して得られる熱]に対する[環境が、同一サイズの面積の開口部又は板ガラスを通って太陽放射にさらされているときに得られる熱利得]に関係している(ASHRAE(米国熱・冷凍空調工業会)標準計算方法)。1.00未満の遮光率値は、透明の単一窓ガラスよりも熱除去率が優れていることを示す。逆の場合も同様である。
【0006】
フッ素ドープト酸化スズは、低放射率特性を与える。アンチモン等の他の物質でドーピングされた酸化スズは、太陽エネルギーを反射し且つ吸収する特性を有する。アンチモンドープト酸化スズのコーティングは、酸化スズだけのものより太陽エネルギーを一層大きく吸収する。アンチモンで酸化スズをドーピングすることによって、近赤外線エネルギーの吸収が改善され、更に、可視光透過率が低減される。これら諸特性は、暑い地域においては、夏季におけるビル又は自動車の内部の過熱を防止するために特に有用な特性である。
【0007】
酸化スズに加えて、低放射率コーティング及び/又は太陽光制御コーティングを形成するために使用される他の金属酸化物には、Sb23、TiO2、Co34、Cr23、InO2及びSiO2が含まれる。しかし、酸化スズはこれら他の諸金属酸化物より優れた利点を有する。なぜなら、酸化スズの耐磨耗性、硬度及び伝導特性が優れているからである。低放射率と太陽光制御の両方の利点は、低放射率コーティング物質(例えば、フッ素ドープト酸化スズ)と太陽光制御コーティング物質(例えば、アンチモンドープト酸化スズ)の両方を含有するコーティングを与えることによって、又は低放射率物質と太陽光制御物質の混合物(例えば、アンチモン及びフッ素でドーピングした酸化スズ)を有するコーティングを与えることによって得ることができる。そのようなコーティングの例は、GB2,302,102号明細書に開示されている。
【0008】
米国特許第4,504,109号明細書は、赤外線遮蔽層及び間接的反射層(inferential reflection layers)が交互に重なったものを有する赤外線遮蔽積層物を開示する。
GB2,302,102号明細書は、スズとアンチモンが特定のモル比であるスズ/アンチモンの酸化物の単一層を持つコーティングを開示し、更に、スズ/アンチモンの酸化物層の上に施されたフッ素ドープト酸化スズ層をも開示する。
【0009】
金属酸化物又はドーピングされた金属酸化物のコーティングに関する通則として、コーティングの厚さが増大するにつれて、コーティングの放射率は減少し、伝導率は増加する。従って、もし他の要因が含まれていなければ、低放射率(例えば、約0.2未満)を有する太陽光制御コーティングは、望ましい放射率を与えるレベルにコーティング厚を単に増大させることによって得ることができる。しかし、コーティング厚を増大させることはまた、コーティングの曇り度(haze,曇り)[即ち、物体を通って通過するときの散乱光の量又は割合]を増大させるという不都合と、可視光透過の量を減少させるという不都合とをも持つ。そのようなコーティングは望ましくない真珠光(iridescence,イリデセンス)を呈することもある。そのような曇り及び真珠光は、特に、建築用窓又は自動車の窓に対して望ましくない。
【0010】
大抵の商業的用途において、約1.5%より大きい曇り度は典型的には、好ましくないと見なされる。従って、太陽光制御特性を持つか又は持たない低放射率コーティングを与える能力はこれまで、コーティングの曇り度を商業的に受入れられるレベルまで最小化する必要性によって制限されてきた。
【0011】
GB2,302,102号明細書は、そのようなコーティングの曇りは、ガラス基体からコーティングの中にナトリウムイオンが移動することによって生じる内部の曇りに起因するという仮説を立て、ガラス基体とコーティングとの間に不定比酸化ケイ素の障壁層を設けて、ナトリウムイオンが移動するのを阻止し曇りを低減することを提案している。
【0012】
既知の多くの赤外線反射性コーティングもまた、反射光及び透過光によって真珠色(iridescence color)又は干渉色(interference color)を呈する。一層低い赤外線透過率と一層低い全太陽エネルギー透過率とを与えて自動車内部の熱利得を低減させる被覆された透明体(例えば、自動車の窓)もまた好ましくは、自動車の全体的な色合いと調和するような実質的に中間的な色(例えば灰色)である。
【0013】
当業者には理解されるであろうが、比較的低い反射率のコーティング[例えば、約0.2未満の反射率を持つコーティングであり、更に、低い曇り度(例えば、約2.0%未満)を持つもの]を与える、コーティング、被覆された物品及び/又は被覆方法を提供することは好都合である。また、低減された赤外線透過率及び/又は低遮光率を持ち、同時に比較的大きい可視光透過率と低減された真珠光とを保持している、コーティング及び/又は被覆された物品を提供することも好都合である。
【0014】
(発明の概要)
本発明のコーティングは、第1のコーティング表面と、第2のコーティング表面と、第1及び第2のコーティング表面の間に配置されているブレーカー層とを有する。ブレーカー層は、コーティングの結晶構造を妨げるように構成されている。
【0015】
本発明の更なるコーティングは、実質的に結晶質の第1の層と、第1層上に堆積された実質的に結晶質の第2の層と、第1及び第2の層の間に配置されたブレーカー層とを有する。ブレーカー層は、第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている。
【0016】
もう1つのコーティングは、アンチモンドープト酸化スズを含有し、例えば、約1200Å〜約2300Åの厚さを有する、実質的に結晶質の第1層と;第1層上に堆積された実質的に結晶質の第2層であって、フッ素ドープト酸化スズを含有し、例えば、約3000Å〜約3600Åの厚さを有する第2層と;第1及び第2の結晶質層の間に配置されているブレーカー層と;を有する。ブレーカー層は、例えば非晶質の層であって、第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させる。
【0017】
本発明の被覆された物品は、基体と、その基体の少なくとも一部分の上に堆積されたコーティングとを有する。そのコーティングは、第1のコーティング表面と;第2のコーティング表面と;それら第1と第2のコーティング表面の間に配置された本発明のブレーカー層と;を有する。
【0018】
本発明の更なる被覆された物品は、基体と;その基体の少なくとも一部分の上に堆積された実質的に結晶質の第1層と;第1層上に堆積されたブレーカー層と;ブレーカー層上に堆積された実質的に結晶質の第2層と;を有する。
【0019】
更なる被覆された物品は、基体と;その基体の少なくとも一部分の上に堆積された実質的に結晶質の第1層と;第1層の少なくとも一部分の上に堆積されたブレーカー層と;を有する。ブレーカー層は、その被覆された物品の上に、後で堆積される実質的に結晶質のコーティング層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている。
【0020】
更なる被覆された物品は、基体と;その基体の少なくとも一部分の上に堆積された色抑制層(color suppression layer)と;色抑制層上に堆積され、例えば、約700Å〜約3000Åの厚さを有する、実質的に透明で導電性金属酸化物の第1の層と;を有する。色抑制層は、例えば、約50Å〜約3000Åの厚さを有し、好ましくは漸変的(graded)である。
【0021】
更なる被覆された物品は、基体と;その基体の少なくとも一部分の上に堆積され、例えば、約900Å〜約1500Åの厚さを有する、アンチモンドープト酸化スズの層と;アンチモンドープト酸化スズ層上に堆積され、例えば、約1200Å〜約3600Åの厚さを有する、フッ素ドープト酸化スズの層と;を有する。アンチモンドープト酸化スズ層は、アンチモン濃度の異なる少なくとも2つの層であって、第1の層が例えば約985Åの厚さを有し第2の層が例えば約214Åの厚さを有する上記少なくとも2つの層であるのが好ましい。
【0022】
更なる被覆された物品は、基体と;その基体の少なくとも一部分の上に堆積された第1のドープト金属酸化物の層と;第1ドープト金属酸化物層上に堆積された第2のドープト金属酸化物の層と;を有する。第1ドープト金属酸化物層は、第2ドープト金属酸化物層の屈折率よりも一層小さい屈折率を有する。
【0023】
更なる被覆された物品は、基体と;基体の少なくとも一部分の上に堆積された色抑制層と;色抑制層上に堆積された、実質的に結晶質の第1層と;第1層上に配置された、実質的に結晶質の第2層と;第1層と第2層の間に配置された本発明のブレーカー層と;を有する。
【0024】
更なる被覆された物品は、基体と;基体の少なくとも一部分の上に堆積された、金属酸化物と第1のドーパントとを含有する第1のコーティング領域;第1コーティング領域上に堆積された遷移領域であって、[第1ドーパント]対[第2ドーパント]の比が基体からの距離と共に絶えず変化する状態で、金属酸化物と第1のドーパントと第2のドーパントとを含有する該遷移領域;並びに、第2コーティング領域上に堆積された、金属酸化物と第2ドーパントとを含有する第3のコーティング領域;を有する。任意に、本発明の1つ以上のブレーカー層を、コーティングスタック(coating stack,コーティングを積み重ねたもの)の内部に挿入することができる。
【0025】
基体を被覆する方法は、基体の少なくとも一部分の上に実質的に結晶質の第1の層を堆積し;第1層上にブレーカー層を堆積し;次いで、ブレーカー層上に実質的に結晶質の第2の層を堆積する;ことを含む。ブレーカー層は、第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は低下させるように構成する。
【0026】
基体を被覆するもう1つの方法は、基体の少なくとも一部分の上に実質的に結晶質の第1の層を堆積し;次いで、第1の結晶質層の上にブレーカー層を堆積する;ことを含む。ブレーカー層は、第1結晶質層上に、後で堆積した結晶質層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は低下させるように構成する。
【0027】
被覆された物品を形成する更なる方法は、基体を与え;その基体の少なくとも一部分の上に、例えば約50Å〜約3000Åの厚さを有する色抑制層を堆積し;色抑制層上に、実質的に透明な導電性金属酸化物の第1層であって、例えば約700Å〜約3000Åの厚さを有し、例えばアンチモンドープト酸化スズを含有する該第1層を堆積する;ことを含む。
【0028】
本発明は、諸添付図面と関連して理解するとき、次の記述から完全に理解されるであろう。諸添付図面において、同じ参照番号は全体に渡って同じ部分として取り扱う。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の特徴を具体化したコーティング(coating,増透膜)及び被覆された物品の、側面断面図(縮尺なし)である。
【図2】本発明の特徴を具体化したもう1つのコーティング及び被覆された物品の、側面断面図(縮尺なし)である。
【図3】本発明の特徴を具体化した更にもう1つのコーティング及び被覆された物品の、側面断面図(縮尺なし)である。
【図4】透明なフロートガラス上の幾つかのアンチモンドープト酸化スズコーティングの[太陽光吸収]対[波長]のグラフである。
【図5】本発明の被覆された物品の[透過率]対[波長]のグラフである。
【図6】図5のアンチモンドープト酸化スズ層より一層厚い該酸化スズ層を有する本発明の被覆された物品の[透過率]対[波長]のグラフである。
【図7】酸化チタン層を持つ被覆された物品及び酸化チタン層を持たない被覆された物品の[透過率]対[波長]のグラフである。
【図8】フッ素ドープト酸化スズ層の厚さの変化に対する色の変化のグラフである。
【図9】2つのアンチモンドープト酸化スズ層上1つのにフッ素ドープト酸化スズ層を持つコーティングの、フッ素ドープト酸化スズ層の厚さの変化に対する色の変化のグラフである。
【図10】図9のコーティングの、アンチモンドープト酸化スズ層の厚さの変化に対する色の変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(好ましい態様の記述)
諸操作事例の場合、又は別に指示する場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲において使用される諸成分の量、反応条件等を表わす全ての数字は全て、用語「約」によって修飾されているものと理解すべきである。更に、量に関するあらゆる数値の表わす内容は、別に指定しなければ、「重量(by weight)」である。
【0031】
先ず、曇り(haze)の問題を考えるに、約2000Åより厚く約4000Åまでの厚さの、結晶質又は実質的に結晶質のコーティング(coatings,増透膜)[例えば、低反射率金属酸化物の結晶質コーティング]に関し、コーティングの曇りは、主としてそのコーティングの表面の形態に起因するのであって、以前考えられていたような内部の曇り因子には起因しないということを本明細書では前提とする。
【0032】
通則として、低反射率コーティング及び/又は太陽光制御コーティングは典型的には、結晶質であるように造られる。なぜなら、結晶質構造は、ガラス基体に一層良好に付着して耐久性を向上させるという利点を有し、更に、コーティングを一層迅速に成長させ、それ故に、一層大きい化学的有効性(chemical efficiency)を提供するからである。結晶質構造のもう1つの利点は、結晶質構造が導電性を増大させることである。この導電性によって、一層低い反射率が助長される。しかし、この結晶性コーティングの構造は、1つのコーティング層から形成されようが、それ以上のコーティング層から形成されようが、大きい[例えば、約2000Å〜約4000Åの厚さよりも厚い]単結晶の構造を生じることがある。この単結晶構造は、大きい表面しわ性(surface rugosity)又は表面粗さ(surface roughness)を引き起こし、それ故に、大きい曇り度[即ち、約2%より大きいもの]を生じさせる。
【0033】
例えば、アンチモン(Sb)ドープト酸化スズの層の上にフッ素(F)ドープト酸化スズ(SnO2)の層を有する、結晶質の低反射率/太陽光制御のコーティングを形成するためには、基体の上に、先ず、酸化スズ及びアンチモンの前駆体を施す。アンチモン及び酸化スズの前駆体は、基体の表面で核となり、アンチモンドープト酸化スズの結晶を形成し始め、更に多くの前駆体が施されるにつれて、その結晶は規模が大きくなる。第1の結晶質層が望ましい厚さになったとき、フッ素及び酸化スズの前駆体が第1層上に堆積されて、結晶質のフッ素ドープト酸化スズの第2の層が形成される。本明細書で使用される用語「ドープト(doped)」及び「ドーパント(dopant)」とは、もう1つの物質の結晶構造中に存在することができる物質、又は他の物質の隙間の中に存在することのできる物質をいう。
【0034】
しかし、もし、第2の結晶質層のための前駆体物質が第1結晶質層の上に直接堆積されるなら、第2結晶質層の結晶が第1結晶質層の結晶の上にエピタキシャル成長を生じさせる[即ち、核を形成するというよりはむしろ、第1層の結晶から結晶構造を引き続き延ばして、引き伸ばされた大きい単結晶構造を形成する;この単結晶構造は、実質的にコーティングの全厚さを通して上向きに伸びており、単結晶構造の下部はアンチモンドープト酸化スズであり、単結晶構造の上部はフッ素ドープト酸化スズである]傾向があることは、確認されていなかった。このエピタキシャル成長によって、非常に大きい表面粗さを持ち、それ故に、受入れられないほど大きい曇り度[例えば、約2%より大きいもの]を持つコーティングが生じる結果となる。大きい表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)及び走査型電子顕微鏡によって確認され、且つ、そのような結晶質コーティングの全コーティング曇り度の主な因子であるものと考えられている。なぜなら、表面を磨けば、曇り度は低下するからである。
【0035】
この新しい解釈に基づく本発明によると、基体上に、上述の結晶構造の利点を維持するが、前の被覆工程において共通しているエピタキシャル結晶成長を防ぐか又は低下させ、それ故に、得られるコーティングの曇り度を減少させる低放射率及び/又は太陽光制御のコーティング[例えば、複合の又は多層の、結晶質金属酸化物コーティング]を形成することができる、コーティング及び被覆方法が提供される。
【0036】
図1に、本発明の特徴を組み込んだ被覆された物品10を示す。物品10は、基体12の少なくとも一部分の上に[通常、基体12の全表面上に]堆積されたコーティングスタック又は「コーティング」14を備えた基体12を有する。コーティング14は、内側表面又は第1表面13と、外側表面又は第2表面15とを有する。本明細書で使用する用語「の上に堆積された(deposited over)」又は「の上に与えられた(provided over)」は、「の上方に(above)(即ち、基体から遠く離れているが、必ずしも表面には接触せずに)堆積された又は与えられた」を意味する。例えば、第2のコーティングの領域又は層「の上に堆積された」第1のコーティングの領域又は層は、第1コーティング層と第2コーティング層の間に1つ以上の他のコーティングの領域又は層が存在することを妨げない。
【0037】
コーティング14は、第1の領域又は層16と;第2の領域又は層20と;第1層16及び第2層20の間に配置された、本発明の結晶成長した「ブレーカー」領域又は層18と;を有する。外側の保護性層22は、第2層20の上に堆積することができる。用語「層(layer)」は、選ばれた被覆性組成物のコーティング領域を表わすように用いられる。例えば、フッ素ドープト酸化スズの層とは、大部分がフッ素ドープト酸化スズで造られたコーティング領域である。しかし、隣接する「複数の層」の間に明確な中間面が存在しないこともあること;及び、それら「複数の層」は単に同一の被覆性物質でできた異なる領域であることもあること;を理解すべきである。
【0038】
基体12は、透明か、やや透明か又は半透明の材料[例えば、プラスチック、セラミック、或いは一層好ましくはガラス]であるのが好ましい。例えば、ガラスは、透明なフロートガラスであっても良く、或いは、透明板ガラス、ティンテッド板ガラス(tinted flat glass,薄い色のついた反射板ガラス)若しくは着色板ガラスとすることができる。ガラスは、いかなる光学特性[例えば、いかなる値の可視透過率、紫外線透過率、赤外線透過率及び/又は全太陽エネルギー透過率]を有するいかなる組成のものでも良い。本発明の実施に使用することのできるガラスのタイプは、米国特許第4,746,347号明細書;第4,792,536号明細書;第5,240,886号明細書;第5,385,872号明細書及び第5,393,593号明細書に開示されているが、これらに限定される訳ではない。基体12は、いかなる厚さのものでも良いが、好ましくは約2mm〜約13mm、好ましくは約2.2mm〜約6mmの厚さを有する。
【0039】
コーティング14は、多成分コーティングであるのが好ましい。即ち、コーティング14は、マグネトロンスパッタ蒸着(MSVD)、化学蒸着(CVD)、スプレー熱分解(spray pyrolysis)、ゾルゲル法等に限定されない、あらゆる好都合な方法で基体表面の少なくとも一部分の上に堆積された、異なる組成でできた複数の層又は領域を有する。目下、本発明の好ましい実施において、コーティング14は、CVDによって施される。
【0040】
CVD被覆の方法は、薄膜堆積業界の者にはよく理解されており、それ故に、詳しくは解説しない。CVD被覆方法等の典型的な熱分解被覆方法において、気体状若しくは蒸気状前駆物質、又はそのような前駆物質の混合物は、熱基体の表面の方に送られる。前駆物質は基体表面で熱分解して核となり、固体のコーティング材料(典型的には酸化物物質)を形成する。酸化物物質の組成は、使用した前駆物質の種類及び/又は量と、キャリヤーガスの組成とによって決定される。
【0041】
図1への言及を続けると、第1の領域又は層16は、金属酸化物の物質[例えば、Zn、Fe、Mn、Al、Ce、Sn、Sb、Hf、Zr、Ni、Zn、Bi、Ti、Co、Cr、Si若しくはInの1種以上の酸化物、又はスズ酸亜鉛等の合金の酸化物]を含有する。第1層16は好ましくは、Sn、F、In、Sb等の1種以上のドーパントをも含有する。本発明の目下の好ましい実施行為において、第1層16は、アンチモンでドーピングされた酸化スズである;このアンチモンは、前駆物質の全重量に基づき約10重量%未満、一層好ましくは約7.5重量%未満の量で前駆物質中に存在する。目下の好ましい態様において、第1層16は、好ましくは約1000Å〜約2300Å、一層好ましくは約1700Å〜約2300Å、最も好ましくは約2000Åの厚さを有する。この目下の好ましい態様において、堆積された第1層16中の[スズ]対[アンチモン]の原子比(Sn/Sb)は、蛍光X線によって測定して、約8〜約12、一層好ましくは約10〜約11であるのが好ましい。第1層16は好ましくは、第1層16の構造が結晶質又は実質的に結晶質(即ち、約75%より大きい結晶質)になるように施される。アンチモンドープト酸化スズの第1層16は、可視光エネルギー及び近赤外太陽エネルギーの吸収を促進する(promotes,活性化する)。
【0042】
現在は好ましいが、第1層16は、アンチモンドープト酸化スズに限定される訳ではない。第1層16は、複数のドーパント(例えば、アンチモンとフッ素の両者)でドーピングされた1種以上の金属酸化物(例えば、酸化スズ)を含有することも可能である。もう1つの方法として、第1層16は、フッ素ドープト酸化スズとアンチモンドープト酸化スズの混合物であって、基体12からの距離が増大するにつれて、組成が連続的に変化している該混合物を含有する勾配層(gradient layer,傾斜層)であっても良い。例えば、第1層16は基体表面の付近では主としてアンチモンドープト酸化スズであり、また、第1層16の外側の表面又は領域は主としてフッ素ドープト酸化スズであり、更に、それらの間では[アンチモン]対[フッ素]の比が連続的に変化しても良い。そのような勾配層を造る適切な方法は、米国特許第5,356,718号明細書に開示されており、その開示内容は、それに言及することによって、本明細書に組み入れる。
【0043】
第1層16は、異なるドーパント濃度を有する金属酸化物(例えば酸化スズ)の2つ以上の層又は領域を有することができる。そのような層を形成する適切な方法は、米国特許第5,356,718号明細書に開示されている。
【0044】
第2層20は、金属酸化物層(好ましくは、ドープト金属酸化物の層)であるのが好ましく、上述の第1層16に類似していても良い。本発明を限定するものと見なすべきではないが、本発明の目下の好ましい実施行為において、第2層20は、フッ素ドープト酸化スズであって、その前駆物質中のフッ素が該前駆物質の全重量に基づき約20重量%未満、好ましくは約15重量%未満、一層好ましくは約13重量%未満の量で存在する該フッ素ドープト酸化スズである。具体的に測定した訳ではないが、堆積された第2層20中のフッ素は、約5原子%未満の量で存在するものと判断される。もし、フッ素が約5原子%より多い量で存在すれば、コーティングの放射率を変化させ得る、コーティングの導電率に影響を及ぼすことがある。第2層20はまた、結晶質又は実質的に結晶質である。目下の好ましい態様において、第2層20は、好ましくは約2000Å〜約5000Å、一層好ましくは約3000Å〜約3600Åの厚さを有する。フッ素ドープト酸化スズの第2層20は、低放射率を促進する。
【0045】
本発明によるブレーカー層18は、第1と第2の結晶質層(16及び20)の間に配置される。ブレーカー層18は、実質的に結晶質の第1層の上に、実質的に結晶質の第2層がエピタキシャル結晶成長するのを、例えば、そのコーティングの結晶構造をかき乱すか又は遮断することによって、防ぐか妨げるか若しくは低下させる領域又は層である。本発明を限定するものと見なすべきではないが、本発明の目下の好ましい実施行為において、ブレーカー層18は、非晶質層であるのが好ましい。従って、第2層20が形成されるとき、第2層の前駆物質はブレーカー層18上に核を形成し、結晶質の第1層16の上にエピタクシーで成長しない。これによって、第2層20の結晶が第1層の結晶の結晶構造を延ばすのが防止されるか又は低減され;実質的にコーティングを通って延びる、実質的に連続した複数のノコギリ歯形単結晶が形成するのが抑制され;それ故に、表面粗さが小さくなり、ひいては、コーティング14の曇り度が減少する。
【0046】
本発明の目下の好ましい実施行為において、ブレーカー層18は非晶質層であるのが好ましいが、ブレーカー層18はまた、ブレーカー層18が存在しないときに形成される第2層20中の結晶よりも一層小さい結晶が形成するのを促進する、非晶質でない層である場合もある。例えば、ブレーカー層18は、格子不整合(lattice mismatch)を与えてコーティングの結晶成長をかき乱すか又は遮断するために、第1層16と異なる格子定数を有する結晶質層、多結晶質層又は実質的に結晶質の層である場合がある。ブレーカー層18は、第1層の結晶の上に第2層の結晶がエピタキシャル結晶成長を防止するか、妨げるか又は低下させるのに十分な厚さでなければならないが、コーティング14の機械特性又は光学特性に悪影響を及ぼすような厚さであってはならない。本発明の目下の好ましい実施行為において、ブレーカー層18は、約1000Å未満の厚さ、一層好ましくは約100Å〜約600Åの厚さである。
【0047】
ブレーカー層18及び/又は第1層16及び/又は第2層20は、均質な(homogeneous,均一な)、不均質な(non-homogeneous,不均一な)又は漸変的な(graded)組成変化であることがある。層の頂部の表面又は部分;底部の表面又は部分;頂部表面と底部表面の間にある層の諸部分;が、底部表面から頂部表面へ移動するとき、または逆に移動するとき、実質的に同一の化学組成を有していれば、その層は「均質」である。層が、底部表面から頂部表面へ移動するとき、または逆に移動するとき、1種以上の成分のうち実質的に増加している部分を有し、且つ、1種以上の他の成分のうち実質的に減少している部分を有すれば、その層は「漸変的」である。層が均質でも漸変的でもないとき、その層は「不均質」である。
【0048】
本発明の目下の好ましい実施行為において、ブレーカー層18が、リンを含有する金属酸化物層(例えば酸化スズ層)であり、そのリンは、堆積される前駆物質混合物中に、その前駆物質混合物の全重量に基づき約20重量%未満の量、好ましくは約10重量%未満の量、一層好ましくは約3重量%の量で存在する。リン及び酸化スズの前駆物質は、それらが第1層16の上に堆積されるとき、混合された酸化物又は固溶体を形成する;即ち、それらリン及び酸化スズは、それぞれ化学的同一性(chemical identity)を喪失することなく、一緒に固体形態になっているものと考えられる。具体的には測定されていないが、堆積されたブレーカー層18の目下の好ましい態様において、[リン]対[スズ]の原子比(P/Sn)は、約0.01〜約0.10、一層好ましくは約0.03〜約0.08、最も好ましくは約0.04〜約0.06である。本発明の好ましい実施行為において、ブレーカー層18は合金でないのが好ましい。なぜなら、ブレーカー層18は結晶質でないことが好ましいからである。
【0049】
もう1つの態様において、ブレーカー層18は、スズ及びシリカの混合された酸化物(例えば、スズと酸化ケイ素の固溶体)である場合がある。目下の好ましい実施行為において、シリカ前駆物質は、組合せたシリカとスズの前駆物質の全重量に基づき、組合せたシリカとスズの前駆物質の約20重量%未満を含有する。本発明の目下の好ましい態様において、堆積されたブレーカー層18中の[シリコン]対[スズ]の原子比(Si/Sn)は、約0.005〜約0.050、一層好ましくは約0.010〜約0.035、最も好ましくは約0.015〜約0.025であると考えられる。ブレーカー層18はまた、結晶成長を妨げるか又はかき乱す物質の混合物(例えば、リンとシリカの両方を含有する金属酸化物)である場合がある。
【0050】
保護性層(protective layer)22は、望ましい光学特性、管理可能な堆積特性を有する化学抵抗性の誘電体であるのが好ましく、更に、コーティングスタックの他の諸物質と両立しうるもの(compatible)である。適切な保護性物質の例には、二酸化チタン(米国特許第4,716,086号明細書及び第4,786,563号明細書)、二酸化ケイ素(カナダ国特許第2,156,571号明細書)、酸化アルミニウム及び窒化ケイ素(米国特許第5,425,861号明細書;第5,344,718号明細書;第5,376,455号明細書;第5,584,902号明細書;第5,834,103号明細書;及び第5,532,180号明細書;及びPCT公開番号WO95/29883号明細書)、シリコン窒化酸化物(silicon oxynitride)、又はシリコンアルミニウム窒化酸化物(silicon aluminum oxynitride)(米国特許出願通し番号第09/058,440号明細書)が含まれる。これら明細書の開示内容は、それらに言及することにより本明細書に組み入れる。
【0051】
本発明の目下の好ましい実施行為において、コーティング14は、CVDによって施される。例えば、従来のCVD被覆装置、又は複数のコータースロット(coater slots,コーティング機溝穴)を有する「コーター(coater)」を、非酸化性雰囲気(例えば、米国特許第4,853,257号明細書に開示される種のもの)を有する室の中に入っている溶融金属のプール上に支持されたガラスリボンから一定間隔を置いて配置することができる。この明細書の開示内容は、言及することによって本明細書に組み入れる。CVD被覆技術は、薄膜堆積技術の当業者には周知であり、それ故に、詳細には解説しない。CVD被覆の諸装置及び諸方法の例は、例えば、米国特許第3,652,246号明細書;第4,351,861号明細書;第4,719,126号明細書;第4,853,257号明細書;第5,356,718号明細書;及び第5,776,236号明細書に見られるが、本発明がこれらに限定されるものと見なすべきではない。
【0052】
本発明のコーティング(例えば、アンチモンドープト酸化スズ/ブレーカー層/フッ素ドープト酸化スズのコーティング)を形成する典型的な方法について述べる。アンチモンドープト酸化スズの第1層16を堆積するためには、塩化モノブチルスズ(MBTC)等の酸化スズ前駆体を、SbCl3、SbCl5等のアンチモン前駆体と混合し、次いで、コーター(coater)の下方で基体を移動させながら、1つ以上のコータースロットを通して、それら前駆体を基体上に施す。本発明の実施において、SbCl5等のアンチモン前駆体は、組合せたMBTCとSbCl5の物質の全重量の約20重量%未満の量で存在する。第1層物質は、好ましくは約1000Å〜約2300Åの厚さ、一層好ましくは約1700Å〜約2300Åの厚さの第1層16が形成されるように施す。
【0053】
次に、ブレーカー層物質と混合したMBTCを、前記の第1コータースロット(1つ以上)の下流の他の1つ以上のコータースロットを通して、第1層物質の上に堆積する。リン含有酸化スズのブレーカー層18を与えるためには、ブレーカー物質が亜リン酸トリエチル(TEP)であるのが好ましい。TEPは、組合せたMBTCとTEPの物質の全重量に基づき約20重量%未満、一層好ましくは約10重量%未満、最も好ましくは約3重量%の量であるのが好ましい。得られたリン含有ブレーカー層18は、約600Å未満の厚さであるのが好ましい。リンは、イリデセンス(iridescence,真珠光)等の、コーティング14の光学特性に悪影響を及ぼすことがある。従って、リン含有ブレーカー層18の厚さは、後続の第2の金属酸化物層がエピタキシャル成長するのを防止するように、しかし、コーティング14の光学特性に悪影響を及ぼさないような厚さで選定すべきである。
【0054】
もう1つの方法として、シリカと酸化スズとを含有するブレーカー層18を与えるためには、ブレーカー物質はテトラエチルオルトシリケート(TEOS)である場合がある。この代替的態様において、TEOSは、組合せたMBTCとTEOSの前駆物質の全重量に基づき約20重量%未満であるのが好ましい。
【0055】
コーターの堆積能力の残余は、MBTCと、トリフルオロ酢酸(TFA)等のフッ素前駆体との混合物を基体上に施して、ブレーカー層18上に、フッ素ドープト酸化スズの第2層20を形成するために使用することができる。TFAは、MBTC及びTEAの全重量の約20重量%未満、一層好ましくは約15重量%未満である。
【0056】
本発明のブレーカー層18は、上述のコーティング14と一緒に使用するように限定されない。それどころか、本発明の「ブレーカー層」の概念は、望ましい太陽光制御特性を与えるものの、曇り度が受入れられない程大きいために従来それらの商業的用途が限定されることもあった他のコーティングスタックに適用することができる。
【0057】
例えば、上記で検討した通り、フッ素ドープト酸化スズ物質は、低放射率コーティングを形成するために使用されてきた。しかし、従来の結晶質フッ素ドープト酸化スズのコーティングは、約2000Åより大きい厚さで、商業的に望ましくない曇り度(例えば、約2%より大きいもの)を示す。図2に示す通り、本発明は、本発明の1つ以上のブレーカー層18を従来のフッ素ドープト酸化スズコーティングの中に挿入して、フッ素ドープト酸化スズコーティングを分割し(break,分断し)、複数のブレーカー層18により分離されたフッ素ドープト酸化スズの複数の平行薄層、領域又は層30にすることによって、この問題を軽減するために使用することができる。各結晶質のフッ素ドープト酸化スズ層30は、好ましくは約4000Å未満の厚さであり、一層好ましくは約3000Å未満の厚さであり、更に好ましくは約2000Å未満の厚さであり、最も好ましくは約1000Å未満の厚さである。このようにして、複数のブレーカー層18は、フッ素ドープト酸化スズの大きい結晶(例えば、約2000Åより大きい厚さのもの)が形成するのを防止し、その結果、得られたコーティングの曇り度を低下させる。他の既知の被覆性物質(例えば、1種以上のドーピングされた又はドーピングされていない結晶質酸化スズ;しかし、これに限定されない)でできた多層コーティングは、類似方法で形成することができ、コーティングスタックの中に1つ以上のブレーカー層18を組み込んで、コーティングを分割し、複数の結晶質コーティング領域であって各々コーティング領域が約4000Å未満、好ましくは約3000Å未満、更に好ましくは約2000Å未満、最も好ましくは約1000Å未満の厚さを有する該複数のコーティング領域にすることによって、コーティング全体に曇りが形成されるのを低下させることができる。
【0058】
上記で検討した好ましい態様において、本発明のブレーカー層18は、コーティングスタックの内の選定された結晶質層の間に配置される。しかし、ブレーカー層18はまた、下にある結晶質層の粗い外面を滑らかにするために、米国特許第5,744,215号明細書に記述されている方法と同様の方法で、「トップコート(topcoat,保護膜)」(即ち、機能性コーティングスタックの最も外側の結晶質層の上部に堆積した層)として使用することもできる。その明細書の開示内容は、それに言及することによって本明細書に組み入れる。例えば、上述のようなブレーカー層18を中間挿入するか又は中間挿入しないで、1つ以上の結晶質コーティング層を基体上に堆積して、機能性コーティングスタックを形成することができる。複数の結晶質層を堆積した後、続いて、本発明のブレーカー層18最も外側の結晶質の外面上に堆積して、結晶質外面を滑らかにすることができる;即ち、粗い結晶質外面のあらゆるトラフ(troughs,細長い谷間)又は窪み(valleys,溝)を充填するか及び/又はくまなく滑らかにして、表面の曇りを低下させることができる。次いで、このブレーカー層の「トップコート」は、一時的な又は半永久的な保護性層22によって光学的に被覆することができる。このブレーカー層をトップコートとして使用する場合、ブレーカー層18は、中間層として使用される場合よりも一層厚くし得るものと考えられる。
【0059】
上記の検討の通り、多数の太陽光制御コーティングは、曇りの問題の他に、更に商業的に望ましくないイリデセンス(真珠光)を呈する。本発明はまた、イリデセンス特性を改善した複数のコーティング(特に、低放射率コーティング)を提供する。
【0060】
例えば、図3は、イリデセンスを低減させた、本発明の低放射率コーティング40を示す。コーティング40は、基体12上に堆積した色抑制層42と、色抑制層42上に堆積した第1の機能性領域又は層44(例えば、ドープト金属酸化物層)とを有する。色抑制層42は、1つの金属酸化物から他の金属酸化物へ遷移する勾配層(gradient layer,傾斜層)であるのが好ましい。適切な色抑制層42の諸例は、米国特許第4,187,336号明細書;第4,419,386号明細書;第4,206,252号明細書;第5,356,718号明細書;又は第5,811,191号明細書に開示されている。これら明細書の開示内容は、それらに言及することによって本明細書に組み入れる。例えば、色抑制層42は、酸化ケイ素と金属酸化物(例えば、基体12からの距離が増大するにつれて、組成が連続的に変化する酸化スズ)の混合物を含有する勾配層である場合がある。例えば、色抑制層42は、基体12付近又はその近隣では、主として酸化ケイ素とし、色抑制層42の外側の表面又は領域は主として酸化スズとすることができる。色抑制層42は、約50Å〜約3000Å、好ましくは約1000Åの厚さを有するのが好ましい。色抑制層42は、非晶質であるのが好ましく、既知のいかなる堆積方法によってでも堆積することができる。例えば、フロートガラス系に対しては、従来の化学蒸着(CVD)が好ましい。しかし、色抑制層42は、他の周知の諸技術[例えば、スプレー熱分解、又はマグネトロンスパッタリング真空蒸着(MSVD)]によって堆積することもできる。更に、勾配をつけた色抑制層42が好ましいのであるが、色抑制層42はまた、当業界で知られている、単一成分の層又は多成分の層であっても良い。
【0061】
第1層44は、透明の導電性金属酸化物(例えば、アンチモンが、第1層44又は前駆物質の全重量に基づき約10重量%〜約30重量%、好ましくは約15重量%〜約20重量%の量で存在するアンチモンドープト酸化スズ)を含有するのが好ましい。第1層44は、約700Å〜約3000Åの厚さを有するのが好ましい。しかし、第1層44の厚さが約1500Å〜約2000Åより大きければ、曇り度を低下させるために、本発明の1つ以上のブレーカー層18を使用して第1層44を分割し、上述のような複数の領域又は副層(sub-layers)であって各々副層が約2000Å未満、好ましくは約1500Å未満、一層好ましくは約1000Å未満であり、ブレーカー層18によって隣接する副層から分離されている該複数の副層にすることができる。
【0062】
第1層44上には随意的に、第2の層46を堆積することができる。図3の点線で示す通り、本発明の随意的ブレーカー層18は、第1と第2の層(44及び46)の間に配置することができる。第2層46は、ドープト金属酸化物物質(例えば、フッ素及び/又はインジウムでドーピングされた酸化スズ、或いはスズでドーピングされたインジウム酸化物)であるのが好ましい。目下の好ましい実施行為において、第2層46は、フッ素が第2層46又はその前駆物質の全重量に基づき約10重量%〜約30重量%の量で存在するフッ素ドープト酸化スズである。第2層46は約0Å〜約3000Åの厚さを有するが、第2層46の厚さは第1層44の厚さに反比例するのが好ましい;即ち、アンチモンドープト酸化スズの第1層44が、それの好ましい上限値(3000Å)又はその近辺の値であるとき、フッ素ドープト酸化スズの第2層46は、それの好ましい下限値(約0Å)又はその近辺の値である;即ち、第2層46は存在しなくても良い(約0Å)か、又は、もし存在するとしても非常に薄い(>0Å)。逆に言えば、アンチモンドープト酸化スズの第1層44が、それの好ましい下限値(700Å)又はその近辺の値であるとき、フッ素ドープト酸化スズの第2層は、それの好ましい上限値(3000Å)又はその近辺の値であるのが好ましい。しかし、上述のように、第2層46の望ましい厚さが約1500Å〜約2000Åより大きければ、コーティングの曇り度を低下させるために、本発明の1つ以上のブレーカー層18を使用して第2層46を分割し、複数の副層であって各々副層が約1500Å〜約2000Å未満の厚さである該複数の副層にすることができる。
【0063】
従って、当業者に理解され得るように、本発明は、本発明の1つ以上のブレーカー層18を利用することによって、低遮光率(例えば、約0.5未満、好ましくは約0.44)及び低曇り度(例えば、約1.5%未満)をも有する、低放射率の被覆されたガラス基体(例えば、約0.2未満の放射率を有するもの)を提供する。
【0064】
本発明は更に、1つ以上のドープト金属層と協力した形で色抑制層42を利用して、イリデセンスの減少した、低放射率の太陽光制御コーティングを提供する。1つ以上のブレーカー層と色抑制層とを有するコーティングを与えることによって、曇りとイリデセンスの両方の問題を同時に処理することができる。
【0065】
本発明はまた、第1の機能性層と、第2の機能性層と、それら2つの機能性層の間に配置された本発明のブレーカー層18とを有することのできる、被覆された基体を提供する。上記の検討から分かるように、第1機能性層は、アンチモンドープト酸化スズ等の太陽光制御コーティング層、又は色抑制層を有し得る。第2機能性層は、フッ素ドープト酸化スズ等の低放射率コーティング層を有し得る。もう1つの方法として、第1及び第2の機能性層は両方とも、太陽光制御層、又は低放射率コーティング層であっても良い。
【0066】
前記に開示する概念から離れないで変形・修正を行うことができることを、当業者なら容易に理解できるであろう。従って、本明細書に詳細に記述した特定の諸態様は、単に例証に役立つものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の全範囲と、それらと同等のもの全てとによって与えられるべきである。
【0067】
(例I)
この例は、本発明の、リン含有ブレーカー層の使用方法を例証する。
本例では、5種の前駆体成分を使用した。それら成分はそれぞれ、ELF Atochem,N.A.から市販されている。5種の成分は塩化モノブチルスズ(MBTC;商品名 ICD−1087)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、亜リン酸トリエチル(TEP)、トリフルオロ酢酸(TFA)、及びMBTCに入った三塩化アンチモンの20重量%混合物(ATC;供給元コード ICD−1133)であった。
【0068】
この例で、ATCは、MBTCで希釈して、MBTC中の三塩化アンチモンの濃度7重量%を与えた。この混合物は、従来の充填カラム蒸発装置の中に送り込み、350°Fに加熱し、その混合物を蒸発させた。キャリヤーガスとして窒素を使用し、その蒸発装置に逆流で通して送り込み、窒素とMBTCと三塩化アンチモンとのガス混合物を形成した。このガス混合物は、空気で更に希釈して、反応物種の0.8〜1.0モル%にした。このガス混合物は、米国特許第4,853,257号明細書に開示される種類のコーティングステーション(coating station)の中に送り込んだ。その明細書の開示内容は言及することにより本明細書に組み入れる。前駆体混合物は、400インチ/分〜720インチ/分の速度でコーティングステーションの下を移動している、約1200°F〜約1220°Fの温度を有する一片の3.3mm透明フロートガラスの上に、コーティングステーションを通して送った。前駆体混合物がガラスと接触したとき、ガラスの熱エネルギーによって前駆体の諸成分が熱分解されて、ガラス上に結晶質アンチモンドープト酸化スズのコーティング領域又は層が形成された。その反応のガス状生成物及び使用されなかった薬品蒸気は、従来の熱酸化剤に排出し、次いで、バグハウス(bag house)へ送った。
【0069】
次のコーティングステーションで、MBTC及びTEPは、窒素キャリヤーガスの存在下で上述のように別々に蒸発させ、次いで、2つのガス状前駆物質を混合してMBTC中におけるTEPの3重量%混合物を与えた。この混合物は、空気で希釈して0.8〜1.0モル%の反応物蒸気にし、次いで、前に被覆したガラス基体の上に、上述したものと同一種の第2コーティングステーションを通して送った。被覆された表面にその混合物が接触したとき、TEP及びMBTCは熱分解して、第1コーティング領域の頂部に、リンと混合された酸化スズの非晶質の層又は領域が形成された。
【0070】
次のコーティングステーションで、TFAは、液体として液体MBTCの供給流れに混合し、MBTC中の12重量%TFAの混合物を与えた。この混合物は、窒素キャリヤーガスの存在下、上述の通りに蒸発させ、次いで、空気で更に希釈して、0.8〜1.0モル%の反応物蒸気にした。次いで、第3のコーティングステーションで、前に被覆した基体の上にこの蒸気を送り、フッ素でドーピングした酸化スズのコーティング領域又は層を、ブレーカー層上に形成した。
【0071】
最終生成物は、3.3mm透明フロートガラス上の3層スタックであった。このスタックは、約1750Åのアンチモンドープト酸化スズの第1層と、約450Å〜約650Åのリン含有酸化スズのブレーカー層と、約3400Åのフッ素ドープト酸化スズの第2層とを有するものと思われる。被覆された基体は、単一窓ガラスに対する0.44の遮光率と、48%の可視光透過率と、0.18の放射率と、0.8%の曇り度とを有した。反射色は、薄緑色ないし緑がかった青色であり、透過色はくすんだ灰色ないし灰色がかった青色であった。ブレーカー層18がなければ、被覆された基体は約3%より大きい曇り度を有するものと予想される。
【0072】
(例II)
この例は、本発明の、シリコン含有ブレーカー層の使用方法を例証する。
第2のコーティングステーションでTEOSとMBTCの混合物を施し、酸化スズとシリカのブレーカー層を形成したことを除けば、例1で述べたやり方と同様のやり方で、もう1つの被覆された基体を調製した。TEOSとMBTCを混合して、MBTC中の1.2〜1.4重量%(0.5〜0.8モル%)のTEOSの混合物を与え、この混合物は空気で更に希釈して0.8〜1.0モル%の反応物蒸気にした。
【0073】
被覆された3.3mm透明フロートガラスは、約1750Åのアンチモンドープト酸化スズの第1層と、約450Å〜約650Åの酸化スズ及びシリカでできたブレーカー層と、約3400Åのフッ素ドープト酸化スズの層とを有するものと思われる。
被覆された基体は、単一窓ガラスに対する0.44の遮光率と、48%の可視光透過率と、0.18の放射率と、1.5%の曇り度とを有した。
【0074】
(例III)
イリデセンスの問題を調べるために、図4は、CVDによって透明フロートガラス上に堆積された幾つかのアンチモンドープト酸化スズのコーティングの太陽光吸収を示す。これらコーティングを生成したプロセスパラメータは、表1に記載する。もちろん、他の既知の堆積方法(例えば、MSVDのようなスパッタリング被覆技術及び熱分解被覆技術)は、用いることもできる。
【0075】
【表1】

【0076】
金属酸化物の前駆体[例えば、三塩化モノブチルスズ(MBTC)]に入れたアンチモン前駆体[例えば、三塩化アンチモン]の5重量%混合物を用いて、スプレー被覆を行い、約621℃(1150°F)に加熱した透明ガラスの基体の上に人力噴霧を行った。アンチモン前駆体は、MBTCの20重量%一定で送った。コーターは、中央入り口スロット、上流の出口スロット、及び下流の出口スロットを備えていた。被覆領域の幅は4インチであり、出口間の接触長さは5インチであった。空気はキャリヤーガスとして使用した。金属酸化物前駆体は、ガラス基体の表面で化学変化を起こして、アンチモン前駆体の分解によってアンチモンドーパントを含有する酸化スズを形成する。
【0077】
図4に示されるように、コーティング4(S4)及びコーティング8(S8)は、可視光よりも一層多くのNIRエネルギーを吸収し、大きい可視光透過率が必要とされるとき、これらコーティングによって太陽光がうまく制御されることとなる。コーティング2(S2)及びコーティング6(S6)は、約550nmにピーク吸収を有する。これらのコーティングは、ペンシルベニア州ピッツバーグのPPG工業社(PPG Industries,Inc.)から市販されているソレックス[Solex(登録商標)]ガラス、ソーラーグリーン[Solargreen(登録商標)]ガラス等の、従来の幾つかのガラスの緑色を和らげる(mute,ぼかす)のにうまく適している。コーティング10(S10)は、NIR光より一層多くの可視光を吸収し;コーティング1(S1)は、太陽光スペクトルの端から端まで一律に比較的一定の量を吸収し;そして、コーティング9(S9)及びコーティング11(S11)は、かなりの紫外線を吸収する。
【0078】
アニーリングされた(annealed)状態及び焼き入れされた(tempered)状態で光沢をつけられるコーティングにとって重要な問題は、色彩堅ろう度、又は、被覆されたガラスが加熱されたときに変色しない色である。外観及び性能は、加熱処理の前後で同じでなければならない。本発明のアンチモンドープト酸化スズコーティングは、加熱時に変化するかも知れないし変化しないかも知れない。これは、堆積パラメータに依存する。種々の試料の諸特性と、幾つかの特性が加熱処理によって変化する程度とを表2に示す。厚さの単位はÅである。後にHのついた試料番号は、加熱処理後の試料を示す。それら試料は、約4分間の間649℃(1200°F)にさらし、次いで、室温まで冷却した。
【0079】
【表2−1】

【0080】
【表2−2】

【0081】
【表2−3】


(1) 1020電子キャリヤー/cm3を乗じたべき指数(E)
R1は被覆された側からのガラスの反射率であり;R2は被覆されていない側からの同反射率であり;Tは光源透過率である。また、DEは色の変化である。
【0082】
加熱処理前の試料8の諸光学定数を次の表3に示す。これら光学定数はまた、次の他の諸例で使用されるものである。
【0083】
【表3−1】


【表3−2】


【表3−3】


【表3−4】

【0084】
可視光とは対照的にNIR太陽光を選択的又は優先的に吸収するコーティングを施すことは、優れた太陽光制御スタックを造るのに有用である。上記の光学的諸特性を有する、800Åの厚さのアンチモンドープト酸化スズ単一層は、約69%の可視透過率と約58%のTSETとを有するものと予想される。本発明のアンチモンドープト酸化スズ層は、約700Å〜約3000Åの厚さであるのが好ましい。アンチモンドープト酸化スズは、全太陽光スペクトルの端から端までの光を吸収する。また、アンチモンドープト酸化スズは、緑色光を非常に強く吸収する。従って、緑色のガラス基体の上に、アンチモンドープト酸化スズを含有するコーティングを置くことによって、透過された色は緑色から灰色に変化し、中間色の審美性を有する高性能の太陽光制御ガラスを造ることが可能である。
【0085】
次に述べる理論的諸コーティングは、下記に一層詳細に記述されるように、市販の「TFCalc」ソフトウェアプログラムを用いてモデル化した。
【0086】
(予測例IV)
アンチモンドープト酸化スズ層は、付加的ドープト金属酸化物の層(例えば、フッ素ドープト酸化スズ層、インジウムドープト酸化スズ層、又はインジウムドープト酸化スズとフッ素ドープト酸化スズの混合物)と一緒にして、低放射率と透過率の低下の両方を達成することができる。フッ素及び/又はインジウムドープト酸化スズは、アンチモンドープト酸化スズの屈折率よりも一層大きい屈折率を持つ。フッ素ドープト酸化スズは導電性であり、且つ、スペクトルの紫外部及び可視部で大きい屈折率を持ち、NIRで小さい屈折率を持つ。解説する目的で、用語「大きい屈折率」は通常、約1.9よりも大きい屈折率を意味し、用語「小さい屈折率」は通常、約1.6よりも小さい屈折率を意味する。「中程度の屈折率」は、約1.6〜1.9の屈折率をいう。本発明において、フッ素ドープト酸化スズのコーティングは約0Å〜約3000Åであり、フッ素ドープト酸化スズ層の厚さは、アンチモンドープト酸化スズ層の厚さと逆の関係であるのが好ましい。アンチモンドープト酸化スズ層がそれの好ましい上限(即ち、約3000Å)の近辺であるとき、フッ素ドープト酸化スズ層は、それの好ましい下限(即ち、約0Å)又はその近辺であるのが好ましい。逆に言えば、アンチモンドープト酸化スズ層がそれの好ましい下限(即ち、約700Å)の近辺であるとき、フッ素ドープト酸化スズ層は、それの好ましい上限(即ち、3000Å)近辺であるのが好ましい。図5は、アンチモンドープト酸化スズとフッ素ドープト酸化スズとのコーティングの漸変層(graded layer)からの光の理論的透過率を示す。全透過率(TSET)は約51%であり、可視光透過率は約69%である。アンチモンドープト酸化スズ層の厚さを変えることによって、又はコーティングのアンチモン濃度を変えることによって、この設計と共にTSET及び可視光透過率を変更することができる。一般に、アンチモンドープト酸化スズ層の厚さが大きくなるとき、又はアンチモン濃度が大きくなるとき、TSET及び可視光透過率は低下する。
【0087】
政府規制は、窓の性能を厳しくしている。南部アメリカ合衆国の窓に関する新しい性能目標は、約0.45の遮光率を持つことである。この遮光率は、約37%のTSETで達成することができる。図5に記述されるコーティングは、アンチモンドープト酸化スズ層の厚さを大きくすることによって、この性能目標を達成するように変更することができる。このコーティングの透過曲線は、図6に示される。このコーティングは、約52%の可視光透過率と、約37%のTSETとを持つ。このコーティングは、頂部層としてのフッ素ドープト酸化スズコーティングによって、約0.35未満の放射率を与えるであろう。この例では、漸変層の厚さは800Åであり、アンチモンドープト酸化スズは1800Åであり、フッ素ドープト酸化スズは1800Åである。
【0088】
このコーティングのTSETは、上記で説明したアンチモンドープト酸化スズとフッ素ドープト酸化スズの漸変物品の頂部に、TiO2等の大きい四分の一波長インデックス層を施すことによって、更に低下させることができる。TSETは32.5%まで低下するが、可視透過は51%までしか低下しない。これらのスタックの、TiO2層を持つ場合と持たない場合の透過曲線を図7に示す。
【0089】
市販のTFCalcソフトウェアプログラムを用いて、理論的コーティングをモデル化した。太陽熱透過率は、「ASTM E 891−87」に規定される1.5の積分気塊(integrated air mass)を用いて算出した。可視透過率は、光源Cを用いたTFCalc出力から算出した。屈折率が少しずつ変化する20の薄片(slices)でできた層によって、色抑制層を近似させた。薄片の数は、その漸変屈折率層の頂部に特定の屈折率を得るように変化させた。薄片の屈折率は、0.05ずつ増加しながら1.5から2.0に変化した。ソフトウェアが、連続的に変化する屈折率を有するコーティングをモデル化することができないために、漸変屈折率層に対する近似を行った。そのような近似方法は、コーティングをモデル化する技術では周知である。その漸変層の、以下に述べる諸光学定数は、太陽光スペクトル全体の波長の関数として一定である。この例は、1230nmの波長に対して設計されたコーティングである。この漸変層は頂部で2.0の屈折率を有し、薄層は10nmの厚さである。
【0090】
ドープト金属酸化物の諸層を変化させるために、屈折率は重要である。フッ素ドープト酸化スズ層は、設計波長で1.42の屈折率を持つようにモデル化した。入射媒体は、1.0の屈折率を持つ空気である。アンチモンドープト酸化スズ層は、設計波長で1.680の屈折率を持つようにモデル化した。フッ素ドープト酸化スズ層の物理的厚さは2166Åであり、アンチモンドープト酸化スズ層の物理的厚さは3664Åである。このモデル化されたコーティングは、被覆されていない基体と比べて、1045nmから1500nmまでの範囲の波長の反射率を理論的に減少させる。可視透過率は40.01%であり、太陽熱透過率は27.2%であり、両者の差は12.80%である。フッ素ドープト酸化スズ層とアンチモンドープト酸化スズ層の間の屈折率の差異は、500nm(可視スペクトルの中央)で0.174であり、1230nm(近赤外線の設計波長)で0.260である。このコーティングもまた、中間色の(neutral,くすんだ灰色の)反射色を持つ。
【0091】
(予測例V)
550nmの波長に対するコーティングのために、予測例IVにおけるモデル化と類似のモデル化を行った。色抑制層は、厚さ10nmの薄片が頂部で2.0の屈折率を持つようにモデル化した。フッ素ドープト酸化スズ層は、設計波長で2.0の屈折率を持つようにモデル化した。入射媒体は、2.0の屈折率を持った。アンチモンドープト酸化スズ層は、設計波長で1.826の屈折率を持った。フッ素ドープト酸化スズ層の物理的厚さは702Åであり、アンチモンドープト酸化スズ層は1539Åである。このコーティングは、被覆されていない基体と比べて、300nmから1160nmまでの範囲の波長の反射率を理論的に減少させる。この被覆された物品は、2.0の入射媒体のために設計されるが、異なる屈折率を持つ入射媒体(例えば、1.0の屈折率を持つ空気)で使用することができる。空気に対して算出した関連値は、可視透過率が62.28、太陽熱透過率が49.54であり、これら二つの差は12.75%である。フッ素ドープト酸化スズ層とアンチモンドープト酸化スズ層の間の屈折率の差異は、500nm(可視スペクトルの中央)で0.174であり、1230nm(近赤外線の設計波長)で0.260である。このコーティングもまた、くすんだ灰色の反射色を持つ。
【0092】
(予測例VI)
上述の具体例において、被覆された物品のイリデセンスを防止するために、色抑制層を使用した。しかし、本発明の更なる具体例では、色抑制層は全く必要でない。アンチモンドープト酸化スズとフッ素ドープト酸化スズの新規な組合せによって、くすんだ灰色の反射光と低放射率とを有する被覆された物品が造られることが見出された。本発明のこの具体例において、ガラス等の基体は、例えば、上述したように、その上にアンチモンドープト酸化スズ層を有する。アンチモンドープト酸化スズ層は、好ましくは約900Å〜約1500Åの厚さ、一層好ましくは約1200Åの厚さを有する。次いで、従来のやり方で、アンチモンドープト酸化スズ層上にフッ素ドープト酸化スズ層を堆積する。フッ素ドープト酸化スズ層は、好ましくは約2300Å〜約3600Åの厚さを有し、透過色をほとんど又は全く持たない、透明の導電性酸化物を与える。しかし、得られる物品の色は変化するが「ロバスト(robust)」の状態であるように、フッ素ドープト酸化スズ層の厚さを変化させることができる。本明細書で「ロバスト」は、色が膜厚の変化に対して実質的に鈍感であることを意味するものとして使用する。
【0093】
アンチモンドープト酸化スズ層は、好ましくは約900Å〜約1500Åの厚さ、一層好ましくは約1200Åの厚さを有する。アンチモンドープト酸化スズは、酸化アンチモンの単一濃度を有しても良く、或いは、異なるアンチモン濃度の2つ以上の層(layers)又は平行に積み重なった層(strata)に分割しても良い。そのような層を造る1つの方法は、上記で説明した米国特許第5,356,718号明細書に開示されている。しかし、選定した物質の2種以上の濃度を持つ層を造るための既知の方法のいかなるものでも使用することができる。[酸化アンチモンの異なる複数種の濃度]及び/又は[アンチモンドープト酸化スズの適切な厚さ]の複数の層が存在すれば、得られる多層の色の中に複数の変向点(turning points,転換点)が現われる状況が創られる。図8は、多層の色が、フッ素ドープト酸化スズ層の厚さの変化と共にどのように変化するかを示す。その色は、中間色(その中心はX=0.333且つY=0.333として定義される)の周りに円を描く。内側のらせんは透過された色であり、外側のらせんは反射された色である。色が明確に変化する、反射色のらせんに沿う点は全く存在せず、全ての変化は緩やかである。図8のための理論的パラメータを、グラフの右側に示す。これらのパラメータは、色度標準 1931 CIE;視野角 2°;偏光:平均;基準白色:CIE−C;光源:白色;入射角:0.00°;x座標は反射に対して0.338であり、透過に対して0.321である;y座標は反射に対して0.371であり、透過に対して0.323である;明度は反射に対して14.24であり、透過に対して60.18である;主波長(nm)は反射に対して569であり、透過に対して585である;補色主波長(nm)は反射に対して450であり、透過に対して484である;そして、刺激純度は反射に対して0.223であり、透過に対して0.047である。図8〜10の色のらせんは、TFCalcソフトウェアを用いて作った。
【0094】
好ましいコーティングは、中間色点の近くに明確な変向点を持つものである。今、本発明の付加的具体例を記述する。図9は、アンチモンドープト酸化スズの2つの層を有する、本発明のこの付加的具体例のための色のらせんを示す。第1の層は、985Åの厚さであり、第2の層は、214Åの厚さである。フッ素ドープト酸化スズ層は、約1200Å〜約3600Åの範囲に及ぶ。明確な変向点が、X=0.3,Y=0.34、及びX=0.34,Y=0.32で生じる。これら2つの点は、ロバスト点(robust points)を表わす。第2の点は、第1の点よりもやや強い中間色である。設計全体の感度(sensitivity)は、中間色点に基づいて算出することができる。図10は、±75Åの、各層の厚さの変動に対して色がどのように変化するかを示す。色度標準、視野角、偏光、基準白色、光源及び入射角は、図8に使用されたように、図9及び10に使用されたものと同じである。しかし、残りの諸パラメータは、次のように変化した(次の諸設定において、最初の数字は反射に対するものであり、括弧内の数字は透過に対するものである)。図6について、x座標は0.305(0.325);y座標は0.342(0.325);明度は11.06(57.92);主波長は539nm(584nm);補色主波長は適用なし(483nm);そして、刺激純度は0.057(0.065)であった。図7について、x座標は0.333(0.322);y座標は0.326(0.328);明度は10.55(56.63);主波長は589nm(578nm);補色主波長は486nm(478nm);そして、刺激純度は0.086(0.064)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングにおいて、
第1のコーティング表面;
第2のコーティング表面;及び
第1と第2のコーティング表面の間に配置され、且つ、前記コーティングの結晶構造を妨げるように構成されている少なくとも1つのブレーカー層;
を有する上記コーティング。
【請求項2】
第1及び第2のコーティング表面が実質的に結晶質であり、ブレーカー層が実質的に非晶質である、請求項1記載のコーティング。
【請求項3】
第1及び第2のコーティング表面の少なくとも1つが、少なくとも1種の金属酸化物と少なくとも1種のドーパントとを含有する、請求項1記載のコーティング。
【請求項4】
ブレーカー層が少なくとも1種の金属酸化物とリンとを含有する、請求項1記載のコーティング。
【請求項5】
ブレーカー層が少なくとも1種の金属酸化物とシリコンとを含有する、請求項1記載のコーティング。
【請求項6】
コーティングにおいて、
実質的に結晶質の第1層;
第1層の上に堆積された実質的に結晶質の第2層;及び
第1層と第2層の間に配置されているブレーカー層であって第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている該ブレーカー層;
を有する上記コーティング。
【請求項7】
第1層が金属酸化物を含有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項8】
第1層が、少なくとも1種のドーパントを有する金属酸化物を含有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項9】
第1層が、約1000Å〜約2300Åの厚さを有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項10】
第1層及び第2層の少なくとも1つが、(a)Zn、Fe、Mn、Al、Ti、In、Zr、Ce、Sn、Si、Cr、Sb、Co及びそれらの混合物の酸化物から成る群から選ばれる1種の金属酸化物;並びに(b)Sn、Sb、F、In及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種のドーパント;を含有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項11】
第2層が、約2000Å〜約5000Åの厚さを有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項12】
ブレーカー層が酸化スズ及びリンを含有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項13】
ブレーカー層が酸化スズ及びシリカを含有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項14】
ブレーカー層が、約100Å〜約1000Åの厚さを有する、請求項6記載のコーティング。
【請求項15】
ブレーカー層が非晶質である、請求項6記載のコーティング。
【請求項16】
コーティングにおいて、
アンチモンドープト酸化スズを含有し、約1200Å〜約2300Åの厚さを有する、実質的に結晶質の第1層;
第1層上に堆積された実質的に結晶質の第2層であって、フッ素ドープト酸化スズを含有し、約3000Å〜約3600Åの厚さを有する第2層;
結晶質の第1層と第2層の間に配置されているブレーカー層であって第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている該ブレーカー層;
を有する、上記コーティング。
【請求項17】
ブレーカー層が、約100Å〜約1000Åの厚さを有し、リン及びシリカの少なくとも1種を有する酸化スズを含有する、請求項16記載のコーティング。
【請求項18】
被覆された物品において、
基体;及び
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積されたコーティングであって、
第1コーティング表面と、
第2コーティング表面と、
第1と第2のコーティング表面の間に配置され、且つ、該コーティングの結晶構造を妨げるように構成されている少なくとも1つのブレーカー層と、
を有する該コーティング;
を有する上記被覆された物品。
【請求項19】
第1及び第2のコーティング表面が実質的に結晶質であり、ブレーカー層が実質的に非晶質である、請求項18記載のコーティング。
【請求項20】
第1コーティング表面が、少なくとも1種の金属酸化物を含有する、請求項18記載のコーティング。
【請求項21】
第1コーティング表面が、少なくとも1種のドーパントを更に含有する、請求項20記載のコーティング。
【請求項22】
第2コーティング表面が、少なくとも1種の金属酸化物を含有する、請求項18記載のコーティング。
【請求項23】
第2コーティング表面が、少なくとも1種のドーパントを更に含有する、請求項22記載のコーティング。
【請求項24】
ブレーカー層が、少なくとも1種の金属酸化物とリンとを含有する、請求項18記載のコーティング。
【請求項25】
ブレーカー層が、少なくとも1種の金属酸化物とシリコンとを含有する、請求項18記載のコーティング。
【請求項26】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積された実質的に結晶質の第1の層;
第1層上に堆積されたブレーカー層;及び
前記ブレーカー層上に堆積された実質的に結晶質の第2の層;
を有する被覆された物品であって、前記ブレーカー層が、前記第1結晶質層上に前記第2結晶質層がエピタキシャル成長するのを妨げるように構成されている、上記被覆された物品。
【請求項27】
基体が、ガラス、セラミック及びプラスチックからなる群から選ばれる、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項28】
第1層が、金属酸化物及び少なくとも1種のドーパントを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項29】
第1層が、Zn、Fe、Mn、Al、Ti、In、Zr、Ce、Sn、Si、Cr、Sb、Co及びそれらの混合物の酸化物から成る群から選ばれる1種の金属酸化物と、Sn、Sb、F、In及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種のドーパントとを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項30】
第1層が、約1200Å〜約2300Åの厚さを有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項31】
ブレーカー層が非晶質である、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項32】
ブレーカー層が、約100Å〜約1000Åの厚さを有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項33】
ブレーカー層が酸化スズ及びリンを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項34】
ブレーカー層が酸化スズ及びシリカを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項35】
第2層が、金属酸化物及び少なくとも1種のドーパントを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項36】
第2層が、Zn、Fe、Mn、Al、Ti、In、Zr、Ce、Sn、Si、Cr、Sb、Co及びそれらの混合物の酸化物から成る群から選ばれる1種の金属酸化物と、Sn、Sb、F、In及びそれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種のドーパントとを含有する、請求項35記載の被覆された物品。
【請求項37】
第1層が、約8.0:約12.0の[アンチモン]対[スズ]の原子比のアンチモンドープト酸化スズを含有する、請求項26記載の被覆された物品。
【請求項38】
第2層は、フッ素が約5原子%未満の量で存在するフッ素ドープト酸化スズを含有する、請求項35記載の被覆された物品。
【請求項39】
ブレーカー層が、約0.001:約0.10の[リン]対[スズ]の原子比を有する、請求項33記載の被覆された物品。
【請求項40】
ブレーカー層が、約0.005:約0.050の[シリコン]対[スズ]の原子比を有する、請求項34記載の被覆された物品。
【請求項41】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積された実質的に結晶質の第1層;及び
第1層の少なくとも一部分の上に堆積されたブレーカー層であって第1層上に後で堆積される結晶質層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は少なくとも低下させるように構成されている該ブレーカー層;
を有する被覆された物品。
【請求項42】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積された、約50Å〜約3000Åの厚さの漸変的な色抑制層;及び
前記色抑制層の上に堆積された、実質的に透明で導電性金属酸化物の第1層;
を有する被覆された物品であって、前記の導電性金属酸化物層が約700Å〜約3000Åの厚さである上記被覆された物品。
【請求項43】
導電性金属酸化物層が少なくとも2つのコーティング層を有する、請求項42記載の物品。
【請求項44】
導電性金属酸化物の第1層の上に堆積された、実質的に透明で導電性金属酸化物の第2層を有し;導電性金属酸化物の第2層が約0Å〜約3000Åの厚さを有し;導電性金属酸化物の第2層がフッ素ドープト酸化スズであり;しかも、第2層の厚さが、第1層の厚さに逆比例している;請求項42記載の物品。
【請求項45】
基体;
前記基体の上に堆積され、約900Å〜約1500Åの厚さを有するアンチモンドープト酸化スズ層;及び
前記アンチモンドープト酸化スズ層の上に堆積され、約1200Å〜約3600Åの厚さを有するフッ素ドープト酸化スズ層;
を有する被覆された物品であって、
前記アンチモンドープト酸化スズ層が、アンチモン濃度の異なる少なくとも2つの層であって第1の層が約985Åの厚さを有し第2の層が約214Åの厚さを有する上記少なくとも2つの層を有する、上記被覆された物品。
【請求項46】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積されている第1のドープト金属酸化物層;及び
第1のドープト金属酸化物層の上に堆積された第2のドープト金属酸化物層;
を有する被覆された物品であって、第1ドープト金属酸化物層が第2ドープト金属酸化物層の屈折率よりも一層小さい屈折率を有する、上記被覆された物品。
【請求項47】
第1ドープト金属酸化物層がアンチモンドープト酸化スズを含有する、請求項46記載の物品。
【請求項48】
第2ドープト金属酸化物層が、フッ素ドープト酸化スズ、インジウムドープト酸化スズ、及びそれらの混合物から成る群から選ばれるドープト金属酸化物を含有する、請求項47記載の物品。
【請求項49】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積された色抑制層;
前記色抑制層の上に堆積された、実質的に結晶質の第1層;
第1層の上に配置された、実質的に結晶質の第2層;及び
第1層と第2層の間に配置されたブレーカー層であって第1層上に第2層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は低下させるように構成された該ブレーカー層;
を有する被覆された物品。
【請求項50】
ブレーカー層がリン含有物質を含有する、請求項49記載の物品。
【請求項51】
ブレーカー層がシリカ含有物質を含有する、請求項49記載の物品。
【請求項52】
第1層がアンチモンドープト酸化スズを含有する、請求項49記載の物品。
【請求項53】
第2層がフッ素ドープト酸化スズを含有する、請求項49記載の物品。
【請求項54】
基体;
前記基体の少なくとも一部分の上に堆積された、金属酸化物と第1のドーパントとを含有する第1のコーティング領域;
第1コーティング領域の上に堆積された、金属酸化物と第1のドーパントと第2のドーパントとを含有する遷移領域であって、[第1ドーパント]対[第2ドーパント]の比が前記基体からの距離に従って絶えず変化する該遷移領域;及び
前記の第2コーティング領域の上に堆積された、金属酸化物と第2ドーパントとを含有する第3のコーティング領域;
を有する被覆された物品。
【請求項55】
第1、第2及び第3のコーティング領域がそれぞれ酸化スズである、請求項54記載の被覆された物品。
【請求項56】
第1及び第2のドーパントが、アンチモン及びフッ素から選ばれる、請求項54記載の被覆された物品。
【請求項57】
第1領域と基体の間に配置された色抑制層を有する、請求項54記載の被覆された物品。
【請求項58】
第1領域、遷移領域、又は第2領域の少なくとも2つの間に配置された少なくとも1つのブレーカー層を有する、請求項54記載の被覆された物品。
【請求項59】
基体の少なくとも一部分の上に実質的に結晶質の第1の層を堆積し;
第1層の上にブレーカー層を堆積し;次いで、
前記ブレーカー層の上に実質的に結晶質の第2の層を堆積する;
諸工程を含む、基体を被覆する方法であって、前記ブレーカー層は、第1の結晶質層の上に第2の結晶質層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は低下させるように構成する、上記被覆方法。
【請求項60】
基体の少なくとも一部分の上に実質的に結晶質の第1の層を堆積し;次いで、
第1の結晶質層の上にブレーカー層を堆積する;
諸工程を含む、基体を被覆する方法であって、前記ブレーカー層は、第1の結晶質層の上に後続の結晶質層がエピタキシャル成長するのを妨げるか又は低下させるように構成する、上記被覆方法。
【請求項61】
被覆された物品を形成する方法において、
基体を与え;
前記基体の少なくとも一部分の上に、約50Å〜約3000Åの厚さを有する色抑制層を堆積し;
前記色抑制層の上に、実質的に透明な導電性金属酸化物の第1層であって約700Å〜約3000Åの厚さを有し、アンチモンドープト酸化スズを含有する該第1層を堆積し;次いで、
実質的に透明な導電性金属酸化物の第2層であって、約0Å〜約3000Åの厚さを有し、フッ素ドープト酸化物を含有し、しかも、第2層の厚さが第1層の厚さに実質的に逆比例している該第2層を、導電性金属酸化物の第1層の上に堆積する;
諸工程を含む、上記形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−260050(P2010−260050A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130135(P2010−130135)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【分割の表示】特願2000−605533(P2000−605533)の分割
【原出願日】平成12年3月15日(2000.3.15)
【出願人】(399074983)ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッド (60)
【氏名又は名称原語表記】PPG Industries Ohio,Inc.
【Fターム(参考)】