説明

低温サーミスタプロセス

【課題】プラスチックまたはポリマのフレキシブル基板と適合するサーミスタプロセスを提供する。
【解決手段】サーミスタが、感温材料と導体材料との混合物と、混合物と電気的に接触する電極と、を有している。サーミスタを製造する方法は、基板上に伝導性接点を蒸着することと、接点全体に、感温材料と導体材料とのサーミスタ混合物を印刷することと、伝導性接点上にフレキシブルなサーミスタを作り出すためにサーミスタ混合物をアニールすることと、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
フレキシブルなエレクトロニクスは、多くの異なる領域での応用を有している。溶液から作ることができて、フレキシブル基板と相性がよい機能材料の開発が、他の方法では不可能であろう応用に向けて電子装置を開発することへの関心につながっている。これらの基板の多くは、金属化ポリマまたは他の「柔らかい」材料を含んでいる。ある場合には、導体材料を用いてフレキシブル基板上に回路を印刷してもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかしながら、特定の成分が、フレキシブルなエレクトロニクス技術にうまく適合しなかったり、または印刷により形成することにうまく適合しなかったりする。例えば、特定の種類の抵抗器はサーミスタと呼ばれ、温度によって大きく変化する抵抗を有している。サーミスタは、高温焼鈍(800〜1000℃)を必要とするスラリを用いて硬質基板上に通常製造される焼結半導体材料で通常構成されている。高温が基板を溶かすであろうことから、これらの高温のせいでサーミスタはフレキシブルなエレクトロニクス技術とは相いれないものとなっている。
【0003】
印刷されたフレキシブルなエレクトロニクスへの関心の高まりとともに、印刷できフレキシブルで安価なサーミスタから恩恵を受けるであろう応用が存在している。これらの応用は、バンデージ用のフレキシブルな温度センサ、パッケージラベル用の印刷可能な温度センサ、ならびに温度センサを備えたポリマおよび他のフレキシブル回路を含んでいるが、これらに限らない。
【0004】
現在、ほとんどのサーミスタ処理が、800〜1000℃の範囲の高温で行われ、プラスチックまたはポリマのフレキシブル基板とは適合しない。Synthetic Materials,Vol.159,“Thermistor Behavior of PEDOT: PSS Thin Film,”pp.1174〜1177,(2009)に記録された、いくつかの研究がポリマベースのサーミスタを用いて行われている。この文献では、サーミスタはシリコンウェハ上にスピンコートされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)の薄膜を用いて作られたものである。この材料は従来のサーミスタ技術よりも低い温度で処理されてはいるが、この基板はフレキシブルではないシリコンウェハで構成されたものであり、150および200℃の処理温度は、多くのフレキシブル基板の溶融温度に隣接している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかしながら、発明者は、現在使用されている温度応答性サーミスタ材料と、はんだのような性質を有する比較的低融点の導体材料とを混合することにより、好ましい特性を有するサーミスタが得られることを発見した。結果として得られるサーミスタは高感度を有しており、このサーミスタが所与の温度変化に対して大きな抵抗変化を有しており、フレキシブル基板と両立し得る温度で処理でき、かつ安価な印刷プロセスで蒸着できることを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】側方接点の、低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタの実施例を示す図である。
【図2】垂直接点の、低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタの実施形態を示す図である。
【図3】低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタを製造するための方法の実施形態のフローチャートである。
【図4】低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタの温度対抵抗のグラフである。
【図5】低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタの抵抗および温度対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1および図2は、低温処理されたサーミスタの2つの異なるアーキテクチャを示している。図1は、側方接点の、低温処理されたサーミスタ10の実施形態を示している。用語「側方接点」は、感温材料16の両側にある接点14および15の構造を示している。基板12は、多くのフレキシブルなエレクトロニクス用途に適したPET(ポリエチレンテレフタレート)またはPEN(ポリエチレンナフタレート)のような可撓性材料で通常構成される。
【0008】
伝導性電気接点(電極)14および15を基板12上に蒸着している。伝導性接点は任意の種類の導体材料で構成してもよい。本明細書に記載する実施形態では、接点は通常銀で構成されている。同様に、伝導性接点の蒸着は、比較的低い温度と相性がよい任意の種類の蒸着を含んでいてもよい。一実施形態では、基板上に接点を印刷してもよい。これは、印刷型処理を通じてパターニングとアライメント制御とを行うのに有利である。
【0009】
この実施形態のサーミスタ混合物は、はんだのような材料などの低融点導電性母材と混合された感温材料で一般に構成されるであろう。感温材料は、材料の抵抗が温度によって大きく変化するという点で温度感応性を有している。材料は、正の熱係数(PTC、温度が高くなるにつれて抵抗が大きくなる)、または負の熱係数(NTC、温度が低くなるにつれて抵抗が小さくなる)のどちらを示してもよい。一実施例では、サーミスタ混合物の抵抗率の温度係数は、1℃あたり少なくとも1〜2%である。一実施形態では、感温材料は五酸化バナジウム(V)で構成されている。可能性のある他の感温材料は、酸化亜鉛、酸化バナジウムのような他の金属酸化物、またはシリコンもしくはゲルマニウムのような他の材料を含んでいる。
【0010】
導体材料は、160℃未満の比較的低い温度で溶けるという点で、はんだのような性質を有していてもよい。通常、材料のその混合物が2つの材料の任意の混合物のうちで最も低い融点を有している、インジウムスズ(InSn)共晶のような共晶混合物を使用することになる。
【0011】
一実施形態では、InSnを使用した。可能性のある他の材料は、インジウム、スズ、銀、ビスマス、カドミウム、鉛、および亜鉛の混合物を含んでいる。あるいは、導電相が、銀、インジウムスズ酸化物、または炭素微粒子溶液のような純物質で作られていてもよい。図1の実施形態では、サーミスタ混合物16は、側方伝導性接点14と15の間のギャップを満たしている。
【0012】
ある場合には、サーミスタ構造が、封止材18から恩恵を受けてもよい。ある場合には、サーミスタ材料は容易に水を吸収するという点で水を多く含む可能性があり、その性能に悪影響を与える可能性がある。封止材を使用することで、その問題を軽減できる。可能性のあるフレキシブルな封止材は、ポリマ膜またはフレキシブルな金属膜を含んでいる。
【0013】
図2は、垂直接点の、低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタ20の実施形態を示している。用語「垂直」は、温度応答性材料26が、基板12上に位置する下端接触層14と、上端接触層28の間にあることを意味している。この実施形態の封止材30が、感温材料26上ではなく、むしろ上端接触層28上に位置している。
【0014】
これらの2つの実施形態は、低温処理され、印刷されたフレキシブルなサーミスタの可能な構造の実施例を提供する。任意の構造の伝導性接点を使用してもよく、それらの伝導性接点はクレームの範囲内にあるものと見なされる。
【0015】
図3は、図1および図2に示すようなサーミスタを製造するための一般的プロセスの実施形態を提供する。選択するサーミスタの構造および使用する材料に応じて、プロセスは変化してもよい。議論は、議論全体を通して、これらの変化および修正を含むであろう。
【0016】
図3では、プロセスはPET(ポリエチレンテレフタレート)またはPEN(ポリエチレンナフタレート)のようなフレキシブル基板上に伝導性接点40を蒸着することにより始まる。上述のように、伝導性接点は、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、またはインクジェット印刷などにより基板上に印刷された銀で構成してもよい。使用するプロセスおよび材料に応じて、伝導性接点は第1のアニールステップを受けて、印刷プロセスの間に使用された任意の溶剤を乾燥させるとともに、42で材料を焼結させてもよい。
【0017】
その後、44でサーミスタ混合物を伝導性接点上に印刷する。この場合も先と同様に、プロセスは、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷などの任意の種類の印刷を含んでいてもよい。その後、46で熱を加えることによりサーミスタ材料はリフローおよびアニールを受ける。使用される温度は、通常、システムの共晶点に、10℃などのいくらかの超過分を加えた温度付近であろう。この処理は印刷されたインクの抵抗率を大幅に低下させ、結果として得られるサーミスタの抵抗を小さくする。封止しない側方型装置の実施形態では、これでプロセスを終了してもよい。
【0018】
封止材を使用する他の実施形態では、52でプロセスは封止プロセスに進んでもよい。この段階では、これは、図1で議論した側方実施形態のような上端接点を有していないサーミスタを含むであろう。
【0019】
図2のサンドイッチ構造では、プロセスは46のリフローおよびアニールプロセスの後に、50で上端接点の印刷に進む。この実施形態では、上端接点の印刷後に、完成した装置の封止を実行する。
【0020】
これらの材料と組み合わせて印刷プロセスを使用することにより、より標準的な方法でサーミスタを準備するときに通常使用する温度よりもはるかに低い温度を用いてフレキシブル基板上に安価にかつ大量に製造されるサーミスタを、ロール間プロセスまたは巻き取り紙供給プロセスで大量生産することを可能にしてもよいことに注目すべきである。
【0021】
図3は、その少なくとも一部分がサーミスタの多くの異なる構造に当てはまる全般的プロセスを提供する。いかなる制限も意図することなく、何も含意すべきではなく、下記の実施例を与える。
(実施例1)
【0022】
五酸化バナジウム粉末を挽いて粒度約1〜10ミクロンの小さい粒子にした。
【0023】
松やになどの結合剤で結合されたインジウムとスズとの共晶混合物から構成された、インジウム社から市販されているはんだインクなどの印刷可能なはんだインクと、細かく挽いた五酸化バナジウムとを、この場合、InSn:Vの体積比が2:1になるように組み合わせた。
【0024】
その後、インクの粘性を減らすために必要に応じてリモネンを加えた。
【0025】
事前に印刷された組の上にスクリーン印刷を用いて混合物を蒸着し、また、100ミクロンの厚さのMylar(登録商標)箔上の銀トレースにもスクリーン印刷を用いて混合物を蒸着した。
【0026】
その後、混合物をリフローさせて、印刷されたサーミスタインクを乾燥して、アニールするために、基板、トレース、および混合物を150℃で10〜15分間加熱した。
【0027】
その後、例えば、装置の全体を覆って、および装置の周囲にフレキシブルな金属箔をかぶせることにより基板を封止した。
【0028】
印刷されたフレキシブルなサーミスタの抵抗対温度を示すプロットを図4に示している。このプロットは、9回の別々の温度走査を示している。この場合、サーミスタは、温度が上昇するにつれて抵抗が小さくなる負温度係数(NTC)サーミスタであることに注目すべきである。結果として得られるサーミスタは、連続動作の下で+/−1℃よりもよい精度を有している。
【0029】
図5は、約2週間、室温で空気中に保管されたサーミスタに対する、完成したサーミスタの抵抗対時間のグラフを示している。上側の線で示す抵抗の変動は、下側の線で示す室温の変動に起因しており、緊密に追随している。このプロットは、完成したサーミスタが長時間にわたって安定していることを示している。
【0030】
このように、フレキシブル基板上にそれらを製造できるほど低い処理温度を有するサーミスタを製造できる。これらのサーミスタは連続使用の後でも高精度を有しており、印刷技術を用いて安価にかつ大量に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温材料と導体材料との混合物と、
前記混合物と電気的に接触する電極と、を含む、
サーミスタ。
【請求項2】
前記感温材料が、金属酸化物、シリコン、またはゲルマニウムのうちの1つを含む、請求項1に記載のサーミスタ。
【請求項3】
前記導体材料が、インジウム、スズ、銀、ビスマス、カドミウム、鉛、亜鉛、銀、インジウムスズ酸化物、または炭素微粒子の共晶混合物のうちの1つを含む、請求項1に記載のサーミスタ。
【請求項4】
前記混合物上の封止材をさらに含む、請求項1に記載のサーミスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−212869(P2012−212869A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47945(P2012−47945)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】